著者
猪股 泰広
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1.はじめに<br></b> 近年,富士山の世界文化遺産登録や国民の祝日としての「山の日」制定など,山岳地域への関心が高まっている.観光対象としての山岳地域は,自然・文化の多様性や非日常性といった多くの魅力を有する一方で,人間活動の影響に対して実に脆弱である(Nepal and Chipeniuk 2005).人間による利用が進むこと,およびそれに伴い必要となる保全施策が進むことで,本来的に山岳地域が有する魅力を享受できなくなる,すなわち利用体験の破壊が生じるため(八巻 2008),利用目的や環境に応じた地域づくりが必要とされている.これについて,レクリエーション機会多様性(ROS)概念を用いた検討は多数なされているが,あくまで現況の指標に基づくものであり,地域的文脈はあまり考慮されていない.そこで本研究では,近代登山発祥以降の観光利用の進展が顕著な北アルプス槍ヶ岳周辺地域を対象に,山小屋の機能や周辺環境の変化に着目することで,登山観光地域の変容過程を明らかにし,今後の地域づくりの指針を得ることを目的とする.<br><b>2.対象地域<br></b> 槍ヶ岳(標高3180 m)は,長野県,岐阜県の境界に位置する北アルプス南部・槍穂高連峰の主要ピークである.東側に連なる常念山脈の存在や梓川沿いの地形の急峻さにより,近代登山発祥(1900年頃)以前は信仰登山目的などで僅かな人が立入るのみであった.1916年に営林署による島々~徳本峠,明神~槍ヶ岳の登山道が整備されて以降,要衝における山小屋開業とともに,槍ヶ岳周辺地域は登山観光地としての性格を表し始めた.槍穂高連峰や常念山脈は一帯が国有林であり,また中部山岳国立公園に指定されている.<br><b>3.登山の大衆化と地域の変容<br></b> 1920年前後,槍ヶ岳をめぐる登山道整備の進展に伴い山小屋の開業が相次いだ.当時は登山者の宿泊・休憩だけでなく,より高所にある山小屋への物資補給のための歩(ぼっ)荷(か)の中継施設としての機能を担う山小屋が多かった.1927年の釜トンネル開通,1929年のバス運行開始により,登山の起点が上高地に移ると,小屋の収容能力を超えるほどの登山者が訪れるようになった.高度経済成長を迎える頃には,収容人数増を目的とした小屋の増築が進んだことと,物資運搬手段としてのヘリコプター導入により,歩荷では不可能であった重い建材や新鮮な食料の供給が可能になったことが,設備充実や美味しい食事の提供をもたらし,登山者の利用体験の向上につながり,登山の大衆化を推し進めた. <br> 1970年代になると環境問題が顕在化し,1975年には国立公園で初となる上高地マイカー規制が実施された.こうしたことによる登山停滞期を経て,1990年頃から中高年,とくにレートビギナー層による登山が卓越するようになった.これを受けて,定員数百人の大規模な山小屋では,調理用コンベクションオーブンやビールサーバーを導入するなど,更なるサービスの向上を図っていた.一方で,増加する登山者の環境影響やそれに伴う利用体験の悪化を最小限に抑えるため,無放流水洗トイレの導入や官民連携での登山道整備の取り組みなどが行われている.今後の登山者の質的変化により,地域に求められるものも変化するであろう.
著者
大津 拓也 澤田 康徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p><b>目的:</b>降水認識に関しては,これまで降水量に関する調査が主体で,防災上重要な降水量の空間的広がりに対する理解程度は明らかにされていない.降水量の空間的理解の深化には,降水量分布情報の活用が有効であり(島貫 1997),本研究では初等~中等教育段階における降水量分布情報の読図特性を明らかにする.</p><p><b>方法:</b>2017年6~7月に東京都内の小学校第5学年(97名),中学校第2学年(155名),高等学校第2学年(322名)を対象にアンケート調査を実施した.内容は,日本全国の降水量分布(8月)情報(段彩図および等値線図)について読図初見時に最初に着目した領域(着目域)と着目理由,さらに降水や気候に関する認識(天気に対する関心(5段階評価),最も印象に残っている雨に関する事柄(自由記述)などである.降水量分布情報の着目域は全400格子の着目域成分(有(1)無(0))に分け,それらに対してクラスター分析(Ward法)を施した.</p><p><b>結果:</b>着目理由の特徴は形式的なものと内容的なものに大きく分類できた.すなわち,形式-位置として居住地であること,図の中心であることや,形式-色として図内の着色が青(多い)/黄(少ない)であることなどがあげられた.また,内容-多寡として降水量の多さ/少なさ,内容-数値として降水量の値なども示された.着目域は8つに類型化され,関東挟域(Ⅰ),関東(Ⅱ),九州(Ⅲ),四国(Ⅳ),中部(Ⅴ),東日本,紀伊半島(Ⅵ),瀬戸内・関東(Ⅶ),瀬戸内(Ⅷ)である(図1).関東(Ⅱ)は着目理由が形式-位置(居住地)の割合が大きく(73.0%),天気に対する関心の上位得点(5・4点)割合が小さい(30.2%).一方,関東狭域(Ⅰ)の着目理由は内容-多寡(少なさ)の割合が大きく(55.6%),関心の上位得点割合も大きい(46.7%).また,四国(Ⅳ)は着目理由が内容-多寡(多さ)の割合が大きく(44.4%),関心の上位得点割合は小さい(25.9%).九州(Ⅲ)や中部(Ⅴ)は,着目理由が内容-数値の割合で大きく(15.6%や11.9%),関心の上位得点割合も大きい(40.3%や38.8%).瀬戸内・関東(Ⅶ)や瀬戸内(Ⅷ)は,着目理由が形式-色(少なさ)で上位得点割合が大きく(62.7%や51.5%),関心の上位得点割合も大きい(39.0%や39.5%).このように着目理由が形式-色および内容-多寡で割合が大きい場合,少なさに着目するタイプで関心の上位得点割合が大きい.