著者
上野 圭吾
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

病原性真菌<i>Cryptococcus gattii</i>は、健常人に感染し予後不良なクリプトコックス症を引き起こす。申請者は、本感染症の予後を改善する樹状細胞 (DC)ワクチンを開発し、その作用機構を解析している。昨年度は、DCワクチンが肺常在性記憶型Th17細胞 (lung TRM17)を誘導することや、lung TRM17の分化維持機構に必要な因子について、国際誌に報告した (Ueno et al., Mucosal Immunol, 2019)。lung TRM17の誘導前期 (ワクチン後2週目) と誘導後期 (ワクチン後15週目)について、IL-17A欠損マウスでの挙動を評価したところ、IL-17A欠損マウスではどちらの時期もlung TRM17の数は有意に少なかった。特に、誘導後期のIL-17A欠損マウスでは、lung TRM17に発現するCD127の発現量が有意に低下し、lung TRM17の数はワクチン非投与群の場合と同等であった。このことは、IL-17Aがlung TRM17の発達や維持に関与することを示唆している。その他、DCワクチンを事前にMHC-II阻害抗体で処理するとlung TRM17の発達が阻害されたことから、DCワクチンによる抗原提示活性がlung TRM17の発達に必要であることも明らかになった。上記の論文では、lung TRM17が好中球の活性化を介して本感染症を制御するモデルを示した。その後の研究では好中球の殺菌機構や分化制御機構についても国際誌に報告した (Ueno et al., Med Mycol, 2019: Sci Rep, 2018)。初年度で開発した新規経鼻 (IN) ワクチンについて、DCワクチン同様に感染予後を改善することが明らかになった (上野ら, 第62回 日本医真菌学会総会, 2018年)。
著者
安藤 馨
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

第一に、当為言明一般について、認知主義に基盤を置く型の混合的表出主義としての実在論的表出主義の説得性を擁護した。第二に、法的言明の意味論について、命令法の意味論的内容としての命法規範についての言明とする、実在論的表出主義による説明を与えた。第三に、ロナルド・ドゥウォーキンが法実証主義に対して提出してきた「理論的不同意問題」が、ハートの法実証主義の非認知主義に基盤を置く型の混合的表出主義の意味論的問題そのものであることを明らかにし、実在論的表出主義がこの問題を回避するための有力な理論的選択肢であることを明らかにした。
著者
横山 俊一
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

楕円曲線とモジュラー形式の双方の計算理論について,保型性による性質の伝搬をヒントとした高速計算理論について,幾つかの成果を得た.楕円曲線側では,主として代数体上の特定の楕円曲線の族を高速に得るためのアルゴリズムの改良を行ったほか,与えられた導手(conductor)をもつ楕円曲線の逆引きアルゴリズムの効率化を得た.一方モジュラー形式側では,主として楕円モジュラー形式の高速計算理論の精密化と,これに伴う Hecke 体の効率的な計算を進めた.また本研究で得られた成果・実装を援用し,楕円曲線暗号(ペアリング暗号)の研究においても成果を与えた.
著者
高田 浩司
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

昨年度から引き続き、各地から出土した弥生・古墳時代の銅鏃について、報告書などから形態・法量・年代等に関するデータの収集を行った。また、重要な資料については、各地の博物館や埋蔵文化財センターが保管する銅鏃を実見して、実測やデジタルカメラによる撮影などを行うなどして資料の調査・記録を行った。以上のデータをパソコンにデータベース化する作業を進め、ほぼ全国の資料について終えることができた。これらの基礎的なデータをもとに銅鏃の製作技術、地域性、生産・流通の検討を行った。従来の研究では、各地で製作されていた弥生時代の銅鏃が古墳時代にいたって畿内を中心とした政治的権力によって一元的に生産され、それが各地に配布されるようになったと指摘されてきた。しかし、製作技術や形態などを詳細に検討すると、古墳時代においても弥生時代と同様に、地域ごとにそれぞれ特徴をもっており、地域性がみられることが判明した。そして、古墳時代も畿内からの一元的な配布のみならず、弥生時代と同じように、列島の各地域でも生産が行われ続けていたことを明らかにすることができた。以上から、弥生時代を経て古墳時代にいたって形成された政治体制の特質は、重要物資の流通に関して、その一部を掌握しつつも弥生時代から続く各地域独自の生産・流通体制を温存しっつ、それをうまく自らの政治システムの中に組み込むことによって政治体制の維持を行っていたという結論にいたった。
著者
張 成
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

