著者
田平 一行
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.79-85, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
20

運動(療法)は,身体に適度な負荷を与えることで身体機能の維持・向上を図るもので,主に骨格筋や心循環機能を向上させ,運動耐容能を改善する.アスリートは運動パフォーマンスの向上,一般健常者は生活習慣病の予防や健康増進が主な目的となり,その効果と方法については確立されている.呼吸器疾患患者でも同様に運動耐容能の向上や息切れの軽減,ADL,QOL等の改善などが得られることは多くの文献で証明されている.呼吸器疾患では,低酸素血症や換気不全,低栄養状態など特有のリスクが存在するが,運動療法は身体に負荷をかけるため,健常者でもリスク管理は必須である.従って,疾患特有のリスクを管理した上での運動療法の実施は,十分にエビデンスのある有効な治療法であり,強く推奨すべきである.
著者
植木 純 神津 玲 大平 徹郎 桂 秀樹 黒澤 一 安藤 守秀 佐野 裕子 佐野 恵美香 石川 朗 高橋 仁美 北川 知佳 玉木 彰 関川 清一 吉川 雅則 津田 徹
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.95-114, 2018-05-01 (Released:2018-09-20)
参考文献数
115
被引用文献数
10

呼吸リハビリテーションとは,呼吸器に関連した病気を持つ患者が,可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため,医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である.呼吸リハビリテーションは原則としてチーム医療であり,専門のヘルスケアプロフェッショナルすなわち,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床工学技士,管理栄養士,歯科医師,歯科衛生士,医療ソーシャルワーカー,薬剤師,保健師,公認心理師,ケアマネージャー等の参加により,あるいは必要に応じて患者を支援する家族やボランティアも参加し行われるものである.また,呼吸リハビリテーションは病態に応じて維持期(生活期)から終末期まで,急性期,回復時,周術期や術後回復期も含むシームレスな介入である.介入に際しては,評価に基づきコンディショニングを併用した運動療法を中心として,ADLトレーニングを組み入れ,セルフマネジメント教育,栄養指導,心理社会的支援等を含む包括的な個別化プログラムを作成,実践する.達成目標や行動計画を医療者と協働しながら作成し,問題解決のスキルを高め,自信をつけることにより健康を増進・維持するための行動変容をもたらすよう支援する.継続への指導は再評価に基づき行い,身体活動の向上を重視する.呼吸リハビリテーションは息切れを軽減,健康関連QOLやADL,不安・抑うつを改善させ,入院回数・日数を減少させる等の有益な治療介入であり,適応のあるすべての呼吸器に関連した病気を持つ患者に実施される必要がある.
著者
高畠 由佳 篠原 規恵 古川 陽子 ワード 弥生 甲屋 早苗 蝶名林 直彦 青島 正大
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.133-137, 1998-12-19 (Released:2019-10-15)
参考文献数
6

慢性呼吸器疾患の包括的呼吸リハビリテーションにおいて,その急性増悪期にICUで行われる呼吸理学療法は,人工呼吸管理前後の効果的な気道分泌物の除去や,咳嗽力の回復を目標とし,手技の適応を慎重に判断し,十分な観察のもとに実施されることが必要である.さらに医師や理学療法士と連携し,ケアを継続できる看護チーム力や,チーム内での患者の情報の共有化がポイントになり,今回具体例をあげて解説した.
著者
天白 陽介 守川 恵助 今岡 泰憲 武村 裕之 稲葉 匠吾 楠木 晴香 橋爪 裕 廣瀬 桃子 鈴木 優太 畑地 治
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.327-333, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
22

近年,サルコペニアと摂食嚥下機能障害の関連性について注目されており,骨格筋量の減少は摂食嚥下機能障害の要因となると報告されている.本研究は骨格筋量の指標である骨格筋量指数(以下 SMI)が高齢肺炎症例の退院時普通食経口摂取可否を予測する因子となるかを検討することとした.対象は肺炎の診断名で当院に入院した101名(84.3±9.5歳 男性/女性:63/38)とした.普通食経口摂取の基準は退院時Functional-oral-intake-scale(以下 FOIS)6以上とした.評価項目は言語聴覚士介入時に合わせて評価した.対象を退院時FOISの値で2群に分類し,検討した.群間比較の結果では体重,Body mass index,Mini-Mental State Examination,除脂肪量,SMIにおいてFOIS6以上群が有意に高い結果であった.ロジスティック回帰分析ではSMIが独立した因子として抽出された. Receiver Operatorating Characterristic curveでは男性 5.8 kg/m2,女性 4.3 kg/m2がカットオフ値として算出された.SMIは高齢肺炎症例の退院時普通食経口摂取可否を予測する因子である可能性が示唆された.
著者
久保 武
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.180-185, 2015-08-31 (Released:2015-10-06)

