著者
平井 利明 宮川 晋治 松井 和隆 栗田 正
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.585-588, 2014-07-01 (Released:2014-08-02)
参考文献数
10
被引用文献数
2

症例は30歳の男性である.発熱後に2週間で顔面の灼熱痛,咀嚼困難をみとめ入院した.両側三叉神経の運動感覚障害,左顔面神経麻痺,感音性難聴,ぶどう膜炎,耳下腺腫脹をみとめた.両側肺門部リンパ節腫脹,血清ACE上昇,ツベルクリン反応陰性,口唇粘膜生検で非乾酪性類上皮性肉芽腫をみとめ,完全型Heerfordt症候群と診断した.下顎皮膚組織に対するPGP9.5抗体をもちいた免疫染色でsmall fiber neuropathy(SFN)をみとめた.顔面痛は難治性で,発症3年後に急性膵炎で死亡した.剖検ではサルコイド結節をみとめなかったことから,難治性顔面痛の原因としてSFNの関与が強くうたがわれ報告する.
著者
中村 琢洋 瓦林 毅 清野 祐輔 東海林 幹夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.383-386, 2017 (Released:2017-07-29)
参考文献数
7
被引用文献数
1

症例は家族歴のない17歳男性である.腕立て伏せを中心とした筋力トレーニングを開始した数日後より,左上肢の感覚障害と運動障害を来し当科紹介受診となった.神経学的には左上肢に広範囲な筋力低下と橈側の感覚障害を認めた.Magnetic resonance neurography(MRN)で腕神経叢に信号の左右差を認め,左腕神経叢障害が疑われた.神経伝導検査では腕神経叢障害のみでは説明のつかない広範な障害を認め,遺伝学的検査により遺伝性圧脆弱性ニューロパチーの診断に至った.軽度の労作や圧迫によるニューロパチーでは,家族歴が無くとも本疾患を鑑別する必要がある.
著者
浜田 恭輔 武井 藍 﨑山 佑介 森山 宏遠 橋口 昭大 髙嶋 博
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.30-34, 2018 (Released:2018-01-26)
参考文献数
15
被引用文献数
3

症例は43歳男性である.緩徐に進行する構音障害と歩行失調,幼児退行などの精神症状,脳幹・小脳の萎縮性所見より脊髄小脳変性症が疑われ入院した.口内炎,陰部潰瘍,毛囊炎様皮疹,HLA-B51をみとめ,髄液IL-6高値より慢性進行型神経ベーチェット病と診断した.ステロイド,メトトレキサートの治療効果に乏しく,インフリキシマブで髄液IL-6の減少が得られたが症状は改善しなかった.本症例は広範に不可逆性の脳組織障害が生じた難治例と考えられた.脳幹の萎縮が進行する前に免疫治療を介入すべき疾患であり,精神症状と運動失調症がみられる症例では診断に有用である髄液IL-6を測定することが望ましい.
著者
辻 浩史 望月 昭英 保坂 愛 吉澤 利弘 玉岡 晃
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.328-332, 2008 (Released:2008-05-25)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

症例は62歳女性で意識障害のため入院した.入院後,意識はすみやかに改善したが,血液検査で炎症所見,髄液蛋白高値をみとめた.頭部MRI上,拡散強調画像,T2強調画像にて脳梗塞様高信号域が散在していた.抗生剤,抗ウィルス薬を投与したが炎症反応は改善せず退院した.退院後,亜急性に異常行動が出現し,しだいに活動性が低下したため,再入院した.炎症反応の増悪と,頭部MRIにて脳梗塞様高信号域の増大をみとめた.脳生検にて,intravascular lymphomatosis(IVL)と診断し,rituximab併用多剤化学療法にて寛解しえた.RituximabはIVL治療において重要な追加薬剤となる可能性がある.
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000732e, (Released:2015-10-02)

当論文は,2015年7月11日に早期公開いたしましたが,著者からの申し出により撤回されました.
著者
田中 寛大 橋本 修治 原田 譲 景山 卓 末長 敏彦
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.492-498, 2018 (Released:2018-08-31)
参考文献数
15

