著者
奥山 治美 山田 和代 宮澤 大介 安井 裕子 市川 祐子
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.8, no.10, pp.421-427, 2008 (Released:2013-06-01)
参考文献数
24

“動物性脂肪とコレステロールの摂取を減らして高リノール酸植物油を増やすと, 血清コレステロール値が下がって心疾患が予防できる” というコレステロール仮説は誤っていた。この説に基づく指導を長期に続けても血清コレステロール値は下がらず, むしろ心疾患死亡率が上がり, 寿命が短くなることがわかった。一方, 大部分の人 (40~50歳以上の一般集団) にとっては, 血清コレステロール値が高い群ほど癌死亡率が低く長生きであった。すなわち, “飽和脂肪酸に富む動物性脂肪が血清コレステロール値を上げ, 心疾患の危険因子となっている”, と考える根拠は崩壊した。心疾患の危険因子はコレステロールではなく, 摂取脂肪酸のn-6/n-3バランスであった。最近トランス脂肪酸 (水素添加植物油) の安全性の問題が再びクローズアップされ, 代替油脂としてパーム油がわが国の供給植物油の20%を占めるまでに至っている。しかしパーム油は動物実験で発癌促進, 寿命短縮などの有害作用を示す。他にも動物に類似の有害作用を示す食用油が数種ある。このような安全性の確立していない植物油に対し, 動物性飽和脂肪 (バター, ラードなど) の安全性が強調できる。メタボリック症候群の危険因子はタンパク質, 糖質を含めた栄養素の過剰摂取による過栄養 (over-nutrition) であり, 動物性脂肪は肥満にならない範囲で安全に摂取できる。
著者
奥山 治美 山田 和代 宮澤 大介 安井 裕子
出版者
日本脂質栄養学会
雑誌
脂質栄養学 (ISSN:13434594)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.49-62, 2007-03-31 (Released:2008-12-05)
参考文献数
28

1. トランス脂肪酸の心疾患に及ぼす影響は顕著なものではなく、動物性脂肪より悪いという根拠は明確ではない。2. 水素添加植物油にはトランス脂肪酸のほかに微量の因子があり、脳卒中ラットの寿命を異常に短縮し、内分泌撹乱作用を示す。この作用をおこす量は超大量ではなく、日本人の摂取量は安全域とはいえない。3. 水素添加により副生するジヒドロ型ビタミンK1が微量有害因子の一つであり、脳出血促進 (血栓性低下?) 作用のほか、骨代謝にも影響を及ぼす因子であると考えられる。4. 他の数種の植物油も脂肪酸組成では説明できない発癌促進作用を示しており、より広範な安全性研究が必要である。5. わが国で摂取されている食用油の9割以上はリノール酸含量が高いか、微量有害因子を含んでおり、健康増進には向かない。動物性脂肪の安全性が強調できる。
著者
古田 和恵 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.69-75, 2016 (Released:2016-01-30)
参考文献数
23

Objectives: The purpose of this study is to clarify whether the explanation received from the guardian at the time of inoculation of a HPV vaccine is related to preventive behaviors against uterine cervical cancer among junior high school girls. The preventive behaviors were set as “wishing to receive the HPV vaccination” and “considering on sexual behaviors (dating, kissing, sexual relations).” Methods: An anonymous self-administered questionnaire survey was performed on 206 second-year junior high school girls who were candidates for the inoculation of the HPV vaccine in the previous year. We considered that a subject received an explanation on HPV vaccination if she received explanations on this topic, such as “an HPV vaccine prevents uterine cancer.” We considered that a subject received an explanation on pubertal events if she received explanations on this topic, such as “the importance of a life.” Including these two variables among the independent variables, multiple logistic regression analysis was performed. Results: The knowledge on uterine cancer was promoted when the subjects received explanations about the HPV vaccination. Many subjects received explanations on pubertal events by receiving explanations on HPV vaccination. The guardian’s explanation about HPV vaccination was one of the factors related to “wishing to receive the HPV vaccination” and “considering on sexual behaviors.” Conclusion: It is important for guardians to explain to their children about HPV vaccination without hesitation at the time of the vaccination.
著者
谷中 かおる 東泉 裕子 松本 輝樹 竹林 純 卓 興鋼 山田 和彦 石見 佳子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.234-241, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

大豆中のイソフラボンは構造的にエストロゲンと類似しており,弱いエストロゲン様作用を発揮する.2006年に,内閣府食品安全員会は特定保健用食品から摂取する大豆イソフラボンの上限量を,通常の食事に上乗せして30mg/日と設定した.しかしながら,大豆イソフラボンや大豆たんぱく質が含まれている,いわゆる健康食品には イソフラボンの許容上限量が設定されなかった.そこで我々は,大豆が原料となっている加工食品,特定保健用食品を5品目含む健康食品10品目について,大豆たんぱく質と大豆イソフラボン含有量をそれぞれ酵素免疫測定法(ELISA)と高速液体クロマトグラフ(HPLC)法で測定した。8品目における大豆たんぱく質量は表示の90-118%が確認され,ジュニア選手用のプロテインパウダー2品目においては表示の約半分量が定量された.大豆たんぱく質を含む特定保健用食品中には表示の90-122%の大豆イソフラボンが検出された。一方,表示のない大豆たんぱく質強化食品2品目には一回摂取目安量当たり30mgを超える大豆イソフラボンが検出された。このような食品をジュニア選手が過剰に摂取しないよう注意する必要があると考えられた。(オンラインのみ掲載)
著者
井川 雅子 山田 和男 池内 忍
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-12, 2014-12-25 (Released:2016-01-26)
参考文献数
65

