著者
沢井 芳男 外間 安次 鳥羽 通久 川村 善治
出版者
(財)日本蛇族学術研究所
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

本研究はヤマカガシ咬症の重症患者の治療血清の試作を行うためにヤマカガドウベルノイ腺から毒液を抽出し, ウサギ及びヤギを免役し, その血清を採集し, 硫酸ナトリウム, 硫酸アンモニウムによる分画及びペプシン消化法によってγ-グロブリンを分画精製し高力価の抗毒素を得た. その結果ウサギ抗毒素0.2mlは120μg(48mld)の毒量を中和した. またヤギ抗毒素0.1mlは220μg(73.3mld)の毒の致死を中和し, 216μg(47mhd)の毒の出血を抑えた. また抗凝固性は抗毒素0.05mlは119.3μg(108.5u)の毒による凝固を阻止した. また抗毒素の精製度については電気泳動の結果γ-グリブロンの単一のピークが得られた. しかし免疫電気泳動では抗ウサギγ-グロブリン(IgG)ヤギ血清に対し, ウサギ抗毒素は特異時的な反応帯が認められたが, 抗ウサギ血清に対してはγ-グロブリン以外の混入が認められた.なお本抗毒素にはさらに治療用毒素に必要な所定の検査を行い, 長期保存にたえるように凍結乾燥を行った. その間に発生したヤマカガシ咬症患者の重症例の治療に応用し, その治療効果を確かめることができた. すなわち本抗毒素は患者の出血性素因及び血液の凝固異常を速やかに回復し, 患者を治癒に導いた.
著者
坂口 孝司 中島 暉 鶴田 猛彦 平田 豊
出版者
宮崎医科大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1989

世界的にエネルギ-資源の枯渇が予想される現在,ウラン,トリウムなどの未利用核燃料資源の開発利用は,われわれ人類に課せられた重要な研究課題である。一方,核燃料資源の精錬,加工に伴って排出されるウランなどの放射性核種は人類の生存に大きな脅威を与えている。当研究グル-プは,タンニンなどのポリヒドロキシフェニル基を多数もっている生体系物質が優れたウラン吸着能をもっていることを見出し,これらの基礎的知見にもとずいて,柿渋などのタンニン系化合物を基材とする新規のウラン吸着剤を開発した。なかでも柿渋タンニン系吸着剤(固定化柿渋)は極めて優れたウラン吸着能を示し,1gの吸着剤当りに1.7gのウランを吸着することができる。平成元年度から動力炉・核燃料開発事業団人形峠事業所の協力を得て,ウラン含有廃水からのウラン回収の現地テストを行い,次の成果を得た。(1)該吸着剤は10〜15ppbレベル,数十ppmレベルの廃水中のウランを効率的に回収除去することができる。(2)該吸着剤に吸着されたウランは0.1N程度の希酸によって容易に脱着することができ,吸脱着操作を繰り返し行うことができる。含ウラン廃水からのウラン吸脱着を17回繰り返しても該吸着剤のウラン吸着能の劣化はほとんど認められない。(3)該吸着剤はpH5〜8の広い範囲でウランを吸着することができる。これらの基礎的知見にもとずいて,本法の実用化のための基礎条件を解析した。その結果,該吸着剤は,バッチ法,カラム法によるウランの回収除去に適用できること,ベット多段処理方式,軟質ゲル固液処理方式などの方式で固定化柿渋吸着剤と含ウラン廃水との固液接触を容易にすることにより,極めて効率的にウランを回収できることが明らかになった。以上の研究により,固定化柿渋は含ウラン廃水の処理に実用化できることが示唆された。
著者
森井 宣治 (1987) 森井 宜治 宮内 太積 澤 洋一郎 松平 秀雄
出版者
沼津工業高等専門学校
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