左頭頂側頭葉梗塞の既往がある69歳女性.急性発症の右上下肢疼痛と運動麻痺,右同名半盲を訴え来院した.発作時脳波で左半球後半部に持続性のてんかん性異常波を認めた.発作時MRIで左中心後回の拡散制限を,99mTc-ECD SPECTで左頭頂葉の過灌流を認めた.以上より,右上下肢疼痛は焦点性てんかんの発作症状であり,疼痛は左一次体性感覚野に由来すると考えた.運動麻痺については一次運動野自体の異常興奮による機能障害の関与を考え,同名半盲にも同様の機序を想定した.本例は,感覚症状を伴う運動麻痺が急性に出現した時,stroke mimicとして,てんかん発作を考慮すべきことを示している.
著者
東田 京子 田中 智貴 山上 宏 泊 晋哉 福間 一樹 奥野 善教 阿部 宗一郎 長束 一行 豊田 一則 猪原 匡史
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.217-222, 2018 (Released:2018-04-25)
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

脳卒中後てんかんの大規模研究は少なく,一定のコンセンサスが得られていない.今回,本邦での脳卒中後てんかんの診療実態を明らかにすることとした.2015年2~5月の脳梗塞治療症例数上位500施設を対象に患者数,検査,治療について,計14問のアンケートを依頼し,189施設から回答が得られた.てんかん入院症例の39%に脳卒中既往があった.検査については頭部MRIや脳波検査はそれぞれ99,97%の施設で施行されていたが,検査陽性率は低値であった.治療については発作の再発抑制にはカルバマゼピン,バルプロ酸,レベチラセタムの順に第1選択薬とされていた.
著者
大林 光念 安東 由喜雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1044-1046, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
9
被引用文献数
1 2

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーや糖尿病性末梢神経障害は発症早期から小径線維ニューロパチーを呈するが,有用な臨床指標がない現状では,この病態の早期発見は容易でない.そこでわれわれは,小径線維ニューロパチーを早期診断するため,レーザードプラ皮膚血流検査や換気カプセル法による発汗検査,汗腺の形態チェック,胃電図,胃内の小径線維やCajal細胞の密度測定,123I-MIBG心筋シンチ,血圧オーバーシュート現象をみる起立試験などの自律神経機能検査を考案した.これらは,ATTR V30M保因者やIGT患者にみられる早期の小径線維ニューロパチーを診断しえる.また,これらにC,Aδ特異的痛覚閾値検査を加えることも,診断に有用となる.
著者
安東 由喜雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.797-803, 2015 (Released:2015-11-21)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

神経関連アミロイドーシスはとりわけこの10年の間に治療の道が開けてきた.ALアミロイドーシス,AAアミロイドーシスではそれぞれ新規化学療法剤やIL6レセプター抗体による治療が奏功している.遺伝性アミロイドーシスの中で最も患者数の多いトランスサイレチン(transthyretin; TTR)型家族性アミロイドポリニューロパチー(familial amyloidotic polyneuropathy; FAP)は,肝移植,TTR4量体安定化剤,gene silencing剤と次々に治療法が開発され,根治目前の状態が拓かれつつある.神経関連アミロイドーシスとしては,ALアミロイドーシス,AAアミロイドーシス,透析関連アミロイドーシス,FAP,老人性全身性アミロイドーシス(senile systemic amyloidosis; SSA),脳限局アミロイドーシスとしてアルツハイマー病,プリオン病などがあげられるが本稿では全身性アミロイドーシスに絞ってそれらの診断・病態・治療について述べる.
著者
上原 拓也 角田 渓太 隅 寿恵 山内 周 望月 秀樹 中 隆
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.777-780, 2016 (Released:2016-11-29)
参考文献数
7
被引用文献数
7 6

症例は47歳女性.母親が原因不明の多臓器不全.4年前から両下肢の痺れ感が出現し,起立時に失神した.徐々に失神回数が増え下痢と便秘を繰り返すようになった.診察上,下肢優位感覚優位の末梢神経障害と高度な自律神経障害を認めた.心筋生検にてアミロイド沈着とトランスサイレチン遺伝子変異(Gly47Arg; G47R)が判明したが,多臓器不全のため積極的な治療は行えなかった.数か月にわたって徐々に意識が低下し,多臓器不全にて死亡した.解剖の結果,末梢神経系と一般臓器のみならず,クモ膜下腔および脊髄脳幹の表層に高度なアミロイド沈着を認めた.G47R変異が髄膜アミロイドーシスを引き起こすことを示した初の症例報告である.
著者
関島 良樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1130-1133, 2011 (Released:2012-01-24)
参考文献数
10

