- 著者
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西村 周泰
高田 和幸
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.158, no.1, pp.52-56, 2023 (Released:2023-01-01)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
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神経変性を伴う脳疾患は一度発症すると治療することが困難であることから,超高齢社会に突入した日本社会にとっては神経変性の予防法および根治治療法の確立は患者本人のQOL向上や介助に携わる患者家族および医療従事者の負担軽減の観点からも喫緊の課題となっている.ヒト多能性幹細胞(iPS細胞)の登場は,このヒト特有の神経変性疾患の病態の理解,その理解に基づく予防・治療戦略の開発に大きな貢献を果たしている.さらにiPS細胞技術と呼応するかのようにライフサイエンス,メディカルサイエンス,情報工学の分野からも分野横断的な新しいサイエンスの流れが出来つつある.本稿では,さまざまな研究領域や技術の融合の例として,筆者らが進めている神経変性疾患の再現研究について紹介する.筆者らは代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病とパーキンソン病の病態の理解と新規治療法の開発を目的に,ヒト細胞を用いて脳領域特異的な神経細胞と脳内免疫担当細胞であるミクログリアを誘導し,病態再現研究を進めてきた.この過程で,発生生物学や薬理学のような基盤的な学問領域のみならずトランスクリプトーム解析やダイレクトコンバージョンなどの比較的新しい技術を取り入れながら研究に取り組んでいる.これらの知見に基づいてヒトiPS細胞から必要な種類の細胞を誘導し融合させることで,高次脳機能や病態の一部を単純化して再現することが可能となる.このような,ヒト細胞を用いたヒトの疾患の理解に向けたアプローチにより,ヒト脳研究もますます前進し,人々の健康増進に寄与することが期待される.