著者
前沢 伸行
出版者
首都大学東京人文科学研究科
雑誌
人文学報 = The Journal of social sciences and humanities (ISSN:03868729)
巻号頁・発行日
no.512, pp.1-36, 2016-03

前沢信行教授記念論文集
著者
和田 哲郎 廣瀬 由紀 西村 文吾 星野 朝文 上前泊 功 田渕 経司 大久保 英樹 原 晃
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.61-67, 2012
被引用文献数
1

平成13年の医師法の一部改正により聴覚障害者が医師になることが可能となった。しかし, 医学教育で求められる極めて多くの情報を, どのように聴覚障害医学生に伝えるかという方法論は確立されておらず, 公的な支援制度もない。我々は, 上記の医師法改正後, 全国で3人目となる聴覚障害医学生を受け入れた。様々な関係団体と協力し, 本人の日常コミュニケーション手段である手話あるいはパソコン要約筆記を用いて情報保障に努めた。講義にはパソコン要約筆記が, 臨床実習では手話通訳が有効であった。しかし, 専門用語など特殊な内容が多いため, 対応可能な手話通訳者の養成と確保などの課題も明らかとなった。スムーズな支援のためには, 1) リーダーシップ, 2) きめ細かな連絡, 3) 信頼関係が鍵になると考えられた。個々の障害学生の希望と教育環境によって対応は変わってくると考えられるが, このような経験が蓄積, 共有され, 今後の聴覚障害学生教育の一助となることを希望し報告する。
著者
前田 和甫 三浦 麻子 小森 政嗣
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.113, no.72, pp.119-122, 2013-05-23

2011年3月11日に起きた東日本大震災は,津波や原子力発電所の事故も伴い,大きな社会的インパクトを与えた.震災の複雑な心理的影響を理解するため,本研究では地震発生から1週間の日本語ツイートメッセージ(1億7千万)を分析した.ツイートは,「東日本大震災ビッグデータワークショップ-Project 311-」に対しTwitter Japan(株)より提供されたものである.これらのツイートから,天災に関連したツイートおよび人災に関連したツイートを抽出し,それらのツイート中の1ツイートあたりのポジティブ・ネガティブ形容詞数を求めた.天災に関連したツイートにおけるネガティブ語の出現頻度は1日を周期とする変動を示した一方,人災に関連したツイートではこのような傾向は認められなかった.この結果は自然災害と原子力災害に対する感情的反応が異なる性質を有していることを示唆している.
著者
前谷 文美 寺村 誠 山崎 昌仁 大谷 昌之
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.191-196, 2015-01-15 (Released:2015-12-02)
参考文献数
28

二重エネルギーエックス線吸収測定法(Dual-energy X ray absorptiometry;DXA)にてホルスタイン種雌牛(生後1~ 425日)18頭の骨密度を測定した.測定部位は右中足骨とし,機器はDCS-600EXV(日立アロカメディカル,東京)を使用した.血清カルシウム(Ca)濃度,骨形成マーカーである骨型アルカリフォスファターゼ(bone-specific alkaline phosphatase;BAP)値,骨吸収マーカーであるⅠ型コラーゲン架橋N-テロペプチド(type Ⅰcollagen cross-linked N-telopeptide;NTx)値を測定し,骨代謝状況を把握するためにNTxとBAPの比(NTx/BAP)を算出した.日齢と骨密度は強い正の相関関係を示し(r=0.86,p=0.0001),日齢の進行とともに骨密度は増加した.日齢と血清Ca濃度は強い負の相関関係を示し(r=-0.85,p=0.0245),日齢が進むにつれて血清Ca濃度が低下した.NTx/BAP値は血清Ca濃度と負の相関関係を示し(r=-0.61,p=0.0064),日齢とは相関関係がみられなかった(r=0.43,p=0.0743).骨密度とNTx/BAP値は相関関係がみられなかった(r=0.42,p=0.0837).DXA法を用いたホルスタイン種雌牛の骨密度の測定によって,日齢の進行に伴い,骨密度が増加することが判明した.今後,1歳以上のホルスタイン種雌牛を用いた同一個体に対する経時的な骨密度の測定により,成長に伴う骨密度の変化率と分娩前後の骨密度の変化率がデーター化されれば,乳熱などの周産期疾病予防や治療方針の判断につながると考えられる.
著者
前田 勉
出版者
日本文芸研究会
雑誌
文芸研究 (ISSN:02875829)
巻号頁・発行日
no.133, pp.p44-52, 1993-05
著者
堀越 直子 大平 哲也 安村 誠司 矢部 博興 前田 正治 福島県県民健康調査「こころの健康度・生活習慣に関する調査」グループ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.70-77, 2017 (Released:2017-03-16)
参考文献数
21

