著者
多和田 真太良
出版者
学習院大学大学院
巻号頁・発行日
2017-03-31

「ハラキリ・フジヤマ・ゲイシャ」はどこから生まれたのか。武士は海外で切腹したのだろうか。富士山はどこに描かれたのだろうか。芸者はそれほど海外に進出していたのだろうか。総てを海外の劇場の舞台の上で演じ印象付けたのは、日本人自身である。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、欧米では「日本」を題材にした数多くの舞台作品が製作された。徳川幕府の鎖国が解消されると、日本の絵画や調度品がヨーロッパのあらゆるジャンルの文化を刺激し、ジャポニズムが生まれた。そもそも19世紀後半、西洋に模倣された日本人は誰だったのか。初期ジャポニズム演劇の特徴は派手な衣裳、アクロバティックな動き、日本の歌舞音曲をイメージした音楽である。幕府末期に世界中を視察して回った数々の遣欧、遣米使節団は、当時の新聞にも大きく取り上げられた。しかし彼らのいでたちは地味で、顔は浅黒い。このイメージが反映されているとは考えにくい。海外への渡航が許されるようになると多くの軽業師や手品師など、芸人一座が瞬く間に世界進出を果たした。彼らの巧妙な技芸は欧米の人々を魅了し、まだ新しい娯楽だったサーカスに強い影響を与えた。突如として街中に現れ、大衆の生活文化に浸透した「日本」や「日本人」の姿は、やがて演劇や音楽として「模倣」され、数多くのジャポニズム演劇を生み出した。直接的な利害関係のない、「どこにもない国」として描かれた日本は、次第に風刺劇のための架空の世界として利用されるようになる。1885年3月、イギリスのサヴォイ・オペラでは、喜歌劇『ミカド』が大ヒットとなる。中世の封建社会の中で描かれていたのは、1月にナイツブリッジに開場した日本人村で見かける日本人たちを彷彿とさせる衣裳で歌い踊る「日本」の人々だった。この舞台の成功は、観客が「日本らしさ」を享受できたことだと言われている。しかし外見的特徴だけを忠実に再現して、突飛な物語を展開しても観客は同調しない。作者ギルバートは、あえて「架空の国」に仕立て上げ、物語のリアリティと劇の虚構性との距離感を精密に計算していた。じつはこれまで多くのジャポニズム演劇は、その奇抜で日本人には受け入れがたい「誤解」と「反発」から存在自体を顧みられてこなかった。それは世界的に名声を博しているオペラ『蝶々夫人』も例外ではないが、これらの作品に系譜があることは知られていない。日清、日露戦争を経てジャポニズム演劇は「喜劇」から「悲劇」へと転換する。決して「どこにもない国」ではなく、着実に欧米社会に脅威となりつつあった日本は、欧米の帝国主義的な世界観の中では、支配される側でなくてはならなかったのだ。『ミカド』と『蝶々夫人』の間には『ゲイシャ』という中間的な存在があり、「日本」のイメージの変遷を語るには欠かせない。支配する男性=西洋と、支配される女性=東洋の構図はロティの『お菊さん』から『ゲイシャ』、『蝶々夫人』へと続く潮流となるが、一方でジャポニズムへのあこがれは「日本人の身体」「美意識」といった領域へと深化していく。川上音二郎の「ハラキリ」や、貞奴の「狂気」や「死」の描写は、日本人特有の身体性として模倣され、表象されていく。 また一方で、能の流入は、テキスト重視の西洋演劇が失った始原的なものを想起させ、イエイツをはじめとする能の形式の模倣が行われるようになる。演劇が「模倣する」芸術である以上、その対象は共有できるイメージを持った存在でなくてはならない。「日本らしさ」を表現するために取り入れられたものとして、視覚的要素(舞台装置・衣裳)に加えて、聴覚的要素(セリフ・音楽)に注目したい。舞台上に登場する「日本語」は単なるでたらめではなく、文脈に沿ったものや、音声としてそれ自体が「日本語」の表象になっているものもある。日本語の使用不使用によって舞台の日本に対する印象も変わるのである。母音を多用し、長音や促音をほとんど用いない単語はより日本的なイメージを醸し出す効果を生んでいることが分かる。その一方で、日本語を観客が聞いたことがない場合や、作者が日本語に習熟し思い入れが強い場合のいずれも、日本語は使用されていない。『蝶々夫人』を生み出したアメリカでも『ミカド』をはじめ、ジャポニズム演劇は人気を博した。しかし大国としても多民族国家としても成長しつつあったアメリカにとって、人種差別と演劇は切り離せない。白人が「黒人」を演じるミンストレル・ショー、白人が黄色人種を演じるイエローフェイスは、アメリカ固有の演劇と言っても過言ではない。特にイエローフェイスは、中国人移民の台頭著しい西海岸側での黄禍論を象徴するフリスコ・チャイニーズ・メロドラマというジャンルを生み出した。「陽気で知恵が足りない、幸せそうな」ミンストレル・ショーのブラックフェイスとは対照的に、「狡猾で性悪な」イエローフェイスがステレオタイプ化する中で、『ミカド』の果たした「日本」のイメージの区別化は大きかった。川上音二郎一座が経済的には苦境に立たされながらも、黄禍論的排他姿勢をそれほど受けずにブロード・ウェイで受け入れられたのは、偶然ではない。 また、初期のジャポニズム演劇として名を残すフランスの作品『麗しのサイナラ』も、ブロードウェイで少なくとも2回はリニューアルされ上演された。「サイナラ」3作を比較しながら、この作品の魅力に迫るとともに、デイヴィッド・ベラスコが小説『蝶々夫人』の劇化には、当時のブロードウェイにおけるジャポニズム小説のセンチメンタリズムや、ジャポニズム演劇のリバイバルが複数行われていたことなど、ジャポニズム演劇に注目することで、時代の空気を読み解くことが出来る。ここに満を持した形で登場した川上一座の歴史的なタイミングの良さが、その後の20世紀演劇全体に強く影響を及ぼすこととなる。20世紀の幕が開け、新たな芸術への模索が始まった時期に登場したのが川上音二郎と貞奴の一座である。彼らの表現は、西洋にとっての他者として「観られる」ことを常に意識したものであった。それはかつて開国直後に「日本」のイメージを植え付けていった軽業芸人一座や日本人村の人々と同じまなざしである。常に彼らにはテキストを身体の動きで表現しようとする原理があり、それはテキストからの脱却を図ろうともがいていた20世紀の前衛芸術家たちに強い衝撃を与えることとなった。常に躍動的な変化を続けてきたジャポニズム演劇の変遷を追うことで、表象することの原理を探ることが出来るのである
著者
多和田 真太良
雑誌
学術研究所紀要
巻号頁・発行日
no.26, pp.43-59, 2021-03-20

玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科が東京演劇大学連盟とともに実施してきた演技の共同研究会は,高等教育機関としての大学で演劇を学ぶことの社会的価値を定義するとともに,海外視察を実施することで演劇の役割と芸術的価値を再認識することを可能にした。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中,上演芸術の学びを止めないためにオンラインでの授業が試みられている。
著者
多和田 真太良
雑誌
芸術研究:玉川大学芸術学部研究紀要 (ISSN:18816517)
巻号頁・発行日
no.8, pp.29-43, 2017-03-31

「ハラキリ」という単語はどこでどのように流布していったのか。19世紀末から20世紀初頭にかけて隆盛を極めたジャポニズムの舞台芸術の中で注目されたのは、キリスト教の下では禁じられた「名誉の自死」という概念だった。しかし舞台で再現されるのは、川上音二郎一座がアメリカで実際に切腹の場面を演じてからである。それまで理解不能であるがゆえに滑稽に描かれることさえあった「ハラキリ」が、音二郎や貞奴によって実に劇的で凄惨な描写として演じられた。「ハラキリ」は自然主義演劇に飽き足りず、新しい表現を模索する20世紀演劇の理論家たちに強い影響を与えた。ベラスコは『蝶々夫人』の結末を自殺に書き換え、続く『神々の寵児』では切腹する武士を描いた。音二郎一座の演技は強烈なイメージを与えた一方で、ジャポニズム演劇に潜む多様性の芽を摘むことになったともいえる。以後の作品は「ハラキリ」のイメージを払しょくすることが困難になった。「ハラキリ」はもはや不可解な日本の風習というより、ジャポニズム演劇にエキゾチックな効果を与える一つの重要な表現として定着していった。
著者
桐野 耕太 安彦 鉄平 川添 里菜 小澤 美奈 和田 真紀 白岩加代子 堀江 淳 阿波 邦彦 窓場 勝之 村田 伸
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.65-69, 2015-07-31 (Released:2015-09-01)
参考文献数
14

