著者
白井 聡
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

報告者の平成18年度中の研究成果として最も特筆すべきことは、これまでのレーニンに関する研究をまとめた単著を刊行するめどをつけることができたことである。この著作は『未完のレーニン-<力>の思想を読む』と題され、5月10日に講談社選書メチエ・シリーズの一冊として刊行される予定である。本著作の内容の多くの部分は、報告者がこれまで雑誌等に発表してきた諸論考を元としているが、今回一冊の書物に編むにあたって、随所に大幅な改稿がなされた。本書は大枠として、レーニンの二つの著作、すなわち『何をなすべきか?』および『国家と革命』を精読するという体裁をとっているが、単に政治思想史的研究にとどまることなく、現代国家論・現代資本主義論・現代イデオロギー論といったアクチュアルな隣接諸領域についても踏み込んだ考察を行なっている。また、本書は読者への簡便性を考慮した選書シリーズの一環として刊行されるため、一般読者に対するわかり易さも考慮して書かれている。ゆえに、本書はマルクス主義思想への一種の入門書としても機能しうることが期待される。以上により、本書は古典的マルクス主義の思想についての内在的研究となっていると同時に、現代的諸課題について意義ある問題提起を行ないえている、と言えるだろう。また、報告者は2006年10月21日に社会思想史学会の第31回研究大会の<セッションA=マルクス主義の展開>において、「レーニンを再読する」と題した研究報告を行なった。同報告においては、今日レーニンの思想・ロシア革命を再検討する意義に関して、多くの社会思想研究者と意義深い意見交換を行なうことができた。
著者
白井 真理子 鈴木 直人
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.59-67, 2016-01-30 (Released:2016-04-12)
参考文献数
24
被引用文献数
6

This study examined differences of sadness elicited by six types of situation by using subjective ratings. The previous studies haven't clarified that physiological responses in sadness were uncertain compared with other emotions. These findings suggest one possibility that there are different types of sadness. In order to investigate this assumption, we created a questionnaire composed of descriptive terms to express sadness. The questionnaire was extracted three factors, “tear,” “chest ache,” and “powerless.” Using this, we also examined the time-course change of features of sadness based on six sadness-eliciting situations. Results showed two patterns of change as time progressed. Type 1 is that ratings of three factors maintain high value along time change. This pattern is elicited by situations such as loss, personal injury or disease and loneliness. Type 2 is that ratings decreased over time. This pattern is elicited by situations like unable to achieve a goal, romantic breakup and family friction. In conclusion, considering temporal change, this study revealed two different features showed in three factors suggesting the possibility that different types of sadness were reflected in subjective ratings.
著者
白井 章代 森下 章司 東村 純子
出版者
大手前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

古代日本において最も高貴な色とされた紫染について、絶滅危惧種に指定されている日本原産ムラサキの栽培実験、『延喜式』ほか史料や紫根関係木簡に記された素材と量の意味の検討、条件を変えて染色サンプルを作成する各種実験、それらを総合して一疋の「深紫」を再現する染色実験を行った。実験過程において、『延喜式』や出土木簡に記された素材の役割や量の意味を検証し、紫根染めに必要な素材の条件や技術を確認した。紫根栽培の管理と移送法、素材の確保、各種工程の必要条件など、古代国家管理において成立しえた紫根染生産の特質を明らかにした。
著者
清水 基之 田中 英夫 高橋 佑紀 古賀 義孝 瀧口 俊一 大木元 繁 稲葉 静代 松岡 裕之 宮島 有果 高木 剛 入江 ふじこ 伴場 啓人 吉見 富洋 鈴木 智之 荒木 勇雄 白井 千香 松本 小百合 柴田 敏之 永井 仁美 藤田 利枝 緒方 剛
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.271-277, 2023-08-31 (Released:2023-09-21)
参考文献数
22

