著者
井尻 暁
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.29-37, 2020-01-15 (Released:2020-04-22)
参考文献数
38
被引用文献数
1

泥火山は,高間隙水圧をもった堆積物が泥ダイアピルとして上昇し地表に噴出した小丘で世界各地の大陸縁辺域に分布している.近年の研究により,泥ダイアピル中の微生物が海底下の物質循環に貢献していること,泥火山の活動により地下深部の微生物が地表に運ばれていることが明らかになってきた.種子島沖の泥火山では海底下に存在するAtribacteriaがメタンと共に泥火山から海水中に放出・拡散されているのが発見され,海底泥火山が海洋と地下生命圏を繋ぐ地質学的な生命移動・拡散経路となっていることが確かめられている.熊野海盆の泥火山で行われた科学掘削により,流体の移動プロセスが微生物の代謝に深く関与していること,海底下の微生物活動がこれまで認識されてきた以上に地球の炭素循環に大きく寄与している可能性が示唆されている.
著者
中嶋 健
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.9, pp.693-722, 2018-09-15 (Released:2018-12-15)
参考文献数
260
被引用文献数
19 42

近年の高精度年代測定により,始新世~中期中新世にかけ,日本海拡大に伴って日本列島の陸域では多段階のリフティングが生じ,不整合で区切られたリフト堆積盆の発達があったことが明らかになった.これらは,大陸リフト,日本海盆の拡大,大和海盆の第1期および第2期の拡大そして東北本州リフト系の活動に終わる,一連の日本海リフト系の多段階のリフティングに応じて形成された.瀬戸内区には,古第三紀の広大な堆積盆が形成されたことが明らかになった.15Maに西南日本弧は隆起し,沈降する東北日本弧とのコントラストが顕著になった.直後に外帯火成活動や瀬戸内火山岩類の特異な火成活動が西南日本弧で生じた.東北日本弧では,12Ma頃より奥羽山脈の隆起と日本海沿岸の沈降を伴う圧縮テクトニクスが生じ,半閉鎖的・還元的日本海が成立して根源岩が形成された.6Ma頃より東北日本,西南日本弧ともに圧縮場が強まり短縮変形が進んできた。
著者
平 朝彦 飯島 耕一 五十嵐 智秋 坂井 三郎 阪口 秀 坂口 有人 木川 栄一 金松 敏也 山本 由弦 東 垣 田中 智行 西村 征洋 鈴木 孝弘 木戸 芳樹 渡邊 直人 奥野 稔 井上 武 黛 廣志 小田 友也 濱田 泰治 室山 拓生 伊能 隆男 高階 實雄 勝又 英信 原田 直 西田 文明 南川 浩幸 金高 良尚
出版者
The Geological Society of Japan
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.7, pp.410-418, 2012
被引用文献数
5

東北地方太平洋沖地震において関東地方を中心に前例のない広域的な液状化被害が報告されている.都市地盤における液状化現象を理解し,その対策を立てるには,液状化が地下のどこで起ったのかを同定することが極めて重要である.本報告では,千葉県浦安市舞浜3丁目のボーリングコア試料に対して,X線CTスキャン解析を実施し,非常に鮮明な地層のイメージの取得に成功した.この結果,地面下13 mまでの地層を5つのユニットに区分することができ,その中で6.15 mから8.85 mまでの間で地層のオリジナルな構造が破壊されており,液状化した層であると判定した.この手法は,今後の液状化研究に関して,大きな貢献が期待できる.
著者
大井 信三 横山 芳春 西連地 信男 安藤 寿男
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.7, pp.488-505, 2013-07-15 (Released:2013-11-02)
参考文献数
47
被引用文献数
1 2

