著者
増田 喜治 浅野 涼子 J.H ジャンゼン D.R ジャンゼン
出版者
名古屋学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

聾学校に通学中の3名の人工内耳装用児に日本人と外国人英語教師による英語教育とシドニー在住で英語を母国語とする人工内耳装用児との交流の場を提供した。言調聴覚論を基礎としたグループレッスンを名古屋学院大学・白鳥キャンパスで合計25回、スカイプによる個別の遠隔授業が50回行われた。身体運動を伴った発音矯正を常に行なったが、3名とも日英語の話し言葉の認知度は3年間で変化することなく、約60%程度であった。しかし、英語レッスンに参加した時の学習意欲は常に高く、楽しい授業展開であった。一方、スカイプを利用した遠隔レッスンではパソコンとデジタル通信に伴う障害を乗り越えて、各装用児がパソコンに向かい、自分のペースで教師の映像、音声と振動情報を頼りに、英語学習を行なった。スカイプのチャット機能を利用し、文字言語を利用した意思疎通も日英語で行なった。ただし、英語に対する一人一人の学習意欲はグループレッスンと比較すると高いとは評価できなかったが、シドニーにおけるホームステイの活動目標により、学習意欲の継続的支援となった。国際交流プログラムでは、平成22年の夏に代表2名がシドニー在住の人工内耳装用児宅でホームステイを行い、異文化体験した。また、シドニーの装用児との交流を通して彼らの言語訓練プログラムと置かれている環境を体験した。更に4ヶ月後にはシドニー在住の装用児が名古屋を訪れ、ホームステイを通して互いに活発な文化交流を行なった。本研究は、日本在住の人工内耳装用児たちに対して英語教育を行なうだけではなく、同様の障害を持ちながらも異なった文化背景の中で、継続的言語リハビリテーションを受けた英語を母国語とする人工内耳装用児とホームステイプログラムにより交流することができた。今後、彼らが日本と世界に在住する人工内耳装用児・者との交流に貢献が出来るような基盤が築き上げられたと本研究グループは確信している。
著者
三浦 孝一 河瀬 元明 蘆田 隆一
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では,固体であるイオン交換樹脂を原料とし,触媒金属イオンをイオン交換で高濃度・高分散担持させてから熱処理することによって,直径3~5 nmの一様な球形かつ中空状の構造を有する新規なナノ構造炭素「カーボンナノスフィア」を合成することに成功した。カーボンナノスフィアのBET表面積は1000 m2/g前後に達し,電気二重層キャパシタの電極材料として使用したところ,作成した電極は高速充放電特性に優れることが明らかになった。
著者
駒谷 真美
出版者
昭和女子大学短期大学部
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の内容本研究の背景として、博士論文(お茶の水女子大学大学院,2006,駒谷)で、幼児期と児童期それぞれの時期に適応したメディアリテラシー(以下MLと略す)教育を日本で初めて開発し、「ML教育と子どもの生態学的環境モデル」を構築した。更なる研究の萌芽を育成する視点から、幼児教育と小学校教育の場でのML教育の普及を期待し、その方略として、教育学的視点から幼稚園年長児から小学校1年生までを対象に、接続期を意識したML教育の幼小連携カリキュラムを開発した。平成19年度は、米国でのML教育のカリキュラムとレッスンスタディの技法を研修し、本研究のカリキュラム試案をまとめた。平成20年度は、【接続期前期】のカリキュラムを玉川学園幼稚部で実践した。平成21年度は、【接続期中期】と【接続期後期】のカリキュラムの継続実践を行った。本研究の意義と重要性国内外では初めてML教育において接続期を意識し、幼児期から児童期の統合性と継続性を持つ幼小連携カリキュラム「メディアであそぼ!」を開発した点に、本研究の意義を見出せる。具体的には、玉川学園幼稚部で【接続期前期】(年長児後半)プロジェクト「好きな遊びのCMを作ろう!」(グループで遊んでいるCMを作成し発表)、同学園初等部で【接続期中期】(小学1年入学~ゴールデンウィーク前)プロジェクト「自分CMを作ろう!」(各自自己紹介のCMを作成し発表)、【接続期後期】(ゴールデンウィーク後~1学期末)プロジェクト「クラスのニュース番組を作ろう!」(初めてのグループ活動で、入学以降クラスで体験した行事や勉強について、ニュースを作成し発表)を実践した。「メディアであそぼ!」は、幼稚園では「ことば」「表現」の領域、小学校では「国語科」に該当する。全実践をビデオカメラで記録しテープ起こしを行い、事前事後アンケートやインタビューを実施した分析結果から、時期を重ねるごとに、メディア活動の体験を通して「メディアは作られている」というML教育の基本概念に対する気づきが表出し、自己表現活動・グループ活動を通して「言語活動の充実」が認められるに至った。接続期におけるML教育の重要性が示唆された。
