著者
佐々木 司
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、生活スタイルを含めた環境改善による大学の精神的健康増進を行うために、アプローチすべき要因を実証的に解明することを目的としたものである。平成21年度は、健康診断のデータをもとに、学生の精神保健にとって一つの大きな問題である留年と関連する要因の解明、大学生でも問題となりつつある自殺の念慮や企図と関わる要因などについて解析を行った。まず学部2年生約3,000人を対象に、1年生から2年生に進学できなかった留年生の精神状態を解析したところ、留年生は非留年生に比べて、抑うつ・不安を示す質問紙(GHQ12)の得点が有意に悪く(p<0.01,OR=1.5)、幻聴様体験などの精神病様体験の頻度も高かった(p<0.005,OR=2.9)。また、入学時あるいはそれ以前の状態や既往と入学1年後の留年との関係をみると、入学以前に「自殺企図を考えたこと」のある学生では留年のリスクが高く(p=0.04,OR=2.6)、ほかに飲酒(p=0.04,OR=1.7)、「抑うつ」の既往(p=0.06,OR=2.0)などの影響が認められた。そこで「自殺念慮」や「自殺企図を考えたことがあること」がどのような要因と関連しているかを、入学後の健診データから検討した。その結果、性格における神経症傾向のほかに、「いじめられた体験」と精神病様体験とが、自殺念慮、自殺企図の考慮いずれとも有意な関連を示した(OR=2.7および3.1と、OR=2.7と2.8)。これらの結果から、1)大学の精神保健対策においては留年生のケアが一つの重要なポイントであること、2)大学入学以前からの「いじめ対策」、ならびに精神病様体験への注意とケアが、大学での精神保健対策を考える上でも極めて大切であることが示唆された。
著者
坪内 暁子 奈良 武司 丸井 英二 青木 孝
出版者
順天堂大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

新型インフルエンザ(H1N1)の発生・流行によって、「新型インフルエンザ」という名称は周知されたにも関わらずマスコミ報道等の影響で正しく理解されていない可能性が非常に高いと考えられたため、流行が収まるのを待って予備調査を実施した。その結果、リスク認知とリスク回避行動とが、リスクマネジメントの概念通りに正しくリンクしている勤労者(危機管理担当者)に対して、高齢者は自らの身体的リスクを認識した上で、新型インフルエンザ対策に関する情報収集等に強い関心を示し、マスコミや広報から得た知識を正しく認識できていない割合も他のグループより多いが、行動面で慎重でリスク回避の方向に進む傾向があることがわかった。その一方で、中学生他若者層は、知識吸収能力は高く対策についても正しく理解しているが、行動に関するリスクの認識が甘く、知識と行動とが合致せず危険性が高いことがわかった。H1N1型の国内発生・流行時の関西の高校生がカラオケ店に殺到した事件が裏付けとなる。中学生と、高校生・大学生を比較した場合、知識に関する設問でほとんど有意差がみられなかったため、調査モデル国の台湾では対象を中学生に絞った。台湾の中学生の行動は、日本の勤労者に近い行動をとること、講義や広報、マスコミ(一律の政府報道)に依存し、より慎重であることがわかった。また、全体的に、高病原性と低病原性のリスクを正しく理解していないことがわかった。以上から、リスク認知とリスク回避の関係は非常に密接であり、「感染症教育」の効果としての行動リスクの低減への期待値は非常に高いという結論を得た。
著者
福間 良明
出版者
立命館大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、戦後沖縄の総合雑誌を可能な限り洗い出し、そこにおける戦争観の変容や位相差を検証することを目的として、進めてきた。戦後沖縄の雑誌メディアについては、これまでに系統的な整理すらなされていなかった。戦後の沖縄では、「うるま春秋」(うるま新報社・1949年発刊)や「月刊タイムス」(沖縄タイムス社・1949年発刊)、「世論週報」(沖縄出版社・1951年発刊)、「月刊沖縄」(月刊沖縄社・1961年発刊)など、多くの政治雑誌・総合雑誌が存在した。日本本土から週刊誌や総合雑誌が流入するなかで、これらの多くは淘汰され、その言説布置やメディア特性については、これまで顧みられることはなかった。本研究では、これらのメディア史を解き明かしながら、そこにおける戦争観の位相差や変容について、考察を進めた。
著者
津田 誠
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

イネにおける白穂発生は,非生物的ストレスによる減収要因である.白穂発生程度の違いを明らかにするために,新しい遠赤外線乾燥法を用いて穂に含まれる水分の構成を調べた.穂の水分には蒸発しやすい部分(成分1),やや蒸発しやすい部分(成分2)があった.成分2は生育と気象変化に対して安定していたが,成分1は不安定であった.二つの成分が占める割合は品種で異なり,成分1が多い品種ほど塩害による白穂発生が大きい傾向があった.