また,内容-数値を理由とした割合が大きい九州(Ⅲ),中部(Ⅴ),瀬戸内・関東(Ⅶ)は自由記述において降水現象の仕組みに関する記述割合が大きく(10%以上),関心の上位得点割合も比較的大きい.なお,東日本,紀伊半島(Ⅵ)の下位クラスターで着目域が北海道の場合(12名),小学生の割合(58.3%)や形式的理由の割合(83.3%)が大きく,系列位置効果の関与が示唆される.一方,紀伊半島の場合(13名),着目理由は内容-数値の割合が大きく(23.1%),関心の上位得点割合も大きい(46.2%).さらに,着目域の分布箇所が重複しているⅠ・ⅡおよびⅦ・Ⅷの着目域の面積(S)は関東挟域(Ⅰ),瀬戸内・関東(Ⅶ)で小さい.この場合,内容-多寡(少なさ)の割合が大きいタイプⅠ,Ⅶで,着目域が限定的であった.等値線図では,中部(形式-位置)および四国(等値線の過密域:形式-線密度)に着目した頻度が高く,形式的理由が増大する.しかし,着目理由が内容-多寡(Ⅰ)や内容-数値(ⅢやⅤ)で割合が大きいタイプでは,等値線図においても内容的理由を記述した割合が大きい.すなわち,形式的・内容的な読図特性は図表現が異なっても維持される.対象者の読み取り方やその段階,属性に適応させた分布図情報や説明といった提供が極めて重要である.</p>
著者
佐竹 泰和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

1.研究背景と目的 <br>&nbsp; インターネットの登場とその普及に合わせて,情報通信技術へのアクセス機会に関する格差,すなわちデジタル・デバイドが問題として生じた.さらに2000年代に普及したブロードバンドは,技術的問題やインフラ新設のコスト問題からブロードバンドが利用できる地域とできない地域の間にある格差として地理的デジタル・デバイドを問題として生じさせた.この地理的デジタル・デバイドは,山村や離島のような地形的に整備条件が不利な地域に多くみられるが,人口低密地域にも存在する.そのため,地理的デジタル・デバイドは自治体単位ではなく,町中心部と周辺部というように,人口密度に応じてより細かい地区単位で現れる場合もある.本研究では,地区単位でブロードバンド環境が異なっていた事例として北海道東川町を取り上げ,ブロードバンド整備後の回線変更状況とコンテンツ利用状況から,ブロードバンド整備が住民のインターネット利用に与える影響を検討した. <br>2.研究方法 <br>&nbsp; 本研究では,住民のインターネット利用状況を把握するために,東川町の全世帯を対象としてアンケート調査を行った.アンケートは2011年8月に配達地域指定郵便で全世帯へ郵送し,配布数3,074通,回収数478通,回収率15.5%であった.2010年国勢調査によると,東川町の世帯数は2,983世帯であるため,国勢調査の世帯数をベースとした場合,回収率は16.0%となる. <br>3.ブロードバンドの整備<br>&nbsp; 東川町全域でブロードバンドが利用可能になったのは,2008年のNTT東日本による光ファイバー整備と2011年の東川町による光ファイバー整備によるものだった.光ファイバー整備以前のブロードバンドは,町の中心部でADSLが利用できるのみであり,町の周辺部はISDNやダイヤルアップといったナローバンドしか利用できない(ブロードバンド・ゼロ)地区であった.2008年の整備では主な整備地域が町中心部であり,ブロードバンド・ゼロ地区は解消されなかったため,その対策として東川町が光ファイバー未整備地区すべてに光ファイバーを整備し,2011年2月以降に各地区で順次ブロードバンドが利用可能となった.したがって,インターネット接続に関して光ファイバーは,東川町共通の情報通信基盤となったのである.<br>&nbsp;4.結果の概要 <br>&nbsp; アンケート回答世帯のうち,インターネットを契約している世帯は67.5%であった.さらにインターネット利用世帯のうち,インターネットの契約回線をみると, FTTH(光ファイバーによる通信)を利用している世帯は52.8%,ADSLの利用世帯は35.2%である一方,ISDNやダイヤルアップ回線を利用している世帯は5.0%であった.ブロードバンド整備前後のインターネット回線の変更状況をみると,中心部ではADSLからFTTHへの変更が多いのに対し,ブロードバンド・ゼロ地区があった周辺部では,ナローバンドからFTTHへの回線変更が目立っていた.このように,2008年と2011年に整備された光ファイバーは,ブロードバンド・ゼロ地区の住民にブロードバンド利用を促し,町全体でもインターネット利用者のうち過半数が利用する情報インフラとなったのである. また,インターネットの契約状況を世帯主の年齢でみると,高齢になるにつれてインターネット契約率が下がっており,特に60歳以降で利用率の低下が顕著であった.回線の契約状況をみると,高齢世帯主ほどFTTHの新規契約が目立ち,インターネットの回線変更は少なかった.さらに,世帯主の年齢別にコンテンツの利用状況をみると,「ウェブサイト閲覧」は,「ネットショッピング」のようなコンテンツは,全体として高い利用率を示したものの,高齢世帯では,ネットショッピングの利用率が相対的に低く両者の利用率に大きな違いがみられた. このことは,高齢世帯主においてFTTH新規契約が多くみられたことに結びつく.すなわち,高齢世帯主はインターネット利用暦が浅く,ウェブサイト閲覧のような基礎的利用はできるものの,それ以上の利用には至っていないのである.したがって,ブロードバンドの整備は,ブロードバンド・ゼロ地区の対策だけでなく,町内の高齢者のインターネット利用にも影響を与えたといえるが,高齢者のコンテンツ利用率は低いことから,単に回線契約を進めるだけでなく,高齢者が関心を持つコンテンツを把握し,その利用方法を伝える仕組みを整える必要があると考えられる.
