著者
木下 彩栄
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

我々は、認知症の患者や家族介護者の在宅療養支援のツールの一つとしてInformationTechnology(以下ITと略)の有効性に着目し、既存のインフラを利用した双方向性の在宅支援システムを立ち上げるべく、本課題を立案した。京大病院に外来通院する認知症患者を対象群とテレビ電話介入群に分けて各10名ずつ3カ月の介入試験を行った。この結果、テレビ電話による介入は、在宅医療を支援するために簡便かつ有効であることが実証された。
著者
萩原 亨 長谷部 正基
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

警告対策としてグルービングの有効性を高めるため、エゾシカが反応した音の性質を調査し、さらにグルービング音が道路を横断しようとしたエゾシカへの影響を調べた。これらの結果ついて、第62回土木学会北海道支部学術研究会にて発表した。グルービングは、グルービングマシンによって、舗装表面に縦方向または横方向の溝をつけることにより、排水を促進させ、湿潤状態における舗装路面の摩擦係数を増大させようとするものである。車両走行時には、タイヤとの関連によって音が発生する。昨年度、国道238号線の猿払村付近に、エゾシカの警戒声に近い音を出すグルービングを施工した。現地にて、詳細な、グルービング音の計測を実施した。これらの結果から、グルービング走行時の振動音を空間的に推定するモデルを確立した。また、2009秋から冬にかけて施工区間を横断したエゾシカをビデオ観測した。グルービングで発生する2kHz音の継続時間(無音、有音)や音圧がエゾシカに与える影響を調査した。ビデオから、通過車両によるグルービング音が、道路を横断しようとするエゾシカの行動に与える影響を記録できた。横断しようとしたエゾシカが、.横断を中断し、元の場所に戻ったり、警戒したいりする行動がみられた。以上の研究から、警戒声に近い音を道路から発生させることは、エゾシカの行動に影響を与えエゾシカと通行車両との事故を減らす効果があることを明らかにした。ただし、道路のグルービングによる音には限界が多々あり、効果的な対策となるかどうか不十分であることも音響モデルから明らかになった。今後、さらにエゾシカの警戒声を有効にエゾシカ事故対策に生かす方策を模索する必要がある。
著者
森村 成樹
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

3か年計画の最終年度として、参加者が環境エンリッチメントをおこなう趣旨の教育プログラムを動物園3園(よこはま市動物園、野毛山動物園、熊本市動植物園)において実施した。環境エンリッチメントを教育プログラムとして活用することによって、プログラム参加者のみならず、一般来園者の滞在時間が延長される効果が得られた。一連の研究から、動物園来園者の滞在時間が1分以下という非常に短いことが明らかとなった。従って、通常の展示では環境教育に必要な情報を来園者が得ることは難しい。環境エンリッチメントは、一般来園者に見る上で注目すべき点(行動、生態など)を与える役割を果たすことで、来園者の滞在時間が引き延ばされたと考えられた。動物が、本来の行動レパートリーと時間配分を発現できるための環境エンリッチメントは、動物福祉の観点からだけでなく、効果的な環境教育の実践として普及に努めるべきとの結論を得た。加えて、GPSを用いた来園者行動調査から、休憩場所で54.1%を過ごすことが明らかとなった。夏暑く、冬寒く、休む場所が限られているという多くの動物園で見られる空間的特徴は、来園者にとって快適な空間とは言えない。入場口周辺での滞在も多く見られ、動物園の空間配置が来園者の行動、ひいては環境教育の効果に影響を与えうることが新たに分かった。本研究において日本で初めて実施されたGPSを用いた動物園での来園者行動調査は、様々な方面での活用が期待される技術でもある。展示される動物と来園者の行動をさらに詳細に検討することで、動物にも人間にも福祉的配慮のある、教育効果の高い動物園作りを推進するべきである。
著者
佐藤 裕哉
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は,以下の3点について取り組んだ。1)地図のラスター/ベクター変換と修正,2)データベース構築と修正,3)デジタル地図と被爆者データのGIS上での結合と修正である。1)については,爆心地から2~2.5kmの範囲のデジタイジングと属性入力を行った。結果として,約15,000軒分の家屋ポリゴンを作成し,1,000軒の地番コードと500軒分の世帯主名を家屋ポリゴンの属性として入力した。そのほか,道路線(ラインデータ)を作成した。また,平成21年度に作成した家屋ポリゴンと鉄道線,市内電車線,河岸線について,他の地図資料を参考に修正した。2)については,原爆放射線医科学研究所が保有する「原爆被爆者データベース」の被爆住所(地番)をコード化した。データベース内の地番まで住所が確認できる約20,000人分について,10桁の数字を附しデータベースに格納した。3)については,家屋ポリゴンとデータベースに附した地番コードにより,GIS上で自動的にマッチングできるように作業を行った。長屋など複数の建物に同一の地番が割り当てられている場合は,うまくマッチング出来ないことが明らかとなった。そのほか,昭和初期の広島市中心部のデジタル地図が成果として得られ(平成21年度と22年度の合計で約62,000軒分),貴重な地図資料を劣化しない形で保存することができた。また,このデジタル地図を作成したことにより,今後,他の空間データと重ねあわせて分析することが容易となり,原爆被害の実相解明につながる新たな知見へと結びつく可能性を持つ。一方で,家屋の高さや材質など入力する属性を増やすなど改善の余地も残されている。
著者
清田 夏代 黒崎 勲
出版者
南山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