著者
小倉 裕司 杉本 壽 鍬方 安行 松本 直也
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、熱中症時にみられる血管内皮傷害に対する再生応答を評価し、熱中症モデルにおいて血管内細胞移植(骨髄間質細胞)の有効性を検討することである。熱中症にともない、肺を中心とする多臓器に血管内皮障害、臓器障害が認められた。骨髄間質細胞移植が抗炎症効果、血管内皮保護作用を発揮して生存率を有意に改善し、新たな治療戦略となりうるか検討を加えた。
著者
水本 浩典
出版者
神戸学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

阪神・淡路大震災から15年が経過するなかで、戦後最大の都市型大規模災害に関係する史料(本研究では「震災資料」と呼称)のうち、特に、被災地の小学校・中学校などで多数形成された「避難所」に関する「震災資料」の所在を捜索するとともに、調査を目的としている。初年度に実施した神戸市域の小学校及び中学校に対するアンケート調査を基に、「避難所資料」の確認と発見に努めた。最終年度である平成22年度は、兵庫県南部地震の震源地に近い旧北淡町の避難所資料調査にも調査範囲を拡大した。(1) 震災資料所在の確認と資料の発見・神戸市立長田小学校避難所資料の発見と資料調査実施(原資料の寄贈を受ける)・神戸市立鵯越小学校(現・廃校)廃棄資料中から避難所資料発見・移管・淡路市立野島小学校(現・廃校)避難所資料の確認と資料調査実施(2) 聞き取り調査(避難所運営に係わる「記憶」資料の記録化)実施・神戸市長田区被災者からの聞き取り調査実施・神戸市東灘区被災者からの聞き取り調査実施(3) 神戸市消防局当時職員に対する聞き取り調査実施・特に、神戸市長田区の消火活動・人命救助活動に従事した職員(30名)に実施
著者
増田 豊文
出版者
東北文化学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

研究期間の最終年度となる平成21年度においては、仙台市内の小学校123校の中から、ビオトープを所有する小学校と所有しない小学校、学校周辺に自然環境のない仙台駅周辺の小学校と比較的自然の残る郊外の小学校という二つのカテゴリーから7校を選出して、アンケート調査を実施した。その目的は、異なる自然環境条件の小学校における各児童の自然体験の実態を把握し、その経験が児童の倫理観の育成にどの様な影響を及ぼすのかを検証することであった。その根拠となったものは、平成10年に実施された文部科学省の子供の体験活動等に関するアンケート調査報告の「自然体験が豊富な子供ほど、道徳観・正義感が充実」という結果によるものである。住環境の都市化が進む状況下、子供達の自然体験の機会を増やすには、学校生活の場となる教育施設の屋外環境のあり方を、自然化という形で見直す必要がある。今回実施したアンケートは、7校の1年生から6年生までの全学年を対象としたため、合計で4394人となった。また、アンケート調査には児童の倫理観を問う内容が含まれていたため、仙台市教育委員会に研究の意義と内容を理解してもらい、教育委員会を通して対象校の校長に調査協力依頼をするという方法をとった。アンケートの分析結果の主な内容を、以下に示す。小学校の立地条件における子供達の自然体験の差は大きくは見られなかったが、全体的に自然観察や里山遊びが好きな子供ほど、人に優しくしたり悪いことを注意したりする傾向が見られた。特に、ビオトープを有する小学校においては、ビオトープでよく遊びそこに棲息する生き物が好きな子供ほど、同様の傾向が見て取れた。また、低学年になるほどビオトープに興味をもって遊んでおり、平成20年度に実施したビオトープでの児童の行動調査と一致するものであった。これらのことから、教育施設の屋外環境を単なる緑化に留まらず生き物と触れ合う場として自然化することの重要性を、倫理教育の側面から検証できたと考えている。これらの研究成果は研究報告書としてまとめ、協力いただいた学校関係者や関係する学術団体に、今後報告する予定である。
