著者
大瀧 友紀
雑誌
第21回日本救急看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-09-03

はじめに外傷において、アシドーシス・凝固異常・低体温は死の三徴と言われている。低体温時、生体はシバリングを発動させ熱産生を行うが、シバリングによる熱産生は酸素消費の増大、臓器への酸素供給低下、二酸化炭素増加、嫌気性代謝の促進に繋がる。死の三徴が予後に影響するとしながら、外傷患者の保温に関する看護研究はされておらず、外傷の死亡例に低体温が存在した報告、死の三徴を呈した事例の死亡率は急増するという医師の報告のみがある。今回、外傷による出血性ショックを呈した患者に対し、体温放散のメカニズムを捉えた選択的保温を行う事が、低体温予防とシバリングの抑制を可能とするのか試みた。目的外傷による出血性ショックを呈した患者の低体温予防とシバリング抑制における、積極的四肢末梢保温と選択的保温の効果を明らかにする対象及び方法出血性ショックを呈した転落外傷患者に対し、①末梢保温として、両手・両足を不織布で覆い常時保温し、②選択的保温として、顔面・胸部の発汗の拭き取りを行った。測定する体温は、①深部温の指標として鼓膜温の測定②外殻温の指標として腋窩温の測定を、共に15~30分間隔で測定とした。 分析は、測定した核心温・四肢末梢温の差とシバリング発生の有無、受傷後の時間経過と共に、バイタルサインと交感神経症状を収集した上で、生体反応と体温の関係を分析する。結果患者は病院搬入時から冷汗が著明で、多発骨折により1700~2700ml程の出血が推定された。輸液・輸血の急速投与によって循環動態は維持されたが、救急外来搬入30分後の介入開始時、腋窩温は35.8℃、鼓膜温は35.9℃まで低下している状態であった。介入開始後経過は、左胸腔ドレーンの挿入(冷汗+)→挿管(プロポフォール使用)→CT検査30分間→X-P検査15分間(下半身露呈)→初療室に戻り持続プロポフォール開始→下肢創部の洗浄・シーネ固定→右胸腔ドレーン挿入(→冷汗+)→MRI→ope出棟、と経過した。四肢末梢保温を開始し30分が経過したCT前の時点で、鼓膜温・末梢温とも36.2℃まで上昇し、CT・X-P検査中も体温は維持できた。下肢洗浄の実施によっても体温低下を見ず、36.7℃まで上昇し「暑い」と訴えたため、四肢末梢保温を終了した。四肢末梢保温終了後、36.4℃まで低下した。核心温・末梢温は終始0.3℃以上の格差を認めなかった。考察四肢末梢保温の実施によって、低体温とシバリングの抑制を可能とした要因を検討した。熱放散に対する四肢末梢保温の効果:四肢末梢保温は、体温移動の血流依存特性と熱放散の放射の特性に対する介入であったと考える。これは、鎮静剤や生体反応による動静脈吻合の拡張作用によって促進された熱放散と、低下した四肢末梢を通過した際の冷却された血液の潅流による核心温低下を防いだためと考える。蒸発に対する選択的保温の効果:蒸発の特性から、四肢末梢保温が加湿による熱放散の抑制と、気化熱・凝縮熱による加温効果を発揮したと考える。また、体幹部・頭部の汗の拭き取りが、生体の汗腺数・発汗量・皮膚血流量を捉えた介入となり、蒸発による熱の放散を減少させることに繋がったと考える。冷覚に対する四肢末梢保温の効果:体温喪失・体温冷却が著しい状態の中、処置・検査によって低温環境に長時間さらされたが、体温低下、特に末梢温低下を見ずシバリング発生も抑制した。これは、手足には冷線維(冷受容器)が多く存在しており、これらが感知する寒冷情報や皮膚温低下情報が、四肢末梢保温により減少し、体温低下を予防するための予測制御機能を抑制したと考える。
著者
恒岡 弥生 富田 幸一朗 高橋 勉 篠田 陽 藤原 泰之