平成19年度及び平成20年度は,主にシティズンシップ教育政策の枠組みの部分を中心とした研究を行ってきたが,最終年度である平成21年度は,これまで構築された枠組みに基づき,英国における実地調査を行った.英国においては平成22年5月に総選挙が予定されており,既に労働党及び保守党の両党を中心とした選挙戦が繰り広げられている.それらの争点には教育政策も含まれており,本研究の課題と関わるものとしては,学校の規律の立て直しをめぐる提案や,PSHEの義務化の提案などをめぐる諸問題が議論の対象となっている.そうしたなか,平成22年2月に英国におもむき,英国における若者に対する民主主義的理解を振興させるための機関(政治的には中立である)であるハンサード協会シティズンシッププログラムの責任者を訪問し,英国におけるシティズンシップ教育の現在,方法及び課題等についてインタビューし,同時に,今後予想される政治的な影響などについて聞き取りを行った.同時に,人権教育を主体としたシティズンシップ教育研究を展開しているオードリー・オスラー教授(リーズ大学及び香港大学客員教授)及び,共同研究者であるヒュー・スターキー教授(ロンドン大学教育研究所)を訪問し,英国における政治的動向と,それがシティズンシップ教育の実践にどのような影響を及ぼしうると考えられるかということについて,聞き取りを行った.現地におけるこれらの調査は,今後の研究の課題の枠組みとして展開される予定である.
著者
神崎 初美 東 ますみ 芦田 信之 那須 靖弘
出版者
兵庫県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

災害支援Ns養成に活かす仕組みとして、1)育成支援システムを構築するため、詳細な学習プログラムを作成した。2)個人評価システムの構築として、プログラム受講効果を受講前と後・半年後(フォローアップ研修時)に評価できる評価表を作成し、自己評価制とした。3)集団教育支援の査定(看護ケアの質の安定性と継続ケアの実現性に関する評価)では、県内病院の卒後院内研修プログラムに「まちの保健室」講義と実習を取り入れ、評価した。4)効果・エビデンスの蓄積は、研修プログラムの評価を行ったことと、東日本大震災時の災害支援Ns派遣実績とその報告で得ることができた。また、東日本大震災被災地での看護の経験知を「災害支援ナース実践マニュアル」として作成し、被災地に持参できるようにした。
著者
赤井 周司
出版者
静岡県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

