著者
入江 智也 横光 健吾 北田 隆義 中江 重孝
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.163-174, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本報告は、抑うつ気分を訴え来院した32歳男性に対し、医療機関においてアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)に基づく介入を実施した症例報告である。過去の出来事に対する後悔や将来の悲観に伴い、機能的な活動が制限されていると考えられたため、マインドフルネスを中心としたトレーニングを行った。しかしながら、突発的なストレッサーに伴い、希死念慮を含む抑うつ症状の悪化が認められたため、薬物療法を含む希死念慮に対する介入を行った。このことから、不快な私的体験のコントロール・アジェンダが維持または強化されている可能性が考えられたため、改めて創造的絶望のプロセスを実施したうえで価値のワークの介入を行った。その結果、再就職をはじめとした活動レパートリの増加が認められ、結果として症状の緩和が認められた。本事例から、医療機関においてACTを適用するための必要条件について考察する。
著者
高橋 恵理子 根建 金男
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.225-235, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
21

本稿では、青年期女性における身体不満足感への認知行動的介入の効果を検証するために、非無作為化試験を実施した。研究1では、認知行動的介入群において、外見に関する信念に焦点を当てて、自己の身体に対する思いやり/いつくしみを促進する実験課題を実施した。状態的な身体不満足感の得点について、外見に関する信念には焦点を当てずに身体について語る傾聴群、いずれの課題も行わない統制群と比較した。その結果、認知行動的介入群で状態的身体不満足感の得点が最も顕著に低減した。研究2では、研究1の実験課題を実際のカウンセリング場面に近づけて発展させ、認知行動的介入群でホームワークを含む4週間の介入プログラムを実施した。その結果、認知行動的介入群は傾聴群、統制群に比べて、身体不満足感などの得点がより減少する傾向にあり、主観的幸福感の得点はより増加することが示唆された。
著者
野中 俊介 大野 あき子 境 泉洋
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-10, 2012-01-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、ひきこもり状態における家族機能を検討することであった。ひきこもり状態が行動理論および幸福感の観点による家族機能に及ぼす影響を検討するために、ひきこもり状態にある人の親(以下、ひきこもり群)107名および、ひきこもり状態の経験がない人の親(以下、統制群)79名を対象にひきこもり関係機能尺度(HRFS)、およびRelationshipHappinessScale(RHS;Smith&Meyers,2004)に回答を求めた。共分散分析の結果、ひきこもり群は統制群よりもHRFSの「正の罰」、「負の罰」得点、およびRHS得点が低いことが示された。これらの結果を踏まえ、介入において親の関係幸福感および関係性の機能の改善の意義について考察が加えられた。
著者
伊藤 大輔 兼子 唯 小関 俊祐 清水 悠 中澤佳 奈子 田上 明日香 大月 友 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.119-129, 2010-06-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究の目的は、近年の外傷後ストレス障害(PTSD)に対する認知行動療法の効果をメタ分析によって検証することと、PTSDの効果研究に関する今後の検討課題を明らかにすることであった。メタ分析の結果、PTSDに対する認知行動療法の有効性が明らかにされ、その適用範囲も拡張しつつあることが示された。さらに、今後の課題として、(1)対象者の症状プロフィールや状態像を考慮した介入法の検討を行うこと、(2)薬物療法と認知行動療法を組み合わせた際の効果について検証すること、(3)治療効果に作用する治療技法および要因を特定し、効率的かつ適切な介入法を検討すること、(4)治療効果に影響を及ぼす治療技法以外の要因について検討すること、などが指摘された。
著者
嶋 大樹 川井 智理 柳原 茉美佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.73-83, 2016-01-31 (Released:2019-04-27)
被引用文献数
1

