著者
河野 祐治 重藤 寛史 白石 祥理 大八木 保政 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.265-267, 2010 (Released:2010-05-06)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

症例は30歳男性である.嚥下障害,複視,ふらつきにて発症し,吃逆も出現.軽度意識混濁,左側優位の眼瞼下垂,左注視方向性眼振,両側眼輪筋と口輪筋の軽度脱力,体幹失調をみとめた.嚥下反射は著明に亢進し,嚥下困難を呈していた.脳波は間欠性に全般性に高振幅徐波が出現し,脳幹脳炎と考えられた.しかし血算,血液生化学,髄液検査,頭部MRIに異常をみとめなかった.副腎皮質ステロイド剤は吃逆,複視,眼瞼下垂を改善したが,その他の症状に無効.免疫グロブリン療法も無効であった.その後,抗ボレリア抗体陽性が判明し,抗生剤投与にてすみやかに改善した.通常の免疫療法への反応に乏しい脳幹脳炎ではボレリア感染も考慮すべきである.
著者
橋本 律夫 上地 桃子 湯村 和子 小森 規代 阿部 晶子
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.837-845, 2016
被引用文献数
7

<p>Card placing test(CPT)は我々が開発した新しい視空間・方向感覚検査である.被験者は3 × 3格子の中央に立ち,周囲の格子に置かれた3種類の図形カードの位置を記憶し,自己身体回転なし(CPT-A)または回転後(CPT-B)にカードを再配置する.自己中心的地誌的見当識障害患者ではCPT-AとCPT-Bのいずれも低得点,道順障害患者ではCPT-A得点は正常範囲でCPT-Bが低得点であった.自己中心的地誌的見当識障害患者では自己中心的空間表象そのものに障害があり,道順障害患者では自己中心的空間表象と自己身体方向変化の情報統合に障害があると考えられた.</p>
著者
久永 欣哉
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1234-1236, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1

Behçet disease and Sweet disease are multisystem inflammatory disorders involving mucocutaneous tissue as well as nervous system (neuro-Behçet disease and neuro-Sweet disease). Pathological findings in the encephalitis are chiefly perivascular cuffing of small venules by neutrophils, T lymphocytes, and macrphages. Destruction of the brain substrates is mild in neuro-Sweet disease compared with that of neuro-Behçet disease, especially that of chronic progressive subtype. HLA (human leukocyte antigen)-B51 is frequently positive in neuro-Behçet disease, and the frequencies of HLA-B54 and Cw1 in neuro-Sweet disease are significantly higher than not only those in Japanese normal controls but also those in patients with these diseases without nervous complications. These HLA types are considered as risk factors which are directly associated with the etiology of these diseases. Prednisolone is usually used for the treatment of acute phase of both diseases. Methotrexate and infliximab are administered to patients with the chronic progressive type of neuro-Behçet disease. Colchicine and dapsone are prescribed to prednisolone-dependent recurrent cases of neuro-Sweet disease.
著者
本望 修
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1175-1176, 2013
被引用文献数
1

骨髄中に存在する幹細胞をドナー細胞として使用するばあい,自分の細胞を使うことができるので,感染症,免疫拒絶反応,倫理面での諸問題がない.また,大きな利点として,脳神経の損傷した部位への直接移植のほか,静脈内投与でも治療効果が期待できます.静脈内に投与された骨髄幹細胞は,脳損傷の部位に到達して,死にかけている神経細胞を助けると同時に,自らも神経細胞になって治療効果を発揮する.<br>われわれは,自己の骨髄の中にある幹細胞をもちいて脳梗塞を治療することを試みており,本年より開始した医師主導治験についても,その一部を紹介します.
著者
前田 憲吾 清水 芳樹 杉原 芳子 金澤 直美 飯塚 高浩
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.98-101, 2019 (Released:2019-02-23)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