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】メタロチオネイン(MT)はカドミウム(Cd)や亜鉛などの重金属の曝露により肝臓をはじめとする様々な組織で誘導合成されることが知られているが、血管周囲脂肪組織(PVAT)におけるMT誘導合成に関する知見はない。そこで今回、PVATのMT発現誘導に対するCdの影響を検討し、PVATのMT発現誘導における基礎的知見を得ることを目的とした。【方法】8週齢雄性C57BL/6JマウスにCd(1 mg/kg)を腹腔内投与し、3時間後に肝臓およびPVAT付き胸部大動脈を摘出した。さらに胸部大動脈は内膜画分、中膜と外膜画分、PVAT画分の3つの画分に分けた後、それぞれの組織からトータルRNAを抽出し、各遺伝子のmRNA量をリアルタイムRT-PCR法により測定した。【結果・考察】Cd投与3時間後の肝臓におけるMt1 および Mt2 mRNA量は、対照群に比べて約10倍と5倍にそれぞれ有意に増加した。このとき、胸部大動脈から分画した内膜画分ではMt1および Mt2 mRNA量が対照群と比較してそれぞれ約15倍と8倍、中膜と外膜画分ではMt1 mRNA量が約5倍、さらにPVAT画分ではMt1および Mt2 mRNA量がそれぞれ約5倍と4倍に有意に増加していた。以上の結果から、Cdは肝臓と同様に胸部大動脈の内膜組織並びに中膜と外膜組織、加えてPVATにおいても曝露後速やかにMTの発現を誘導することが明らかとなった。MTは有害金属の解毒作用や活性酸素種の消去作用などを示す生体防御因子の一つであることから、PVATをはじめとする血管組織でのMT合成誘導は、Cdによる血管毒性発現の防御に寄与している可能性が考えられる。
著者
浅井 しほり 恒松 雄太 高西 潤 礒谷 智輝 早川 一郎 坂倉 彰 渡辺 賢二
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】担子菌は他の生物種と異なるユニークな二次代謝産物を生産する。しかしそれらの生合成機構・遺伝子についての知見は未だ十分でない。我々は担子菌の「休眠型」生合成遺伝子を利活用すべく、ウシグソヒトヨタケCoprinopsis cinerea由来グローバルレギュレーター遺伝子CclaeAを破壊し、二次代謝系の撹乱化を通じて新規化合物coprinoferrin (CPF)の獲得に成功した1。CPFはC. cinereaの菌糸成長・子実体形成を促進するシデロフォアである。その生合成酵素Cpf1(非リボソーム性ペプチド合成酵素)を含む遺伝子クラスターは多数の担子菌類で高度に保存されていたことから、CPFは単なる二次代謝産物というよりもむしろ担子菌類における普遍的な生理活性分子と考えられた。そこで本研究では、CPF生合成の分子機構解明を目指して研究を行った。【方法・結果・考察】cpf1に隣接するcpf2 (ornithine N-monooxygenase)の遺伝子破壊株を取得したところ、CPF産生が消失し、子実体形成不全の表現系を示した。一方で本破壊株にN5-hydroxy-L-ornithine (hOrn)を添加した培養条件にて上記表現型は野生株と同等ほどに復元した。以上からCpf2はhOrnを生成すると予想し、リコンビナント酵素を用いた試験にて上記を実証した。続いてCpf1による三量化反応について、想定される基質hOrnおよびN5-hexanoyl-N5-hydroxy-L-ornithine (1)を用いて活性試験を行ったところ、Cpf1は1のみを基質として受け入れ、対応する三量化化合物 (2)を与えた。現在、CPFの末端アミド構造構築機構についても新たな知見が蓄積されつつあり、本発表にて併せて報告する。1) Tsunematsu, Y. et al. Org. Lett. 2019, 21, 7582.
