著者
池田 龍二
出版者
日本医科大学医学会
雑誌
日本医科大学雑誌 (ISSN:00480444)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.587-596, 1991-10-15 (Released:2010-10-14)
参考文献数
28
被引用文献数
76 119

学生解剖学実習用本邦成人死体18体 (平均年齢65.4歳) の骨盤を用いて肉眼的に仙腸関節に分布する神経につき観察を行った. また, 病理解剖用本邦成人死体6体 (平均年齢60.8歳) の仙腸関節を採取し, 組織学的に関節周囲に分布する神経を観察し, 以下の結果を得た.1) 仙腸関節の前方の上部では, 第5腰神経前枝の支配が主であると思われた.2) 仙腸関節の前方の下部では, 第2仙骨神経前枝, または仙骨神経叢の支配が主であると思われた.3) 仙腸関節の後方の上部では, 第5腰神経後枝の外側枝が主に支配していると思われた.4) 仙腸関節の後方の下部では, 仙骨神経後枝の外側枝によって形成される神経叢の支配が主であると思われた.5) 関節面に入り込んでいる神経の枝の直径は部位により明らかな差はなく, 0.292mmから0.997mmまでであった.6) 鍍銀染色標本によると, 関節周囲の靱帯内, 関節包には, 0.2μmから2.5μmまでの太さの神経線維, 5種類の形態を示す神経終末が存在した.
著者
清水 忍 池田 由美 前田 真治 引間 香織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.B0687, 2004

【目的】<BR>脳卒中片麻痺患者の麻痺側による視覚的注意機能の差異について,視覚刺激に対する単純反応時間(RT)を用いて検討した.<BR>【方法】<BR>北里大学東病院に外来通院中で一側上下肢に麻痺を呈する脳血管障害患者のうち,知的障害,重度失語,半側無視を伴わない,右片麻痺患者10名(67.0±13.3歳)(RH群),左片麻痺患者10名(64.8±9.5歳)(LH群),計20名を対象とした.さらに,健常高齢者20名(75.4±5.2歳)を比較対照群とした.RT測定にはパーソナルコンピュータ(DELL社製Dimension XPS R450)と「反応時間測定ソフトウェアVer.1」(都立保健科学大学作成)を用いた.被検者は座位姿勢とし,顔面から前方30cm離れた位置にCRT画面を置き,顎台にて頭部を固定した.画面上に提示した直径 3mmの白円を反応刺激,画面中央に提示した白色十字を注視点とした.反応刺激の提示位置は注視点を中心とした半径11cm(視角約20度)の円の円周上に,等間隔で8箇所(円の上縁と中心を結んだ線を0°として時計回りに45°毎)とした.各反応刺激は1箇所ずつランダムな順に,各5回ずつ,計40回提示した.各試行の始めに注視点を提示し,500ms後に反応刺激を提示した.刺激の提示時間は被験者のキー押し反応があるまでとし,最大2s間に設定した.各試行間隔は2.0,2.2,2.4,2.6,2.8,3.0sの6種類とし,無作為に設定した.被験者には注視点を注視したまま,刺激が提示されたらできるだけ早くスペースキーを押すよう指示し,刺激提示からキーが押されるまでの時間をRTとして記録した.この際,RH群は左示指,LH群は右示指を用い,健常者のうち10名は左示指(CL群),残り10名は右示指(CR群)を用いた.統計学的解析は,利き手の影響を避けるために,RH群とCL群(左手使用),LH群とCR群(右手使用)間で行い,麻痺(有,無)と提示位置(0,45,90,135,180,225, 270,315°)を要因とした二元配置分散分析を行った.<BR>【結果および考察】<BR>LH群とCR群では提示位置による違いは認められなかったが,麻痺の有無による差異が認められ,LH群のRTはCR群よりも有意に遅かった.一方,RH群とCL群間では,麻痺の有無による差異は認められなかったが,刺激提示位置による違いが認められ,0°のRTよりも225,270°のRTの方が有意に速かった.これは,これまで,我々が報告した健常者におけるRTの結果と同じ傾向を示すものであった.左片麻痺患者は健常者よりも視野全体にわたってRTが遅いのに対し,右片麻痺患者のRTは健常者と差がなかったことから,脳卒中片麻痺患者の視覚的注意機能は,右片麻痺患者よりも左片麻痺患者で視野全体に対する注意機能が低下している可能性があることが示唆された.
著者
池田 奈由 由田 克士 西 信雄
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.365-372, 2021-12-01 (Released:2022-02-08)
参考文献数
23