茨城県常陸台地を構成する下総層群の層序区分については,房総半島との対比が確立されておらず,研究者の意見の一致をみていない.本論では特に層序的な問題が多い木下層について,テフラの岩相と岩石記載,屈折率や火山ガラスの主成分化学組成を分析し,それらに基づいて給源火山域および鹿島沖海底コア(MD01-2421)中のテフラと広域対比を試みた.対比および対比の可能性のあるテフラは,ArPはNk-Yt,OiPはNk-Nm,ObはTAu-9,KtPと鹿島沖海底コアTephra20(1)である.広域対比の結果,ArP,TAu-9がMIS 5e前期,OiPがMIS 5e最盛期,KtPがMIS 5d初期に降灰したとみなされる.これによって,木下層剣尺部層の堆積年代がMIS 6~MIS 5e,行方部層がMIS 5d初期であると解釈される.
著者
生田 正文 丹羽 正和 檀原 徹 山下 透 丸山 誠史 鎌滝 孝信 小林 哲夫 黒澤 英樹 國分(齋藤) 陽子 平田 岳史
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.3, pp.89-107, 2016-03-15 (Released:2016-06-21)
参考文献数
67
被引用文献数
11

既往文献の火山ガラス屈折率データからは識別が困難であった桜島の歴史時代の噴火(文明,安永,大正)軽石について,本研究では火山ガラスの水和部と未水和部とを区別して屈折率測定を行い,斜方輝石の屈折率も含めてそれぞれの軽石に違いがあることを見出した.一方,宮崎平野南部で掘削したコアに含まれる軽石濃集層に対して鉱物組成分析,火山ガラスの形態分類や屈折率測定,斜方輝石の屈折率測定,および炭質物の放射性炭素年代測定を行い,本研究による歴史時代の桜島噴火起源の軽石の分析と比較した.また,それぞれの火山ガラスについてレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法による主成分・微量元素同時分析を行った.その結果,軽石濃集層は桜島文明テフラに対比されることが判明した.桜島文明テフラは,軽石の状態で宮崎平野南部まで到達していた可能性が高い.
著者
笹井 博一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.43, no.515, pp.590-602, 1936 (Released:2008-04-11)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2
著者
歌川 史哲 指田 勝男 上松 佐知子 髙津 翔平
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.11, pp.969-976, 2017-11-15 (Released:2018-02-23)
参考文献数
15
被引用文献数
1

The Neogene Chikura Group, which is widely exposed in the southeastern part of Minamiboso City, Chiba Prefecture, Japan, is made up of a thick sequence of marine sedimentary rocks deposited in a middle to upper bathyal environment. The group comprises (in ascending order) the Shirahama, Shiramazu, Mera and Hata formations. The upper Pliocene Shirahama Formation is composed mainly of red-brown volcaniclastic sandstone and the Nojimazaki Conglomerate Member. This member comprises volcaniclastic conglomerate with granules to boulders of basalt and andesite, and is characterized by pebbles of andesite, basalt, granodiorite, gabbro, sandstone, siltstone, greenish tuff, and chert. We obtained Anisian and Ladinian (Middle Triassic) radiolarians from chert pebbles, and Bajocian to Callovian (Middle Jurassic) radiolarians from a siliceous siltstone pebble. These Mesozoic pebbles were probably derived from a Mesozoic accretionary complex (present-day Kanto District) in the northwestern part of Boso Peninsula.
著者
鈴木 舜一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.114, no.5, pp.256-261, 2008-05-15 (Released:2009-03-22)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

In the middle of the 8th century, a prospecting party under the Provincial Government of Michinoku discovered a gold placer at Nonodake Hill, the Province of Michinoku, Northeast Japan. The placer was worked by corvee labor. It was the earliest gold mining in Japan. K. Kudaranokonikishi, Governor of Michinoku, offered 33.75 kg of gold to the Emperor Shomu in 749. The people of the northern parts of Michinoku were saddled with 9.4 g of gold in poll tax from 752. The gold was used for gilding of the great bronze statue of Buddha at Nara, which was under construction. The statue, 15.8 m in height, was completed in 757. A total of 150 kg or more of gold was gilded the statue and others. In 760, the Japanese Government minted the first gold coin in Japan, which was named Kaikishoho. The working was interrupted because of a rebellion by the natives against the Government in 774, and was reopened after 38 years’ disturbances of war. The gold diggings decreased in production from the early part of the 9th century. The placer gold had been almost exhausted in the 15th century. A very small quantity of gold is still obtained from the remains of the diggings.
著者
安藤 寿男
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.1, pp.84-97, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
95
被引用文献数
7 8