口腔顔面部の特発性疼痛には,歯科治療を契機とするものが多いが,侵害刺激が加えられていないにもかかわらず発症するものもある.このような症例の中には,明らかな器質的異常が認められないにもかかわらず,日常生活が続けられないほど重症化する例もまれではない.このような特発性疼痛は,従来は神経障害性疼痛,下行性疼痛抑制系の機能不全,また中枢の感作などでその機序を説明することが試みられていたが,一方で,近年の脳機能画像研究の発達により,組織損傷が存在しなくても疼痛が発現しうることが明らかにされつつある.すなわち,侵害刺激ではなくても,個人にとって著しい脅威や不快と感じられるような刺激にさらされた場合に,関連する脳領域が過剰に活動し始めることによって,慢性疼痛に陥ってゆく可能性があるということであり,口腔顔面部の特発性疼痛の発症の機序を考える上で大きな手がかりになると思われる.本稿では,特発性疼痛の機序に関する最近の脳科学的研究の知見について解説を行い,われわれが経験した2症例を供覧する.症例1:74歳,女性.医師に舌がんを示唆された直後から特発性顔面痛を発症し摂食不能となったため,発症から3か月目に胃瘻を造設した.症例2:81歳,女性.上顎左右臼歯部に6本のインプラントを埋入した直後から,上顎左側中切歯に特発性歯痛と全身の不全感を発症し,寝たきりとなった.いずれも劇症ではあるが,三環系抗うつ薬により速やかに治癒した.
著者
井川 雅子 山田 和男
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.17-22, 2017 (Released:2019-04-24)
参考文献数
32

身体の様々な部位の異常感を奇妙な表現で訴える症例を,一般にセネストパチー(cenesthopathy)と呼ぶ.歯科を受診する本疾患の患者のほとんどは高齢者で,口腔内の異常感を単一症状的に訴える狭義のセネストパチーである.セネストパチーは従来より難治と考えられてきたが,その半数は治療で改善するという報告もある.本報告では向精神薬が著効した3例を供覧し,その病態生理と治療法について考察する.症例の概要:①65歳,男性.歯肉から糸やコイル状の金属が出ると訴えていた.アリピプラゾール6mg/日で9か月半後に症状はほぼ消失した.②60歳,男性.上顎左側側切歯から左胸部にかけて“神経の糸”のようなものがつながっており,ぐるぐる回ると訴えていた.うつ病治療のために服用していたアミトリプチリン50mg/日に,新たにリスペリドン1mg/日を加えたところ1年後に症状はほぼ消失した.③45歳,女性.下顎左側臼歯部に痛みの電流が流れ円を描いて回っていると訴えていたが,アミトリプチリン75mg/日で3か月後に症状はほぼ消失した.考察:高齢者に多い口腔内セネストパチーには,統合失調症圏またはうつ病圏の病態に加え,加齢に伴う脳器質的変化が体感異常に関与している可能性がある.結論:治療の第一選択として向精神薬療法を用いること,また治療薬としては,抗精神病薬のみではなく,抗うつ薬も選択肢に入れることを検討すべきであろう.
著者
齋藤 めぐみ 山田 和芳 リチャード スタッフ 中川 毅 米延 仁志 原口 強 竹村 恵二 クリストファー ラムジー
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.493-501, 2013-06-25 (Released:2013-07-08)
参考文献数
23
被引用文献数
2 6

Sediment cores from Lake Suigetsu, Japan, reveal the absence of seawater intrusion into the lake caused by the historically documented tsunami of AD1586 (Tensho Tsunami). A high-precision chronology of the cores established by Bayesian modeling radiocarbon determinations enables us to ascertain the precise position of the historical event in the sediment depth. Diatom analysis of the core shows that a diatom assemblage dominated by freshwater taxa persisted through the period. This makes a clear contrast with the core section around AD1664 when the lake was artificially connected to the sea by a channel, and the subsequent intrusion of seawater was clearly recorded in the sediment cores by the occurrence of marine diatom fossils.
著者
山田 和彦 工藤 孝浩 瀬能 宏
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館(旧神奈川県立博物館)
雑誌
神奈川自然誌資料 (ISSN:03889009)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.35, pp.41-44, 2014 (Released:2022-04-17)

