著者
山本 政儀
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.192-204, 2003 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22

Over the last four decades, the Irish Sea has received controlled discharges of radioactive effluents from the Sellafield (Windscale) nuclear fuel reprocessing plant in Cumbria, UK. Enhanced levels of a range of fission, activation and transuranic elements have been detected in a variety of environmental media. Most of Pu and 241Am and about 10% of 137Cs discharged have been retained in a deposit of the fine sediment near the discharge point. The quantities of radionuclides discharged annually from Sellafield decreased by two orders of magnitude from the mid-1970s to 1980, but estimated internal and external exposure for critical group decreased by only less than one order of magnitude over this period. Redistribution of the highly contaminated marine sediment is potentially of major significance.In this paper, a review is presented of published work and our studies relating to the artificial long-lived radionuclides, 99Tc, 137Cs, 237Np, Pu isotopes and 241Am, in sediments around the Irish Sea coast. The dominant mechanism (solution and/or particle transport) of supply of these radionuclides to coastal sediment is mainly discussed.
著者
前田 有美恵 石川 雅章 山本 政利 寺田 志保子 増井 俊夫 渡辺 佳一郎
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.447-450, 1985-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
16
被引用文献数
5 4

イワシについて焼く, 煮るめ調理を行なった場合のイワシ中の不飽和脂肪酵の安定性を明らかにするために, 脂肪酸組成およびEPA, DHA含有量の変化を検討した。またイワシ中の脂肪酸とEPA食品のそれとを比較し, 次の知見を得た。1) イワシ中のEPA, DHAをはじめとする不飽和脂肪酸は, 焼く, 煮るの加熱調理を行なっても安定で脂肪酸組成は変化しなかった。2) 生魚に比べ焼魚はEPAが17%, DHAが15%減少したが, これは脂質の減少 (20%) にほぼ比例していた。また煮魚ではEPAおよびDHAはほとんど減少しなかった。すなわち, 焼魚, 煮魚ともに調理によるEPAおよびDHAの極だった損失はないことが明らかになった。3) イワシ (11月) は可食部1g当たりEPAを24.9mg, DHAを31.7mg含有していた。同量のEPAおよびDHAを摂取するのにEPA食品ではイワシの12~36倍も高価であった。こうしたことより安全性, 経済性および栄養の面を考慮すると, EPAおよびDHAの摂取にはEPA食品よりもイワシを活用するほうが望ましい。
著者
櫻井 かのこ 山本 政幸
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_31-2_40, 2022-09-30 (Released:2022-10-01)
参考文献数
3

シピ・ピネルズ(Cipe Pineles, 1908-1991)は,第⼆次世界⼤戦後のアメリカの出版業界で活躍し,20世紀における経済成⻑と社会変動の時代に重要な役割を果たした。その貢献のひとつは,当時新たに存在感を増した⼤衆雑誌,とりわけ若い⼥性をターゲットにしたファッション誌の編集に携わったことである。⼥性初のアートディレクターとして数々の編集に関わり,10代の⼥性や働く⼥性というこれまで社会的にも経済的にも⽬を向けられていなかった⼈々に注⽬し,誌⾯構成を駆使して広い読者層を取り込むことにより,新しい視覚⽂化を⽣み出した。グラフィックデザイン界で数々の功績を収め,⼥性の社会進出に向けた先駆的な役割を果たす⼀⽅で,仕事のストレスや⼥性としての幸せに思い悩んだ末に⾃殺未遂を図るなど,公私のコントラストが際⽴つピネルズの⼈⽣は,⼀⼈のデザイナーの成功事例を⽰すだけでなく,性差別や社会問題に取り組む現代社会において⽰唆に富む内容といえる。本研究は,新しい⼤衆雑誌づくりの基盤を築き,⼥性のためのデザインの歴史をつくったピネルズの業績を明らかにする。
著者
明日香 壽川 山本 政一郎 朝山 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.61-63, 2010

&nbsp;&nbsp;Endo <i>et al</i>. says that the sea level will be lower due to the ice in the polar region, and refers to the IPCC (Inter-governmental Panel on Climate Change) assessment reports as if these reports would have supported the notion. The referred sections of IPCC reports, however, describe the effects of &ldquo;polar ice sheets&rdquo; of Antarctica and Greenland combined, and not &ldquo;ice in the polar region&rdquo; as Endo <i>et al</i>. says. The misinterpretations of these terms also lead to their unfounded and untenable criticism on the &ldquo;White Paper on the Environment&rdquo; published by the Ministry of the Environment, Japan.<br>
著者
山本 政幸
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
pp.B21, 2004 (Released:2005-06-15)