著者
瀬沼 花子
出版者
玉川大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1. 諸外国におけるコンピュータを利用した数学テスト問題作成の在り方と現状について,最新の情報を収集した。その結果,静止画ではなく動画で,日常生活での数学の活用場面を映像で,自然現象における数学的な事象を映像で提示し,数学問題の理解を深め数学的思考を高めようとするテスト問題開発は,わが国のみならず世界的にも,2010年2月の時点でいまだ挑戦的な試みであることが明らかになった。2. 一方で,授業中に生徒が一人であるいはグループになって取り組み,数学的思考を高めるような,ICTを使った問題解決,数学的活動,数学的モデル化の教材開発に関しては,わが国よりはるかに先進的な事例が諸外国にみられた。そこで,イングランドにおける先進的な数学デジタル教材Bowland Maths(11歳から16歳を主な対象とした約20の教材)の教材開発の背景と概要,今後わが国においてコンピュータを用いた数学教材の在り方として示唆を与えると思われる「交通事故の削減」「暮らしの中の危険」について,教材,教師用指導書,ワークシート,などの翻訳を行った。3. わが国の中・高等学校の数学授業におけるコンピュータの利用率が極めて低い現状を少しでも改善するために,OECD PISA調査における今後のコンピュータ利用の方向性,及び,Bowland Mathsの教材についての情報を,研究代表者及び研究協力者で執筆した。(明治図書『数学教育』)
著者
宮平 勝行
出版者
琉球大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

平成21年度は,サンパウロ市周辺で実施した聞き取り調査や収集した資料をもとに,継承沖縄語が沖縄人ディアスポラの日常会話やポルトガル語の地域月報,ポピュラー音楽,舞台劇などでどのように用いられているのかを調査した。ポルトガル語で書かれた沖縄の昔話などに出てくる沖縄語の借用に始まり,ポピュラー音楽に表れる沖縄語とポルトガル語のコード切替,移民100周年記念大会で披露された舞台劇での沖縄語のみによる語りなど,様々なコミュニケーションの位相で沖縄語の使用が確認できた。しかしながら,世代が進むにつれて沖縄語は用いられなくなり,3世に至るともっぱら比喩的コード切替(Holmes,2008)を通して沖縄人としてのアイデンティティを指標する様子をレポートした。一方でこうして失われつつある沖縄語を維持・継承しようとする非営利団体による沖縄語の講座もサンパウロ市郊外のビラ・カロン地区で開かれている。そこで,対面及びオンラインビデオ会議による聞き取り調査と記述式アンケート調査を実施し,沖縄人ディアスポラによる沖縄語継承の試みを報告し,その課題などを探った。考察にあたってはウェールズ語,マオリ語,スコットランド・ゲール語など,代表的な継承言語の研究成果を参照している。研究調査の結果からは,同講座が地域における継承言語の威信を高め,言語アイデンティティの高揚に寄与していることが明らかになった一方で,ディアスポラにおける沖縄語の普及にはいくつかの難しい課題があることを突き止めた。3世代におよぶ受講生の母語,第二・第三言語に関わる文化背景が多様であること,消滅の危機にある沖縄語を越境の地で学ぶ際の教材・人材の不足,さらに共通語としての英語が沖縄入ディアスポラに及ぼす脅威などである。うちなぁぐちの保護・維持にはディアスポラ共同体や沖縄単独の努力ではなく,沖縄を一員とする国際間協力が重要であることを説いた。
著者
加藤 内藏進 加藤 晴子 赤木 里香子 湯川 淳一
