著者
林 昭次 佐藤 たまき 中島 保寿 サンダー マーティン フサイヤ アレクサンドラ ウィンリッチ タンニャ
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

首長竜類は中生代の海生爬虫類の中で最も多様化した仲間である。これまでは、他の海生脊椎動物のように首長竜類の骨組織が海綿化することで、高速遊泳に適応していたと考えられていた。しかし、系統進化に伴って首長竜類の骨組織を観察した本研究で、その進化はより複雑なものであることが明らかになった。また、四肢骨内部に見られる成長停止線を観察すると、生後一年で成体の70%ほどの大きさになり、成体まで4~6年で急成長することが明らかになった。このような急激な成長は内温動物でしか観察されないため、首長竜類も内温動物であった可能性が高く、内温性への進化は外洋域への適応と関連していた可能性が本研究によって指摘できた。
著者
仁平 政人
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、1920年代の日本のモダニズム文学における「東洋」や「伝統」に関する言説について、他の芸術や学問領域との関係を視野に入れて調査・分析を行った。モダニズムを「都市文化」や「西洋近代への志向」と結びつける通説に反して、日本のモダニズム文学においては、「東洋」や「伝統」を価値化する言説が数多く存在する。この研究では、文芸雑誌や同人誌などの幅広い調査を通して、こうした言説の実態を把握し、個々の事例について、その論理と同時代的な意義を検討した。
著者
阿部 小涼
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度は、昨年度の継続として、ニューヨークにおけるコミュニティ活動に従事したプエルトリカンと、アフリカ系アメリカ人との交流・交渉から生まれるアイデンティティ構築と政治活動について分析を行った。なかでも、社会活動家であり、ジャーナリスト、詩人という多面性を持つヘスス・コロンという人物に焦点を当て、その作品を通して、1930年代以降のニューヨークというコンテクストに置かれたプエルトリカンの、人種意識と政治への関与を考察した。その際には、同時代を生き、ハーレム・ルネサンスの高揚を支えた人物としてアフリカ系アメリカ人研究では著名なA・ショーンバーグが、黒人としての人種意識に基づいて活動したことが、対照的な存在として言及されるが、それによって、ヘスス・コロンが人種問題よりも社会主義を重要視して活動したという一般的な理解では充分ではない、プエルトリカン固有の人種意識の困難さを明かにした。差別に曝されたアメリカ社会において、自らの白人性に執着したとみなされがちなプエルトリカン移民は、その政治的実践においてはむしろ黒人性への覚醒、アイデンティティ構築というコンテクストに照らすことで、その思想的状況をより豊かに析出可能となるのである。さらに、1960年代の公民権運動のなかで登場するコミュニティ自助組織「ヤング・ローズ」の、社会運動への影響力も重要であった。ブラックパンサー党への敬意から誕生したこの組織は、コミュニティにおける生活の問題を、アイデンティティの政治という表現を用いて主張してきた人々であった。その主張内容は、人種意識の特徴、人種の多様性についての認識を踏まえた、新しい社会運動への萌芽として重要であり、今後の研究の方向に指針を得ることが出来た。最終年度となる今年度は、これまでの3年間の研究をまとめる作業を行い、国際学会その他でのプレゼンテーションを実施したほか、雑誌論文として発表した。また、成果の一部は、出版準備中の本のなかの1章として、現在編集中の段階である。
著者
堀田 かおり
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、研究実施3年目である。昨年度までは、本研究に関連する先行研究の文献検討等を行い、その成果を日本地域看護学会で発表した。また、本年度は、男性高齢者が地域で健康に生活を送るための強みを明らかにし、主体的な健康づくりを支援するあり方を検討するために、7名の男性高齢者を対象にフォトボイスの手法を用いて調査を行った。フォトボイスとは、住民が一定のテーマで写真を撮影して説明を付け、その写真と説明をもとにグループで討議をすることによって地域の強みや課題を共有し、解決方法を住民自らが発見する手法であり、地域住民と研究者がともに取り組む活動である。各対象者が「自分らしい健康的な生活するために取り組んでいることまたは関心を持っていること」を男性高齢者の強みとして定義し、日常生活の中で強みであると考えられる場面を写真撮影した。その後、各自で撮影した写真を持ち寄り、写真を示しながら写真が写し出しているものや生活との関係性を紹介した。それらの紹介をもとに「自分らしく健康的に生活を送るためには何ができるのか」について90分程度のグループ討議を1回行った。このグループ討議の内容を分析し、考察することによって、男性高齢者が主体的な健康づくりを行うために保健師が実施する支援のあり方を検討できると考えられる。また、男性高齢者が健康的で自立した生活を送り、住み慣れた地域社会で活躍することは、生きがいの形成にもつながり健康寿命の延伸にも寄与すると考えられる。
著者
小嶋 篤
出版者
福岡県立アジア文化交流センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

