著者
小林 哲夫
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.280-284, 1996

自然状態下の土壌中では,液体水と水蒸気が局所熱力学的平衡状態にあると見なせることは既に確認されている(Milly, 1982).本報では,蒸発時には,土壌表面およびその近傍においても局所平衡が成り立つと見なせることが明らかにされる.この結果は,数値気象・気候モデルにおいて土壌表面の含水率から"表面湿度"を推定するために提案された多くの実験公式が,熱力学的平衡公式(本文式(7))に代わるもの(Lee and Pielke, 1992)ではなく,水蒸気の移動に対する抵抗の影響を強く受けた物理的意味の乏しい経験公式であることを示唆する.
著者
林 哲志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.78, 2003

_I_.はじめに 愛知県の最南部に位置する渥美半島は、我が国では数少ない東西方向に伸びた半島である。半島の南側は太平洋で、暖流の黒潮が流れているため「常春の岬」と宣伝に謳われる。しかし、風が強く、特に冬期の北西風は体感気温を下げている。そして、ここには縄文時代の貝塚などの遺跡がいくつか展開している。渥美半島の3大貝塚(拠点貝塚)といわれる、吉胡貝塚・伊川津貝塚・保美貝塚の他、北屋敷貝塚・下地貝塚・八幡上貝塚・川地貝塚などが、おもに半島北側の三河湾に面した地域に分布している。この発表は、縄文時代の後半、後期・晩期と区分された時期の渥美半島における縄文人の生活環境や生活様式について考察するものである。そして、今回は主に、人骨出土数日本一といわれる吉胡貝塚の発掘データや周辺環境についてのフィールド調査の結果から、人々がどのような環境で生活を営んでいたか、「暮らし振り」をまとめてみたい。_II_.これまでの発掘調査の経緯吉胡貝塚の発掘は、大正11・12年の清野謙次による多数の縄文人骨発見にはじまり、昭和26年には文化財保護委員会と愛知県教育委員会による「国営発掘第1号」となる調査が行われた。その後、昭和55年に田原町教育委員会による遺跡の範囲を確定するための発掘が行われ、昭和58年には同じく町教委が貝層断面模型を作成するための調査が実施された。最近では、平成7・8年度に貝塚の北西側で区画整理事業にともなう調査が行われた。そして、平成13・14・15年度には史跡整備のための範囲確認調査が実施され、「現況地形」「貝塚範囲」「居住域」「当時の自然環境」「過去の調査区位置」「保存状況」の解明を進めている。以上のように、度重なる発掘調査ごとに報告書や論文などの文献が発行され、基礎データとして活用することができた。_III_.結果の概要今回の考察は、これまで考古学や人類学・民族学などの分野の研究者が行なってきた調査やそこから得られたデータを活用し、人文地理学的な見地から吉胡貝塚における「暮らし振り」をまとめたものである。それを列挙すると次のとおりである。_丸1_柱穴の遺構より、住居址はあったが集落が形成された根拠までは見出せない。_丸2_貝塚や墓があることから生活の場であったことは確実である。_丸3_段丘上は礫質の土壌であるため、柱が容易に建てられず、住居址は認められない。_丸4_貝塚が立地する背景に、河川と海の接点である干潟の存在があるが、吉胡においても汐川干潟が生活の舞台であった。_丸5_貝層の含有物より、人々の食生活は海・川・山(陸地)など周辺環境すべてに依存していた。_丸6_貝塚は段丘崖下に位置しており、そのあたりでは水利が良い。_丸7_段丘上と崖下では気候環境が異なり、前者は冬の季節風が強く、後者は夏の風通しが悪い。季節間の移住が考えられる。
著者
三浦 麻子 小林 哲郎
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.123-132, 2016-11-30 (Released:2016-11-30)
参考文献数
20
被引用文献数
1