胸部X線写真は肺病変の評価に必須の検査である.評価のポイントは多いが,病態の把握に特に重要な項目として肺容積,肺野透過性,肺血管影がある.肺容積は肺の病態を評価するのに基本的な情報で,通常は横隔膜の位置を指標として判断する.正常の横隔膜の位置には幅があるが,立位で背側第10肋間に重なることが標準的である.肺透過性の異常はほとんどの肺病変で認められる所見だが,境界不明瞭な場合は意外に指摘することが難しい.左右肺の対応する部位を比較しながら読影する習慣をつけると良い.肺血管については,明瞭さ,太さ,数に注意する.立位では正常の肺血管は上肺よりも下肺で太い.肺血管は肺野病変の評価にも利用できる.血管影が局所的に不明瞭化している場合,その部位の肺野に病変があることを疑う.上記のポイントを意識して胸部X線写真を見ることにより,肺の病態についてより的確な情報を得ることができる.
著者
荒井 秀典
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.206-211, 2019-11-30 (Released:2020-01-28)
参考文献数
18

高齢化している呼吸器疾患患者において認知症,尿失禁,転倒などの老年症候群とともにサルコペニア,フレイルの合併が多くなってきている.特にCOPD患者においては息切れなどによる運動制限や慢性炎症から身体機能が低下しやすく,サルコペニア,フレイルの合併頻度が高い.同時にこれらの合併症はCOPD患者の予後に影響を与える.これらの病態は高齢者において合併しやすいが,COPD患者においてはより若年期からの合併の有無についてスクリーニングを行うとともに適切な予防策を講じることが求められる.すなわち,呼吸器疾患の管理とともに適切な栄養療法,運動療法を継続することが老年期におけるサルコペニア,フレイルの予防につながり,ひいては呼吸器疾患患者の予後の改善につながる.本稿ではサルコペニア,フレイルの概念を概説し,呼吸器疾患患者において問題となりつつあるこれらの病態に対する対処法について述べたい.
著者
柴田 重信
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.30-34, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
6
被引用文献数
1

まず呼吸ケアリハビリテーションと体内時計の関連性があるか否かについて考えてみよう.時計遺伝子は呼吸器にも発現していることから,呼吸機能に日内リズムが見られることになる.実際,安静時の呼吸数には日内リズムが存在し,気管支喘息の発症は明け方に多いという日内リズムがあり,時差ボケの状態では喘息発作が悪化することが知られている.したがって,健全な生活リズムの維持の下で呼吸ケアリハビリテーションを行うことが重要であろう.ところで体内時計は視交叉上核に主時計があり,それ以外の脳には脳時計が,末梢臓器である肺,肝臓,骨格筋・骨には末梢時計がある.体内時計と運動(時間運動学)や体内時計と食・栄養(時間栄養学)の関係について知り,これらの学問が作業療法などを含む呼吸ケアリハビリテーションの実施に如何に役立てるかについて考えることにする.以下に時間栄養や時間運動に関する総説1,2,3,4,5)や著書6)を挙げておく.
著者
加賀屋 勇気 大倉 和貴 皆方 伸 土田 泰大 阿部 芳久 塩谷 隆信
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.55-61, 2020-08-31 (Released:2020-09-02)
参考文献数
23