フッ素原子の持つ特異な性質を活用した医薬品開発,ならびに医療への応用研究が近年盛んに行われている。含フッ素化合物の合成のために,脂肪族化合物の水酸基からフルオロ基への変換法が多数開発されたが,芳香環上の水酸基からフルオロ基への置換は成功例が殆ど無い。本研究では,カテコール化合物の水酸基の一つを求核的にフルオロ基に変換する前例の無い方法の開発,天然カテコールへの応用,^<18>F含有放射活性化合物の迅速調製法の開発を目的とした。本年度は,研究実施計画に基づき次の成果を得た。1. H21年度に見出した方法論を,カテキンとエピガロカテキンに適用した。多数ある水酸基の環境の違いを利用した選択的保護法、並びに、好ましい保護基の種類を見出し、本法によって当該天然物のフッ素誘導体を効率的に調製できた。この成果は、今後、多様な官能基を有する様々な天然カテコールへ本法を適用する際の有益な知見となった。2. 非対称置換カテコールについて、可能な2種の位置異性体の選択的合成を試みた。電子供与性置換基のパラ位の水酸基がフルオロ基へ置換されること、並びに、ジオキサン中で最大22:1の選択性が生じることが分かった。しかし、マイナー生成物を優先的に得るための条件を見出すには至らなかった。引き続き検討を行う。3. 本学薬学部の生物系研究室の協力の下に合成した含フッ素誘導体の各種生物活性試験を行った。今のところ有用な活性は見られていないが、引き続き他の活性試験を依頼する。4. H21年度に見出した方法論は4工程からなる。現状、全工程を約3時間で完了することが出来るが、^<18>F含有放射活性化合物の調製のためには、更に迅速化を図る必要がある。
著者
安武 潔 垣内 弘章 大参 宏昌
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

薄型Si太陽電池の実現には、光閉じ込め技術に加えて、キャリアの表面再結合を抑制するパッシベーション技術が鍵となる。p型Si表面のパッシベーションには、負の固定電荷をもつ絶縁膜が有効であり、Al_2O_3薄膜がその可能性を有している。本研究では、p型si表面のパッシベーションに有効なAl_2O_3/極薄SiO_2/Si構造の形成条件を明らかにすることにより、高効率Si太陽電池製造に必要なAl_2O_3薄膜の低温・高速形成プロセスを開発する。(1)大気圧プラズマによるSiおよびAlの酸化特性を調べた結果、400℃でのSi酸化速度は、1000℃ドライ熱酸化と同等であること、Al酸化速度はSiの1/2程度であり、熱酸化に比べ高速であることが分かった。(2)大気圧プラズマ酸化によるSiO_2膜は、高温熱酸化膜と同等の品質であり、SiO_2/Si界面準位密度はD_<it>=2×10^<10>cm^<-2>eV^<-1>であった。一方、正の固定電荷密度が高い(Q_f=5.3×10^<12>cm^<-2>)ため、n型Si表面のパッシベーションに有効であり、非常に低い表面再結合速度(S_<eff>80cm/s)を実現した。(3)Al/Si構造を大気圧プラズマ酸化することにより作製したAlO_x/Si構造は、負のQ_fを有するが、界面特性が十分でなかったため、Al_2O_3/SiO_2/Si構造を形成した。SiO_2が厚い場合、正のQ_fを示すが、SiO_2膜厚の減少とともに負のQ_fが増加することが分かった。(4)Al_2O_3/薄いSiO_2/Si構造により、D_<it>=9×10^<10>cm^<-2>eV^<-1>,負のQ_f=5.4×10^<12>cm^<-2>,S_<eff>=260cm/sが得られた。S_<eff>は、HF処理による915cm/sに比べてかなり低く、本方法で形成したAl_2O_3/SiO_2/Si構造が、p型Si表面パッシベーションに有効であることが示された。
著者
上島 通浩 那須 民江
出版者
名古屋市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)の空気中濃度が高い建物でシックビル症候群(シックハウス症候群)、化学物質過敏症状等が生じるが、病態は未解明で、また、2E1H発生量の決定要因にも不明な点が多い。9週齢の雄ICRマウスを理論濃度値0,55,110,219ppmの2E1Hに1日8時間、7日間吸入曝露した。219ppm群では鼻腔の嗅上皮に構成細胞の減少、炎症細胞浸潤が見られた。呼吸上皮では炎症細胞浸潤は軽度で、また下気道では区域気管支、細気管支の平滑筋層に炎症細胞浸潤が見られた。この結果は、2E1H曝露時にみられる鼻の不快感、刺激性と一致すると考えられた。また、肝のアルコール脱水素酵素(ADH)活性は、0ppm群で6.9±0.9(nmol/mg protein/min)、219ppm群で7.6±1.4(nmol/mg protein/min)で、曝露によるADH活性の上昇は認められなかった。マウスでは2E1HがADHの、2-エチル-1-ヘキサナールがアルデヒド脱水素酵素の基質となることも示されたが、ppbの濃度域で生じるシックハウス症状の原因が、2E1Hから2-エチル-1-ヘキサナールへの代謝亢進による可能性はほぼないと考えられた。また、2E1H発生側の要因解明のために、セメント中に存在する化学成分と2E1H発生量との関係を検討した。CaO、Fe_2O、Na_2O、Mn_2O_3が発生促進と密接な関係があり、一方SiO_2、K_2O、MgOは発生を抑制すること、発生促進と抑制はセメントの種類、含水率、経時日数に依存することが明らかになった。今回の分析条件では、アルデヒドの発生は認められなかった。2E1Hの発生を避けるためには、コンクリートの十分な乾燥が必要であることが知られるが、さらに、床を形成するセメントコンクリートの材料を適切に選択することの重要性が示唆された。
著者
大林 茂
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

