著者
中司 利一
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.29-42, 1988-02-20

SD法を使用して、日本と韓国の大学生が肢体不自由児に対してどのようなイメージを持っているか研究した。対象とされた言葉は「肢体不自由児」と比較のための「健常児」、「老人」、「孤児」、「精神薄弱児」、「盲児」の6概念であった。調査対象は日本は2か所の大学生317名と韓国は3か所の大学生105名である。その結果、日本では肢体不自由児はやや遅いが強く陽気な存在であるというイメージが持たれていた。しかし、昔からの誤ったイメージが他の障害児に対してまだ一部残されていることも明らかにされた。また、韓国の大学生との比較では韓国の大学生が主としてマイナスの方向の形容詞でイメージをつくっているのに対し、日本の大学生はプラスマイナス両方向の形容詞でイメージをつくっている点に違いがあった。さらに、イメージの変化を調べるために前研究と比較したところ、肢体不自由児は幾分変化しているが盲児のイメージは変化していないことがわかった。
著者
李 尚禧 吉野 公喜 蘆原 郁
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.1-9, 1998-11-30
被引用文献数
1

聴覚障害者の語音識別能力における個人差の原因を解明することは、聴覚障害児・者の言語訓練・聴能訓練プログラムの開発において重要である。本研究では、聴覚障害者の母音ホルマント周波数の弁別能力と語音識別能力との関係を明らかにすることを目的とした。感音聴覚障害者12名を被験者として、自然音声の日本語母音の第2ホルマント周波数を人工的に変化させた加工音声を作製し、実際の音声知覚により近い状態におけるホルマント周波数の弁別閾値の測定を行った。その結果、ホルマント周波数の弁別能力と語音識別能力の間には高い相関関係が見られ、語音識別におけるホルマント周波数の弁別能力の重要性が示唆された。また、平均聴力レベルとホルマント周波数の弁別閾値の間には必ずしも一致が見られないことが示された。
著者
岡 茂
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.23-29, 1988-06-10

身体虚弱児の自己諸側面に関する認知を把握することは、虚弱児教育に際しての基礎条件である。本研究では、以下の視点から問題を設定した。健康の自己認知は固定したものではなく、他の自己認知や今後の人生をどう生きたいかという生活目標などと関連し合うものである。そこで、健康状態、体力、運動能力、性格の自己認知が生活目標に及ぼす影響を捉えた。同時に、虚弱児と健康児の比較から、虚弱児の自己認知および生活目標の特徴を明らかにした。一般校の児童を対象とし、質問紙調査を実施した。生活目標に影響を及ぼす自己認知の重要性の順位は、1.性格、運動能力、2.体格・体力、3.健康、であった。また、虚弱児の特徴として、体格・体力、運動能力の自己認知が低く、性格が内向的であることが健康児との比較から明らかになった。
著者
三沢 義一 小畑 文也
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1-9, 1987-09-14
被引用文献数
1

精神薄弱者の職場適応の実態と、それに影響を及ぼすと思われる個人的、環境的要因との関連を検討することを目的として、三沢ら(1983)による評定尺度を用い調査研究を実施した。分析対象となったのは現に企業に雇用されている198名の精神薄弱者の資料である。職場適応評定尺度の因子分析の結果、5つの因子(作業適応、勤務態度、人間関係、身辺処理、耐性)を抽出した。このうち作業適応の因子は説明率も極めて高く、精神薄弱者に対しても企業側は作業の能率や質の高さを求めていることがうかがわれた。さらに、個人的、環境的要因と各因子の推定因子得点の間で数量化1類による分析を行った。各因子と個人的、環境的要因の関連はさまざまであり、これらの結果を知的水準、パーソナリティ特性、勤務態度要因、人間関係要因、身辺処理の各視点から考察した。
著者
村上 由則 諸冨 隆 村井 憲男
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.35-42, 1993-01-30

2名の血友病児において、血友病性関節内出血と気象変動との関連を検討した。関節内出血の度数を月ごとに加算したところ、他の月と比較して4〜6月に出血が集中することが明らかになった。また、対象児の出血動態と気象要素との関連を分析したところ、平均気温の日間較差が、出血となんらかの関連をもつことが確認された。出血が特定の関節領域に集中しその度数が増大する悪化期には、出血の始発日前後1〜2日に気温の低下が観察された。この気温の低下傾向は、特定関節の出血以前に先行する出血がある場合に顕著であることも併せて明らかとなった。出血の少ない安定期や逆に出血が多発する頻発期には、気温の変動と出血との関連は明確ではなかった。これらの結果から、気温の変動は血友病性関節内出血に対し影響を及ぼすが、その影響は関節の破壊状況により異なることが示唆された。
著者
鈴村 金彌
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.28-33, 1984-09-30
被引用文献数
1