本考察は、ニュー・タイポグラフィ運動の中心的人物とされるヤン・チヒョルト(Jan Tschichold, 1902-74)が試みた実験的書体デザインについて、『タイポグラフィ通信』誌の1930年3月号に掲載された論文「もうひとつの新しい書体?書体の経済性の問題への提案」を参照しながら、その実態を把握することを目的としている。新書体は方眼紙の上に極細のペンで製図され、直線と円による幾何学的でシンプルな構造をもっている。小文字の「シングル・アルファベット」と、これを発音記号ともいえる「フォネティック・アルファベット」に変換した二種類の書体が提案されている。ゴシックではなくローマンのかたちを採用し、二つのアルファベットの混植を禁止、小文字の形態を基本とし、不要な文字を削除、表記できなかった音のために新しい文字を追加、母音の長短を補助記号で補い、ピリオドを肩つきで大きく示す、といった独特の改良を経て完成している。計画案は実用化を果たしていないが、アルファベット体系の根本的な改変をうながすという重要な使命を負い、機能主義の効果を書体デザインの領域で実証しようとする、果敢な試みであった。
著者
山本 政幸
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第54回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.D07, 2007 (Released:2007-06-09)

本考察は、1920年代に出版された二冊の書物『旅と冒険の本』と『ディ・ノイエ・ティポグラフィ』の装丁を比較し、ヤン・チヒョルトの前衛活動初期におけるデザインの特徴を把握することを目的としている。二冊の書物について体裁、用紙、表装、刷色、図版、マージン、版面、活字書体の8項目を比較した。その結果、サンセリフ体活字の使用、非対称の構成、写真図版の多用といった方針は共通していたが、DIN規格の扱い、本文におけるサンセリフ体活字の導入、塗工紙の使用、特色赤や罫線の追加といった点で違いが見られた。これは報道記録と印刷技法書という内容の差から生じた結果というだけでなく、3年という期間を経て活版印刷術における機能主義が徹底した表れと結論付けた。
著者
山本 政儀
出版者
Japan Health Physics Society
雑誌
保健物理 (ISSN:03676110)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.249-257, 1989 (Released:2010-02-25)
参考文献数
11

The accident at the Chernobyl reactor site starting at 26th April 1986 caused a widespread distribution of radionuclides. In all countries radiation measurements and analyses of samples have been made to show the features to consider in a dosimetric evalution, but transuranium elements have been less investigated.In Europe, the determination of several transuranium elements, such as neptunium (Np-239), plutonium (Pu-238, 239, 240, 241), americium (Am-241) and curium (Cm-242) was possible. The total depositions (mBq/m2) at Monaca, Rise (Denmark) and Neuherberg (Munich) were estimated to be 10, 20 and 51, respectively. These levels are only 0.01-0.05% of the previous deposition from nuclear weapons tests. The activity ratios Pu-238/Pu-239, 240 (0.4-0.5) and Pu-241/Pu-239, 240 (80-90) from Chernobyl fallout were much higher than those from nuclear weapons tests. Here, a more detailed feature of transuranium elements released into environment from the Chernobyl reactor is presented comparing with that from nuclear weapons fallout, including the measurements of transuranium elements of the Chernobyl debris in Japan.
著者
寺田 厚 山本 政重 吉村 栄治
出版者
Japanese Society of Food Microbiology
雑誌
日本食品微生物学会雑誌 (ISSN:13408267)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.221-230, 1999-12-28 (Released:2010-07-12)
参考文献数
36
被引用文献数
9 20

健康成人7名に納豆 (50g/日) を2週間摂取させ, 腸内フローラおよび腐敗産物に及ぼす影響を検討した.腸内フローラでは納豆摂取中にBifidobacterium (p<0.05), Bacillus subtillis (B. natto; p<0.001) は有意に増加し, レシチナーゼ陽性clostridia (p<0.05) の菌数と検出率は有意に減少した.また, 納豆摂取中にEnterobacteriaceaeは減少傾向を示し, Bacillus subtillisの検出率は増加傾向を示した.その他の細菌群の変動は認められなかった.短鎖脂肪酸では納豆摂取中に酢酸 (p<0.05), 摂取2週目に総有機酸 (p<0.05) とコハク酸 (p<0.05) は有意に増加した.腐敗産物では納豆摂取中にフェノール, エチルフェノール, スカトール (p<0.05) は有意に減少し, 摂取2週目ではアンモニア, クレゾール (p<0.05) が有意に減少した.pH (p<0.05) は納豆摂取2週目に有意に低下した.以上より, 納豆摂取は腸内フローラの構成と代謝活性によって, 腸内環境の改善と便の脱臭効果が示唆された.
著者
山本 政一郎 尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100116, 2017 (Released:2017-10-26)

