著者
笠置 遊 大坊 郁夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.95-104, 2019 (Released:2019-03-26)
参考文献数
32

本研究の目的は,複数観衆問題に直面したとき,どの観衆に対しても呈示することのできる共通特性について自己呈示を行うことが,呈示者の個人内適応と対人適応に与える影響を検討することであった。参加者76名を対象に,複数観衆問題の生起と共通特性の自己呈示の有無を操作したスピーチ実験を行い,参加者の状態自尊感情の変化(個人内適応)を検討した。さらに,5名の評定者に参加者のスピーチ映像を呈示し,参加者の印象(対人適応)を評定させた。その結果,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行わなかった参加者は,実験前と比較し実験後における状態自尊感情が他の条件の参加者よりも低下し,印象評価もネガティブであった。一方,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行った参加者と統制条件の参加者の状態自尊感情の変化量及び印象評価に有意差は見られなかった。最後に,複数観衆問題の解決法として共通特性の自己呈示がいかなる有効性をもつのかについて議論した。
著者
大坊 郁夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.118-123, 2005 (Released:2007-10-19)
参考文献数
14
被引用文献数
1

対人的なコミュニケーションは,相互の理解-心的な共有-を目指して行われる,時間的に連鎖をなす一連の行動過程である.それは,個人,対人関係,社会的脈絡,文化的規範などを要因として含むものであり,時間軸とともに,社会的な拡がりのあるメカニズムを持っている.コミュニケーション行動は,個別の行為が容易に独立するものではなく,高度に統合された全体性を特徴とする.個人を結ぶ親密さについての研究や抽出されている規則性は少なくない.その中で,コミュニケーションのチャネルについての相補的関係を示すモデル,規則性(ゲイン-ロス効果,親密性平衡モデルや自己開示性についての男女比較等)を主に取り上げ,そのダイナミックなメカニズムを考えることでコミュニケーション研究のスタンスを示す.
著者
金政 祐司 大坊 郁夫
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.59-76, 2003-08-06 (Released:2017-01-13)
被引用文献数
5

This study was conducted to examine the effects of early adult attachment styles on intimate opposite-sex relationships. In particular, this study focused on the theoretical duality of attachment. Thus, for examining the validity and adjustability of attachment styles on both relational and general distinctions, the images toward romantic love and experiences in a specific relationship were distinguished in this study. Subjects were 449 undergraduates. The results revealed that (a) "secure" individuals tended to have relatively positive images toward romantic love, showed high scores on Sternberg's three components of love, and valued the importance of the relationship highly, (b) oppositely, "avoidant" individuals had relatively negative images toward romantic love, showed low scores on the three components of love, and did not regard the relationship as important, and (c) "ambivalent" individuals tended to hold an image of romantic love as one which imposes restraints from their partner. Moreover, causal models of the influence process among variables were constructed and analyzed for each attachment style, and the results showed that three attachment styles had different influence processes respectively. These indicated the self-fulfillment of attachment styles. These results are discussed in terms of the validity and continuity of attachment styles.
著者
木村 昌紀 大坊 郁夫 余語 真夫
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.13-24, 2010
被引用文献数
4

We placed observers' interpersonal communication-cognition as a social skill and investigated the mechanism behind it. From the result of Study 1, although ability in face-to-face approaches influenced the accuracy of an observer's judgment of interpersonal communication in highly expressive conversations that were easy to judge, this did not occur in low-expressive conversations that were difficult to judge, suggesting a relationship between the two. In addition, to examine clues for improvement in accuracy, we conducted a lens model analysis in Study 1. Interactants' judgments about conversations were positively correlated to speeches and negatively correlated to adapters, while those of observers were positively correlated to speeches, gestures, and smiles, resulting in asymmetry of interpersonal communication-cognition between interactants and observers. In Study 2, a series of observational experiments showed the possibility of improvement in accuracy by skill training. These results suggested the validity of the placement of observers' interpersonal communication-cognition as a social skill and helped to explain some part of its mechanism.
著者
浅野 良輔 堀毛 裕子 大坊 郁夫
出版者
Japan Society of Personality Psychology
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.129-139, 2010
被引用文献数
1

本研究の目的は,失恋に対するコーピング(未練型,拒絶型,回避型)が,失恋相手からの心理的離脱を介して,成熟性としての首尾一貫感覚(Antonovsky, 1979, 1987)を予測するという仮説を検証することであった。過去1年以内に失恋を経験した大学生114名(男性60名,女性54名)を分析対象とした。対象者は,最近経験した失恋に対するコーピング,失恋相手からの心理的離脱,人生の志向性に関する質問票(首尾一貫感覚)の各尺度に回答した。構造方程式モデリングによる分析の結果,(a) 心理的離脱は首尾一貫感覚を直接的に向上させ,(b) 心理的離脱を介して,未練型コーピングは首尾一貫感覚を低下させる一方,回避型コーピングは首尾一貫感覚を向上させ,(c) 拒絶型コーピングは首尾一貫感覚を直接的に低下させることが示された。以上の結果から,失恋および継続中の恋愛関係と,成熟性としての首尾一貫感覚との関連性が議論された。
著者
大坊 郁夫
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.241-248, 2000-09-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1