【目的】国内における対人の栄養指導の効果を評価した文献をレビューし,栄養指導の効果を把握した。【方法】成人の生活習慣改善を目的とする栄養指導の効果を縦断研究の測定データで定量的に評価した査読付き論文で,2010年1月~2020年12月に発表されたものを研究対象とした。CiNii ArticlesとPubMedによるスコーピングレビューを行い,各文献の研究方法と主な結果を要約した。【結果】15件の文献を採用した(和文5件,英文10件)。研究設定は地域4件,職域1件,医療機関10件であった。研究参加者数の中央値は108人,研究参加者の主な特徴は糖尿病患者と地域在住高齢者であった。臨床試験が4件(うち無作為化比較試験3件),非無作為の群間比較研究が7件,全員に同一の栄養指導を行った研究が4件であった。評価期間では3か月と6か月が最も多く,主な評価指標は体重,食事摂取状況,血液検査値,生活の質であった。14件で栄養指導の効果が認められた。栄養指導を複数回行うことの重要性を示す研究もあった。【結論】様々な対人の栄養指導についてその効果が示されたが,出版バイアスの可能性に留意する必要がある。今後,研究機関が地域と職域の関係者と連携できる仕組みの構築や人材の確保を図り,健康な成人への栄養指導の効果について,無作為割付による定量的評価研究をより一層積極的に推進しデータを蓄積する必要がある。
著者
高松 徹 大竹 はるか 上原 健志 新藤 雄司 池谷 敬 東海 浩一 池田 正俊 牛丸 信也 浅野 岳春 松本 吏弘 岩城 孝明 福西 昌徳 鷺原 規喜 浅部 伸一 宮谷 博幸 吉田 行雄
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.695-700, 2012 (Released:2012-11-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

症例は50歳の女性.繰り返す膵炎と心窩部痛の精査目的に当院紹介.造影CT,USで腫瘍や膵管・胆管拡張は認めなかったが,胆道シンチグラフィにて十二指腸への胆汁排泄遅延を認めた.入院時血液検査所見(無症状時)では肝胆道系,膵酵素,IgG4値の異常は認めなかった.ERCP所見は胆管挿管困難にてprecut施行後に胆管造影・IDUS実施したが器質的閉塞は認めなかった.主乳頭からは膵管像得られず,副乳頭からの膵管造影で背側膵管のみ造影された.膵炎の原因は膵管癒合不全と診断し,副膵管口切開術を施行した.また,biliary typeの十二指腸乳頭括約筋機能不全(SOD)も合併していると診断し,乳頭括約筋切開術も同時に施行した.その後,内視鏡的乳頭バルーン拡張術の追加を要したが,以後は膵炎の再燃も認めず自覚症状も改善している.膵管癒合不全を伴ったSODの報告は稀であり若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
村岡 哲也 池田 弘明
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.106-115, 2013-03-01 (Released:2018-01-31)
参考文献数
23

最近では,PCの普及によりディスプレイを使わない生活はありえない.しかし,眼の安全性を考慮して,ディスプレイの使用による眼精疲労が及ぼす作業への影響に関しては,自然科学としての観点から行なわれた研究は殆ど見られないようである.そこで,筆者らは眼精疲労に基づく目の焦点調節機能(視機能)の低下と可読性の劣化に焦点を当て,測定法提案や試料測定を行い,更に,可読性劣化の要因である作業効率(仕事率)の低下,誤読文字の増加などを測定・分析し,必要なパラメータをデバイス評価の定量的データとして収集・評価することを試みた.なお,本文では眼精疲労の物理的要因を調べるため,疲労による毛様体筋の温度上昇を測定して,ほぼ1℃程度の温度上昇が疲労に大きな影響を齎すことも明らかにした.試料はCRT,冷陰極管をバックライトとしたTFT-LCD,および白色LEDマトリックスをバックライトとしたTFT-LCDの3種類である.上述の結果を相対評価することにより,ヒューマン・マシン・インターフェースとして良好な特性を持ち,目に安全な型式のディスプレイを選別する方法を明らかにした.
著者
吉松 孝 池田 美奈子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.3_25-3_34, 2022-01-31 (Released:2022-02-05)
参考文献数
16