地上の転校に影響され難く, その敷設計画が既設の建築物によって左右され難い地下鉄網は都市部の安定した交通・輸送機関として重要である. その敷設の経済効率を上げるために地下鉄トンネルの径を小さくし, 閉塞率を大きくすることが求められるが, それは列車の運動によって誘起される気流, 列車風, を強くすることになる. 列車風は乗降客に不快感をもたらし駅部の空調負荷を増大させる. それは地下鉄系内の火災時における煙の挙動を複雑にし, 乗降客の避難や消化活動を困難にし, 被害を拡大する要因となり得る. 1987年11月18日, ロンドンのキングス・クロス駅で発生した火災は死者31名, 負傷者23名を出す大惨事となった. この火災においても, 列車風が火災規模を拡大した. 列車風の挙動をより正確に把握することが大きな人的, 経済的損害をもたらす地下鉄火災に対応するために必要である. 本研究の目的は, 列車の運動が誘起する地下鉄列車風の挙動を理論的にも実験的にも正確に把握し, 地下鉄計における換気, 空調及び防災対策等を検討する上で有用な設計指針を与えることにある. 本研究の主要な成果は以下の通りである. 1)トンネル内で運動する列車が誘起する気流の発生機構を理論的に解明した. 地下鉄列車の運動がトンネル内に誘起する気流の挙動を解析するために, 気体を理想気体とみなして基礎的な考察を行い, 列車風を1次元・圧縮性流体として取り扱う理論を提示した. 2)列車の運動と気流の挙動との関わりについて模型実験及び実地計測を通じて明らかにし, 理論の妥当性を検証した. 模型実験装置を用いて, 地下鉄構造・列車運行による列車風現象の相違点を明確にした. 実験データの自動処理をおこなった. また, 帝都交通鉄道営団・東西線木場駅にち, 実地計測を行なった. 3)地下鉄駅各部における火災を模擬した模型実験を行ない, 地下鉄系における防災対策を検討する上で, これらの理論と模型実験の有用性を示した.
著者
松村 多美恵 菅井 勝雄 (1984) 本田 敏明 菅井 勝雄 新妻 陸利 馬場 道夫
出版者
茨城大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1984

今回の研究は、IRE-【I】(Ibaraki Daigaku Response Environment-【I】)、IRE-【II】に続くIRE-【III】の開発に関するものである。最終年度である昭和61年度は、昭和59年度および昭和60年度に開発されたタッチスクリーン式コンピュータディスプレイ装置を用いて、実用化に向け、本格的な実験を行うとともに、本システムによる学習効果を実証するため、教材とされた生活単元学習としての「宿泊学習」での実際の宿泊場面や授業場面における児童の行動をビデオに記録し、分析した。具体的には、(1)F養護学校小学部における「宿泊学習」の事前と事後にプログラム学習(ことばと動画の対応、および次の行動の予測の動画選択)を実施した結果、学習成積の改善が見られるとともに、反応時間に関しても、反応時間が短かくなり、標準偏差も小さくなった。(2)児童の宿泊場面における行動を17項目の児童に対する質問調査、25項目のVTR反復視聴分析、および担任教師による21項目の行動評価によって検討した結果、多くの場面で自律性の向上が見られた。(3)実験群と統制群を設定し、実験群にみるプログラム学習を実施したところ、実験群において、生活単元学習としての「宿泊学習」の第1回の授業場面の行動がすぐれていた。すなわち、発語や指さしをしながら積極的に授業に参加している行動が、統制群より統計的に有意に多かった。以上の結果により、本システムの有効性が認められた。従来の視聴覚的方法であれば、宿泊学習のビデオを事前に視聴して、その効果を調査するという方法をとったであろうが、本システムは、場面を分解整理した上、児童自らが、タッチスクリーンに反応し、選択視聴するという方法をとり、児童の大きな興味を引いたように思われる。本結果の一部は、日本教育工学会(1986)において発表された。
著者
見上 彪 岡崎 克則 中島 員洋 松田 治男 平井 莞二 高橋 英司 東原 朋子
出版者
東京大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1989