目的 福島県立医科大学では,福島県からの委託を受け,東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射線の健康影響を踏まえ,将来にわたる県民の健康管理を目的とした「県民健康調査」を毎年実施している。そのうち,平成23年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の生活習慣支援対象者(高血圧・糖尿病)に対し,看護師・保健師等が実施した電話支援の効果,特に次年度の調査票への回答および医療機関受診の勧奨効果を明らかにすることを目的とした。方法 平成23年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の生活習慣支援対象者(高血圧・糖尿病)1,620人をベースラインデータとし,平成24年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の結果との関連を縦断的に検討した。結果 平成23年度の生活習慣支援対象者で,電話支援を実施した者(以下,電話支援者)は1,078人,電話番号の未記載や留守等で電話支援を実施しなかった者(以下,電話未支援者)は542人であった。単変量解析の結果,電話支援実施の有無で,居住場所(P=0.001),教育歴(P<0.001),就業状況(P<0.001)に違いがみられた。 平成24年度調査票への回答者数は,電話支援者が616人(57.1%),電話未支援者が248人(45.8%)であり,電話未支援者に比べ電話支援者の平成24年度調査票回答率は高く,統計的に有意であった(P<0.001)。また,平成24年度調査票への回答の中で,医療機関に受診したと記載のあった者は,電話支援者が184人(29.9%),電話未支援者が68人(27.4%)であり,電話未支援者に比べ電話支援者の受診者の割合は高かったが,統計的に有意差はなかった。 多変量解析の結果,平成24年度調査票への回答には,電話支援を受けた者であることが有意に関連した(P=0.016)。結論 電話支援者は電話未支援者に比べ,次年度の調査票回答率が有意に高く,電話支援の取り組みは,調査票回答率の向上に有効であると考えられる。
著者
前田 茂
出版者
美学会
雑誌
美學 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.57-70, 2001-09-30

Gilles Deleuze determine ses considerations sur le cinema, Cinema 1-L'image-mouvement : "[c] ette etude n'est pas une histoire du cinema. C'est une taxinomie, un essai de classification des images et des signes." C'est-a-dire que cette oeuvre n'est pas une pure application de l'epistemologie qui deroule de Matiere et memoire au cinema, mais une "classification" qui consiste d'echelonner des etres divers selon leur evolution. Nous en tirons la question qui oriente notre article : quelle est la liaison dans le cinema entre l'epistemologie des images cinematographiques et l'ontologie de ces images qui expliquerait leur evolution elle-meme? En effet, d'apres la definition de l'image chez Bergson, l'image cinematographique prend sa pleine et propre existence, et dans Cinema 2-L'image-temps qui en traite par rapport a la pensee, l'image-corps n'est pas consideree comme un des objet de la connaissance, ou le scheme qui la conditionne, mais une substance irreductible a la representation, qui nous force la pensee sans representation.
著者
中野 健 田所 千治 前川 覚
出版者
(一社)日本ゴム協会
雑誌
日本ゴム協会誌 (ISSN:0029022X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.10, pp.313-318, 2012 (Released:2013-08-02)
参考文献数
27
被引用文献数
1 5

The deformation of sliding objects plays an important role for determining the characteristics of frictional vibration. Therefore, to understand the frictional vibration of elastomers comprehensively, in-situ observations of contact area are necessary along with force measurements. In this article, after explaining the basics of frictional vibration using a single-degree-of-freedom model, some optical methods of visualizing the contact area (i.e., methods using transmission or reflection of visible light) are introduced. In particular, methods using the total reflection are hopeful to realize sensitive observations of contact area under dry or wet conditions.
著者
加藤 恭郎 渡辺 孝 前田 哲生 垣本 佳士
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.745-751, 2011-06-01 (Released:2011-06-21)
参考文献数
12