著者
七山 太 中里 裕臣 大井 信三 中島 礼
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

平成22-25年度に産総研・地質調査総合センターによって5万分の1地質図幅「茂原」の調査が実施された.このポスター発表においては,その試作版を提示し,各位から幅広く意見を徴収する予定である.茂原図幅の区画は,千葉県房総半島中東部に位置し,北緯35°20’ 11.8”-35°30’11.8”,東経140°14’48.2”-140°29’48.1”(世界測地系)の範囲を占める.本地域の全域が千葉県に属し,茂原市,千葉市,市原市,大網白里市,長生郡長南町,同長柄町,一宮町,長生村,いすみ市の各自治体が所轄している.図幅内の地形は大きく丘陵,台地及び低地に区分される.本図幅の西域を占める上総丘陵は,房総丘陵の北東部にあたる.台地は,図幅の北西端部に下総台地が小規模に分布している.両者の間は太平洋に注ぐ一宮川水系と東京湾に注ぐ村田川水系の分水界となっている.また,図幅の南東部には夷隅川水系が小規模に認められる.上総丘陵を構成する地質は下部-中部更新統の上総層群であり,下位から大田代層,梅ヶ瀬層,国本層,柿の木台層,長南層,笠森層および金剛地層に区分されている.本層群は深海-浅海成の泥岩砂岩互層,砂質泥岩,泥質砂層等の半固結堆積物からなり,下位は深海底,上位は陸棚で堆積したと解釈されている.地層は北東-南西方向の走向を持ち,北西方向に0-5°緩く傾斜し,北西に向かって地層が新しくなっている.一方,下総台地にはMIS5eに形成された上位段丘が分布し,下総層群木下層を段丘構成層として,その上位にHk-KlP群の軽石層より上位のテフラ群を挟む下末吉ローム層をのせる.また,木下層の砂層とローム層の間に常総粘土と呼ばれる粘土層が堆積している場合もある.この台地面は,本図幅内では60m前後から130m前後までの高度で分布し,台地の南端部で高く約130mを示し北に行くに従って高度を下げている.
著者
岡田真由子 金丸隆太#
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

問題と目的 学童保育とは,保護者が就労等によって昼間家庭にいない小学生を対象とし,放課後,土曜日や春・夏・冬休み等の長期休業中の子どもの生活を保障する施設である。学童保育では,家庭に代わる役割が求められるため,学童保育指導員(以下:指導員)にも高い能力が求められる。しかし,労働条件の低さ,職務の不安定さから離職が早く,入れ替わりが激しく,指導員同士の連携,チームワークの形成が難しい。また,指導員の研修,経験加算が不十分で,専門性の向上が求められている。岡田(2017)で,発達障害児,診断の付いていないグレーゾーンの児童の対応に苦慮していること,研修で学んだことが,現場との相違により,現場で生かせていないことが明らかになった。 本研究では,発達障害児・グレーゾーンの児童対応における,指導員の困り感の低減を目指した仕組みづくりとして,サポートブックを作成し,その有用性を検討することを目的とした。方 法 全国の教員・特別支援員向けの資料を参考に,ドラフト版を作成し,現場の指導員にヒアリングし,その結果を踏まえ,完成版を作成した。完成版は,“OKブック”と名付け, 1.はじめに2.このサポートブックの使い方3.発達障害とは4.リソース集5.支援シート6.引用文献・参考文献の6項目にした。A4サイズのリングファイル入れて,取り出しができるようにした。支援シートは,書き込み型にし,知識部分は短く,該当場面ですぐに確認できるように工夫した。OKブックはX市,Y市,Z市の12施設に1冊ずつ配布し1ヶ月間使用させ,60名の指導員に事後アンケートと,インタビューを実施した。アンケートとインタビューで得られたデータから,OKブックの有用性を検討した。結果と考察 OKブックの使用により,指導員の困り感は低減し,指導員に変化が見られた。また,OKブックのプラス面とマイナス面が明らかになった。 OKブックは,適性(向き・不向き)があった。それは,施設の環境的要因,指導員の個人的要因,集団的要因,リーダーのOKブックへの積極性が影響すると考えられる。OKブックを改訂するとすれば,以下のような案が挙げられる。1.発達障害児への対応だけでなく,保護者対応や他児への説明に関する対応場面や対応方法について,多くの事例を提示する。2.支援シートは,1枚のシートにする。指導員の中には,場面ごとのシートにすること,アセスメントシートがいいといった指導員もいた。