セルラネットワークの容量が足りない問題を解決する為に、本研究はモバイルデータオフロードという手法を提案しました。まず、ネットワーク側の観点から、複数モバイルネットワーク事業者のモバイルデータオフロードの問題を考察した。次に、モバイルユーザの視点からWi-Fiオフロード問題を検討した。ユーザの移動パターンが事前にわかっていると仮定し、ユーザのコストを最小化するために、ユーザのオフロード戦略を明らかにした。そして、ユーザユーザの移動パターンは未知であると仮定する。ユーザのオフロード戦略を深い強化学習に基づく方法で解明した。
著者
重村 憲徳
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、マウスを用いて明らかにされた甘味感受特性と甘味受容体(Tlr2/Tlr3ヘテロ二量体)遺伝子多型との相関を"ヒト"において明らかにすることである。方法は、以下の過程で行った:(1)human Tlr2/Tlr3のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型を明らかにする。(2) 見いだされたアミノ酸変異をもったTlr2とTlr3(Tlr mutant)遺伝子発現コンストラクトを作成する。(3) 作成したものを様々な組み合わせでHEK293細胞に導入し、10種類の甘味物質(天然糖、人工甘味料、アミノ酸)に対する応答特性をCa^<2+>イメージング法により検索し、遺伝子多型性とその応答特性との関係について検討する。(1) について:ヒトTlr2/Tlr3のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型解析では、Tlr2に4カ所、Tlr3に2カ所のアミノ酸変異を伴う遺伝子変異が明らかになった。さらに、うま味物質(グルタミ酸、IMPなどアミノ酸や核酸)の受容体は、甘味受容体と共通のTlr3とTlr1のヘテロ二量体であることが報告されているため、Tlr1についても同様に多型解析を行った。この結果、5ケ所のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型が明らかとなった。(2)と(3)について:HEK細胞にTlr2/Tlr3のmutantを発現させたCaイメージング解析では、Tlr2の1つのアミノ酸変異がミラクリン(Tlr2/Tlr3に結合し、酸味を甘味に変えるミラクルフルーツ由来のタンパク質)の効果と関連がある所見が得られた。また、うま味感受性と遺伝子多型性との相関解析では、Tlr1/Tlr3の3つのアミノ酸変異が複合的にうま味感受性と相関している可能性が示唆された。以上のことから、カロリーやタンパク質摂取と密接に関連するヒト甘味、うま味感受性の多様性は、味覚受容体の遺伝子多型性によりもたらされる可能性が強く示唆された。
著者
江藤 祥平
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度の主な実績は、著書『近代立憲主義と他者』(岩波書店、2018)を刊行したところにある。これは過去2年の研究成果の集大成をなすものである。従来の憲法学は、国家権力を「他者」とみなし、「個人」を確立することにもっとも注力してきた。それが人権論の業績であり、この点についてこれまでの憲法学の方向性は間違っていなかったものといえる。他方、国家権力をわがものとして引き受けて論じる傾向は少なかったようにみえる。「抵抗の憲法学」と揶揄されることもあるが、それも全く理由のないことではない。本著書の意義は、ひとえに国家権力そのものを国民が引き受けることの意味を突き詰めて考えたところにある。つまり、国家権力を他者と遠ざけるのではなく、自らそれを引き受けることが、憲法の想定する国民主権に合致するという見方である。その際に用いられたのが、現象学という方法である。物事の本質を見極めようとする現象学の方法は、従来、憲法学で論じられることはほとんどなかった。むしろ政治哲学を重視して、既存の概念の正当化を試みてきたからである。しかし、政治哲学による正当化は、物事の本質、人間の実存の在り方を前提とするだけで、直に捉えることはできない。そこで現象学によって、国家の、人間の本質に迫る必要が生じたわけである。そこから見えてきたのが、人間は自己という観念の内にすでに内なる他者を抱え込んでいるという現象である。これは人間は一人では生きられないという類の議論ではない。およそ人間の本来的な生き方を際立たせようとするなら、不可避的に自己の内なる他者と向き合いざるをえないということである。そこから見えてきた憲法の姿は、これまでのものとはずいぶん異なるものである。一言でいえば、それは無関心でいられない形で、よりよき統治形態を求めて議論する市民の姿である。さらなる詳細は、本著に譲るほかない。
著者
平田 仁胤
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、暗黙のうちに前提とされてきた「学習=個の作業」あるいは脳内にある表象を操作するといった図式を問い直し、学習のメカニズムに状況や他者が不可欠であることを指摘した状況的学習論を批判的に検討することによって、より具体的な学習論を提示することにある。これまで、ヴィゴツキー学派の1人であるユーリア・エンゲストロームの活動理論の検討、そして、それとウィトゲンシュタイン哲学との接続を試みてきた。その結果、異なる状況・文脈においても言語が通用するという原初的信頼の感覚に基づいて、新しい物語を紡ぎだすことで再組織化がなされること、教師の権力・権威概念がその過程において重要であることを明らかにした。平成30年度は、教師の権力・権威に基づく再組織化の過程について、ウィトゲンシュタイン哲学における世界像概念に依拠することによって、さらに精緻化することを試みた。英国ウィトゲンシュタイン学会では共同発表者の1人として”How to Alter Your Worldview: A Wittgensteinian Approach to Education”を発表し、また教育思想史学会のシンポジウム「教育学としてのウィトゲンシュタイン研究――現在の到達点と今後の展開――」では、報告者の1人として「どこからでもない眺め/どこにでもある風景――ウィトゲンシュタインと教育学についての覚書――」の報告を行った。これら2つの学会発表およびシンポジウム報告は現段階では論文化されていないものの、そこで得られた知見の一部を、坂越正樹監修、丸山恭司・山名淳編著『教育的関係の解釈学』(東信堂)の第12章「教育的関係の存立条件に対するルーマン・ウィトゲンシュタイン的アプローチ」として論文化した。
著者
平工 雄介
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