わが国においてスターチ腹膜炎についての認識は低く,パウダーフリーの手術用手袋の普及も進んでいない.今回,虫垂切除後にスターチ腹膜炎を発症し,その後の経過を長期に観察しえた1例を経験したので報告する.症例は16歳女性で,1994年,虫垂炎に対し虫垂切除を行った.術後9日目から小腸通過障害をおこし,12日目に腹腔鏡下癒着剥離術を行った.黄色混濁腹水と腹膜小結節を認めた.腹水の培養は陰性であった.術後発熱と高い炎症反応が続いた.CTで腹水の貯留と腸間膜の肥厚を認めた.手袋のパウダーでの皮内反応が陽性であった.スターチ腹膜炎と判断しステロイド投与を行ったところ炎症反応は低下し,腹水も消失した.その後も小腸通過障害,複数回の腹痛があったがいずれも保存的に軽快した.スターチ腹膜炎が長期にわたり患者のQOLを悪化させた可能性があった.今後パウダーフリーの手術用手袋を普及させる必要があると思われた.
著者
前田 駿太 増田 悠斗 佐藤 友哉 嶋田 洋徳
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.46-57, 2016-12-31 (Released:2016-12-31)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究の目的は,社交不安症における心理的ストレッサーに対するコルチゾール反応についてメタ分析を用いて検討することであった。文献検索の結果,社交不安症の診断基準を満たす者と健常者の間で心理的ストレッサーに対するコルチゾール反応を比較している9報の文献が抽出された(社交不安症群:N=265;健常群:N=199)。そして,ベースライン期,ストレス期(ストレス負荷後25分まで),回復期(ストレス負荷後25分経過以降)の3つの時期それぞれにおいて,社交不安症群と健常群のコルチゾール値の差分値に基づく効果量を算出した。メタ分析の結果,いずれの時期においても社交不安症群は健常群よりも高いコルチゾール値を示すことが明らかになった。このことから,社交不安症においては直接的なストレッサーの呈示に対してのみならず,ストレッサー呈示前後の認知的処理によってもコルチゾール反応が亢進していることが示唆された。
著者
前田 淳 市岡 四象 井内 正彦
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.17, no.11, pp.832-836, 1976-11-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
8

われわれは慢性日本住血吸虫症患者の血中エストロゲン値を測定し,脾腫の有無と共に検討を加えた.1) 脾腫の発生は肝硬変を呈する男性,肝線維症を呈する女性に多い傾向がみられた.2) 血中エストロゲン値は肝硬変および肝線維症を呈するものに高値を示し,慢性肝炎を呈するものは全例とも正常範囲内であった.3) 脾腫のみられるものの血中エストロゲン値は脾腫のみられないものより高値を示すものが多く,肝硬変群では脾腫のみられる男女に,肝線維症群では脾腫のみられる青壮年の女性に高値を示すものが多かった.4) 妊娠回数との関係では肝硬変群では関連はうすかったが,肝線維症群では妊娠回数の多いものほど脾腫のみられるものが多く,血中エストロゲン値も高いものが多かったが,今後,検討を要するものと思われる.
著者
前田 啓朗
出版者
日本言語テスト学会
雑誌
日本言語テスト学会研究紀要
巻号頁・発行日
no.6, pp.140-147, 2004-08-30

This paper presents 1) what limitations causal analyses have, 2) how causal analyses are conducted in English language education research in Japan, 3) what problems are seen in those causal analyses, then, 4) how the problems can be improved for further research. A Causal analysis, especially an analysis according to Multiple Regression Model, is originally a powerful tool for predicting a dependent variable by some independent variables. However, when the degree of causal effect by each independent variable is focused, the problem of multi-collinearity, which is provided by correlations among dependent variables, arises. On the other hand, when stepwise method is adopted in deciding which dependent variables should be included, the problem of multi-collinearity may cause again by deleting the dependent variables which reasonably seem to contribute to independent variables. After reviewing those limitations of Multiple Regression Models, eleven articles in English language education research in Japan were reinvestigated in terms of those problems. Then, some suggestions, such as using a correlation analysis, are presented instead of regression models.
著者
前野 育三
出版者
関西学院大学
雑誌
法と政治 (ISSN:02880709)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.707-741, 1990-12-20

1. The daily life of citizens and the police 1) Public peace-its two aspects The duty of the police is to maintain the safety of the life, body and property of people. This is called "chian (public-peace)" in Japanese. The Japanese word "chian" is used in two meanings. A first is the safety of citizens' life. A second is to preserve a political order that the governing classes request. Activities of the police are concerned in both the sides, as the word "chian" has two meanings mentioned above. The police has so big an authority and equipment that democratic control is important. 2) Characteristics of the Japanese police Many people point out that the Japanese police conciders it important to stick to citizens, and esteem service activities to a citizen as characteristics of the Japanese police. Activities of police box (koban) in Japan are pointed out as significant by Walter L. Ames and David H. Bayley. But the esteem of the service activities is the only one side of the Japanese police. It has a political character in another side. 3) The police as a power organization We can not imagine a modern society without police. It is expected that the police system expands still more. The expansion of the police system easily invites the expansion of abuse of the police power. It will be adequate to distinguish the abuse of the power in the process of the legitimate police activity and the political police activity. 2. The abuse of the police power 1) Juvenile police The Juvenile law has a policy to restrain the police power to the minimum. However, juvenile police activities are spreading to the wide range of juvenile "protection", today. And they produce numerous human right infringement cases in the process of the "protection" on one hand and the investigation on the other hand. 2) Traffic police It is the traffic police division that has the closest relation with citizens. It gives rise to many cases where an ordinary nonpolitical citizen has antipathy to the police. 3) Detective police The four cases that changed from capital punishment sentence to acquittal with a review continued. They showed that a innocent person could be convicted to a capital punishment. It is obvious that courts are finally responsable for these error convictions. But the original cause is found in a process of an investigation on the part of police. Illegalities and defects of an investigation bring forth error conviction. Especially an evil of an overestimating a confession in investigation must be pointed out. It is admitted in Japan that a police detention cell is a substitute for a jail. It is a hotbed of false confessions. 4) Self-righteous attitude of the police We observed infringements of human rights by police in various aspects. The biggest problem is the self-righteous attitude of the police whose infringements are pointed out. The police protects a policeman who infringes human rights and it does not accept criticism from the outside. It is even hostile to a citizen that protests against the infringement. Such an attitude of the police is generated from the lack of respect for human right and citizen sense. The insufficiency of the inspection within the police organization encourages it. And the fact that the police is an especially powerful organization makes it possible. 3. Political police "Public safety" is easily changed to the maintenance of a political profit of a particular governing class. The political police can not be restricted to activities of one division. The political police watches out for the political activities including meeting/association of citizens. Such activities can not be justified under the Constitution that secures people sovereignty principle and a basic human right. A watchout activity of the political police is mainly directed to a labor union and a reformist party. The Japanese police as a whole has a trait peculiar to the political police. 4. Emphasis on the community relations The emphasis on the commun
著者
篠原 康男 前田 正登
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
pp.15096, (Released:2016-08-29)
参考文献数
39
被引用文献数
1