現在,マレック病ウイルス(MDV)に起因する鶏のマレック病(MD)の予防には,主として七面鳥ヘルペスウイルス(HVT)の単価ワクチンが野外で広く用いられている。しかし現行のワクチンでは予防し得ない超強毒MDVによるMDが存在する。本研究はこのようなMDに対応し得るワクチン,組み換え体ワクチン,多価ワクチンあるいは成分ワクチンの開発を最終目的としている。以下結果を記載する。1。MDVのA抗原をコ-ドする遺伝子をBCに捜入し,リコンビナントウイルス(RCV)ーAを得た。これを接種した細胞の表面にはA抗原が発現していることが蛍光体法により確認された。 ^<35>S標識抗原とA抗原特異的単クロ-ン性抗体を用いて免疫沈降を行ったところ,感染細胞可溶化液中には多量の抗原が58ー68Kの位置に,また感染細胞上清には少量の抗原が46ー54Kの位置に認められた。発現A抗原はMDV感染血清と特異的に反応し,この抗原を接種した鶏の血清中にはMDV感染細胞と特異的に反応する抗体が検出された。2。MDV遺伝子中には単純ヘルペスウイルス(HSV)のgBに類似する糖蛋白をコ-ドする領域が存在する。この領域をBCに捜入して得たRCVーBは感染細胞の細胞質および細胞表面にMDV感染血清によつて認識される蛋白を発現した。この蛋白はMDVのB抗原に対する単クロ-ン性抗体や免疫血清とも反応した。またSDSーPAGEおよびMDV感染血清を用いたイムノブロット法により88/100,64および54Kdの分子量からなる蛋白であることが明らかとなった。3。胸腺切除および抗鶏CD4ないしCD8単クロ-ン性抗体投与によりCD4ないしCD8陽性T細胞を欠損させた鶏に強毒MDVを感染させた。CD8欠損鶏においては神経腫大とリンパ腫が認められたのに対して,CD4欠損鶏においては神経腫大のみが認められた。
著者
山口 幸三 鈴木 忍 光成 豊明 大友 純 三井 泉
出版者
日本経済短期大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

本研究は大学・短大における講義中心の経営教育の弊害を取り除くため、コンピュ-タを技術的な基礎に置いて、マネジメント・ゲ-ムの導入による実戦的な経営活動を学生に疑似体験させるためのシステムの開発を目指したものである。マネジメント・ゲ-ムは企業の社員研修においても広く採用され、その教育的な効果が認められている。われわれが開発したものは、企業の社員研修用よりも、大学における教育用として効果のあるものである。学生は実務的知識に疎いので、その欠如を補い、さらにゲ-ム進行中にそれらの実務的知識の修得を促すようなシステムが最良と考えられるのである。当初、われわれがシステム化したマネジメント・ゲ-ムでは、審判団の行なう集計・検算作業のコンピュ-タ化を行なった。審判団の集計・検算作業がゲ-ム進行のスピ-ドアップのネックとなっていたからである。この結果、学生の意思決定作業時の指導がより密度の高いものとなった。続いて、学生の行う意決定・会計処理作業のコンピュ-タ化を目指した。ただし、この部分のコンピュ-タ化にあたっては、できる限り学生の手作業の部分を残した。全面的なコンピュ-タ化は教育効果が少ないという判断からである。したがって、審判団へのデ-タ提出にあたって審判団の作業がやりやすいようにシステム化した。この段階ではデ-タ集計はフロッピィディスクによるオンライン集計であった。そこで次に、LANシステムを用いたオンライン集計のシステムを構築することにした。しかし、パソコンのハ-ド技術的な制約からLANシステムによるゲ-ム・システムは一部しか完成せず、その全面的な構築には至らなかった。けれども、われわれは研究計画立案当初の目標を達成し、さらにその目標を上回る研究成果をあげることができた。
著者
米倉 迪夫 奥平 俊六 高見沢 明雄 木村 三郎 早川 聞多 林 進
出版者
東京国立文化財研究所
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

1.美術史研究用画像処理パッケージソフトの開発本研究で導入した画像処理システム(NEXUS6810)をパーソナルコンピュータ(NEC9801VM)より制御するソフト。NEXUS6810のもつコマンド群に習熟し、美術史研究に必要なソフトの機能を協議、画像処理の実験を重ね、ソフトの仕用案を作成した。プログラミングは、専門のソフト開発業者に依頼した。コンピュータのハード面に詳しくない美術史研究者が、研究支援の道具として画像処理技術を応用できるよう、主として次の4点に注意を払った。1)操作が手軽であること。2)画像ファイルの管理がすぐれていること。3)グラフィック及び画像処理機能が充実していること。4)研究者が手直しできる高級言語を使用していること。2.画像処理技術を応用した美術史研究の実例尾形光琳筆紅白梅図屏風(MOA美術館蔵)における制作過程と原状のシミュレーション3.画像データベース(dBASEIIIPLUSを使用)の試作文字型データベースに蓄積された文字情報とNEXUS側の画像情報とをリンクさせ、画像ファイルの検索・表示を可能にした。4.公開シンポジウムの開催本研究テーマのもとで二度の公開シンポジウムを開催し、美術史研究における画像処理技術の応用について活発な議論があった。1)第1回(10月25日) 於奈良・大和文華館西日本の美術史研究者を中心に約40名が参加。2)第2回(3月9日) 於東京国立文化財研究所。東日本の美術史研究者を中心に約60名が参加。
著者
原田 忠 西沢 理
出版者
秋田大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

