著者
板橋 春夫
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.205, pp.81-155, 2017-03

産屋が利用されなくなって久しい。産屋が遅くまで残った地域でも昭和三〇年代がおおむね終焉時期となっている。産屋習俗の終焉の要因は一様ではない。本研究のテーマは、なぜ産屋習俗は終焉を迎えたのかという根源的な問いである。私たちは、産屋とは主屋と別に小さな建物を建て、そこに産婦が血の穢れのために家族と隔離されて食事も別にする施設であると学び、産屋を穢れからの隔離・別火というステレオタイプ化された視点で認識してきた。しかし出産の穢れからの隔離・別火が所与のものでないとすれば、産屋の本質はいったいどこにあるのであろうか。本論文が産屋習俗の終焉過程に注目する理由の第一点は、現在(=平成二〇年代)が産屋体験者から直接話を聞ける最後の機会であること。産屋体験者からの聞き書きは緊急性を有し詳細な記録化が望まれる。第二点は産屋の終焉から過去に遡れば当該地域における産屋の変遷過程を明らかにできると考えた。現時点で伝承者からきちんと聞き書きを行うことは重要であり、産屋習俗の終焉過程の研究にも資するのである。先行研究では、産屋の発生は神の加護を得る籠もりにあるとされる。牧田茂・高取正男・谷川健一の所説は、産屋の原初的形態に視点を置いた論理である。実際に原初的形態を彷彿とさせる民俗事例が各地に伝承されているが、それをもって現行習俗を古代へ飛躍させるのは論理的に危険が伴うであろう。事例で取り上げた山形県小国町大宮のコヤバは、明治二二年以前は出産の都度小屋を建てていたが、警察署長の意見で常設のコヤバになったとされる。仮設から常設へ変化する傾向は、福井県敦賀市池河内の事例からも明らかである。福井県敦賀市白木のサンゴヤは、昭和五〇年代まで使用されており全国で最も遅くまで利用されていた。常設化の産屋は伝統を守りながらも、滞在期間の短縮化、休養の場の拡大化など、地域に応じた多様なあり方をみせている。The custom of using ubuya (delivery huts) has been extinct for years. The regions where it survived for the longest time also saw it dying out from the late 1950s to the early 1960s. The reasons why this custom lingered for a long time vary depending on the region. This paper addresses a fundamental question of why the custom of using ubuya died out. People were taught that ubuya meant a small hut built separately from the main house to isolate a pregnant woman from her family and prepare meals separately to contain defilement by blood; therefore, many people had a stereotype perspective that ubuya should be used for isolation and separate meal preparation to contain impurity by childbirth. However, if the isolation and separate meal preparation were not a matter of course, what was the essence of ubuya?There are two reasons why this paper focuses on the process of dying out of ubuya. The first one is because we will never have a chance to interview those who have experienced it if we pass up this opportunity now (in the 2010s). It is urgent to put such experiences on record based on firsthand oral recollections. The more detailed the record is, the more useful it would be. The second reason is because if we go back into the history of ubuya, we could reveal the changes in the custom in the region. It is very important to interview those who directly involved and record their experiences now. The results can contribute to the research of the process of dying out of ubuya.Previous studies suggested that ubuya had been originated from seclusion to pray for divine protection. The theories of Shigeru Makita, Masao Takatori, and Kenichi Tanigawa focused on the original form of ubuya. In fact, folk customs resemble to the original ones have been handed down in various regions. It is, however, illogical to link modern customs to ancient ones just because they are similar to each other. As referred to in this paper, koyaba in Ōmiya, Oguni Town, Yamagata Prefecture, is said to have been built for temporary use for each and every childbirth before 1889 but transformed into permanent facilities based on the opinion of a police chief. This shift can be demonstrated by another example from Ikenokōchi, Tsuruga City, Fukui Prefecture. In Shiraki, Tsuruga City, Fukui Prefecture, sangoya had been used until the early 1980s, which means this is one of the last regions where the custom lingered on. Permanent ubuya were used, in principle, in a traditional way, but there were regional variations, such as shortening the time of stay and expanding rest areas.
著者
坪内 優太 髙橋 兼人 兒玉 吏弘 井上 仁 池田 真一
出版者
公益社団法人 大分県理学療法士協会
雑誌
大分県理学療法学 (ISSN:13494783)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.39-45, 2021 (Released:2021-05-14)
参考文献数
15