The ichthyofauna of Sagami Bay was surveyed on the basis of landed fishes on Misaki Fish Market. Although 593 fish species had been recorded since 1986, we newly added seven species in this report. Among the above seven species, Minous pusillus of them is new to the bay.
著者
秋元 雄希 山田 和彦 笠原 次郎 Akimoto Yuki Yamada Kazuhiko Kasahara Jiro
出版者
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(JAXA)(ISAS)
雑誌
観測ロケットシンポジウム2019 講演集 = Proceedings of Sounding Rocket Symposium 2019
巻号頁・発行日
2019-08

第2回観測ロケットシンポジウム(2019年8月5日-6日. 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(JAXA)(ISAS)), 相模原市, 神奈川県
著者
水野 貴秀 川原 康介 山田 和彦
出版者
一般社団法人日本航空宇宙学会
雑誌
日本航空宇宙学会誌 (ISSN:00214663)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.250-256, 2012-07-05

小惑星探査機「はやぶさ」は小惑星イトカワとの往復を果たして,2010年6月13日,オーストラリアウーメラ砂漠に帰還した.小惑星表面の貴重なサンプルが入った再突入カプセルは,大気圏突入後,再突入カプセルが発するUHFビーコン信号を追跡するビーコン追跡システムによって捕捉追尾され,再突入後約1時間で発見された.ビーコン追跡システムは地上4箇所に設置された簡素な電波方向探査局とヘリコプターで構成された柔軟性の高いシステムで,「はやぶさ」プロジェクトでの再突入カプセルの回収成功により,重量リソースの少ない数十kgクラスの小型再突入カプセルの回収手法として,本システムが有効であることが実証された.本報告は,カプセル回収に用いられたビーコン追跡システムを紹介し,電波方向探査局の配置やヘリコプターによる捜索等の運用結果について解説している.
著者
野田 敏宏 新敷 祐士 安西 恵子 川崎 啓子 栗原 智仁 高市 和之 髙野 紀子 中村 峰夫 西野 健三 山田 和也 平井 みどり 田崎 嘉一 松原 和夫 吉山 友二 井関 健
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.93-98, 2013 (Released:2013-07-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2 4

要 旨目的 : 本研究ではサプリメント類の利用に関して来局患者および薬剤師両者の意識および実態を明らかにすることにより, サプリメント類利用における薬剤師の関わり方を検討した. 方法 : 東京都・北海道内の14保険薬局にて来局患者1,253人を対象に, サプリメント類に関するアンケート調査を来局時に実施した. また, 薬剤師289人に対してサプリメント類に関する意識および情報収集の実態について, 保険薬局および北海道薬学大会 (2011年・札幌) においてアンケート調査を実施した. 結果 : 来局患者からの回答数1,253人のうち, 約50%は薬剤師にサプリメント類の安全性や効果についての情報提供を望んでいるものの, 実際には薬剤師が来局患者の疑問に答えている例は7.3%にしかすぎないことが明らかとなった.  一方で, 回答を得られた薬剤師289人のうち67.5%の薬剤師は自身がサプリメント類の情報提供者として来局患者に期待されていると認識しているものの, サプリメント類の情報収集に積極的に取り組んでいる薬剤師は約30%であり, さらにその情報内容もインターネット上の情報に頼っていることが示された. 結論 : サプリメント類の説明に対する患者の期待と薬剤師による説明の実態には, 大きな隔たりがあることが分かった. 来局患者の期待に応えるためにも, 薬剤師はサプリメント類に対し科学的根拠に基づく理解を深め, 医薬品との関連を含めた統合管理の必要性が求められる.
著者
井川 雅子 山田 和男
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.21-31, 2010 (Released:2011-03-14)
参考文献数
35
被引用文献数
1

非定型歯痛(AO),非定型顔面痛(AF),舌痛症,口腔内灼熱性疼痛(BMS)は,器質的原因がほとんど認められず,心理的要因と強く関連して発症する傾向が高いことから,心因性疼痛,疼痛性障害,Functional Somatic Syndromes,特発性疼痛などという用語が用いられてきた.しかしながら,近年の脳科学の研究から,特発性疼痛のメカニズムの解明が進み,侵害刺激の入力がなくても,心理的要因(情動や認知)や過去の経験などが直接脳に作用して痛覚認知を修飾し,慢性疼痛の状態に陥る可能性があることがわかってきた.また,これらが中枢性の疼痛であることから,抗うつ薬や認知行動療法が奏効する可能性が高いことも示唆されている.本論文ではこれらの概念と,著者らが行っている薬物療法を具体的に解説する.第一選択は三環系抗うつ薬のアミトリプチリンであり,平均約80mg/dayを使用する.三環系抗うつ薬単独で奏効しない場合でも,抗精神病薬や炭酸リチウム,バルプロ酸ナトリウムなどの追加による増強療法で効果が得られる場合が多い.また,これらの特発性疼痛は再発する傾向があるため,再発予防のためには,疼痛が消失した後も約6か月から1年間の維持療法を行う必要がある.著者らは,舌痛症やBMSは,AOやAFに比較して治りやすいという印象をもっている.しかし,特に高齢者の難治性の舌痛症の中には,認知力やIQが低下した患者が散見され,数年後に認知症が顕在化する症例もある.治療のゴールを設定するためにも診断時に鑑別が必要であると考えている.