著者
草刈 洋一郎 平野 周太 本郷 賢一 中山 博之 大津 欣也 栗原 敏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.2, pp.87-93, 2004 (Released:2004-01-23)
参考文献数
25

正常の心臓は律動的な収縮·弛緩を繰り返し,全身に絶え間なく血液を送り出している.これは,細胞内Ca2+-handlingを中心とした興奮収縮連関が規則正しく行われている結果である.一方で興奮収縮連関が破綻すると,収縮不全や拡張不全が招来されることが明らかになってきた.心筋細胞内Ca2+handlingの調節には多くのタンパク質が関わっているが,中でも筋小胞体のCa2+ポンプであるSERCA2a(心筋筋小胞体Ca2+-ATPase)が中心的な役割を果たしている.近年,分子生物学的手法を用いて,SERCA2aを心筋に選択的に過剰発現させると,心肥大や心不全になりにくいことが指摘されている.しかし,これまでの遺伝子変異動物を用いた研究では主として慢性心不全に関する研究は多いが,急激に起こる心機能の低下の原因に関する研究は少ない.そこで,今回我々は,SERCA2a選択的過剰発現心筋を用いて,急性の収縮不全や拡張不全を起こす病態時に,SERCA2aの選択的機能亢進により細胞内Ca2+-handlingと収縮調節がどのような影響を受けるのかについて調べた.急性収縮不全をきたす病態として,呼吸性(CO2)アシドーシスを用いた.アシドーシスならびにアシドーシスからの回復時における細胞内Ca2+と収縮張力を,SERCA2a過剰発現心筋と正常心筋とで比較した.アシドーシス時の収縮抑制に対しても,またアシドーシスからの回復時の収縮維持に関してもSERCA2a過剰発現心筋は正常心筋よりも収縮低下が抑制された.この結果は虚血性心疾患の初期などでおこるアシドーシスによる収縮不全に対して,SERCA2aの選択的発現増加による細胞内Ca2+-handlingの機能亢進が有用であることを示唆している.
著者
大津山 彰 岡崎 龍史 法村 俊之
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2007 (Released:2007-10-20)

p53遺伝子野生マウスでは、p53依存ならびに非依存性修復能により損傷DNAの修復が行われ、修復不能損傷はp53依存アポトーシスによって細胞ごと排除され、放射線催奇形の実験では低線量放射線(LDR)域でほぼ完全に奇形発生が抑えられる。一方p53遺伝子KOマウスではp53非依存性の修復しか働かず、LDR照射であっても奇形発生は完全に押さえられない。このp53による生体防御機構の一端は放射線での奇形発生のみならず、発がんにも関与すると考えられる。もし野生マウスで、LDR照射でがんが発生せず、KOマウスで高率に生じるとすれば、放射線発がんで常に問題となるしきい値存在の有無がこの機構によって解釈できる。p53遺伝子が野生、ヘテロ、KOマウスの背部皮膚を円盤型β線線源(15Gy/min.)で週3回反復照射をマウスの生涯に渡り行った。実験群は各マウス1 回当り照射線量2.5Gy群と5.0Gy群とした。発生した腫瘍は組織学検査ならびに、DNA抽出後p53遺伝子についてSSCPによる突然変異とLOHの解析を行った。KOマウスでは生存期間内に腫瘍の発生はなかった。ヘテロマウスでは2.5Gy群で8/21、5.0Gy群で25/45の腫瘍発生がみられ、野生マウスでは2.5Gy群で8/22、5.0Gy群で6/33の腫瘍発生がみられ発がん開始時期もヘテロマウスより約150日遅れた。ヘテロマウスの腫瘍のうち14/23例でLOHがみられたが、突然変異はなかった。野生マウスでは7/9例に突然変異がみられ、LOHは3/9例にみられた。p53遺伝子の存在状態は明らかに放射線による発がん率と発生時期に影響し、放射線で生じる変異の型がp53遺伝子の存在状態によって異なることが理由であると考えられた。
著者
大津淳一郎著
出版者
原書房
巻号頁・発行日
1969
著者
清田 恭平 吉居 華子 田野 恵三 大津山 彰 法村 俊之 渡邉 正己
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.36, 2007