著者
香川 貴志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>本報告は、地理学が都市復興において果たせる役割を都市地理学の観点から提案したものである。都市復興の際には都市計画法に基づいた用途地域指定が基盤となる。旧来の用途地域指定は二次元的に地表を区分するものであったが、津波被害からの復興を視野に入れると三次元的な観点が必要である。用途地域指定に際しては、自然地理学研究者が数値標高モデルを活用して作業に関与し、人文地理学研究者が私権制限を最小限にするために参画すべきである。こうした取組が地理学のプレゼンスを一層高めることになるだろう。</p>
著者
大石 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.32, 2006

複数の言語集団が存在する地域では、多くの場合人口規模に対応する形で優勢な言語と劣勢な言語が存在するという状況が形成されやすい。そして、劣勢な言語を母語とする集団の構成員が優勢な言語を習得し、二言語話者になることが多くみられてきた。 カナダは、複数の言語集団が居住する地域の一例であり、具体的には、多数を占める英語を母語とする住民(英語系住民)に対して、フランス語を母語とする住民(フランス語系住民)が少数言語集団として存在してきた。その当然の帰結というべきか、カナダでは言語社会研究が非常にさかんであり、地理学はそこに一定の地位を占めている。そして、言語の社会的側面に関心を寄せる地理学的研究を意味する地言語学(geolinguistics)という名称も、人口言語学(demolinguistics)と並んで一般的になりつつある。 ところで、英語系住民が多数を占めるカナダにおいて、あるいは南の巨人アメリカ合衆国とあわせれば英語が圧倒的に優勢な北アメリカにおいて、フランス語系住民が8割以上を占め、1970年代よりフランス語のみを州の公用語とするケベック州はかなり特殊な存在である。そこで、ケベック州に居住する英語系住民は国家スケール、あるいは大陸スケールでは圧倒的多数派ながら、州スケールでは少数派という複雑な立場におかれている。それでも、「静かな革命」とよばれる1960年代の政治的・経済的・社会的変化と、それに続くカナダからの独立派政党の台頭までは、数の上では少数ながらも、英語系住民の地位が脅かされることはなかった。というのも、カトリック教会の強い影響力の下で、フランス語系エリートが政治を支配し、当時のカナダにおける経済の中心地モントリオール(モンレアル)に住む英語系エリートが経済を掌握するというすみわけがなされていたからである。モントリオールの英語系エリートがいかにフランス語を無視できたかということは、1958年にモントリオールのダウンタウンに建設された鉄道会社系の高級ホテルが多くの反対を押し切って「クイーンエリザベスホテル」と名づけられたことからもうかがわれる(Levine 1990)。しかし、カナダからの独立を目指すケベック党が勢力を強め、ついに政権を奪取してフランス語の一言語政策が強硬に進められるようになった1970年代後半以降、大企業の本社のトロントなどへの移転が相次ぎ、それに伴って英語系住民のケベック州からの流出が顕著にみられた。そのため、2001年センサスによればケベック州において英語を母語とする人口はわずか7.9%にすぎない(単一回答のみ)。そして、現在ケベック州に居住する英語系住民は、とくに若年層を中心にフランス語を習得して二言語話者となる場合がふつうになりつつある(大石 2003)。ケベック州の英語系住民に関する研究は、さまざまな分野においてかなりの蓄積がある。しかし、英語系住民がケベック州の言語環境にどのように適応してきたのかは十分に解明されているといえない。そこで本報告では、報告者が実施した聞き取り調査に基づいて、モントリオールにおける人口言語学的状況と英語系住民の生態を明らかにすることを試みる。
著者
山田 真広
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

コンビニ・スーパー・通信販売といった様々な小売業態の登場に伴う消費者購買行動の多様化,規制緩和やモータリゼーションの進展などに伴う大型店の売場面積拡大と郊外化の進展などにより,地方都市における中心商業地の求心力低下が問題となっている.その結果,日用食料品の入手に困難をきたす「買物難民」層の出現や,都市の個性がない画一的な景観の出現といった問題が発生している.本研究は,人口10万規模の地方都市である静岡県三島市を事例に,地方都市内部における消費者購買行動を時系列で分析し,その変化の要因を明らかにすることを目的とした.その研究手法として,三島市の中心市街地・市街地縁辺部・郊外部に居住する高齢者を対象に,食料品(鮮魚)と買い回り品(革靴)についての購買行動を,40年前・20年前・現在の3時期別に尋ねることにより把握した.アンケートの内容は,普段利用している(いた)店舗とその利用理由や,店舗までの交通手段などについてとした.得られた結果からは地域別・商品別に,購買先・購買距離・交通手段の変化などを把握した.購買距離についてはGISにより,道路距離解析を用いて算出した.さらに,利用店舗の場所を目的変数,居住地・交通手段・店舗の利用理由などを説明変数として数量化2類による分析を行い,各時期別・商品別にみた,店舗の選好理由を導き出した.研究で分かった事実を要約すると,食料品(鮮魚)については,①購買距離は中心市街地・市街地縁辺部・郊外部の3地区とも時代とともに増大し,中心市街地に比べて郊外部の方が3.6~6.8倍増大している.②買物先を規定する要因には,居住地域や交通手段(徒歩・公共交通機関・自家用車)が大きくかかわっていることから,店舗への近接性が重視されている.それに加えて中心市街地の店舗の利用者は,サービスの質や顔なじみかどうかなどが重視されている ことなどが明らかになった.買い回り品(革靴)については,①購買距離の地域的差異は日用品ほどは認められず,消費者の多くが40歳代~60歳代であった時期(20年前)の購買距離が最も長かったことから,居住地や購買距離よりも消費者の年齢や職業といった個人属性が購買先を規定していると考えられる.②三島市内の店舗か市外の店舗(沼津市・静岡市・東京都など)を選択する要因は,以前は利用する交通手段や品質・サービスの良さが,現在は価格や顔なじみかどうかが大きく関わっていると考えられる.さらに,三島市内の中でも中心市街地の店舗を選択する場合も,同様の要因が関わっている ことなどが明らかになった.
著者
箸本 健二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

地方都市の中心市街地における大型店の撤退問題は,1990年代の半ばから顕在化するようになり,その後,全国的に拡大しつつある.こうした店舗の廃店・撤退は,小売業やその経営に深く参画する金融資本の立場からすれば致し方のない事業縮小であり,経営の合理化のために不可避と位置づけられている.しかし,地方都市の視点に立てば,中心市街地のランドマークであり,集客施設の核となってきた大型店の撤退は,中心市街地の求心力低下をもたらすだけでなく,小売販売額の争奪をめぐる都市間競争からの脱落に直結しかねない.このため,大型店の跡地問題は,深刻な商店街の地盤沈下と相俟って,地方都市が直面する喫緊の課題となっている.本研究は,このような状況をふまえ,地方都市における大型店撤退の実態を整理するとともに,跡地利用が直面している課題や行政の政策的対応を明らかにすることを目的とする. 本研究では,中心市街地に大型店が立地する可能性を持つ市町村合併前(1995年)人口20,000人以上の自治体(もしくはこれらを含む合併自治体)を対象に,1)1995年~2011年の間の大型店撤退事例の有無,2)事例ごとの撤退経緯の詳細,3)撤退跡地の現況,4)大型店撤退・跡地利用に関する政策的対応,5)国の中心市街地活性化政策との連携,などを主な質問項目とするアンケート調査を実施した.アンケート調査は,平成24年2月に全国849市町村を対象として郵送留置方式で実施し,626自治体から有効回答を得た(回収率73.7%).分析の結果,1)中心市街地に大型店が立地する自治体の約半数で大店法規制緩和(平成2年)以降に大型店の撤退が見られること,2)大型店の撤退が中心市街地の吸引力低下に直結する事例が多いこと,3)複雑な権利関係や負債の影響で撤退跡地の再利用が遅れる事例が多く,中心市街地の活性化に深刻な影響を与えていることなどが明らかとなった.口頭発表では,より詳細な調査結果に基づき,大型店撤退の実態と跡地利用が直面する課題を検討する.