心不全患者では,労作時の呼吸困難・倦怠感による運動耐容能低下が問題点となることがある.こうした労作に伴う症状は心機能が低下した結果と捉えられがちだが,吸気筋の筋力低下が影響している可能性がある.実際に,心不全患者の吸気筋力は同世代の健常者と比較して低値を示し,吸気筋力は心不全患者の予後規定因子でもある.さらに吸気筋力が低下した患者に対する吸気筋トレーニング(IMT)では運動耐容能,呼吸困難感,QOLの改善が期待できる.一方で,心不全は,他の疾患よりもトレーニングによる心負荷に考慮が必要である.30-40%PImaxの強度ではバイタルに大きな変動はないが,期外収縮の頻度が若干増加する場合もあるため,症例によってはモニタリング下での実施が望ましい.心不全患者に対するIMT研究が進むとともに,IMTが心不全治療の一選択肢として認識されていくことが期待される.
著者
石原 恵
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.212-214, 2009-12-28 (Released:2016-10-07)
参考文献数
4

肺移植待機患者は呼吸器疾患の終末期であると同時に,肺移植の術前期間でもあるという二面性をもっている.移植施設では移植に備え待機患者の病状をリアルタイムに把握しておく必要がある.待機患者は移植施設から離れて待機療養生活を行っていることが多いため,かかりつけ医療機関と移植施設,日本臓器移植ネットワークとの情報交換が大切であり,移植コーディネーターが窓口となってこれらの連携を行うことが重要である.
著者
塩谷 隆信 佐竹 將宏 上村 佐知子 岩倉 正浩 大倉 和貴 川越 厚良 菅原 慶勇 高橋 仁美
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.26-32, 2016-04-30 (Released:2016-04-25)
参考文献数
32

呼吸筋トレーニング(IMT)は,呼吸リハビリテーションの運動療法において,基盤的な種目の一つである.従来,運動療法に関するIMTのメタアナリシスでは,IMTの併用効果についてある程度評価しているものの,運動耐容能の改善についてはポジティブな評価ではなかった.2011年,Gosselinkらは,2000-2009年に発表された32論文を解析した結果から,COPDにおけるIMTに関する新しいエビデンスを発表した.この報告によれば,IMTにより,最大吸気圧,呼吸筋耐久力,漸増負荷圧,運動耐容能,ボルグスケール,呼吸困難(TDI),健康関連QOL(CRQ)の全ての項目で有意な改善が得られている.従来のIMT機器は,内部のスプリングの長さを変えることにより抵抗を調節するthreshold型であった.最近,バルブ弁口面積をテーパリング方式により変化させるtapered型が開発され,臨床応用が始まっている.近年,IMTでは,持続時間よりも実施回数に重点をおいた方法が考案され,1回の実施を30回とする方式で最大吸気圧の増加が報告されている.今後,IMTに関しては,COPD以外の呼吸器疾患における有用性に関して,多施設多数例における臨床研究が待たれる.
著者
一和多 俊男
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.158-162, 2016-08-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
5
被引用文献数
1

呼吸不全とは,呼吸器系障害により低酸素血症(PaO2≦60 Torr)をきたし,また,時に高二酸化炭素血症(PaCO2>45 Torr)をともなう状態で,生体が正常な機能を営み得ない状態である.一方,呼吸不全を広い概念でとらえると,呼吸器障害による動脈血液ガスの異常に加えて,循環障害,酸素輸送障害や末梢組織での酸素利用障害による組織低酸素も含まれる.呼吸不全は,発症形式により急性呼吸不全・慢性呼吸不全・慢性呼吸不全の急性増悪に分類される.また,病態によりⅠ型呼吸不全(低酸素性呼吸不全;PaO2≦60 Torr,PaCO2≦45 Torr)Ⅱ型呼吸不全(換気不全;PaO2≦60 Torr,PaCO2>45 Torr)に分類され,さらにⅡ型呼吸不全は,肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)の正常な群と開大する群に分類される.一般にⅠ型呼吸不全は,Ⅱ型呼吸不全より予後不良である.
著者
大塚 義顕 石川 哲 斉藤 雅史 斎藤 隆夫 大森 恵子 渋谷 泰子 佐藤 孝宏 長谷川 正行
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.69-74, 2020-08-31 (Released:2020-09-02)
参考文献数
14