本研究は、思考内容と現実を混同する「認知的フュージョン」を測定する質問紙である、改訂CFQ13項目版および7項目版の信頼性と妥当性の検討を目的とした。大学生対象の調査の結果、13項目版は改定前同様に2因子構造を示し、7項目版は原版同様に1因子構造を示した。項目分析の結果、各下位尺度は個別に扱うことが適切であると判断された。これまでは第1下位尺度が認知的フュージョン、第2下位尺度が認知的フュージョンから抜け出す「脱フュージョン」に相当するとされてきたが、本研究の結果、第2下位尺度は脱フュージョンの機能の一部に相当する可能性が示唆されたため、第1下位尺度および7項目版を「認知的フュージョン」、第2下位尺度を脱フュージョンの機能の一部としての「自己と思考の弁別」とみなすことが適切である。そして今後は、外顕的な行動指標との関連も検討することで、別の側面から妥当性の有無を確認する方法も必要であると考えられる。
著者
伊藤 大輔 佐藤 健二 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-12, 2009-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究の目的は、トラウマの構造化開示が心身の健康に及ぼす影響を検証することであった。実験参加者(大学生25名)は、構造化開示群、自由開示群、統制群に無作為に振り分けられ、20〜30分間の筆記課題を3日間行った。構造化開示群は認知的再評価を促進させるため、実験者からの詳細な指示に従ってトラウマを筆記するように求められた。自由開示群は自由にトラウマを筆記するように求められた。統制群は中性的な話題について筆記するように求められた。効果指標には、コルチゾール、ワーキングメモリ容量、出来事インパクト尺度、外傷体験後の認知尺度を用いた。その結果、構造化開示群、自由開示群においては、内分泌系の改善効果が維持される可能性が示された。また、構造化開示群が統制群と比較して認知機能が向上したものの、統計的には有意傾向であった。したがって、今後も、実験手続きを改定し、構造化開示の効果について再検証する必要がある。
著者
木下 奈緒子 大月 友 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.105-116, 2012-05-31 (Released:2019-04-06)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究の目的は、複数の範例を用いた分化強化の手続きが、刺激の物理的特徴にもとづく刺激機能の変換に対する文脈制御に与える影響を検討することであった。12名の大学生を対象として、3つのメンバーからなる3種類の等価クラスを形成した。各等価クラスには、異なる物理的特徴(線形、円形、三角形)を有する図形が含まれた。そして、複数の範例を用いて、特定の物理的特徴をもつ刺激のもとで、刺激機能の変換にもとづく反応を分化強化した。その結果、分析対象となった9名の実験参加者に、刺激の物理的特徴にもとづく刺激機能の変換に対する文脈制御が示された。その後、新奇刺激を用いて新たな3つのメンバーからなる3種類の等価クラスを形成した。その結果、9名中7名の実験参加者に文脈制御の般化が確認された。本研究の結果を脱フュージョンの作用機序の観点から考察し、当該領域において、今後どのような基礎研究が必要とされるかを検討した。
著者
佐藤 寛 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-13, 2006-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究では、児童の自動思考をネガティブとポジティブの両側面から測定することのできる児童用自動思考尺度(ATIC)を作成し、抑うつ症状と不安症状との関連について検討することを目的とした。まず、児童のネガティブ・ポジティブな自動思考を測定する尺度を作成した。分析の結果、ATICはネガティブな自動思考である自己の否定と絶望的思考、およびポジティブな自動思考である将来への期待とサポートへの期待という4因子から構成されていることが示された。次に、児童の自動思考が抑うつ症状と不安症状に与える影響について検討した。その結果、ネガティブな自動思考である自己の否定は抑うつ症状と不安症状のいずれにも促進的な影響を与えており、絶望的思考は抑うつ症状のみに促進的な影響を与えていた。一方、ポジティブな自動思考である将来への期待とサポートへの期待は、いずれも不安症状とは関連していなかったものの、抑うつ症状に対しては抑制的な影響を与えていた。
著者
野村 和孝 山本 哲也 林 響子 津村 秀樹 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.143-155, 2011-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、性加害行為経験者を対象とした認知行動療法的治療プログラムを構成する心理社会的要因が、性加害行為抑止効果に及ぼす影響についてメタ分析を用いた検討を行うことであった。性加害行為抑止を目的とした認知行動療法的治療プログラムを心理社会的要因の構成に基づき分類したところ、セルフ・マネジメントの有無に基づく分類がなされた。セルフ・マネジメントの有無が性加害行為抑止に及ぼす影響についてメタ分析を行った結果、性的嗜好、歪んだ態度、社会感情的機能、リラプス・プリベンションから構成される治療プログラムの性加害行為抑止効果が確認された一方で、ストレスマネジメントなどのセルフ・マネジメントの向上を目的としたアプローチの手続き上の工夫の必要性が示唆された。
著者
土井 理美 横光 健吾 坂野 雄二
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.45-55, 2014-01-31