関東平野東端には下部白亜系銚子層群,最上部白亜系那珂湊層群,古第三系大洗層が孤立して分布し,東北日本,西南日本の地帯構造を考える上で重要な情報をもたらす.3つの地層群の研究の現状をまとめた上で,それらの地質学的意義を考察した.東北日本の蝦夷堆積盆の北上および常磐亜堆積盆における上部アプチアン以上の白亜系~古第三系には,時代・層序・堆積相の上で3地層群に比較可能な地層は見られない.銚子層群は層序分布から関東山地北部の西南日本外帯秩父帯の山中白亜系の東方延長と見なされる.那珂湊層群は西南日本内帯南縁の和泉層群との共通性が高い.大洗層は礫の放射年代,植物化石などから白亜系ではなく古第三系の可能性が高い.那珂湊層群と大洗層は棚倉構造線の南方延長の破砕帯に含まれた古期岩類の断層隆起地塊をなしており,西南日本の要素と見なされる.大洗層は,関東山地北部の寄居層および神農原層とに対比できる可能性がある.
著者
久野 久
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.63, no.744, pp.523-526, 1957-09-25 (Released:2008-04-11)
参考文献数
6
被引用文献数
4 4
著者
山路 敦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.31-40, 2017-01-15 (Released:2017-04-18)
参考文献数
21
被引用文献数
2
著者
永田 紘樹 小松 俊文 シュリージン ボリス 石田 直人 佐藤 正
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.121, no.2, pp.59-69, 2015-02-15 (Released:2015-05-19)
参考文献数
74
被引用文献数
2 2

島根県西部に分布する下部ジュラ系樋口層群の調査を行い,樋口層群を新たに下位より尾路地谷層と樋口谷層に区分した.尾路地谷層は,礫岩,砂岩,泥岩からなり,二枚貝化石のOxytoma sp.や“Pleuromya” sp.を産出する.樋口谷層は,軟体動物化石を含む暗灰色泥岩を主体とする.樋口谷層からは,6属6種の二枚貝化石,Kolymonectes staeschei,Palmoxytoma cygnipes,Ryderia texturata,Pseudomytiloides matsumotoi,Oxytoma sp., “Pleuromya” sp.が産出する.本層群の二枚貝化石群は,ロシアやカナダ北部に分布する下部ジュラ系から産する北方系のフォーナであるK. staescheiやP. cygnipesを含み,典型的なテチス系の種を含まない特徴がある.
著者
佐野 晋一 伊庭 靖弘 伊左治 鎭司 浅井 秀彦 ジューバ オクサナS.
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.121, no.2, pp.71-79, 2015-02-15 (Released:2015-05-19)
参考文献数
72
被引用文献数
3 6

日本の最下部白亜系産ベレムナイトを検討し,岐阜県荘川地域手取層群御手洗層からシリンドロチューティス科Cylindroteuthis aff. knoxvillensis Andersonの,そして宮城県気仙沼地域磯草層および福島県南相馬地域相馬中村層群小山田層からメソヒボリテス科Hibolithes spp.の産出を,それぞれ初めて確認することができた.ベレムナイト古生物地理において,シリンドロチューティス科はボレアル系,メソヒボリテス科はテチス系と考えられており,現在の緯度ではより北に位置する南部北上地域にテチス系動物群が,一方,手取地域にボレアル系動物群が存在することは,当時の古地理や海流系を復元する上で注目される.また,上記の3層から発見されるアンモノイドはテチス海地域から太平洋域に広く分布する属からなり,ボレアル系の要素は知られていないことから,当時の手取地域がテチス区とボレアル区の境界付近に位置していた可能性がある.
著者
佐野 貴司
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.4, pp.207-223, 2017-04-15 (Released:2017-07-25)
参考文献数
126
被引用文献数
1