形状記憶合金ニテノールを使用した新しい人工尿道括約筋およびpenileprosthesisを試作した。人工尿道括約筋の構造は、馬蹄状にした一方向記憶ワイヤーあるいは二方向板バネの周囲に加温用ニクロム線を巻きつけ、これをシリコンゴムで包埋したものである。またpenile prosthesisは一方向記憶合金を束ね、その周囲に加温用ニクロム線を巻きシリコンゴムでシリンダ一状に包埋したものである。これらのprosthesisは直流電源あるいはバッテリーによって加温されると、あらかじめ記憶させた形状に変態動作し、目的を達するよう工夫されたものである。加温電力,変態時間,応用,表面温度を基礎的に検討したが、いずれも問題なく、またpenile prosthesisは適度な擬弾性が認められ臨床的使用に耐え得るものと考えられた。また犬を用いた人工尿道括約筋埋め込み実験からは、排尿,蓄尿という二つの作用が本デバイスによってコントロールされることが確認された。
著者
植田 憲一 鹿倉 博和 岡部 雄太郎
出版者
電気通信大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

UVファラデー回転子の開発研究は大きく分けて、大口径UVファラデー回転子および薄膜偏光子の開発と、UVファラデー回転子のKrFレーザーへの応用に分けられる。紫外線用薄膜材料の吸収係数の測定から蒸着技術の開発にいたる幅広い基礎的研究と、大電流高強度磁界発生装置の設計製作を前者は含み、後者には新しいレーザー制御技術としての偏光回転パルス列発生などを含んでいる。以下に研究成果の概要を列挙する。1)低損失で高い損傷強度を有する薄膜偏光子を製作するために、誘電体薄膜の光吸収係数を光音影効果を利用して測定し膜材料を決定した。我々の開発した測定法は1.5波長厚さの光学薄膜吸収をk<10^<-4>の低吸収まで定量計測が可能で、従来計測の200倍の感度を実現した。2)Sc_2O_3/Na_3AlF_3の25層構成で偏光子を製作し、入射角60度で直接偏光度1:200以上、透過率90%以上の性能を確認した。研究開発当初の透過率13%から大きく進歩し、レーザー損傷強度も2J/cm^2以上に改善された。3)合成石英の光学的均質性の向上を図り、10^<-5>以上を実現したい。4)大電流コイル、全固体素子磁場電源を製作し、2%以下の一様性で5kGを発生した。5)ファラデー回転性能を測定し、11x11cmの大口径ビームに対し、KrFレーザー波長である248nmにおいてレーザー用1方向伝播素子としての性能を確認した。6)共振器内部にファラデー回転子を挿入し、外部から短パルス直線偏光レザーを注入して、"偏光回転多重パルス発生"を行う新しいレーザー発振方式を開発し、10J出力レーザーから10nsパルスのパルス列を得ることに成功した。
著者
松波 弘之 吉本 昌広 冬木 隆
出版者
京都大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1988