著者
加藤 ゆかり 小室 譲 有村 友秀 白 奕佳 平内 雄真 武 越 堤 純
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

1.研究背景と目的<br>地方中心市街地では,店主の高齢化や後継者不在による求心力低下に伴い,その打開策として自治体主導の中心市街地活性化に向けた方策が講じられている。他方,近年の地方移住の背景には,充実した「移住・定住促進策」を背景に,進学や就業を機に大都市圏に流出したUターン者や多様な理由で移住するIターン者が存在する(作野,2016)。本報告では,こうした開業者による店舗開業や社会ネットワーク形成が商店街の新たな持続性となり得るのかを長野県伊那市中心市街地における事例から検討する。<br><br>2. 結果と考察<br>1) 新規開業者による店舗展開<br>長野県伊那市は,行政主導による空き店舗活用促進や移住者に対する創業支援のための補助金交付事業が講じられている。その結果,中心市街地において新規店舗の開業が相次いだ(図1)。開業者は主に市内出身のUターンや大都市圏出身のIターンであり,移住前の就業経験などを通じて得られた経験や知見を基に,新たな業種・業態の店舗を展開している。<br><br>2) 開業者ネットワークの形成<br>前述の新規開業者の一部は,強力なリーダーシップの基,と中心市街地活性化に向けた自らの方策を基に,賛同する近隣店舗にに共有することで,中心市街地内において社会ネットワークを形成している。例えば,「ローカルベンチャーミーティング」では,創業塾の開催を通じて近隣地域内店舗の経営方策や新規店舗開業について支援している。また,「いなまち朝マルシェ」においては発案者の緻密な計画の下,近隣の開業者が自らの技術,経験を集約することで運営に携わり,近隣の地域内店舗が出店する新たな集客機会を創出している。これら2つの社会ネットワークが中心市街地の持続性に向けた,新たな基盤となっている。<br><br>3) 持続性の考察<br>前述の開業者ネットワーク成立の背景には,行政の創業支援体制や商工会主体の既存店舗間ネットワークが関連している。また,これらのネットワークへの関与は活動指針に賛同する近隣地域店舗住民により構成されるものの,中心市街地の持続性へ寄与していることが指摘できる。それらの個別の開業者ネットワークの事例については,当日報告する。<br><br>文献 作野広和 2016.地方移住の広まりと地域対応――地方圏からみた「田園回帰」の捉え方.経済地理学年報62: 324-345.
著者
坂本 優紀 池田 真利子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>1.研究背景と目的</p><p></p><p> 観光庁の政策と関連し,東日本大震災後よりインバウンド観光客数が増加していることは周知の事実である.2020年にはインバウンド観光客数4,000万人を目標に掲げ,また国内旅行消費額における同割合が2019年で17%に達している現状を考慮すると,観光産業における比重は大きい(矢ケ崎2020).こうしたインバウンド観光客を対象に,近年,観光庁が積極的に取り組んできたのが夜間経済支援事業である.「夜間帯を活用した観光コンテンツの造成」(2020年3月)では全国13事業体の取り組みが報告されたが,その多くは東京を中心とした都市部で実施されている.夜間経済に関しては都市部と地方部の格差が指摘されており(池田2017),こうした事業が今後さらに地方部へと拡大していくことが期待される.そこで本発表では,現在までの観光動態を踏まえつつ,地方部におけるインバウンド観光客の動向を夜間経済の実態とともに捉えることを目的とする.その際,インバウンド観光客増加に伴う地方の経済再編の鍵としての音楽に着目する.</p><p></p><p>2.インバウンド観光客の動向</p><p></p><p> 2019年の都道府県別インバウンド観光客の割合を日本政府観光局統計資料で確認すると,東京都(28%),大阪(16%)と都市圏が多い.一方,三大都市圏を除いて集計すると,北海道(24%),沖縄県(16%),福岡県(11%)と続く.観光客の国籍別割合ではアジア地域が多く,それ以外はアメリカとオーストラリアからの観光客が多い.国内の訪問地域は国籍別に異なる傾向を示しており,本発表で注目するオーストラリア人観光客は,北海道(32%)と長野県(15%)が多い.北海道と長野県が上位となる理由として,冬季のウィンタースポーツ需要がある.彼らは,冬季のみ来日し,スキー場周辺で長期滞在することから,スキーやスノーボードを楽しむだけでなく,アプレスキー(スキー後の観光アクティビティ)としてナイトライフも重要視する傾向がある.特に冬季にオーストラリア人観光客が来訪する地域では,海外地域と同様に夜の飲食店が集積し,音楽関連施設(クラブおよびライブバー)の立地もみられる.他方で,ウィンタースポーツの特性と併せて,地方の夜の観光コンテンツは季節性の高いものが多く,ホスト社会である地域社会との関係性において検討の余地がある.</p><p></p><p>3.白馬村における夜間経済と音楽</p><p></p><p>白馬村資料によると,2019年の村内外国人旅行者延宿泊数は約28万人であり,国別ではオーストリアが約60%と過半数を占める.月別では1月(41.7%),2月(34.4%),3月(8.7%),12月(7.5%)と,年間旅行者数の92.3%が冬季に集中する.特にオーストラリア出身者の訪問は2005以降に顕著に増加した.白馬村のクラブやライブバーは,オーストラリア人観光客の訪問を機に始まったと考えられ,リゾート開発された「エコーランド」およびその周辺に分散して立地する.そこで,本シンポジウムでは,現地・オンライン調査に基づき,クラブやライブバー等の音楽関連施設の立地状況や営業形態を報告し,白馬村のゲスト社会においてそのインフラが支えられる夜間経済の実態を通常であれば旅行者数が大幅に減少する夏季の運営状況とともに報告する.目下,COVID19により冬季観光の先行きが不透明ななか,ホスト社会の観光ディスティネーションとしての重要な意味を担っていたウィンターリゾートが地域としてどのような戦略を取るのか,あるいは音楽を通して地域が日本人および外国人社会といかに関連し,新しい経済を形作るのか,当日はフィールド調査と事例報告に基づきながら既存の枠に囚われずに議論を展開する。</p><p></p><p>文献</p><p></p><p>池田真利子2017.世界におけるナイトライフ研究の動向と日本における研究の発展性.地理空間10(2):67-84.</p><p>矢ケ崎紀子2020.訪日外国人旅行の意義・動向・課題.国際交通安全学会誌45(1):6-17.</p>
著者
伊藤 徹哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>本研究は,ドイツ・ミュンヘン大都市圏を事例として,交通インフラの整備の特徴を道路網と鉄道網の整備に着目して分析し,ヨーロッパにおけるモビリティの持続的発展の特徴を明らかにすることを目的とする。ヨーロッパでの交通インフラの整備の特徴を欧州連合EUのEurostat HPでの統計データを用いて概観した後,ミュンヘン大都市圏での交通インフラ整備の特徴を統計の分析に基づいて,モビリティの維持・拡大の特徴を考察する。</p><p> 分析の結果,ヨーロッパでは,ヨーロッパ内外を結ぶ世界的な移動,EU域内の移動,主要都市間の移動,日常生活圏の移動など,異なる空間スケールで交通インフラが有機的に整備されていた。また,ミュンヘン大都市圏におけるインフラ整備では,高速道路網や,高速道を補完する州道や自治体道路の整備がすすむ。都市間の高速鉄道網や,大都市圏内での都市部と周辺地域を結合する中・近距離鉄道網が,継続的に廃止や整理されている。交通インフラの整備を通じ,都市圏内,主要な都市間,国際的な地域間などの様々な空間スケールでモビリティが持続的に発展していた。</p>
