著者
沢田 雅洋 山下 博 岩崎 俊樹 大林 茂
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会論文集 (ISSN:13446460)
巻号頁・発行日
vol.58, no.681, pp.295-301, 2010 (Released:2010-10-27)
参考文献数
14

Research of Long-Distance Human-Powered Flight has been performed through the following four items: Aircraft design, Risk management, Pilot performance, Weather prediction. Actual flight took place on August 12, 2009. The flight distance was 20.72km. In this study, results of weather prediction using 1-way downscaling technique are validated by surface observation data and feasibility of weather prediction for Long-Distance Human-Powered Flight is discussed. The weather prediction with 1-km mesh decreases RMSE of wind speed by 0.1--0.2m/s compared with that with 5-km mesh. The weather prediction with 1-km mesh also has a potential to reproduce nonstationary wind. The RMSE gradually increase with time, which is mainly caused by initial and boundary data given from coarse mesh model. To reduce the RMSE, it is desirable to use newest analysis data as possible for initial and boundary data.
著者
山下 博司
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、インドの近代を準備するに当たってのヨーロッパ宣教師の貢献について、彼らの「文化適応(インカルチュレーション)」という行為・方法を通じて浮き彫りにしようとする試みである。考察の中心に、南インドで展開したイエズス会のマドゥライ・ミッションを据え、彼らがヒンドゥー教の支配的な環境の中でどのように宣教活動を繰り広げたのかを、現地語(タミル語)による創作活動・翻訳活動に焦点を当てて検証しようとするものである。ヨーロッパ人宣教師たちのインド近代文学の生成に果たした役割を吟味することで、具体的側面からキリスト教ミッションの近代史における役割を再考しようとしたものである。研究対象は、エンリケ・エンリケス、ロベルト・デ・ノビリ、コンスタンツォ・ジュゼッペ・ベスキに絞り、彼らの文学作品を収集し、読解して分析することで、文献に即して実証的に跡づけるという方法を採った。また、インドにおける現地調査を行った成果も、本研究の中には活かされている。特に、積極的な文学活動を展開し、南インドの印刷・出版の黎明に大きな貢献を為したデンマーク・ミッション(ルター派)の根拠地であったタミルナードゥのトランキバールでの取材、およびC・J・ベスキが長年にわたって宣教活動を行い、中世末期キリスト教文学の代表作である『テーンバーヴァニ』を著した場所・イェーラークリッチでの取材は、本研究成果報告書にも纏められ、有機的関連のもとに数編の論文の一つを構成している。これらに加え、現代アジアにおけるキリスト教、特にカトリシズムの問題をめぐって、「宗教多元社会」、「グローバリゼーション」、「異宗教間対話」の観点を踏まえて報告した<現状調査広告>の2編収録している。
著者
山下 博樹
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR GEOGRAPHICAL SCIENCES
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-19, 1993 (Released:2017-04-27)
参考文献数
27
被引用文献数
2

