- 著者
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中川 良三
- 出版者
- 公益社団法人 日本化学会
- 雑誌
- 日本化学会誌 (ISSN:03694577)
- 巻号頁・発行日
- vol.1985, no.4, pp.703-708, 1985-04-10 (Released:2011-05-30)
- 参考文献数
- 22
- 被引用文献数
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8
人為的水銀汚染の実態を解明するためには,まず,自然環境から供給される水銀量を明らかにしなければならない。火山ガスは環境大気中に水銀を供給する発生源の一つである。火山ガスの水銀に関連する基礎資料を得るために,北海道地方の地熱地帯 10 箇所(知床半島羅臼,屈斜路湖畔和琴オワツコツ地獄,川湯アトサヌプリ硫黄山,阿寒湖畔ボッケ,大雪山系高原温泉,旭岳地獄谷,十勝岳安政および新々噴火口,登別温泉地獄谷,昭和新山,恵山)の噴気孔ガス中の水銀含量を調べた。 34 試料の噴気孔ガス中の水銀量は乾きガスあたりで 3.2~1828μg/m3,相乗平均値 54μg/m3 であった。これらの値は,本州および九州地方の噴気孔ガス中の水銀含量の約 6 倍であった。同時に採集した凝縮水中の水銀含量は 0.01~32μg/l の範囲であり,火山性温泉水の水銀含量と同程度か,やや高値であったが,平均して気体として揮散した水銀量の 5 % 以下であった。温泉ガス中の水銀含量は 1.2μg/m3 以下であり,噴気孔ガスにくらべて 1/100 以下の低値であつた。火山活動によつて大気中に放出される水銀量を噴気孔ガス中の水銀含量から試算した結果,北海道地方では大気に関連する水銀の約 4 % が火山ガスの寄与によると推定された。この値は本州および九州地方の噴気孔ガス中の水銀量から試算した値の約 6 倍であった。