著者
水原 啓太 武藤 拓之 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.25-31, 2019-02-28 (Released:2019-03-21)
参考文献数
21

人は自分が意思決定したタイミングを正確に知覚できない.Bear & Bloom(2016)は,画面上に五つの白い円を提示し,実験参加者に任意の円を選ばせた.しばらくして一つの円(標的刺激)を赤色に変化させ,参加者にその円を選んでいたかどうかを尋ねた.その結果,色の変化までの時間(遅延時間)が短いと,標的刺激を選択していたと回答する割合が高かった.これは,実際には色の変化が選択に影響を与えたにもかかわらず,変化前に選択していたと錯覚したことを意味する.本研究では,遅延時間が25~50 msのときに同様の効果が認められたが,さらに短い17 msでは認められなかった.この知見は,意思決定のタイミングについてのポストディクションを支持する新たな証拠である.また,色の変化までに円の選択が間に合ったという報告は,遅延時間が167 ms以下のときに実際よりも多くなることが示された.この結果は,遅延時間が短いときに,意思決定についての意識が後付け的に生じることを示唆している.
著者
土田 幸男 室橋 春光
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.67-73, 2009

本研究は自閉症スペクトラム指数(AQ)とワーキングメモリの各コンポーネントが関わる記憶容量との関係を検討した.自閉症スペクトラムとは,自閉性障害の症状は社会的・コミュニケーション障害の連続体上にあり,アスペルガー症候群は定型発達者と自閉性障害者の中間に位置するという仮説である.自閉性障害者においては音韻的ワーキングメモリには問題が見られないが,視空間的ワーキングメモリには問題が見られるという報告がある.高い自閉性障害傾向を持つ定型発達の成人のワーキングメモリ容量においても,同様の傾向が見られる可能性がある.そこで本研究では定型発達の成人において音韻的ワーキングメモリ容量,視空間ワーキングメモリ容量,そして中央実行系が関わるリーディングスパンテストにより査定される実行系ワーキングメモリ容量とAQの関係を検討した.その結果,AQ高群では低群よりも視空間ワーキングメモリ容量が小さかった.全参加者による相関係数でも,AQと視空間ワーキングメモリ容量の間には負の相関が認められた.しかし,音韻,実行系ワーキングメモリ容量とAQの間には関係が見られなかった.これらの結果は,自閉性障害者で見られる認知特性が,定型発達の成人の自閉性障害傾向でも同様に関わっていることを示唆している.
著者
西山 慧 齊藤 智
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.21-41, 2022-08-31 (Released:2022-09-23)
参考文献数
130

検索の意図的な制止は,記憶を意図的に思い出さないようにする内的過程を指し,Think/No-Think(TNT)パラダイムによって検討されてきた.本論文ではTNTパラダイムの実験手続きの説明に始まり,TNT研究によって明らかにされた検索の意図的な制止の効果,メカニズム,そして調整要因を網羅的に概観した.また,思考抑制との相違点をもとに,検索の意図的な制止が忘却を引き起こす要因についても論じた.検索の意図的な制止は,対象の記憶の忘却を引き起こすだけでなく,記憶のかかわるさまざまな認知プロセス,さらには感情反応にも影響を及ぼす.その背後にある応答的な制御のメカニズムは運動や感情の制御と共通しており,領域普遍性を有する.検索の意図的な制止の制御メカニズムに関する大きな進展の一方で,忘却のメカニズムについては未解明な部分が多いことも明らかとなった.検索制止を事後効果も含めて包括的に理解することは,制御メカニズムの領域普遍性を踏まえると,運動や感情制御がもたらす効果の解明にも寄与し,ひいては認知的制御の統一的な理解に資するに違いない.
著者
北岡 明佳
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.177-185, 2008-02-29 (Released:2010-07-21)
参考文献数
25
被引用文献数
6 3

錯視とは,対象の真の特性とは異なる知覚のことである.伝統的に錯視と呼ばれてきたものは,高次の認知的過程にあまり影響されないので,知覚心理学の研究領域と考えられてきた.本稿では,顔の錯視について考えることで,錯視の認知心理学というものの可能性を検討する.
著者
守谷 順 丹野 義彦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.123-131, 2007-03-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
45
被引用文献数
4 3

本研究では,社会不安に見られる脅威関連刺激に対する選択的注意が,刺激からの注意の解放の欠如によるか検討した。社会不安高群と社会不安低群を選出し,実験を行った。プライム刺激には社会的脅威語,中性語,記号を用い,画面中央に100 ms,または800 ms提示した。その後,ターゲット刺激がプライム刺激の左右の一方に提示されるので,実験参加者にはプライム刺激を注視しながらターゲット刺激の位置弁別をキー押しで判断するよう求めた。結果,社会不安高群は社会不安低群に比べ,社会的脅威語を800 ms提示時に反応時間が遅延した。また,刺激提示時間が800 msでは,社会不安高群は中性語・記号よりも社会的脅威語で反応時間が遅れた。しかし,刺激提示時間が100 msの際は,社会不安高群と低群の間で差はなかった。社会的脅威刺激が800 ms程度長く提示されると,社会不安高群は刺激からの注意の解放が困難であることが明らかになった。
著者
水野 りか 松井 孝雄
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.31-38, 2018-02-28 (Released:2018-04-17)
参考文献数
27