近年,多くの研究者によって指摘されている大都市圏の構造変化に関して,東京大都市圏周辺部への都市諸機能の集積,さらにそれらが顕著にみられる周辺中核都市の成長に着目し,1975年〜1985年の変化について考察をおこなった。個々の周辺中核都市の特性を解明するに際して,通勤・通学流動,物品販売機能の集積状況,および業務管理機能の集積状況を明らかにした。その結果は次の通りである。(1)東京への通勤・通学人口率をみると,周辺部への高等教育機関移転の結果,とりわけ通学人口率の相対的低下が進んだ。(2)通勤・通学人口率から周辺中核都市は,その人口吸引の特性によって4つの類型に分類できる。また人口吸引力に優れた機能の集積が,大都市圏周辺部において周辺中核都市を成長させている。さらにかかる都市の成長にともない人口流動現象が複雑化してきた。(3)小売商業力指数から判断して,都心部での水準維持に対して,周辺部では全体的に平準化が進み,地域格差が縮小した。また東京への通勤・通学率がおおむね30%以下と高い周辺部内帯では,東京の近郊都市としての性格を強めた結果,上記の指数の低下傾向が認められた。(4)上場企業の支所オフィスは,東京区部へ一極集中すると同時に県域統括レベル支所オフィスの周辺中核都市への著しい集積がみられた。さらに下位の都市でもその立地増加が確認された業種もある。かかる状況から,大都市圏における周辺中核都市のもつ機能は重要性を増大しつつあると言える。したがって,そうした動向は大都市圏における構造変化の一断面であると規定できる。
著者
山下 博司 古坂 紘一
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. I, 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.163-173, 1989-12

Murukan-Subrahmanya,God parexcellence of the Tamils,has been plausibly believed to be a son of Siva and Uma-Parvati and also to be the younger brother of elephant-headed Ganesa-Ganapati.There is another belief,on the other hand,that Murukan is the son of Korravai,the ancient Dravidian goddess of war and victory.How can such a twofold parentage of Lord Murukan be historically explained?When did such conventional relationship centered around this adolescent god come to be known?And,does his relationship with other deities represent any essential nature of God Murukan?In this paper,to find a clue to these questions,we will closely examine the so-called Cankam classics,the literary corpus written in ancient Tamil,so that we may catch a glimpse of extra-Sanskritic or,more particularly,Dravidian notions of the sacred which presumably gave profound influences on the formation and the development of the religious ideas and institutions of the Southern Hindu cultures.今日南インド・タミル地方(ナードウ)の民衆の間で絶大な人気と信仰を集める童子神ムルガン(スブラマニヤ)には,その出生に関して一定の神話的説明が施され,一般にも広く信じられている。この神の誕生にまつわる纏まった記述は,タミル語の古典として知られるサンガム文献の後期の諸作品中に初めて現れるが,そこに見出される説話のプロットは,北方インドの軍神スカンダ(クマーラ,カールッティケーヤ)の出生譚の言わば一つのヴァリエーションとも呼ぶべきものであって,ムルガンの誕生説話が,南インド・ドラヴィダ世界に固有の文化的・宗教的伝統に根差したものというより,寧ろサンスクリット系のエピックやプラーナの甚大な影響のもとに形成されたものであることを強く示唆している。同様のことは,ムルガン神の家族関係をめぐる神話的説明に関しても確認することができる。例えば,ムルガンとガネーシャ(ガナパティ)は兄弟をなし,共にシヴァ神の息子と信じられているが,シヴァの息子としてのガネーシャの初出は遅く,サンガム文献中では全く言及を受けない。ムルガンとシヴァ=パールヴァティー,或いはコットラヴァイ女神との親子関係についても,後期に成立した一部の作品を除いて,サンガム文献にはそれを支持する積極的な証拠が欠如している。これらの事実は,ムルガン神の出生と家族関係をめぐる神話や一般の信仰が,概して,タミル地方が北方インドからの絶え間ない文化的影響を吸収・同化する過程で,数世紀にわたって徐々に成立・定着を見たものであることを暗示している。
著者
山下博由 芳賀拓真 Jørgen Lützen
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.123-133, 2011