症例は48歳女性.43歳時に下肢硬直感が出現したが3か月で自然軽快した.両下肢の筋硬直が再発し,ミオクローヌスが出現し入院.意識清明,言語・脳神経は異常なし.両足趾は背屈位で,足関節は自他動で動かないほど硬直していた.神経伝導検査は異常なく,針筋電図では前脛骨筋に持続性筋収縮を認めた.血液・髄液一般検査は正常で,抗GAD65抗体・抗VGKC複合体抗体は陰性.脊髄MRIにも異常なく,症候学的にstiff-limb症候群(SLS)と考え,ステロイドパルス療法を実施し筋強直は改善した.その後,血液・髄液の抗glycine受容体抗体が陽性と判明した.プレドニゾロン内服後,再発はない.
著者
山下 和哉 寺崎 泰和 坂口 学 中辻 裕司 吉崎 和幸 望月 秀樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.926-931, 2015 (Released:2015-12-23)
参考文献数
30
被引用文献数
2 5

症例は65歳の女性である.47歳時に関節リウマチと診断され,内服治療により良好にコントロールされていたが,今回全身痙攣を発症した.頭部MRI FLAIR画像にて左前頭頭頂葉のくも膜下腔に高信号をみとめたため,くも膜下出血が疑われ経過観察となった.1か月後に右下腿から拡大する感覚障害と右不全麻痺が出現し,頭部MRIでは病変の拡大,ガドリニウム造影T1WIで軟膜の増強効果をみとめた.リウマチ性髄膜炎と診断し,ステロイドパルス療法により症状と画像所見の改善が得られた.リウマチ性髄膜炎はまれではあるが,MRIが診断に有用であり,特徴的な画像所見から本症を疑うことが重要である.
著者
安部 鉄也 三島 一彦 内野 晃 佐々木 惇 棚橋 紀夫 髙尾 昌樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.627-632, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
18
被引用文献数
3 8

症例は84歳女性.緩徐進行性の認知機能障害の経過中に失行が出現した.神経学的所見は認知機能障害,失行に加え左上下肢の筋力低下を認めた.頭部magnetic resonance imaging(MRI)で右側頭頭頂葉の髄膜のfluid attenuated inversion recovery(FLAIR),diffusion weighted Imaging(DWI)高信号を認め造影効果を有し,血液検査で抗cyclic citrullinated peptides(CCP)抗体が高値であった.脳生検ではくも膜下腔を中心とした炎症細胞浸潤を認めた.ステロイドで加療し臨床症候,検査所見ともに改善した.全経過を通じて関節症状は認めていない.本例は慢性髄膜炎の診断治療を考える上で貴重な症例である.発症時に関節症状のないリウマチ性髄膜炎の報告は稀で,本例では特に抗CCP抗体が高値であり,リウマチ性髄膜炎の発症機序を考える上でも稀有な症例である.
著者
森本 悟 髙尾 昌樹 櫻井 圭太 砂川 昌子 小宮 正 新井 冨生 金丸 和富 村山 繁雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.573-579, 2015 (Released:2015-08-21)
参考文献数
17
被引用文献数
1

症例は62歳の女性である.頭痛で発症し,3ヵ月にわたって進行する認知機能障害,発熱および炎症反応の持続を呈した.頭部MRI画像で皮質および白質に多発性病変をみとめ,造影後T1強調画像にて脳溝や脳室上衣に沿った造影効果をみとめた.認知機能障害およびMRI所見が急速に進行したため脳生検を施行.クモ膜下腔に多数の好中球浸潤および多核巨細胞よりなるリウマチ性髄膜炎類似の病理像をみとめるも,関節リウマチの症状はなかった.各種培養はすべて陰性で,抗菌薬,抗結核薬および抗真菌薬治療に反応なく,経口ステロイド療法が奏功した.2年後の現在も寛解を維持している.
著者
松浦 大輔 大下 智彦 永野 義人 大槻 俊輔 郡山 達男 松本 昌泰
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.191-195, 2008 (Released:2008-04-15)
参考文献数
20
被引用文献数
7 9

