著者
若林 明雄
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
性格心理学研究 (ISSN:13453629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.122-137, 1998

本論は, 1980年以降アメリカを中心に社会現象にまでなった`多重人格(現在は解離性同一性障害)'という現象について, その基底症状である解離という現象と併せて精神病理学的ならびに認知心理学的に再検討し, その症状の発現メカニズムについて考察することを目的とする.まず, 多重人格の基底症状である解離性障害(従来のヒステリー)について精神分析学的視点から病因論的に考察し, Freud以降心因論的に説明されていた解離症状が外傷性障害として再認識される傾向があることを指摘した.次に, パーソナリティ傾向と多重人格との関係について, 被催眠性-ヒステリー傾向の観点から両者の親和性を明らかにした.さらに, 多重人格を含む解離性障害の基本症状である健忘(記憶障害)について認知心理学的に検討し, 解離は心因性の記憶機能障害であり, 脳神経レベルの機能障害を伴うこと, そして多重人格は特殊な場合における記憶障害である可能性があることを示唆した.さらに, 解離および多重人格と記憶に関する神経生理学的研究から, 障害の基底に大脳辺縁系が関与していることを示した.以上の諸点を整理した結果, 多重人格症状は, 生得的な被催眠性の高さを準備状態とし, そこに自我形成期の前後にわたる重大な外傷的体験を被ることによって形成される個人内同一性間健忘という特殊な解離症状として説明できることを明らかにした.
著者
永関 慶重 深町 彰 小泉 英仁 田崎 健 若尾 哲夫
出版者
The Japan Neurosurgical Society
雑誌
Neurologia medico-chirurgica (ISSN:04708105)
巻号頁・発行日
vol.20, no.12, pp.1239-1246, 1980 (Released:2006-11-10)
参考文献数
30

The authors reported a case of acute epidural hematoma which developed four hours after irrigation of the chronic subdural hematoma. A 56-year-old man was admitted. He was drowsy and disorientated with a one-month history of headache and dysarthria, but no other neurological deficits were noted. Laboratory data including bleeding and coagulating time, were all within the normal ranges. CT scanning and left carotid angiography showed a large left subdural hematoma. Irrigation of the subdural hematoma was performed the next day through two burr holes in the left fronto-parietal region under local anesthesia. About 150 ml of subdural hematoma was removed. Four hours after irrigation, he was semicomatose with right hemiplegia. CT scanning was immediately performed and reveled a epidural hematoma in the left parieto-occipital region. About 120 g of epidural hematoma was removed by left parieto-occipital craniotomy nine hours after the first operation. He gradually improved, and was discharged ambulant on the 51st postoperative day. The presumptive pathogenesis responsible for the development of the epidural hematoma in this case was bleeding from small dural vessels after detachment of the dura from the skull in the left parieto-occipital region. It was considered that the detachment occurred at the posterior burr hole in the beginning and was then accelerated by postoperative intensive evacuation of the hematoma through a closed-system drain.
著者
田中 里奈 若林 たけ子 東中須 恵子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.113-121, 2016-09-30

本研究では、入院中の患者が衣服を選択する理由について明らかにし、その衣服が闘病意欲に与える影響について考察することを目的とした。 対象は衣服の自由選択を前提に病衣貸与体制を導入しているY総合病院に入院中で、研究協力に承諾が得られた患者62名。方法は患者のベッドサイドで質問紙に基づいた聞き取り調査を行った。対象となった入院患者62名中、妊婦を除く男性24名、女性30名の計54名を分析対象とした。分析は Microsoft Excel を用いた統計処理とt検定、χ2検定、及び記述的に分析した。 対象の特性は、病衣選択者74.1%で、t検定5%水準で女性の方が病衣の着用が有意に高い集団であった。これは入院対象者が家族と同居している割合が88.9%と高く、そのうち85.2%が家族に洗濯を依頼していたことが影響しているものと考える。私服を選択する理由は、病衣に対する抵抗感と、デザインやカラー、サイズが選べて動きやすい、着心地が良いために落ち着くなどの私服としての得点に二分されていた。病衣に対して不満を持っている割合は50%であったが、性別では女性のほうが男性よりも20%以上高かった。これは、一般的に合理性を重視するといわれている男性特有の性格的なことが影響しているのではないかと考える。病衣に対する不満理由は恥辱感、個の尊厳の喪失感、不合理性、不快感の4つの因子とその他で構成されていた。これは不満理由として女性から多く挙げられていたことと、清潔、耐久性、利益などの病衣としての特徴を備えていることではないかと考える。衣服と闘病意欲と性別との関係では、男性よりも女性のほうが闘病意欲は高く、病衣と私服と闘病意欲の関係では病衣のほうがχ2検定1%水準で有意に低かった。これは女性のほうが、退院後にも家庭での役割を持つためと考えられる。また、私服は社会性を維持していくために影響しているものと考えられた。 以上から入院中でも、個の尊厳を維持できる衣生活を心がける事が重要である。
著者
日本小児歯科学会学術委員会 山﨑 要一 岩﨑 智憲 早﨑 治明 齋藤 一誠 徳冨 順子 八若 保孝 井上 美津子 朝田 芳信 田村 康夫 嘉ノ海 龍三 牧 憲司 吉原 俊博 船津 敬弘 手島 陽子 上里 千夏 山下 一恵 井出 正道 栗山 千裕 近藤 亜子 嘉藤 幹夫 渡邉 京子 藤田 優子 長谷川 大子 稲田 絵美
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.29-39, 2010-03-25 (Released:2015-03-12)
参考文献数
58
被引用文献数
13