シャコ類の巣穴に共生することで知られているDivariscintilla属(ヨーヨーシジミ属,和名新称)の新種が,大分県から発見された。これは同属の日本及び北太平洋からの初めての記録である。Divariscintilla toyohiwakensis n. sp.ニッポンヨーヨーシジミ(新種,新称)殻長約4 mm,殻高約3 mm,膨らみは弱く,丸い亜三角形で,殻頂は僅かに前方に寄り,腹縁中央はごく僅かに窪む。白色半透明,薄質で,殻表は平滑で光沢があり,殻の内側には縁部で強まる多くの放射条がある。両殻に1主歯があり,側歯を欠く。外套膜は殻を覆い,前部に2対,後部に1対と1本の外套触角がある。口の直下の内蔵塊前部に1個のflower-like organ(花状器官:和用語新称)を備える。足は前部・後部に分かれ,後部は顕著に伸張し,その後端背面にbyssal adhesive gland(足糸粘着腺:和用語新称)があるが,組織切片では腺構造は確認できなかった。足の底面にはbyssal groove(足糸溝)が前部から後端まで走っている。フロリダ産のDivariscintilla octotentaculata Mikkelsen & Bieler, 1992に,殻や軟体外形が近似するが,D. octotentaculataは触角が1対多く,花状器官を欠く。ニッポンヨーヨーシジミは,Acanthosquilla acanthocarpus (Claus, 1871) シマトラフヒメシャコの巣穴中に小集団を形成して生息し,その壁面に足糸で付着している。タイプ産地:大分県中津市大新田付記:ヨーヨーシジミ属は,ニュージーランド・西オーストラリアに1種,フロリダ・カリブ海に5種,日本に1種が分布するが,いずれもトラフシャコ上科の種の巣穴に生息し,同上科との生態・進化上の密接な関係が示唆される。種小名toyohiwakensisは,タイプ産地の大分県中津市を含む豊前・豊後地方の古名「豊日別」に由来する。属・種の和名は,玩具のヨーヨーのように足糸でぶら下がり上下する生態に着目して命名されたDivariscintilla yoyo Mikkelsen & Bieler, 1989と,そこから派生した英名yoyo clamに由来する。D. yoyoには,ヨーヨーシジミの和名を与える。
著者
山下 博司
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.17, pp.372-342, 1998-02-27

私の論文(『日本研究』第十三集所収)に対する大野晋氏の反論は、氏の単純な誤解に端を発する問題点を多く含むのみならず、読者が容易にミスリードされ兼ねない書き方が敢えて為されている。
著者
山下 博之
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1192-1203, 2008-10-15

科学研究費補助金や科学技術振興調整費等の競争的研究資金におけるプログラムオフィサー制度とは,研究経歴のある多人数のプログラムオフィサー(PO;各競争的研究資金の個々のプログラムや研究課題の選定,評価,フォローアップ等の実務を行う研究経歴のある責任者)やプログラムディレクター(PD;競争的研究資金とその運用について統括する研究経歴のある高い地位の責任者)を擁し,プログラムの計画から最後の評価の段階まで一貫してマネジメントする体制をいう.日本におけるPO制度は,競争的研究資金制度改革の一環として,総合科学技術会議の決定した方針に基づき,平成15(2003)年より本格的に導入された.POには,研究課題の選定や実施評価時における評価者の選任,進捗状況の把握と助言,プログラム全体の運営見直しの提案等が基本的役割として期待されている.本解説では,内外におけるPO制度の状況を概観した後,筆者の科学技術振興調整費POとしての4年7か月間の経験に基づき,その実務の内容を詳細に述べる.制度の本格導入から5年が経過した現在,日本におけるPO制度の認知度は未だ高くない,制度が充分に機能しているとは言えない等といった調査結果も報告されている.今後,競争的研究資金における優れた成果の創出・活用に向けた評価システム等の確立に向け,制度の検証と関係者による議論がより一層望まれている.
著者
山下 博之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1192-1203, 2008-10-15

科学研究費補助金や科学技術振興調整費等の競争的研究資金におけるプログラムオフィサー制度とは,研究経歴のある多人数のプログラムオフィサー(PO;各競争的研究資金の個々のプログラムや研究課題の選定,評価,フォローアップ等の実務を行う研究経歴のある責任者)やプログラムディレクター(PD;競争的研究資金とその運用について統括する研究経歴のある高い地位の責任者)を擁し,プログラムの計画から最後の評価の段階まで一貫してマネジメントする体制をいう.日本におけるPO制度は,競争的研究資金制度改革の一環として,総合科学技術会議の決定した方針に基づき,平成15(2003)年より本格的に導入された.POには,研究課題の選定や実施評価時における評価者の選任,進捗状況の把握と助言,プログラム全体の運営見直しの提案等が基本的役割として期待されている.本解説では,内外におけるPO制度の状況を概観した後,筆者の科学技術振興調整費POとしての4年7か月間の経験に基づき,その実務の内容を詳細に述べる.制度の本格導入から5年が経過した現在,日本におけるPO制度の認知度は未だ高くない,制度が充分に機能しているとは言えない等といった調査結果も報告されている.今後,競争的研究資金における優れた成果の創出・活用に向けた評価システム等の確立に向け,制度の検証と関係者による議論がより一層望まれている.
