著者
川根 博司
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.99-103, 2009-10-31 (Released:2016-10-07)
参考文献数
15

禁煙指導はヘルスプロフェッショナルの重要な役割であり,日常診療の場で医師はすべての喫煙患者に対して禁煙を強く勧めるべきである.禁煙のための介入方法として,欧米では5Aのアプローチと5Rによる動機づけが推奨されているが,日本語で対応させた「たちつてと」と「かきこけく」がある.これらの手順に従えば比較的容易に患者の禁煙指導ができると思われる.禁煙指導に保険が適用されるようになったことでもあり,今後ますます禁煙治療を実施する医療機関が増えることを期待する.
著者
佐藤 英夫 岩島 明 河辺 昌哲 中山 秀章 吉澤 弘久 下条 文武 鈴木 榮一
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.491-495, 2005-05-31 (Released:2017-11-10)
参考文献数
16

睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)の胃食道逆流症(以下GERD)合併頻度を,QUEST問診票を用いて検討した.QUESTは4点以上をGERD合併ありと判断した.PSG(Polysomnography)検査を実施した84例中の73例にAHI(Apnea Hypopnea Index)≧5 (/hr) のSASを認めた.QUEST 4点以上が25例(34.2%)あり,GERD合併の有無で2群に分けたときAHI,脳波上の短時間覚醒指数(以下Arousal Index),BMIなどに有意差はなかった.AHI≧20かつQUEST≧4点の17例中,11例がCPAP治療を開始した.CPAP治療を開始した4週間後のQUEST得点は7例で無症状(0点)となった.残る4例はプロトンポンプ阻害薬(PPI)の内服を追加して,症状の消失が得られた.SASによる胸腔腹腔内圧較差開大をCPAP治療が改善して,胃酸逆流を抑制する機序が関与すると考える.SASには高頻度にGERDが合併することから積極的な問診と治療追加が望まれる.
著者
照井 佳乃 岩倉 正浩 須藤 恵理子 川越 厚良 大倉 和貴 菅原 慶勇 高橋 仁美 長谷川 弘一 佐竹 將宏 塩谷 隆信
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.335-341, 2019-11-30 (Released:2020-01-28)
参考文献数
29

【目的】歩行時におけるCOPD患者の加速度データから算出した重心変位の特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】対象はCOPD患者16名,健常高年者21名とし,3軸加速度計を腰部に装着して 10 mを歩行させた.加速度から重心変位を算出し,左右と上下重心変位をプロットした運動軌道図から左右対称性の指標であるLissajous Index(以下,運動軌道LI)を算出した.重心変位や運動軌道LIと身体機能諸指標との関連を検討した.【結果】COPD患者の左右重心変位は健常高年者よりも有意に拡大し,片脚立位保持時間,大腿四頭筋筋力,呼吸困難感との間に有意な相関関係がみられた.運動軌道LIは両群間に有意差がみられず,身体機能との相関関係もみられなかった.【結論】左右重心変位は立位バランス能力や下肢筋力を反映した評価指標である可能性が示唆された.COPD患者の歩行時重心変位左右非対称性を運動軌道LIにて評価することは困難であると考えられた.
著者
利部 なつみ 千葉 史 両角 和恵 小林 誠一 矢内 勝
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.145-153, 2022-04-28 (Released:2022-04-28)
参考文献数
14

宮城県石巻市は,沿岸漁業地域で喫煙に対して非常に寛容的な地域性があった.2006年の市民を対象とした調査では,40歳以上のCOPD罹患率がNICE Studyで示された有病率より1.5倍高いことがわかった.しかし,COPD診療の医療体制は全く整備されていなかった.このような背景から,2009年に石巻地域COPDネットワーク(略称ICON)が設立された.宮城県北東部における,地域完結型・循環型の医療連携システムである.COPDの診断・治療の標準化と役割分担を効率的かつシームレスに行うだけでなく,多職種が連携してCOPD患者を包括的に評価し,個別的に介入する患者教育プログラムの展開に重点を置いている.2021年8月現在,登録医療機関は79件,登録患者数は累計833名,継続中の患者は645名となっている.これまで,医療連携及び,多職種連携による患者教育の検証を行い,得られた成果・課題を連携に反映させてきた.今後も,COPD医療連携と患者教育の実践・検証を継続し,本学会の発展に貢献していきたい.
著者
吉田 幸 八田 順子 岡野 安太朗 田上 敦朗 駒井 清暢
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.248-252, 2015-08-31 (Released:2015-10-06)
参考文献数
7
被引用文献数
3

