著者
GOH Ah-Cheng
出版者
Japanese Society of Physical Therapy
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.253-256, 2012-06-20 (Released:2018-08-25)

Van der Vleutenらによると,臨床的推論技術は,治療技術と同様に重要なものだと述べている。臨床的推論プロセスは,起きている問題の原因を特定し,正しい治療目的を設定し,さらに最適な治療技術を施すために重要なものであり,患者に治療を施す前に行われるものである。たとえ優れた技術をもった治療者であっても,適切な臨床的推論技術なしには効果的な治療を患者に行うことはできない。適切な治療技術に関係する事項について述べることは,今回の目的ではない。しかし,よい臨床的推論技術が,治療結果を成功に導く前提条件であるということを認識することは重要である。理学療法士は,専門分野や臨床経験年数の違い,バイオメディカルサイエンスについての知識量により,様々な臨床的推論プロセスが用いられている。これらの要素については,物理療法を例に用いながら述べていく。物理療法の臨床的推論プロセスは,図1に示した。ステップ1では,標的組織にどのような生物物理学的変化をもたらしたいかを決定する。たとえば急性損傷の場合,炎症過程において,熱感,発赤,疼痛,腫脹の4つの兆候がみられる。そのため,急性炎症の治療では,組織を冷やすことが必要となる。ステップ1で他に必要となるのは,生物物理学的変化をもたらすために,最適な物理療法介入がなんであるかを判断することである。今回の例では,寒冷療法(アイスパックやアイスマッサージ)が,損傷組織の温度を下げるためにもっともよく用いられる方法である。ステップ2では,標的組織に対し期待する生理学的効果を決定する。たとえば,組織温度が15℃まで減少した時には,血管収縮が起こり,血流が減少する。一方,組織温度が10℃まで減少するか,寒冷療法を15分以上行うと,血管拡張が起こり,結果として血流が増加する。このようなことから,求める生理学的効果が損傷組織周囲の血流を減少することであれば,寒冷療法は15分以下とし,組織温度の減少は15℃程度とする。ステップ1と2で行われた決定により,ステップ3の臨床効果へと続いて行く。今回の例では,臨床効果は腫脹の減少により得ることができる。今まで述べた臨床的推論と医療判断プロセスは,物理療法を用いたすべての治療法に用いることができる。効果的な治療効果を得るために,理学療法士は臨床場面での臨床的推論と医療判断学の重要性を理解することが必要である。
著者
谷口 善昭 牧迫 飛雄馬 中井 雄貴 富岡 一俊 窪薗 琢郎 竹中 俊宏 大石 充
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.12150, (Released:2022-02-22)
参考文献数
47

【目的】地域在住高齢者における骨量・筋量低下と身体活動との関連性を明らかにすることを目的とした。【方法】地域コホート研究(垂水研究2018)に参加した地域在住高齢者173 名を分析対象とした。骨量低下は%YAM が70% 以下とし,筋量低下は四肢骨格筋指数がサルコペニアの基準より低いものとした。身体活動量は3 軸加速度計を用いて,座位行動時間延長,中高強度身体活動時間低下,歩数低下の有無に分類した。骨量・筋量をもとに正常群,骨量低下群,筋量低下群,骨量・筋量低下群の4 群に分類し,基本情報および身体活動を比較した。【結果】骨量・筋量低下群は正常群と比べて中高強度身体活動時間が有意に減少していた(オッズ比3.29,p < 0.05,共変量:年齢(5 歳階級),性別,歩行速度低下,うつ傾向)。【結論】骨量・筋量低下を併存している高齢者は,中高強度身体活動時間が減少していることが示唆された。
著者
西角 暢修 若杉 樹史 水野 貴文 山内 真哉 笹沼 直樹 内山 侑紀 道免 和久
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.12117, (Released:2022-01-25)
参考文献数
15