著者
山下 博樹 藤井 正 伊藤 悟 香川 貴志
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成16〜17年度の2年間における本研究課題では、リバブル・シティとしての評価が高いカナダ・バンクーバーとオーストラリア・メルボルンにおける公共交通網を基軸とした都市圈整備に関する現地調査を実施し、わが国における都市圈整備の方向性を検討することを目的とした。その研究成果の概要は、次の通りである。1.バンクーバー都市圈では、1970年代からの取り組みをベースにしたGVRDによる"Livable RegionStrategic Plan"を基に、公共交通網の再整備と結びついたコンパタトで高密度な街づくりが郊外タウンセンターで実践され、利便性の高い日常生活拠点として整備されている。2.メルボルン都市圈では、1990年代から取り組んできた市街地拡教化防止のための土地利用規制に加えて、2002年に第定されだMelbourne 2030"による持続可能な都市圈整備の取り組みがスタートし、郊外のディストリクト・センターを中心に公共交通でもアクセズ可能で、多様な機能集積による利便性の高い中心地形成が進められている。3.これらの両都市圈での詳細な土地利用調査や公共交通網整備の状況などから、21世紀の持続可能な都市整備方針としてのリバブル・シティの特性の一端を明らかにすることができた。4.わが国でのリバブル・シティ形成の可能性は、東京、大阪など公共交通網の発達した大都市部では高い実現性を有するが、反面、過密な人口密度などによる弊害をどのように緩和するか等の新たな課題が生じる。地方都市部では、低い人口密度とモータリゼーションにより、持続可能な市街地整備の必要性が一層高まっているが、その状況はむしろ悪化しつつある。高齢化の進展などに対応したバリアフリー化などの視点からの再整備が有効であると考えられる。
著者
山下 博樹
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100004, 2013 (Released:2014-03-14)

1.はじめに   大都市圏での都心回帰の進展、都市計画法改正による郊外の大規模集客施設の原則開発禁止など、コンパクトなまちづくりに向けた動きが進むなか、地方都市の中心市街地の活性化は依然遅れていると言わざるを得ない。中心市街地が抱える多くの課題の根本原因は、モータリゼーションを背景とした交通結節性の低下と、居住人口の郊外化による人口減少・高齢化の進展の影響が大きいと考えられる。そのうち、後者に対応する「まちなか居住」の推進に取り組む、あるいは検討する自治体が増えている。本報告では地方都市における「まちなか居住」に関連する課題を整理し、各自治体が取り組む支援策の特徴と問題点を明らかにしたい。 2.大都市での都心居住と地方都市のまちなか居住  東京など一部の大都市では、バブル崩壊後の地価下落、企業・行政の遊休地放出、不良債権処理にともなう土地処分などによりマンション開発の適地が増加した。さらに、都市計画法で高層住居誘導地区が導入され、それによる容積率等の規制緩和によって増加した超高層マンションを都心においても手ごろな価格帯で取得可能になったこと、都心居住の利点が見直されてきたことなどによって、都心部で居住人口が増加に転じてきた。   他方、地方都市では中心市街地の人口空洞化への対策として、まちなか居住の推進が課題になっている。地方都市においても中心市街地でのマンション開発は2000年代に比較的多くみられたが、依然として強い戸建て志向と郊外での安価な住宅供給により、相対的に地価の高い中心市街地ではこうしたマンション開発地区以外は人口の減少・流出が続いていることが多い。   大都市の都心部、地方都市の中心市街地のいずれにおいても、それぞれの郊外に比べて日常生活の利便性は相対的に低く、とりわけ買い物難民に代表されるモータリゼーションに対応できない高齢者世帯は負担が大きく、公共交通の利便性が低い地方都市ではより深刻な状況にある。また、首都圏の一部の地域では、大手流通企業の新業態として、小商圏に対応したミニスーパーが立地展開されるなど、都心部の買い物環境は改善されつつある。 3.地方都市のまちなか居住の課題  地方都市の中心市街地は、大都市の都心部とは異なり、中山間地並みに高齢化が進展している。そのため、人口再生産の機能が極めて低く、周辺からの流入人口の増加に期待せざるを得ない。たとえば、鳥取県では年間約3,000人の人口が減少しているが、そのうち自然増減によるマイナスはおよそ1割で、それ以外は若年層を中心とした社会減である。つまり、進学や就職などを機会に県外に流出する人口が多く、県内のこうした機能が脆弱であることを示している。県庁所在地レベルの都市であれば中心市街地には一定のオフィス立地がみられるが、それ以下の都市では中心市街地の就業先としては商業施設や医療機関などが中心となり、多くの就業が期待できる製造業の多くは郊外立地であるために、多くの地方都市では郊外での居住の方がむしろ職住近接となる場合が少なくない。近年では、郊外でも工場の閉鎖などが相次ぎ、地方都市の雇用環境は極めて厳しい。  地方都市の中心市街地における商店街の衰退は言うまでもなく、公共交通の脆弱さも深刻化している。そのため、中心市街地に居住するメリットは、比較的整備されている医療機関や図書館など公共施設への近接性、古くからの街並みなど郊外にはない文化的な雰囲気など限定的で、相対的にリバビリティは低い。4.