本研究の目的は,登山前後における大腿四頭筋の筋疲労について,筋力および筋活動量を用いて検討することである。対象は健常成人15名であった。測定は,登山前と登山後に最大努力下(100%MVC)での等尺性膝関節伸展時の筋力および筋活動量を計測した。さらに,4種類の負荷量(10%,30%,50%,70%MVC)別の筋活動量を測定した。測定値は,ハンドヘルドダイナモメーターを用いた筋力値と,筋電図を用いた大腿直筋,内側広筋および外側広筋の筋活動量とした。その結果,登山後に大腿四頭筋,特に内側広筋と外側広筋に筋疲労が生じる可能性が示された。この要因は,単関節筋である内側広筋と外側広筋が登山において繰り返し使用されたためと考えられた。
著者
高久 英徳 大和田 真紀 宮根 和弘 斎野 仁 畠間 真一
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.367-371, 2008-05-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
16

牛ウイルス性下痢ウイルス (BVDV) に汚染された環境に豚を搬入することにより, 豚へのBVDV感染が成立することを調べるため, 感染試験を実施した. 試験1群および試験2群はBVDV野外株細胞培養上清およびPI牛から採取した尿を豚房床および飼料に散布し, そこへ豚を搬入した. 試験2群には上記に加えてBVDV液を強制的に経口接種した. また, 陽性対照群にはBVDV液を筋肉内接種, 陰性対照群にはBVDVを含まない細胞培養液を豚房床に散布した. 試験開始後3~14日目に, 陰性対照群以外では血清中からBVDVが分離され, 14日目以降にBVDV中和抗体の上昇が認められた. これらのことから, BVDVに汚染された環境は, 豚へのBVDVの感染源となることが示唆された.
著者
和田 真
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、自閉症の当事者・支援者が感じる身体像に対する違和感を定量化するために、視覚-触覚の時空間統合と身体感覚の個人差や発達過程を調べることを目標としている。本年度は、昨年度に引き続き、複数の心理物理実験、脳機能計測(fMRIによる機能結合評価)、神経内分泌計測(唾液中オキシトシン濃度)に関する研究を行い、自閉傾向に関連した認知神経科学的な特性を明らかにした。自己身体像の錯覚を評価できるラバーバンド錯覚課題では、コミュニケーションや社会スキルの困難の自覚が強いほど、錯覚で生じるラバーバンドへの身体所有感が弱く、さらに錯覚の身体所有感と唾液中オキシトシン濃度との間に正の相関を見出した (Ide & Wada, 2017)。また自閉傾向の高い参加者では、周期的な刺激が錯覚を強化した (Ide & Wada, 2016)。視触覚の相互作用を調べる触覚誘導性視覚マスキング課題では、この現象の生起に二次体性感覚野と視覚野の機能的結合が重要である可能性を発見した(Ide et al., 2016)。さらに視点切り替えにおける身体像の影響と自閉傾向の関係も調査した。自己と他者の左右を判断させる課題では、細部への注意が強いほど、他者の背面像への投影が弱く、想像力の困難感が強いほど、他者の身体部位への注意が強い可能性が示唆された(Ikeda & Wada, ECVP2016)。また、日常生活上の困難と認知特性の関連を探るためにグループインタビューを実施した。以上のように、発達障害のコミュニケーション困難の背景には、情報のまとめ上げの困難とその結果生じる身体性の問題が深く関与しているという当初の仮説を裏付け、自閉症の当事者が感じる身体像に対する違和感の背景にある認知特性を定量的に示すことができた。
著者
和田 真
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR ANIMAL PSYCHOLOGY
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
pp.69.1.2, (Released:2019-05-30)
参考文献数
44