目的:日本の新型コロナウイルス第6波オミクロン株陽性者の致命率を算出し,これを第5波デルタ株陽性者と比較する.方法:2022年1月に7県3中核市3保健所で新型コロナウイルス感染症と診断され届出られた40歳以上の21,821人を,当時の国内での変異型流行状況からオミクロン株陽性者とみなし,対象者とした.死亡事実の把握は,感染症法に基づく死亡届によるpassive follow up法を用いた.2021年8月~9月にCOVID-19と診断された16,320人を当時の国内での変異株流行状況からデルタ株陽性者とみなし,同じ方法で算出した致命率と比較した.結果:オミクロン株陽性者の30日致命率は,40歳代0.026%(95%信頼区間:0.00%~0.061%),50歳代0.021%(0.00%~0.061%),60歳代0.14%(0.00%~0.27%),70歳代0.74%(0.37%~1.12%),80歳代2.77%(1.84%~3.70%),90歳代以上5.18%(3.38%~6.99%)であった.デルタ株陽性者の致命率との年齢階級別比は,0.21,0.079,0.18,0.36,0.49,0.59となり,40歳代から80歳代のオミクロン株陽性者の30日致命率は,デルタ株陽性者のそれに比べて有意に低かった.また,2020年の40歳以上の総人口を基準人口とした両株の陽性者における年齢調整致命率比は0.42(95%信頼区間:0.40-0.45)と,オミクロン株陽性者の致命率が有意に低値を示した.結論:日本の50歳以上90歳未満のCOVID-19第6波オミクロン株陽性者の致命率は,第5波デルタ株陽性者に比べて有意に低値であった.
著者
白井 邦博 小谷 穣治
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.30-34, 2023-02-15 (Released:2023-03-15)
参考文献数
39

重症患者では,侵襲による蛋白の異化亢進と同化抑制が引き起こされて,筋蛋白が急激に喪失する.この病態は,合併症や死亡率を増加させるだけでなく,救命できた患者でもQOL(quality of life)を低下させる原因となる.このため,崩壊した蛋白を補充して同化を促進する目的で,早期から最適な栄養投与量を設定する必要がある.最近は急性期の目標エネルギー量はunderfeedingが推奨されているが,蛋白投与量についてはいまだ議論されている.ただし,初回から高用量の蛋白投与は有害であり,最初の3日間は0.8g/kg/日未満として,その後は段階的に増量しながら,急性期から回復期までには少なくとも1.2~1.5g/kg/日の投与が必要となる.さらに,早期離床など積極的にリハビリテーションを栄養療法と組み合わせることで,蛋白同化を促進してQOLを向上させる可能性がある.
著者
大平 征宏 齋木 厚人 大城 崇司 鈴木 和枝 龍野 一郎 白井 厚治 秋葉 哲生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.272-277, 2013 (Released:2014-02-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

症例は減量手術後に体重増加を来した51歳女性。若年時より肥満があり,30歳の時に糖尿病を発症した。45歳時には糖尿病性ケトアシドーシスで入院した。48歳時に過食症の診断も受けており,食事・運動療法では減量困難であった。減量手術を受け,体重は減量手術後6ヵ月で11kg 減少した。しかし,術後7ヵ月頃からリバウンドした。この頃,精神状態も不安定であり,日中は常に何かを食べている状態であった。不安定な精神状態の治療を目的に,抑肝散エキス5g/日を投与した。抑肝散投与後,摂取エネルギーの減少に伴って体重は減少した。患者本人も精神状態の改善を自覚した。また,HbA1c(JDS)も抑肝散投与後に8.7%から7.1%に改善した。本症例では抑肝散が患者の精神的不安定を改善することによって過食を抑える事で,体重減少およびHbA1c の改善が得られた可能性が示唆された。
著者
白井喬二 著
出版者
扶桑書房
巻号頁・発行日
vol.第1巻 (民人篇), 1949
著者
今井 則夫 難波江 恭子 河部 真弓 安藤 好佑 戸田 庸介 玉野 静光 野島 俊雄 白井 智之
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第35回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.123, 2008 (Released:2008-06-25)