This study aimed to clarify the composition of the phases (acceleration, full sprint, and velocity endurance) in the 50-m sprint as performed by elementary school students, focusing on changes in running velocity. The subjects were 169 boys and 178 girls in the first to sixth grades of elementary school, who performed a 50-m sprint from a standing start. Running velocity was measured using a laser distance meter, which was synchronized with a video camera that recorded the entire sprint. It was found that the running time of the total sprint was significantly shorter and that maximal velocity was significantly higher for higher-grade than for lower-grade students. The distances of the acceleration phase and full sprint phase were significantly longer for higher-grade than for lower-grade students, but there was no significant difference in the duration of these phases by grade. However, both the distance and duration of the velocity endurance phase were significantly shorter for higher-grade than for lower-grade students. Step length in the acceleration, full sprint, and velocity endurance phases was longer for higher-grade than for lower-grade students. However, step frequency at each phase tended to be almost equal or slightly lower for higher-grade than for lower-grade students. The SL index for higher-grade boys tended to be higher than for lower-grade boys. However, for girls, there was little difference in the SL index at each phase for second-grade students or above. Taken together, the results indicate that the velocity endurance phase comprises the majority of the 50-m sprint when performed by lower-grade students. However, for higher-grade students, the velocity endurance phase is shorter due to the relative increases in the acceleration and sprint phases. This suggests that the distance of the acceleration and full sprint phases affects the distance and duration of the velocity endurance phase.
著者
前田 一之
出版者
京都教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

教授会の諮問的役割を明文化した平成27年4月の学校教育法改正は, 大学組織における上意下達型のガバナンスに決定的ともいえる法的正当性を付与したが, 国立大学法人化に淵源を有するこれら一連の改革は, 集権化が大学組織の経営効率を高めるという「前提」に依拠しているに過ぎず, 確たる裏付けがなされている訳ではない。「産業企業とは異なる組織特性を有する大学において, 組織構造の集権化は大学経営の質を高め得るのか」, 本研究は, かかる問題意識に基づき実施がなされたが, 研究の趣旨に照らし, 政策的誘導が相対的に生じにくい, 私立大学のみに限定した。従来, 私立大学における経営状態の規定要因を分析した先行研究では, 定員充足率や人件費比率が用いられてきたが, これら指標では, 本研究が目的とする「組織運営の効率性」を把握することはできない。そこで, 筆者は, 私立大学の財務データをもとに, DEAによる効率性分析とTobitモデルによる回帰分析を併用することで, 組織の運営効率に対する所有権構造の影響について実証的観点から検証を行うこととした。分析の結果, 組織構造は, 組織の運営効率に対して, 影響を及ぼしていないことが明らかとなった。逆に, 組織の運営効率に対して, 最も強い影響を及ぼしていたのは選抜性であり, わが国においては, 大学の威信による経路依存性が未だ根強く残っている状況が看取された。今後, 少子化が進行する中で, 大学の自助努力のみを期待する政策では, 多くの大学は自大学で統制不能な要因によって市場からの撤退を余儀なくされる可能性が高い。一方, かかる強い影響力を有する選抜性で統制してもなお, 柔軟性と革新性を志向するアドホクラシー文化が効率性に対して有意に正の影響を及ぼしていた事実は興味深く, この結果は, 米国における先行研究とも符合している。結果的に, 大学組織における中央集権的な所有権構造の有効性は否定されたといえる。