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の最終的な目的は,地球温暖化などに伴う地域気候の『変化の兆候』について(東アジアを例に),科学的視点と感覚的視点を双方向に駆使して,いち早く把握出来る『眼』を涵養するための教育プログラム開発にある。本年度は,前年度までの成果を更に発展させて取りまとめた。また,研究遂行の結果,気候変化を捉える際のベースとなる詳細な季節サイクル自体を把握する『眼』の育成が特に重要との認識が更に高まったので,その取り組みも重点的に行った。ドイツにおける5月の雨が子供を成長させるというモチーフの民謡は,気温が季節的に急昇温する時期(5月)の雨という意味が大きいことが,気象データも併せた分析によって示されるなど(論文掲載),日本の春との違いを比較できる格好の素材を提示した。一方,唱歌『朧月夜』を接点とした前年度の中学校での研究授業を分析し,春の温帯低気圧・移動性高気圧の周期的通過に伴う気象状況の特徴について,『朧月夜』の歌詞からもそれなりに的確にイメージ出来ており,気象データによる学習への活用の可能性が示唆された。また,『中間的な季節』にも踏み込んで,日本の季節サイクルと唱歌や絵画の鑑賞や色による季節の表現を軸に,学際的な研究授業を本年度も行い成果を分析した(岡大・教育学部,「くらしと環境」)(論文掲載)。更に,冬から春への進行に注目して,唱歌『早春賦』を軸に,その表現活動と気象・気候の特徴に関する学際的授業を,岡山城東高校で実施した。また,秋から冬への時期に注目し,日本海側での『時雨』を軸に,気象状況の把握と時雨を歌った和歌(新古今集等)の鑑賞に関する国語と連携した授業開発を行った。生物との連携に関しては,地球温暖化に関連するミナミアオカメムシの分布北上の実態,タマバエ類の発生期と寄主植物フェノロジーの同時性のずれなどについて研究成果を発表するとともに,本の分担執筆や各地での講演により,研究成果の普及に努めた。更に,房総半島や日本海側の海岸植生で,キク科植物に虫えいを形成するタマバエ類に関する分布調査を行い,分布北限等を確定した。一方,地球温暖化と日本付近の気候変化の昆虫への影響に関連して,昆虫類の年間世代数の増加,分布域の変化,昆虫と餌植物の同時性のずれ,高温による発育障害や繁殖障害,等,一筋縄ではいかない影響の絡み方を意識させるような研究授業を,岡大・教育学部の初等理科内容研究の講義で実施し,その成果や問題点を分析した(2011年5月に気象学会で発表予定)。なお,学校現場での参考になるよう,3年間の成果をまとめた冊子体の報告書も作成した。
著者
剣持 直哉
出版者
宮崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

タンパク質をコードしていないRNA (ncRNA)が多数発見され、生体システムにおける重要性が明らかになりつつある。一方、これらのRNAは通常種々の修飾を受けているが、その意義は全く不明である。RNA修飾と自己免疫疾患との関連を明らかにするために、本年度は、SLE患者で自己抗原となるrRNAに対する人工抗体の作製を行うとともに、ゼブラフィッシュにおいてRNA修飾に働く核小体の低分子RNA(snoRNA)の機能を阻害し、生体におけるRNA修飾の役割を検討した。1. 人工抗体ライブラリーを用いた抗RNA抗体の作製ファージディスプレイ型の人工抗体ライブラリーから、28SrRNAの自己抗体結合部位を認識する抗体クローンを8種類単離した。得られた人工抗体のrRNAに対する特異性はELISA法にて確認した。抗体クローンの塩基配列を決定しデータベースを解析した結果、新規の抗体であることが明らかになった。2. ゼブラフィッシュにおけるsnoRNAの機能阻害とRNA修飾snoRNAは通常イントロンにコードされている。そこで、U22、U26、U44、U78の各snoRNAについて、ゼブラフィッシュにおいてこれらsnoRNAがコードされているイントロンのスプライシングを阻害した。その結果、ゼブラフィッシュ胚に共通した表現型として、発育遅滞、頭部の形成不全、色素沈着の遅れなどが観察された。また、いずれも約1週間で致死となった。一方、U26のノックダウン胚から抽出したrRNAを用いて修飾の状態を質量分析計で調べたところ、U26が標的とする部位の修飾が低減していた。これらの結果より、ゼブラフィッシュの初期発生においてRNA修飾が重要な役割を果たしていることが初めて明らかになった。
