著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37-59, 2012-09-20

本論文は,美容整形や美容医療(プチ整形)が普及する現代社会において,それらの施術を受けたいと思う人々の①属性,②身体意識を明らかにする.また,以前行った調査で,美容整形を希望する理由に「自己満足のため」が最も多かったという結果をうけ,③美容実践が,身体を自分の所有物と感じてアイデンティティを再定義するような主体的な経験なのかも明らかにする.25~65 歳の男女800 人に調査票調査を行い,分析した結果は次の通り.①美容施術を望むのは男性よりも女性である.性別以外の,年代,世帯年収,学歴,既婚・未婚といった属性では有意差が見られなかった.②美容実践はあくまでも第一義的に「自分の心地よさ」(=自己満足)のために行われる.自分の心地よさという理由は,美容実践でない行為においても,美容実践を望む人が,望まない人より使用している.ただし,美容実践を望む人ほど「他者」の評価も求める傾向ももつ.③美容実践は,性別と世帯年収に規定される.また自己アイデンティティの再構築を目指すような主体的な行為というより,むしろ「外見の老化を感じる」こと,「身体に関する社会の常識を守るべきという考えを持たない」ことに規定される行為でもある.したがって,美容実践は,第一に「自分」という位相で語られる行為である.ただし,自分の心地よさの背後には「他者」の評価期待が含まれる.そして身体に関わる常識という意味での「社会」的影響は後景に退いている行為である. This paper analyses people intending to undergo cosmetic surgery or cosmetic medical care in contemporary Japan. It aim to explore (1) their attributes, and (2) their body consciousness. The study found that the most popular motivation for cosmetic surgery was “self-satisfaction”. ーFollowing this, the study investigated (3) whether cosmetic practices can be regarded as subjective experiences, which promote the re-definition of identities. The results of this later survey (involving 800 informants) as follows. First, more women want to have cosmetic interventions than men. Other attributes, including age, academic background, income, and marital-status, did not show any significant influence on motivations. Second, some people want to have cosmetic interventions because of a sense of self-satisfaction, however, they tend to want positive evaluations from “others” too. Third, “awareness of aging” and “lack of a conviction to maintain common sense in relation to one’s body” are more likely to inderpin a desire to undergo cosmetic intervention than “the intention to reform self-identity.” Therefore, cosmetic interventions should be understood in terms of “the self,” positive evaluations by “the other,” and “self-comfort.” Although cosmetic practices are social practices, they are not significantly influenced by “the social.”
著者
安本 博司
出版者
多文化関係学会
雑誌
多文化関係学 (ISSN:13495178)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.23-36, 2014-12

本稿では、在日コリアン(以下、「在日」と表記)の運営するNGO団体(Organization of United Korean Youth Japan、以下、KEYと表記)において、個々のメンバーがどのような居場所を形成してきたのか、あるいは形成しようとしているのか、を明らかにしようとするものである。また、居場所の意味づけの多様性を描き出すことを目的に、世代に着目し分析をおこなった。世代とは、第一世代を在日韓国青年連合の立ち上げ期に関わった者や立ち上げ後活動の中心にいた者、第二世代を名称変更後の在日コリアン青年連合において活動の中核を担っている者または、歴史人権講座や社会運動に継続して参加している者、第三世代を語学学習や交流会目的で参加している者とし、世代ごとの居場所への意味づけを検討した。調査は、元メンバーと現メンバーの計7名に対して半構造化インタビューをおこなった。その結果、明らかになったことは、第一世代・第二世代と第三世代の居場所の形成地点や居場所への意味づけが異なり、同じ空間内に居場所の棲み分けがされていることが明らかになった。しかしながら、それは固定したものではなく、それぞれが居場所を確保しようとする「居場所のせめぎ合い」とも言うべき動的な居場所の形成過程が明らかになった。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.915, pp.24-27, 1997-11-10

昨年3月、長距離系新電電、日本高速通信(東京・台東区)の角田忠久専務は役員会で身の縮む思いを味わった。担当していたコンピューターシステムの開発が、稼働を予定していた1カ月ほど前になって突然、期限に間に合わないことが判明し、その報告をしなければならなくなった時のことである。
著者
杉浦 惠子 横山 芳子
出版者
松本短期大学 紀要委員会
雑誌
松本短期大学研究紀要 (ISSN:09107746)
巻号頁・発行日
no.25, pp.73-78, 2016-03