本研究では、6HーSic(0001)Si面、(0001^^ー)C面にオフアングルを導入することで表面のステップ密度を制御し、その基板上に6HーSiCの原子ステップ制御エピタキシャル成長を行った。成長機構の検討と不純物ド-ピングを行った結果は下記の通りである。1.原子ステップ制御エピタキシ-によるSiCの成長(1)Si面オフ基板ではオフ方向により成長の様子が異なる。[112^^ー0]方向オフ基板上には6HーSiCのみが成長する。一方、[11^^ー00]方向オフ基板上では長時間成長により、3CーSiCの混在が進む。(2)C面オフ基板では[112^^ー0]、[11^^ー00]のオフ方向に依存せず、6HーSiC単結晶が成長し、3CーSiCの混在は生じない。2.不純物のド-ピング(1)TMAを用いたA1のド-ピングを行い、p形層キャリア密度を4×10^<17>〜8×10^<20>cm^<ー3>の広い範囲で制御することができ、0.1Ωcm以下の低抵抗p層が得られた。また、フォトルミネセンス(PL)測定の結果からNドナ-のsite effectが確認できた。(2)TiCl_4流量を変化させることにより、Tiド-プ量を8×10^<17>〜2×10^<21>cm^<ー3>の範囲で制御することができた。Tiド-プ層のPL特性からTiに特有な発光が現れることを見いだし、これがTi等電子トラップに束縛された励起子発光であることを明らかにした。
著者
三浦 洋四郎 長井 辰男
出版者
帝京大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

わが国では覚醒剤取締法によりその使用や所持が禁止されているが、現在でも不法な密輸があとを絶たない。現在の覚醒剤の事犯は、粉末または粒状の形で密輸されているのがほとんどである。われわれは、覚醒剤の密輸・密売ルートの科学的解明を企図した。1.覚醒剤の光学異性体に着目し、獨協医科大学法医学教室の長井敏明と共同でHPLC分析条件を検討した。acethyl化した被検試料を内部標準物質N-n-Propylanilineとともにセルロース誘導体カラム(40℃に加温)にチャージした。溶媒系はHexane/Isopropanol(19.1)を用いた。これによって、methamphetamineのd体とl体を再現性よく分離出来た。2.韓国ルートの密輸覚醒剤はmethamphetamineの塩酸塩で、融点170〜175℃,光学純度は100%のd-methamphetamineであるが、黄色結晶が混入していた点で薬物移動の追跡指標として利用出来る。われわれが厚生大臣の許可を得,合成し分割したmethamphetamineはl体を除く目的で精製をくり返すごとにd/l比は未精製のもの1.08から3回精製したものは、 d-methamphetamineの標準品に近ずいた。その融点は133℃であった。このd/l比および夾雑物は当該覚醒剤の薬物指紋として犯罪捜査時に個人識別のため使用する指紋と同様の利用価値がある。この薬物指紋を集績することによって、覚醒剤の密輸・密売ルートの科学的解明に利用することが出来る。3.methamphetamineの生体内動態を実験動物を用いて研究した。その結果、d体がl体より強い薬理作用を示し、骨・歯牙・毛髪などの硬組織から当該薬物を検出出来ること及びWaterhouse-Friderichsen Syndromeを誘発することが可能であることを初めて明らかにした。methamphetamine中毒患者および中毒動物の尿は、薬物依存の有無を確認出来るが、当該研究のような密輸・密売ルートの解析には不適である。
著者
中浜 博 山本 光璋 相川 貞男 小暮 久也 熊澤 孝朗 森 健次郎
出版者
東北大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

本システムの実用化に向けて、皮膚温センサとして採用した皿型センサの安定性評価というハ-ド的な検討を行うとともに、時間法による痛覚閾値測定法および反復輻射熱刺激法の評価というソフト的な検討を行った。さらに、実際に健常者に対する痛覚閾値の基礎デ-タ収集、各種疼痛患者に対する測定をはじめとする各種応用の検討がなされた。以下に、主な研究成果を示す。(1)本システムを用いた輻射熱刺激では被刺激部位の皮膚表面温度分布は釣り鐘型であるが、採用した2mmφの皿型センサ-では0.5mmの設定立置ずれに対しても最大0.3℃程度の測定誤差であることが示された。(2)心療内科領域における各種疼痛患者、痛みの無い心因性疾患者などにおける測定から、背景病態心理別に異なった痛反応時間パタ-ンを有することが示され、器質性の痛みと心因性の痛みの差異が示唆された。(3)異なる刺激強度で時間法による痛覚閾値測定を行った結果、最高到達温度に対する感覚および情動的ビジュアルアナログ得点にベキ関数が適合することが示唆された。(4)身体各部で痛覚閾値を測定し、部位差の影響を調べた結果、測定部位の反膚温度が閾値パラメ-タに影響を与える場合があることが示された。従って、測定結果の評価には測定部位の温度を考慮する必要がある。(5)各種血管拡張薬の末梢への投与による痛覚閾値の変化が測定された。(6)反復輻射熱刺激法による二次痛の測定の可能性が示された。(7)SMON患者において熱痛覚閾値の測定を行った結果、健常者に比較し痛覚閾値が有意に高い部位があることが認められた。また脊髄髄節域でみた場合、遠位部での閾値の上昇が顕著である例が示された。(8)全身麻酔下での痛覚閾値測定の応用が検討された。
著者
江藤 一洋
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1986