著者
内田 直
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

A.運動をするとよく眠れるようになる、B.運動をすると気分がスッキリする、という経験的によく知られている事実についての科学的根拠を明らかにすることが本研究の目的である。成果の一つは研究のポイントが非常に明確になったことである。即ち(運動の種類[有酸素,無酸素],運動の強度,運動する時間帯[朝,昼,夕方,就寝前])の全て組み合わせについて比較検討する必要がある。また運動強度が強すぎるとストレスによる効果で,睡眠に対して悪い効果がある可能性も考えられる。さらに、それらの効果は、脳は睡眠段階判定だけでは十分に明らかにできない可能性がある。これらを検証は非常に長い研究期間を要する課題であることが明らかになった。本研究で行ったことは1.5km自己ペース走後の睡眠の変化、2.睡眠直前の高強度無酸素運動による睡眠への影響、3.早朝の一過性有酸素運動の前頭葉機能に対する影響、の3つである。1.においては、若年成人を対象としたが,午後の昼寝を間に挟むことにより夜間睡眠の質を劣化させる工夫を行った。また、昼寝と夜間睡眠の間に5km走行を入れた条件により,その後の睡眠に対する影響を調べた。また、判定にコンピュータによる周波数分析を行った。その結果,視察判定では睡眠の変化を確認できなかったが,周波数分析により徐波周波数帯域の増加が確認された。2.では、高強度無酸素運動の睡眠への悪影響について予想したが,睡眠変数に変化はなかった。しかしながら、睡眠前半の有意な体温上昇、心拍数の上昇などがみとめられ、睡眠変数だけでなく身体的生理学指標を同時に用いることにより、有意な睡眠の変化が認められることが明らかになった。3.については、睡眠への影響でなく前頭葉機能に対する影響をみたが、一過性の前頭葉機能改善が認められるに留まった。
著者
渡辺 明
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、屈折率が2を超える超高屈折率ポリマーの創製を目指し,主鎖がGe-Ge結合のみからなるハイパーブランチ(分岐)型ゲルマニウムポリマーにおいて,その主鎖構造や側鎖の有機置換基構造の分子設計・合成を行い,そのポリマー構造と屈折率との関係を明らかにする。さらに,そのポリマーの塗布薄膜を前駆体として,レーザー光照射や加熱処理による化学構造変化を用い,無機ゲルマニウム系薄膜への変換により,さらなる高屈折率化を行うことを目的とした研究を行った。ハイパーブランチ(分岐)型ゲルマニウムポリマーの合成は、四塩化ゲルマニウムを出発原料としてMgを用いたGrignard反応と有機臭化物を用いたキャッピング反応によって行った。これによって、種々のアルキルおよびアリール基を有するハイパーブランチ型のGe-Ge骨格を有する有機ゲルマニウムナノクラスター(OrGe)を合成した。OrGeのスピンコート薄膜は、加熱によって300℃付近から有機側鎖の脱離を伴う無機ゲルマニウム化し、さらに500℃での加熱によって結晶性ゲルマニウムへと変換されることが、顕微ラマンスペクトルやXPSスペクトルによって明らかにされた。これによって、屈折率が2.5を超える高屈折率薄膜を形成することができた。また、高屈折率のGe微細パターンを、レーザー直接描画法によって形成することが可能であった。さらに、干渉露光法やナノインプリント法によって、高屈折率微小構造体を形成し、波長フィルターとしての機能を得ることができた。
