著者
有田 智一
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、建築許可制導入を想定した際の今後の建築審査会のあり方に関する研究を行うことである。全国の建築審査会を対象として、特例許可、審査請求、運営等に関する実態の分析を行った。また比較対象としてアメリカの特例許可の運用実態との国際比較を実施した。今後の日本の建築審査会では、「民主的観点:民意の反映」の仕組みと、「科学的客観性:専門的知見に照らした裁量的判断」のバランスが求められる。
著者
安藤 裕明
出版者
金城学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

オープンソースの教育支援システムMoodleに,携帯電話からの利用を想定したMoodle for Mobileを導入し,携帯情報端末(PDA)と携帯電話を組み合わせて利用可能な,薬学部用の授業支援システムを構築した。また,一般教室での利用を想定し,PDAから無線LAN経由で同時に接続できる台数や,携帯電話からの接続に関する検証を行い,授業における応用の可能性について検討した。具体的には,パソコンでの利用を前提としたMoodleに,携帯電話に対応するためのMoodle for Mobileをアドオンしたサーバを準備し,また,薬理学分野の問題をデータベース化して登録し,ミニテスト機能に応用できるようにした。このサーバに対し,PDAおよび携帯電話からの接続性,ミニテスト問題等の視認性,使いやすさ等を,主に学生アンケートを元に分析した。携帯電話からMoodleを使用する場合は,一般的にパケット通信を行うために費用が発生する。そこで,学生の所有する携帯電話について,パケット通信費用に関する調査も実施した。実験の結果,携帯電話からMoodle for Mobileへの接続は,URLを直接入力する方法ではミスが頻発した。しかし,QRコマドやURLを明記したメールを準備する事で,トラブルを回避することができた。携帯電話からのアクセスでは,利用できる機能や表示できる文字数に制限があり,○×問題以外は実用的ではなかった。PDAからは,Moodleの全機能を利用できた。しかし,画面の解像度が低いために,複雑な投票や問題は回答し難い事が明らかとなった。PDA単独の利用を想定した場合は、PDAの故障等,様々なトラブルを考慮する必要があるが,携帯電話は,これを補完するツールとして有用である。ただし,利用する際には,機種毎に大きく異なる画面サイズや,パケット通信に伴う費用の発生等の問題を考慮しておく必要がある。
著者
麻生 英樹
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

1.20年度に収集した食事嗜好に関するアンケートデータの解析結果をとりまとめた。想定状況と現実状況での嗜好の分布は有意に異なり、想定状況下では現実状況下よりも状況に関して理想的に影響を受ける傾向がある。この結果を国際会議(International Conference on User Modeling, Adaptation and Personalization, UMAP2010)にて発表した。2.階層ベイズモデリングを用いた状況依存な嗜好のモデル化について検討した。単純な加法的効果に基づく正規分布モデルを階層化したモデルを提案し、上記のデータおよび映画嗜好データに適用して、個人性や状況依存性のモデル化に有効であることを検証した。さらに、想定状況下のモデルと現実状況下のモデルを階層的に融合させるモデル適応方式を提案し、上記の食事嗜好データに適用して、モデル適応が有効であることを検証した。これらの成果について、研究会(2件)および国際ワークショップ(Workshop on Context-Aware Recommender Systems 2010)において発表した。3.3年間にわたる研究成果をとりまとめた。主要な成果は、想定状況下での嗜好と現実状況下での嗜好には構造的な差がありえることを明らかにしたこと、および、想定状況データと現実状況データを組み合わせるモデル適応方式について、ベイズ階層モデリングが有効であることを示したことである。収集した食事嗜好データは状況依存な嗜好モデル研究用に公開する準備を進めている。
著者
金井 守
出版者