p53遺伝子の機能は、ゲノム守護神として、DNA損傷時の細胞周期進行制御やアポトーシス誘導を制御し細胞ががん化する過程を抑制すると考えられているががん化への関与は明確でない。そこで、p53遺伝子欠失と細胞がん化の過程における様々ながん形質の発現動態を調べた。本研究では、p53遺伝子正常(p53<SUP>+/+</SUP>)及びノックアウト(p53<SUP>-/-</SUP>)のC57B系マウス胎児由来細胞を用いた。T75フラスコに10<SUP>6</SUP>細胞を植え込み5日毎に継代培養すると、p53遺伝子機能やX線照射の有無に関わらず、すべての細胞が自然に無限増殖能を獲得し不死化するが、p53<SUP>-/-</SUP>細胞だけが造腫瘍性を示すことが判った。このことは、p53機能が細胞の腫瘍化に密接に関連していることを示唆する。そこで、X線照射したp53<SUP>-/-</SUP>細胞におけるがん形質の発現動態を調べた。その結果、p53<SUP>+/+</SUP>細胞では、被ばくの有無にかかわらず継代初期から染色体の四倍体化が生じ、非照射細胞では40~41継代培養(P40~41)時に60%に達し安定して維持された。照射されたp53<SUP>+/+</SUP>細胞では四倍体化ののち三倍体化が起こり、その頻度は、P40~41に30%に達した。一方、p53<SUP>-/-</SUP>細胞では、照射の有無にかかわらず三倍体化が顕著で照射の有無に関わらず50~60%に達した。そこで、30継代時及び90継代時の細胞をヌードマウスに移植すると、p53<SUP>-/-</SUP>細胞は、すべて造腫瘍性を獲得したが、p53<SUP>+/+</SUP>細胞は、全く腫瘍を形成しなかった。生じた腫瘍由来細胞も移植前の細胞と同様に三倍体であることが分かった。これらの結果から、(1)染色体の三倍体化が細胞の腫瘍化に密接に関係し、p53機能は、(2)染色体の三倍体化を抑制することによって細胞の腫瘍化を抑制することが示唆された。
著者
大津 友美
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.194-204, 2005-09-30 (Released:2017-04-29)

会話参加者たちは雑談を盛り上げるためにおもしろく話をしようとする.おもしろく語るための方法にはさまざまなものがあるが,その一つに,他人のことばを引用する際の直接話法の使用がある.しかし先行研究において,その現象に関しては言及するにとどまっており,その使用実態については明らかにされていない.そこで本稿では,ナラティブに注目して,20代の女性が親しい友人同士で行う雑談を分析する.そして会話参加者がどのように登場人物のことばを提示し,ドラマ作りをしているのかについて論じる.臨場感あるドラマ作りのために,会話参加者は韻律を操作することによって登場人物を演じ分け,談話構成によって相手に伝えたいメッセージを際立たせているということが分かった.さらに会話参加者のドラマ作りへの参加形態には(1)聞き手がドラマの観客として話し手を支援する場合と,(2)会話参加者双方が協力してドラマを共作する場合があるということが分かった.
著者
伊豆田 猛 大津 源 三宅 博 戸塚 績
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-8, 1994