顔の魅力は, 身体的特徴にのみによって形成されるものではなく, 社会的脈絡や文化によって大きく影響される。多くの研究は, 進化によって築かれた民族的な同一性と顔の形態特徴によって顔の魅力が形成されることを示している。日本人は, 歴史的に外見的特徴自体および外見的美を表現することに抑制的であり, 包括的な平等さを重視する傾向がある。しかし, 外見美に無関心なわけではない。このような間接性を重視する文化は, 欧米, 他のアジアとも異なるものであり, 日本人の同調性, 集団主義的傾向を示唆する。外見美や化粧の効用の社会心理学的研究において, 個人の特徴や文化的影響を十分に踏まえる必要がある。さらに, 顔の形態特徴に加えてコミュニケーション性への視点も重要である。
著者
大坊 郁夫
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.241-248, 2000

顔の魅力は, 身体的特徴にのみによって形成されるものではなく, 社会的脈絡や文化によって大きく影響される。多くの研究は, 進化によって築かれた民族的な同一性と顔の形態特徴によって顔の魅力が形成されることを示している。日本人は, 歴史的に外見的特徴自体および外見的美を表現することに抑制的であり, 包括的な平等さを重視する傾向がある。しかし, 外見美に無関心なわけではない。このような間接性を重視する文化は, 欧米, 他のアジアとも異なるものであり, 日本人の同調性, 集団主義的傾向を示唆する。外見美や化粧の効用の社会心理学的研究において, 個人の特徴や文化的影響を十分に踏まえる必要がある。さらに, 顔の形態特徴に加えてコミュニケーション性への視点も重要である。
著者
大坊 郁夫
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.122-137, 2003-07-31 (Released:2017-04-29)

個人間のコミュニケーションは,同時的に展開される記号化と解読の連鎖によって成立する.その過程には多様な心理・社会的な要因が作用しており,社会心理学の立場からみて多くの重要な課題が含まれている.コミュニケーション行為は社会的規範や文化的事実を反映した心的メッセージを伝えるものである.言語的・非言語的コミュニケーション研究は身体部位に由来するチャネルとしての用法の理解から相互の関連性を理解する機能的統合へと進展してきた.また,間接的,限定的なコミュニケーションの登場によって,十分な社会性を獲得できず,責任性の希薄な関係となる可能性が高くなってきている.したがって,周到なコミュニケーション研究を通じて,高度に親密な関係を築くための努力が必要である.いくつもの非言語的チャネルで同調傾向の存在が確認されていることは,「社会性」を考える上で重要な構造的,要素的アプローチの是非を問う議論をさらに喚起するものである.対人的コミュニケーションは,元来個別の行為が加算されるのではなく,自ずと高度に統合された全体性を持つと考えられる.
著者
清水 裕士 大坊 郁夫
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.295-304, 2007-03-20 (Released:2017-02-08)
被引用文献数
3

This study had two main purposes. The first was to clarify the relationship between structure of interaction and stability of romantic relationships, and the second was to compare the effect of the total intimacy level of a couple with the individual levels of intimacy using a pairwise correlation analysis in order to determine a couple's interdependency. Questionnaires were completed by 59 couples (college students in romantic relationships). The feature of interaction structure was measured by the frequency, strength, and diversity of interactions, while the stability of a relationship was measured by satisfaction, commitment, and prospects of a continued relationship. The pairwise correlation analysis separated the correlation of the couple level from the individual level. The results indicated that the stability of relationships was affected by the degree of diversity of interaction at the couple level, and by the strength of interaction at the individual level. Finally, we discussed the function of relationship stability, showing the degree of diversity and strength of interaction.
著者
大坊 郁夫 高橋 直樹 磯 友輝子 橋本 幸子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.333, pp.17-22, 2001-09-28
被引用文献数
11

顔は個人のパーソナリティや社会的属性などの社会的、心理的なメッセージを伝える。しかも、顔形態自体ととも顔面表情によるコミュニケーションには表示-解読規則が用いられている。また、社会的な脈絡との関連が大きい社会的スキルは、対人関係を展開するために重要な役割を持つ。社会的スキルは対人的な親密さを視座に入れた対人関係や社会的適応を理解するために有効な総合的な概念である。この報告では、動的な顔面表情の表出に記号化スキル(ACT)や社会的活動性(外向性)、心理的安定性(神経症的傾向)を含むパーソナリティ特性が及ぼす効果を検討する。さらに、この表情実験を通じて、解読者の社会的スキルの役割を捉え、記号化と解読の相互関連性を対照して検討することを目的とした。高ACTは、予想通り、快不快の表現力に優れた送り手であり、次いで解読者のACTも解読力に優れることを示している。快不快評定、表出の適切さの両方で、快感情条件において、SPのACTの効果が大きい。男女を問わず、不快表情は、不安定なパーソナリティと結びつけて認知されやすいものでもあった。今後、顔形態特徴と関連させながら、顔面表情の送受信の対応関係について検討する必要がある。
著者
清水 裕士 大坊 郁夫
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.575-582, 2008-02-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
23
被引用文献数
6 4