田園調布学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

研究3年目の22年度は、これまでの研究成果をソーシャルワーク世界会議、社会福祉学会で発表した。また、サービスの質と権利擁護に関係しサービス利用契約の現状と課題を探るため、7施設・1団体を訪問し、事業者へのヒアリングを行い、契約書等の資料を収集した。さらに、これらの分析を行い、民法や権利擁護その他の文献研究を通して3カ年の研究のまとめに取り組んだ。(1) サービス提供事業者の契約に対する取り組みについて、事業者等へのヒアリング、収集した契約書等から以下のことが認められた。(1)事業者が、利用者との契約を通した権利義務関係の発生の意義を認め、契約締結をサービス利用の主要な入口として評価していること。(2)利用者の契約締結の支援、利用料支払い、入院や退所時の支援など契約を取巻く生活状況に課題があること。(3)身体拘束の禁止等国が定めた運営基準に基づく規定を除き、契約書の中にサービスの質に直接的に触れる規定が見あたらず、サービスの質の担保に課題があること。(2) 収集した契約書等資料の分析や文献研究の結果、以下の点が認められた。(1)利用者はサービスの受け手の地位から契約を通して権利主体としての地位を獲得したこと。(2)福祉・介護サービスの利用が契約関係を通して市民法上の権利として認められること。(3)利用者の契約締結能力、代弁、身上監護など、利用者の権利擁護が課題であること。(4)権利擁護ネットワークの構築を通してコミュニティー強化を展望。(3) 理論上の課題として、以下の点が挙げられる。(1)契約を通した福祉・介護サービスの利用への転換は、福祉・介護領域におけるパラダイム転換を伴う重要で基本的な変化であること、(2)福祉・介護サービス利用者が権利主体として認められることから、事業者・家族等の関係者は利用者の権利擁護に努める責任が生じていること、(3)市民法を中心とする「権利・法」概念とそのシステムが福祉・介護領域に進出したことから、福祉・介護領域では、利用者の権利主張と権利擁護が重要な課題として浮上していること。
著者
川崎 一平 牛尾 裕美 山田 吉彦
出版者
東海大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は、研究最終年度であり、主として本研究の成果発表、及び政策現場での実践的活動に研究の主眼をおいた。研究代表者の川崎は、(1)海洋開発シンポジウムにて奄美の振興政策と親族構造の関わりについて、著しい社会変容において伝統的親族構造が原理として存続していることを発表、(2)また第25回北方圏国際シンポジウムにて沖縄、奄美の離島振興において「離島文化」が重要視されていることを発表した(研究協力者の小野林太郎も共同発表)。実践的活動としては、分担者山田と共に(3)国境政策との関わりにおいて地域振興が展開されている根室市において地域社会の文化と深く根付いたエコツーリズムのモニタリングを実施した。分担者の山田吉彦は、川崎と共に北海道根室市での調査を実施するほか、沖縄県石垣市、竹富町において、海洋政策の市民政策への影響に関し調査を行った。これらの研究成果としては、土木学会海洋開発委員会に論文「わが国の海洋政策における国境離島開発の動向」を発表するほか、単著「日本は世界4位の海洋大国」を講談社より出版した。実践的研究としては、竹富町が策定した「海洋基本計画」に策定委員長として参加し、同計画の策定に本研究の成果を反映した。分担者の牛尾裕美は、「海洋基本法」の制定から「海洋基本計画」の策定に関する一連の政策決定過程おいて中心的役割を果たした「海洋基本法フォローアップ研究会」の議事録を(社)海洋産業研究会において調査することにより、現在の離島に関する法政策の基本的指針の決定過程の検討を行った。また、上記の基本方針において、上記の基本計画からその政策転換が図られた離島の振興に関する代表例としての「奄美群島振興開発特別措置法」の最新の改正法に基づく奄美群島民の「新たな公共」の実現に向けての創造的取組について奄美群島広域事務組合及び奄美市役所において聴取を行った。
著者
金谷 整一 大谷 達也