This study focuses on “satisficing” (answering behaviors in which participants do not devote appropriate attentional resources to the survey (Krosnick, 1991)) in an online survey and aims to investigate, via various indices, to what extent these behaviors are observed among students whose participation was solicited by the researchers in their universities. This study also aims to explore effective techniques to detect individuals who show satisficing tendencies as efficiently and accurately as possible. Online surveys were carried out at nine universities. Generally speaking, the predictive capability of various types of detection indices was not high. Though direct comparison with online survey panels was impossible because of differences in measurement methodology, the satisficing tendencies of university students were generally low. Our findings show that when using university students as samples for a study, researchers need not be “too intent” on detecting satisficing tendencies, and that it was more important to control the answering environment, depending on the content of the survey.
著者
鈴木 貴久 小林 哲郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.31-50, 2011

本研究は,異なる寛容性を持つ評判生成規範が協力に対してもたらす効果について,先行研究より現実に即した制約を課す進化シミュレーションによって検討した.具体的には,エージェントはネットワーク上で隣接する相手のみと社会的交換を行い,社会的交換における行動決定時とネットワークのリワイヤリング時に評判を参照するが,すべてのエージェントの評判情報を参照できるのではなく,評判が参照できるのはネットワーク上で2 ステップの距離に位置する他者までに限定された.こうした現実的な制約の下で,全エージェントがimage scoring(IS)規範,standing(ST)規範,strict discriminator(SD)規範のいずれかに従って評判を生成する条件を比較した結果,(1)全エージェントが寛容なST 規範に従って評判を生成する場合にはネットワークは密になり社会的交換の数は増加していくが,非協力行動が適応的になって協力率が大幅に低下する確率が高くなること,(2)全エージェントが非寛容なSD 規範に従って評判を生成する場合には協力率は安定するが,ネットワークが疎になり社会的交換の数自体が減少することが示された.この結果から,評判の生成規範の寛容性は,社会的交換における協力率だけでなく,社会的ネットワークの構造に対しても効果を持つ可能性が示された.このことは,協力率のみに注目した非寛容な評判生成規範では,副産物的に社会的ネットワークを縮小することで社会関係資本に対して負の効果を持ちうることを示唆している.さらに,相手の評判値を誤って知覚するエラーを投入したところ,寛容なST 規範に従って評判を生成する場合でも協力率が安定した.このことは,社会的交換がネットワーク構造を持つ制約の中で行われる場合には,寛容な評判生成規範でも高い協力率の維持が可能になりうることを示唆している.
著者
田島 靖久 松尾 雄一 庄司 達弥 小林 哲夫
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.55-75, 2014

The Kirishima volcanoes located in southern Kyushu are comprised of more than 20 volcanic edifices. The volcanoes occupy an elliptical area of approximately 330km^2 with the WNW-ESE direction. Among the different types of volcanic edifices, the typical ones are compound maars and lava flows in Ebinokogen. We studied the volcanic history of Ebinokogen by geological examination of tephra layers and lava flows. After the Karakunidake-Kobayashi plinian eruption, seven tephra were formed in this area. We determined the ages of those tephra and two lava flows. The magmatic eruptions, produced Tamakino B tephra, occurred after Karakunidake-Kobayashi tephra eruption. The first activity in Ebinokogen from about 9.0 cal ka BP generated Fudoike lava flow, and Fudoike-Tamakino A tephra erupted from Fudoike crater. Karakunidake north-Ebino D tephra was generated from the northwest flank of Karakunidake at 4.3 cal ka BP, with debris avalanche and lahars. Phreatic Fudoike-Ebino C tephra erupted from the Fudoike crater at 1.6 cal ka BP. Ioyama-Ebino B tephra eruption started from around the 16^<th> to 17^<th> century with lava flow. Phreatic Ioyama east-Ebino A tephra erupted from Ioyama east crater in 1768 AD. The Ebinokogen area is one of the active regions of Kirishima volcanoes explicated by geophysical observations. Our results indicate cyclical tephra depositions mainly produced by small magmatic and strong phreatic eruptions in this area after the Karakunidake-Kobayashi pyroclastic eruption. Furthermore, the vent locations were found to migrate with each eruption.
著者
小林 哲夫 早川 由紀夫 荒牧 重雄
出版者
The Volcanological Society of Japan
雑誌
火山.第2集 (ISSN:24330590)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.129-139, 1983-07-01 (Released:2018-01-15)