著者
岩見 雅史
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

インスリンは、線虫や昆虫での研究により、個体の生き残り戦略の要となる分子であることが示されつつある。これは、従来の「血糖調節・代謝調節」に係わるホルモンとしての機能を大きく展開させるものである。昆虫におけるインスリン分子(ボンビキシン)の全貌を明らかにし、Cペプチドの新規機能を明らかにするため、本年度は、新規ボンビキシン遺伝子の発現解析およびアミド化CペプチドのMAPキナーゼに対する作用を検討した。(1)発現解析の結果、Vファミリー遺伝子は脳、Wファミリー遺伝子は脳及び卵巣、Xファミリー遺伝子は脂肪体、Yファミリー遺伝子は脳及び卵巣、Zファミリー遺伝子は脳、脂肪体及び卵巣で発現が見られた。(2)アミド化Cペプチドとして、(1)N-GAQFASYGSAWLMPYSEGRamide-C、(2)N-DAQFASYGSAWLMPYSAamide-Cを用いた。また、非アミド化Cペプチドとして、(3)N-GAQFASYGSAWLMPYSEGRG-Cを用いた。体液ボンビキシン濃度の低い5齢2日と高い5齢10日幼虫からマルピーギ管と脂肪体を摘出し、前培養後、Cペプチド存在、非存在下で培養を行った。MAPキナーゼとしてErk及びp38のリン酸化亢進の有無を、抗リン酸化抗体を用いたウエスタンプロット解析により検討した。マルピーギ管、脂肪体いずれにおいてもアミド化、非アミド化を問わず、Cペプチド投与によるリン酸化Erk及びp38の増加は見られなかった。各実験区においてデータのばらつきが多いため、条件等の再検討が必要である。また、今後、他の組織、PI3キナーゼ等の他のシグナルカスケードで検討も必要である。
著者
木原 善彦
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本年度は主に、現代アメリカ文化における「エイリアン的なもの」を、ポストヒューマンな領域に探求した。近年のアメリカ文化において「エイリアン」は常に巨大科学の暗黒面として現れてきており、外宇宙探査に対応する地球外知的生命体、人体という内宇宙研究に対応するバイオテクノロジカルな異星人などがイメージされてきた。それらは詰まるところ、科学技術の加速や暴走に対する畏れ/恐れを外宇宙に投影したアイコンだった。さらに最近、そうした畏怖の対象となりつつある科学技術がナノテクとサイボーグ技術であり、それらはともに生物と無生物との境界を侵す技術であるため、もはや「エイリアン的なもの」が異星「人」や異星「生物」として現れることはなく、もっと身近なところでの不安に反映される。結局、この「生物と無生物との境界」でのせめぎ合いは、すなわち人間そのものを変える可能性として、「ナノ粒子の環境への影響」、フランシス・フクヤマの言う「人間の終わり」などの議論で脅威として取り上げられる一方で、大衆文化的にはSF映画・小説に頻出するナノマシンやサイボーグという形を取っている。この変化は、リメイクされた映画『宇宙戦争』(1953,2005)やSF映画界での近年の宇宙ものの不振などに典型的に現れている。現在、「エイリアン的なもの」は人体改造や向精神薬、ナノ粒子やコンピュータプログラムのバグなどに存在し、それらは一方で各人の生活様式や文化と密接に結びついているため、エイリアン的畏怖が文化的摩擦と極度に接近しており、また他方では偶然性に結びついているために感情的鈍磨にも一役買っていると言えるだろう。
著者
DODBIBA Gjergj 藤田 豊久
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では金属液体として金属ガリウムを使用し、分散させる強磁性粒子には数百nmの粒子径で温度の上昇とともに飽和磁化が低下する感温性がある鉄合金粒子をシリカ被覆してガリウムに分散させやすくして使用した。ガリウム中に3%程度の本粒子径の鉄合金粒子を分散させると、流体は外力でやわらかく変形するゲル状になった。本流体は流動性が少ないため、流動性がある磁性流体よりは懸濁液であるMR流体に近いと考えられる。この金属流体へ磁界の印加の有無によるトルクと角速度の関係を円錐平板型粘度計および共軸二重円筒型にて測定した。磁界中での流体の粘度変化が少なければ、応用として磁界の印加でオンとオフで移動できるスイッチ、あるいは、磁界印加状態で温度が変化すると流体が保持されなくなることによる温度スイッチなどが考えられる。