仙台空港には電子航法研究所(ENRI)により後方乱気流の検出を目的としたドップラーライダが設置されている。我々のグループでは、仙台空港において実フライト機を対象とした後方乱気流の計測を過去3年間継続的に行ってきており、あらゆる条件下における後方乱気流の位置データを保有している。我々のグループでは、ライダ計測値からの後方乱気流の自動抽出法を開発しており、開発した自動抽出法を全ての観測データに適用することにより、後方乱気流移流データベースを構築した。このデータベースにより,減衰過程と気象因子との相関関係を得て、時々刻々変化する気象条件に照らし合わせて後方乱気流の挙動を事前に予測することができると考えられる。そのため、構築した後方乱気流移流データベースにデータマイニング手法を適用した。それにより、気温の影響により後方乱気流の垂直移動距離が変化することを示すことができた。また、我々のグループでは数値流体力学シミュレーション(CFD)を利用した後方乱気流の挙動解析をベースとした離発着効率化をこれまで検討してきた。これまでは,実際の運航に近い技術になるほどCFDシミュレーションの果たす役割は大きくなかった。その理由としては、CFDシミュレーションが理想状態の解析を得意とし、大気乱れを含むような実環境下における後方乱気流の挙動を予測することが困難であることが挙げられる。そこで、従来のCFDシミュレーションとは異なる初期値・境界値の設定方法を行うために局地気象予報モデルを利用したネスティングシミュレーションも行った。これにより、仙台空港周辺で特に卓越する海風中に発生する水平ロール対流の中での後方乱気流の挙動を再現することができた。
著者
細谷 和海
出版者
近畿大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