3品種 (ユキコマチ, コメット, ホワイトチェリッシユ) のハツカダイコン (Raphanus sativus L.) に, 播種10日後から, 0.15μl・l-1のオゾンを, 1日当たり4時間 (10: 00~14: 00), 5日間/週で, 野外に設置したオープントップチャンバー (OTC) を用いて暴露した。播種17日後に, 植物を収穫し, 葉面積と乾重量を測定した。また, 播種13日後の個体に, 0.15μl・l-1のオゾンを4時間暴露し, ガス交換速度を測定した。<BR>個体当たりの乾物生長に基づいたオゾン感受性は, ユキコマチ>コメット>ホワイトチェリシュの順に高かった。また, 純同化率および平均純光合成阻害率におけるオゾン感受性も同様な傾向が認められた。ユキコマチのオゾン吸収速度は, 他の2品種と有意な差はなかったため, オゾン吸収速度の違いによって, 純光合成速度におけるオゾン感受性の品種間差異は説明できなかった。これに対して, 単位オゾン吸収量当たりのCO<SUB>2</SUB>吸収量の阻害率は, 各品種間で異なり, ユキコマチ>コメヅト>ホワイトチェリッシュの順に高かった。<BR>以上の結果より, ハッカダイコンにおいては, 乾物生長に基づいたオゾン感受性の品種間差異に, 単位オゾン吸収量当りの純光合成阻害率が関与していると考えられた。
著者
平地 健吾 大津 幸男 竹腰 見昭 小松 玄
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ベルグマン核の不変式論を用いて領域の局所的不変量と大域的不変量を関係付けることを目標として研究を進め,次の二つの方向の成果を得た.1)グラウエルト柱状近傍領域でのベルグマン核とリーマン・ロッホの定理の関係.射影多様体上のアンプル線束Lのm冪の正則断面はmに応じて増加し,その次元はヒルベルト多項式と呼ばれるmの多項式P(m)で与えられる(これはLの大域的不変量である).この多項式をベルグマン核の漸近展開に含まれる局所不変量を用て表示した.ここでベルグマン核はLの双対束に含まれるグラウエルト柱状近傍領域の上で考える.この表示はラプラス変換を用いて具体的に与えられ,とくにベルグマン核の展開の係数とLの特性類の関係式を与える.この結果はベルグマン核と指数定理の関連を示唆している.2)ソボレフ・ベルグマン核の指数に関する解析接続.ベルグマン核の不変式論のソボレフ・ベルグマン核への一般化を行った.これにより,より多くの局所不変量を取り出すことが可能となる.まずソボレフ・ベルグマン核を大域的な双正則不変量となるように定義し,その漸近展開の局所不変量を用いた表示を与えた.さらにこの展開はソボレフ指数に関する解析接続が可能であることを示し,とくに展開の係数として現れる普遍定数がソボレフ指数に関する多項式になることを証明した.これは核関数の解析接続の具体的な計算を可能とする重要な事実である.
著者
大津 陽
出版者
The Surface Finishing Society of Japan
雑誌
表面技術 (ISSN:09151869)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.2-12, 1991-01-01 (Released:2009-10-30)
参考文献数
5
被引用文献数
2 1

1 0 0 0 言語の科学

著者
大津由紀雄 [ほか] 編
出版者
岩波書店
巻号頁・発行日
2004
著者
安田 ゆかり 大津 佳子 柴田 雅子 佐藤 真由美 平山 薫 羽持 律子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.25-29, 2006 (Released:2006-07-11)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

発病を機に看護師を退職した患者は,死の言動,家族の希望の優先や元医療者として良い患者を演じるという言動が多く,社会的苦痛が強いために自分の思いを表出できていないと考えていた。しかし患者から手渡された愛用のナースピンをきっかけに,患者の言動がスピリチュアルペインを表出していると考えるようになった。そこで,患者の言動の意味を村田の終末期患者のスピリチュアルペインの3つの構造「時間存在」「関係存在」「自律存在」を通し,考察することで,患者が抱えていたスピリチュアルペインの構造を知ることとした。患者が家族の思いにこたえる,医療者と良好な関係を保つという社会的苦痛と捉えていた言動は,孤独になる不安や恐怖の回避,つまり「関係存在」のスピリチュアルペインであり,また愛用のナースピンを手渡すという行動はこれからも看護師であり続けたいという「時間存在」のスピリチュアルペインが多く混在していることがわかった。