21世紀に入ってから,2つの海洋LIPs(オントンジャワとシャツキー海台)で基盤溶岩を採取する掘削が行われた.基盤溶岩は大陸洪水玄武岩の塊状層状溶岩流と類似していた.元来,両LIPsはプルーム頭部がプレート境界に衝突して生産されたと考えていたが,40Ar-39Ar年代は熱プルームモデルから想定されるよりも長期間の活動を示した.岩石学的に見積もられたマントルの温度(ポテンシャル温度)も熱プルームモデルから期待される温度(>400°C)よりは低温であった.両LIPs溶岩には様々に肥沃化した微量元素および同位体組成が認められ,これはプルームに起源を持つことを示していが,明瞭な下部マントルの特徴(例えば,高3He/4He比)は確認できなかった.また両LIPsの形成後の沈降量は熱プルームモデルから推定される値に比べると少ないことが分かった.単純な熱プルームモデルでは,両LIPsのマグマ成因を説明できなく,まだ沢山の課題が残っていることが分かった.
著者
原山 智 高橋 正明 宿輪 隆太 板谷 徹丸 八木 公史
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.Supplement, pp.S63-S81, 2010 (Released:2012-01-26)
参考文献数
28
被引用文献数
2 7

飛騨山脈の北半部中央を南から北へ流下する黒部川の流域はいまだ踏査の行われていない地域が残る地質学的秘境の状態にある.近年に至っても様々な発見が相次いできており,その代表的な例が第四紀黒部川花崗岩の発見である.黒部川花崗岩は黒部川右岸中流域の祖母谷温泉から黒部ダム- 扇沢にかけてバソリスとして露出している.黒部川流域は日本国内ではもっとも多数の花崗岩貫入時期が確認される地域であり,ジュラ紀(190 Ma 前後),白亜紀前期末(100 Ma 前後),白亜紀後期初頭(90 Ma),白亜紀後期末(70 Ma前後),古第三紀初頭(65-60 Ma),鮮新世初頭(5 Ma),鮮新世(3 Ma),第四紀更新世前期(2-1 Ma)の貫入ユニットが確認できる.この流域には源頭部から黒部川扇状地に至るまで多数の温泉や地熱地帯が知られており,祖母谷,黒薙地域には80℃を超える高温泉がある.また黒部峡谷鉄道の終点,欅平から名剣温泉にかけてはマイロナイト化した花崗岩類中に熱変成した結晶片岩類が捕獲され,その帰属が議論されてきた.本見学旅行では,飛騨山脈の形成という視点で黒薙・鐘釣・祖母谷の温泉と,欅平-祖母谷温泉間の鮮新世-更新世の花崗岩および剪断帯を取り上げ,観察する.
著者
沢田 順弘 門脇 和也 藤代 祥子 今井 雅浩 兵頭 政幸
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.115, no.Supplement, pp.S51-S70, 2009 (Released:2012-01-26)
参考文献数
77
被引用文献数
2

山陰地方には主として玄武岩とデイサイトからなる第四紀火山が分布する.本見学旅行では,山陰中部の対照的な第四紀火山であるデイサイトからなる大山と,玄武岩からなる大根島-江島を見学する.大山は中国地方の最高峰,剣ヶ峰(1729 m)を主峰とする.火山活動は中期更新世(約100万年前)から始まり,1万7千年ほど前に終息している.一方,大根島-江島火山は宍道地溝帯中軸部において,19万年前に陸上で噴火した火山である.大山はデイサイト溶岩円頂丘や側火山,それらの周辺の火砕流や土石流堆積物,崩壊ないし崖錐堆積物,降下火山灰からなる.大根島は著しく粘性の低い玄武岩溶岩を主とする.給源の一つであるスコリア丘,天然記念物である溶岩トンネル,様々な形態の溶岩,火山地形,大山や三瓶山起源の広域テフラが観察できる.また,火山島の地下に普遍的に存在する淡水レンズを実感できる.