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本課題は、琉球列島における森林生態系の保全に資するべく、特異な生活型をもつアコウについて、種子散布者が遺伝的多様性の維持や集団間の遺伝的分化にどのように影響しているのかを検証することを目的として実施した。遺伝解析に先立ち、アコウ独自の核マイクロサテライトマーカー(nSSR)を17座開発した。1座当たりの対立遺伝子数は5~18(平均:9.5)であり、ヘテロ接合度は0.054~0.787(平均:0・594)であった。解析には、琉球列島から九州本土(五島列島含む)までの22集団から533個体(3~44個体/集団)を採取して実施した。集団に特異的に出現した対立遺伝子数は、与那国島で9、石垣島で7であり先島諸島で多かった。各集団の遺伝的多様性を示すヘテロ接合度(He)は0.484~0.764、アレリックリッチネス(Ar)は2.26~3,32であった。分布北限(九州本土)の集団は琉球列島の集団より、若干低い多様性を示したが、琉球列島北端の屋久島は、九州本土ほど多様性は低くなかった。集団の遺伝的分化の程度(Gst)は0.074であり、海洋による遺伝的隔離が生じていると考えられた。屋久島において大型種子散布者であるサルの糞内にあった大量の種子を発芽させ、解析したところ非常に多様性が高かった。また屋久島では、一樹冠内に異なる遺伝子型の樹幹が含まれていることが確認された。このことは、樹冠内にあったサルの糞より発芽した実生が成木に成長している可能性を示唆している。すなわち、サルによる種子散布は大量かつ多様な種子を広範囲に分散させるとともに、花粉による遺伝子交流(近距離あるいは一樹冠内)の機会を増加させることに寄与していると推察される。したがって、大型の種子散布者は、アコウの遺伝的多様性の維持あるいは高めるために非常に重要な存在であると考えられた。
著者
碓氷 泰市
出版者
静岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

1.細胞膜表面ミメティックスの作製細胞膜表面糖鎖を模倣した糖鎖分子集合体(クラスター化)の構築のため、新規ジスルフィド双頭型配糖体の合成を行った。具体的には、スペーサー部構造の異なる種々の革アセチルラクトサミン(LacNAc)配糖体を4,4'-dithiodibutyd cacidの両末端カルボキシル基に対して導入することで、各種LacNAc含有ジスルフィド双頭型配糖体を得た。また、これら双頭型配糖体は種々の糖転移酵素により糖鎖伸長が可能であり、α2,6-およびα2,3-シアリルトランスフェラーゼを用いることで双頭型配糖体の糖鎖部をヒト型やトリ型インフルエンザウイルスが認識する細胞膜表面糖鎖に変換可能であることを実証した。2.局在表面プラズモン共鳴法の確立金基盤上にジスルフィド基を用いて双頭型配糖体を固定化することで、ラベル化が不要な糖鎖固定化バイオセンサーを構築する事を目的として、金ナノ粒子修飾局在表面プラズモン共鳴(LSPR)基盤上への糖鎖の固定化を行った。蛍光顕微鏡を用いた観察では、LacNAc構造を認識する蛍光標識レクチン(デイゴマメレクチン;ECA)との糖鎖構造特異的な結合が観察された。また、LSPRにLacNAc含有ジスルフィド:双頭型配糖体固定化金基盤を用いたところ、糖鎖固定化によりECA(非標識)との相互作用問における最大吸光強度や最大吸収波長に違いがみられた。興味深いことに、この糖鎖-レクチン間相互作用における最大吸光強度や最大吸収波長は固定化糖鎖であるLacNAc含有ジスルフィド双頭型配糖体のスペーサー構造(アルキル鎖長など)によっても変化する事が示された。また、酸性糖であるシアロ型糖鎖を固定化した場合は、中性糖のときとは異なる光学特性を示すことも明らかとなった。以上の結果より、金ナノ粒子修飾LSPR法を用いることで、ラベル化が不要な糖鎖固定化バイオセンサーを開発した。さらに、高感度の光学的バイオセンサーを設計する際に、本糖鎖プローブの糖鎖構造及びスペーサー構造の重要性が示された。
著者
石黒 浩毅 有波 忠雄
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