書くことへの抵抗感をなくすためにも,エピソードを書き込む方法も考えられる。 OKブックを使用してもらうための工夫としては,まず使い方の丁寧な説明が重要である。OKブックの使用で指導員の困り感が減るということを強調して説明し,動機付けを高めることが重要だろう。また,支援シートは毎日書く必要がなく,残しておきたい情報を書くということを必ず伝える必要がある。併せて支援シートに情報を残すことによるメリットを伝えることで,書くことへの抵抗感が減るのではないかと考えられる。 学童保育は,1人の指導員が何人の児童を見るのか,教員や保育士のような限度がない。また,雇用状況が不安定で,待遇も決して良くはないにも関わらず,多くの知識,技能を求められ,大変さや矛盾も生じている。そのため,経験年数を重ねていても,自分の能力に自信が持てない指導員もいる。それは,研修機会の少なさ,職場内に先輩がいないからとも考えられる。高岡・籠田(2017)は,指導員の専門性の向上のためには,学習,成長が必要だと示唆した。その方法論の1つとして,野中らが提唱し,高岡らが加筆した,組織的知識創造モデルがある。本研究ではOKブックを使用した際の,指導員の知識創造モデルを提唱した。 本研究は学童保育に関する研究の進歩の上で,その一歩を踏み出したと言える。本研究の結果を基に,改訂版を作成し,HPで公開する予定である。
著者
阪本 仁 寺田 直樹
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

金星は固有磁場を持たない惑星だが、太陽風との相互作用により、超高層大気中には磁場が存在する。金星の昼側の電離圏では、太陽風の動圧が低い時に磁力線がロープのようにねじれたフラックスロープと呼ばれる微細構造がしばしば観測される。Pioneer Venus Orbiter (PVO)は、昼側の下部電離圏を通過する軌道の40パーセント以上でフラックスロープを観測し、その観測頻度が170kmで最大となることを報告した[Elphic et al., 1983]。フラックスロープに関して、これまでにいくつかの生成モデル(K-H 不安定[Wolffet al., 1980], ホール効果に起因する非線形効果[Kleeorin et al., 1994]) が提案されたが、いまだにその生成メカニズムはよくわかっていない。本研究では、最近提案された速い抵抗性の磁気リコネクション[Loureiro et al., 2007]に基づく、新しいフラックスロープの生成モデルを提案する。最近提案された速い抵抗性リコネクションは、非常に横に長いSweet-Parkerタイプの電流シートの中で起こる。その成長率はルンキスト数の4分の1乗に比例し、ルンキスト数が10の4乗より大きいときに、横長の電流シートは不安定となる。MHDシミュレーションの結果[Samtaney et al., 2009]によれば、電流シート内の多数の点でリコネクションが起きたのちに、鎖状にたくさんのプラズモイドが形成される。このような鎖状の構造はフラックスロープに似ている。金星の昼側の下部電離圏においても、速い抵抗性リコネクションが起こる非常に横に長い電流シートが形成される可能性が考えられる。そこで我々は、金星の昼側電離圏において、横に長い電流シートの形成によって生じる速い抵抗性リコネクションを介したフラックスロープ生成のモデルを考察し、その適用可能性を検討した。我々が今回提案するモデルの概要は次の通りである。まず太陽風の動圧が高い状態を考えると、太陽風が運んでくる惑星空間磁場が下部電離圏まで潜り込む。次に惑星空間磁場の向きが変化し、反平行に並んだ磁場が潜り込めば、金星の昼側の電離圏で、横長の電流シートが形成される。形成された電流シートの中で、速い抵抗性リコネクションが起きることにより、フラックスロープが生み出される。我々はこのモデルの適用の可能性を検討するために、まず先行研究の金星超高層大気のハイブリッドシミュレーションの結果[Terada et al., 2002]を用いて、金星電離圏におけるルンキスト数、速い抵抗性リコネクションの成長率、Sweet-Parkerタイプの電流シートの厚み、それぞれの高度分布を求めた。得られた高度分布から、ルンキスト数に関して典型的な大きさを持つ高度をいくつか抜き出した。そして、抜き出したそれぞれの高度で、以下の2つの条件を満たすときモデルが適用可能と考察した。1つ目の条件は、速い抵抗性リコネクションが十分速く成長するという時間的な条件であり、2つ目の条件は電流シートの厚みが観測で得られているフラックスロープのねじれの半径[Elphic et al., 1983]以上になるという空間的な条件である。結果によると、およそ高度170km(ルンキスト数が10の5乗)から高度230km(ルンキスト数が10の6乗)の範囲で我々のモデルは適用可能ということが予測された。発表では、これら適用可能な高度におけるパラメータを用いたMHDシミュレーションの計算結果も紹介する予定である。