大隅降下軽石堆積物は, 約22, 000年前に鹿児島湾最奥部で起こった一連の巨大噴火の最初期のプリニアン噴火の産物である.灰白色の軽石と遊離結晶および少量の石質岩片からなる本堆積物は, 全層にわたってほぼ均質な見かけを呈するが, 多くの場合, 上方に向かって粒径がやや大きくなる逆級化層理を示す.層厚分布図(Fig.3)と3種の粒径分布図(軽石の平均最大粒径・石質岩片の平均最大粒径・堆積物の中央粒径;Figs.5, 6, 7)は, いずれも本堆積物の噴出火口が姶良カルデラの南縁, 現在桜島火山の位置する地点付近にあったことを示している.分布軸は火口からN120°E方向に伸びるが, 分布軸から60 km以上離れた地点にも厚く堆積している.又, 堆積物は分布軸の逆方向すなわち風上側にも20 km以上追跡できる.分布軸上で火口から30 km離れた地点での層厚は10 mに達するが, 40 km地点より遠方は海域のため層厚値は得られない.そのため噴出量の見積もりには多くの困難が伴うが, すでに知られている他のプリニアン軽石堆積物の層厚-面積曲線(Fig.4)にあてはめて計算すると, 総体積98 km3(総重量7×1016g)が得られ, 本堆積物は支笏-1軽石堆積物(116 km3)に次ぐ最大規模のプリニアン軽石堆積物であることがわかる.3種の粒径分布図から得られる粒径-面積曲線(Fig.8)は, 噴出速度・噴煙柱の高さ・噴出率などで示される噴火の「強さ」を比較する上で有効である.それにより, 大隅降下軽石噴火の「強さ」はけっして例外的なものではなく, プリニアン噴火の平均あるいはそれをやや上回る程度であったことが判明した.
著者
三浦 麻子 小林 哲郎
出版者
WebLab
雑誌
メディア・情報・コミュニケーション研究 (ISSN:2432048X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.27-42, 2016-03

本研究は,オンライン調査における努力の最小限化(Satisfice; 調査協力者が調査に際して応分の注意資源を割かない行動)について,特に教示を精読しないものに焦点を当てて,その出現比率が協力を依頼した対象集団によってどの程度異なるかを検討した。検出項目にはIMC(Instructional manipulation check)を用いて,ネット調査会社,クラウドソーシングサービス,大学の参加者プールの登録者を対象として,7つのサンプルからデータを収集した結果を比較した(n=22,646)。ネット調査会社モニタにおける努力の最小限化出現比率が,クラウドソーシングサービス登録者や大学の参加者プール登録者より高いことが示された。こうした違いは,回答に際する動機づけの差異によるものであり,それはモニタや登録者の管理方法に起因するのではないかと考えられる。 This study investigatedsatisficing within online surveys, whereby panels do not allocate optimumlevels of attentional resources, particularly in terms of carefully reading the instructions. The difference in the appearance ratio of such satisficing among three target groups (online research company, crowdsourcing service, and university subject pool) with seven samples (n = 22,646) was examined. Instructional manipulation check(IMC)was used for detection. The appearance ratio of satisficing in online research company panels appeared higher than that of registered members of crowdsourcing services and the university subject pool. Such a difference might be because of their motivation when responding, which originates from the method of managing registered members. This study investigatedsatisficing within online surveys, whereby panels do not allocate optimumlevels of attentional resources, particularly in terms of carefully reading the instructions. The difference in the appearance ratio of such satisficing among three target groups (online research company, crowdsourcing service, and university subject pool) with seven samples (n = 22,646) was examined. Instructional manipulation check(IMC)was used for detection. The appearance ratio of satisficing in online research company panels appeared higher than that of registered members of crowdsourcing services and the university subject pool. Such a difference might be because of their motivation when responding, which originates from the method of managing registered members.
著者
吉永 敦史 諸角 誠人 吉田 宗一郎 大野 玲奈 石井 信行 寺尾 俊哉 鎌田 成芳 林 哲夫 山田 拓己
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.30-33, 2007-01-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
9