呼吸器疾患患者の中でも慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)には嚥下障害が高率に併存し,増悪と嚥下障害との関連が指摘されている.一般的に,呼吸と嚥下は文字通り表裏一体の協調関係にあるとされ,切り離しては考えられない.嚥下筋は呼吸中枢からの制御を受けて呼吸と協調した運動をするが,COPDでは呼吸のサイクルが増し,呼気が短くなることから異常な嚥下反射が起こりやすくなると考えられる.そのため嚥下障害の特徴を踏まえたうえで対応することが望まれる.一方,フレイル・サルコペニアを考えたときにオーラルフレイルから咀嚼障害や嚥下障害に移行しないようにしなければならないし低栄養に陥らないようにもする必要がある.そこで,本報告はCOPDのオーラルフレイル・サルコペニア,嚥下障害との関連,および包括的な嚥下リハビリテーションの介入でCOPD増悪の頻度を低下できた症例を提示する.
著者
長坂 行雄
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.24-29, 2021-12-25 (Released:2021-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

肺音は呼吸に伴って胸部で聴こえる音の総称で,正常で聴かれる呼吸音と,それ以外の副雑音に分けられる.副雑音の中で肺から発生する副雑音をラ音と呼ぶ.肺音は心音よりもずっと高音なので,聴診器をしっかり押し付けて聴く.また,呼吸音やウィーズは,一定以上の気流速度にならなければ発生せず,クラックルは一定以上の肺容量にならなければ発生しない.このため,少し大きく息をさせて聴く.ルーチンの聴診部位を決めて,どこにどのような所見が出やすいかを考えて聴診する.モノフォニック・ウィーズは治療への反応がよく,ポリフォニック・ウィーズは全身的なステロイド投与が必要である.また,前胸部の下部で鼻炎のときに副雑音がよく聴かれる.肺底部ではクラックルがよく聴かれる.両側であれば間質性肺炎,右であれば誤嚥性肺炎,左は人工呼吸中の肺炎の可能性が高い.肺音の発生メカニズムや音の伝播を知り,用語を理解することが求められる.
著者
上田 章人
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.264-269, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
19

誤嚥に引き続いて起こる肺の障害には,・「口腔内や上気道に定着している微生物の誤嚥によって生じる細菌性肺炎」である誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)・「逆流した胃内容物の誤嚥によって生じる化学性肺臓炎」である誤嚥性肺臓炎(aspiration pneumonitis)・「異物を繰り返し誤嚥することにより引き起こされた細気管支の慢性炎症性反応」であるびまん性嚥下性細気管支炎(diffuse aspiration bronchiolitis: DAB)がある.これらはオーバーラップすることもあるが異なるものであり,経過や治療方針,再発予防に大きな違いがある.しかし,これらはしばしば混同される.誤嚥性肺炎,摂食嚥下障害を正しく学んだ多職種による連携が,さらなる治療・予防の質向上に寄与するであろう.
著者
根本 健司
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.228-233, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
20

結核の中蔓延国である本邦が低蔓延国を目指すためには,結核の早期診断と確実な治療の実践が必要となる.結核発病診断の基本は細菌学的検査であり,耐性菌による治療失敗のリスクを回避するためにも薬剤感受性試験の実施が必須である.一方,潜在性結核感染症診断の基本はインターフェロンγ遊離試験(IGRA)であるが,偽陽性と偽陰性というIGRAの問題点を臨床的に正しく判断する総合力が必要となる.現在の結核標準治療は,結核病学会治療委員会の『「結核医療の基準」の改訂―2018年』に準じて実施される.この指針ではピラジナミド(PZA)を含めた4剤併用療法が唯一の標準治療法と示され,従来使用されたPZAを含まない3剤併用療法を安易に選択することは控えなければならない.本稿では,呼吸ケア,呼吸リハビリテーションに関わるすべてのメディカルスタッフを対象に,結核の診断と治療に関する基本的事項を中心に概説する.
著者
田代 大祐 中原 雅美 中川 昭夫
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.228-232, 2022-04-28 (Released:2022-04-28)
参考文献数
20