著者
荒尾 晴惠 小林 珠実 田墨 惠子
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

【研究目的】本研究は、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害について明らかにし、患者自身が必要なセルフケアを実行できるよう支援する有効な看護介入を考案することにある。最終年度の平成22年度は、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害の様相を明らかにすることを目的として2つの研究に取り組んだ。【研究方法】研究(1)外来通院中の化学療法を受ける乳がん患者を対象に、認知機能障害の様相について質的研究を行った。半構成的面接法を行い共通したコードを集めてカテゴリー化した。研究(2)在宅療養中の乳がん患者を対象に研究者らが作成した認知機能障害の項目について自記式質問紙による調査を行った。研究の実施にあたっては、調査施設の研究倫理委員会で審査を受け承認を得た後に実施した。【結果と考察】研究(1)対象者は10名で、全員が女性、平均年令は53.5歳、2名が術前化学療法。〈自覚する認知機能の変化〉として《記憶力の低下》《思考力の低下》《注意力の低下》があった。さらに、《家族からの認知機能の評価》があり、自分では気づかないが同居者から指摘を受けていた。影響を与える状況として、末梢神経障害や倦怠感などの〈身体機能の変化〉と同時に〈心の在り様の変化〉があった。これらは《注意力の低下》に影響し〈いつもの暮らしの継続の支障〉として《自動車運転への支障》《対人関係への支障》を来していた。また《記憶力の儀下》は、《家事遂行の支障》を引き起こしていた。研究(2)対象者は30名(回収率62.5%)全員が女性平均年齢は55.3歳。認知機能障害の項目として対象者の自覚があったのは短期記憶、運動機能、情報処理速度だった。以上の研究成果から、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害の様相の特徴が明らになったが、加齢による認知機能障害との識別など課題も明確になっており、対象者の人数を増やし程度や時期による変化についても検証していくことを今後の課題とした。
著者
中島 千恵 坂本 裕子 浅野 美登里 落合 利佳 鳥丸 佐知子
出版者
京都文教短期大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1.2年間の取り組みを通した学生の食意識改善度、連携力向上の分析:入学後の知識の獲得が意識改善に影響をもたらし、意思決定に関わる価値の内面化、一情報獲得への姿勢にも一定の効果があった。しかし、著しい行動変容をもたらすには至らなかった。とりわけ、女子学生のやせ願望は改善しなかった。学生対象のアンケートは自己認識を高め、問題意識、改善意識を高める手段として効果があを目指した大学祭での食育実践では、約60%が他専攻の学生と一緒に活動できたことを評価しておりった。また、家庭におけお「お手伝い」の無と改善度との相関関係が伺われた。連携力を培うこと、企画検討のプロセスが相互の専門性に関心を持ち、連携する上での困難や問題点に気づかせる機会となった。2.卒業生対象の追跡調査の実施と分析:食育基本法制定以前の学生(平成15年度入学)291名と本研究を通して様々な経験をした平成19年度入学生377名を対象にアンケートを実施し、大学教育の効果を探った(回収率約30%)。大学で学んだ知識や技術の有用感は、平成19年度入学生の方が約30%多かった。しかし、食育基本法が制定され既に3年を経過しているにも関わらず、保育士、栄養士ともに「活用の機会が無い」と感じていた。3.保育園での食育実践:学生の連携力を高める更なる取り組み:合同の講演会に加え、中島、坂本、浅野が担当するゼミで合同授業や合同保育園見学を行い、近隣の保育園2箇所で学生主体の食育実践を行った。4.京都府下の保育園アンケートの分析とフィードバック:平成20年度に実施したアンケート結果から、保育園では栄養士より保育士が食育の企画や実施に取り組んでいるケースが多いことがわかった。栄養士の保育所への配置も含め、今後、養成校のみだけでなく、政策的にも栄養士の保育園や学校での食育実践力に力が注がれる必要があると考える。