症例は2歳男児. 子宮内胎児発育遅延にて当院母子周産期総合医療センターへ母体搬送され, 在胎39週3日, 帝王切開にて2200gで出生した. 生下時外性器異常を認めたが, 電解質は正常であった. 染色体検査では, 45X/46X, idic (Y) (q11.2) を呈していた. 腹部超音波検査において子宮及び卵巣は認められなかった. 当科紹介受診となり, 陰嚢型の尿道下裂及び右鼠径ヘルニア, 右非触知停留精巣の診断となった. また左陰嚢内容は触診上正常組織であった. 1歳時右鼠径ヘルニア修復術及び右停留精巣手術施行するも, 右精索及び精巣上体様の構造物は認められたが, 右精巣は認められなかった. さらに2歳時尿道形成術を施行したが, 術後瘻孔形成あり, 瘻孔閉鎖術を追加施行した. 現在, 瘻孔なく, 経過良好である.
著者
川口 浩和 小林 哲生
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.551-557, 2011-08-10 (Released:2012-01-18)
参考文献数
10

Eye-blink activities are major artifacts for electroencephalogram (EEG) measurements. Various methods have been reported for removing eye-blink artifacts from EEGs. Almost all previous methods focus on how much eye-blink artifacts are removed. However, they concurrently remove a part of EEGs together with eye-blink artifacts. Instead, we focus on how much true EEGs remains, and proposed a localized removal method for eye-blink artifacts. The proposed method is based on the combinations of independent component analysis (ICA). empirical mode decomposition (EMD) and Kalman filter. In addition, we proposed a novel simulation model to test performances of the proposed and previous methods. This simulation model indicates that the proposed method shows the best performance and reduces information loss of EEGs than previous methods.
著者
田中 克則 若林 哲 木村 修一
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.849, pp.16-00487-16-00487, 2017 (Released:2017-05-25)
参考文献数
9

Car shake is a vehicle vibration that occurs when a passenger car runs on a smooth road, and it causes dissatisfaction of a customer who purchased the passenger car. RFV that stands for radial force variation is defined in ISO 13326 and JIS D4233. RRO that stands for radial run out is variation of the rim diameter. RFV and RRO become the cause of car shake. Tire wheel RFV is measured by using a mass production road wheel, tire RFV is measured by using an accurate measuring road wheel. Car manufactures decide control values such as tire wheel RFV, tire RFV and wheel RRO to reduce car shake. And the control values are presented to production sectors, tire manufactures and road wheel manufactures. The relationship among tire wheel RFV, tire RFV and wheel RRO is evaluated experimentally to decide the control values. A mechanical model of tire wheel RFV that can calculate from tire RFV and wheel RRO is needed to decide appropriate control values. There are some technical papers of tire RFV that is managed by tire manufactures, but there are few technical papers of tire wheel RFV that is managed by car manufactures. In this study, a mechanical model that can calculate tire wheel RFV were developed to reduce car shake. This model has the following features. The parameters are the tire RFV and the value multiplied by wheel RRO and tire stiffness. This model is based on the complex plane and the Monte Carlo calculations. By using the complex plane, the model can calculate the relationship between tire wheel RFV and the assembly condition. By using the Monte Carlo method, the model can calculate average and standard deviation of tire wheel RFV.
著者
岡林 哲也
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.49-51, 1980-06-25
著者
任 恵峰 高木 敬彦 包 航 後藤 純雄 遠藤 英明 林 哲仁
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.460-464, 2000-06-15
被引用文献数
2 3

Many reports on anti-mutagenicity have been made with vegetables cultivated by an ordinary manner (OV). This paper presents the results of anti-mutagenicity study of organically cultivated vegetables (OCV), using water soluble chitosan for soil improvement and leaf surface spray, in comparison with that of OV. Their anti-mutagenicity were evaluated by the forward mutation assay using <i>Salmonella typhimurium</i> TM677. A clear difference between the juices prepared from OCV and OV was observed in the ability to inhibit the mutagenicity of authentic mutagenic compounds, 4NQO, BaP, and Trp-P-2.