- 著者
-
辻岡 和代
- 出版者
- 桜花学園大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2008
我々はこれまでに加齢によりタンパク質合成は低下するが食事の栄養価を改善することによってタンパク質合成が促進することを明らかにしてきた。またγ-アミノ酪酸(GABA)を添加することによって脳機能が改善することを報告した。しかしこれまで行ってきたGABAを用いた研究は幼若雄ラットを実験動物として用いており我々の研究を還元できる範囲としては若年層の男性に限られてしまう。ところが加齢に伴う機能の低下は男性特有のものでない。特に閉経を迎えた女性の体機能の調節は大きな社会的関心事のひとつであるにもかかわらず閉経後の女性を視野に入れた脳機能の調節において機能性食品成分の1つであるGABAがどのように関わっているのか詳細に検討した報告は国内外にも認められない。そこで本研究では,閉経後の女性の脳機能維持・改善を目的とし,機能性食品成分であるGABA摂取時の,脳タンパク質合成の解明や,女性ホルモンの変化,さらに,学習記憶活動の指標となる成分の測定を行うことによって,高齢女性の脳機能を維持する上での健全な栄養摂取について考察した。動物は,24週齢雌ラットを用い,Sham-operatedラット群,卵巣摘出ラット群,卵巣摘出+GABA摂取群の3群で試験食を10日間与えた。試験食としてSham-operatedラット群と卵巣摘出ラット群には20%カゼイン食を,GABA摂取群には20%カゼイン+0.5%GABAを用いた。血中成長ホルモンの測定においては,1日3時間のみ摂取させるmeal-feedingに慣れさせたラットに試験食を1回3時間のみ投与した。実験は,大脳,小脳,海馬,脳幹のタンパク質合成速度をGarlickら(2)の^3H-Phe大量投与法により決定し,あわせて血中成長ホルモン濃度,RNA/Protein,RNAactivityを決定した。(H20年度)また,学習,記憶の神経活動において重要なコリン作動性ニューロンの調節因子として知られている神経成長因子(NGF)について,大脳,海馬で検討した。(H21年度)その結果,大脳,小脳におけるタンパク質合成速度,血中成長ホルモン濃度,およびRNA activityは,20%カゼイン食摂取群に比べGABA添加食摂取で有意に増加した。RNA量は,各群において有意な差はみられなかった。このことから,GABA投与における脳タンパク質合成の促進は,RNA量ではなく,RNA activiyに依存していることが考えられた。またこれらの結果は,GABAによる脳タンパク質合成の調節メカニズムの一つとして,体内成長ホルモン濃度の関与を示しているものと考えられた。らに,大脳,海馬のNGF量は,20%カゼイン食摂取群に比べGABA添加食摂取で有意に増加した。従来からも,コリン作動性ニューロンの神経伝達物質であるアセチルコリンの合成や,ニューロンそのものの維持にNGFが寄与することが報告されており,閉経女性における脳機能の維持においてGABA摂取の重要性が示唆された。