1. 問題の所在 学校教育は,言うまでもなく,学術的な成果に基づいたものでなければならない.しかしながら,地理教育については,その母体となる地理学,さらには関連する地質学や地球物理学などの成果が適切にフィードバックされていない現状があり,特に大地形についてはいくつかの指摘がなされている(たとえば,岩田 2013;池田 2016). 高校「地理」「地学」で扱われる分野には,共通する内容が多い.両科目で共通する分野については,お互いに協調して対象を取り扱うことで,地球に対する理解をより総合的・系統的に身につけさせることができる.しかしながら,同じ内容を説明しているにも関わらず両科目間で用語が異なっていたり,内容の解説そのものに相違があったりする.さらに,同一科目内においても,同じ内容を示す用語が教科書会社によって異なっているなど,混乱がみられる. この現状は学校教育現場に混乱をもたらす.とりわけ,教育を受ける側の生徒にとっては,受験に伴う不公平さえ生まれかねない.これらの問題を即時に解消することは困難としても,教育者側が相違の現状を把握しておくことで,それらに留意した説明をするなど,教育現場での対応が可能になる.そのためには,まずは教育現場で実際に使用されている教科書を分析し,課題を可視化する必要があろう. 本発表では,高等学校「地理」「地学」において,教科書によって記載が異なる事項を中心に,2017年度に使用されている全ての教科書(地理B:3冊,地理A:6冊,地学:2冊,地学基礎:5冊,科学と人間生活:5冊,計21冊)を対象に,用語のブレを比較検討する.地形分野については,大地形および沖積平野,土砂災害に関する用語がどのように扱われているか,またそれらの発達史・プロセスがどのように扱われているかについて報告する.気象・気候分野については,大気大循環に関する用語・説明の範囲,および気候区分に関する記述の違いを中心に報告する.2. 用語問題の類型発表者らは用語問題を以下の3つの類型に分類している.類型I)科目内の違い……同一科目内において,同じ内容を示す用語が教科書会社によって異なっているもの.大学受験など,科目内で統一した知識が必要となる際に障壁となる.類型Ⅱ)間の違い……同じ内容を説明しているにも関わらず両科目間で用語が異なる.地理・地学の連携を行う際に障壁となる.類型Ⅲ)学術用語との違い……学術界で死語となった,あるいは変更されて現状で使用が不適切な語.大学での教育を含む日本国内の知識理解の向上のために使用を改めたい. この類型に加えて,異音同義語(同じ定義だが異なる用語)と同音異義語(異なる定義だが同じ用語)の分類も重要である.学習者にとってはどちらも混乱を生じるものであるが,前者の問題は同じ定義であることを確認できれば解消しうるものの,後者は学術的に極めて不適切といえる.  3. 改善に向けて 将来的には「地理」「地学」両領域にまたがって用語の用例・相違の状況を把握できるように,用語の状況を整理・統合して公表しているデータベースの構築が望ましい.文部省発行『学術用語集』のように一時点での情報で,かつ情報がその持ち手に限られる媒体のみではなく,情報を閲覧しやすく,更新しやすいオンライン形式であれば,教員,教科書会社,大学入試作問者,学習者である生徒も使えるものとなろう. 【文献】池田 敦 2016. 月刊「地理」, 61 (2): 98-105.岩田修二 2013. E-Journal GEO, 8 (1): 153-164.尾方隆幸 2017. 月刊「地理」, 62(8): 91-95.山本政一郎・小林則彦 2017. 月刊「地理」, 62(9): 印刷中.
著者
塩見 雄佑 杉 正夫 太田 順 大久保 強志 山本 政 小島 浩 井上 和佳
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集 2007年度精密工学会春季大会
巻号頁・発行日
pp.973-974, 2007 (Released:2007-09-01)