大宰府の軍備は、白村江の戦い(663年)を経た「大宰府都城の造営事業(7世紀後半~8世紀第1四半期)」で整えられ、兵器生産は筑紫大宰傘下の工房が主体的に担った。大宰府に備蓄された兵器は、7世紀後半に生産されたものを多量に含み、8世紀以降の兵器も含まれる。つまり、大宰府保有兵器は、「大宰府都城の造営事業」の過程で確保された兵器を中核として、奈良時代(8世紀)を通じて補修と補充により、長期間維持されたと結論できる。大宰府に備蓄された兵器は、平時においては大宰府常備軍により守衛され、戦時下では朝廷からの勅により戦時編成された軍団によって運用されたと考えられる。
著者
菊水 健史
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

われわれは初生期環境の研究モデルとして,幼少期の早期離乳ストレスに注目し,ストレスを負荷されたマウスおよびラットでは数種の不安行動試験において不安傾向が上昇すること(Physiol. Behav. in press),その変化は成熟後長期にわたり持続すること,縄張り性の攻撃行動が変容すること(J. Vet. Med. Sci, in press)を既に見出してきた。同じくマウスにおいてこのような早期離乳ストレスが、成長後のメスにおける母性行動およびオスにおける性行動の発現を抑制することを見出し、早期離乳が繁殖活動を抑制することが明らかとなった。また我々は幼少期における母子分離ストレスによって精神覚醒作用をもつコカインに対する感受性が増加し,薬物依存のモデルとされる行動感作が脆弱化する事も明らかにしてきた(Psychopharmacology under reviewing)。また同様に早期離乳ストレスを負荷されたラットにおいても、数種不安評価テストにおいて不安行動が上昇していることが確認された(Behavioral Brain Research, under reviewing)。次にテレメトリー発信機をラット体内に埋め込むことで,自由行動下における自律神経系の変動が測定可能なシステムをセットアップし、精神的ストレスに対する自律機能の反応性を調べた(Physiol. Behav.2000)。早期離乳されたラットを新規環境や警報フェロモンに暴露すると、特異的な体温上昇が観察され、またそれと並行して行動学的にも動物が緊張状態を示していることが明らかとなった。離乳期前後にラットの母親は母性フェロモンを糞中に放出することが知られており、その成分はデオキシコール酸であるとの報告がある。上記早期離乳群においては、離乳期の母性フェロモンを摂取することができなくなることが想定された。そこで早期離乳群に母性フェロモンのデオキシコール酸を餌に添加した群を設け,成長後の情動行動に対するフェロモン効果を調べた。デオキシコール酸添加群では不安行動の軽減および攻撃行動の抑制が認められ、母性フェロモンが成長後の行動様式に大きな影響を及ぼすことが示唆された。これらのことから離乳前後における親子間の社会的接触を剥奪することにより、仔の成長後の行動・自律機能・生殖内分泌といった生体機能全般にストレス反応の増大が引き起こされることが明らかとなった。
著者
石井 敦士
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