A sense of body ownership is essential in controlling one's own body in external space, which in turn may give rise to a sense of self-awareness. Body ownership in humans is sometimes extended to certain external objects apart from our own bodies, and such plastic changes in body ownership are thought to be the basis of tool use. Specifically, in a rubber hand illusion task, visuotactile stimuli from synchronous brush strokes to both participants' and rubber hands lead to illusory body ownership of the rubber hand and a shift of perception of the tactile stimuli to the rubber hand as a result of multisensory integration. Recent studies suggest that this kind of body ownership illusion occurs not only in humans but also in animals, including monkeys and mice. In addition, other studies have shown that body ownership is linked to empathy. Studying the body ownership illusion in humans and other animals, including models of human psychiatric disorders, will elucidate neural mechanisms underlying the sense of body ownership, which will consequently contribute to addressing the philosophical issue of self-awareness.
著者
多和田 真太良
出版者
玉川大学芸術学部
雑誌
芸術研究 : 玉川大学芸術学部研究紀要 (ISSN:18816517)
巻号頁・発行日
no.8, pp.29-43, 2016

「ハラキリ」という単語はどこでどのように流布していったのか。19世紀末から20世紀初頭にかけて隆盛を極めたジャポニズムの舞台芸術の中で注目されたのは、キリスト教の下では禁じられた「名誉の自死」という概念だった。しかし舞台で再現されるのは、川上音二郎一座がアメリカで実際に切腹の場面を演じてからである。それまで理解不能であるがゆえに滑稽に描かれることさえあった「ハラキリ」が、音二郎や貞奴によって実に劇的で凄惨な描写として演じられた。「ハラキリ」は自然主義演劇に飽き足りず、新しい表現を模索する20世紀演劇の理論家たちに強い影響を与えた。ベラスコは『蝶々夫人』の結末を自殺に書き換え、続く『神々の寵児』では切腹する武士を描いた。音二郎一座の演技は強烈なイメージを与えた一方で、ジャポニズム演劇に潜む多様性の芽を摘むことになったともいえる。以後の作品は「ハラキリ」のイメージを払しょくすることが困難になった。「ハラキリ」はもはや不可解な日本の風習というより、ジャポニズム演劇にエキゾチックな効果を与える一つの重要な表現として定着していった。
著者
大和田 真玄 祐川 誉徳 伊藤 太平 佐々木 憲一 堀内 大輔 佐々木 真吾 奥村 謙
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.S4_190-S4_194, 2010

症例は37歳, 男性. 35歳時, 夜間入眠中に心室細動(VF)による心停止から蘇生されて当院に搬送された. 受診時の心電図は正常であったが, ピルジカイニド負荷にてtype 1のBrugada型心電図が検出され, Brugada症候群と診断し植込み型除細動器(ICD)植え込み術が行われた. 植え込み後1年半経過した後, 1回のICD適切作動と2回の不適切作動が確認された. 不適切作動は2回とも自転車に乗っている時で, ICDテレメトリーではT波oversensing(TOS)に起因するダブルカウントが確認された. 運動負荷試験では負荷終了後の回復期にtype 2のBrugada型心電図を来し, 同時にTOSが捉えられた. β遮断薬は投与しづらく, またICDの感度調整でもTOSを予防できず, 他社製ICDに変更し, 心室リードを追加した. その後は運動負荷でもTOSが発生しないことが確認された. Brugada症候群ではしばしばTOSによる不適切作動が問題となる. デバイスの選択やリード留置部位を決定する際には, 一層の注意が必要であると考えられた.
著者
市川 正人 大久保 史郎 倉田 原志 倉田 玲 北村 和生 渡辺 千原 和田 真一 吉村 良一 松宮 孝明 山田 希 毛利 透 木下 智史 渡辺 康行 田村 陽子 須藤 陽子 斎藤 浩 森下 弘 佐上 善和 渕野 貴生 村田 敏一 多田 一路 水野 武夫
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