神経細胞接着因子遺伝子NrCAMの低発現が依存形成阻害の表現型を示すこと、NrCAM遺伝子発現変化に伴いグルタミン代謝酵素GLS遺伝子の発現が変化することが申請者の先行研究から明らかとなっている。薬物依存症に関連が報告されている新奇求性(novelty seeking)および不安(harm avoidance)という性格行動にNrCAMならびにGLSがどのように関与しているかについて、前者は新奇オブジェクトや初見マウスに対する探索行動、後者はゼロ迷路における行動で評価を行った。Nrcamノックアウトマウスは新奇オブジェクトとマウスともに探索行動が野生型に比して少なかった。ノックアウトマウスはゼロ迷路における不安行動が野生型に比して少なかった。モデルマウスに認められた行動はヒト依存症患者に認められる性格傾向を説明できるものであり、NrCAMはおそらく依存獲得に密接に関係する性格行動特性を介して薬物依存症の易罹患性に関与することを示唆するものである。さらに、近交系C57B6マウスにGLS阻害剤を投与したところ上記の新奇求性および不安においてNrCAMマウスと同様の行動特性や、モルヒネ・コカイン・覚せい剤に対する報酬効果・活動性亢進効果の阻害が認められた。本研究にて神経接着因子に関わる神経ネットワークの一端ならびにこのネットワークが制御する依存症の表現型を解明することができた。
著者
服部 健司
出版者
群馬大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

臨床倫理学の特異性はもっぱら個別特殊的なケースに照準を合わせたケーススタディに存する。ケーススタディの成果が豊かなものであるか貧しいかを決定する要因は、議論の仕方に先立ち、すでにケースそのものの叙法のもつ物語論的特性のうちに存する。具体的に言えば、カルテや症例報告を範型とした客観的自然科学的な視点からの記述よりも、見えない陰の部分、発せられる言葉の曖昧さ、明示あるいは暗示される意思の両義性の仄めかしをそのままに残した、多声性を含んだ文学的叙法こそが臨床倫理学ケースにふさわしい叙法である。次に問われるべきはケース解釈の妥当性をいかに確保し確証するかである。正典の妥当な釈義をいかにして得るかをめぐって興った解釈学が、その対象領域を文献一般、他者とその生、歴史へと拡張したのは一九世紀後半である。前世紀には、解釈の方法論の基礎づけという進路そのものの変更と深化が行われ、解釈学的哲学へと転回が図られた。臨床倫理学の領域での課題は、いわば共通の文化的地平上の大文字の文化の理解ではなくて、個々の人々の生きざまや迷いが描き込まれた小文字の物語としての臨床倫理学ケースの理解である。そのためには、解釈学的哲学以前の、方法論的な解釈学へとあえて意図的に後退する必要があるように思われる。客観的にではなくむしろ心理主義的、直観主義的な要素を排除するのでない仕方の解釈学でなければ、目前の小文字の物語を読み解く助けにはならないように思われる。この種の読みの技法を磨きつづけてきたのは文学であった。臨床倫理学の方法論的研究のためには、文学の哲学へと進んでいかなくてはならない。
著者
生田 茂
出版者
大妻女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

「音声や音をドットコード化し,画像やテキストとともに編集し,カラープリンタを用いて普通紙に印刷する」ソフトウエア技術と,「印刷されたドットコードをなぞって,音声や音を取込んだそのままに再生する」ハードウエア技術を活用して,子どもたちや先生の「生の声」を用いて教材を作成し,これまでは不可能だった「新しい」教育実践活動に挑戦した。外国人英語指導員とともに取組んだ新学習指導要領のもとで始まる小学校の英語活動用の副読本の制作と教育実践,英語活動だけでなく,道徳や社会,国語などでも使える副読本作りの活動と実践,音声の入ったシートを活用して子どもたちが楽しく集う図書室づくりを目指した取組み,多摩川の河岸で生きるおばあさんのメッセージを子どもたちに伝える音声入りのシートや壁新聞を用いて,大都市東京における多摩川の果たす役割や多摩川と人々との関わり,おばあさんの生き様を学びあう活動などを展開した。また,子どもたちの社会科見学や学芸会などを振り返る活動のシートづくりと実践,1992年のリオデジャネイロの地球環境サミットで行なわれた12歳の少女のスピーチ(思い)を子どもたちに伝えるための教材づくりと実践などを行なった。特別支援学校に続いて取組んだ通常学校における「音声や音を活用した教育実践活動」は,これまでは不可能だった「目の前の子どもたちや担任の先生の声,そして,学校の回りの自然の音を教材化する取組み」であり,課題を抱えた子どもたちをも巻き込んだ楽しい取組みを展開することができ,新しい教育活動の可能性を示すことができた。