大気中汚染物質の中でも、特に屋内の化学物質による健康障害は緊急に解決されるべき重要な問題である。新築住宅の室内では、建築材料や家具に使用される接着剤や塗装剤などからホルムアルデヒド、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの揮発性有機化合物(VOC)が空気中に放出される。ごれらの物質には少量でも長期にわたり連続的に曝露されるため、発がんなどの健康障害が懸念される。エチルベンゼンはラットで腎に、マウスで肺、肝臓に悪性腫瘍を形成するという報告がある。本研究ではVOC、特にエチルベンゼンによる遺伝子損傷機構をヒトがん関連遺伝子DNA断片を用いて解析した。我々はエチルベンゼンを太陽光に曝露した場合に過酸化水素および過酸化物が生成され、銅存在下で酸化的DNA損傷を起こすことを明らかにした(BBRC 2003)。さらに我々は代謝活性化されたエチルベンゼンによるDNA損傷について検討した。エチルベンゼンはラット肝ミクロソームによりベンゼン環の水酸化を受けてエチルハイドロキノンおよび4-エチルカテコールに代謝されることが判明した。これらの代謝物は銅存在下で酸化的DNA損傷を起こした。生体内還元物質NADHの添加により、4-エチルカテコールによる酸化的DNA損傷は劇的に増強した。酸化的DNA損傷にはこれらの代謝物の酸化還元サイクルに伴い生成されるCu(I)と過酸化水素が関与することが明らかになった(Chem.Biol.Interact.2004)。これらの結果から、VOCの代謝物や光生成物などによる遺伝子損傷が、突然変異を介した発がんおよび免疫細胞の直接的な傷害による免疫能低下をもたらし、両者の相互作用が室内汚染物質による健康障害に関与すると考えられる。また我々は種々の環境発がん因子により生成される活性種がDNA損傷をもたらすことを明らかにし、研究報告を多数行っている。
著者
前田 優香
出版者
国立研究開発法人国立がん研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