哺乳類神経堤細胞の研究は、従来、in vivoの材料を用いた形態学的手法や、primary cultureなどによりなされてきたが、全胚培養法を導入することにより、より実験発生学的な研究が可能になりつつある。全胚培養法は、母体の因子を取り除いた状態で胚操作を行うことができ、また、発生段階を揃えて短時間の処理を行うことも可能であるため、発生学的研究にたいへん適した方法である。とくに、マウスを材料として用いることは、顔面形成に異常のあるミュータントを用いることもできるため、より有利であるといえる。62年度までは、主としてラットを用いて全胚培養法の基礎的な条件を検討してきたが、63年度においては、胎齢10日目からのマウス全胚培養法を用いて、以下のような化学的あるいは物理的処理を胎仔に加える実験を行った。1.サイトカラシンD(CD)による顔面形成の阻害妊娠10日目のマウス胎仔を、全胚培養下で150ng/mlのCDに2時間暴露したのち、通常の培養液に戻して24時間の培養を行い、顔の形成を観察したところ、CD処理の胎仔においては、17例中12例(70.4%)に顔の形成異常が認められた。処理群の胎仔鼻板上皮をローダミン-ファロイジン染色により観察すると、鼻板上皮のapical siteのアクチン線維束の部分的な断片化、すなわち分布の乱れが認められた。2.早期卵黄嚢膜開放による一次口蓋形成異常(口唇裂)の誘導卵黄嚢膜開放(OYS)は、全胚培養を行う上で必須の操作であるが、C/57BL/6マウスの場合、尾体節数8以下で行うと、口唇裂のみ100%誘導されることが分かった。OYSを早期に行って数時間経過した培養胎仔の癒合予定部位を走査電子顕微鏡により観察すると、正常発生でみられる微絨毛の消失が起きず、上皮細胞の表面は球形となり、また、球状物質も多く認められた。
著者
小池 裕子 西田 泰民 岡村 道雄 高杉 欣一 中野 益男
出版者
埼玉大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

〈目的〉貝塚からは古代人の食事に関する直接的な情報を内包する糞石、あるいは土器、石器付着物が出土している。これらの遺物から残存している脂肪酸を非破壊的に抽出し、その脂肪酸組成を基に動植物を同定して、先史時代人の全般的な食糧組成を直接復原しようとするのが本研究の目的である。〈研究結果〉 61年度は、糞石等の材料のほか、旧石器遺跡から出土する焼石および縄文時代以降の土器付着物を分析対象に加えた。1 現生動植物のスタンダード作成:今年度は栽培植物を含め約60点を追加し、また文献による検索を進め、古代人の利用した動植物をほぼモウラした。2 糞石資料の分析:60年度に行った東北地方のほか、縄文後晩期の田柄貝塚、同大木囲貝塚、縄文後期の古作等の貝塚出土資料を加え、合計58点を分析した。ステロール分析を行ない、糞特有のコプロスタノールを検出した。脂肪酸組成、ステロール組成から推定すると、陸棲哺乳類のほか、水産動物や植物など多様な食糧組成が含まれることがわかった。3 焼石資料の分析:60年度の多摩ニュータウンの他、野川中州北遺跡において系統的なサンプリングを行ない、合計20点分析した。4 土器資料の分析:60年度の曽利・寿能遺跡のほか、縄文時代草創期の壬遺跡,早期の鶴川遺跡、前期の諏訪台遺跡、中期の曽利遺跡、後期の宮久保遺跡,晩期の亀ケ岡遺跡,古墳時代の式根島吹之江遺跡,北海道オホーツク期の北大構内遺跡,近世の東大構内遺跡の合計180点を分析した。5 それらの結果を、飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸,高級脂肪酸/中級脂肪酸,コレステロール/植物ステロールの比を軸にした3次元座標上にプロットしてみると、それぞれの遺物の植物,陸上動物,水産動物の組成を知るのに有効であることがわかった。
著者
保井 孝太郎 竹上 勉 小島 朝人 松浦 善治 宮本 道子 木村 純子 KIMURA-KURODA Junko 荻本 真美
出版者
(財)東京都神経科学総合研究所
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1989