著者
久島 裕 伊藤 悟 鵜川 義弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

ARシステムの活用を試みた本授業では、観光ルートの策定をテーマとした。すなわち、生徒自身が市役所の観光課に勤務しているものと仮定し、市外から来た観光客向けの観光マップに記載する観光ルートを考案することとした。当日の参加者は高校生2人1組のペア3組と指導する教師(授業者)1名である。<br> 授業者が各組共通に指定した3か所の観光スポットを結ぶルートの策定を求める一方で、「安全性(見通しのよさ、交通量、迷いやすさ)を意識したルート」、「商業性(観光客による商店の利用期待)を意識したルート」、「景観性(風情のある小道、歴史的な建物、自然)を意識したルート」のように、組ごとに相異なるテーマを意識しながらルート策定を行なうものとした。<br> 実施場所は高校から近い武生駅前商店街とその周辺である。上記で指定した3か所の観光スポットを含めて20か所近くのスポットをコンテンツとしてシステムに組み込み、それらの位置がエアタグで表示されるようにした。<br> 授業は60分の間に、まず、全員が一緒に出発地点からjunaioを使って歩き始め、3つの観光スポットの位置をエアタグでたどり、各地点に到着できたら紙の地形図に場所をチェックした。三つ目の観光スポットの位置を紙地図上でチェックできた後は各組に分かれ、タブレット内のエアタグと、周囲の様子を確認し合いながら観光ルートを思考、議論しながら回った。その際、ルート策定において重要と思われる要素(建物、道路、その他)があれば、タブレットを利用して撮影を行うこととした。 終了5分前までに出発地点に戻り、各組で考えた観光ルートを紙の地形図に赤ペンで書き込んだ。<br> ARシステム活用の効果としては、(1) 紙の地図と違い、画面を通して実際の様子を把握できるため、テーマに即した思考・判断が可能、(2) 紙の地図では城下町の街路形態から道に迷いやすいが、目的地の「方向」や「距離」を把握しやすい、(3) 調査時の生徒の楽しそうな様子から、生徒の関心・意欲の向上には大きく寄与した、などが考えられた。
著者
大西 宏治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

地形図を読図し、地形図上の事象と眼前の景観を対照させて地域を観察することができる技能を育てることは重要である。しかしながら、地形図を読図することは教室の中でできても、景観と対照させる機会をもつことは難しい。また、地形図と景観を対照させる題材をみつけ、生徒を景観の広がるところに連れ出しても、一斉授業で行おうとすると次のような問題が生じる。眼前の景観と地形図とを対照させることを教示することがそれほど容易ではないことである。教室内の読図では地域の状態がそれなりに理解されているにもかかわらず、目の前に広がる風景と地形図がすぐには比べられず、その指導に多くの時間がとられてしまう。このような問題を解決することができるのがAR(拡張現実)を用いた地形図読図の授業である。今回用いたソフトウエアJunaioはスマートフォンやタブレット上で動作するものである。GISとGPS機能と連動し、あらかじめデジタル地図上に緯度経度で地点を登録すると、スマートフォンなどを景観に向けるとエアタグで登録した地点を景観上に示してくれる。この機能を活用することで、生徒に地形図の読図結果を景観上に確認する指導が容易になる。この機能が授業でどの程度有効で、どのような活用が可能なのかを実験授業を通じて検討することが本報告のねらいである。実験授業は富山高等専門学校商船学科および国際ビジネス学科の1年生(商船学科41名、国際ビジネス学科52名)を対象に実施した。高等専門学校1年生は学齢的には高等学校1年生と同等である。授業は必ずしも学習指導要領に縛られるものではないが、高等学校地理Bの教科書を利用しながら「地理」の授業を行っている。1授業が90分間である。授業テーマは放生津潟の開発と土地利用変化と設定した。放生津潟の大規模開発による富山新港設置について検討する授業を実施する。地形的な特徴と土地利用の変化を考えるためにAR技術を援用する。特に地盤高をARで確認し、大規模改変の詳細を考える授業を実施した。授業は次のように実施した。授業は連続して3時間ではなく、前期に1、2回、後期の3回目を実施した。<br>第1回:海岸地形に関する授業、第2回:放生津潟周辺の地形図の新旧比較、第3回:ARを用いた景観と地形図の比較、である。射水キャンパスは富山新港に近く、学校周辺の土地利用変化やその意味を考えることにつながる授業である。このキャンパスには商船学科があり、展望塔が設置されている。そのため、北陸の冬季の悪天候の中でも屋内から景観と地形図を比較する授業が実施できる。特に第3回の授業について記述する。授業の冒頭10分でAR技術とJunaioの使い方を説明した。次に端末数が限られるため、各クラスとも14名ずつに分け、展望塔に移動し、そこで地図と景観を比較する授業を実施した。教室に残る生徒には、本授業に関するワークシートの作業をさせた。<br>(1)新旧地形図上にエアタグの位置を記入、(2)新旧地形図から新たに造成した地域を確認、(3)工場の立地地点の特色の検討。授業を実施した結果から、生徒たちは地図とARでわかる情報を組み合わせることが容易にでき、地域の理解が進んだという感想が多く見られた。また、ARを利用したのち、地形図の理解が進んだというものも見られる。授業にAR技術を活用することで景観を利用した地理授業が一定程度効果的に実施することができることがわかった。しかしながら、機器の利用についていくつかの課題がある。たとえばデジタルコンパスはあらかじめ十分に準備しないと利用できない。また、景観と地図を対応させる十分に効果的な課題を授業で設定できるのかという点である。これらについてさらに検討が必要である。<br>
著者
堤 純 鵜川 義弘 福地 彩 伊藤 悟 秋本 弘章 井田 仁康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