著者
東海林 正弘 平谷 和幸 小山内 信 張 立也 朴 鑽欽 刀塚 俊起 横澤 隆子
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【緒言】丹参を主薬とする冠元顆粒は、国内で開発された生薬製剤で、第2類医薬品に分類されている。我々は、冠元顆粒並びに構成生薬の活血化瘀作用に注目し、糖尿病性腎症の進行に対する治療効果を検討しているが、本報では2期、並びに3期の患者に対する治療効果を検討した。【方法】真生会富山病院糖尿病センターの外来を受診し、漢方治療を希望した糖尿病性腎症患者 (2期3症例、3期2症例) に、冠元顆粒 (丹参、芍薬、川芎、紅花、木香、香附子からなる漢方方剤) を1日3包7.5 gを6ヶ月間連日経口投与した。なお、従来より服用している内服薬及び注射剤は継続投与した。【結果】いずれの患者も、自覚症状として肩こり、頭痛、手足の冷え、疲労感、胃・腹部の張り、腰や身体の痛み・痺れ等を訴えていたが、投与2ヶ月から問診票スコアの著しい改善が認められ、身体が楽になった、軽くなった、疲労感が改善された等の変化を示した。生化学的所見では、血清クレアチニン (Cr) がいずれの症例においても低下し、特に推算糸球体濾過値 (eGFR) は冠元顆粒投与6ヶ月前から低下していたが、投与6ヶ月の時点で有意に上昇していた。また2期患者において、尿蛋白、尿アルブミンの改善が見られ、投与5ヶ月以降は正常レベルを示した症例も見られ、中にはHbA1cの低下、収縮期と拡張期血圧が低下する症例も見られた。【結論】冠元顆粒を服用した糖尿病性腎症2期、並びに3期の患者5例において、自覚症状と腎機能 (eGFR、血清Cr) の改善が認められた。
著者
松井 祐介 松岡 宏晃 金本 匡史 渋谷 綾子 室岡 由紀恵 大高 麻衣子 竹前 彰人 高澤 知規 日野原 宏 齋藤 繁
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】HITは,血小板第 4 因子(PF4)とヘパリンとの複合体に対する抗体(抗PF4/H抗体)の産生が起こり,その中の一部で強い血小板活性化能を持つもの(HIT抗体)が,血小板,単核球,血管内皮の活性化を引き起こし,最終的にトロンビンの過剰産生が起こり,血小板減少,さらには血栓塞栓症を誘発する。治療には,まずはヘパリンの使用を中止することに加え,抗トロンビン作用を持つ代替抗凝固療法 (アルガトロバン) が必要である。今回我々は体外式膜型人工肺を用いた心肺蘇生後にヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia , HIT)を発症し,回路内凝血により持続的腎代替療法の継続が困難であったが,透析膜の変更で治療を継続することができた1症例を経験したため報告する。【臨床経過】我々は,体外式膜型人工肺を用いた心肺蘇生後にHITを発症し,除水ならびに血液浄化目的に、持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration, CHDF)が必要となり,ポリスルホン,セルローストリアセテートの透析膜を用いても,血栓による閉塞を頻回に起こし、回路交換による中断をせざるを得なくなり,管理に難渋する症例を経験した。本例は,ヘパリン中止,アルガトロバンによる全身の抗凝固療法と,ナファモスタットを用いた回路内の抗凝固療法を併用し,活性化凝固時間を延長させたにもかかわらず,頻回な回路閉塞によりCHDFの継続は困難であった。しかし,高い親水性をもった厚い柔軟層を有するポリスルホン製の透析膜のダイアライザー (商品名:トレライトNV) を用いた持続的血液透析および体外式限外濾過療法より,比較的長時間の腎代替療法を行うことができ,除水を継続することができた。【結論】HIT患者においても,ダイアライザーの種類を変更することで,腎代替療法を継続することができた。水分管理が困難であった場合,酸素化不良による静脈返血での体外式膜型人工肺(V-V ECMO)が考慮されたが,本症例では導入を必要とするまでには至らず,重篤な合併症を回避することができた。