日本脳炎ウイルス(JEV)が属するフラビウイルスは、世界中に70種にのぼるウイルス種が存在しており、総合的で有効な対策が待たれている。現在黄熱病ウイルス、JEV、ダニ媒介脳炎ウイルスに対する生および不活化ワクチンが使用されているが、それぞれに問題点を含んでおり新しい形のワクチンの開発が要請されている。そこで、組換えDNA技術を用いてJEVに対する新しいワクチンの開発をはかり、他のフラビウイルスに対するワクチンの開発の基盤となる技術的・方法論的知見を提供することを目的として、研究を行なった。組換えバキュロウイルスおよびワクチニアウイルスを用いた研究によって、以下のことが明らかになった。1,ウイルス粒子エンベロ-プに存在する構造蛋白E,preM,Mは、ポリプロテインとして合成された後、細胞の酵素によって切断プロセシングされて完成する。2,これらの蛋白の上流にはシグナル配列があり、正常な抗原構造を持った構造蛋白を発現させるためには、正常にプロセシングされることが必要である。3,ウイルス粒子上のE蛋白は、E蛋白単独またはpreM,M蛋白とともにオリゴマ-を形成しており、モノマ-状態のE蛋白に比べて抗原的に安定であり免疫原性も高い。4,E蛋白をオリゴマ-粒子として細胞外に大量に産生・放出させ得る、組換えウイルス発現系を開発することができた。5,蛋白上の中和抗体エピト-プの位置を明らかにできた。6,E蛋白の一部分と融合し、中和などの特定にエピト-プのみを含むHBsAg粒子を産生する系を、開発することができた。以上の成果から、JEVを初めとするフラビウイルスの新しい人工コンポ-ネントワクチンを開発するための基本的な方法を提示することができたと言える。
著者
阿部 英彦 谷口 紀久 稲葉 紀明 中島 章典 佐藤 良一 INABA Noriaki TANIGUCHI Norihisa
出版者
宇都宮大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

道路や鉄道が互いに鋭い斜角で交差する場合、門型の中間橋脚とそれに載る桁高の小さい橋桁を必要とするが、これらに綱部材とコンクリートを適宜合成して建造することにより、力学的挙動が良く、工事がし易く、環境に適し、かつ、経済性が優れた構造物が実現すると考え、その開発の為に2年に亘り種々、実験的研究を行った。実験は主として綱部材とコンクリート部材の結合、あるいは両者の一体化について試験した。(1)鋼部材同志をコンクリートと鋼材を介して結合し、これに引張外力を加え、その性状を調べた。コンクリート継手部の中にスタッド付き鋼板を埋込んだものと異形鉄筋を埋込んだものを試みた。鋼部材とコンクリートの重なり部の長さ、フープ筋の量、スタッドの配置等を変えて挙動を調べ、適当なプロポーションを見出した。(2)コンクリート部材に鋼梁の先端部を埋込んだ試験体に曲げを加えた。鋼梁の埋込み長さ、スターラップの量、スタッドの量等を種々変えて、それらが継手部にどの様に影響するかを調べた。埋込み長が短いと、そこのコンクリートに大きなせん断力が作用するので、スターラップを増さなければならないが、鋼梁にスタッドを設けると作用するせん断力を減少する効果がある。(3)H形鋼をコンクリート中に埋込んだ橋桁で、両者の一体化のためのずれ止めをフランジでなく、ウエブに設けても有効であるならば、桁高を減少できて有利である。そこで鋼梁の種々の位置に量を変えてスタッドを設け、また、スターラップの量も変えて曲げ試験を行った。スタッドもスターラップも少ないと充分な曲げ耐力を発揮する前にせん断破壊することがわかり、また、ウエブに設けたスタッドも充分有効であることがわかった。更に鋼梁のウエブに適当な穴をあけるだけでもずれ止めの作用を表すことが確められた。以上により、現場での施工許容誤差が緩く、工事の安全性の高い構造物の可能性の目途が見究められた。
著者
本間 禎一 木原 諄二 小林 正典 岡野 達雄 藤田 大介
出版者
東京大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1988