著者
早川 和男 山崎 寿一
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、激甚災害の被害を受けた中山間地域の被災集落を対象に、被災後の高齢者の居住継続と転居、被災者の転出と帰還に焦点をあて、「居住福祉」実現のための条件について、石川県輪島市門前地区におけるフィールド調査を行った。また国際居住福祉会議においてこれまでの成果を論文にまとめ、研究発表を行った。具体的に、(1)居住福祉資源調査、集落コミュニティ・環境調査(被災前後の比較)、(2)震災復興における住宅や神社、農地、山林、公民館、集会所、公共施設の果たす役割、(3)被災後の居住動向、家族構造の把握、(4)高齢者居住調査(居住継続と転居の実態)、(5)被災者居住調査(転出と帰還状況の把握)の5項目について検討し、以下の諸点を明らかにした。1)高齢者の居住とコミュニティの持続を支えている居住福祉資源の存在と役割、2)災害を契機とする人口流出が起きなかった原因と被災者が帰還または地域に止まれた要因3)震災を契機に地域外に転出した人々の居住地選定理由、4)母村の住宅・土地財産の管理・活用の実態、母村コミュニティとの関係さらにこれまでの研究成果を再分析し、『日本の居住貧困』(藤原書店)を出版した。
著者
山本 博之
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究課題は、災害被災地に関する新聞記事、写真、聞き取り調査などの多様な情報を地理情報を用いて1枚の地図上で迅速かつ簡便に表現する「災害地域情報プラットフォーム」を構築するための基本的な制度設計を行うものである。2009年9月の西スマトラ地震では日本の緊急救助チームなどが被災地入りしたが、現場では被害と救援活動の全体像が見えずに効果的な救援活動が行えなかったとの声が聞かれた。被災の現場に入ると情報収集しにくいことに加え、英語による情報収集では得られる情報量に限りがあることなどの背景がある。本研究課題が構築している災害地域情報プラットフォームは、現地語のオンライン情報を収集して地図上で示すことで、被害と救援の状況を把握しやすくするものである。本研究課題が構築するプロトタイプをもとに、情報の収集および翻訳の自動化を行うことで、より簡便かつ迅速に災害地域情報の収集が可能になる。今年度は、昨年度公開した2009年西スマトラ地震の災害地域情報を用いたプロトタイプをもとに、(1)西スマトラ州の県・市、郡、村の地理情報の一覧を作成し、(2)インドネシア語の日刊紙『コンパス』から「地震」「津波」「災害」の3つのキーワードで記事を自動収集する巡回検索システムを作成し、(3)記事中の地名をもとにその記事を地図上で表現するシステムを追加した。これにより、西スマトラ州に関しては、上記の3つのキーワードに関連する記事を自動収集し、地図上で表現することが可能になった。この災害地域情報プラットフォームは、さらに、(1)対象範囲を西スマトラ州から他の地域にも拡大する、(2)対象紙を『コンパス』以外にも拡大する、(3)検索キーワードを増やす、(4)記事内容の自動翻訳機能を加えるなどの処理により実用性がさらに高まるものとなる。
著者
西野 嘉章