まちなか居住推進支援策の特徴と課題  地方都市の自治体は、中心市街地の居住人口減少の影響として、空き家・空き地、駐車場などの低未利用地の増加とそれによる税収の減少、コミュニティ活動の停滞、防犯上の課題などへの対応が新たに必要となっている。こうした課題解決のために、まちなか居住推進のための支援策が多くの自治体で導入されつつある。大別すると、①賃貸・売買など空き家等の情報提供、②持家取得のための支援、③賃貸住宅入居のための家賃補助、④中古住宅の流通促進等のためのリフォーム補助などである。こうした支援策を講じている複数自治体へのアンケート調査の結果、人口規模の大きい金沢市などでは多彩な支援メニューを用意して対応しているのに対し、人口規模の小さい自治体では主にリフォームへの補助が多く利用されていた。これは流入人口による住宅取得ニーズが影響していると思われる。また、多くの自治体の取り組みは国の財源(社会資本整備総合交付金)に依存したもので、そうした都市では事業の継続性が低いことなどが明らかとなった。   本研究は、平成24年度鳥取市委託研究調査「他都市まちなか居住施策実績調査」の成果の一部である。
著者
山下 博樹
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨 2008年 人文地理学会大会
巻号頁・発行日
pp.507, 2008 (Released:2008-12-25)

1.はじめに アラブ首長国連邦のドバイは,近年の急速かつ特徴的な都市開発と人口増加,とりわけ世界の富裕層らを対象としたリゾート開発によって日本でもしばしば取り上げられ,注目を集めている。一見,奇抜とも思える数々の都市開発プロジェクトは,他都市の追従を許さないドバイのユニークな魅力となっている。 他方,こうした都市開発はいわゆるバブル経済の賜物であり,長続きはしないのではないかという指摘は現地でも耳にすることが出来る。また,急速な都市開発と人口増加によってさまざまな問題も出現し始めている。 本報告では,かかるドバイの都市開発の特徴とその方向性などから都市としての持続可能性,住み良さなどについて検討してみたい。 2.ドバイの都市開発 今日のドバイの経済発展の基盤となっているのがいくつもの経済特区である。中東最大規模の港湾に隣接し,1985年にオープンしたジャバル・アリー・フリーゾーンには国内外約6,000の企業が進出しているほか,航空関係企業,IT関係企業,報道期間,中古車業者などをそれぞれ専門にした特徴的な経済特区も設置されている。こうした経済特区の特徴は,_丸1_外資100%の会社設立が可能,_丸2_現地スポンサーが不要,_丸3_資本・利益の100%本国送金が可能,_丸5_外国人労働者雇用の制限がない,などである。 また,交通拠点として西郊のジュメイラ地区には経済特区の拠点となるジャバル・アリー港のほか,首長国第2の空港の建設も予定されている。ドバイの代表的な大規模プロジェクトなどは表1に示したように,観光や商業施設のほか,住居としても利用されるものが多い。住居の多くは富裕層の別荘や投資目的で購入されているものも多く,現在の都市開発がバブル経済によるものだとの指摘の原因にもなっている。 3.ドバイ都市開発の持続可能性 急速に発展したドバイには現在その歪みとも言うべき様々な都市問題が発現している。そうした諸問題に対する首長国の取り組みは次のようになっている。 乾燥地に位置するドバイが,100万人を超える人口を維持する上での最大の課題は水や食糧の供給であるが,水は海水の淡水化や安価なミネラルウォーターによって,また食糧は農業が活発な隣国オマーンなどからの輸入によって賄われている。 また,急速な人口増加に対するインフラの整備は万全とは言えない。とりわけ現在市内の公共交通はバスとタクシーのほか,アブラと呼ばれるクリークを往来する渡し船であり,自家用車依存により市内は交通渋滞が顕著である。その解決策として橋の増設や有料ゲートの設置,さらに2005年からは中心市街地と西郊,空港を結ぶドバイ・メトロの建設が進められている。 都市としての住み良さ向上のポイントとして首長国政府が重視している点のひとつにイスラム教の信仰の保証がある。とりわけ夏季の酷暑のなかモスクへの移動負担を軽減するために,現在市街地では500m毎にモスクの建設が進められている。 以上のように,近年世界的に注目を集めているドバイであるが,その都市開発の特徴は他の欧米日の諸都市には比較可能な都市が見当たらない独特のものであり,またリバブル・シティとしても住み良さに対する独自の価値基準がもたれているなど,都市地理学の研究対象としても当面は目の離せない都市であろう。 本研究を行うにあたり2008年度科学研究費補助金基盤研究(C)「我が国におけるリバブル・シティ形成のための市街地再整備に関する地理学的研究」(研究代表者 山下博樹)の一部を使用した。
著者
平井 景梧 山下 博子 友重 秀介 三島 祐悟 大金 賢司 佐藤 伸一 橋本 祐一 石川 稔
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