非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)によるマスク装着にともなう皮膚障害を改善させる目的で,慢性呼吸器疾患看護認定看護師,皮膚科医師,臨床工学技士による定期的回診(マスク回診)を創案し実施した.18名の神経筋疾患患者を対象に,診療録から後方視的にマスク回診前後の皮膚障害および関連する情報を収集し比較検討した.皮膚障害は褥瘡の深達度による分類(NPUAP, 2014)を使用した.回診前はⅡ度が8名だったが,回診後は1名と減少した.マスク回診チームは,各患者のNPPVマスク皮膚障害の原因をそれぞれの専門に従って分析し,それを基に回診の場で意見交換を行い,協動チームとしての対策立案・実施と記録作成を行うことができた.加えて,病棟スタッフや家族への働きかけと共に患者への治療的介入を継続して行ったことが,NPPVマスク関連皮膚障害の改善につながった.
著者
東本 有司
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.27-29, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
2

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌(以下呼吸ケアリハ誌)に採択されやすい論文の書き方について解説する.呼吸ケアリハ誌はオープンアクセスジャーナルで,多職種が関わっているため,他の学会誌に比較しても高いアクセス数を誇っている.したがって,一旦論文が採択され,掲載されればインパクトが高くなるものと考えられる.本学会の学会員であればどのような医療職種であっても投稿可能である.しかし,残念ながら,ここ数年は,投稿数が減少傾向にある.原著論文の採択率は昨年1年間でみると44%と,和文誌にしては,やや厳しいと思われるが,編集委員会の方針としては,論文の主旨がはっきりしないものや,倫理的に問題がある場合を除いて,積極的に採択することとしている.本学会誌に採択されるための“こつ”を伝授する.
著者
玉木 彰 元山 美緒 佐藤 晋
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.86-88, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
14

呼吸リハビリテーションの中心は運動療法であり,その効果は多くの研究によって明らかにされており,COPD診断と治療のためのガイドラインにおいても非薬物療法の1つとして確立されている.しかし運動療法の実施にあたっては,適切な運動強度の設定,介入の時期と方法の吟味,適切な対象者の選定などが重要であり,実施前にこれらについて十分に検討しなければ,運動療法の効果が認められないばかりか,かえって逆効果(有害)となる可能性も否定はできない.したがって運動療法は有効な治療法であるが,慎重に実施すべきである.
著者
佐藤 善信 中島 光裕 星井 輝之 布原 史翔 桑田麻衣子 今泉 正樹 福田 清貴 岩﨑 洋一
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.395-400, 2015-12-31 (Released:2016-01-26)
参考文献数
30

神経筋疾患患者に対する呼吸ケアの一つとして,通常の救急蘇生バックを用いたlung volume recruitment(LVR)があるが,air stackingが困難な患者では効果的に実施できない場合がある.われわれは,患者をair stacking可能群と不可能群に分け,2種類の救急蘇生バックを用いて吸気量と咳のピークフロー(CPF)値を測定し,効率的なLVRを実施するために,どちらの救急蘇生バックを選択すべきかを検討した.その結果,air stacking可能群では通常の救急蘇生バック,air stacking不可能群ではPEEP弁付き救急蘇生バックが有用であると考えられた.また,MIC>1,170 mlとなるように肺吸気量を維持することは,救急蘇生バックを用いた吸気介助と,呼気時胸部介助を併用した咳嗽介助を実施するにあたり,重要であることが示唆された.
著者
佐藤 一洋 本間 光信 伊藤 伸朗 高橋 仁美 菅原 慶勇 笠井 千景 土橋 真由美 清川 憲孝 敷中 葉月 澤田石 智子 加賀谷 斉 鹿島 正行 佐野 正明 伊藤 武史 佐竹 將宏 塩谷 隆信
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.242-248, 2000-12-31 (Released:2018-08-07)
参考文献数
31