小児交互性片麻痺(AHC)は生後早期の異常な眼球運動で発症することが多く、1歳半までに発作性の片麻痺を呈す。また、てんかんや多彩な不随意運動を随伴症状とする。特異的検査所見はなく、治療法も確立されたものはない。我々はAHC責任遺伝子を同定することを目的に、次世代シークエンサーでの全エクソーム解析をAHC患者8名に対して施行した。その結果、8名全員でATP1A3遺伝子にミスセンス変異をヘテロ接合で認めた。両親に変異は存在せず、ATP1A3遺伝子のヘテロ接合での新生ミスセンス変異がAHCを引き起こすことが解明できた。また、遺伝子型と表現型解析によりE815K変異患者では有意な相関を認めた。
著者
松尾 洋介
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

茶葉の焙煎処理による茶葉ポリフェノール成分の化学変化の詳細を解明することを目的として、実際の茶葉の焙煎処理を模倣した、試験管内におけるモデル実験を行った。茶の主要アミノ酸のテアニンと、茶カテキンのエピガロカテキンガレートの混合物を加熱した結果、テアニンとエピガロカテキンガレートが縮合した6種の化合物が得られた。これらの生成物のうち、2種はp-キノン型構造を持つ赤色色素であった。本色素は茶葉の焙煎による色調の変化に大きく寄与していると考えられる。続いて、茶葉に含まれる遊離糖の一つであるグルコースとエピガロカテキンガレートの混合物を加熱処理したところ、エピガロカテキンガレートのA環6位または8位にグルコースが結合したものなどが生成した。さらに、EGCg、テアニン、グルコースの三種類を混合して加熱したところ、二種類を混合した場合とは生成物が大きく異なることが分かった。三種混合の場合、まずテアニンとグルコースとの間でアミノ・カルボニル反応が起こり1-エチル-5-ヒドロキシ-2-ピロリジノンが生成後、EGCgのA環8位(及び6位)と縮合して生成したと考えられた。
著者
西澤 大輔
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

CREB1、CREB3、CREB5、ATF2(CREB2)等の遺伝子領域の遺伝子多型解析の結果、CREB1遺伝子近傍のrs2952768多型に関して、Cアレルの保有者では、非保有者と比較して、下顎形成外科手術のみならず開腹手術の症例においてもオピオイド鎮痛薬必要量が多かった他、覚醒剤依存症患者において多剤乱用者が少なく、アルコール依存症患者において薬物乱用者が少なく、また摂食障害患者においては、薬物依存症を合併している患者が少ないなど、この多型が物質依存重症度を示す指標と関連することがわかった。さらに、この多型のCアレルのホモ接合の保有者では、CREB1遺伝子のmRNA発現量が有意に多かった。
著者
津徳 亮成
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

骨形成促進薬であるPTHを骨粗鬆症モデルラット(OVXラット)に使用し、骨再生、骨増生およびインプラント周囲骨への効果を検証した。卵巣を摘出したOVXラットを用いて、ラット頭頂骨に作成した骨欠損に対する骨再生および骨増生の検証を行った。その結果、OVXラットにおいて,骨再生および骨外側方向への骨増生が健常ラットと比較して抑制されることが示された。また、OVXラットに対してPTHの投与を行うことにより、骨増生が健常ラットと比較し、有意に促進することが実証された。インプラント周囲骨は、PTHの投与によりOVXラットにおいてもオッセオインテグレーションの確立を示唆した。
著者
上崎 千
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

旧草月会館ホール(赤坂)を拠点に「前衛」の実験場・発信基地となった草月アートセンター(c.1958~71年)の計305催事について、残された資料群の非選択的な調査・研究を実施した。研究プロセスそのものが「アーカイヴ」の似姿をとる本研究の成果として、催事毎の単位で編成された物理的資料体と総目録(計4582アイテム)、催事毎に集積された関連文献情報(計2147レコード)、「前衛」を網羅的に扱うデータベースの論理的構造(スキーマ)の設計案などが挙げられる。またニューヨーク近代美術館との連携により、本研究において作成された各種レコード、催事印刷物(エフェメラ類)のデジタル画像のウェブ公開が実現された。
著者
伊丹 貴晴
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