著者
福永 浩司 笠原 二郎 塩田 倫史
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

私達はこれまでに心臓型脂肪酸結合蛋白質(H-FABP)の欠損マウスにおいて常同行動と認知機能の異常、恐怖行動の亢進が起こることを見出した。脳内ドパミン神経はこれらの行動発現に関与すること、H-FABPはドパミンD2受容体との結合することから、H-FABP欠損マウスのドーパミン神経機能について解析した。最初にH-FABP欠損マウスにメタンフェタミンを投与し、ドパミンD2受容体の機能異常について調べた。また、ドパミンD2受容体拮抗薬であるハロペリドールによるカタレプシー現象を検討した。さらに、背側線条体におけるマイクロダイアリシス法を用いて、ハロペリドール刺激によるアセチルコリン(ACh)の放出を検討した。結果として、H-FABP欠損マウスではメタンフェタミンに対する感受性が有意に減弱した。さらに、H-FABP欠損マウスにおいてドパミンD2受容体拮抗薬の投与によるカタレプシー現象の有意な亢進が見られ、H-FABP欠損マウスではカタレプシーが亢進する同じ用量で、線条体でのハロペリドール誘発のACh遊離が顕著に亢進していた。免疫染色法によりH-FABPが背側線条体のACh神経細胞に強く発現することを確認した。さらに、培養神経様細胞を用いてH-FABPがドパミンD2受容体の機能を亢進させることを初めて証明した。これらの結果は、H-FABP欠損マウスに見られたカタレプシー現象の亢進には線条体におけるACh神経におけるD2受容体の機能異常が関わることを示唆している。
著者
岡崎 敏雄 嶺井 明子 一二三 朋子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、持続可能性の内容重視日本語教育における学習者意識の変容を分析する。持続可能性とは、グローバル化のもとで加速化する環境危機、開発、貧困、雇用・社会保障不安等の諸困難により持続不可能な、個人・社会の転換を目指すライフスタイル、社会経済のあり方を指す。従来の内容重視の言語教育は、専門学習の準備として行われてきた。国内外でグローバル化への対応に向け、教育の専門化・細分化による産業界即戦力養成が急である。このような専門化・細分化に対して個人のライフスタイル、社会経済の転換など人としての生き方に関わるジェネラルな教育を横断的カリキュラムで行う教育システムの形成が必要である。本研究の対象となる日本語教育は、そのようなリベラルアーツ教育を目指す場として実現する点に独創的な価値がある。本研究では、従来取り上げられなかった学習者が持続可能性と自分との関連(レラヴァンス)を見出す切り口を多面的に設定する日本語教育により促される意識の変容を取り上げる一例(グローバル化に対応するための構造改革による雇用・社会保障上の不安等)持続可能性の社会レベルでの揺らぎに対する(「就職・子育ての選択」「就職と直結する専門学習など」学習者が迫られる切実な問題に対する「問い」(自分はどんな生き方をしていくのか(行動基準)など)の切り口。その問いを考える手がかりとして、日本語による資料・文献の読み、ビデオ視聴、タスク活動、内省レボート記録を実施し、分析結果を公刊した。
著者
石田 貴文
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

これまでの民族識別へのアプローチは、個人識別のために求められていた多型標識の頻度分布をベースに、民族毎に比較するものであった。近年の解析技術の長足の進歩は、一度に何十万という一塩基多型(SNP)の解析を可能とした。2008年に日本人について14万SNPの解析結果が報告されたこと、汎アジアコンソーシアムによりアジアの75集団のSNP解析が済んだとの情報をえたことから、研究内容に重複の無いよう、本研究も軌道修正をおこなった。汎アジアコンソーシアムで扱われなかったアジア集団、フローレス・セラム人の遺伝的多型解析をおこなった。また、比較のため、スンバ人も検索に加えた。ミトコンドリアDNA超可変領域、Y染色体STR、常染色体STRを調べた。地理的に近く、オーストロネシア語を使っているにもかかわらず、予想に反しフローレス人はノンオーストロネシアとクラスターすることがわかった。フローレス島は、小型人類の発掘でも注目されている場所であり、今後近隣集団の解析を加えることで、人類の移動、特にオーストロネシアンの移動と混交へ知見をもたらすと期待される。また、日本人の成立に関する南方からの寄与にも、オーストロネシアンの解析は必要である。