COPD患者に外来呼吸リハビリテーションを施行しその長期効果を検討した.呼吸筋ストレッチ,呼吸筋訓練,上下肢の筋力訓練などを外来で指導し自宅で継続させ,2週間ごとに外来で経過観察と指導を行い,12ヵ月後まで経時的に呼吸機能,運動耐容能,健康関連QOLの評価を行った.その結果,COPD患者ではVC, RV, PImax, PEmax, 6MD, CRQが12ヵ月後までに有意に改善した.以上の成績からCOPDにおける外来呼吸リハビリテーションは呼吸機能,運動耐容能および健康関連QOLを長期に改善させる可能性が示唆された.
著者
本城 綾子
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.285-289, 2022-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
5

慢性呼吸不全患者は,普遍的セルフケア要件「十分な空気摂取の維持」のために,LTOT/HOTやNPPV管理を必要とする.それらの機器を自分の生活に合わせて調節し,常に管理(セルフケア行動)する必要がある.30代後半の女性は,バセドウ病で甲状腺クリーゼを起こし回復したものの,その後1年間肺炎を繰り返し,本人は気がつかないままに肺の線維化が進行し,呼吸器専門病院に入院した時には既に呼吸不全に陥っていた.LTOT/HOTとNPPVを同時に導入する方針となり教育が行われていたが,機器の操作・管理が未習得にもかかわらず患者の強い希望で退院しようとしていた.患者は低酸素血症・高二酸化炭素血症・肺高血圧症の状態で,酸素吸入とNPPVを適切に実施しない限り急変のリスクが高かった.医師と看護師からの介入依頼を受け,セルフケア能力・ケアレベルをアセスメントし,患者が治療方針について自己決定できるための支援をした.
著者
長尾 大志
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.191-194, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
1

メディカルスタッフが胸部X線写真を見る機会はそれほど多くないかもしれないが,救急の現場など急を要する場面などで読影をすることができれば,現場での診療に役立つと考えられる.X線写真を「ぱっと見てわかる」重要な所見は,肺の大きさの変化,構造物の移動や左右の対称性,気胸や縦隔気腫の存在などである.それ以外に胸部X線写真が有用なものとしては,肺炎をはじめとする感染症,そして肺癌などがあるが,肺野に明らかな陰影があれば異常に気づくことはそれほど困難ではない.一方で心陰影や横隔膜裏などの物陰・死角にある陰影はしばしば見逃されることがある.そのような陰影に気づくためのポイントとして,シルエットサインが有用である.シルエットサインは陰影の存在する場所を推定するために使われているが,シルエットサインが陽性である場合,その構造物に隣接して病変が存在するということが示唆される.
著者
高尾 聡 浅居 悦子 小松 優子 桑原 陽子 福田 珠里 山根 主信 多門 大介 吉田 直之 工藤 翔二 上武 智樹 加藤 大輔
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.263-267, 2014-08-31 (Released:2015-11-13)
参考文献数
12

在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)では携帯用酸素ボンベの使用時間を延長させるために,呼吸同調装置を併用して吸気時に酸素供給を行う同調式が一般的である.しかし,院内で使用される医療用酸素ボンベのような吸気,呼気に関係なく酸素が供給される連続式と比較すると,経皮的酸素飽和度(SpO2)の値が同調式で低くなることを経験する.今回,慢性呼吸器疾患患者20名に対し,携帯用酸素ボンベを使用しての6分間歩行試験(6 minutes walking test: 6MWT)を連続式と同調式で行った.その結果,同一酸素流量においてSpO2の平均値・最頻値・最高値・最低値が同調式で有意に低かった.HOTを処方する際には,呼吸同調装置を取り付けた携帯用酸素ボンベを用いたうえで労作時のSpO2の測定および酸素流量の設定を行うことが望ましい.
著者
富井 啓介
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.50-54, 2020-08-31 (Released:2020-09-02)
参考文献数
30