著者
佐々木 茂貴
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では、光照射によりDNAのB-Z相互変換を制御できるフォトクロミックDNA結合リガンドの創製を目指した。[ 5]ヘリセンリガンド体のDNA錯体形成を評価したところ、P体はB-DNAに、M一体はZ-DNAに高い親和性を示すことを明らかにした。さらに、アゾベンゼン基とナフタレン環を一個ずっもっリガンドはB-Z遷移を誘起し、さらに光照射によりB-DNAへの再変換されることを明らかにし、B-Z相互変換を制御するフォトクロミックDNA結合リガンドの創製に成功した。
著者
筒井 義郎 大竹 文雄 藤田 一郎 晝間 文彦 高橋 泰城
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

時間割引は多くの経済実験において、少額を早く受け取るオプションと多額を遅く受け取るオプションのどちらを選択するか、というタスクで測定される。本研究課題は、(1)遅れ(現在から最初のオプションまでの時間)と期間(2つのオプションの間の時間)を明示的に分離して、それぞれが時間割引に与える効果を特定する、(2)喫煙が時間割引に対してもたらす効果について明らかにする、という2つの課題を主たる目的とする。(1)については、これまでに行った実験の結果を論文にまとめ、本年度6月にJournal of Risk and Uncertaintyに掲載した。(2)については、昨年度早稲田大学で行った、非喫煙者と喫煙者、断煙者と非断煙者を比較する実験の結果を分析した。その結果、喫煙者は非喫煙者に比べて高い時間割引を示すことが明らかにされた。また、断煙者は非断煙者よりも、お金に対しては高い割引率を示すが、タバコについては、むしろ忍耐強くなるという結果を得た。この後者の結果の頑健性については疑問があり、詳細な実験条件設定に問題がある可能性を検討して、それらを改良した実験を本年1月と2月に大阪大学において実施した。その結果は現在解析中であるが、おおむね、喫煙者は非喫煙者に比べて高い時間割引を示す点にでは早稲田実験と同じである。断煙者と非断煙者を比べると、お金については両者の時間割引には差がなく、タバコについては、断煙者の方がよりせっかちになるという結果が得られた。今年度の実験結果の方が直観に整合的であるが、両方の結果をどのようにまとめていくかは検討中である。一方、fMRI実験については、早稲田大学健康科学部の正木教授の協力が得られ、本年2月と3月に、異時点間選択を行っている喫煙者の脳画像を撮像した。引き続き、行動実験の結果をまとめつつ、断煙者および非喫煙者についても撮像していく。
著者
加藤 寧
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究グループでは、動画特有のトラヒックパターンの利用によって動画が視聴されているか否かを検知する技術を研究してきた。しかし、近年ストリーミング動画にも暗号化が施される場合がほとんどとなり、既存の技術では暗号化へのロバスト性が低く、新たな手法の考案が大きな課題であった。そこで本研究では、暗号化ストリーミングに対応できる新たな視聴検知技術を確立し、その性能と有効性を評価した。
著者
島津 俊之
出版者
和歌山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

19世紀後半のベルギー王国では,以前のハプスブルク家領南部ネーデルラントに散在していた重要な文化的諸事象を「国家化」し,国民国家統合のシンボルとして祭り上げてゆく動きが生じた。地理学と芸術は,さまざまな関係性を取り結びつつ,この動きに巻き込まれていった。南部ネーデルラントの歴史的建築物や美しい景観,そしてメルカトルやオルテリウスといった16世紀の地理学者は,いずれも美術というメディアに媒介されつつ,ある種の「国家的遺産」として表象され,消費されていった。
著者
松田 和之
出版者
福井大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