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、1910-40年代のドイツで、まったく世に出ることなく構成主義的なコラージュを制作し続けた芸術家カール・ワルドマンについて、現在までにその存在が確認されている作品の物性解析・図像分析を行い、それらの編年作業を通じて、両大戦間ヨーロッパ前衛芸術運動史のなかに、この芸術家を位置づけることを目指して始められたものであり、次のような暫定的所見を得るに至った。1)コラージュに関する文献を渉猟しても「ワルドマン」の確かな存在証明は得られなかった。研究者のあいだで「ワルドマン」捏造説が唱えられる所以である。そのため、国内に将来されているミクストメディア・コラージュ作品2点(個人蔵)について、セルロースと有機系素材のサンプルを抽出し、東京大学のタンデム加速器を用いて、放射性炭素の残量の解析を行った。結果、作品に使われている素材は戦前のものであり、真作としての必要条件を満たしていることは判明したものの、材料の固定に使われた有機媒材を分離抽出することが出来ず、真贋判定について結論を得るには至らなかった。2)図像学的な研究では、1930年代の左翼社会主義運動のなかで生み出された同時代のコラージュ作品に較べて、ナチス・ドイツを標的とする政治諷刺、さらには人種、わけてもアジア系人種や、公衆衛生、スポーツ祭典のテーマに、コラージュ作家としての特徴が発揮されており、まさにその点で他の同時代の美術家たちと一線を画していることが判った。とはいえ、1910年代のロシア構成主義、第一次大戦直後のベルリン・ダダ、さらに1920年代後半以降のソヴェト・ロシア生産主義、ポーランドの構成主義の影響を受けた「ワルドマン」作品群と、『ドイツ労働新聞』、『国際赤旗』、『世界の鏡』、『グラフ新報』、『眺望』、『ソ連邦建設』など、独仏露のグラフ雑誌の誌面を飾ったジョン・ハートフィールド、ウンボ、エル・リシツキー、ハンナ・ヘッヒら、同時代のコラージュ作家・フォトモンタージュ作家との、総体における近縁性には否定しがたいものがある。以上のことから、本研究は真贋論争について結論を保留するが、かりに捏造であったとしても、真性の素材を用いた、高い技術、深い学識に基づく贋作であると見なさねばならないことは間違いない。
著者
江草 宏 矢谷 博文 佐伯 万騎男 横田 義史
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究計画は、小分子化合物をId2遺伝子欠損マウスに由来する骨芽細胞および破骨細胞に作用させることで、新たな細胞内分子機構を探索することを目的として行われた。その結果、小分子化合物harmineは、破骨細胞分化に重要な役割をするNFATc1の活性をリン酸化酵素DYRK1Aの阻害を介して増強するが、同時に破骨細胞の分化抑制因子として作用するId2の発現を増強する結果、破骨細胞分化における細胞融合を著明に抑制することを明らかにした。
著者
青木 正治
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

ミューオン電子転換過程は、超対称性シーソー理論などにおいて10^<-14>程度の頻度で観測できる可能性が示唆されている。ミューオンの異常磁気モーメント測定からも、10^<-14>レベルでミューオン電子転換過程が起る可能性が指摘されている。これは、素粒子の標準理論を超えたTeV領域の物理現象であり、発見されれば宇宙・素粒子の研究に大きなインパクトを与える。本研究の目的は、プロダクションターゲット中に生成されるミューオニックアトムから直接放出される電子を測定することによってミューオン・電子過程の探索を行う実験方法の開発を行うことにある。本年度は、J-PARC MLFで行う実験のデザインを具体的に行った。まず、カナダ国TRIUMF研究所と協力して、大立体角新設ビームライン(Hライン)のコンセプトを確立した。本ビームラインは多様な用途に使用する事ができるように設計されており、ミューオンg-2測定実験等、他のミューオン物理とのシナジーが大きい提案とすることができた。また、J-PARC MUSEグループとの共同研究において、プロダクションターゲットとしてシリコンカーバイドを使用する事に思い至った。プロンプトキッカーや検出器のデザインも行い、その結果をJ-PARC実験プロポーザル(P41)として提案した。また、KEK物構研S型課題としても申請を行った。いずれの審査委員会においても、本実験提案の物理的な意義などに対して非常に高い評価を得る事ができた。加速器からのパルス陽子ビームの時間構造に関しても、J-PARC RCS加速器グループと共同で測定を進める事ができた。これまでの測定では、本実験に必要とされるプロトンビーム時間構造の達成は可能であるとの感触を得ている。これに関しては引き続き研究を進める予定である。