日本人被験者の米国と中国のシットコムに対する面白さの認識にどのような違いが生まれるのかを明らかにする。質問紙を用いて調査を行い、データ分析からどこに違いが生まれるのかについて可視化し、内容分析からなぜそのような違いが生まれたのかについて考察を行った.また,面白さを高く認識できた箇所と、面白さをほとんど認識できなかった箇所を抽出し、テキストの内容や感想から理由や背景を探った。 その結果、日本人被験者は、米国と中国シットコムを比較して、米国シットコムの方に面白さを高く認識し、また、面白さを高く認識できるラフ・トラックの挿入ポイントも米国作品の方が多かった。また、被験者は米国シットコムに対し、テンポが良い、下品、友人間の会話が多いという印象や感想を持ち、中国シットコムに対し、分かりにくい、動作が面白い、家族間の会話が多いという印象や感想を持つことが分かった。
著者
山下 大地 西牧 未央 長尾 秀行 池田 道生 沼田 幹雄 井上 謙二 西口 茂樹
出版者
独立行政法人 日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター
雑誌
Journal of High Performance Sport (ISSN:24347299)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.33-43, 2020

Wrestlers are categorized into a series of weight classes to ensure fair competition. Since the implementation of new rules in January 2018, weight categories and the timings of weigh-ins have changed. The purpose of the study was to establish baseline physical profiles, such as body composition, muscle strength, power, and endurance for Japanese elite freestyle wrestlers in each of the new weight classes. We collected a total of 242 data points from 70 elite Japanese male freestyle wrestlers at 14 training camps over two years. Body composition measurements, one-repetition maximum tests (bench press, parallel back squat, one-handed dumbbell snatch, and weighted chinup) and muscle endurance tests (pull-up) were performed. Body fat percentages for wrestlers in the 86-kg class or below were from 9.1% to 11.6%, whereas body fat percentages for wrestlers in the 92-, 97-, and 125-kg classes were 14.0 ± 3.5, 19.8 ± 6.9, and 26.6 ± 3.4%, respectively. This result suggests that the wrestlers in the heavier weight classes have a higher capacity to reduce body fat and increase muscle mass, which is essential if they improve strength and power. Absolute muscle strength and power performance tended to increase with heavier classes (the major results were as follows: 1RM bench press: 88.0 ± 13.0 kg in the 57-kg class and 142.0 ± 13.0 kg in the 125-kg class), whereas these relative values tended to decrease with heavier classes. Muscle endurance performance tended to decrease with heavier classes (the pull-up test: 23.8 ± 1.5 repetitions in the 61-kg class and 10.0 ± 5.4 repetitions in the 125-kg class). This study provides baseline data that can be used in the prescription of individual training programs for wrestlers, assessing areas of strength and weakness, and developing the wrestler's technical-tactical strategies.
著者
池田 俊明 杵崎 のり子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-12, 2016-09-30

我が国においては、以前より、児童生徒の学習意欲および自己評価の低迷が指摘され、いわゆる「やる気のなさ」が問題視されている。しかし、筆者が複数の小学校で行った児童からの聞き取り結果を、古典的動機づけ理論および近年の無意識研究の成果に照らして鑑みると、彼らの状況は「やる気はある、しかし取り組めない」と評価する方が妥当であると考えられる。そこで、無意識主の行動決定モデルのもと、意識、無意識両方に働きかけ、児童らが既に持っている学習意欲を抑え込まれた状態から解放し、行動へと繋がりやすくすることを目的に、学習ゲーム体験を軸とした一連のワークショップをデザインし、これを「やる気解放指向アプローチ」と名付けた。このアプローチを児童(小学4、5年生140人)に試みた結果、アンケートにおいて82.9%の児童に勉強観・自己評価の前向きな変化が見られ、48.6%の児童が、以前よりも勉強を頑張れるようになったと回答した。これらの結果は、やる気解放指向アプローチの有効性、およびその実施のためのツールとしての学習ゲームの有用性を示唆している。
著者
池田 新介 康 明逸
出版者
横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹連合)
雑誌
横幹連合コンファレンス予稿集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.45, 2011