妊婦の栄養管理は、出産する児の体重管理に大きく影響するだけでなく、低栄養傾向は、胎児の生活習慣病素因を形成する影響もあるため重要である。そのため非妊娠時BMI に基づいた推奨体重の保健指導が行われている。そこで本研究では、妊娠時の体重増加に影響を与えた要因を検討する。 A市の乳児4 か月健診を2013 年1 月~ 6 月に受診した児の母親に、無記名自記式質問紙調査を実施した。質問内容は母親の年齢、身長、出生児の順位、出産週数、児の出生時体重、妊娠中の体重増加に関してである。 研究対象者の平均年齢は31.9 ± 4.6 歳、非妊娠時BMI は、18.5 未満86 名(22.3%)、18.5 ~ 25 未満278名(72.2%)、25 以上21 名(5.5%)で、出産時までの平均体重増加量は9.9 ± 3.7kg であった。医療従事者から体重の指導あり214 名(55.2%)、指導なし174 名(44.8%)と約半々であり、全員に推奨体重・適正体重が周知されているわけではなかった。周囲の人から体重に関して言われたことがある105 名(27.1%)、言われたことがない279 名(71.9%)と言われない者が多かった。言われた相手は実母41 名、友人24 名、夫23 名、義母14 名の順であった。 児の出生時体重の平均は3,038 ± 366g であった。2,500g 未満の児の母の体重増加量は7.7 ± 4.2kg と、2,500g 以上の児の母の体重増加量10.0 ± 3.6kg より有意に少なかった。また、母のBMI とは有意差はなく、推奨体重と母自身の理想体重増加量との適否で有意差がみられた(p <0.05)。 妊婦に最も影響を与える医療従事者による適正体重の指導が重要である。また、周囲の言葉によっても、2割近い人が体重増加に影響を受けたとしているため、適正体重に関する知識についてのポピュレーションアプローチが必要である
著者
三浦 誠一
出版者
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.81-87, 2009
被引用文献数
4

海洋研究開発機構 (JAMSTEC) では, 海底下深部構造を求め地震や津波の発生メカニズムを解明するため, 1995年より制御震源による構造探査を開始した. 1997年からは海溝型巨大地震発生過程解明をめざして「かいれい」に構造探査システムを艤装, 1999年にエアガン大容量化とOBS100台化および「かいれい」「かいよう」2船体制となった. 2004年に伊豆小笠原海域等での集中的探査に対応するため, ストリーマーケーブル延長やOBS台数追加という増強を実施した. これらにより海溝型巨大地震発生過程や島弧成長過程の解明に関する重要な知見が得られた. しかし今後構造研究と掘削等による物質科学との統合をめざすため, 構造探査システムの高精度化をはかる必要がある. このような観点から, 2008年に「かいれい」のエアガンアレイチューンドアレイ化, ストリーマーケーブルの高分解能化を行い, 想定した性能を確認した. 今後も科学的要求にこたえるべく技術的更新や増強をはかる必要があると考えられる.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネスassocie (ISSN:13472844)
巻号頁・発行日
vol.10, no.9, pp.24-27, 2011-06-07

被災地の1日も早い復興のためには資金は1円でも多い方がよく、それには働き盛りの世代の積極的な協力が求められる。 寄付は決して、ただお金を差し出すだけの行為ではない。NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんは「寄付で得られるものは途方もなく大きい。自分の器を広げるチャンスと捉えてほしい」と話す(27ページにインタビューを掲載)。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1418, pp.36-39, 2007-11-26

IT(情報技術)ベンチャー社長の職をなげうって、社会起業家を目指した。「立派だね」「あいつは終わったな」。周囲からは嘲りの声が聞こえてきた。 駒崎弘樹氏(28歳)がNPO法人「フローレンス」を設立したのは3年前。
著者
神村 朋佳 Tomoka KAMIMURA
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.51-62, 2017-01-31

アイルランドの昔話「ノックグラフトンの伝説(The Legend of Nockgrafton)」におけるアイルランド語の歌について、日本語訳に初歩的な誤りが見られたこと、二種の日本語訳書で歌詞に揺れが見られたことから、石井桃子訳、井村君江訳と、二訳書の原書とみなされるJacobs、Yeats、Croker の英語原書三種を比較検討した。その結果、アイルランド語に関する語釈の誤りは、英語圏に最初にこの話を紹介したと目されるCroker 版の本文および注記に起因しており、それが後続の編著者、翻訳者によって、修正されることなく踏襲されてきた可能性が高いと推測できた。また、このことから、アイルランドの昔話の英語、日本語への翻訳、紹介、その受容の諸相における様々な問題点が浮かび上がってきた。そこで文献資料のみならず、音声資料も含めた資料の収集と比較検討を進め、子どもに語るにふさわしい、正確でよりよい翻訳、再話の可能性を追求したい。
著者
土井 隆義
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.61-76,188, 1988