前年度に現地で撮影した写真やスケッチ、調査メモ等の記録をもとに、フランス国内の教会・礼拝堂内にコクトーが残した壁画やステンドグラスの各々に関して綿密な分析を加えた結果、イカロスを思わせる天使像など、予想どおりヘブライズム的な要素とヘレニズム的な要素の混淆がそこには認められ、壮年期のコクトーの文学作品より読み取れる独自の世界観が晩年の教会美術作品にも反映されていることを確認できたが、加えて、より注目に値する予想外の発見があった。二つの異端的な性格を秘めたモチーフ、具体的に言えば、マグダラのマリアのモチーフとテンプル騎士団のモチーフが、慎重にカムフラージュを施されながら、一連の教会美術作品の中に盛り込まれていたのである。こうしたモチーフをカトリックの礼拝堂の内部に描きこむ行為は、安易な気持ちでできるものではなく、コクトーの反カトリック的な宗教観が確固たるものであったことを物語っている。従来、その重要性にもかかわらず、彼の宗教観(カトリック観)について掘り下げて考察されることは少なかった。それだけに、今回の発見を端緒としてコクトーの文学と芸術の本質を正統と異端の観点より照らし出すことができれば、本研究は充分に意義のあるものとなるだろう。コクトーが残した教会美術作品の中でも、とりわけ最後の作品となったフレジュスの通称「コクトー礼拝堂」は、円形で天井から光を取り入れる仕組みになっており、南仏にあるマチスやピカソが装飾を手掛けた礼拝堂や同時代の日本に残されたヴォーリズの教会建築等に見られるそれぞれに個性的な意匠と比較しても、その様式上の特異性には際立ったものがある。ともすれば等閑視されがちな「コクトー礼拝堂」の存在意義を改めて確認できたのも、本年度の研究成果と言えるだろう。今後とも引き続き考察を深め、その特殊な形状にこめられた意味を探ってみたい。
著者
松原 幸夫
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、日本の大学教育において、各種発明創造技法を活用した教育カリキュラムを開発することにある。平成21年度の研究実績の概要は以下のとおりである。・新潟大学農学部の「食肉の食感の評価測定法の研究」において、教材を作成し学習者中心の教授法および、TRIZを利用した検証授業を5月28日に実施し、その成果を踏まえ、農学部藤村忍准教授と新しい食感評価の測定法の開発について、研究を実施した。・日本の熟練技術の伝承法については、文献調査を行った上で、安田工業株式会社、株式会社テクノス、新潟県中小企業家同友会等を訪問し、ヒアリングを行った後、平成21年度社会連携フォーラムにおいて各団体の報告と参加者を交えて公開討論会を開催した。・第5回TRIZシンポジウムにおいて、英文論文を発表し、欧米、アジアのTRIZの研究者から質問を受け、意見交換を行った。上記研究成果について、日本知財学会第7回年次学術研究発表会、発明誌11月号、「協同の発見」誌2009年9月号(協同総合研究所)、特許・情報フェア(11/4、発明協会WEB雑誌事例紹介)、新潟県国立大学法人等新採用職員研修、都立両国高校附属中学校知的財産セミナー等において講演又は、発表した。
著者
高橋 英樹
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

植物の葉表面や葉組織には微生物が生息し、植物や病原微生物と相互作用することによって、植物の生育や様々な環境ストレス・病虫害に対する耐性に関わっているものと推察されている。本研究では、イネ植物体の細胞間隙に生息する微生物群集の多様性と、同微生物の植物への耐病性付与について研究を行なった。その結果、(1)イネの細胞間液から抽出したDNAを鋳型とした16Sと18S_rDNA断片のPCR-DGGE法によるバンドパターン解析と塩基配列を用いたデータベース解析から、微生物集団の多様性と微生物種の推定が可能である。(2)有機栽培イネの細胞間隙液に特徴的な内生菌として、Pseudomonas sp., Bacillus sp., Curtobacterium sp., acinetobacter sp. 等を見出すことができた。(3)同分離菌の中には、イネいもち病菌の感染、増殖に抑制的な働きをもつものや、イネもみ枯細菌病菌による苗腐敗症を抑制するものが存在していた。以上のことから、有機栽培イネの細胞間隙液に存在する内生菌集団の中には、病原菌の感染、増殖に抑制的な働きを持つものが存在している可能性が考えられた。
著者
大泉 哲哉
出版者
仙台高等専門学校