The amyloidoses are a large group of postsecretory protein misfolding and deposition diseases. There are over 20 secreted human proteins whose misfolding and misassembly outside the cell is linked to amyloidosis. In this paper, we described epidemiological and clinical aspects of non-hereditary systemic amyloidosis, including senile systemic amyloidosis (SSA) and systemic AL amyloidosis. SSA, induced by wild-type transthyretin (TTR) deposition, is a prevalent aging-related disorder, as about 25% of people over age 80 have TTR deposition in the heart, but it is usually detected by microscopic examination at autopsy. Although SSA is usually associated with cardiac disease, TTR deposition is not limited to the heart and is found in systemic organs. Carpal tunnel syndrome is one of the most common clinical manifestations of SSA and often precedes cardiac symptoms. Systemic AL amyloidosis is the most common non-hereditary systemic amyloidosis induced by immunoglobulin light chain deposition. Involvement of visceral organs usually dominates the clinical picture of systemic AL amyloidosis, but some patients suffer from serious peripheral neuropathy, including polyneuropathy, carpal tunnel syndrome, and autonomic dysfunction. High-dose melphalan with stem cell transplantation improves prognosis of systemic AL amyloidosis including neurological symptoms.
著者
小河 秀郎 中島 敦史 小橋 修平 寒川 真 楠 進
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.171-173, 2015 (Released:2015-03-17)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

症例は67歳男性.某日,両下肢違和感出現.3日後に道で転倒し当院救急入院.入院時,脳神経系異常なし.四肢筋力保たれるも両下肢深部覚障害のため起立困難.深部腱反射減弱,表在覚障害なし.腰椎MRI異常なし.神経伝導検査は運動神経異常なく,上下肢で著明な感覚神経振幅低下あり.Gal-C抗体陽性であり,純粋感覚型Guillain-Barré症候群(GBS)と診断.免疫グロブリン大量静注療法をおこなうも深部覚障害残存し入院53日目に転院.Gal-C抗体のみ陽性の純粋感覚型GBS症例の報告はなく貴重な症例と考えられた.
著者
大山 健 小池 春樹 高橋 美江 川頭 祐一 飯島 正博 祖父江 元
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1047-1049, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3 5

近年,IgGのサブクラスのひとつであるIgG4の上昇をともなう疾患群がIgG4関連疾患(IgG4-RD)として報告され,注目されている.IgG4-RDは,臓器の腫脹・腫大,組織での線維化をともなうIgG4陽性形質細胞浸潤,血清IgG4値の上昇を共通の特徴とし,種々の臓器で報告されてきた.神経領域では下垂体炎や肥厚性硬膜炎が知られていたが,新たにIgG4-RDがニューロパチーでもみられることを明らかにした.IgG4関連ニューロパチーは,下肢遠位優位の運動感覚障害を呈する多発性単神経炎の様式で発症していた.腓腹神経生検では,神経上膜のIgG4陽性形質細胞浸潤および線維化をみとめ,有髄線維密度の低下,軸索変性像の出現がみられた.IgG4-RDもニューロパチーの鑑別疾患の一つとなる可能性が示唆された.
著者
関島 良樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.953-956, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3 1

遺伝性アミロイドポリニューロパチーのほとんどを占める遺伝性ATTRアミロイドーシスは,トランスサイレチン(TTR)遺伝子変異を原因とする常染色体優性の遺伝性疾患である.本症は全身性アミロイドーシスであり,多発ニューロパチー,自律神経障害,心症状,眼症状など多彩な症状が様々な組み合わせで出現する.診断には上記の症状に加え,組織へのアミロイド沈着とTTR遺伝子変異を証明する必要がある.本症に対してはすでに肝移植の有効性が確立しているが,近年TTR四量体安定化薬の有効性が臨床試験で証明され,2013年にタファミジスが治療薬として認可された.本症は治療可能な遺伝性ニューロパチーであり,早期診断が非常に重要である.
著者
赤川 優美 上野 晃弘 池田 淳司 石井 亘 宍戸-原 由紀子 関島 良樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.324-331, 2018 (Released:2018-05-25)
参考文献数
27
被引用文献数
4 5

症例1は59歳女性.特発性好酸球増多症に対しプレドニゾロンを内服中.脳MRI病変に軽度の造影効果が認められ,炎症の存在が示唆された.症例2は30歳女性.全身性エリテマトーデスに対し免疫治療中.脳生検が実施され,CD4およびCD8陽性細胞の均衡がとれたリンパ球浸潤を認めた.両症例とも神経症状発症早期に進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy; PML)と診断し,メフロキン,ミルタザピン,リスペリドンによる治療を行った.症例1は発症から24ヶ月,症例2は45ヶ月経過しているが,症状改善し生存している.PMLの予後は不良とされているが,JCウイルスに対する制御された免疫応答を有する症例では薬物治療が有効である可能性がある.
著者
高下 純平 林 信太郎 山口 浩雄 立石 貴久 村井 弘之 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.667-671, 2016
被引用文献数
1