【目的】二次進行型MS 患者の下腿三頭筋の痙縮に対して,FES を前脛骨筋に実施し,痙縮の減弱に伴い歩行能力向上を認めたため報告する。【症例】40 歳台男性。再発と寛解を繰り返しているMS 患者で,今回4 度目の再発にて歩行困難となり入院。ステロイドパルス療法が施行されたが,右下腿三頭筋の痙縮や前脛骨筋の筋力低下が残存し,歩行が不安定であった。【方法】FES は,歩行練習中に右前脛骨筋に対して5 日間実施した。評価は,介入前後でMAS や足クローヌス,6 分間歩行距離などを測定した。【結果】FES 介入前後でMASは2→1+,クローヌススコアは4 →1,6 分間歩行距離は80 m →150 m であった。【結論】前脛骨筋へのFES は,即時的に下腿三頭筋の痙縮を減弱させ,立脚期の反張膝や遊脚期での躓きが減少することで,歩行能力を向上させる可能性があることが示唆された。
著者
渡邊 慎吾 大瀧 亮二 小野 修 齋藤 佑規 竹村 直
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.43-48, 2022 (Released:2022-02-20)
参考文献数
18

【目的】亜急性期脳卒中者に対するBody Weight Supported Overground Training(以下,BWSOT)の効果を検討した。【方法】脳梗塞により右片麻痺を呈した73 歳男性を対象とした。ABA シングルケースデザインを用い,A 期は通常の理学療法を実施し,B 期はA 期の介入に加えてBWSOT を実施した。評価項目は歩行速度,6 分間歩行距離,麻痺側Trailing Limb Angle(以下,TLA)および麻痺側足関節底屈モーメントとした。【結果】歩行速度,6 分間歩行距離はA 期と比べ,B 期でより大きな改善を認めた。さらに歩行速度,6 分間歩行距離の改善に伴い,TLA,足関節底屈モーメントの改善がみられた。【結論】BWSOT は亜急性期脳卒中者の歩行能力,運動学・動力学的指標を改善し得る理学療法戦略であると考えられた。
著者
大平 高正 池内 秀隆 伊藤 恵 木藤 伸宏
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.420-425, 2004-12-20 (Released:2018-09-25)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究の目的は,高齢者を対象に歩行開始時の足圧中心点(以下,COP)の後方移動(以下,逆応答現象)を調べ,1)足指筋力,足関節背屈筋力,歩行開始前後の静的バランス能力との関連性を調べること,2)各パラメータの若年者との相違を調べ,高齢者における逆応答現象の移動距離が減少する要因を調べることである。中枢神経疾患の既往の無い,在宅生活を送っている自立歩行可能な高齢者15名を対象とした。計測パラメータは,①逆応答現象の前後方向最大距離 : As,②逆応答現象の左右方向最大距離 : Al,③歩行前静止立位バランス : Bd,④歩行後静止立位バランス : Ad,⑤逆応答出現までの潜時 : Cd,⑥足指最大圧縮力体重比 : Fg,⑦足指圧縮力の増加の傾き : Gs,⑧足指圧縮力発生までの潜時 : Gd,⑨足指圧縮力発生から最大圧縮力までの時間 : Tp,⑩足関節背屈トルク体重比 : Dtとした。AsとAlに強い正の相関が認められた。AlとBdに負の相関が認められた。CdとGdに正の相関が認められた。若年者群との比較では,高齢者群はGsが有意に低かった。転倒群に対し運動療法を施行するとAl,Gsの増大,Bd,Gdの短縮が認められた。今回の調査では,高齢者の逆応答現象に関与する因子の明確化には至らなかった。
著者
宮城島 一史 対馬 栄輝 石田 和宏 佐藤 栄修 百町 貴彦 柳橋 寧 安倍 雄一郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.291-296, 2018 (Released:2018-10-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は,腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対する入院中の電気療法の継続効果を検討することである。【方法】対象は,腰椎後方手術後に下肢症状が遺残した50 例とし,症状部位に10 分間電気療法を実施した。入院中に電気療法を継続した例(電気継続群),電気療法の継続を中止した例(電気中止群)の2 群に分類し,下肢症状のVAS を調査した。【結果】電気継続群は39 例,電気中止群は11 例であった。電気継続群のVAS(術前→初回電気療法前→退院時)は70 →40 →14 mm であり,各時期で有意差を認めた。電気中止群のVAS は63 →45 →41 mm であり,初回電気療法前から退院時で有意差を認めなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,退院時のVAS(オッズ比:1.04)が選択された。【結論】腰部疾患手術後の遺残下肢症状に対し,入院中に電気療法を継続した群は,退院時の症状の回復が良好であった。
著者
菅川 祥枝 木藤 伸宏 島澤 真一 弓削 千文 奥村 晃司 吉用 聖加 岡田 恵也
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.412-419, 2004-12-20 (Released:2018-09-25)
参考文献数
17
被引用文献数
4