症例は63歳男性である.47歳時に関節炎と皮膚潰瘍を発症し,血管炎をともなう慢性関節リウマチ(悪性関節リウマチ)と診断され,プレドニゾロンとシクロスポリンAの内服治療を受けていた.今回,頭痛,痙攣を主訴に来院し,リンパ球優位の髄液細胞数増多,頭部MRIで左大脳半球の脳表に限局した病変をみとめた.病変部位はFLAIR画像にて高信号を呈し,病変の一部は拡散強調画像でも高信号を呈した.ステロイドパルス療法をおこない,症候,検査所見とも改善した.リウマチ性髄膜炎はまれな疾患であるが,一側テント上に限局する軟膜病変を呈しやすく,本例ではFLAIR画像と拡散強調画像の併用が病変の経時的な評価に有用であった.
著者
宇川 義一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.827-831, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

What's involuntary movement? To define the involuntary movement, we should define the voluntary movement. It is, however, difficult to define the voluntariness. The involuntary movement usually indicates some abnormal movement occurring without any movement intention of the subject which excludes any reflex movements, such as tendon reflexes or normal startle response. How to see patients with involuntary movements Classification of involuntary movements entirely depends on clinical features of movements. The method to see the patients, therefore, follows how to describe the movements when explaining those to others. The three main points to care are as follows. Regularity in time or rhythmicity of the movement: regular, mostly regular, irregular or completely irregular. The most rhythmic one is tremor and most irregular one is myoclonus. Conditions inducing involuntary movement: resting, postural, during movement, emotional stress, sensory trick or others. These are important factor to see actual movements in clinical practice. To make an inducing condition in the clinic is sometimes required to see the symptoms. Pattern of involuntary movements: irregular, stereotypical, distribution of moving muscles, right-left difference and others. Several kinds of involuntary movements are presented in my talk.
著者
前田 憲多郎 岩井 克成 小林 洋介 辻 裕丈 吉田 誠克 小林 靖
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.198-201, 2018 (Released:2018-03-28)
参考文献数
10
被引用文献数
1

症例は受診時51歳女性.6年前より頸部の重みを自覚.1年前から頸部伸展障害が増悪し,歩行障害が加わった.首下がりを主訴に当院を受診した.頸部伸展筋力低下,構音・嚥下障害,頻尿・便秘を認め,両側バビンスキー徴候陽性であった.歩行は小刻みかつ痙性様であった.頭頸部MRIで延髄・脊髄の萎縮を認めた.遺伝子検査でGFAPに本邦ではこれまで報告のない変異p.Leu123Pro(c.368T>C)を認め延髄・脊髄優位型アレキサンダー病(Alexander disease; AxD)(2型)と診断した.首下がりを呈する(AxD)の報告は散見されるものの,本例は首下がりを初発症状とした点が特徴であり,その機序に対する考察を加えて報告する.
著者
大林 光念 安東 由喜雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1044-1046, 2014
被引用文献数
2

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーや糖尿病性末梢神経障害は発症早期から小径線維ニューロパチーを呈するが,有用な臨床指標がない現状では,この病態の早期発見は容易でない.そこでわれわれは,小径線維ニューロパチーを早期診断するため,レーザードプラ皮膚血流検査や換気カプセル法による発汗検査,汗腺の形態チェック,胃電図,胃内の小径線維やCajal細胞の密度測定,<sup>123</sup>I-MIBG心筋シンチ,血圧オーバーシュート現象をみる起立試験などの自律神経機能検査を考案した.これらは,ATTR V30M保因者やIGT患者にみられる早期の小径線維ニューロパチーを診断しえる.また,これらにC,Aδ特異的痛覚閾値検査を加えることも,診断に有用となる.
著者
坪口 晋太朗 矢島 隆二 樋口 陽 石川 正典 河内 泉 小山 諭 西澤 正豊
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.477-480, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
14
被引用文献数
3