永久歯の先天性欠如は,その発現部位や欠如歯数によって様々な歯列咬合異常を誘発するため,小児期からの健全な永久歯咬合の育成を目標とした継続的な口腔管理を行う上で大きな問題となる。我が国の先天性欠如の発現頻度の報告は,単一の医療機関を受診した小児患者の資料に基づいたものが多く,被験者数も限られている。そこで,日本小児歯科学会学術委員会の企画で国内の7 大学の小児歯科学講座が中心となり,我が国初の永久歯先天性欠如に関する全国規模の疫学調査を実施した。参加7 大学の代表者と実務者による全体打ち合わせ会を通して,調査方法の規格化や症例の審議を重ね,調査の信頼性向上に努めた。対象者は,大学附属病院の小児歯科,またはこれらの大学の調査協力施設に来院し,エックス線写真撮影時の年齢が7 歳以上であった小児15,544 名(男子7,502 名,女子8,042 名)とした。第三大臼歯を除く永久歯の先天性欠如者数は1,568 名,発現頻度は10.09%であり,男子が9.13%,女子が10.98%であった。上顎では4.37%,下顎では7.58%に認められた。上顎および下顎における左右の頻度の差は0.11%,0.14%であり左右差は小さかった。歯種別では,下顎第二小臼歯に最も多く認められ,次いで下顎側切歯,上顎第二小臼歯,上顎側切歯の順であった。
著者
三遊亭 円若
出版者
リーガル
巻号頁・発行日
1935-03

4 0 0 0 呂赫若日記

著者
呂赫若作
出版者
國家台灣文學館
巻号頁・発行日
2004
著者
若宮 由美 Yumi WAKAMIYA
出版者
埼玉学園大学
雑誌
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇 = Bulletin of Saitama Gakuen University. Faculty of Humanities (ISSN:13470515)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.157-169, 2011-12-01

In 1894 the ballet "Rund um Wien" was composed by Josef Bayer in order to celebrate the 50th anniversary of the musician life of Johann Strauss junior, and performed in the Viennese Court Opera. The 3rd scene of this ballet consists of the motifs of Strauss. On October 13 of the premiere the applause to Johann Strauss did not die down after the end of the 3rd scene. The music of the 3rd scene is contained in melodies of Johann Strauss's "Sinngedichte" op.1 and the other early works. These quotations praised the starting point of Johann Strauss. Also after that, this work continued being performed at the Viennese Court Opera over ten years. The ballet may have been revised after the premiere.
著者
佐藤 若菜
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.305-327, 2014

本稿は父系親族組織を特徴とする中国貴州省のミャオ族を事例に、その民族衣装を介して形成される母娘関係について検討する。特に衣装の製作・所有・譲渡の様態と、婚礼後に見られる実家・婚家間での女性の移動パターンが、1990年頃を境に大きく変化した点に着目する。清水昭俊は、親子の身体的・霊的要素の連続性からかつての接触や融合を想起することで繋がれる両者の関係を、呪術的な性格をもつ「共感的な」関係と表現した。これに対し本稿では、現地の社会経済的な変化とともに生起した母と娘との関係を明らかにすることで、この関係もまた衣装を介して「共感的」に築かれたことを指摘する。1980年代までミャオ族の女性は婚礼を挙げると一旦実家に戻り、数年滞在してから婚家での生活を始めていた。新婦は実家での滞在を終え、婚家へと移動する際に衣装を持参していたのである。しかし1990年代以降、この実家での滞在期間は数日間に縮小され、新婦は早々と婚家での生活を始めるか、夫とともに出稼ぎに出るようになった。その一方で、衣装を婚家へ持参する時期は、その後の第2子出産か実母の死去まで延期されるようになったのである。これにより娘が実家を離れてもなお、衣装を介した母娘関係は持続するようになった。以上の事例から、衣装がつなぐ母娘間の「共感的」関係は、身体的・霊的要素によって内在的に親子の間に存在したのではなく、むしろ現地の社会経済的な動態を背景に築かれたことを示す。すなわち、衣装の価値の高まりと、実母が娘の衣装を製作するというサイクルの普及、および婚姻の変化によって、衣装は既婚女性の(実家ないし婚家への)帰属に働きかけるものとなった。これにより、母親が娘のために製作した衣装をめぐって母娘間に新たな所有の関係が生まれ、そこに娘の婚家への移動過程の変化を反映した意味づけがなされたことにより、1990年代以降、衣装を介した母娘の「共感的」関係が動態的に生起したことを指摘する。
著者
佐藤 繭子 若崎 眞由美 後藤 友美 豊岡 公徳
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.25-29, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
11