本研究では,角速度センサを用いて歩行時の骨盤,大腿,下腿の回旋運動の計測を行い,変形性膝関節症患者で得られた角速度波形より健常例とは異なる特徴を同定し,その特徴を明らかにすることを目的とする。対象は健常若年群5名,健常高齢者群8名,変形性膝関節症群21名である。結果は変形性膝関節症群では健常群と異なる角速度波形が確認できた。骨盤の回旋運動には大きな相違は見られなかった。大腿は,荷重反応期での内旋,立脚中期の外旋運動の減少が見られた。下腿では,健常者は歩行時,立脚初期には下肢回旋運動は複雑な運動が行われており,変形性膝関節症群では下腿回旋運動の減少がみられた。また周波数解析では変形性膝関節症群は健常者群と比較し,第1ピーク周波数が低周波域に移動しており,さらに,スペクトルの広がりの不均一性が認められ,下腿回旋運動の調和性が失われていると推測した。本研究で用いた角速度センサによる下肢肢節回旋測定は,臨床においての理学療法効果判定に有用である可能性が示された。
著者
松田 雅弘 新田 收 古谷 槇子 楠本 泰士 小山 貴之
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.248-255, 2018 (Released:2018-08-20)
参考文献数
18
被引用文献数
2

【目的】発達障害児はコミュニケーションと学習の障害以外にも,運動協調性や筋緊張の低下が指摘され,幼少期の感覚入力問題は運動協調性の低下の原因のひとつだと考えられる。本研究は幼児の運動の協調性と感覚との関連性の一端を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は定型発達の幼児39 名(平均年齢5.0 歳)とした。対象の保護者に対して,過去から現在の感覚と運動に関するアンケートを実施した。運動の協調性はボールの投球,捕球,蹴る動作の25 項目,80 点満点の評価を行った。5,6 歳児へのアンケート結果で,特に感覚の問題が多かった項目で「はい」と「いいえ」と回答した群に分けて比較した。【結果】「砂場で遊ぶことを嫌がることがあった。手足に砂がつくことを嫌がった」の項目で,「はい」と回答した群で有意に運動の協調性の総合点が低かった。【結論】過去から現在で表在感覚の一部に問題を示す児童は,児童期に運動の協調性が低い傾向がみられた。
著者
白石 涼 佐藤 圭祐 千知岩 伸匡 吉田 貞夫 尾川 貴洋
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.572-578, 2021

