- 著者
-
池田 貴儀
- 出版者
- 一般社団法人 情報科学技術協会
- 雑誌
- 情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.11, pp.471, 2021-11-01 (Released:2021-11-01)
今日,私たちの生活や仕事などのあらゆる場面においてインターネットは必要不可欠な存在となっています。インターネットは匿名性の高さが特徴の一つですが,コンテンツやサービスの利用時には氏名,住所,メールアドレスなどの個人情報が求められ,他方で通信履歴,行動履歴,位置情報なども事業者に取得・蓄積されており,これらの情報が何らかの理由で紐付づいてしまうと容易に個人が特定される恐れがあります。個人情報に関する問題として,企業や組織による情報漏洩事件が大きく話題になりますが,私たちの身近でも起こりうる可能性があります。例えばブログやSNSへの何気ない投稿から個人が特定され,誹謗中傷やプライバシー侵害につながる事例も増えつつあり,近年は社会問題となっています。一度公開された情報は複製が容易なことから急速に拡散し,そして半永久的に残り続けるため後から消すことが極めて困難です。そこで本特集では,インターネット上に不本意な形で個人情報が公開されている場合,その情報は消すことができるのかという切り口から,個人情報について考えてみたいと思います。まず,石井夏生利氏(中央大学)には,検索結果の削除を巡る諸問題について,国内外の「忘れられる権利」の動向を踏まえながら概説いただきました。次に,石原友信氏(違法・有害情報相談センター)と吉武希氏(株式会社メディア開発綜研)には,総務省支援事業である違法・有害情報相談センターの相談事例から,削除依頼を自ら行う必要のある相談者への支援体制,削除依頼先ごとの特徴や問合せ方法を紹介いただきました。続いて,数藤雅彦氏(五常総合法律事務所)には,インターネット上の肖像権侵害という観点からプロバイダに裁判手続を通じて行う発信者情報開示請求事件について分析を行い,裁判所の判断傾向を解説いただきました。次に少し視点を変えて,湯淺墾道氏(明治大学)には,個人情報保護法の保護対象から外れる故人のデジタルデータについて,様々な捉え方をしている海外の法制度を概観のうえ,日本の現状を分析し,今後の法整備で必要となる要点を整理していただきました。最後に,玉田和恵氏(江戸川大学)には,生徒や学生への情報モラル問題解決力の育成という教育的側面から,あらゆる世代にも通じる知識や考え方について解説いただきました。情報通信技術の急速な発達とその普及で様々な利便性が向上し,誰もが容易に情報を発信できる時代にあるなか,本特集が,より身近な問題として個人情報を考えるための契機となれば幸いです。(会誌編集担当委員:池田貴儀(主査),青野正太,中川紗央里,野村紀匡)