本ポスター発表は、今大会で同じ題目のもとにシリーズで行った2つの口頭発表と連動し、石川県金沢市の卯辰山麓寺院地区を対象に構築したARシステムについて、タブレット端末を用いた実物のデモンストレーションを行いながら、その機能と特長を紹介し、地理教育への応用の可能性を検討するものである(ポスター発表のコアタイムにデモンストレーションを実施予定)。<br>口頭発表において取り上げなかったいくつかの機能のうち、実際に野外での活動時に有効な機能の1つとして、ブログとの連携を挙げることができる。ブログと連携することにより、スマートフォンやタブレット端末のみならず、パソコンを含めた多様なデバイスから、各自のIT環境に左右されずに情報にアクセスできるため、教師や生徒が野外か屋内かを問わずに情報を閲覧できる上、様々な情報を書き込むこともできる。 今回は、全体を1つのブログとして、1寺院に1ブログ記事を対応させ、記事本体(図1)は教師が作成し、そのコメント(図2)は生徒が寄せるものと想定した。いずれも、テキストの書き込みとともに、画像の投稿もできる。本システムによる作業のフローは以下の①~④のようになる。<br>①ARにより端末画面に表示されたエアタグに着目&rarr;②AR内での当該寺院の説明文を(野外で)閲覧&rarr;③ブログ記事へジャンプ&rarr;④上記記事へのコメントを入力、閲覧<br>上記のフローのうち、④の行程として、教師が用意した情報を一方通行的に見せるだけでなく、ブログ上でコメントの投稿・返信を通じて情報を双方向にやりとりできる点も、地理教育上の効果が大きいと考えられる。 また、投稿されたコメントの掲載許可の権限を教員がもつことにより、ブログシステムへの投稿内容の管理が可能である。こうして掲載されたコメントはキーワードごとに、ブログの1つのタイムライン上に掲載されるため、閲覧や検索が容易である。これらのコメントが記載され、一般に公開されることは生徒の励みにもなり、地理教育上のメリットも期待できる。<br>
著者
田上 善夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.100151, 2011

1.&nbsp; はじめに<br> 近年強風の出現とそれに伴う風害の増加がみられる。そこでは地域的に大被害を生ずる一方,被害の少ない地域もみられる。風は地域差が大きく,局地的強風にみられるように山地や谷などの地形の影響が大きい。さらに台風のように規模の大きな擾乱でも,風向と地形の影響で,強風出現に地域差が大きくなると考えられる。ここでは日本列島における近年の顕著な強風について,その出現の傾向や地域性の解明を試みた。<br>2.&nbsp;強風の出現傾向<br>&nbsp; 顕著強風日の出現は,34年間にも出現に大きな経年変動がみられる。1979年,1991年,2004年にピークとなり,その前後にも多い。さらに日別に全国の顕著強風日出現地点総数を集計すると,出現地点数がきわめて多い,すなわち広域に強風が現れる日があることが示された。その上位事例での強風地点分布からは,強風は近隣同士とは限らず遠隔地点同士にも類似の出現傾向のあることが示された。この地点間での強風出現の類似性を明らかにするため,まず日本列島の全アメダス地点間で,顕著強風日の出現について一致係数を求めた。それにもとづき,中央日本付近の地点について,クラスター分析を適用して分類を行った。その結果大きく2タイプに分かれ,A型は太平洋側に多く、B型は日本海側に多い。ただし,周辺域とは異なる型に属する地点があり,たとえばA2型は日本海側の富山湾や若狭湾周辺,岡山県奈義,滋賀県南小松などに現れる。<br>3.&nbsp; 強風出現の要因<br>&nbsp; この顕著強風日出現の遠隔地同士での関係について,事例日から分析を行った。2011年5月29日には,台風2号が南岸沿いに東進し,中部地方から西ではとくに強風となった。この日には岡山県奈義,兵庫県神戸,滋賀県南小松などでは著しい強風となった。これらの地点はいずれも背後に山地を控え,当日の風向に対して山地の風下に位置しており,広戸風,六甲おろし,比良おろし(比良八荒)などの局地的強風群が各地に発生したと考えられる。一方,富山県魚津などでは,周辺地点が強風となる時間帯には風速が極めて弱くなった。周辺地点の風向からは北アルプスの風陰に入ったことが考えられる。このように吹走範囲の限定された局地的強風や局地的弱風が,広域内の各地に同日に出現することは,大規模場での大気の状態のもとで,地域的な要因が強風発生に大きくかかわることを示すと考えられる。
著者
倉光 ミナ子 福田 珠己
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>1. はじめに</b></p><p> アジア女性資料センター(2020)はCovid-19と呼ばれる新型ウィルスの感染拡大が社会において、より弱い立場に置かれている女性や子どもたちに多大な負の影響を及ぼす可能性を指摘し、ジェンダー視点に基づいたCovid-19の影響を分析・考察し、それに基づいた提言を行う重要性を論じている。Covid-19のさらなる感染拡大を防ぐために、多くの先進諸国では「Stay at home」(日本では「#Stay home」や「#うちで過ごそう」)という呼びかけが行なわれ、それに基づき、様々な政策が展開されてきた。「ホーム(home)」の重要性については、1970年代には人文主義地理学の立場から主張されていたが、学際的な潮流ともかかわりながら「ホーム」の地理学研究が本格化したのは、1990年代以降、フェミニズムの影響を受けてからのことである。Covid-19の下で突如として現れた「ステイホーム」は何をもたらすのか。フェミニスト地理学の視点から考察・分析することは必要不可欠であると考える。</p><p><b>2.Covid-19によって再確認された点</b></p><p> 2011年の東日本大震災の折に、災害や危機というものが、第一に「平常時からの意思決定における女性の不在や、社会的・経済的なジェンダー不平等が、危機への対応において強く現れ、危機が過ぎ去ったあとにも、女性・少女の権利に長期的に影響をおよぼすこと」(アジア女性資料センター 2020)、第二にもともとそこの地域が抱えていた問題を先鋭化あるいは深刻化させることが指摘されている。同様のことは「ステイホーム」においても確認される。</p><p> まず、先進諸国政府等が「ステイホーム」と呼びかけた際には、フェミニスト地理学が批判してきたように、「ホーム」に暗黙のうちに「両親と子どものそろっている温かい家庭」(異性愛カップルによる家庭、近代家族)や「居心地のよい空間」というイメージが付与されていた。イメージの一面性や、これらがもたらす違和感は、企業やインターネットが使用したロゴ、特別定額給付金が世帯主に支給されたこと、そして、ホームレスや非正規就労者で仕事ともに住処を失った人や、家に帰ることのできない少女たちが行き場を失う報道からも明らかだろう。</p><p> 次に、先進諸国、とりわけ都市の「ホーム」が公私二元論に基づく、「プライベート」、「ケア」の空間であり、その管理・維持がたいてい女性によって成り立っていることである。2020年2月末の日本政府による全国一律の一斉休校や在宅勤務により「ケア」を一手に引き受けざるをえなかった女性たちの嘆きや怒りは様々なところで報道された(その一方で、狭い自宅では仕事ができず、車の中でオンライン会議に参加する夫の話もある)。</p><p> さらに、フェミニスト地理学が指摘してきたように、「ステイホーム」は、ホームが誰にとっても等しく安全な場所でないことも明らかにした。</p><p><b>3.さらなる「ホーム」の展開へ向けて</b></p><p> 「ステイホーム」はすでにフェミニスト地理学が論じてきた点だけでなく、さらなる「ホーム」の展開の可能性を示している。「ステイホーム」を通して、だれもが「ホーム」の意義を再考し、これまでの公私二元論や異性愛規範に基づいた「ホーム」とは別の次元の「ホーム」が想像され、つくられるのか、今後に期待したい。</p><p><参考文献リスト></p><p>アジア女性資料センター 2020.COVID-19とジェンダー: 分断と差別ではなく権利と連帯にもとづく対応を.http://jp.ajwrc.org/3808(最終閲覧日2020年7月17日)</p>