The sociology of crime has provided a number of explanations about motives for crime up to this day. As the basis of these theories, there is the background-hypothesis which assumes that the individual is motivated to crime previous to concrete offences as a result of the internalization of unfavorable social environments. But this background-hypothesis doesn't notice the view that the reality of motives is constructed through the social interaction process where actors request explanations of behaviour. This particular view is a result of advancements of the sociology of knowledge, especially as promoted by C. W. Mills early work and his followers'. The motives for crime cannot be exceptions to this result, because the reality of crime is also socially constructed.<br> The labelling theory is the most appropriate of all theories to approach the study of the motives for crime from the perspective of the sociology of knowledge. This is so because it succeeded in introducing the conception of relativity into the definition of crime and made it quite clear that a definition of crime is constructed through the prosesses of interaction where actors demand categories of deviance. Of couese, in relation to the motives forcrime, the current labelling theory shares the above background-hypothesis with other theories of crime , which is evident in the problem which treats the increasing motives for crime as a never ending vicious circle. It is an extension of the cultural learning theory. However, it is possible for the motives of crime to be removed from the realms of this background-hypothesis by virtue of the labelling theory, if implications in the concept of a definition of crime are put into the perspective of motives for crime.<br> Accordingly, it is very fruitful to examine the possibility of studying motives for crime from the perspective of 'a definition of crime' as it occurs in the labelling theory. Such examination leads to a study of motives for crime as seen from the perspective of the sociology of knowledge, because it enables us to step back and reinterpret our attitudes in relation to the motives for crime in daily life. In short, labelling of criminal acts involves the construction of mitives for crime and the imputation of them to the actors. Therefore, it is possible to say that the motives for crime reveal themselves, not before concrete criminal acts, but after them. And they must be treated not as mental facts but as social facts, because we construct the motives for crime within the paradigms of the interpretation of acts in daily life, based on a common perception of the meaning of human behaviour.
著者
坂井 信之
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.321-321, 2011

最近,香りの心理効果が注目されている.一つの側面は心理効果の学術的な観点である.香りの効能に関する逸話的な報告はかなり多く,その特異的な側面が強調されてきた.例えば,良い例が嗅覚の記憶にみられる「プルースト効果」と呼ばれるものである.マルセル・プルーストによる『失われた時を求めて』の中に,紅茶に浸したマドレーヌを食べていると,ふと幼い頃の記憶が鮮明によみがえってきたという内容の記述があることから名付けられた.この現象にみられるように,香りから想起されるエピソード記憶のビビット感や時間的距離感の近さなどの特徴は嗅覚に特異的であるとされている.しかしながら,この件に関する学術的な研究は,長い間少数のグループが比較的古い手法で確かめる程度に留まっていた.さらに,嗅覚に関する個人差やあいまいさ(記憶の不確かさ)は顕著であることも加わり,嗅覚の心理効果に関する学術研究は,視覚や聴覚に比べて長い間放置された感があった.<BR>しかし, 2004年にリンダ・バックとリチャード・アクセルが,嗅覚レセプターの遺伝子解析の研究でノーベル賞を授与される前後から,嗅覚に関する学術的知見が飛躍的に蓄積されるようになってきた.ほぼ同時に,ヒトの脳を非侵襲的に計測する技術が進歩し,ヒト独自の嗅覚の情報処理機構についても,学術研究が行われるようになってきた.ここで触れたいくつかのトピックスについては,すでに本学会誌でも特集号の論文として紹介されているので,今回の特集では,嗅覚と視覚とのイメージの統合に関する現象論についてまとめていただいた.<BR>綾部氏は香りと形のイメージの一致,三浦氏と齋藤氏は香りと色の調和について,それぞれご自身の研究を中心にまとめていただいた.いずれの論文も非常に読み応えのある最新知見を紹介されており,これらの論文を読むことにより,ヒトは香りからどのようなイメージを思い浮かべるのかということについて理解が深まり,これからの香りの応用のシーズ (種)となる知見である.<BR>もう一つの観点は,嗅覚の心理効果をビジネスとして展開するというものである.これまでもアロマテラピーや消臭というビジネスがあった.しかしながら,最近注目されている香りのビジネスとは,香りの心理効果を積極的に応用するというものである.阿部氏と高野氏による論文は,香りや化粧がヒトの感情に及ぼす効果について概説したものである.一ノ瀬氏の論文は,シャンプーや男性用デオドラント製品,衣料用柔軟剤などの香りの実例を豊富に挙げながら,香りがヒトの感覚や感性にどのように作用するのかということについてまとめたものである.國枝氏の論文は,香りを積極的に使うことによって,行動障害の子どもや,認知症の高齢者などの症状の改善ができることをご自身の研究に基づいて,まとめていただいたものである.これらの論文は,いずれもすでにビジネス展開されているか,これからビジネス展開されていくものであり,香りビジネスに直結する,いや,これからの日本の香り社会を予想すると言ってもよいほどの基盤技術といえる.<BR>読者の皆様におかれては,今回の特集の学術的なシーズから新しい技術のヒントを得ていただいたり,実際の香りビジネスの実例に触れることで,これからの日本の香り社会のニーズに思いを巡らせていただきたい.これは本特集に執筆していただいた方々の共通の思いである.