本研究の目的は、Acceptance and Commitment Therapy(Hayes et al.,1999)の文脈で用いられる「価値」の概念を多面的に測定することが可能であるPersonal Values Questionnaire II(PVQ-II;Blackledge et al.,2010)の因子構造、内的整合性、妥当性を検討し、PVQ-IIがより活用されるよう精緻化を行うことであった。大学生、大学院生、一般成人388名を対象に項目分析、探索的因子分析を実施した結果、1項目が削除され、PVQ-IIは8項目3因子構造であることが示された。また内的整合性、妥当性ともに十分な値が示された。そして、413名を対象に確認的因子分析を実施した。その結果、第1因子と第3因子の相関を仮定した3因子構造モデルの適合度は十分な値を示していた。その結果、PVQ-IIの標準化に関するデータを追加し、わが国でもPVQ-IIの利用が可能であることが明らかとなった。今後は、PVQ-IIをわが国においても普及させていくために、わが国におけるPVQ-IIの特異性を明らかにしていく必要がある。
著者
境 泉洋 平川 沙織 野中 俊介 岡崎 剛 妹尾 香苗 横瀬 洋輔 稲畑 陽子 牛尾 恵 溝口 暁子
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.167-178, 2015-09-30

本研究の目的は、ひきこもり状態にある人(以下、ひきこもり本人)の親を対象としたCRAFTプログラムの効果を検討することであった。本研究においては、CRAFT群7名、自助群7名が設定された。その効果測定として、ひきこもり状態の改善、相談機関利用の有無、否定的評価尺度、セルフ・エフィカシー尺度(以下、エフィカシー)、心理的ストレス反応尺度(以下、SRS-18)、ひきこもり家族機能尺度(以下、家族機能)について親に回答を求めた。その結果、自助群よりもCRAFT群において、ひきこもり状態の改善やひきこもり本人の相談機関の利用が多く認められた。また、CRAFT群、自助群のいずれにおいても、親の「エフィカシー」が向上し、SRS-18の「抑うつ・不安」、「不機嫌・怒り」、家族機能の「正の強化」、「負の強化」が改善された。考察においては、親の年齢、ひきこもり期間を統制したうえで無作為割り付けによる効果検証の必要性が指摘された。
著者
木下 奈緒子 大月 友 五十嵐 友里 久保 絢子 高橋 稔 嶋田 洋徳 武藤 崇
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.65-75, 2011-05-31
被引用文献数
2

本稿の目的は、精神病理の理解や治療という観点から、人問の言語や認知に対して、今後どのような行動分析的研究が必要とされるか、その方向性を示すことであった。人間の言語や認知に対する現代の行動分析的説明は、関係フレーム理論として体系化されている。関係フレーム理論によれば、派生的刺激関係と刺激機能の変換が、人間の高次な精神活動を説明する上で中核的な現象であるとされている。刺激機能の変換に関する先行研究について概観したところ、関係フレームづけの獲得に関する研究、刺激機能の変換の成立に関する研究、刺激機能の変換に対する文脈制御に関する研究の3種類に分類可能であった。これらの分類は、関係フレーム理論における派生的刺激関係と刺激機能の変換の主要な三つの特徴と対応していた。各領域においてこれまでに実証されている知見を整理し、精神病理の理解や治療という観点から、今後の方向性と課題について考察した。
著者
西山 佳子 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.145-154, 2009-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究では、日本版BDI-IIの精神症状測定学的有用性を953名の日本人大学生サンプルで検証した。クロンバックのα係数、Spearman-Brownの公式を用いた信頼係数はともに高く、日本版BDI-IIの高い信頼性が示された。Zung自己記入式うつ病スケール(SDS)、DysfunctionalAttitudeScaleForm-A(DAS-A)日本語版との相関係数はそれぞれ先行研究の結果に匹敵する、妥当なものであった。また、確証的因子分析によって、因子構造は身体的・感情的要素と認知的要素からなる2因子モデルに適合することが示された。これらの結果から、日本版BDI-IIは日本人大学生のうつ症状の重篤度を測定するのに適した尺度であることが示された。一方、項目分析および重症度分布から、大学生では日本版BDI-IIの得点が成人よりも高く出やすい傾向が示され、尺度得点だけで測定結果を成人同様に解釈することに疑問が呈された。
著者
福井 至 大橋 靖史 菅野 純 重久 剛 春木 豊
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.12-19, 1991-03-31 (Released:2019-04-06)