<p>【目的】大腿骨近位部骨折患者を対象に,腹部Computed Tomography(CT)の大腰筋面積で推定した骨格筋量と機能的予後の関連を調査した。【方法】回復期病棟に入院した113 名を骨格筋量減少群と対照群に分け,患者背景,機能的予後を比較した。Functional Independence Measure(以下,FIM)利得を目的変数とした重回帰分析を行い,骨格筋量との関連性を検討した。【結果】平均年齢は83.5 ± 8.3 歳,男性35 名,女性78 名であった。骨格筋量減少群は56 名だった。骨格筋量減少群は対照群に比べ,高齢で,痩せており,入院時認知FIM,退院時FIM 合計,FIM 利得が有意に低かった。多変量解析で,骨格筋量減少とFIM 利得に有意な関連を認めた。【結論】大腿骨近位部骨折患者における大腰筋面積で推定した骨格筋量減少は,機能的予後不良と関連することが示唆された。</p>
著者
清水 忍 沼田 憲治 前田 真治
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.187-191, 2001-05-31 (Released:2018-09-25)
参考文献数
14

手指の系列運動課題における学習転移を指標として,運動プログラミングの左右半球優位性について検討した。対象は右利き健常大学生34名とし,ランダムに3群(右手練習群,左手練習群,コントロール群)に分けた。運動課題は一側手で出来るだけ速く第II-IV-III-V指の順にボタンスイッチを押させる系列運動課題とした。右手練習群は右手のみ,左手練習群は左手のみで30分間の練習を行った。コントロール群はこの間一切の練習を行わなかった。この練習前後で,各被検者とも両側手について本課題を遂行するのに要する時間(遂行時間)を測定し,3群間で比較した。練習前の遂行時間の成績には3群間で差はなかった。練習後,右手の遂行時間は左右両側手の練習効果を受けて短縮し,左手は左手練習の練習効果のみを受けた。このことから,左半球は両側手の運動学習に関与するのに対し,右半球は主に左手の運動学習に関与すると考えられ,運動のプログラミングにおいて左半球が優位である可能性が示唆された。
著者
大寺 祥佑 金沢 星慶 金沢 奈津子 木内 隆裕 中山 健夫
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11025, (Released:2015-11-30)
参考文献数
28

【目的】本研究の目的は理学療法診療ガイドライン第1版の質を評価し,今後の改訂に向けて検討すべき課題を提示することである。【方法】AGREE II を用いて4人の理学療法士が独立にガイドラインを評価し,各ガイドラインの質の最終評価について合意を形成した。【結果】16件のガイドラインが評価の対象となった。領域別スコアの中央値(範囲:最小値~最大値)は,「対象と目的」54%(32~65%),「利害関係者の参加」38%(32~51%),「作成の厳密さ」35%(32~51%),「提示の明確さ」31%(26~47%),「適用可能性」9%(6~17%),「編集の独立性」19%(17~19%)であった。重要な推奨の明示に関する評価は,7段階リッカートスケールで中央値が3.0点(2.5~3.5点)であった。【結論】今後の改訂では,推奨の明確な提示や臨床における適用方法,利益相反の明示に留意するべきである。
著者
藤井 智 畠中 泰司 中石 睦 秋山 江里
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.64-68, 1992-01-10

在宅重度障害者を対象に, 浴室の改造やリハビリテーション機器の利用等を指導した92例について, 入浴形態, 介助の状況, 改造内容, 機器の利用状況等を調査・検討した。結果は, 1)リハ機器導入と手すり設置等の簡単な改造を合わせて行ったものが多かった。2)介助者数や入浴形態を大きく変えることはできなかった。3)手すりに掴まったり, 安定した坐位を基本姿勢とすることで, 介助量を減らし, より容易に, 安全に入浴できるようになった。4)ほぼ全例に, 介助方法などの実地指導を繰り返し行った。環境・経済的問題や家族の受け入れ等の問題から, 簡単な改造にとどまる例が多かった。しかし, リハ機器導入とともに,入浴方法の実地指導を行うことで, 介助量を軽減することができ, 新しい環境にあわせた指導の重要性が示唆された。
著者
武富 由雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.175-176, 1984-06-10
著者
持田 有希 野中 聡 津布久 健一 高野 智央 大塚 智 草野 麻里 恩田 浩一 樋口 佳子 岩部 昌平
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A1107, 2005
被引用文献数
1