アシドーシスはカテコラミン反応性を減弱させ心収縮力を低下させることが知られている。本研究では、カテコラミンβ1受容体を介さずにアデニル酸シクラーゼを賦活化することで強心・血管拡張作用を得るコルホルシン(COLF)のアシドーシス時における心機能改善効果を検討した。6頭のビーグル犬に正常時と呼吸性アシドーシス時とにおいてCOLFとカテコラミンであるドブタミン(DOB)とを交互に投与した。両薬剤とも用量依存性に心拍出量および心拍数を増加させ、全身血管抵抗を低下させたが、その作用は正常時と比較してアシドーシス時では抑制された。DOBは用量依存性に肺動脈圧を増加させたが、COLFでは増加させなかった。
著者
柳澤 修
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

レジスタンス運動後のクライオセラピーが、筋の疲労軽減および損傷軽減に効果的であるのかを検討した。短縮性のレジスタンス運動間に行った筋冷却は、冷却後の運動における筋エネルギー代謝に作用し、筋持久力の維持に効果的である可能性を示したが、主観的疲労度の軽減に関しては有効な介入手段にならなかった。一方、伸張性のレジスタンス運動後に実施した筋冷却は、筋痛を軽減させる傾向は示したが、筋痛時の筋機能(筋エネルギー代謝能力、力発揮能力)に対して有効な介入効果を示さなかった。
著者
成瀬 廣亮
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

注意欠陥多動性障害(以下、ADHD)を持つ児童を対象に、運動機能の特性を同年代の定型発達児(以下、TD)と比較検討した。対象は、7歳から12歳までの通常学級に通う児童を対象とし、解析には、ADHD男児19名(平均年齢9.7歳)、TD男児21名(平均年齢10.7歳)の測定データを使用した。ADHD児ではTD児と比べ、運動機能検査が有意に低値であり、特に巧緻動作やボールスキルで有意に低値であった。歩行解析では、ADHD児ではTD児と比べ、1分間に出す歩数、骨盤前傾角度、股関節角度が有意に高値であった。追加解析にて、骨盤前傾角度が、ADHD症状と有意に相関し、ADHD特異的であることが示唆された。
著者
高前田 伸也
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

FPGAがもつオンチップメモリや再構成可能ロジックなどのリソースを最大限活用し最大性能を達成する,マルチパラダイム型高位設計フレームワークの実現に向けて研究を行った.研究代表者が以前より開発を進めている,プログラミング言語Python上のドメイン固有言語として実装したハードウェア設計ライブラリVeriloggenをベースとして,逐次処理,ストリーム処理,レジスタ転送レベルの3つの異なるパラダイムを持つ高位合成コンパイラを実現した.また,本フレームワークをバックエンドとして用いて,ディープニューラルネットワークを主な対象とした,データフロー型ハードウェア・コンパイラの開発に取り組んだ.
著者
庄司 翼
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

植物由来の天然物は古来より医薬、嗜好品、染料として利用されてきた。特に、12,000種類余の構造が知られるアルカロイドは、多くの有用生理活性物質を含んでいる。我々は、低ニコチンタバコ品種に利用されてきた遺伝子座にERF型転写因子が存在することを解明した。この転写因子はインドールアルカロイド合成のマスター遺伝子ORCA3と高い相同性を示す。マスター遺伝子を利用した次世代代謝工学が期待される。
著者
酒井 麻衣
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