著者
岡本 義雄
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地学教育において,中高の教室で岩石薄片観察を実際に行うことはとても意義深く,生徒へのインパクトも大きい.しかし実施に当たっては2つの困難がつきまとう.偏光顕微鏡の準備と岩石薄片の準備である.本研究ではその困難の解決の一手法をその1(観察編,自作偏光ユニットの製作),その2(製作編,岩石カッターと研磨機の製作)に分けて紹介する.本編はその1を論ずる.タイトルの2.0は,従来の手作業に頼る伝統手法を1.0とし.その改良版を意味する.なお筆者は岩石学の専門家ではないので,改良点など指摘いただきたい. 教室での薄片観察には必須の偏光顕微鏡を,簡易手法により構築する.従来から簡易型の偏光顕微鏡の提案は数多いが,市販の双眼実体顕微鏡に自作の偏光ユニットを組み合わせる方法をここでは提案する.通販サイトで売られる安価な中国製の双眼実体顕微鏡は現在1万円台で入手できる.倍率は20倍と40倍に切り替えられ,下部および,上部からのLED照明を持っているため,岩石薄片の観察には好都合である. このステージ上に載せる偏光ユニットを次の方法で製作する.1)回転台:中国通販で入手できる安価な回転テーブル(約70mm角,中央に37mmの孔,400円程度)2)偏光フィルム:国内通販で入手できるもの(80mm角が10枚入って千円程度)を1/4に切って使用 3)アクリル板: 70mm角,5mm厚に直径25mm程度の孔をホールソーで開けたもの,及び上部偏光板取付用の45×90mm,3mm厚のアクリル板で構成する.アクリル板は端材として格安に販売するサイトから入手する. 組み立ては回転台を5mm厚のアクリル板に4mmビスで締め付け,同時に下の台と回転台の間に偏光フィルム1枚を挟む.上記とは直角方向に偏光フィルムを貼り付けた上部偏光板を作る.偏光フィルムの取り付けはセロハンテープで充分である.これを薄片の上部で回転して出し入れできるように取り付け台を工夫する.パーツの接着は液体のアクリル接着剤を用いる.双眼実体顕微鏡のステージ上にセットした,偏光ユニットに薄片を挟んで観察を行う.さらにこの生徒用顕微鏡セットとは別に,安価なUSB顕微鏡(国内通販で8000円程度)と組み合わせて,教室全体に提示して観察ポイントの説明を行った.USB顕微鏡は通常下部LED光源がないので,白色LED光源の選定と製作も合わせて行った. 筆者は生徒実習用にこのユニットを10台,さらに回転台を省いた簡易型の薄片を挟むだけの構造のもの20台(薄片の回転は手動で行う),従来の専門家用鉱物顕微鏡12台の計42台(生徒1人に1台)を用意した.高校地学基礎の42名クラスで,全員にいずれかの観察装置をあてがい,薄片観察実習を行った.50分の時間で花崗岩,安山岩,玄武岩,はんれい岩の薄片観察を順に行った(薄片の製作は筆者発表のその2を参照).さらに前述のUSB顕微鏡にこの偏光ユニットを付けた装置で,薄片観察の要点を大型モニタに映すことで,次の観察の要点を適宜指導した.1)無色鉱物の見分け方;石英と長石の違い(外形,へき開の有無,双晶)2)有色鉱物の見分け方;黒雲母,角閃石,輝石,かんらん石の違い(外形,へき開,屈折率,干渉色,多色性,消光角,双晶など) この結果,生徒の反応は上々で,歓声を上げて観察してくれた.スケッチを行うもの,スマホで写真撮影を行うものと様々であった.写真をSNSの個人ページの背景に使うと意気込んでいた生徒もいた.授業後のアンケート結果もすこぶる良好であった.アンケートの詳細は講演当日に紹介する. 本装置のメリットは安価なこと.1台あたりの単価は双眼実体顕微鏡1万8000円+偏光ユニット2000円程度.これにより実体顕微鏡をのぞくと,1クラス全員分の偏光装置の準備もそれほど難しくない(回転装置をのぞいた簡易型ならもっと容易となる).また下部照明を内蔵していることから肉眼観察,写真撮影ともに外部照明なしで簡単に行えること. デメリットは自作するのに工作技術が必要なこと.回転台にはややガタがあること.これにより回転時に視野の中心がやや動くのが気になる.また当然ながら専門家用の顕微鏡で行えるコノスコープ観察や干渉板での観察などはできない.さらに,絞りがないのでベッケ線の移動が見にくいこと,岩石顕微鏡としての倍率がやや不足気味(通常で20倍と40倍の切り替え)などである.しかし授業アンケート結果などを総合的に判断して教材としての価値は高いことが分かった.岩石薄片の作成についてはその2で詳説する.