自身の免疫を賦活化させてがんを駆逐するがん免疫療法が第4のがん治療として認知され、幅広いがん種に対して治験や承認が進んでいる。よって、一部の患者における強い抗腫瘍免疫応答と共に生じる免疫関連副作用(Immune related adverse event: irAE)のコントロールは喫緊の課題である。これまで、irAEの発生機序やirAEをコントロールするために投与される免疫抑制剤(ステロイド)が抗腫瘍免疫応答に与える影響について詳細な検討はなされてこなかった。 本研究は、マウスモデルを用いてステロイドが免疫チェックポイント阻害剤により誘導された抗腫瘍免疫応答にどのような影響を与えるのかを明らかすることである。これまでに本研究代表者らは純系マウスモデルにおいて免疫療法後腫瘍拒絶をした個体にステロイドを投与すると腫瘍が増悪することを観察している。この結果からステロイドが賦活化された抗腫瘍免疫に対して何らかの影響を与えていることを示唆していた。これまでの研究実績において、ステロイドの投与量・投与時期を比較検討したところステロイドの容量依存的に腫瘍の増悪が見られること・投与時期が後期になれば抗腫瘍免疫への影響がないことを見出した。さらに、脂肪酸代謝経路を介してTCR親和性の低いがん抗原特異的CD8陽性T細胞のメモリー形成を抑制していること・細胞外フラックスアナライザーを用いた検討ではTCR親和性が低い場合にステロイド投与により酸素消費量が低下することを明らかにした。また、臨床検体において免疫チェックポイント 阻害剤投与後のステロイド投与時期やmutation burdenでの生存率の比較検討を行ったところマウスモデルで得られた結果と相関しているというデータを得たため論文投稿をおこなった。
著者
氏家 誠
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

エンベロープウイルスの膜融合蛋白質のheptad-repeat(HR)領域を標的とした抗ウイルスペプチド薬(HRP)は、ウイルスの膜融合活性を阻害する事で、ウイルス感染を抑制する。しかしながら、HRPは、細胞表面から直接侵入するウイルス※には高い抗ウイルス活性を示すが、エンドソームには取り込まれにくいため、エンドサイトーシスで細胞に侵入するエンベロープウイルスにはほとんど効果がない。本研究では、HRPにコレステロール(Chol)を結合することでエンドソーム指向性に改変したHRPを作製し、細胞表面経路又はエンドサイトーシス経路で細胞侵入する各種コロナウイルス(CoV)を用いて抗ウイルス活性を評価した。この結果、HRP-cholは、CoVの細胞表面経路だけでなくエンドサイトーシス経路も効率良く阻止する事を明らかにした。これらの結果から、エンドサイトーシス経路を主な細胞侵入経路とするその他のエンベロープウイルス(インフルエンザウイルス・エボラウイルス等)にも、HRP-cholが応用可能であることが示唆された。※最近の研究では、これまで細胞表面で膜融合を起こし細胞表面から侵入すると考えられてきたHIVやRSVなども、エンドサイトーシスを利用して感染する事が報告されている。ここでは、従来の「エンドサイトーシス侵入経路」と区別するためこれらの細胞侵入方法を「細胞表面侵入経路」とした。
著者
野口 裕記
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

angiotensinII(AGII)は、強い血管収縮作用などにより高血圧症のみならず腎障害、心筋障害も惹起することが知られているが、近年、ALI/ARDS発症にも関与していることが注目されている。今回私どもは敗血症性ALI/ARDS患者の、血中AGII濃度、アンギオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子多型を検討することにより、ALI/ARDSとAGIIとの関連、およびAGII血中濃度に影響を与えるACE遺伝子多型と生存率との関連を検討したところAGIIは、ALI/ARDSで高値を示した。しかしながらACE活性が高いとされる(D/D)genotypeにALI/ARDS発症が多いわけではなかった。
著者
秋山 庸子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では「触感重視型材料」の設計の手法を確立することを目的とし,触感と材料の微構造の関係について検討した。皮膚に塗布して用いる製剤においては,皮膚の製剤によるぬれ性が触感に大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。製剤の皮膚表面におけるレオロジー特性も,皮膚に対するぬれ性により変化することが分かり,皮膚の界面化学的性質が触感に及ぼす影響が明らかになった。また「しっとり感」と「べたつき」のように,統計学的には類似した性質を持にもかかわらず,前者は快,後者は不快をそれぞれ示すような官能評価項目について,物理的な現象の違いを検討し,それぞれの官能値と高い相関を持つパラメータを明らかにした。
著者
栃木 衛
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