症例は54歳女性で,緩徐に進行する歩行障害と構音障害を呈した.左乳癌に対して乳房切除術と癌化学療法を受け,神経症候の進行は術後一旦停止していたが,小脳性運動失調が再び増悪した.頭部MRIでの小脳半球の萎縮,血清Yo抗体陽性,乳癌の既往より傍腫瘍性小脳変性症(paraneoplastic cerebellar degeneration; PCD)と診断した.CTで指摘された左腋窩リンパ節の廓清と癌化学療法の変更に加え,免疫グロブリン大量療法を行った結果,神経症候は改善し,独歩可能となった.亜急性の経過と治療反応性の不良が特徴とされるYo抗体陽性PCDにも,緩徐進行性で治療反応性が良好な非典型例があることを報告した.
著者
坂本 光弘 松本 理器 十川 純平 端 祐一郎 武山 博文 小林 勝哉 下竹 昭寛 近藤 誉之 髙橋 良輔 池田 昭夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001180, (Released:2018-09-29)
参考文献数
26
被引用文献数
4 2

自己免疫性てんかんが近年注目されているが,抗神経抗体以外の特異的な診断法は確立していない.今回我々は最初に病歴・臨床症候,次に検査成績と2段階で自己免疫性てんかんを診断するアルゴリズムを作成し,臨床的有用性を予備的に検討した.自己免疫性てんかんが疑われた70名に後方視的にアルゴリズムを適応した.MRI,髄液,FDG-PET検査のうち,2項目以上異常所見があれば診断に近づく可能性が示された.一方で抗体陽性13名のうち2名は,第一段階の臨床症候で自己免疫性てんかんの可能性は低いと判断された.包括的抗体検査のもと診断アルゴリズムの更なる検証,改訂が望まれる.
著者
松田 倫明 竹迫 慎平 中﨑 満浩 南立 亮 梅原 藤雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.759-763, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
21

症例は90歳女性である.入院中,急激に意識レベルが低下し深昏睡に至った.頭部MRI-拡散強調像(diffusion-weighted image; DWI)で両側視床,内包に高信号を認め,血中アンモニア値の上昇,脳波で前頭葉優位のデルタ波・三相波を認めた.肝性脳症に準じて治療を行い,意識レベルの改善,血中アンモニア値低下,DWI高信号の消失を認めた.腹部CTで肝自体に異常は認めなかったが,回結腸静脈から下大静脈に連続する異常血管を認め,portal-systemic encephalopathyと診断した.深昏睡時,視床・内包にDWI高信号を認めた場合には,急性高アンモニア血症に起因する脳症も鑑別上重要である.
著者
寺澤 英夫 清水 洋孝 上原 敏志 喜多 也寸志 島 さゆり 武藤 多津郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001219, (Released:2018-12-29)
参考文献数
8
被引用文献数
2

症例は48歳男性である.発熱の先行症状の後に急性脊髄炎を発症した.脊髄MRIでは,C6よりTh8レベルまで連続する長大な脊髄病変をみとめ,免疫療法に奏功して脊髄病変は消退し,神経症状も軽快した.血清抗aquaporin-4(AQP4)抗体,抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体は陰性であったが,血清と髄液の両者より抗lactosylceramide(LacCer)抗体が急性期に陽性で回復期に弱陽性に低下した.抗中性糖脂質抗体は,脳炎・脳症を欠く急性脊髄炎で陽性になる既報告はなく,急性脊髄炎の病態の鑑別に本抗体を考慮する必要があると考えられた.
著者
松本 有史 金子 仁彦 高橋 利幸 中島 一郎 久永 欣哉 永野 功
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.729-732, 2017 (Released:2017-11-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

症例は発症時65歳の男性.右肩・上腕の感覚障害が一過性に出現し,MRIにて頸髄C2/3右背側に1椎体程度の小病変を認めた.約1年3か月後に右頬・後頸部・後頭部に電撃痛が出現し,MRIにて頸髄C1右背側に後索と三叉神経脊髄路核に及ぶ卵円形の病変を認めた.視神経や中枢神経の他の部位には病変を認めなかった.血清の抗aquaporin 4抗体が陰性,抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体が陽性であった.ステロイドの投与で症状は改善した.視神経脊髄炎spectrum disordersの診断基準は満たさず,抗MOG抗体陽性の再発性脊髄炎として貴重な症例と考えた.