アルツハイマー病やハンチントン病などの神経変性疾患は、従来の創薬手法では対応できない凝集性タンパク質が原因であり、根治療法の開発には新たな創薬アプローチが求められる。我々はこれまで、タンパク質分解誘導薬Proteolysis Targeting Chimera(PROTAC)が凝集性タンパク質の分解を誘導でき、神経変性疾患の創薬アプローチになりうることを示してきた。しかし、PROTACは連結化合物であるため分子量や極性が高く、神経変性疾患の病巣である脳へと到達しづらいと予想される。これを解決するうえで、別のタンパク質分解誘導薬である疎水性タグ(HyT)に着目した。HyTはPROTACのE3リガンドを分子量の小さい疎水性構造に置き換えた構造を持ち、標的タンパク質の表面に疎水性構造を提示する。これがタンパク質の変性状態を模倣し、タンパク質品質管理機構による認識とユビキチン―プロテアソーム系を介した分解へと導く。これを踏まえ、我々の凝集性タンパク質に対するPROTAC 1をHyTへと変換すれば分子量と極性を低下させ、中枢移行性を向上できると考えた。PROTAC 1を基に設計・合成したHyTはいずれも、ハンチントン病の原因となる凝集性タンパク質変異huntingtinの存在量を減少させた。また、脳移行性の予測に用いられる固定化人工膜カラムにより各化合物の脳移行性を推定したところ、いずれのHyTも1よりも脳移行性が良いと示唆された。この結果を参考に、一部のHyTについてマウスを用いた脳移行性試験を行ったところ、HyT 2が脳移行性を示すことを見出した。本発表ではその他の結果も併せて報告し、PROTACからHyTへの変換による活性や薬物動態への影響についても議論する。
著者
山下 博武 柳沢 和雄
出版者
日本体育・スポーツ経営学会
雑誌
体育・スポーツ経営学研究 (ISSN:24323462)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.25-39, 2017-10-31 (Released:2019-09-07)
参考文献数
32

The purpose of this study is to clarify how are the business operations of employees managed in professional sports organizations. Considering this purpose, interviews were conducted with four employees in business operations. The contents of this study are summarized as follows:  (1)The actual condition of “human resource management”(HRM), such as “personnel recruitment,” “job assignment and transfer,” “ability development,” “work time management,” “personnel evaluation,” and “salary administration” for the business operations of employees of certain professional sports organizations were confirmed.  (2)It was revealed that an employee in business operations was forced to quit his job due to the HRM of the professional sports organization, and that the employees in business operations are frequently transferred between professional sports organizations.  (3)From the above study finding, it was considered that the problem of capacity development of employees in business operations is HRM, that it cannot retain the employees in business operations of the professional sports organization.  (4)It is suggested that the professional sports organization executes these HRM as is experiencing instability in management due to the professional sports organization competing in the professional sports league.  (5)On the other hand, this research found two J League clubs that have successfully retained its employees in business operations. Therefore, as a future research, the following case study was presented, based on the research question: “How and why does the professional sports organization undertake HRM to encourage the retention of the employees in business operations.”