ウェブによる全国規模の選好調査データを用いて、負債保有が双曲割引(現在バイアス)やせっかちさ(imaptience)の程度と正の相関をもち、符号効果(割引に関する利得損失の非対称性)と負の相関をもつことを示す。双曲割引との相関は、とくに単純な(ナイーブな)回答者に有意に検出され、深慮者(ソフィスティケイテッドな人)サンプルでは高々非有意な相関しか見られない。クレジットカード負債の保有や消費者金融の利用経験、債務不履行経験などの過剰債務傾向にも、双曲割引や忍耐力のなさと同様の相関が見られる。
著者
池田 稔 大澤 隆男 熊谷 健太 古谷 純
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.3_29-3_38, 2021-01-31 (Released:2021-02-20)
参考文献数
4

本稿は,日立製作所が2005年から2007年に実施した,多様な製品群を対象としたデザイン言語開発の枠組みについて述べるものである。そのプロセスや成果について具体的な実施例を示しながら報告することで,その有用性と展開の可能性について考察するものである。ここで扱うデザイン言語とは、製品の色彩や造形の表現を対象とする。 デザイン言語開発の枠組みは,大きく3つの活動から成っている。一つ目は、複数のデザイン言語開発を、一貫した考え方に基づいて行うためのデザインフィロソフィーの設定である。二つ目は、ユーザーの視点に基づいた製品カテゴリーの再分類である。三つ目は、前述2つの活動を踏まえた、具体的なデザイン言語の開発である。これらの活動をまとめ、デザイン言語開発の枠組みとした。本報告では、この枠組みについて詳しく述べるとともに、実際にそれを活用して行った生活家電製品とATMのデザイン開発の事例を紹介する。
著者
池田 豊
出版者
社団法人日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.17, no.180, pp.783-792, 1968
被引用文献数
1
著者
池田 碩
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.26, pp.33-49, 1998-03

現在存在している地形は不動のものではなく、長い歴史の中で生まれ、そして変形してきたものであり、今後も変化していく。だから我々が見ているものは、現在の時点の地形にすぎない。 地形形成にかかわり、地形を支配する要因には、組織・構造・地殻変動・気候・時間などがあげられる。これらのうち、筆者は組織と地形との対応関係という視点から「花崗岩」がつくる地形を調査してきた。 一般に組織の概念には、地形に影響を与える岩石の性質と地質構造が含まれる。しかし筆者は現在の地形を対象とするため、本論では岩石の性質(物性)と地形について考察する。このため、組織地形と岩石地形とはほぼ同意と考えている。 いろんな地形を構成する岩石の種類によってそれぞれの岩石の性質のちがいを反映した固有の地形(岩石制約)ができる。それにはさらに気候・気象環境のちがいが層地形の変化を助長させるため、世界には地域性に富んだ地形が形成される。一方、同一気候、同一の岩石からなる地域でも地形形成後の時間(年)や地形が位置している場の条件の差によって、多様な風化段階の地形が出現する。 以下、組織地形の視点から花崗岩・花崗岩地域の地形の事例を紹介し、基本的な考え方を述べる。
著者
稲又 泰代 宮林 郁子 古家 伊津香 大関 春美 池田 よし江
出版者
清泉女学院大学
雑誌
清泉女学院大学看護学研究紀要 = Seisen Jogakuin College Journal of Nursing (ISSN:24362379)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.39-51, 2021-03-31

高齢者の透析医療における意思決定支援に関する看護師の役割と課題を検討するために文献検討を行った.その結果,意思決定支援に関する看護師の役割では,透析療法適応と宣告された患者は,衝撃と不安から悲観的感情や絶望感をもち,意思決定までに時間を要する.看護師は,患者が腎代替療法を受けるか否か,患者や家族の思いや考えを十分に聞き,患者がどのようにしたいのか,家族が患者を支えるにはどのような支援が必要になるのかを十分に話し合うことが重要である.チーム医療のキーパーソンである看護師は,医師や訪問看護師と連携しながら,患者が療養生活を送れるようにコーディネートの役割やリーダーシップなどが求められていることが示唆された.また今後,高齢化社会に伴い,認知症などで患者自身が意思決定することが困難になることが予測され,高齢者の透析導入・非導入,透析を中断するか否か,緩和医療による看取りという方針が妥当か否か,早い時期からアドバンス・ケア・プランニング (以下ACP)が重要であると考える.
著者
池田 清子
出版者
一般社団法人 日本フットケア・足病医学会
雑誌
日本フットケア・足病医学会誌 (ISSN:24354775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.53-59, 2020 (Released:2020-08-31)
参考文献数
2