著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

本研究は,「映画のまち」と呼ばれる広島県尾道市と映画とのかかわりについての全国的な認知状況,さらに尾道市における映画を活用したまちづくりに対する認識を把握,整理したものである。<br> 旅行先を決定する際に参考とするメディアについて尋ねたところ(MA),「旅行雑誌」が最も多く(38.3%),「テレビ旅番組」(33.2%),「知人・友人からのクチコミ」(24.3%),「旅行代理店パンフレット」(21.9%)が続いた。テレビ旅番組以外の映像メディアは「テレビCM」が10.1%,「映画」が9.1%,「テレビドラマ」が6.6%となり,一定の情報源となっている状況が確認できた。 これに対して,実際に映画やテレビドラマで映し出された場所や作品の舞台となった場所を観光で訪れたことのある者(フィルム・ツーリスト,以下「FTs」)の割合は回答者全体の38.3%に達した。年齢や性別による違いは確認できないが,近畿と関東以北の居住者,および映画鑑賞本数の多い者ほど,その割合が大きくなる傾向が認められた。FTsのうち直近5年以内にそうした観光を行った者は72.1%で,そのうち90.5%が個人で,14.8%が団体で旅行している。 個人旅行の訪問先をみると,国内では北海道が最多で(25件),長野(9件),東京(8件),京都(6件)などが続いた。北海道は映画「北の国から」「幸せの黄色いハンカチ」のロケ地を訪ねた者が,長野はNHK大河ドラマ「真田丸」やNHK連続テレビ小説「おひさま」の舞台を訪ねた者が多い。外国のロケ地等を個人で旅行した者も18件と多く,国別にみると,「千と千尋の神隠し」の舞台といわれる台湾,「ローマの休日」ロケ地のあるイタリアを旅行した者が比較的多い。団体旅行でも,個人旅行と同様に,外国(11件)と北海道(6件)を訪ねた者が多かった。<br> 尾道市が「映画のまち」と呼ばれていることの認知状況を尋ねたところ,「知っている」と回答した者は26.6%であった。年齢性別では40~50歳代の女性が,居住地では中国・四国と関東の居住者が,また映画鑑賞本数が多いほど,「知っている」と回答した者の割合が大きかった。 尾道でロケが行われた映画等(以下「尾道ロケ映画」)を鑑賞したことがある者の割合は59.2%であり,作品別にみると,「時をかける少女(1983年)」が37.3%,「てっぱん(NHK連続テレビ小説,2010年)」が19.0%,「転校生(1982年)」が18.4%,「男たちの大和/YAMATO」が17.3%,「東京物語(1953年)」が10.5%と1割を超えた。年齢別にみると,60歳以上は「東京物語」を,40~50歳代は「時をかける少女」「転校生」などの大林宣彦監督作品を鑑賞した者の割合が大きく,「てっぱん」は年齢の高い女性ほど鑑賞率が高まる傾向がみてとれた。なお,男女とも20~30歳代において尾道ロケ映画を鑑賞したことのない者の割合が他世代と比べて20%以上高い結果となった。また,それらが尾道でロケが行われたことを知っている者は35.9%にとどまった。 次に,尾道市で行われている映画関連活動の認知状況を尋ねると,いずれかの活動を知っている者は回答者全体の14.4%にとどまった。活動内容別にみると,「大林宣彦監督作品ロケマップ」が最多で(6.8%),その他は「おのみちフィルム・コミッション」3.5%,「シネマ尾道(NPO運営映画館)」2.9%,「おのみち映画資料館」2.5%と低率にとどまった。また,「大林宣彦監督作品ロケマップ」を知っている者は40歳代,「おのみち映画資料館」を知っている者は50歳代以上が中心で,20~30歳代はいずれの活動も知らない者が多かった。<br> 尾道に観光目的で訪れたことのある者は19.2%で,そのうち「映画のまち」と知ったうえで訪れたことがある者は5.4%,「映画のまち」と知らずに訪れたが訪問後にそのことを知った者が3.9%,「映画のまち」と知らずに訪れ訪問後もわからなかった者が9.5%であった。 また,尾道市で開催されれば参加したいと考える映像関連イベントを尋ねたところ,「映画より他の観光施設等を楽しみたい」と回答した者が21.6%と最多であったが,「ロケ地訪問ツアー(マップ配布・個人)」が19.2%,「ロケ地訪問ツアー(ガイド付・団体)」が13.8%,「尾道ロケ映画愛好者による交流会」が10.1%など,映画鑑賞本数の多い者や20~30歳代の女性を中心に,映画関連イベントに対するニーズの存在も一定程度確認できた。
著者
阿部 亮吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.128, 2004

I はじめに<br> 日本における外国人労働者の歴史上,1980年代以降のアジアからの移住労働者,いわゆるアジア系ニューカマーの増加は,どの研究分野においても一つの大きな現象として認識されてきた.しかしながら,特に地理学ではかれらを視野におさめた研究が,管見の限りいまだ数少ない.もちろん,そのなかでもアジア系ニューカマーを代表する存在として語られてきたフィリピン人女性エンターテイナーへの視座も欠いたままとなっている.<br>本国フィリピンでダンサー/シンガーとしての資格を取得し興行ビザを有して来日するエンターテイナーたちの多くは,通称フィリピン・パブと呼ばれる風俗営業店にて就労する.フィリピン・パブとは,エンターテイナーが歌やダンスといったショーの主役として演出される店舗のことであり,顧客のたいていは日本人男性であるような,さまざまに差異化された空間である.このエンターテイナーと夜の盛り場のもつイメージが強烈なインパクトをもっていたがゆえに,彼女らが1980年代以降のニューカマーを代表する存在として認識されてきたとも考えられるが,エンターテイナーの来日は2000年代に入っても減ずることなくむしろよりシステム化されたかたちでとり行われ,全国諸都市の夜の盛り場における重要な主体となりつづけている.<br> 本発表では,こういったフィリピン・パブにおいて,特にエンターテイナーをとりまく重要な社会関係の構成主体とみなすことのできるパブ顧客が,彼女たちをどのように眼差しているのかを主題としてとりあげたい.<br>II 研究の資料<br> 本発表では,検索エンジンYahoo!Japanに「フィリピン・パブ」で検索をかけて得られた4つのフィリピン・パブ総合情報webサイト,フィリピン・パブやエンターテイナーについて著された出版物などから,パブ顧客のエンターテイナーに対する言説を拾い出すこととする.こういったメディアを通じた言説は,パブ顧客によるエンターテイナーへの眼差しを形成する重要な要素となっていると考えられる.<br>III エンターテイナーの表象<br> パブ顧客の言説は,大きくはエンターテイナーの「性格」と「身体」に関するものに分けられた.それら言説資料の整理から,エンターテイナーの表象にはいくつかの傾向が指摘できる.「性格」については,感情的な人々,ホスピタリティ精神の持ち主,日本人(女性)へのノスタルジー的存在,純粋さとしたたかさの二面性,また「身体」については,セクシーでナイスバディであると同時に「エキゾチック」なものとして,エンターテイナーが表象されていることが分かった.<br>IV 今後の課題<br> こういったエンターテイナーの表象が,より広くはパブ顧客の言説に限定されない,日本におけるフィリピン人女性像の系譜のなかにどのように位置づけられるのか,またそれらがフィリピンと日本のあいだの社会・文化・政治・経済的関係とどのようなつながりがあるのかといった議論に関しては,今後の研究の課題である.<br>