著者
林 直人
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では,通常プラズマCVD(chemical vapor deposition)法など高エネルギー・高コストプロセスによって作られるDLC(diamond like carbon)皮膜を,加速されたボールの衝突によって常温・常圧条件下で誘起される瞬間的な高温・高圧反応場(メカノケミカル効果)を利用して迅速に形成することを目的とする。そのために鉛直方向に高速振動加速したボールによって繰り返しインパクト処理を行う新規のメカノケミカル法(ボールインパクト法)を提案し,密着性の高いDLC皮膜の創製を目指すと共に,離散要素法を基づく数値シミュレーションによってプロセス条件の最適化を図っている。本年度はまず,電気モーターによる機械的な回転を鉛直方向振動に変換し,ボールが装入された振動チャンバーが任意の周波数および振幅で振動するようにした,ボールインパクト法実験装置の作製を行った。周波数は最大100Hz,振幅は最大50mmまで上げられる。処理雰囲気を変えることができるよう,振動チャンバー全体をアクリルカバーで多い,騒音防止のためにカバー内部に吸音材を貼り付けた。予備実験として,粒子皮膜を作ることが困難なヒドロキシアパタイト粉末を利用し,空気雰囲気下で周波数および振幅を変更させて実験を行い,迅速に緻密かつ密着性の高い粒子皮膜の形成を確認した。また高速振動に基づく装置の負荷を計算し,安全な運転範囲を求めた。また同時に,ボールインパクト法の数値シミュレーションモデルの構築も行った。離散要素法に基づき,各ボールにかかる全ての力を時々刻々計算することで,全ボールの挙動が解析できる環境を整えた。
著者
荒瀬 尚
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

マラリアの制御には宿主免疫応答が非常に重要な役割を担っている一方、マラリア原虫には様々な免疫制御機構が存在すると考えられている。一方、我々は、持続感染するヘルペスウイルス等のウイルスには抑制化レセプターを介した免疫逃避機構が存在することを明らかにしてきた。しかし、ウイルスと同様に宿主免疫機構と密接な相互作用をするマラリア原虫に同様な分子機構が存在するかどうかは明らかになっていない。そこで、本研究では、マラリア原虫による抑制化レセプターを介した新たな免疫逃避機構を追求した。その結果、マラリア原虫感染赤血球に抑制化レセプターのリガンドが発現していることが明らかになった。さらに、リガンド分子の同定を試みたところ、マラリア原虫由来の分子がリガンドであることが判明し、マラリア原虫の新たな免疫逃避機構であると考えられた。
著者
田村 孝
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

今年度は、ペルガモン王国の遺した遺物(美術品)について、集中的な研究を行った。第一に、8月にベルリンのペルガモン美術館を再訪し、ここに所蔵されている「ゼウスの大祭壇」に施されている浮彫の実見と写真撮影をおこなった。この王国がいかなる意図をもってこのような巨大な浮彫を造り、公衆の目に触れるところに展示したのかは、王国のおかれた国際的な立場や国王権力の大きさを表象していると考えられるが、そうした意義を深く追求かつ考察するためにも、まず実見が重要なのである。さらに平成19度の訪問した際に見られなかったペルガモン国王「アッタロス一世」の頭像も実見・撮影した。第二に、同じ調査旅行でローマ国立博物館所蔵の「妻を殺して自害するガリア人の首領像」、「アッタロス二世全身像」、またヴァティカン美術館に所蔵されている「ガリア人頭像」、「戦うペルシア人像」、カピトリーニ美術館所蔵の傑作「瀕死のガリア人像」、ナポリ国立考古学博物館に所蔵されている「エウメネス二世青銅頭像」、「フィレタイロス頭像」などペルガモン彫刻の傑作(あるいはその模刻像)を実見し撮影に成功した。第三に、J.J.Politt, Art in the Hellenistic Age, Cambridge, 1986(2008) ; F.Queyrel, L'autel de Pergame, Paris, 2005を始めとするヘレニズム時代の美術史(彫刻史)関係の著作を精読した。これらは古代東地中海世界のヘレニズム諸王国がおのれの政治権力を内外に広く知らしめる表彰として、神話世界における大征服物語に関する浮き彫りを施した巨大記念建築物を造りあげたことを詳述した著作で、ヘレニズム時代における一王国が戦乱の相次いだ時代をどのようにして生き抜いていったのかを考察する上で極めて重要な意義をもつものなのである。