【目的】携帯電話の利用者数は年々増加しており、精巣も携帯電話の長時間使用によって電磁波にばく露される対象臓器であり、精巣毒性が懸念される。そこで、携帯電話で用いられている1.95GHz電磁波の精巣毒性の有無について、ラットを用いて検討した。【方法】ばく露箱内の照射用ケージにSD系雄ラットを入れ、ばく露箱内上部に直交させたダイポールアンテナで、周波数1.95GHz、W-CDMA方式の電磁波を全身に照射した。電磁波ばく露は、性成熟過程である5週齢から10週齢に至る5週間、1日5時間行った。照射レベルは全身平均SAR(Specific absorption rate)が0 W/kg(対照群)、0.08 W/kg(低ばく露群)および0.4 W/kg(高ばく露群)の3段階を設定した。なお、実験は各群24匹を2回(1回に各群12匹)に分けて行った。ばく露終了後、剖検を実施して全身の諸器官・組織の肉眼的病理学検査を実施し、雄性生殖器の器官重量の測定を行うとともに、精子検査(精子の運動率、精巣および精巣上体の精子の数、精子の形態異常率)を行った。また、雄性生殖器の組織について病理組織学的に評価するとともに、精巣のステージング(精子形成サイクルの検査)についても評価した。【結果】ばく露期間中に死亡例はみられず、一般状態においても著変は認められなかった。体重、摂餌量、雄性生殖器系器官・組織の重量、精子の運動率、精巣上体の精子数、精子の形態異常率、精巣のステージ分析において、ばく露群と対照群との間に有意な差は認められなかった。また、肉眼的病理学検査および病理組織学的検査においても電磁波ばく露に起因すると思われる変化は認められなかった。【結論】5週齢のSD系雄ラットに1.95GHz電磁波を5週間全身ばく露した結果、電磁波ばく露の影響と考えられる変化がみられなかったことから、電磁波ばく露による精巣毒性はないと判断した。(この研究は社団法人電波産業会(ARIB)の支援によって実施した)
著者
白井 暁彦 久米 祐一郎 津田 元久 畑田 豊彦
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 21.6 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
pp.77-84, 1997-02-03 (Released:2017-06-23)

3次元ディスブレイによって生成された物体との対話において、視覚に加えて触覚や力覚情報の人間への提示が重要である。本研究では皮膚の2点に振動刺激を与えることによって生じるファントムセンセーションを用いて、把持時の疑似力覚の提示を試みた。小型の工具を把持する際に指・手掌部との接触握部に振動子を組み込むことにより、刺激素子の装用感が少ない状態で、皮膚に振動刺激を与えることが可能である。本報告では指・手掌部の振動刺激に対する皮膚感覚の受容特性、静的や動的ファントムセンセーションの生起条件等を明らかにした。また2つの振動子と、PSDを用いた光学式3次元位置検出法と組み合わせ、力学的なバランス感覚も提示できる3次元画像との仮想対話作業ツールを試作した。
著者
白井 嵩士 榊 剛史 鳥海 不二夫 篠田 孝祐 風間 一洋 野田 五十樹 沼尾 正行 栗原 聡
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
JSAI大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.1C3OS121, 2018-07-30

<p>ソーシャルメディアでは多くのユーザーが活発な情報交換を行っており、情報が短時間で拡散するという特徴がある。しかし、これらの中にはデマ情報も含まれており、デマ情報の拡散が問題視されている。本研究ではTwitterにおけるデマ情報およびデマ訂正情報の拡散に焦点を当て、これらの拡散の様子を解析するとともに、感染症の伝播モデルを応用した拡散モデルを提案し、早急なデマ拡散の収束を目的とする方策を検討する。</p>
著者
白井 真理子 伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.107-119, 2018 (Released:2018-12-27)

近年笑われることを極度に恐れる「笑われ恐怖症(gelotophobia)」という概念が報告されている。笑われ恐怖症を発症する背景には,感情が深く関わっていることが指摘されているにも関わらず,そもそも笑われることによりどのような感情が生じるのかについては,実証的に検討されていない。本研究の目的は,失敗を笑われるという不快な状況に至るまでに生じる感情について,探索的に検討することである。大学生25名(男性17名,女性8名,平均年齢19.92歳)を対象に,登場人物が転んで泣く(転倒条件)・転んで友人に見られて泣く(友人条件)・転んで友人に見られて笑われて泣く(笑われ条件)の3条件を提示し,質問紙により各条件で生じた感情について自由記述を求めた。すべての条件で報告された感情は,恥,痛み,悲しみ,怒り,驚きの5つであり,最も多く報告された感情は恥であった。本調査の結果より,失敗を笑われることに伴う感情は様々であったことから,笑われることで生じる感情の複雑さが示唆された。これまで笑われ恐怖症の核となる感情として,恥の感情が深く関わっていることが指摘されてきたが,今後は,恥以外の感情も含めて明らかにする必要がある。