伊豆諸島御蔵島のミナミハンドウイルカは、胸ビレで相手をこする社会行動(ラビング)を、左ヒレで行う傾向がある。この現象が、イルカに共通して現れる行動形式なのか、後天的に獲得された行動が伝播した個体群特有の行動形式(文化)であるのかを明らかにする。そのために、ラビングの左右性の発達・個体群間比較・種間比較を行う。本年度は、御蔵島に約40日間滞在しミナミハンドウイルカの水中行動のビデオデータを収集した。また、能登島に定住する本種8個体に対し予備調査を行い、水中観察可能であることを確認した。篠原正典氏より本種の小笠原個体群の水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を解析中である。鳥羽水族館のイロワケイルカ4個体(オトナオス1、ワカオス1、オトナメス2)を対象に、ラビングのビデオ撮影及び目視観察を行った。その結果、オトナオスは154例のうち97%、ワカオスは74例中81%で左ヒレを使用することがわかった。オトナメスは12例中42%、11例中82%で左ヒレを使用した。今後、メスのデータを増やす予定である。Kathleen Dudzinski氏より、野外の生簀に蓄養されているハンドウイルカ27個体の水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を分析した。その結果、左ヒレを使用した例は735例中54%で大きな偏りはなかった。23個体の使用ヒレの偏りを検定したところ、1個体のみ有意に左ヒレを多く使用していたが、有意に右ヒレを多く使用する個体はいなかった。Kathleen Dudzinski氏より、バハマの野生マダライルカの水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を分析した。その結果、左ヒレを使用した例は499例中53%で大きな偏りはなかった。18個体において使用ヒレの偏りを検定したところ、2個体のみ有意に左ヒレを多く使用していたが、有意に右ヒレを多く使用する個体はいなかった。今年度の解析で、使用ヒレの左右性は、種によって違いがあることが示唆された。
著者
木口 学
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度は溶液内においてFe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh遷移金属のナノ接合を電気化学STMを用いて作製した。その結果、水素発生条件のもとで超高真空、極低温と同様の量子化伝導を観測することに成功した。従来、室温ではこれら遷移金属の量子化伝導を測定した例は少なく、溶液内室温でナノ接合を安定化した意義は大きい。溶液内水素条件では擬似的に超高真空、極低温と同じような環境が実現したものと考えている。特にNi,Pdの場合は単原子ワイヤー形成を示唆する結果が得られた。金属の単原子ワイヤーはこれまでAu,Pt,Irなど一部の金属に限られ、遷移金属の単原子ナノワイヤー作製に成功した例はない。本研究の結果は、溶液内が新たなナノ構造形成の場となりうる事を示している。また昨年度まで作製法を確立した金属ナノ接合を利用して単分子の伝導度計測も今年度は行った。現在、分子エレクトロニクスヘの応用から単分子の伝導特性が注目を集めている。しかし分子の存在、架橋状態が不明、分子と金属の接合部がAu-Sに限定など単分子の伝導特性の研究には課題が多い。今年度、超高真空、極低温において単分子の振動スペクトルと伝導度の同時計測の研究をおこなった。そしてPt電極に架橋した水素、ベンゼンについて架橋状態を規定して単分子の伝導度を決定することに成功した。また溶液内において新たなアンカー部位の探索を目指して単分子伝導計測を行った。電極金属としてよりフェルミ準位の状態密度が高いPt,Ni、末端部位としてNC,NH_2,COOHなどに注目して実験を行った。その結果、Au-CN,Pt-CN,Pt-Sなどの新規接続部位をもつ単分子伝導計測に成功し、特にPt-Sでは従来のAu-Sより1桁高い伝導特性を示すことを明らかにした。
著者
稲増 一憲
出版者
関西学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は2波のウェブ調査を行い、インターネット上のさまざまなサービスが、有権者のニュース志向・娯楽志向という選好に基づく選択的接触を生じさせ、政治知識や国際問題に対する知識の差を拡大/縮小するのかということを検証した。調査の結果、ポータルサイトや新聞社サイトの利用は知識の差を縮小する一方で、twitterやニュース・キュレーションアプリの利用は知識の差を拡大するという結果が見られた。ただし、これは1波調査の結果であり、2波では知識項目の違いなどにより、結果が再現されなかった面が存在しており、この点について今後検討を進めていく必要がある。
著者
藤本 孝子
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

Zucker fattyラットを用いて、インスリン抵抗性に対する和漢薬の効果を検討した。その結果、八味地黄丸に高インスリン血症改善作用、黄連解毒湯、桂枝茯苓丸、大柴胡湯、八味地黄丸、防已黄耆湯に脂質代謝を是正する作用が認められ、これらの作用によりインスリン抵抗性に好影響を与える可能性を示唆する知見が得られた。さらに、八味地黄丸ならびに防已黄耆湯投与後の脂肪組織における遺伝子発現をDNAマイクロアレイにより網羅的に解析した結果、和漢薬の投与により遺伝子発現が異なっており、これらの変化がインスリン抵抗性における作用発現の相違に関与している可能性が示唆された。