著者
山本吉則 嘉戸直樹 鈴木俊明
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【はじめに,目的】運動学習の初期には,速い運動よりも遅い運動を行う方が適しているといわれており,遅い運動では体性感覚が入力されやすい可能性がある。感覚機能の客観的な評価法として体性感覚誘発電位(SEP:Somatosensory evoked potential)が用いられている。運動中には,SEP振幅は低下することが知られておりgatingと呼ばれる。このgatingの機序としては,運動の準備や実行に関与する運動関連領野による求心性インパルスの抑制や,運動時の固有感覚入力や触圧覚入力と上肢刺激で生じた求心性インパルスとの干渉作用が推測されている。我々は先行研究において運動頻度の異なる手指反復運動がSEPに及ぼす影響について検討し,0.5Hzや1Hzの手指反復運動では体性感覚入力は変化しないが,3Hzの手指反復運動では3b野および3b野より上位レベルの体性感覚入力に抑制効果を示すと報告した。しかし,臨床ではさらに詳細な運動頻度を設定する必要があると考える。そこで本研究では,運動頻度を詳細に設定し,運動頻度の増加が体性感覚入力に及ぼす影響について検討した。【方法】対象は整形外科学的および神経学的に異常を認めない健常成人8名(平均年齢24.9±3.5歳)とした。SEPは安静条件(安静背臥位を保持する),注意課題条件(0.25,0.5,1,2,3,4Hzの頻度の聴覚音に注意を向ける),運動課題条件(0.25,0.5,1,2,3,4Hzの頻度の聴覚音を合図とした右示指MP関節屈曲・伸展の反復運動を3cmの範囲で実施する)において記録した。注意課題条件と運動課題条件の課題の順序はランダムとした。SEPの記録にはViking4(Nicolet)を使用した。SEP導出の刺激条件は,頻度を3.3Hz,持続時間を0.2ms,強度を感覚閾値の2~3倍とし,右手関節部の正中神経を刺激した。加算回数は512回とした。記録条件として探査電極を国際10-20法に基づく頭皮上の位置で刺激側と対側の上肢体性感覚野(C3´),および第5頸椎棘突起上皮膚表面(SC5),刺激側と同側の鎖骨上窩(Erb点)に配置し,基準電極を刺激側と対側の鎖骨上窩(Erb点),前額部(Fpz)に配置した。C3´-Fpz間からはN20とP25,SC5-Fpz間からはN13,同側Erb点-対側Erb点間からはN9の振幅および潜時を測定した。安静条件,注意課題条件,運動課題条件における振幅と潜時の統計学的比較にはDunnett検定を用いた。なお,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,本研究の目的と方法,個人情報に関する取り扱いなどについて書面および口頭で説明し理解を得た後,研究同意書に署名を得た。なお,本研究は本学の倫理委員会の承認を得て行った。【結果】安静条件,注意課題条件では,各振幅に有意差は認めなかった。運動課題条件では,N9,N13振幅には有意差を認めなかったが,N20,P23振幅は安静時と比較して2Hz以上の運動頻度において有意に低下した(p<0.01)。安静条件,注意課題条件,運動課題条件の潜時には有意差を認めなかった。【考察】上肢刺激によるSEPの各成分の発生源として,N9は腕神経叢,N13は楔状束核,N20は3b野,P25は3b野より上位レベルの由来と考えられている。本結果より,運動課題条件による2Hz以上の運動頻度では,3b野および3b野より上位レベルで体性感覚入力が抑制されることが示唆された。この要因として,運動頻度の増加に伴う求心性インパルスと運動関連領野の影響を考えた。