A hierarchical data analysis was conducted using data from couples to examine how self-reports of interactions between partners in romantic relationships predict the quality of the relationships. Whereas the social exchange theory has elucidated the quality of relationships from the individual level of subjectivity, this study focused on the structure of interactions between the partners (i. e., the frequency, strength, and diversity) through a process of inter-subjectivity at the couple level. A multilevel covariance structure analysis of 194 university students involved in romantic relationships revealed that the quality of relationships was mainly related to the strength and the diversity of interactions at the couple level, rather than the strength of interactions at the individual level. These results indicate that the inter-subjective process in romantic relationships may primarily explain the quality of relationships.
著者
松山 早希 大坊 郁夫 谷口 淳一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.464, pp.73-78, 2012-02-27

われわれは、いつも同じ自分を表出しているのではなく周囲の状況や対人関係に応じて自分を変化させ異なる自分を多面的に表出している。その背景には、自己の可変性によって適応的な関係を築きたいという動機が考えられる。本研究の目的は、相互作用の相手のパーソナリティによって、表出される自己が普段とどう異なるか、また普段の自分からの変化が大きいほど、会話満足度や親密度を高めるかを検討するものである。本研究では、実験は男女大学生、同性同士2者間で12分間の会話実験を行なった。会話は親密になるように自由な内容で行われた。本研究では、外向性に着目し対象者の外向性を高群・中群・低群に分け、ペアを組み合わせた。分析の結果、変化の程度が大きいほど、相手との親密度が高まることが明らかとなった。また会話相手の外向性や表現力、自己抑制の社会的スキルが、変化の程度に影響していた。自己変容の適応的な対人コミュニケーションにおける可能性について考察する。
著者
藤本 学 大坊 郁夫
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13496174)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.347-361, 2007-03-31
被引用文献数
2 23

コミュニケーション・スキルに関する諸因子を階層構造に統合することを試みた。既存の尺度を構成する因子を分類することで,自己統制・表現力・解読力・自己主張・他者受容・関係調整の6カテゴリーが得られた。これらの6因子は理論的に基本スキルと対人スキル,また,表出系,反応系,管理系に分類された。こうしてコミュニケーション・スキルの諸因子を階層構造に統合したものがENDCOREモデルであり,各スキルに4種類の下位概念を仮定した24項目の尺度が,ENDCOREsである。
著者
大坊 郁夫
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会技術報告 (ISSN:03864227)
巻号頁・発行日
vol.17, no.73, pp.33-40, 1993-11-25
被引用文献数
2

対人コミュニケーションの過程はメディア、個人属性、対人関係、状況など多くの要因からなる。社会的行動の中心的な要因であり、多くの機能を担っている。それは、情報伝達、相互作用調整、親密さの表出、社会的統制の行使、サービス・作業目標の促進などである。これまでのように、チャネルの用いられ方だけでなくその機能を把握していく必要がある。コミュニケーションは対人的な親密さを反映する。その親密さは発言や視線の直接性を高め、しかもそれは、親密さを意味すると解読される。しかし、親密さが結合段階に達すると、さらには増大せず、減退することにも見られるように、コミュニケーションの機能は関係の段階に応じて変化するものでもある。
著者
大坊 郁夫
出版者
容装心理学研究編集委員会
雑誌
容装心理学研究 (ISSN:24363367)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.1-4, 2022 (Released:2022-05-02)

外見の表現様式としての装(粧)いは,生存につながる心身の健康を維持する適応や社会的な所属性を示す重要な意味を持っている。さらに,時代と共に細分化された社会性へのニーズや個人性の表出を求める傾向とも密接に関連している。所属する文化による軽重の差はあるが,外見は人為的に操作できるが,内面についての操作はし難い故に,外見よりも内面を重視する,信頼する意識が一般に広く流布している。しかし,外見の魅力は,それが直ちに出会い後の関係を左右するものではないが,内面を理解した上で持続する関係づくりの重要な契機となっている。装(粧)いには身体に由来する概ねの共通性と個人差による識別性,そして社会的な所属性との総合的な機能がある。化粧と服装のバリエーションは多岐に渡り,その心理的,社会的影響には際限がない。装(粧)うことは,肉体の可能性を拡大しながら,多様化している。それ故研究のニーズはさらに増すであろう。