自閉症遺伝研究において父親の生殖細胞(精子)を用いてエピジェネティックな解析を行うことの意義について理論的検討を行うと共に、マイクロアレイを用いたDNAメチル化のゲノムワイドな定量方法の確立を目指し、血液由来DNAを対象としてマイクロアレイによるメチル化解析の予備的検討を行った。定量方法の検討の結果では、同一サンプルであっても必ずしも十分な再現性が得られない場合があり、評価方法にさらなる検討を要することが判明した。
著者
坂巻 路可
出版者
西南女学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ハルマンとノルハルマンはヘテロサイクリックアミンの一つでタバコ煙中や調理した食品中、酒等のアルコール飲料にも含まれ、代謝されるとアニリンと結合して変異原物質となり、DNA損傷性を著しく増強し癌化の原因となることが知られている。また、パーキンソン症候群様の振戦や幻覚症状を引き起こすことや、それらを含むパッションフルーツのサプリメントによる鎮静作用も報告される等、神経系への影響も示唆されている。本研究では昨年度に引き続きβ-carboline化合物のカテコールアミン神経系への作用についてウシ副腎の初代培養細胞を用いて検討した。(1)Norharman≒Harman>Harmine≧Harmaline>Harmolの順でβ-carboline化合物はアセチルコリン受容体刺激によるカテコールアミン分泌を抑制した。(2)Norharmanはニコチン性アセチルコリン受容体刺激や電位依存性Naチャネルの活性化によって引き起こされるカテコールアミン分泌、Ca influxとNa influxをいずれも濃度依存的(10-100 μM)に抑制し、電位依存性Caチャネルの活性化によって引き起こされるカテコールアミン分泌とCa influxは100 μMでのみ抑制した。ニコチン性アセチルコリン受容体刺激による分泌反応抑制は非拮抗阻害であった。(3)Norharmanはカテコールアミン生合成を濃度依存的(10-100 μM)に抑制した。(4)Norharmanはアセチルコリンによるチロシン水酸化酵素の活性化を抑制した。この抑制作用はチロシン水酸化酵素ser40のリン酸化阻害によるものであった。以上のことから、ノルハルマンはニコチン性アセチルコリン受容体を介するNa^+,Ca^<2+>流入を阻害することにより、カテコールアミン分泌・生合成を抑制することが示された。
著者
阿部 智和
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,開発組織を対象として,オフィス空間の物理的特性がそこで働く者のコミュニケーション・パターンにどのような影響を及ぼすかということを実証的に明らかにした.より具体的には,職務遂行上で重要な内容に関するコミュニケーションについて,(1)組織メンバーの物理的距離が隔たるほど対面コミュニケーションの発生回数は劇的に低下すること,(2)距離が隔たることによる対面コミュニケーションへの影響は組織設計によって減じることはできないこと,等を明らかにした.
著者
三好 知一郎
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

多くの真核生物にはレトロトランスポゾンとよばれるゲノム上のある場所から別の場所へと転移する因子が存在し、これらはときにがんなどの疾患の変異原として作用することが分かっているが、その転移機構は依然として不明である。本研究ではこの中でも現生人類で自律的に転移するLINE-1レトロトランスポゾンの転移機構解明に主眼をあて研究を行った。その過程で、1)DNA損傷を認識しこれを修復する多くの因子がLINE-1と物理的に相互作用すること、2)その中でもPARP1、PARP2という因子が転移に重要な働きをしていることが分かり、それらが関与する新たなDNA修復機構のモデルを提唱するに至った。
著者
池本 敦
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

