著者
中村 怜奈 小橋川 直哉 小坂 浩司 久本 祐資 越後 信哉 浅見 真理 秋葉 道宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.III_641-III_650, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
23
被引用文献数
2

カルキ臭の主要な原因物質の一つであるトリクロラミンについて,原水中での生成能を評価するとともに,トリクロラミン生成への共存物質の影響について評価した.15原水のトリクロラミン生成能は6~140μg Cl2/Lの範囲であった.一般水質項目との関係について検討したところ,アンモニア態窒素濃度と関連性が認められた.また,アンモニア態窒素濃度が同じ場合,アンモニウム水溶液中のトリクロラミン生成能の方が原水中よりも大きい値であった.アンモニウム水溶液,グリシン水溶液に天然有機物(NOM)が共存した場合,トリクロラミン生成能は低下したことから,NOMにはトリクロラミンの生成を低下させる影響があることがわかった.対象としたNOMのうち,ポニー湖フルボ酸はトリクロラミン前駆物質でもあった.アンモニウム水溶液,グリシン水溶液に臭化物イオンが共存した場合,トリクロラミン生成能は低下した.一方,NOM共存下で臭化物イオンを添加した場合,アンモニウム水溶液ではその影響は認められなかった.グリシン水溶液の場合,50 μg/Lまでは影響しなかったが,200 μg/Lではトリクロラミン生成能が若干低下した.原水に臭化物イオンを添加した場合,トリクロラミン生成能は影響を受けなかった.
著者
杉原 雄一 上野 秀人 平田 聡之 荒木 肇
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.222-228, 2014
被引用文献数
3

トマト生産においてカバークロップとしてのヘアリーベッチ(<i>Vicia villosa</i> R.,以下 HV)と化学肥料の効率的な施用方法を確立するために,HV,速効性肥料(Fast)および緩効性肥料(Slow)から放出された窒素のトマトへの吸収について,安定同位体 <sup>15</sup>N を利用して調査した.窒素の速効性肥料(硫安)と緩効性肥料(LP-S100)を供試して,両者の混合割合を 2 : 8(Fast + Slow)と 0 : 10(Slow-only)とした.窒素施肥量を 240 kg N·ha<sup>-1</sup> として,土壌培養試験を行うと,培養 4週間において Fast + Slow では高濃度の無機態窒素環境が形成された.同様の施肥条件を用いて,1/2000 a のワグネルポットでトマト'ハウス桃太郎'を栽培すると,<sup>15</sup>N でラベルした HV(0.89 atom% excess)を土壌中にすき込むことで,定植12 週後のトマトの植物体乾物重は HV 無添加より有意に増加したが,窒素肥料の混合割合による差異は認められなかった.HV 由来窒素は主に定植 4 週後までに吸収され,その吸収量には Fast の有無による差異はなかったが,吸収した全窒素に対する HV 由来窒素の含有率(%N<sub>dfhv</sub>)は Fast を施用しない Slow-only で有意に高くなった.しかし,この差異も定植 8 週以降は認められなかった.トマトによる窒素吸収は栽培終了時の定植 12 週後まで続いた.以上の結果から,HV 由来窒素は速効的であった.生育初期においては,トマトへの窒素吸収に土壌・肥料由来窒素と HV 由来窒素の間で競合関係があり,多量の土壌・肥料由来窒素が存在すると HV 由来窒素の吸収が抑制される.この試験で得られた知見は,トマト生産における HV と化学肥料の適切な混合体系の確立に寄与する.
著者
林 修平
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.149-162, 1998-04-28 (Released:2008-12-25)
参考文献数
71
著者
高田 宜武
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.145-155, 1997-06-30
参考文献数
23
被引用文献数
2

九州西部の天草の転石地潮間帯において4種のNipponacmea属のカサガイ(コウダカアオガイ・ホソスジアオガイ・クモリアオガイ・アオガイ)について加入, 成長, 生残を調べた。コドラート法による定量採集を16ヵ月定期的に行い, 4種類の殻長サイズヒストグラムを作成して検討した。コウダカアオガイは1月と3月に加入し, 成長は春期に速く夏期は遅い。殻長18 mmまで成長し翌年の5月までにほとんど死亡した。ホソスジアオガイは2月に加入し単調に成長した。10月までの生残は良いが, 10月以降は急に生残が悪くなり, 殻長20ミリに達する3月にはほとんど死亡した。クモリアオガイは12月と3月に加入し, ゆっくり成長し翌年の2月に殻長16ミリに達する。夏期からの死亡は徐々に起こり, 5月までにほとんど死亡した。アオガイは主に春期に加入するが, 以後の解析はコホートの分離が出来なかったので不可能だった。以上のように, 4種のカサガイの加入後の生活史には若干の違いが認められた。
著者
坂下 智博 本間 明宏 畠山 博充 水町 貴諭 加納 里志 古沢 純 飯塚 さとし 畑中 佳奈子 福田 諭
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.130-133, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
10