世界ではCOVID-19と呼ばれる新型コロナウイルス感染症2019のパンデミックが発生しており,日本も例外ではない.COVID-19患者の中には,重度の運動機能障害を呈する症例も報告されていることから,理学療法士には十分な感染予防対策と適切なリハビリテーションの提供の両立が求められる. 我々は2020年4月,COVID-19患者の受け入れを想定し,事前にリハビリテーション実施基準および介入方法に関する規定を作成した.その後,当院でExtracorporeal membrane oxygenation (ECMO) 導入に至った重症COVID-19患者を受け入れ,当部にもリハビリテーション実施の依頼があった.多職種・多部門間での連携を積極的に取りながら,医師・看護師を介して早期から非直接的にリハビリテーションを提供した.Polymerase chain reaction (PCR) 検査の陰性確認後は直接的介入を開始し,運動療法だけでなく,直接飛沫に十分注意を払いながら呼吸理学療法も実施した.多職種が連携することで,院内での感染拡大を防ぎつつ,シームレスなリハビリテーションを提供することができ,スムーズに自宅復帰へとつなげることができた. この報告が今後のリハビリテーション実施医療施設におけるCOVID-19対策の一助になれば幸いである.
著者
斎藤 道彦
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.75-110, 2014-09-16

「尖閣」論をめぐって「尖閣=中国領」論を主張する二一世紀の「中国」エピゴーネン村田忠禧、大西広、孫崎享、矢吹晋らの著書を取り上げ、批判する。「尖閣=中国領」論の根幹は、尖閣が中国領であったことがあったのかどうかであるが、これらすべての論者は、中国が尖閣は中国領であったことの証拠としている明清史料の検討を満足に行なっていない。村田は、中国の議論を踏襲し、陳侃の『使琉球録』などが「古米山」(久米島)が琉球王国の領土であったとする記述を根拠として、久米島以西は中国領であり、従って尖閣諸島は中国領であると論ずるが、久米島以西は中国領なのかという議論を行なっていない。大西は、日清戦争や沖縄返還協定を取り上げ、国際法の通告義務などを論ずるが、肝心の尖閣は中国領であったことがあったのかという問題を検討していない。孫崎は,明清史料の名をいくつかあげているが、どれひとつ読んでいない。矢吹も、外務省は「棚上げ合意」の記録を削除したと主張するが、明清史料を検討していない。
著者
信夫淳平 著
出版者
丸善
巻号頁・発行日
vol.第4巻, 1941
著者
信夫淳平 著
出版者
丸善
巻号頁・発行日
vol.第3巻, 1941
著者
岡田 誠
出版者
学士会
雑誌
学士会会報
巻号頁・発行日
vol.2021, no.1, pp.2,57-70, 2021-01
著者
久保田淳 [ほか]編
出版者
埼玉県立久喜図書館
巻号頁・発行日
vol.第10巻 (19世紀の文学), 1996
著者
大貫 隆
出版者
学校法人 自由学園最高学部
雑誌
生活大学研究 (ISSN:21896933)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.2-7, 2015 (Released:2016-08-15)