親の性格,養育態度(強化モード)と子の性格との関係について検討した。被験者は日本人9才児男女245名で,本人,母,父のそれぞれについて性格と強化モードを測定するために作成された質問表に,2件法で解答した。子の性格と親のそれぞれの性格はWPQ(EPQ改訂版)の向性(Ex),情動性(Em),タフ・ソフト傾向(To),社会的技能性(Di),自己実現性・愛他性(Sa)の次元について,子が解答した得点に基づくものである。親の養育態度は,IRS(人間関係診断テスト)の「押し付け」(Fr),「任せ」(Lr),「受けとめ」(Cr),「認め」(Adr)のモードについて,子どもが解答した得点である。5次元,4モードのうち,子の向性と父の向性,子の自己実現性・愛他性と母のタフ・ソフト傾向,そして父の情動性,タフ・ソフト傾向に高い相関がみられ,また子の向性は母の押し付け強化,認め強化,そして父の押し付け強化との間に高い相関を示した。以上の結果から,子の性格が,遺伝と環境の双方に深いかかわりをもつ手がかりが示唆された。
著者
奥村 泰之
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.155-165, 2014-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

研究者は研究報告の完全性と正確性に関して責任を有する。しかし、行動療法研究における、論文の方法と結果の記述は、十分な質を担保できていないことが多い。CONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials)声明のような研究報告に関するガイドラインは、研究報告の質向上に寄与するだけでなく、研究計画を立てるうえで役立つ。本稿では、CONSORT声明に準拠し、非薬物療法の介入研究において、失敗しない研究計画を立てるために、特に重要な五つの留意事項((1)臨床試験登録の実施、(2)主要評価項目の設定、(3)有害事象の測定、(4)介入法の詳細の記述、と(5)例数設計の実施)の解説と、その具体的な記載事例を紹介することを目的とする。
著者
小関 俊祐 嶋田 洋徳 佐々木 和義
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.45-57, 2007-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究の目的は、児童に対し、EllisのABC理論に基づいた認知的心理教育を行うことによって、抑うつ反応を低減させることであった。対象は小学5年生の1クラス39名を心理教育群とし、1回45分、計2回の認知的心理教育を行った。また、同小学校の5年生2クラス79名を対照群として介入の効果を検討した。抑うつ得点、自動思考得点、スキーマ得点のそれぞれについて、介入前の得点を共変量とし、介入後とフォローアップ期の得点を従属変数とした共分散分析を行った。その結果、心理教育群における抑うつ得点の低減と、自動思考得点、スキーマ得点の機能的な改善がみられた。すなわち、児童における抑うつの低減に対して、認知的心理教育が有効であることが示唆され、さらにその効果は自動思考とスキーマの機能的な変容によってもたらされた可能性が明らかとなった。以上のことから、児童に対する認知的心理教育が、抑うつの低減効果をもつ可能性が示唆された。
著者
藤原 裕弥 岩永 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.101-112, 2008-05-31 (Released:2019-04-06)

本研究は、不安における注意バイアスが自動的処理であるかどうか確認するために2つの実験を行った。研究1では、注意バイアスの無意識性について検討した。単語を閾下呈示する条件と、閾上呈示する条件を設定し、高対人不安者(n=13)と低対人不安者(n=13)を被験者としてdot-probe探査課題を行った。その結果、閾下呈示条件では、特性不安、状態不安にかかわらず注意バイアスは認められなかった。研究2では、注意バイアスが処理資源を必要とするかどうかを検討した。高特性不安者(n=8)と低特性不安者(n=8)を被験者とし、dot-probe探査課題中に二重課題を課した状況で注意バイアスを測定した。その結果、二重課題によって処理資源を奪われた条件では、注意バイアスが認められなかった。以上の2つの研究から、注意バイアスは無意識的処理でなく、また処理資源を必要とする処理であることが示された。このことは注意バイアスが自動的処理でない可能性を示している。
著者
杉山 風輝子 岩田 彩香 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.367-377, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
11
被引用文献数
4

疼痛性障害を呈する患者に対し、マインドフルネスに力点を置いたAcceptance & Commitment Therapy(ACT)を導入したことにより、生活上の問題が大きく改善した事例を報告する。来院当初は、痛みを含む身体症状に対し、医療機関を頻回に受診するなどの援助希求を伴う回避行動をとっており、行動範囲の縮小、心配や反芻を繰り返すことによる抑うつ症状を呈していた。そこで、過去の失敗経験や未来の心配と距離をおく脱フュージョンや、自らの体験を回避せずに観察するアクセプタンスを導入したうえで、今を偏りなく観察するマインドフルネスの促進に力点を置いた。その結果、回避行動の随伴性をモニタリングし、習慣的行動をいったん停止するプロセスとしての自己および文脈としての自己の高まりや、身体症状をアクセプトしながら実生活の中で正の強化が得られやすい行動の拡大が認められ、特性不安や抑うつ感情も大幅に改善した。