板取問題は加工業において,利益を左右する重要な問題である.板取問題に関する研究は幅広く行われているものの,実際の製造において重視される制約を十分に反映しておらず,研究成果を適用できる現場が限られてしまう.本研究では,実際の加工業への適用を想定し,カッティング方法やコストなどの現実的な制約を考慮した板取問題を扱う.
著者
川端 良子 片山 幸士 長井 正博 山本 政儀 山田 祐彰 五味 高志
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

中央アジア・ウズベキスタン共和国内のヌクスを中心としたアムダリア流域にて,大規模灌漑農業による環境汚染と生態系への影響について以下の調査を行った. 1)飲料水である地下水の調査を行った. 2)潅漑用水,潅漑排水,および河川水を採取し,灌漑農業による河川水への影響を調査した. 3)ヌクス近郊の農村で,人体への影響に関しての聞き取り調査を行った. 4)河川水と地下水を毎月試料採取し,月変動を調査したその結果、地下水の元素濃度の方が、河川水より高い濃度であった。さらに、冬場に、特に、地下水の硝酸イオン濃度が高くなっていることが明らかとなった。また、ヌクスの郊外の農村で,縞状の歯を持つ子供たちが多くみられ過去に何らかのエナメル質を溶かすような有毒な物質が,井戸水に含まれていた可能性が高いことがわかった.そこで,月変動を明らかにすることと,一時的な汚染であれば,どのような時期に汚染されているかを調べるために,毎月この村で地下水の試料を採取することにした.その結果、地下水の元素濃度の方が、河川水より高い濃度であった。さらに、冬場に、特に、地下水の硝酸イオン濃度が高くなっていることが明らかとなったしかし、濃度変化は、年度によって差があり、さらに詳しく調べる必要があることが明らかとなった
著者
三浦 輝 栗原 雄一 山本 政義 山口 紀子 坂口 綾 桧垣 正吾 高橋 嘉夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Introduction: A large amount of radiocesium was emitted into environment by the Fukushima Nuclear Power Plant (FDNPP) accident in March, 2011. Adachi et al. (2013) reported glassy water-insoluble microparticles including radiocesium, called as radiocesium-bearing microparticles (CsMPs). The CsMP is spherical with 1-3 μm in diameter and the radioactivity ranges from 0.5 to 4 Bq. It has been suggested that the CsMP was mainly emitted from Unit 2 or Unit 3 of FDNPP based on the 134Cs/137Cs activity ratio in the samples. In contrast, Ono et al. (2017) reported new particles called as Type B particles emitted from Unit 1. Type B particles are in various shapes and the size is 50-300 μm with radioactivity ranging from 30 to 100 Bq. These differences may represent the difference of generating process or condition of each unit in the plant. Previous studies have reported chemical properties of radioactive particles in detail but the number of particles reported is small. In this study, we tried to understand radioactive particles systematically by analyzing a lot of particles separated using wet separation method. Method: In this study, we collected 53 Type B particles and 13 CsMPs from road dusts, non-woven fabric cloths from Fukushima, and aerosol filters from Kanagawa Prefecture by a wet separation method. After measurement of radioactivity with a high-purity germanium semiconductor detector, scanning electron microscope and energy dispersive X-ray spectroscopy analyses were performed to confirm that separated particles were CsMPs or Type B particles. We investigated inner structure and calculated the volume and porosity of Type B particles by X-ray μ-computed tomography (CT). We determined Rb/Sr ratio by X-ray fluorescence (XRF) analysis. Redox condition of each unit was investigated by X-ray adsorption near edge structure (XANES) analysis for Uranium in particles. Result: CT combined with XRF analysis showed the presence of many voids and iron particles in Type B particles. In addition, 137Cs concentration of CsMPs were ~10000 times higher than that of Type B particles, which suggests that Type B particles were formed by fuel melt. In contrast, CsMPs were formed by gas. Among Type B particles, spherical particles had higher 137Cs concentration than non-spherical particles. Type B particles with larger porosity had higher 137Cs radioactivity because of capturing a lot of volatile elements such as Cs and Rb within the particles. Moreover, four spherical particles had inclusions in their voids which are considered to be formed by rapid cooling of gaseous materials. XANES analysis showed the presence of U(IV) in a Type B particle, whereas U(VI) in other Type B particles and a CsMP. These results suggest that Type B particles and CsMPs are totally different in forming process and they have information of condition in Units.
著者
山本 政一郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