著者
北村 俊雄
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

種々の癌細胞株由来の発現型cDNAライブラリーをウイルスベクターを利用して作成した。これらのライブラリーをマウスIL-3依存性細胞株(Ba/F3、HF6、HF7)に導入し、IL-3非依存性の自律増殖を誘導する遺伝子の同定を試みた。この実験において、セリンスレオニン/チロシンキナーゼpim-1、pim-2、pim-3、転写因子PEPP2を同定したが、点突然変異などの活性型変異は認められなかった。このうち、PEPP2はノックダウンすると胃癌細胞の増殖を抑制した。PEPP2の下流で発現が増強あるいは減弱する遺伝子をDNAチップを利用した発現解析で探索し、興味深い遺伝子を複数同定した。シグナル伝達系を調べたところ、PEPP2の過剰発現はPI3K-AKTの経路を活性化することが判明した。種々のがん患者サンプルで調べたところ、肺がん、乳がん、胃がんなどで発現が亢進している症例が認められた。発現が高い患者と低い患者の予後を調べたところ、ある程度分化した癌でPEPP2高発現の症例が予後が悪いことが判明した。未分化癌ではもともと予後が悪いためか、差が認められなかった。一方、骨髄細胞に発現した場合にトランスフォームに関与しうるかをマウス骨髄移植系を利用して検討したが、単独では白血病などの発症を誘導しなかった。現在、MLL融合蛋白質などクラス2変異との組み合わせで白血病などの疾患を発症しうるか検討中である。
著者
駒野 淳
出版者
国立感染症研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

GPCR多量体化は小胞体からの脱出、細胞膜輸送、リガンド依存的/非依存的エンドサイトーシス等に関与するといわれている。多量体化の生物学的意義は、GPCR単量を作成してその機能を野生型タンパク質と比較するのが最も直接的である。実際いくつかのGPCRでは単量体GPCRを作出する事に成功し、多量体化が小胞体からの脱出やエンドサイトーシスに重要であることが判明した。しかし、全てのGPCRに共通した普遍的な多量体モチーフは同定されていない。我々はGPCRの一種であるCXCR4が多量体化することをBRET/BiFCにて実証した。これに加えて細胞質ドメインC末端付近のアミノ酸343-346が欠損すると多量体化効率が顕著に低下する事を明らかにした。本研究ではこれを基礎としてCXCR4単量体誘導体を作出して、多量体化の生理的意義の解明を試みた。その結果、厳密な意味での単量体CXCR4作出は困難であった。しかし、多量体化レベルと機能の相関を解析することにより、CXCR4多量体化の生理学的な意義の一つは細胞表面におけるタンパク質発現レベルの制御であることが判明した。これは定常的エンドサイトーシスの効率により決定される可能性が示唆された。欠損変異体のリガンドへの反応性は増強していた。これは細胞レベルのCXCR4のC末端欠損によって引き起こされる遺伝的疾患WHIM症候群の表現型と非常に良く似ていた。以上よりCXCR4の多量体化はリガンド依存的/非依存的エンドサイトーシスと機能的に関連することが示された。本研究結果はCXCR4多量体化の制御法開発、WHIM症候群の病態理解と治療法開発に示唆を与えるものと思われる。
著者
松枝 美智子 安酸 史子 中野 榮子 安永 薫梨 梶原 由紀子 坂田 志保路 北川 明 安田 妙子
出版者
福岡県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

独自に作成した精神障害者社会復帰促進研修プログラム(案)を、後述の1)-4))は看護師3-5名、5)は看護師3-4名、臨床心理士0-1名、精神保健福祉士1名(2回目は代理者)、作業療法士1名で、各2回計10回のフォーカスグループインタビューで検討した。研究協力者のグループから出された、(1)言葉の定義を明確に、(2)簡潔明瞭な表現に、(3)研修対象者を明確に、(4)コース間に順序性がある可能性、(5)フォローアップ研修の期間や頻度を明確に、(6)タイトルを短く興味をひく表現に、(7)受講生がエンパワーメントされるようなグループワークに、(8)受講生の募集方法が課題、(9)受講生同士のネットワーク作りも同時にできると良い、などの意見をもとにプログラムを修正した。