慢性腎不全患者は足病変のハイリスク群である. 医療者は患者の足切断を予防するため患者に正しく足病変を理解してもらい, 足を守るセルフケアを行ってもらうよう患者教育を行う. しかし, 患者教育の効果をあげるためには, 足病変を含め患者を全人的に理解する必要がある. そこで, 本稿では患者理解と患者教育に有用と考えられるセルフケアとセルフマネジメントの考え方を紹介する. セルフケアという言葉は, リハビリテーション領域や一般書でも見られる言葉であるが, 看護では動作や行動だけでなく, 人間の思考や判断, 信念や動機づけまでをも含む広い概念として理解されている. また, すべての人間は健康になりたいと願い, 能動的に環境に働きかける存在であることを前提としている. セルフマネジメントはセルフケアと似ている言葉であるが, セルフケアよりも首尾範囲が明確で, 実践に活用しやすいモデルである. 今後, セルフケア, セルフマネジメントを患者理解と患者教育に活用することで慢性腎不全患者の足切断が減少し, 患者のQOLが向上することが期待できると考える.
著者
下田 武良 川﨑 東太 鈴木 あかり 森田 正治 永井 良治 岡 真一郎 中原 雅美 池田 拓郎 髙野 吉朗 金子 秀雄 江口 雅彦 柗田 憲亮
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.132, 2016

<p>【目的】</p><p>本学では2010年より、クリニカル・クラークシップ(以下CCS)での臨床実習を関連施設で開始した。CCSとは従来の「患者担当型・レポート重視型」の指導形態から「見学・模倣・実施」の段階を経て、診療を経験する「診療参加型」の臨床実習である。実地の経験を積むことが臨床実習の役割であり、チェックリストを用いたCCSは経験値向上に有利であるとされている。そこで今回、CCSと従来型臨床実習の各検査測定項目における経験の有無について調査したので報告する。</p><p>【方法】</p><p>対象は、CCS方式である関連施設(急性期2施設、回復期1施設)で臨床実習を終了した37名、従来型方式である外部施設で臨床実習を終了した44名の学生とした。なお、各施設における学生間の学業成績に差はなかった。外部施設の選定基準は、主な対象疾患が中枢神経領域および運動器領域であり、施設区分が急性期もしくは回復期の病院とした。調査期間は2013年10月から2014年8月とし、各期8週間の臨床実習終了後にアンケート方式で調査した。アンケート内容は、臨床実習で検査・測定を行った疾患領域別の人数、および本学が使用しているCCSチェックリストの検査測定技術項目(40項目)の経験の有無とした。アンケート集計結果よりCCS群、従来型臨床実習群の一人当たりの疾患領域別経験人数、各検査測定項目の経験率を比較した。</p><p>【結果】</p><p>一人当たりの疾患領域別の経験人数では、CCS群が中枢神経領域6.5±5.2人、運動器領域7.2±5.4人、呼吸・循環器領域2.0±4.2人、その他0.7±1.6人、合計16.4±12.1人であった。従来型臨床実習群が中枢神経領域2.4±2.5人、運動器領域3.9±6.7人、呼吸・循環器領域1.7±4.6人、その他0.2±0.8人、合計8.2±11.5人であった。各検査測定項目の経験率では、CCS群が平均92.7±10.9%で、上腕周径、MMT(肩甲帯・手関節)を除く全ての項目が80%以上であった。従来型臨床実習群が平均81.6±17.4%で、上肢全般、頸部・体幹のMMT、ROM-t項目ならびに片麻痺機能検査において経験率が80%以下の結果となった。</p><p>【考察】</p><p>今回の調査では、中枢神経領域、運動器領域の検査測定を実施した経験人数に、大きな差がみられた。患者担当型である従来型臨床実習群に対し、診療参加型であるCCS群では、多くの疾患に対し検査測定の実施が可能となる。これらの結果から、各検査測定項目の経験率においても、上肢全般、頸部・体幹のMMT、ROM-t項目や片麻痺機能検査に差がみられたと考えられる。また、チェックリストを用いることで、指導者や学生に経験することの意識が働き、広い範囲で検査測定項目の実施に反映されたと考えられる。</p><p>【まとめ】</p><p>CCSは同じ測定項目であっても複数の患者に対して繰り返し経験でき、技術項目修得の向上が期待される。経験豊富なセラピストが理学療法をスムーズに進められるのも経験値の高さによるものであり、学生も経験を積み重ねることで臨床的感性の向上を期待したい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者には事前に紙面および口頭にて研究内容を説明し、同意を得たうえで実施した。</p>