極高真空発生のための技術開発の基礎研究として進められた。到達真空度はポンプの性能と材料のガス放出によって決まるが、本研究ではポンプの具体的内容には言及せず、ポンプ構成材を含めた材料のガス放出の機構・評価・制御について扱っている。特にガス放出の定量とメカニズムの解明のために2種類の手法(昇温脱離TDS法とスル-プット法)を用い、またガス放出低減化のための手法も検討して以下の成果を得た。1.ガス放出機構を調べるためのTDS法の手法・装置試作・開発ガス放出機構を基礎的に調べる目的でTDS法を採用した。放出機構評価のためのパラメ-タ-である吸着分子の脱離の活性化エネルギ-、脱離の反応機構、拡散放出の場合の拡散係数などの信頼できる情報を得るために歪のないスペクトルを測定する最適条件、加熱方式を検討した。この考察に基づき、更に表面評価機能(低速電子線回折/オ-ジエ電子分光・光学系)を加えたTDS測定装置を試作した。2.ガス放出量評価のためのスル-プット法測定装置試作と測定スル-プット法に基づくガス放出速度測定装置を試作し、それを用いて各種表面処理(電解複合研磨、バフ研磨、TiN被覆)を施したステンレス剛製真空容器から放出されるガス放出速度を測定した。表面平滑化効果とそのベ-キング後の消失、電解複合研磨処理試料の大気暴露後の分圧(H_2O、H_2、CO、CO_2)測定による新しい知見、温度変動に追随する脱離挙動などの機構解明にもつながる情報・知見が得られた。3.表面改質ガス放出特性を向上させるための表面及び表層の改質方法について考察し、表面析出法(BNおよびグラファイト状炭素)によって低ガス放出材料が得られる可能性があることを示した。
著者
笹月 健彦 松下 祥 菊池 郁夫
出版者
九州大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1984

これまでに、スギ花粉症に対する抵抗性はHLAと連鎖した遺伝子により、CPAg特異的サプレッサーT細胞を介して発現される単純優性遺伝形質であり、HLA-DRはT-マクロファージ間相互作用の拘束分子として、すなわち免疫応答遺伝子産物として機能し、またHLA-DQは免疫抑制遺伝子産物として機能していることを明らかにしてきた。今年度は免疫抑制のメカニズムをより詳細に解析し、以下のことを明らかにした。1.すでにHLA遺伝子型が決定された98家系525人の血清中特異的IgE抗体価を測定し、スギ花粉抗原(CPAg)に対する低応答性はHLAと連鎖した単純優性遺伝形質であることが確認された。すなわち症状のみならず免疫応答性からも免疫抑制遺伝子の存在が裏付けられた。2.第3回国際白血球分化抗原ワークショップで得られた約50種の活性化T細胞に関わる単クローン抗体が免疫抑制におよぼす影響について検討した。その結果、免疫応答を直接刺激することなく、免疫抑制を阻止することで、非応答者のIgE免疫応答を回復させる単クローン抗体4B4を見い出した。この4B4分子はヘルパーT細胞上に表現されていたが、サプレッサーT細胞上には表現されていなかった。また、培養開始時に細胞を抗4B4で処理しても免疫抑制は阻止されないことから、培養期間中のある特定の時期にこの抗体が存在することが、免疫抑制の阻止に必須であるものと考えられた。さらに4B4による免疫沈降の結果から、4B4分子はヘテロダイマーであり、活性化ヘルパーT細胞上の4B4分子は、静止期T細胞のそれに比べて、新たに3種のポリペプチドを表現していた。すなわち活性化T細胞上の4B4分子が、サプレッサーT細胞やサプレッサー因子の標的分子として機能していることが推測された。