R・ジラールの文化人類学によれば,供犠とは「いけにえ」の上に共同体の攻撃性を集約することで,内部の平和と秩序を基礎づけ保持してゆくメカニズムである.イエスの「神の国」はユダヤ教の贖罪の供犠を終わらせるもの,従ってユダヤ教の禁忌を破るものと見做され,イエスは排除された.パウロと四つの福音書もその次第を報告するが,彼ら自身がイエスの死を供犠と見做している箇所は一つもない.ジラールによれば,まさにそこにこそ,現代が供犠的キリスト教に対する根本的な批判を試みるための最大のチャンスがある.ところが,現実のキリスト教では受難と供犠が頻繁に混同されている.S・ヴェイユと鈴木順子氏の学位論文においても両者が混在し,繰り返し同義的に用いられている.私の見方では,両者は出来事としては同一であるが,「供犠」はその出来事を自己存続を図る共同体から見た場合の概念,「受難」は供犠として奉献される者から見た場合の概念として,アスペクト上互いに明確に区別するべきである.
著者
谷角 裕之 柳本 哲
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3-4, pp.99-106, 2013 (Released:2020-04-21)

中学生は,教師の思いほど数学の勉強に対して社会的重要性を認識していない。数学の社会的意義をより認識させることを目標に,「放射能と数学」と題し,身近な問題から指数関数の導入的な授業を3年生で実践した。事前・事後調査結果から次の4点が明らかになった。① 数学観の変容が見られた生徒がいた。②「いろいろな関数」として位置づけられる。③ 学力中位以上の公立中学生では基礎的な指数関数の導入が可能である。④ 2変量の抽出に課題がある。
著者
村井 俊哉 後藤 励 野間 俊一
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

病的賭博に代表されるなんらかの行為の対する依存は「プロセス依存」と呼ばれ、物質への依存症と共通する病態機構を持つのではないかと推測されている。プロセス依存の基盤となる認知過程・脳内過程の解明を目的とし、病的賭博群に対して、報酬予測や意思決定課題を用いた機能的神経画像研究を実施した。結果、病的賭博群において報酬予測時における報酬系関連脳領域の神経活動の低下を認め、さらにその賦活の程度と罹病期間の関連が見出され、同神経活動が病的賭博の臨床指標になりうる可能性が示唆された。
著者
簗瀬 澄乃 正山 哲嗣 須田 斎 石井 直明
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.127-127, 2009

線虫<i>Caenorhabditis elegans</i> (<i>C. elegans</i>)において、高濃度酸素への短時間暴露の反復によって寿命が延長するというホルミシス効果が認められる。我々はこれまでに、<i>C. elegans</i>におけるIns/IGF-1信号伝達経路の活性化が、このホルミシスによる寿命延長効果に関与することを明らかにしてきた。このIns/IGF-1信号伝達経路の下流では、ヒトのフォークヘッド型転写因子に相同なDAF-16転写因子が作用しており、このDAF-16の標的遺伝子として抗酸化系酵素やミトコンドリアにおけるエネルギー代謝に関わる蛋白などが挙げられている。従って、<i>C. elegans</i>で認められたホルミシスによる寿命延長効果において、これらDAF-16の標的遺伝子の発現が役立っている可能性が考えられた。<br>そこで我々は、高濃度酸素暴露によるホルミシス効果が認められる<i>age-1</i>変異体において、SODやカタラーゼなどの抗酸化酵素活性が上昇していることを定量的RT-PCR法によって確認した。また、そのミトコンドリアにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の変化を測定し、短時間の酸素暴露に依存してその産生量が低下していること、さらに抗酸化酵素の作用を除外したサブミトコンドリア粒子(SMP)においてもその産生量が減少していることをこれまでに発表した。これらの酸素暴露に依存した抗酸化系の活性化およびスーパーオキサイドラジカル産生量の減少は、DAF-16発現を欠く<i>daf-16</i>ヌル変異体においては認められなかった。即ち、ホルミシス効果を生じるためにはDAF-16の標的遺伝子候補である抗酸化系酵素が活性化され、エネルギー代謝系が抑制されている可能性の高いことを示唆している。現在、これまでに観察された酸素暴露による<i>age-1</i>変異体のミトコンドリアおよびSMPにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の減少が、ミトコンドリア呼吸鎖自体の作用制御に起因しているのか、それとももっと呼吸鎖の環境的な要因が関係しているのかどうか<i>C. elegans</i>の酸素消費量を測定することによって解明を試みている。