1. 海外博物館での標本調査初年度は、シーボルト標本調査のため、直接ライデン博物館へ赴き、一部標本の再検査および同定による種名とタイプ標本の地位について確認した。しかし、分類学的な課題は依然残されており、いくつかの種については、海外の著名な博物館において絶滅危惧種など優先度の高い種について調査を行なう必要がある。そこで平成21年度は米国スミソニアン博物館へ、次いで、平成22年度は3月12日から18日までChicagoフィールド博物館ならびSan Francisco,カリフォルニア・アカデミー博物館(CAS)へ赴き、タイプ標本と照合を行なった。その結果、サケ科、およびタナゴ類など小型コイ科魚類の学名の整理(シノニム関係)ができた。このことにより、保全対象種の実態が明確となり、具体的な保全目標の設定が可能となった。2. 絶滅種の分類学的精査シーボルトコレクションは西日本に集中している。魚類標本の多くが、長崎周辺と江戸参府の際に収集されたことが原因である。そのため、日本産淡水魚相の過去の態様を探るには、東日本に分布する種について精査する必要がある。近年、絶滅したと考えられていたクニマスが、京大の研究グループにより再発見された。クニマスのタイプロカリティは秋田・田沢湖で、今回、移殖地の山梨県・西湖で生息が確認された。しかし、同定にはかなりの問題があり、模式標本との照合が強く求められていた。フィールド博物館とCASにおいてクニマスの模式標本と比較した結果、西湖の現存標本の特徴はおおむね摸式標本に一致するものの、斑紋・からだの大きさ等が異なることが明らかになった。今後、現存個体群の保全を進めると同時に、遺伝的特性も含め、個体変異と交雑の可能性について検証することが必要と思われた。
著者
竹元 博幸
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

Takemoto(2004)は、チンパンジーの地上利用頻度に季節差があるのは、樹上果実量が多いときに樹上を良く利用するためではなく、気温が高い季節は地上部が過ごしやすい気温になるためだと結論している。熱帯林内の林冠付近は地上部にくらべ気温が高いのが一般的傾向であると言われているが、アフリカの大型類人猿調査地で気温の垂直構造が測定された事はない。本研究は、熱帯林内の食物量と気温や湿度など物理環境の変動を地上部から林冠までの垂直構造とともにとらえ、野生チンパンジーとボノボの森林内空間利用がどのように変化するかを明らかにすることである。本年度は今まで収集した資料を用いて両種の生息地の環境と地上利用の違いを解析した。西アフリカ・ボッソウのチンパンジーの地上利用時間は乾季に増大し、雨期に減少する。また、雨期には林冠に近い高さを良く利用するが、乾季の利用高度は低くなる。対して中央アフリカ・ワンバ地域のボノボの地上利用時間の季節差は無く、森林内の利用高度も変化しなかった。両生息地とも林冠付近の気温は5℃程度地上付近の気温より高かったが、気温の季節変化はボッソウが大きい。多変量解析によると、地上性の差は種や調査地あるいは果実量の差ではなく、観察日の気温の影響が強いことが判明した。森林内気温の季節変化が大きいボッソウ地域に対して季節差の少なかったワンバ地域の気象が森林内利用空間の違いをもたらしていると考えられる。今後2種の採食内容を比較するとともに、アフリカ古気候の変遷が2種の生態に与えた影響について考察したい。
著者
吉川 茂 石井 望
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

正倉院尺八から現代尺八までの構造・設計上の変化を音響理論、音響実験、さらにはCT画像の解析を通して考察し、尺八変貌の過程を明確にした。特に、正倉院尺八における運指7(第3, 6孔を開けるクロス・フィンガリング)の問題点を指摘し、江戸・明治期の名管尺八では節の残し具合で調律していることが了解された。また、中国唐代の音楽に関する考察から、正倉院尺八の指孔は燕楽二十八調の音階を吹奏できるように配列されているとの知見を得た。
著者
市瀬 孝道 吉田 安宏 吉田 成一 山元 昭二
出版者
大分県立看護科学大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