間質性肺炎の緩和ケアはがん患者と同様に疾患進行を抑制する治療と並行して,早期からQOLの維持を目的に開始されるべきである.しかし現在薬物療法については呼吸困難緩和を目的とするモルヒネの有効性と安全性がわずかに示されたのみで,その他の薬剤や症状についてのデータはほぼ皆無である.リハビリテーションと労作時低酸素血症に対する酸素吸入については最近ようやくランダム化比較試験における有効性が示され,また海外の成績では多職種の専門家による支援チームが有効に働くことも示されている.エンドオブライフケアに関する事前意思確認は主として呼吸管理法選択すなわちコードステータスの合意形成という緩和ケアの重要なプロセスであるが,予測の難しい経過の中で多職種の関わりによる十分な病状理解の上タイミングを選んで繰り返し行う必要がある.挿管回避となる場合も多いが,NPPVやHFNCの限界を考慮してきめ細かく設定する.
著者
小泉 美緒 玉木 彰 永田 一真 名和 厳 富井 啓介
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.262-265, 2019-11-30 (Released:2020-01-28)
参考文献数
14

症例は73歳男性,特発性肺線維症に気胸を合併していた.公営住宅3階に独居で,ポータブルタイプの酸素濃縮器を使用し,同調式 3 L吸入下で歩行と階段昇降を行っていた.理学療法開始時には下肢筋力低下および運動耐容能の低下を認め,同調式吸入下での階段昇段時に低酸素血症と著しい呼吸困難,呼吸数増加を認めていた.3週間の介入によって下肢筋力,運動耐容能は改善したものの,同調式吸入下では階段昇降時の呼吸困難,低酸素血症は改善しなかったため,同調式から連続式に切り換え可能な呼吸同調器付きの酸素ボンベへ変更した.その結果,連続式吸入下で20段の階段昇段と1回の立位休憩で目標であった階段昇段40段を獲得し,本症例は自宅退院に至った.本症例のような階段昇段時に低酸素血症,呼吸困難,呼吸数増加を呈する患者に対しては,一時的に連続式を使用する指導の検討が必要と考えられた.
著者
柳澤 幸夫 竹田 絵理 松尾 善美 山村 篤司郎 堀内 宣昭
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.276-278, 2015-08-31 (Released:2015-10-06)
参考文献数
8

【はじめに】携帯型酸素ボンベからの酸素投与は呼吸同調器を使用することが一般的である。今回,呼吸同調器の使用有無により酸素化が異なった症例を経験したので,若干の考察を加え報告する.【対象と方法】対象は85歳,女性で6ヶ月前より,間質性肺炎にてHOT施行中であった.本症例の安静時および運動時の呼吸による圧変動から呼気,吸気時間,IE比および呼吸数を算出し,酸素投与の連続式,同調式による各項目の比較を実施した.【結果】安静時,運動負荷時ともに連続式と比べ,同調式ではIE比で呼気比率が短縮し,呼吸数が増加した.また,呼気・吸気時間において吸気時間には有意差を認めなかったが,呼気時間には有意差を認めた.運動負荷では同調式でSpO2 の顕著な低下を認めた.【結語】本症例と同様のケースでは,同調器の使用有無での酸素化変動を確認し,呼吸法の指導や酸素の投与方法の検討などが必要である.また,精神的要因による影響も今後,検討すべき課題と考えられた.
著者
石井 伸尚 篠原 悠 田口 真希
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
pp.21-16, (Released:2022-07-14)

高齢者はがん手術後の回復遅延,術後合併症,ADL低下のリスクが高いとされている.本研究では高齢群と非高齢群に分け,肺癌手術前後の運動耐容能,身体機能・ADLの特性,手術前後における身体機能・ADLの変化率を比較した.対象は原発性肺癌の診断で肺切除術を受けた患者46名(高齢群22名,非高齢群24名)とした.カルテより患者背景(年齢・呼吸機能など),手術関連因子(術式・手術時間など),手術前後の身体機能・ADLとその変化率を調査し群間比較を行った.術前の6分間歩行距離,TUG,片脚立位保持時間は高齢群で有意に低値を示したが,手術前後における身体機能・ADLの変化率は両群間で有意差は認めなかった.術前の運動耐容能や身体機能で非高齢群に比して有意に低値を示した高齢群でも,周術期の呼吸リハビリテーションにより非高齢群と同程度の改善効果を得ることができ,手術後のADLが維持できる可能性が示唆された.
著者
塚本 陽子 設楽 久美子 伊藤 郁乃 森田 三佳子 古田島 直也 見波 亮 内田 裕子 大島 真弓 新藤 直子 松井 弘稔
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.324-329, 2019-11-30 (Released:2020-01-28)
参考文献数
7