【目的】本研究は,椅子座位と便器座位の姿勢の違いおよびその身体的負担を検証し,便器座位姿勢の特徴を明らかにすることを目的とした.【対象と方法】健常若年成人男性19名を対象とし,椅子座位と便器座位の2つの姿勢において3次元動作解析装置を用いた姿勢計測(脊柱角度,体幹角度,骨盤角度,大腿角度,臀部の高さ)と胸壁計測(胸部・腹部における呼吸変化量),床反力計を用いた臀部荷重率,表面筋電計を用いた体幹筋活動量(腹直筋・腰部脊柱起立筋)を計測し比較した.【結果】上部脊柱角度,体幹角度,臀部荷重率,上部胸郭の胸壁体積変化量において便器座位が椅子座位に比べて有意に高値を示した.また,骨盤角度,大腿角度,臀部の高さにおいて便器座位が椅子座位に比べて有意に低値を示した.【結語】便器座位は,姿勢を脊柱後弯位に変え,呼吸努力を増加させるため身体的負担が大きい姿勢であることが示唆された.
著者
田中 康友 田中 貴子 新貝 和也 北川 知佳 陶山 和晃 城石 涼太 力富 直人 津田 徹 宇都宮 嘉明 神津 玲
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.195-200, 2022-04-28 (Released:2022-04-28)
参考文献数
20

【背景と目的】慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下COPD)患者の入院原因を調査するとともに,併存疾患による入院と健康関連生活の質との関連を検討すること.【対象と方法】安定期のCOPD患者を対象に過去1年間の入院の有無・回数・原因とCOPD assessment test(以下CAT),を評価した.【結果】解析対象者は103例で,入院回数は全原因を含めて63回であった.そのうち併存疾患による入院は28回(44%)で,内訳は心血管疾患が10回(16%)と最も多く,運動器疾患など他の疾患は5%程度であった.また,重回帰分析の結果,併存疾患による入院とCATとの関連は認められなかった(P=0.607).【結語】COPDの増悪に加えて,心血管疾患を含めた併存疾患にも配慮した全身管理やセルフマネジメント指導の必要性が示唆された.
著者
菊谷 大樹 大森 政美 長神 康雄 加藤 達治
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.134-139, 2021-12-25 (Released:2021-12-25)
参考文献数
24

【背景と目的】医療・介護関連肺炎の多くは高齢者の誤嚥性肺炎であり,嚥下機能,咳嗽機能が低下している例が多い.咳嗽力の測定には咳嗽時最大呼気流速が用いられることが多いが,認知機能が低下した患者では実施困難である.今回,医療・介護関連肺炎患者に対し,より簡便な最長発声持続時間を用いて咳嗽力評価としての有用性と日常生活動作,嚥下機能との関連性について検討した.【対象と方法】2018年12月~2019年6月に戸畑共立病院に入院した患者で,医療・介護関連肺炎患者61例を対象とした.最長発声持続時間3秒未満群と3秒以上群に分類した.【結果】最長発声持続時間3秒未満群において自己排痰が困難である例が多く,日常生活動作能力と嚥下機能が有意に低値であった.【結語】医療・介護関連肺炎患者において,最長発声持続時間は咳嗽力評価として有用であり,日常生活動作能力・嚥下機能とも強い関連性があると考えられた.
著者
岩川 裕美
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.103-108, 2010-10-31 (Released:2016-09-01)
参考文献数
4

COPD患者の栄養管理は,禁煙・薬物療法・運動療法に加え,体重管理が重要である.病態により,エネルギー代謝の亢進がみられるにもかかわらず,息苦しさから経口摂取量も減少し,うつ状態になりやすい.早期の段階から,患者のライフ・スタイルに応じて食べやすいもの,場合によっては栄養剤の選択,食べ方の指導が必要となる.同時に,経口摂取の重要性,体重測定の必要性の教育も行うことが重要である.
著者
神津 玲 藤島 一郎 朝井 政治 俵 祐一 千住 秀明
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.93-96, 2007-08-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
7
被引用文献数
1

摂食・嚥下障害例では誤嚥,特に唾液誤嚥(不顕性誤嚥)が問題になることが少なくない.その予防のために,呼吸理学療法の一手段である体位管理が臨床的に有用であることを経験する.今回,唾液誤嚥に及ぼす体位の影響について検証を行った.重度嚥下障害例を対象に,仰臥位,後傾側臥位,前傾側臥位の各体位での唾液誤嚥の動態を喉頭内視鏡を用いて観察した.その結果,仰臥位および後傾側臥位では,唾液の著明な咽頭貯留,吸気時の喉頭侵入や呼気時の吹き出しを認めたが,前傾側臥位では咽頭貯留,喉頭侵入ともに認めなかった.唾液誤嚥の予防に前傾側臥位の有用性が示され,臨床現場における患者管理の一環として積極的に導入する価値があるものと考えた.