1. 肺炎桿菌と黄砂曝露による培養細胞における炎症性サイトカイン・ケモカンの遺伝子発現とタンパク発現:黄砂は肺炎桿菌(Klebsiella Pneumoniae(KP))による肺の炎症を悪化させた(前年度)。このメカニズムを明らかにする目的で、BALB/cマクロファージ(MP)由来のRAW264.7細胞に黄砂と肺炎桿菌を曝露して、Toll-like receptor(TLR)2とTLR4mRNAの発現、炎症性サイトカイン・ケモカインのmRNA発現と培養液中のこれらのタンパク発現を調べた。またTLR2とTLR4の抗体を用いてこれらの発現への影響を調べた。肺炎桿菌を添加したRAW264.7細胞はTLR2mRNAの発現を高めたが、TLR4の発現はむしろ低下した。TLR2とTLR4の抗体を用いて、TLR2とTLR4のmRNA発現を調べた結果、TLR2抗体はTLR2mRNAの発現を抑えると共に、炎症性サイトカイン・ケモカインのmRNA発現と培養液中の炎症性タンパク発現を抑えた。しかし、TLR4抗体はこられの発現を抑えることができなかった。この結果からKPはRAW264.7細胞のTLR2発現を介して炎症性サイトカイン・ケモカイン類の発現を高めていることが分かった。RAW264.7細胞にKPと黄砂を添加してTLR2とTLR4mRNA発現、炎症性サイトカイン・ケモカインmRNA発現と培養液中のタンパク発現を調べた結果、黄砂は肺炎桿菌によるTLR2の発現と炎症性サイトカイン類のタンパク発現を更に高めたがTLR4は低下した。この結果から、黄砂の肺炎桿菌による炎症増悪作用はTLR2の活性化を介して肺の炎症を増悪している可能性を示唆した。2. 黄砂付着細菌の感染実験:日本に飛来した黄砂から分離したBacillus spと黄砂をマウスの気管内に投与して黄砂の炎症増悪作用を調べた。その結果、本実験に用いたBacillus spは病原性が低く、マクロファージ数は増加させるものの、炎症反応の誘導性(好中球数の増加)は低かった。またマクロファージに関連したサイトカインは誘導するが炎症性サイトカイン類の発現は低かった。今後は病原性の強い細菌による感染実験が必要である。
著者
山形 英郎
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

住民保護責任を中心概念として、「人間の安全保障」と「国家の安全保障」の関係を研究した。人間の安全保障には、日本を中心とした平和的なアプローチとカナダを中心とした軍事的なアプローチがある。前者によれば、人間の安全保障は国家の安全保障と矛盾するものではなく、相互に補完的な関係を有している。その一方で、後者であれは、人間の安全保障の優位が認められ、国家の安全保障が毀損される場合がある。とりわけ、破綻国家のような場合には、国際社会の介入が許されるとされ、破綻国家の王権=安全保障が害される可能性があるめである。しかも、そうした介入の対象となるのは、破綻国家であり、途上国を中心として中小国である。しかも、そうした介入が、介入国にとって、テロ防止の名目で行われる場合があり、被介入国の主権=安全保障を犠牲にして、介入国の主権が強化されることになる。そうした一方性が存在していることを明らかにした。アフリカ連合では、住民保護責任概念の拡大傾向がある。また、国際司法裁判所のジェノサイド条約適用事件では、住民保護責任の影響が判決の中に出始めている。その一方、国連事務総長が作成した「住民保護責任の実施」文書によれば、国際社会が実施する住民保護責任は、国連の集団安全保障制度の枠内でのみ可能であるとされ、住民保護責任限定花が行われている。濫用を戒めているのである。住民保護責任が一般国際法上の概念として確立するまでには至っていないが、国際法上の主権概念に大きな変容をもたちす可能性をもっていることに注意が必要である。
著者
鎌田 倫子 中河 和子 札野 寛子 峯 正志 後藤 寛樹
出版者
国立大学法人富山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