著者
松井 豊 望月 聡 山田 一夫 福井 俊哉
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

惨事ストレスへの耐性に関するプロアクティブな予測を行うために、消防署に配属された新人消防職員を対象にして、1年の間隔をおいて、心理検査・神経心理学的検査・脳科学的な検査を継時的に行った。2回の検査を受けたのは、消防職員7名と対照群として男子大学生2名であった。各神経心理検査得点について,大学生と消防職員を比較するために,Mann-Whitney検定を行った結果,各神経心理学検査得点には有意な差はみられなかった。職場配属から検査実施までの間で,衝撃をうけた災害へ出動経験があった消防職員が存在したので,被災体験があった消防職員(N=4)と被災体験がなかった消防職員(N=3)の神経心理学的検査得点を比較するために,Mann-Whitney検定を行った。その結果,Tapping Span(逆)に有意差傾向がみられ(p=.057),被災体験があった消防職員は,被災体験がなかった消防職員よりも得点が低かった。Tapping Span(逆)以外の神経心理学的検査得点には,被災体験による有無により,有意な差はみられなかった。また、効率的な検査実施のために、タブレット方パソコンを使って、検査過程を自動化するソフトの開発も行った。なお、研究協力者のスケジュールの調整がつかず、平成23年5月に検査が延びたため、研究終了が延期された。
著者
石橋 寛二
出版者
岩手医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

口腔インプラント治療は、急速に適応が高まってきており、長寿社会へ貢献しつつある。近年、インプラント治療は中高齢者のQOLの向上とともにアンチエイジングにも貢献している。このようにインプラント適用患者が急速に高まっている現在においては、インプラント周囲に悪性腫瘍が発生して放射線療法が適用される場合が予測される。しかし、インプラント治療後の口腔領域に悪性腫瘍が生じ、腫瘍切除術に際して放射線療法が適用された場合におけるインプラント/骨界面に関する報告はなされていない。本研究では、インプラント埋入後に放射線療法が行われた場合における骨組織反応を明らかにすることを目的として、インプラント周囲骨組織の創傷治癒過程を想定した培養モデルを作成して解析した。平成21、22年度において、純チタン、表面処理チタン上で培養した骨芽細胞へ放射線照射を行い、細胞付着率、骨芽細胞分化マーカーを指標とした遺伝子発現について分析した結果、40,400mGy放射線量に比較して4000mGy放射線照射された骨芽細胞は、純チタン上と表面処理チタン上では共に細胞増殖速度の低下と細胞外基質生成、初期石灰化形成における細胞分化パターンの著しい低下を認めた。一方、40,400mGy放射線照射された骨芽細胞の分化は影響を受けず、純チタン上に比較して表面処理チタン上での骨芽細胞の分化は促進されることが認められた。本研究は、in vitro環境での一定条件下で骨芽細胞へ放射線照射を施したものではある。しかし、骨組織へ表面処理を施し骨伝導能を備えた純チタンインプラントを埋入後に放射線治療を余儀なくされた場合においては、表面処理を施さない純チタンインプラントに比較して骨のリモデリング時における骨基質生成と石灰化能の低下をある程度防ぎ、オッセオインテグレーションを恒常的に維持していくことができる可能性が細胞レベルで明かとなった。