各コースの名称は、1)看護観と援助への動機づけ育成コース、2)システムを構築し改良する能力の育成コース、3)直接ケア能力育成コース、4)患者イメージ変容コース、5)ケアチームのチームワーク促進コース、である。本プログラムの特徴は、(1)受講希望者のレディネスや興味に従って受講できる5つのモジュールで構成されている、(2)グループワークを重視した参加型の研修である、(3)On-JTとOff-JTを組み合わせて実践に直接役立つ、(4)フォローアップ研修と大学の教員のコンサルテーションや受講生同士のピアコンサルテーションにより受講生やケアチームの継続的な成長を支援する、(5)現在精神保健医療福祉の分野で急務の課題であるケアチームのチームワークを促進する、(6)精神障害をもつ人の社会復帰の経験に学ぶ内容が含まれている、(7)一つの研修を受けることで他の研修で目的としている各種の能力育成に波及効果が期待できる、の7点である。本研修プログラムは、院内研修、職能団体での研修、教育機関によるリカレント教育など、様々な場や状況に応じて修正して活用できる可能性があり、実施により精神科に10年以上入院している人々の社会復帰促進につながることが期待できる。
著者
大谷 実
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,数学と実生活を結ぶ学校・地域・社会の連携モデルを開発し評価することである。これは,2つの分野(ア),(イ)において連携システムを構築することである。(ア)は,学校での数学の教科外活動システムの開発である。モデル国として,オランダのMath-Alympiad並びにMath B-Dayのコンテストで,日常事象の考察に数学を生かす問題を取り上げている。こうした学校での教科外活動は,わが国ではほとんど実施されておらす,その組織,運営形態,実施方法等を実地調査し,それを踏まえて金沢大学附属高等学校で実施し,その成果を評価した。このことに関して,親族の急逝のため,オランダの実地調査を実施することができず,実地調査費用を返還した。(イ)は,地域・社会との連携システムの構築であり,2つの下位課題(i),(ii)を遂行した。(i)は,金沢大学教育学部の地域貢献事業の一つとして,金沢大学のサテライト施設を会場として主催する校外学習の機会である「算数・数学チャレンジクラブ」のカリキュラム開発である。その際に,カリキュラムを日常事象の考察に算数・数学を生かす内容で編成した。(ii)は,諸外国の「数学博物館」や,わが国の「ハンズオン・マス研究会」等の調査研究をすることにより,上記クラブ等に参加する児童・生徒・保護者・一般市民が,触れて観賞することができるハンズ・オン的な展示ブースについての調査を行った。上記に述べた理由により,当初予定していた展示ブースの設置は実現できなかった。
著者
武田 健
出版者
東京理科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

ナノマテリアルは電子材料や化粧品、塗料等様々な製品に汎用されており、今や現代の生活に欠かせないものとなっている。本研究では化粧品に用いられているナノマテリアルの皮膚透過性に関して、信頼性の高い知見を加えることを目的とし、酸化チタン微粒子と単分散モデルである金ナノ粒子を用い、in vivoでマウスにおける皮膚透過性を検証した。健常皮膚だけでなく、炎症皮膚、アトピー性皮膚炎発症皮膚を作成し、その皮膚に対して酸化チタン微粒子および分散性の高い金ナノ粒子、蛍光物質(FITC)を結合させた金ナノ粒子を24時間曝露した。粒子を曝露した皮膚組織の電子顕微鏡観察結果から、酸化チタン微粒子および金ナノ粒子は角質層内部に局在することが明らかになった。また、FITCが結合した金ナノ粒子を曝露した皮膚組織に関しては蛍光顕微鏡観察し、粒子が皮膚表層や毛包内部に局在すること、炎症により表皮を欠損した皮膚部位においては粒子が真皮層内部に侵入することを捉えた。また、真皮層内への粒子透過が確認された炎症皮膚に対して金ナノ粒子を24時間曝露し、その個体の血液内金質量をICP-MSによって測定したが、検出可能範囲内での粒子透過は見られなかった。これらのことからナノ粒子が健常皮膚を透過し、全身循環へ移行する可能性は極めて低いことが示唆された。角質層が剥がれるような皮膚の状態では、ナノ粒子が皮内に透過することが認められた。以上の結果、化粧品中のナノ粒子は健常人の皮膚では健康影響はほとんどないと考えられるが、損傷した皮膚への塗布には注意が必要でることが示唆された。定量的な研究が残されているが、妊娠期に皮下投与した酸化チタンナノ粒子が産仔脳神経系に影響を及ぼす結果を得ており、社会的に極めて意義の高い研究となった。