1.プログラム調査の実施石川・富山地域における7つの日本語プログラムの現場調査を実施し、結果の分析と評価方法の研究会を行った。平成20年度にパイロットスタディを行い、概要調査票、プログラム関係者への調査票、承諾書などの評価ツールを整備し平成21年度に7つのプログラムの現場調査を実施した。2.調査結果分析調査票調査の結果から、いわゆる学校型、地域型というだけでは収まりきらない日本語教育の現場の多様性が浮き彫りになった。学校主催プログラムの中にも教授法や組織形態が典型的な学校型に当たる留学生センターの大規模プログラムと、様々な特徴を持つ周辺的な小規模プログラムの存在が明らかになった。自治体主催や市民参加自主プログラムのいわゆる地域型にも、学校主催を凌ぐ規模を持つ学校型プログラムや、学校型を志向する疑似学校型プログラム(尾崎2004)、相互活動を目的とする多文化共生型プログラム(尾崎2004)等、特徴的で多様なプログラムの存在が現場調査から裏付けられた。(学会発表、報告書)3.プログラム評価法の研究会<エンパワメント評価>目標の達成度を見る従来型の評価法では捉えきれないプログラムの多様性の把握、活動や組織自体の改善を目指す評価法としてエンパワメント評価に着目し、文献研究会を実施した。エンパワメント評価は評価自体を、組織をエンパワする活動と位置付け、評価活動を通じて組織や活動の在り方を改善していく評価方法である。NPO等の実施する社会活動等に適用されることが多く、教育機関でエンパワメント評価を行った例は日本ではまだ見られない。しかし、この評価法は地域型日本語プログラムや周辺的な学校型小規模プログラムへの適用可能性は高いと考える。(フォーラム発表、文献)今後、作成した評価ツールの検討、採取記述データの分析等を進めながら、エンパワメント評価の試行可能性を探る所存である。
著者
金子 成彦
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

