- 著者
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小野 浩
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.79, no.2, pp.191-212, 2013-08-25 (Released:2017-05-17)
本稿の課題は,公的な戦災復興計画の立案とその実践を軸として描かれる戦災復興=敗戦後の都市空間形成の歴史像を相対化することである。換言すれば,戦後統制に規定される私的な住空間の創出と分配という側面から,戦災復興の歴史像を提示することである。方法として,「戦争住宅難」を戦前平時の「住宅難」の枠組みで捉えるのではなく,前後の時代とは異なる1つの固有な構造を有する歴史的な存在として捉える。すなわち,商品としての住宅供給が諸統制により成立し得ない状況下において,人間の生存や労働力再生産に不可欠な住まいが,非商品化した住空間=「生き抜かれた空間」として創出,分割・分配される過程を,供給構造の破壊と所有構造の変化という視点から体系的に把握する。非商品化された住空間の創出については,都市計画の失敗の文脈で理解されてきた敗戦直後の「民間自力建設」について,統制下の資材,資金,宅地という基本要素からその成立条件を明らかにする。非商品化された住空間の分配については,縁故にもとづく全階層的な貸間提供の歴史的意義を考察する。