必須脂肪酸にはリノール酸やアラキドン酸に代表されるn-6系列及びα-リノレン酸やEPA・DHAなどのn-3系列の2つが存在する。アラキドン酸からは様々な生理活性を持つホルモン様物質が産生されるが、その一つである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は、脳内でカンナビノイド受容体(CB1)を活性化する内在性リガンドであることが報告され、CB1を刺激すると食欲が亢進することが報告されていた。この過程に及ぼす食事必須脂肪酸バランスの影響を調べたところ、n-6/n-3比が高いと脳内2-AG含量が増加し、ラットの摂食行動が促進されることが分かった。2-AGの作用に対して拮抗抑制的に作用するCB1アンタゴニストであるSR141716Aを投与すると、摂食行動の亢進は抑制された。また、脂肪細胞の分化に及ぼす多価不飽和脂肪酸に影響を見たところ、飽和・一価不飽和脂肪酸及びn-6系列多価不飽和脂肪酸は分化を促進した。一方で、n-3系列多価不飽和脂肪酸のDHAは脂肪細胞の分化を顕著に抑制することが示された。マウスを用いた動物実験でも、飽和・一価不飽和脂肪酸やn-6系列多価不飽和脂肪酸を多く含有した動物性脂肪や植物油を摂取した場合と比較して、n-3系列多価不飽和脂肪酸であるDHAを豊富に含有する魚油を与えた場合には、脂肪組織の重量が低い値を示した。以上のように、n-3系列脂肪酸を多く摂取し、食事必須脂肪酸のn-6/n-3比を低下させると、食欲を抑制するのと同時に脂肪細胞の分化や脂肪蓄積を抑制することで、肥満症の予防に有効であることが分かった。このことは人を対象とした食事調査でも確認され、飽和・一価不飽和脂肪酸やn-6系列多価不飽和脂肪酸を多く含有した動物性脂肪・植物油や肉類を多く摂取する食習慣を持つ人は、魚介類を多く摂取する人と比較して肥満度が高い傾向が観察された。
著者
新井 英一
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

骨粗鬆症は高齢化社会が進む現代にて、寝たきりや他の合併症を誘発する極めて問題となる疾患である。なかでもその治療薬として使用されているビタミンDは腸管からのカルシウム吸収促進および骨での石灰化を促進させる栄養素である。本研究では、ビタミンD受容体(VDR)遺伝子の腸管特異的発現に対するエストロゲンの作用について検討を行ってきた。前年度、腸管での大腸癌由来上皮細胞株(Caco-2)内にエストロゲン添加によるVDR mRNAの発現が増加したことを報告したが、VDR遺伝子5'-転写調節領域におけるエストロゲンの応答領域は同定できなかった。本年度はVDR発現を増加させるエストロゲンの間接的な機構の存在が考えられたため、ホメオボックス遺伝子であるCdx-2の5'-転写調節領域のクローニングを行い、これを含むリポーターベクターを作成し、さらにCaco-2細胞に導入後、エストロゲンの添加による転写活性をルシフェラーゼアッセイにより解析した。その結果、エストロゲン添加によるCdx-2の発現が有意に上昇する事が見出された。そこで、現在種々の異なったサイズのCdx-2遺伝子5'-転写調節領域を含むリポーターベクターを作成し、この領域におけるエストロゲン応答配列の同定を行っている。以上のことより、腸管でのVDRの発現はCdx-2のみならず、エストロゲンによるCdx-2を介した二重支配の調節を受けることが示唆され、さらに閉経後骨粗鬆症患者では、エストロゲンの欠乏により、腸管でのVDRを介したカルシウム吸収の低下を引き起こしていることが考えられた。今後はこのような閉経後の患者におけるカルシウム吸収を上げるような食品ならびにエストロゲンに変わる吸収促進機構を解明する必要があると思われる。
著者
伊角 彩
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2年目である今年度は、幼少期の被虐待経験によって生じる高齢者の医療コストの推計について、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study; 日本老年学的評価研究)の2013年度調査データと調査協力自治体であるK市の前期高齢者における国民健康保険のレセプトデータを連結したデータを用いて、より正確な統計モデルを用いて再度分析を行った。その結果、高齢者の属性(年齢・性別)を考慮しても、いずれかの被虐待経験を持つ高齢者(N=176)は被虐待経験を持たない高齢者(N=802)に比べて、より多くの医療費がかかっていることが確認された。同様に各虐待の影響を検討したところ、心理的ネグレクトを幼少期に経験した高齢者の医療費は、属性(年齢・性別)を考慮しても、そうでない高齢者の医療費と比較して高くなる傾向にあった。身体的虐待と医療費については、高齢者の属性(年齢・性別)を考慮すると統計的に有意な関連が見られなくなった。家庭内暴力の目撃と心理的虐待については、被虐待群とそうでない群で医療費に有意な差が見られなかった。さらに、どのような疾患が医療費の増加に寄与しているかについても、虐待種類別に検討した。最後に、これらの結果をもとに、幼少期の被虐待経験によって生じる高齢期の年間医療コストが日本全体でいくらになるかについて推計を行い、幼少期の虐待が個人の健康に及ぼす長期的影響だけでなく、その影響が日本社会に及ぼす影響まで可視化することができた。