著者
山下 博司
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.529-552, 2010-09-30

インドの急速な経済発展に伴いインド人の国外進出もきわめて活発である。興味深いのは、外国に頭脳流出するような先端的なインド人科学者・技術者であっても、その多くが、自らの宗教(特にヒンドゥー教)への敬意と信仰を失わないことである。ヒンドゥー教の儀礼や司祭を外国に招致することも多くなっている。縁組みに当たってのホロスコープへの信頼も依然として高い。インテリの間では現代科学の知見とインド哲学・ヒンドゥー思想の精髄は矛盾しないとの確信も強い。本稿では、こうしたヒンドゥー教徒としての確固たる自信・自負を抱かせる契機の一つとなったに相違ないインド近代における伝統思想の再編の問題を、重要な役割を果たし後世への影響力も大きいスワーミー・ヴィヴェーカーナンダの思想と運動を中心に考察する。
著者
山下 博司
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.372-342, 1998-02-27

私の論文(『日本研究』第十三集所収)に対する大野晋氏の反論は、氏の単純な誤解に端を発する問題点を多く含むのみならず、読者が容易にミスリードされ兼ねない書き方が敢えて為されている。
著者
鈴木 道男 山下 博司 藤田 恭子 佐藤 雪野
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ディアスポラ存続の条件として、構成員によるアイデンティティーの共有がある。しかし、他文化の中に暮らす人々にとって、アイデンティティーの再確認がなくては、「故国」、「民族」は意識から遠のく。それが同化のプロセスの一面であるが、マイノリティにとってその結束の拠所である「故国」、「民族」、「歴史」は彼らが不動のものとして捉えている規範通りのものではない。むしろ、これらのビジョンは常に変容し、それをもとに自らの立場を絶えず確認することで、彼らは継続的に結束を保っている。すなわち、永続的なデイアスポラとして存在するマイノリティには、その個々人の意識の有無は別として、結束の紐帯を再確認させ、たえず強化するする機構が必ず存在する。かかる共通認識の下、ディアスポラの維持・確認、あるいは創出の装置としての文学の諸相をとらえた。山下は、本来ディアスポラたちが形成した国家と目されているシンガポールにおいて、他国に住まうシンガポール人に対して、あらためてシンガポール系ディアスポラというまとまりを付与しようとする政府の政策と文学の位置づけを論じた。佐藤はドイツ語で書くチェコ人女流作家レンカ・レイネロヴァーに焦点を当て、主観性を伴う自伝や語りも、一つの時代を知る重要な資・史料であるとする立場から、ドイツ系チェコ人ディアスポラの激動の20世紀をたどろうとした。藤田は多文化の平和的共生が機能し、ドイツ語をあやつるユダヤ人の桃源郷とされてきたブコヴィナの像を、ユダヤ系女流詩人アウスレンダーの作品から抉り出し、ユダヤ人のアイデンティティ形成におけるその政治的意味を考察した。鈴木は、民族主義の高まりの中で、はじめて自らをマイノリティあるいはドイツ系ディスポラとして意識したトランシルヴァニアのドイツ系住民において、その結束の紐帯とて企図された詩集と、その国家社会主義的意図の意味について考察した。
著者
山下 博樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