中央教育審議会(2014)によって、「高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革」が推進されるなかで、学力の3要素の一つである「思考力・判断力・表現力」を育成する必要性が高まっている。高等学校の地理は多くの写真や図表資料を用いて思考・判断・表現を行う機会に恵まれており、それら能力の育成に適している。しかしその一方で、論理的思考力を適切に評価できていない事例も散見される。例えば、平成30年度センター入試の「地理B」の、「ムーミン問題」では,思考力等を問うはずが,適切な類推をするには十分な情報が与えられていない問題である。そのような状況のなかで、写真や図表資料を用いて適切な思考力・判断力・表現力を育成するためには何が必要であるかを議論したい。
著者
山本 政一郎 尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1. 問題の所在<br> 学校教育は,言うまでもなく,学術的な成果に基づいたものでなければならない.しかしながら,地理教育については,その母体となる地理学,さらには関連する地質学や地球物理学などの成果が適切にフィードバックされていない現状があり,特に大地形についてはいくつかの指摘がなされている(たとえば,岩田 2013;池田 2016).<br> 高校「地理」「地学」で扱われる分野には,共通する内容が多い.両科目で共通する分野については,お互いに協調して対象を取り扱うことで,地球に対する理解をより総合的・系統的に身につけさせることができる.しかしながら,同じ内容を説明しているにも関わらず両科目間で用語が異なっていたり,内容の解説そのものに相違があったりする.さらに,同一科目内においても,同じ内容を示す用語が教科書会社によって異なっているなど,混乱がみられる.<br> この現状は学校教育現場に混乱をもたらす.とりわけ,教育を受ける側の生徒にとっては,受験に伴う不公平さえ生まれかねない.これらの問題を即時に解消することは困難としても,教育者側が相違の現状を把握しておくことで,それらに留意した説明をするなど,教育現場での対応が可能になる.そのためには,まずは教育現場で実際に使用されている教科書を分析し,課題を可視化する必要があろう.<br> 本発表では,高等学校「地理」「地学」において,教科書によって記載が異なる事項を中心に,2017年度に使用されている全ての教科書(地理B:3冊,地理A:6冊,地学:2冊,地学基礎:5冊,科学と人間生活:5冊,計21冊)を対象に,用語のブレを比較検討する.地形分野については,大地形および沖積平野,土砂災害に関する用語がどのように扱われているか,またそれらの発達史・プロセスがどのように扱われているかについて報告する.気象・気候分野については,大気大循環に関する用語・説明の範囲,および気候区分に関する記述の違いを中心に報告する.<br><br>2. 用語問題の類型<br>発表者らは用語問題を以下の3つの類型に分類している.<br>類型I)科目内の違い&hellip;&hellip;同一科目内において,同じ内容を示す用語が教科書会社によって異なっているもの.大学受験など,科目内で統一した知識が必要となる際に障壁となる.<br>類型Ⅱ)間の違い&hellip;&hellip;同じ内容を説明しているにも関わらず両科目間で用語が異なる.地理・地学の連携を行う際に障壁となる.<br>類型Ⅲ)学術用語との違い&hellip;&hellip;学術界で死語となった,あるいは変更されて現状で使用が不適切な語.大学での教育を含む日本国内の知識理解の向上のために使用を改めたい.<br><br> この類型に加えて,異音同義語(同じ定義だが異なる用語)と同音異義語(異なる定義だが同じ用語)の分類も重要である.学習者にとってはどちらも混乱を生じるものであるが,前者の問題は同じ定義であることを確認できれば解消しうるものの,後者は学術的に極めて不適切といえる.&nbsp;<br><br>&nbsp;3. 改善に向けて<br> 将来的には「地理」「地学」両領域にまたがって用語の用例・相違の状況を把握できるように,用語の状況を整理・統合して公表しているデータベースの構築が望ましい.文部省発行『学術用語集』のように一時点での情報で,かつ情報がその持ち手に限られる媒体のみではなく,情報を閲覧しやすく,更新しやすいオンライン形式であれば,教員,教科書会社,大学入試作問者,学習者である生徒も使えるものとなろう.&nbsp;<br><br>【文献】<br>池田 敦 2016. 月刊「地理」, 61 (2): 98-105.<br>岩田修二 2013. E-Journal GEO, 8 (1): 153-164.<br>尾方隆幸 2017. 月刊「地理」, 62(8): 91-95.<br>山本政一郎・小林則彦 2017. 月刊「地理」, 62(9): 印刷中.