入眠予兆信号とは、人間が眠りに入る少し手前で観察される前兆信号のことで、本研究では、これまで行なってきた入眠予兆現象の研究内容を掘り下げて学理に繋げるための研究を行った。本研究は、センサーの精度に関係する、設計条件、使用条件、外乱要因の把握による設計方法の提案を目的とする部分と、カオス解析、ウェーブレット解析、ケプストラム解析の3つの手法による入眠予兆信号の抽出方法と発生時期の相互比較、および、入眠予兆現象の原理と測定原理を表すことが可能な数学モデルの提案の3つのパートによって構成される。平成20年度は、エアパックセンサーの精度に関する検討、平成21年度は、解析手法間の相関に関する検討、平成22年度は、測定原理を表すことが可能な数学モデルの検討と入眠予兆現象捕捉のための新たな手法の提案を行った。平成22年度の研究成果は、以下の通りである。本研究では、脈波の揺らぎから入眠予兆信号を取得している。ドライバーの邪魔にならない場所で非侵襲で脈波の情報を取得するために、運転席シートの背部に取り付けた空気圧の変化を利用したセンサーを使用している。本年度は、測定原理を明らかにする目的で、脈波伝達経路を表現することのできる伝達関数を求めことに成功した。心臓の拍動が背部大動脈血管伝わる仕組みについて解析可能な動脈網モデルによる脈波伝播シミュレーションを行い、血管内の圧力が筋肉、皮膚、衣服を経由してセンサーに到達するまでの経路について解明することができた。また、昨年度の研究で見つけた新たな処理方法である、「ヒトの眠気をスリープスコアという点数で表現する」方法を被験者数を増やして実施し、成果を論文発表した。
著者
鈴木 省三 石山 信男 内野 秀哲 竹村 英和 岩田 純 朴澤 泰治
出版者
仙台大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、従来の有能な指導者による「経験と勘」に依存した年間トレーニングプログラムの作成に代わって、生理学的な知見と数理的な手法に基づくパフォーマンス数理モデルを用いた年間トレーニングプログラムの計画、実践、分析、評価の循環サイクルを指導者・サポートスタッフと連携しながら実践し、重要な大会に最高のパフォーマンスを発揮できる選手サポートシステム(遠隔IT機能を活用したe-conditioning選手サポートシステム)を構築することである。2009年度は、1年目の成果を基に、遠隔IT機能を活用したe-conditioning選手サポートシステムの現場への応用を実践した。結果として、対象スケルトン選手が日本選手権大会で優勝、ワールドカップ8戦で国際ランキング15位になり、2010年バンクーバー冬季五輪の日本代表選手選出に貢献できた。さらに、パフォーマンス数理モデルを用いた年間トレーニングプログラムは、選手個々のトレーニング刺激に対するコンディションレベルの生理的適応過程が客観的に把握できたとともに、オーバートレーニングの危険を回避しながら最適なトレーニングプログラムの実践が可能となった。また、最終的にトレーニング効果としてのパフォーマンスが予測できることは、従来課題として掲げられていた問題点が解消できる可能性が示唆された。さらに、主観的・客観的評価に、選手のコンディションを見抜く指導者やサポートスタッフの洞察力が加わった一連のシステムモデルが、日本の競技力を向上させるためのコンディショニング領域で大いに活用されることを期待している。
著者
平塚 伸
出版者
三重大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,特殊に分化した果皮の(1)CO_2固定能力,および,(2)色素合成能力,を明らかにすることを目的に行ったものであり,得られた結果は以下のように要約される.なお,成果の一部は,平成21年9月に開催された園芸学会秋季大会で公表した.(1)ウンシュウミカン果皮のCO_2固定能力は,明期・暗期ともに満開後100日前後が最も高く,この時期の果実遮光は成熟時の糖・酸含量を明らかに低下させることが明らかとなった.前年度に引続き行った本年度の研究成果は,以下のように要約される.1)ラジオアイソトープを用いた実験により,9月上旬の果皮で固定された^<14>CO_2の約1/3が果汁に蓄積され,その^<14>Cはそれぞれ果汁内の糖・酸・アミノ酸分画に取り込まれることが証明できた.なお,暗黒下でのPEPCによる^<14>CO_2固定は光合成の40%弱であったが,PEPCによって固定された^<14>Cも糖分画に検出されたことから,ウンシュウミカン果皮にはC_4光合成的機構が備わっている可能性が示された.2)果実のPEPC活性はクロロフィルを含む組織で高く,内部の組織では低かったことより,ここでもカルビン回路とPEPCが相互作用するC_4光合成的機構の存在が示唆された.3)結果枝に環状剥皮を施して枝内への光合成産物流入を阻害すると,果皮の光合成速度は約2倍高まったことから,果皮の光合成は葉の働きを補完する作用をもつものと考えられる.(2)スモモ果肉のアントシアニン生成は,その前駆体のカフェ酸やフラボノールを作り出す機構が備わっているためであり,これらがアントシアニンに代謝される過程では光が不要であることを明らかにした.さらに本年度は,以下のことを明らかにした.1)光照射は,むしろ果肉のアントシアニン生成を抑制する可能性がある.2)果肉では,果皮でアントシアニン生成を促進するABAや抑制する2,4-Dなどの植物ホルモンでは制御されない.
著者
廣瀬 明
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

以前にわれわれが提案したWalled LTSAはその開口面での壁面が、導波管を単純に切断したものと同等であった。そこに、次の2つの新構造を導入した。(a)開口端の方形終端形状を自由な曲線とし、特に漸近的な開口として等価的な開口面積の増大を図る。(b)金属壁に溝(トレンチ)をつけ曲線開口と滑らかにつなぐ。これらの構造によって、8-12GHzの広い帯域にわたって5dB程度以上の直接結合の低減を実現した。またアンテナのスケーリングによって、同様の構造がさまざまな周波数帯における直接結合低減に役立つことも示した。