1.はじめに<br> 持続可能な市街地への再生に取り組む都市が増えるなか、常にそのトップランナーとして住みよい都市のあり方を模索し続ける都市としてバンクーバーを挙げられる。バンクーバー都市圏政府(Metro Vancouver, 旧GVRD)による長年の取り組みは、1996年に策定された『Livable Region Strategic Plan』(以下、LRSP)をはじめとする一連の広域戦略計画による。これまでバンクーバーでは、最大の中心地となるダウンタウンのほかに、規模の異なる2タイプの郊外核を計画的に配置し、公共交通網の拡充と一体的に整備してきた。1990年代以後の人口増加などのために、2000年代後半より都市圏の成長管理の反作用が深刻化している(山下 2010)。こうした課題を改善すべく2011年7月に策定された新しい計画『Metro Vancouver 2040』(以下、MV 2040)では、広範になった都市圏を大きく東西に2分割し、ダウンタウンと並ぶ新都心の整備を図ろうとしている。本報告では、MV 2040の概要と2009年冬季オリンピック後の郊外を中心とした地域で急速に進んでいる公共交通指向型開発の特徴について紹介したい。<br><br>&nbsp;2.「メトロ・バンクーバー2040」の都市圏再編プラン<br> MV 2040での主な変更点・特徴は、次の通りである。<br>①上述したように都市圏を大きく東西に2分割し、旧来のダウンタウンを西の都心に、これまで南東郊サレー市の中心として計画に位置づけられながら、十分に機能集積がされていなかったサレー・センター(MV 2040ではサレー・メトロセンター)をフレーザー川以東の新都心に位置づけている。<br>②この間の郊外化の進展に対応して下位の郊外核となるコミュニティ型タウンセンターが従前の12ヵ所から17ヵ所に増加した。<br>③これまで対象外であった空港、大学、病院などの公共的施設も、公共交通網に結節されるべき主要施設として位置づけられた。<br>④郊外化が顕著であった南郊には、オリンピック開催にむけてリッチモンド・シティセンター及び国際空港とダウンタウンを結ぶスカイトレイン・カナダ線が新設された。同様に東郊には財政的課題により着工が遅れていたエバーグリーン線が2016年夏の完成を目指して、2012年1月に着工した。<br> 以上のような新たな取り組みにより、LRSP期間の末期に顕在化した成長管理対象地域の内外での公共交通や中心地整備上の地域格差が緩和され、人口増加の中心であったこれらの地域でのリバビリティ向上に大きく貢献することが予測される。<br><br>&nbsp;3.ポスト・オリンピックの公共交通指向型開発 <br> 2009年の冬季オリンピック開催にむけた前述のカナダ線建設とダウンタウンでの新駅建設などが2000年代後半のバンクーバー都市圏の主要プロジェクトであった。その間、凍結されていた市街地再整備がオリンピック終了に伴って近年再開された。それらの事業の共通点は、都市圏の幹線交通網であるスカイトレインの駅やその周辺で公共施設などの建設が行われていることである。現在進行中の主な事業として次のものが挙げられる。<br>①MV 2040で東郊の新都心として位置づけられたサレー・メトロセンターには、これまで駅前に商業施設と大学のサテライトキャンパスによる大型複合施設が立地していたが、LRSPで同じ位置づけにあった他の広域型タウンセンターと比較してもその機能集積は脆弱であった。しかし、この複合施設に隣接して2011年9月に市立図書館が完成し、現在市役所も建設中であり、当該地区への機能集積が急速に進められている。<br>②ダウンタウンの都市圏の地理的中心から大きくずれる問題点を補うために、1980年代に計画的に整備されたメトロタウンは都市圏最大の商業集積を形成してきたが、郊外化が東郊で顕著であることなどからMV 2040ではサレー・メトロセンターに新都心の座を譲ることになった。メトロタウンでは現在、駅前の大規模ショッピングセンターに隣接して立地していた2棟の超高層オフィスビルの隣りに3棟目のオフィスビルが建設中で、これまで弱点であったオフィス集積の強化が進められることになった。<br>③都市圏で最も早く市街地が形成されたニュー・ウェストミンスター市のダウンタウンは、スカイトレイン駅に隣接しているものの沿道の建物老朽化などにより商店街は寂れていた。老朽化した映画館などの再開発が計画されるとともに、スカイトレイン駅ではスーパーや各種店舗からなる駅ビルの建設が進められている。&nbsp;<br>