穿刺細胞診で悪性が確定しなかった場合にも画像的に甲状腺癌が疑わしいなどの理由により手術を行うことが少なくない。術後病理診断と画像所見との関係について比較し,どのような画像所見が癌予測因子として有用であるかについて検討した。対象は甲状腺腫瘍摘出を行ったもののうち,術前細胞診で悪性以外であった58症例。術前エコー検査所見(微細石灰化,辺縁不整,内部low echo,縦横比1以上,Haloの消失)が陽性であった場合に,術後病理で悪性であった陽性適中率(PPV),陰性であった場合に術後病理が良性であった陰性適中率(NPV)をそれぞれ算出した。前述した各エコー所見のそれぞれのPPVは74,89,71,89,65%。NPVはいずれの所見も51~58%にととどまった。辺縁不整および縦横比1以上がみられた場合のPPVは89%であり,これらの所見は有用な癌予測因子となりうると考えられた。
著者
足達 太郎 鳥海 航 大川原 亜耶 高橋 久光
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.259-263, 2008-12-10
被引用文献数
1

キャベツ畑に,ハーブ類のカモミール(カミツレ)およびキンレンカ(ノウゼンハレン)をそれぞれ混作した区と,キャベツを単作して化学合成殺虫剤を施用した区および施用しない区をもうけ,キャベツの主要害虫であるダイコンアブラムシ・モンシロチョウ・コナガの個体数変動と捕食寄生性天敵による寄生率を比較した。試験の結果,各害虫ともそれぞれの個体数がほぼピークとなる時期に,処理区間で個体群密度に有意な差がみられた。ダイコンアブラムシは,カモミール混作区における個体群密度がキンレンカ混作区やキャベツ単作/殺虫剤無施用区または施用区よりも高かった。モンシロチョウの幼虫個体数は,キャベツ単作/殺虫剤無施用区>キンレンカ混作区>カモミール混作区>キャベツ単作/殺虫剤施用区の順に多かった。また,モンシロチョウの卵数は,両ハーブの混作区における値がキャベツ単作区(殺虫剤施用および無施用)における値よりも多かった。コナガは,キャベツ単作/殺虫剤施用区およびカモミール混作区で幼虫の個体数が多かった。いっぽう,モンシロチョウの幼虫におけるアオムシコマユバチの寄生率は,キャベツの生育中期において,キンレンカ混作区およびキャベツ単作/殺虫剤無施用区で最も高かった。これに対し,コナガ幼虫におけるコナガコマユバチの寄生率は,処理区間で有意な差は認められなかった。
著者
畠山 篤
出版者
弘前学院大学文学部
雑誌
紀要 (ISSN:13479709)
巻号頁・発行日
no.45, pp.13-60, 2009-03-25
著者
養父 志乃夫 山田 宏之 中島 敦司 中尾 史郎 松本 勝正
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.595-600, 2001-03-30
被引用文献数
2 5

大阪府大坂市から東大阪市にかけての近鉄奈良線沿線部二おいて,バッタ類の生息密度の変化を調査した。調査区としては,近鉄奈良線の各駅を中心とした半径250m円の調査区を12カ所,半径1km半円の調査区を5カ所設定した。調査は2000年8月から9月にかけて行い,一般に人の立ち入ることのできる接道部の緑地と公園緑地を対象に,全バッタ類を捕虫網で捕獲する方法で行った。その結果,都心部からの距離が離れるに従って単位面積あたりの捕獲数は指数関数的に増加すること,緑地の規模や草地組成とバッタ類捕獲数は相関を持たないことなどが明らかとなった。また,都市環境への適応性の大きいバッタ種も特定された。
著者
康 潤伊
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.235-250, 2019-11-15 (Released:2020-11-15)