〔目的・方法〕MA5歳の自閉男児の幼稚園における午前中の諸活動について当日午後対話形式でかれに質問し、その反応を同方法で調べた同MAの健常児の反応と比較分析した事例報告である。〔結果〕自閉児の反応は健常児のそれに較べて次の諸特徴をもつ。(1)言語応答率、とくに正答率が低いが、共に微増傾向を示す。(2)正答、誤答、無答、独語等の諸反応の日内変動が大きい。(3)正答発話の約8割には無関係な語・句・文が付随していた。(4)言語応答はまず文章形態が整い、次に応答内容と事実との整合性が増し、その次に正答連続率が徐々に向上する。(5)正答可能になる質問形式の発達は、まずYes-Noで回答できる質問とWhat'型質問の段階、次にWhere型、How型、Why型、Which型質問の段階、さらにWho型、When型質問の段階の3段階となる。(6)擬音語・擬態語、同一語・句等の繰り返し傾向など、短期間では変化し難い若干の側面を有する。その他。
著者
高橋 潔
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.47-53, 1994-03-31

中度遅滞を示す17歳の知的障害児が入所施設内のクラス異動を契機に、盗み、拒食、無断外出などの不適応行動を示した。これらの行動改善を目的に、カウンセリングアプローチによる関わりを行った。各々の不適応行動は、依存、顕示、反抗、拒否、自暴自棄という内面変化を背景に変容していったと解釈された。また、知的障害児に対するカウンセリングアプローチの効果は、ケースの言語能力・情緒発達と関連して限界が論じられ、生活療法的な環境調整との併用が有効であることが示唆された。
著者
齋藤 一雄 星名 信昭
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.49-54, 1992-03-30
被引用文献数
1

MA3歳代のダウン症児に対して、手拍子によるリズムパターンへの同期の学習効果をみた。その結果、等間隔の〓への同期は2回の学習で50%以上に達した。そして、4/4〓〓〓〓というリズムパターンへの同期は、4回以上繰り返す中で50%以上できるようになったが、80%以上にはならなかった。リズムパターンへの同期は、等間隔の〓への同期→休符の予期→パターンの把握→細かい動きによる調整をして同期するという過程をたどることも示唆された。さらに、示範やテンポ、同期反応のさせ方は、リズムパターンへの同期の学習に影響を与え、テンポの設定や学習のさせ方、課題提示の仕方、指導方法等を子どもに合わせて工夫する必要がある。また、学校全体が休みになったり、長い間学習が中断したりすると、同期の成績が落ちる傾向がみられた。
著者
小山 充道
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.34-43, 1984-12-30

重度失語症と情動障害を伴う後天性脳障害児1症例(初診時13歳5ヵ月、女子)をとりあげ、言語訓練過程のみならず、患児の情動反応についても検討した。その結果、次のような知見を得た。(1)言語機能の改善には、情動安定が計られることが重要であり、失語症が重度であればあるほど、言語訓練そのものよりも、心理療法的接近が必要となってくると考えられた。(2)病理的人格反応図式(小山:1982)に従えば、患児の情動は当初通過症状群の範畴にあり、言語訓練を通して治療者との関係が深まるにつれて、再適応症状群へと移行していったと考えられた。(3)情動安定を計るために、次のような心理療法的接近が考えられた。家族(特に母親)にも、リハビリテーションチームの一員としての自覚をもたせ、共に言語訓練に参加させた。患児の悲痛な訴えを無条件に聞き入れる一方、患児は思春期前期にあることを考慮して、可能な限り一人前の人格者として接するように努めた。言語訓練は患児の精神生活にリズムを与え、患児にとって、単なる言語機能の改善以上の意味をもっているように思えた。
著者
武蔵 博文 高畑 庄蔵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.493-503, 2003-01-30
被引用文献数
2

対象生徒は重度知的障害であり、日常生活で乱暴な言葉・大声等の問題行動を頻発していた。そこで、positive behavioral supportモデルによりアセスメントを行い、問題行動に代替するより望ましい行動に注目する支援目標を設定した。支援ツール「ほめたよ日記」による他者記録・自己確認手続きを学校と家庭で実行した。そのうえで、状況に合わせた支援手続きを段階的に導入・移行した。支援計画は4期にわたった。保護者の記録、学校・家庭での問題行動の観察、保護者の主観的評価を指標とした。対象生徒の問題行動は低減し、記録行動は学校卒業後も1年にわたり継続した。家庭で受け入れ可能な支援手続きのあり方、家庭での問題行動を低減するまでの支援について論じた。
著者
谷口 明子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.283-291, 2004-11-30
被引用文献数
2

入院児への学校教育導入の推進に伴い、入院児の心理理解の必要性が高まっている。本研究の目的は、病弱教育における子ども理解の一環として、入院児の不安の構造と類型を明らかにすることである。入院という状況下の不安を測定する42項目から成る質問紙を作成し、小学校4年生から高校3年生までの157名の入院児を対象に調査を施行した。その結果、入院児の不安が「将来への不安」「孤独感」「治療恐怖」「入院生活不適応感」「とり残される焦り」の5つの下位構造を有し、さらに入院児が3つの不安の類型に分かれることが明らかになった。性差、入院回数、入院期間、罹病期間、発達段階の子どもの属性と不安の構造との関連を検討した結果、女子のほうがより強い「不安」と「孤独感」をもち、発達段階が高いほうが「将来への不安」「入院生活不適応感」をより多く抱いていることが示され、指導にあたって留意すべき点も示唆された。