著者
漆原 和子 白坂 蕃 バルテアヌ ダン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

ルーマニアにおけるヒツジの移牧が社会体制の変革とともにどのように変化したかについて研究結果を述べる。とりわけ2007年EU加盟後の移牧が変質してきた。夏の宿営地(2100mの準平原面)へのヒツジの移牧頭数は激減し、冬の宿営地(バナート平原)へは移動手段を貨車、トラックに頼るようになった。また、バナート平原に定住化したヒツジの移牧の頭数が増え、大型化している。1000mの準平原面の上の基地では土地荒廃は改善されつつある。またドナウデルタではヒツジは定住化し、移牧は全くおこなわれなくなった。
著者
申 知燕 李 永閔
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

1.はじめに 資本主義経済のグローバル化は,世界各国において商品やサービスはもちろん,労働力の国際移住までをも活発にさせた.労働のグローバル化とも言われる国際移住の増加は,特にグローバルシティにおいて顕著に現れており,生産者サービスに従事する熟練労働力,ならびに彼らにサービスを提供するための非熟練労働力の急増が起きている.特に,グローバルシティに流入する近年の移住者の中には,トランスナショナルな移住者という,国境を越えて様々な地域で家族・知り合い・民族集団との人的ネットワークを活用し生活情報を共有・利用しているような移住者が増加しており,既存の移民者が形成したローカルを変化させている.エスニック・エンクレイブ(ethnic enclave)のように,旧来の移住者が形成した集住地は,移住者がホスト社会に同化するまで一時的に留まるためのものであったが,近年はトランスナショナルな移住者の登場によって複数の文化や人的ネットワークが交差する中でアイデンティティの競合が起こり,多様な特性を持つ空間へと変化している. 従って,本研究では,トランスナショナルな移住者によってグローバルシティにおける移住者の集住地がとめどなく混成的に変化していることを確認することを目標にした.具体的には,コリアタウンの景観および韓人と朝鮮族の民族間関係を分析し,朝鮮族移住者の柔軟なアイデンティティがいかに集住地とその内部の移住者間の関係を変化させるのかを把握することを試みた.本研究の分析にあたり,2012年5月および2013年6月に現地調査を行い,韓人,朝鮮族,中国人など合計42人から得たヒアリング資料を収集・分析した. &nbsp; 2.事例地域の概要 本研究の事例地域としてニューヨーク州ニューヨーク市クィーンズ区のフラッシングに位置するコリアタウンを選定した.フラッシングでは1970年代から韓人移住者向けの商業施設が立地し,現在はニューヨークにあるコリアタウンの中でも最も歴史が長く,人口も多い,典型的なエスニック・エンクレイブとなっている.フラッシング地区における2010年の韓人人口は約3万人に上るが,近年は居住者の高齢化や新規移住者層の属性の変化によって人口の流出・現象が起きており,老朽化しつつある. &nbsp; 3.知見 本研究から得た結論は以下の2点となる.1点目は,フラッシングのコリアタウンが大型化・老朽化し,近隣地区にチャイナタウンが形成されたことが朝鮮族の流入のきっかけとなったことである.韓人移住者の郊外化や,自営業者の引退などによってフラッシングのコリアタウンは縮小傾向に陥った.韓国・中国のアイデンティティ両方を持つ朝鮮族は,韓人の経営する店で従業員として勤務するか,コリアタウンとチャイナタウンの境目で自営業を行い,韓国人・中国人・朝鮮族全部を顧客として誘致する.このような朝鮮族の活動によって,コリアタウンは多様な民族景観が結合された <i>liminal space</i>となる. 2点目は,フラッシングの朝鮮族は,自らの必要に沿って,戦略的かつ選択的にアイデンティティを発揮し,コリアタウン内外で生活を営む点である.韓国語・中国語を駆使する能力や,中国国籍を活用して韓人教会のコミュニティで活動することで,彼らは生活基盤やアメリカの永住権を獲得する.彼らの柔軟なアイデンティティは,コリアタウン内の韓人にとっては同胞意識や異質感,敵対心などを同時に感じさせる要因となり,朝鮮族と韓人の間の葛藤や差別の原因にもなる.
著者
岩船 昌起
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.100153, 2011

新燃岳(1,421m)は,霧島屋久国立公園の核心地である「えびの高原」から東南約6?qに位置する。2011年1月以降の火山活動の活発化で立入規制区域が拡大し,3月後半以降では規制が解除されつつある。しかし,噴火時に噴石から身を隠すシェルターがない韓国岳等では登山者の安全が確実に担保されたとは言い難く,入山規制の解除には至っていない。本研究では,噴火活動の推移とそれに対応した危機管理をまずは概観する。そして,えびの高原の諸施設関係者が構築した「自主防災的な避難行動マニュアル」の検証を行い,避難対象者の体力を想定した実験結果を交えてえびの高原での避難行動の時空間的な展開を検討し,新燃岳周辺地域での危機管理を総合的に考察する。<br> 新燃岳の火山活動が活発化した1月26日以降2月半ばまでの危機管理については,火山活動の実態把握に関わる観測網の未整備,新燃岳周辺地域の人々への噴火情報の周知の遅れ,諸機関での「噴火警戒レベル」や「噴火警戒範囲」の理解の不一致などから,噴火活動に応じた危険域を見極めての立入規制等を迅速に実施する対応が十分であったとは言い難かった。一方,噴火活動が見かけ上沈静化してきた3月半ば以降では,規制解除の方向へと動き,鹿児島県等では立入規制区域を半径3km圏内に縮小した。そして,6月1日に県道等の一部の通行規制が解除され,高千穂河原でも昼間の利用が可能になった。しかし,新燃岳に近い韓国岳等への登山では安全対策が不十分であり,噴石等への対策が講じられるまで規制を継続する意向が示されている。<br> そのような中で,えびの高原では,環境省自然保護官事務所を中心に高原内の諸施設が連携して自主防災的に「避難マニュアル」を作成した。これに沿った防災対応は6月29日の噴火時に実施され,噴火後約10分で施設周辺にいた全ての人々を建物内に避難させた。これは,えびの高原の施設関係者等で連携したほぼ「満点」での避難誘導であった。鹿児島県と宮崎県にまたがり,霧島市やえびの市や小林市などに区分される山岳地域という特性から,霧島山では危機管理を統一して実施する難しさがあるが,両県および各市町,国立公園行政を広く管轄する環境省は,密に連携して一つにまとまり,火山地域の安全体制を構築する必要がある。<br> 当日は,避難対象者の体力を想定した避難行動に関わる実験結果なども交えて総合的に考察します。