<p>症例は37歳男性.23歳よりけいれん発作を繰り返した.35歳から難聴や歩行時のふらつきが出現し当科に入院した.近親婚の家族歴があった.低身長で,腱黄色腫はなかった.mini-mental state examinationは19点,感音性難聴,断綴性発語,嚥下障害,四肢の痙縮,小脳症状を認めた.血中と脳脊髄液中の乳酸とピルビン酸が増加していた.頭部MRIで小脳半球,脳幹,内包に対称性の病変を認めた.ミトコンドリア病を疑ったが,筋生検とミトコンドリアDNA遺伝子解析に異常なかった.血清コレスタノール高値,CYP27A1遺伝子の新規遺伝子変異(c. 43_44delGGのホモ接合体)を認め,脳腱黄色腫症と診断した.</p>
著者
中村 拓真 今井 啓輔 濱中 正嗣 山﨑 英一 山田 丈弘 水野 敏樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.100-104, 2018 (Released:2018-02-28)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

61歳男性.声の聞こえにくさ,物の見えにくさ,ふらつきにて第6病日に受診した.両側聴力低下とともに,見当識障害,眼球運動障害,体幹失調,深部反射の消失がみられた.頭部MRIのFLAIR画像にて両下丘を含む中脳蓋と両視床内側に高信号域がありWernicke脳症(Wernicke encephalopathy; WE)が疑われた.ビタミンB1補充療法開始後に聴力は急速に回復し,眼球運動障害と歩行障害も徐々に改善した.入院時の血清ビタミンB1低値にてWEと診断され,第39病日の頭部MRIでは異常信号は消退していた.本例におけるビタミンB1補充後の聴力低下と下丘のMRI異常信号の改善経過からWEの聴力低下の可逆性が確認された.
著者
森 真由美 湧川 佳幸 矢坂 正弘 安森 弘太郎 詠田 眞治 岡田 靖
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-9, 2014-01-01 (Released:2014-01-15)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

脳動脈解離にともなう急性期脳梗塞における神経症候急性増悪例の特徴を検討した.急性期脳梗塞連続1,112例のうち,脳動脈解離にともなう脳梗塞は18例(1.6%)だった.平均年齢52歳,男性83%で,後方循環系解離が72%を占めた.発症30日以内の神経症候増悪例は4例(22%)で,すべて発症3日以内にみられ,入院時血圧が高値であり,優位側椎骨動脈や脳底動脈の解離をきたしていた.瘤形成症例を除いて積極的な抗凝固療法をおこなったが出血性合併症はみられなかった.増悪例の転帰は有意に不良であった.優位側椎骨動脈または脳底動脈解離による脳梗塞で,入院時血圧が高値である症例は,発症3日間はとくに注意深く観察する必要がある.
著者
竹下 潤 小林 宏光 下江 豊 曽根 淳 祖父江 元 栗山 勝
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.303-306, 2017 (Released:2017-06-28)
参考文献数
10
被引用文献数
5

症例は65歳の男性.全経過約3時間の一過性の健忘が出現した.3年前にも同様の症状が出現した.認知症状は認めず.神経学的には,小脳失調や不随意運動は認めなかったが,神経伝導検査で末梢神経障害を認めた.MRI拡散強調像で,前頭葉から頭頂葉にかけて皮質下の皮髄境界域に高信号を認め,皮膚生検で神経核内封入体を多数認め,成人発症の神経核内封入体病と診断した.家系内には類症者はおらず,孤発例である.健忘は一過性全健忘と極めて類似し,辺縁系障害が推測された.
著者
高橋 淳
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1009-1012, 2013-11-01 (Released:2013-11-29)
参考文献数
10
被引用文献数
4 2

パーキンソン病に対しては1980年代の後半から胎児中脳腹側細胞の移植がおこなわれ一定の効果がみられているが,倫理的問題に加え移植細胞の量的,質的問題があり一般的な治療にはなっていない.これらの問題を解決するために幹細胞とりわけES, iPS細胞をもちいた移植治療に期待が寄せられている.分化誘導技術が発達し,ヒトES, iPS細胞から効率的に中脳ドパミン神経細胞が誘導できるようになった.さらには選別技術も開発されつつある.ラットや霊長類モデルへの移植では行動改善が観察されており,臨床での効果も期待される.あとは安全性を厳しく検証すること,万が一腫瘍化がおこったときの対策を立てることが重要になるであろう.