Blinkenbergらは,0.5Hzから4Hzの頻度での右示指のタッピング運動において,対側の第一次運動野,第一次体性感覚野,補足運動野や小脳が賦活し,さらに第一次運動野および第一次体性感覚野の血流と運動頻度には有意な正の相関を認めると報告している。本研究においても,2Hz以上の運動頻度では,右示指MP関節の屈曲・伸展に伴う触圧覚入力や固有感覚入力の増加,運動関連領野の活動の増加により3b野および3b野より上位レベルで体性感覚入力が抑制されると考えた。この体性感覚入力を抑制する役割として,西平らは感覚フィードバックを利用して適宜修正すれば期待した運動を実現できるが,その働き自体はゆっくりであると述べている。2Hz以上の運動頻度では,運動を円滑に遂行するために3b野および3b野より上位レベルで不必要な体性感覚入力を抑制する可能性がある。【理学療法学研究としての意義】体性感覚入力を促して感覚フィードバックを利用する際には,低頻度の運動を実施し,運動が習熟するに伴い低頻度の運動から高頻度の運動へ移行する必要がある。
著者
藤岡 周助 岡 香織 河村 佳見 菰原 義弘 中條 岳志 山村 祐紀 大岩 祐基 須藤 洋一 小巻 翔平 大豆生田 夏子 櫻井 智子 清水 厚志 坊農 秀雅 富澤 一仁 山本 拓也 山田 泰広 押海 裕之 三浦 恭子
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景と目的】ハダカデバネズミ (Naked mole rat、 NMR) は、発がん率が非常に低い、最長寿の齧歯類である。これまでに長期の観察研究から自然発生腫瘍をほとんど形成しないことが報告されている一方、人為的な発がん誘導による腫瘍形成に抵抗性を持つかは明らかになっていない。これまでにNMRの細胞自律的な発がん耐性を示唆する機構が複数提唱されてきた。しかし、最近それとは矛盾した結果も報告されるなど、本当にNMRが強い細胞自律的な発がん耐性を持つのかは議論の的となっている。さらに腫瘍形成は、生体内で生じる炎症などの複雑な細胞間相互作用によって制御されるにも関わらず、これまでNMRの生体内におけるがん耐性機構については全く解析が行われていない。そこで、新規のNMRのがん耐性機構を明らかにするため、個体に発がん促進的な刺激を加えることで、生体内の微小環境の動態を含めたNMR特異的ながん抑制性の応答を同定し、その機構を解明することとした。【結果・考察】NMRが実験的な発がん誘導に抵抗性を持つかを明らかにするため、個体に対して発がん剤を投与した結果、NMRは132週の観察の間に1個体も腫瘍形成を認めておらず、NMRが特に並外れた発がん耐性を持つことを実験的に証明することができた。NMRの発がん耐性機構を解明するために、発がん促進的な炎症の指標の一つである免疫細胞の浸潤を評価した結果、マウスでは発がん促進的な刺激により強い免疫細胞の浸潤が引き起こされたが、NMRでは免疫細胞が有意に増加するものの絶対数の変化は微小であった。炎症経路に関与する遺伝子発現変化に着目し網羅的な遺伝子解析を行なった結果、NMRがNecroptosis経路に必須な遺伝子であるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異により、Necroptosis誘導能を欠損していることを明らかにした。【結論】本研究では、NMRが化学発がん物質を用いた2種類の実験的な発がん誘導に並外れた耐性を持つこと、その耐性メカニズムの一端としてがん促進的な炎症応答の減弱が寄与すること、またその一因としてNecroptosis経路のマスターレギュレーターであるRIPK3とMLKLの機能喪失型変異によるNecrotpsosis誘導能の喪失を明らかにした。