【はじめに】近年,高齢化する精神科の長期入院患者において,加齢や活動量の減少による身体能力の低下や転倒の発生状況に関する報告が散見される。我々は,第39回日本理学療法士学会学術大会において,当院の精神科入院患者の約3割が転倒経験者であり,転倒は高齢患者に多いことを報告した。精神科入院患者における身体能力や運動療法実施の効果に関する報告は散見されるが,精神科入院患者と同年代の健常者や一般病棟入院患者の身体能力を比較した報告はみられない。そこで今回,我々は精神科入院患者の身体能力を測定し内部疾患患者や同年代の健常者との比較を行い,若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】対象は当院精神科入院患者のうち病棟内を独歩している者で,平成15年4月から9月までの6ヵ月間における転倒の有無を診療録より後方視的に調査できた24例のうち,本研究の目的の説明に対して同意が得られた9例(全例男性,平均年齢60.4±9.4歳,診断名:統合失調症)とした。一般病棟入院患者(一般入院患者)における対象例は,当院に内部障害で入院し,理学療法を施行し病棟内を独歩している4例(男性3例,年齢79.0±10.1歳)とした。また健常者の対象群には複数の先行研究による同年代の健常者のデータを用いた。評価項目は,年齢,等尺性膝伸展筋力(下肢筋力),握力,10m最大歩行速度(歩行速度),開眼片脚立位保持時間(片脚立位時間)とした。なお両病棟における対象例が少ないため,統計手法は用いずに個々の症例について比較を行った。<BR>【結果】精神科入院患者9例中2例に転倒歴があり,いずれも年齢は70代であった。精神科入院患者と健常者との比較では下肢筋力,握力,歩行速度といった比較的短時間に筋力を発揮する項目において精神科入院患者の値が健常者の値を大きく下回っていたが,片脚立位時間では健常値に近似した値を示した。精神科入院患者の転倒例と一般入院患者との比較では握力,歩行速度,片脚立位時間において精神科入院患者が一般入院患者の最大値よりも高値を示した。<BR>【考察】本研究では,精神科入院患者については十分な同意が得られず測定に至らない症例が多く,一般入院患者については独歩症例が少なく十分な検討には至らなかった。しかし精神科入院患者は転倒の有無に関係なく全ての年代において健常者よりも身体能力的に劣っており,精神科入院患者の転倒例は一般入院患者と比べて評価結果が比較的良好にも関わらず転倒していた。本研究では症例数も少ないことから転倒例の身体特性は明らかにならなかったものの精神科入院患者には同年代の健常者に比べて身体能力が低い者の存在が認められ,精神科入院患者に対する理学療法の必要性が示唆されたものと思われた。
著者
宮良 広大 松元 秀次 上間 智博 廣川 琢也 野間 知一 池田 恵子 下堂薗 恵 川平 和美
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.90-97, 2015-04-20 (Released:2017-06-09)

【目的】脳卒中片麻痺下肢への全身振動刺激(Whole body vibration;以下,WBV)による痙縮抑制メカニズム解明のために,脊髄前角細胞の興奮性評価に用いられる誘発電位F波(以下,F波)を測定し検討した。【方法】対象は下肢痙縮を有する脳卒中片麻痺患者10名。WBV実施姿勢は股関節90°屈曲位,膝関節伸展位0°で長座位とした。WBVは下腿三頭筋とハムストリングスを中心に,周波数30Hz,振幅4〜8mmの条件で5分間実施した。WBV前後にModified Ashworth Scale(以下,MAS)とF波,足関節自動および他動関節可動域,10m歩行テストを測定した。【結果】MASは有意に低下し,足関節自動背屈角度と他動関節可動域,歩行能力が有意に改善した。さらにF波振幅で低下傾向,F/M比で有意な低下を認めた。【結論】WBVによる痙縮抑制メカニズムとして脊髄前角細胞の興奮性低下の関与が示唆された。