電子顕微鏡の試料固定には,大きく分けて化学固定法と凍結固定法がある.凍結固定法の利点として,化学固定法で起こる物質の流出や変形を防げること,生命現象を高い時間分解能で固定できること,免疫金染色法での抗原の保持が良いことなどが挙げられる.凍結固定法にはいくつかの方法があるが,大きな細胞をもつ植物試料には高圧凍結法が適している.我々はこれまでに,シロイヌナズナ,タバコの各種組織・培養細胞の他,単細胞藻類などについて高圧凍結/凍結置換法で電子顕微鏡解析を行ってきた.これまでに得られた技術的知見や課題について,実例を挙げて紹介する.
著者
古山 若呼
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

エボラウイルスのGPに対して誘導される抗体の一部はin vitroでウイルスの感染を増強することが知られている(抗体依存性感染増強現象Antibody-dependent enhancement: ADE)。この現象は、デングウイルスを含む多くのウイルスで報告されており、主に抗体がFcγレセプターIIa (FcγRIIa) を介して細胞とウイルスとを架橋し、ウイルスの吸着効率が上昇することによって引き起こされると考えられている。さらに、エボラウイルスではFcγRIIaだけではなく、補体成分であるC1qおよびC1qレセプターを介したADEも報告されている。しかし、ADEの詳細なメカニズムは明らかとなっていない。そこで、本研究ではADE抗体存在時のエボラウイルス感染における宿主細胞内シグナル経路やウイルスの侵入経路を、ADE抗体非存在時の感染と比較することによって、ADEに特異的なメカニズムを分子レベルで解明することを目的とした。昨年度は、エボラウイルスに対する抗体がADEを引き起こすためは、宿主細胞のFcγRIIaを介したシグナルであるSrc Family PTKsが重要であることを、実際のエボラウイルスを用いて明らかにした。また、ADE抗体がFcγRIIa下流のSrc Family PTKsを介したシグナル伝達経路を活性化し、マクロピノサイトーシス/ファゴサイトーシスを誘導することによって細胞へのウイルスの取り込み効率を上昇させ、その結果、感染増強が引き起こされていることを明らかにした。本年度は、これらすべての結果をまとめ論文を執筆しPLoS Pathogensに掲載された。
著者
宮田 洋輔 上田 修一 若宮 俊 石田 栄美 倉田 敬子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.109-118, 2017 (Released:2017-07-14)
参考文献数
10

現代における学会発表の位置づけを考察することを目的として,ウェブサイトに対する事例調査とメールによる質問紙調査を実施した。54 学会を対象とした事例調査からは,研究集会の定期開催,開催事務局への依存と前例を踏襲する傾向が分かった。質問紙調査では世界中の285 学会からの回答を分析した。その結果,1)自然科学・医学系ではポスター発表も採用,2)ほとんどで査読を実施,3)人文学・社会科学系では配布資料・口頭のみでの発表も認められていること,4)発表資料の電子形式での記録,提供はあまりなされていないこと,などが明らかになった。以上から,研究者のインフォーマルな交流の場としての研究集会という認識は大きく変化していないこと,学会発表は研究集会の一部と見なされていること,発表を研究成果として独立して蓄積し,広くアクセスできるようにする意識が弱いことが示唆された。
著者
若江 茂
出版者
丹波史談会
雑誌
丹波
巻号頁・発行日
no.20, pp.8-19, 2018
著者
若林 茂 里内 美津子 野上 義喜 大隈 一裕 松岡 瑛
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.471-478, 1991-12-19 (Released:2010-02-22)
参考文献数
29
被引用文献数
8 17

馬鈴薯デンプンを加熱分解して調製した難消化性デキストリン (PF: 食物繊維含有量58.2%, およびPF-C: 91.6%) の脂質代謝に及ぼす影響をラットを用いて検討し, 以下の成績を得た。(1) コレステロール無添加飼料で5週間飼育したラットの血清コレステロール (119±7.6mg/dl) およびトリグリセライド値 (218±39.0mg/dl) は, PF-C 10%摂取により, それぞれ有意な低下 (94.2±6.0および145土20.0mg/dl) を示した。(2) 市販固形飼料を給餌したラットに飲料水としてPF (20%水溶液) およびPF-C (5~20%水溶液) を5週間与えたとき, 血清および肝臓コレステロール値は有意に低下し, その程度は摂取したPFおよびPF-C水溶液の食物繊維含有量に依存していた。(3) そのときの糞便中への総胆汁酸排泄量は, PFおよびPF-C摂取群で有意な増加を示し, 同様に, (4) 盲腸内容物中の総短鎖脂肪酸量, とくにプロピオン酸量は有意に高値であった。また, (5) 体重, 血清総タンパク質, カルシウム, GOTおよびGPT活性は, PFおよびPF-C摂取によってなんら影響を受けなかった。さらに, (6) 飲料水交換法により, PF-C摂取の有無によって血清および肝臓コレステロール値は容易に変化することが確認された。