最近の最高裁判決を分析した結果、法分野ごとに最高裁の役割が異なり、また、最高裁の人的構成の影響が異なることが、明らかになった。最高裁裁判官の選任のありようについて、下級裁判所裁判官人事(「司法官僚」の形成)と関連させながら検討する必要性が明らかになったため、最高裁裁判官データベースの作成を進めた。アメリカ、カナダ、ドイツ、韓国、フランス、オーストラリア、イギリスに対する実地調査を行った結果、日本の最高裁・司法制度の特質と、他方、現代国家の司法・裁判所の共通点が明らかになった。以上を踏まえ、最高裁について人的、制度的な改革案をまとめた。
著者
本郷 富士弥 川島 由次 多和田 真吉 砂川 勝徳 諸見里 秀宰
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.51-57, 1987-12-05
被引用文献数
1

沖縄在来種およびジアイアントタイプとして知られている高木型系統のギンネム3品種(K-8,K-28,K-72a)の成分上の特性を知る一端として, 一般化学組成とミモシン含量を調査し, つぎのような結果を得た。茎葉部4品種の一般化学組成は, 乾物量26.1∿28.1%(平均27.5%), 粗たん白質22.1∿23.4%(平均22.7%), 粗脂肪4.6∿6.1%(平均5.7%), 粗灰分5.9∿7.3%(平均6.6%), 粗繊維14.3∿16.0%(平均15.0%)および可溶性無窒素物43.4∿51.7%(平均50.0%)の範囲にあり, 品種間で著しい差異は認められなかった。木質部と樹皮部4品種の一般化学組成は, 木質部の90%以上, また樹皮部の70%以上は, 炭水化物系物質で占められており, いずれの品種においても木質部は粗繊維が62.2∿63.2%(平均62.8%)の範囲, 樹皮部では可溶性無窒素物含量45.4∿57.1%(平均511%)の範囲にありそれぞれ最も高い値を示していた。各成分の木質部における品種間の著しい差異はみられなかったが, 樹皮部においては粗たん白質含量でK-28が16.6%と最も高い値を示した。ミモシンは, すべての部位に存在し, 4品種のミモシン含量の平均値は約3.3%であり, 品種の違いによる目立った差異は認められなかった。また, 生長の盛んな若葉に最も多く含まれており8.6∿9.4%(平均9.1%)の含量範囲にあった。しかし, 根部や木質部の含量は極めて低い値を示しそれぞれの平均値は0.1および0.4%程度であった。
著者
多和田 眞 (2008-2009) 多和田 真 (2007) 孫 淑琴 (SUN Shuqin)
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

発展途上国の二重経済について、環境政策と貿易政策がどのように協力して経済厚生を上昇させるかという課題に取り込んできた。特に発展途上国経済の特徴を代表するモデル(Harris-Todaro、1970)に環境問題を導入し、環境保護政策や貿易政策が労働移動や経済厚生にどのような影響を与えるかを分析した。また、循環資源貿易とリサイクル活動をH-Tモデルに取り込んで、貿易自由化がこの経済にどのような影響を及ぼすかも検討してきた。二重経済モデル(Harris-Todaro)についての拡張は多く見られるが、環境問題や循環資源貿易を導入した分析はそれほど多くない。本研究では生産要素は二要素として部門間移動が自由な労働と各部門に固定的な資本を考え、小国開放経済を想定する。そして、従来の研究を発展させて、労働移動のインセンティブが賃金の格差ではなく効用の格差であると考えて分析を行った。その下で工業部門の生産活動が環境汚染を引き起こし、消費者に悪影響を与えると考えて、工業部門の汚染発生率や工業部門の固定賃金水準の変化など、工業品の輸入に対する関税の賦課が労働移動や経済厚生水準にどのような影響を与えるかを考察した。結果は汚染削減技術の推進などの環境保護政策が都市失業の増加を招くが、経済厚生を上昇させるなどの結論を導出した。また、Harris-Todaroモデルに循環資源貿易とリサイクル活動を取り入れた新たな一般均衡モデルを構築し、循環資源の貿易パターンがどのような要因によるのか、循環資源の貿易自由化がこの経済にどのような影響を与えるかを検討してきた。そして、これまでの研究をまとめて、2編の論文を作成して、そのうち1本は国際誌に、もう1本は国内レフェリー誌に掲載となっている。