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、CO2削減のために電動車普及を図る準備として行っている。本研究での検討結果、ならびに研究成果を、H22年度研究計画の各項目ごとに以下に記す。(1)実試用システムの改修:昨年度設置した充電スタンドシステムは、当研究機関においてすら設置の賛否が紛糾し、設置した場所から撤去しなければならなくなった。したがって、研究計画を大幅に変更して、再設置場所の獲得のための検討と、実試用システムの合理化ならびに整備を研究として行なった。(2)需要調査、設置許可の可能性調査:この項目は、昨年に引き続き掲げた計画である。充電スタンドの趣旨には賛同してはもらえるが、太陽光パネル盗難の心配と、また実試用システムの外観の設置環境に対する違和感から、設置許可は得られなかった。今後、設置可能性を高めるためには、充電スタンドの高価な部品の存在が見えないこと、太陽光パネルが容易に取り外せそうにないような外観、また充電スタンド全体が環境に馴染むようなデザインである必要がある。(3)実試用システムの評価:この項目も昨年に引き続き掲げた計画である。充電スタンドの再設置が年度末になったため、年間データ収集は行なえなかった。しかし、短期間であるが、悪天候による発電量低下にあっても、充電回路への出力電圧変動が許容できる範囲にとどまることを実地試験によって確認できた。(4)研究とりまとめ、報告:研究成果を日本機械学会東北支部講演会、電気関係学会講演会ならびに計測自動制御学会講演会で発表した。なお、充電スタンドは、東日本大地震で停電が続くあいだ、地域の軽電源として、携帯電話の充電やポータブル家電の電源に24時間有効活用され、本充電スタンドのような設備が各地に設置されているべきであることを確認した。
著者
原島 秀吉 小暮 健太朗 秋田 英万 山田 勇磨
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本年度は、アジュバントのトポロジー制御の観点からアジュバント搭載型ナノ構造体の構築とその機能評価を行った。まず認識受容体の局在が異なる2種類のアジュバントを搭載したMENDの構築を行い、細胞性免疫誘導効率への影響を調べた。polyI:Cはエンドソーム内のTLR3及び細胞質中のMda5により認識され、CpG-ODNはエンドソーム内のTLR9によって認識される。それ故、細胞への取り込み後に認識されるように、MENDの内部に抗原と共に内封した。polyI:CもしくはCpG-ODNを内封したMENDをマウスに皮下免疫し、CTL活性を測定した結果、polyI:C内封MENDを免疫したマウス群では、CpG-ODN搭載MENDを免疫した群と比較して著しく高いCTL活性の誘導が認められた。次にpolyI:C搭載MENDとpolyI:C/R8複合体のCTL活性誘導能を比較した。その結果、polyI:C搭載MENDを免疫したマウス群の方が高いCTL活性及び抗腫瘍活性を示した。MEND内にpolyI:Cを内封することで、効率良くTLR3及びMda5に認識され、強力な細胞性免疫が誘導されたと考えられる。このことからアジュバントの機能を十分に発揮させるためには、そのトポロジーを考慮することが重要であることが示唆された。またpolyI:CをMEND内に内封することでアジュバント投与時の炎症等の副作用が軽減されるかを調べた。polyI:C搭載MEND及びpolyI:C単独をマウス尾静脈から投与し、2時間後の炎症性サイトカインIL-6の産生を調べた。その結果、polyI:C搭載MEND投与群では、polyI:C単独投与群と比較してIL-6産生の著しい抑制が認められた。以上の結果より、効率的な細胞性免疫誘導及び副作用の軽減には、アジュバントのトポロジーを考慮したワクチン設計が重要であることが明らかになった。
著者
目加田 慶人 種田 行男 今枝 奈保美
出版者
中京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

食事の改善を必要としている国民が増大している.現在,記憶や写真に基づく食事量推定を利用した食事指導が行われているが正しく食事量を推定出来るわけではない.本研究では,食事量の推定精度向上のために,ステレオカメラを用いて,食品の大きさなどの情報を専門家に与えるシステムについて述べる.実際の食品を撮影し量を推定する実験をおこない,食品サイズを被験者に知らせることで,推定精度が向上することを示した.