慢性呼吸器疾患患者の入浴に関する報告は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を対象としたものが多く症例数も少ない.本研究の目的はCOPDを含む慢性呼吸器疾患患者の入浴中の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の変動を後方視的に調査し負担のかかりやすい動作を明らにすることで効率的な動作指導を検討することである.作業療法士が入浴評価を実施した61名を対象に入浴を構成する各動作項目(脱衣,洗体,洗髪,体拭き,着衣)後のSpO2値を調査した.加えて入浴評価と6分間歩行試験(6MWT)を同じ酸素量で実施した25名を対象に入浴時と6MWT時のSpO2最低値を比較した.入浴時のSpO2値は体拭きで最低値を示し,約35%の患者は6MWTのSpO2最低値を下回った.入浴時は体拭きでSpO2が低下しやすいことを考慮し指導を行う必要がある.また労作時の酸素流量設定は6MWTに加え入浴評価も実施した上で決定することが望ましい.
著者
陳 和夫
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.168-173, 2015-08-31 (Released:2015-10-06)
参考文献数
12

酸素は生体の生命維持に不可欠の分子であり,組織の低酸素症の改善のため吸入気の酸素濃度を高めて酸素投与する治療法が酸素療法である.組織の適切な酸素化の維持には,酸素療法のみならずヘモグロビン,心拍出量などの組織への酸素運搬に関係する因子も重要である.酸素療法には吸入気酸素濃度が患者の換気に依存する低流量法と依存しない高流量法がある.従来の高流量法は吸入気酸素濃度の上限が50%程度であったが,最近は高流量法にhigh flow法が出現し,さらに高濃度まで投与可能になった.酸素投与が必要な呼吸不全患者の一部は,経過中にコントロール困難な低換気を伴う患者が出現し,換気補助が可能なNPPVが必要となる.一般的に酸素投与が必要な呼吸不全患者は,運動中または睡眠中にさらなる血液ガスの悪化を招くことが多く対応が必要である.呼吸不全患者の睡眠呼吸障害の対応には,睡眠時無呼吸とレム(REM)睡眠期に特に重篤となる睡眠関連低換気に関する認識が必要となる.
著者
海老原 覚 杉野 圭史 本間 栄
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.191-193, 2016-08-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
7

間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーションの有用性が近年指摘されている.ここで重要なのは間質性肺炎における呼吸リハビリテーションにおいて,どのような患者が適しているのか,どのような呼吸リハビリテーションが適しているのか,ということである.それを解明することを目的として,Toho Rehabilitation for Interstitial Pneumonia Study(TRIP study)を立ち上げた.そこでの患者の評価として基本属性に加え,病態把握,重症度分類(JRS),運動耐用能とQOLの評価を行っている.なかでも我々は咳嗽に注目して評価している.咳嗽は間質性肺炎の主症状であり,QOL及びリハビリテーションの阻害因子のみならず,N- アセチルシステイン吸入療法などにおける薬物療法の阻害因子であるからである.さらに間質性肺炎において咳嗽の重積発作は気胸を引き起こし,重症呼吸不全から死に至るきっかけにもなるからである.咳嗽に関するQOLの問診票としてレスター咳問診票(LCQ)がある.さらに客観的に咳嗽を記録できる咳モニターシステムの開発が待たれる.外来リハビリテーションの頻度と期間は,週1回(60分間)を3ヵ月間継続的に行い,コンディショニングに引き続き有酸素運動を行い,さらに四肢のレジスタンストレーニングを行うメニューとしている.さらに私たちは間質性肺炎に特異的な教育用の教材の開発を行っている.そのような教材を用いることにより,リハビリテーションの効果が一層高まるものと思われる.