本稿ではヤン ヨンヒ『朝鮮大学校物語』に実話性と証言性が付与されていることおよびそれらが朝鮮学校をめぐる排外主義と表裏をなしていることを指摘したうえで、実話性と証言性を切り離した読みを模索した。小説において主人公は特権的な差異を帯びているが、主人公が恋人と失恋する場面では、抑圧的な場だった朝鮮大学校が、主人公の差異が有効に機能する場として語られていることを明らかにした。朝鮮大学校という空間の意味の転換をふまえると、『朝鮮大学校物語』は、差異と承認のメカニズムをあばく小説であるといえる。そのうえで、実際に行われた朝鮮大学校と武蔵野美術大学の壁を超える試みを参照しつつ、『朝鮮大学校物語』の批評性をさらに跡づけた。
著者
Kenji Sato Hirokazu Kato Takafumi Fukushima
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
IEEJ Journal of Industry Applications (ISSN:21871094)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.453-459, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1 17

This paper presents the development of a traction system for high-speed trains by adopting SiC power devices to pursue weight reduction and compactness of the system. We found that the combination of the SiC applied conversion system with a blower-less cooling system and 6-pole induction motors is a suitable approach to highlight the merits of SiC devices. The running tests of a prototype were conducted to confirm its sound performances. The developed traction system is installed in the latest type of Shinkansen train, or the Series N700S, which debuted in March 2018 and will enter commercial service in the summer of 2020. This SiC application to the high-speed train's traction system is the first in the world.
著者
薗 潤 浦浜 憲永 上野 玲 磯部 文隆 吉永 和正
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.109-113, 2021 (Released:2021-03-24)
参考文献数
12

【目的】悪性胸膜中皮腫患者の緩和ケア病棟入院時における早期死亡予後予測因子を後ろ向きに検討する.【方法】2016年1月から2018年4月までに当院緩和ケア病棟で死亡した12例の悪性中皮腫患者を先行研究にならい,入院から死亡までの期間別に,A群:13日以内,B群:14日以上55日以内,C群:56日以上に分類し検討した.【結果】各群の症例数は,A群5例,B群5例,C群2例であった.血痰はA群のみ40%にみられ,A群では全例酸素吸入を必要とした.C群にみられなかった因子のうち,嚥下困難および両側病変がA群で80%,B群で60%に,肺炎がA群で60%,B群で20%にみられた.【結論】症例数が少ない予備的な研究であるが,血痰,嚥下困難,両側病変,肺炎,酸素吸入が,悪性胸膜中皮腫患者の緩和ケア病棟入院時における早期死亡の予後予測因子である可能性が示唆された.
著者
箕曲 在弘
出版者
国際開発学会
雑誌
国際開発研究 (ISSN:13423045)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.55-71, 2020

<p>This paper examines how patronage and hierarchy are constructed between development brokers and beneficiaries through fair trade activities in the Bolaven Plateau, Lao PDR (People's Democratic Republic). The author surveys the implications related to these development practices. The case provided is a fair trade project that aims to reestablish farmers' cooperatives carried out by a Japanese fair trade company. Fair trade, which aims to construct a partnership that enables disadvantaged producers and laborers in the Global South to live a sustainable life, brings morality into market transactions. Despite depending on the market economy (rather than donations or charity), fair trade stresses "empowerment" and "partnership," which are orthodox concepts in the realm of social development. Under this scheme, all actors are required to construct and maintain social ties with each other, ensuring a positive reciprocal relationship between buyer and seller.</p><p>In his seminal work "The Gift," Marcel Mauss argues that gifts create a connection between givers and receivers, which can sometimes result in the unequal dynamic of patronage and dependency. Drawing on Mauss's gift-exchange theory, Stirat and Henkel (1997) critically identifies how donations, seeming to be pure gifts from the people in the Global North, are transformed into conditional gifts once they reach the recipients via international development Non-Governmental Organizations (NGOs). While they conceptualize donations as "the development gift" this paper proposes an idea of "the fair trade gift." Namely, it explores how funds are utilized in the context of fair trade projects. In contrast to Mauss's determination of the morality of exchange within a phenomenon of one-way gifts, the fair trade gift offers a perspective from which to determine elements of gifts within market transactions.</p><p>Focusing on the rhetoric through which market-exchange is transformed into gift-exchange (as interpreted by co-op representatives serving as development brokers for Japanese buyer's funds such as pre-payment, social premiums, and labor costs), this paper argues that the fair trade gift eventually affects the construction of a hierarchical patron-client relationship; namely, development brokers act as patrons in their responses to the expectations of beneficiaries as clients, rather than equal "partners."</p>