水野・松井(2016)は,日本語の同音異義語では仲間が多いほど顕著な同音異義語効果が認められることから,同音異義語が呈示されるとその複数の仲間が活性化されることを示した.しかし日本語は同音異義語が多く,概してその仲間の数も多いため,この知見から考えれば日本語が処理に時間のかかる言語だということになってしまう.著者らは,文脈効果の知見から考えて,適切な文脈があれば仲間の数にかかわらず日本語の同音異義語も円滑に処理され,同音異義語効果は生じないのではないかと考えた.そこで本研究では,意味的に一致した文脈と不一致の文脈を呈示して仲間が多い同音異義語,仲間が一つの同音異義語,非同音異義語の語彙判断時間を測定した.その結果,一致した文脈を呈示した場合は仲間が多くても少なくても同音異義語効果は生じないことが見いだされ,日本語の同音異義語は適切な文脈があれば仲間の多少にかかわらず非同音異義語と同じように円滑に処理されることが明らかとなった.最後に,現実場面に近い状況で言語処理過程を検討する必要性が論じられた.
著者
長谷部 育恵 楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.69-79, 2023-02-28 (Released:2023-03-31)
参考文献数
32

自分の脆弱性は低く見積もられる傾向がある.本研究では,脅威遭遇事例の被害者の違いによる受け手のリスク認知への影響を検討した.社会的比較理論の先行研究から,「親友の脅威遭遇事例のほうが見知らぬ一般人の事例よりもリスク認知を高める」(仮説1),「行動に落ち度のない他者の脅威遭遇事例のほうが,落ち度のある他者の事例よりもリスク認知を高める」(仮説2)と仮説を立てた.740名の参加者が食中毒に対するリスク認知を評定した後,脅威遭遇事例を読み,再度リスク認知を評定した.脅威遭遇事例に登場する被害者は,関係の有無(親友・一般人)と落ち度の有無の観点で操作した.その結果,行動に落ち度のない他者の脅威遭遇事例のほうが,落ち度のある他者の事例よりもリスク認知を高めた.さらに,相関分析の結果からは,類似した他者に同化して自己のリスク評定がなされると考えられた.被害者との関係性の有無による差はみられなかった.最後に,社会的比較理論の観点を中心に結果を考察した.
著者
安田 晶子 中村 敏枝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.11-19, 2008-08-31 (Released:2010-07-09)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

本研究では,身体反応と音楽聴取時の感動がどのような関係にあるのかを定量的に追究することを目的とした.はじめに,聴取実験での評定項目を選定する目的で質問紙調査を行い,音楽聴取時に頻繁に経験されていた5つの身体反応(「鳥肌が立つ」「胸が締め付けられるような感じがする」「背筋がぞくぞくする」「涙が出る」「興奮する」)を選出した.次いで行った予備実験では,本実験での刺激曲として曲想の異なる2曲を選定した.本実験では,150名の実験参加者が,刺激曲の聴取中に生じた感動と5つの身体反応の強度について評定を行った.その結果,5つの身体反応評定値はいずれも感動評定値と有意に高い相関を示した.よってこれらの身体反応は,すべて音楽聴取時の感動と強く関連することが示唆された.さらにこれら5つの身体反応評定の平均値は,感動評定値とのより高い相関を示し,この傾向は曲想の異なる刺激曲を用いた実験参加者群で一致した.すなわち,これらの身体反応を総合すると音楽聴取時の感動との間に顕著に強い関連性が示された.
著者
本郷 由希 喜多 伸一
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.13-21, 2005-08-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1

視覚的時間順序判断に聴覚が及ぼす影響を,視覚刺激と聴覚刺激の左右に関する空間一致性に注目して調べた.視覚刺激を短い時間間隔をおいて呈示し,その前後に聴覚刺激を呈示した.第1実験では,視覚的時間順序判断の能力が,視覚刺激と聴覚刺激が空間的に一致している場合には良くなるが,視覚刺激と聴覚刺激が空間的に不一致な場合には悪くなることが示された.この成績変化は視聴覚刺激の時間間隔(AV-SOA)が640 msという長い条件になっても残った.第2実験では,こういった成績変化に対して,視覚刺激に先行する聴覚刺激の方が,後続する聴覚刺激よりも,より強い影響を与えていることが示された.これらの実験結果は,視覚的時間順序判断に対する聴覚の優位性に対し,空間一致性が影響することを示すものである.
著者
中島 早苗 分部 利紘 今井 久登
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.105-109, 2012

本研究では匂いの同定しやすさ(同定率),快・不快(感情価),日頃嗅ぐ頻度(接触頻度)が匂いからの無意図的想起の生起要因となるかを検討した.74名の参加者にさまざまな匂いを提示して,<i>SD</i>評定を求めた.その後,評定中に自伝的記憶を意図せずに想起したかを尋ねた.その結果,接触頻度の高い匂いほど無意図的想起が生じやすかった.しかし同定率や感情価は無意図的想起の有無と関連がなかった.この結果は,匂いからの無意図的想起では言語表象を介した活性化が生じないこと,無意図的想起は手がかりの種類によって想起過程が異なることを示唆する.
著者
瀧川 真也 仲 真紀子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.65-73, 2011-08-31 (Released:2011-09-07)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究の目的は,音楽により喚起される懐かしさ感情が自伝的記憶の想起に及ぼす影響を検討することであった.参加者は大学生57名であり,小学校高学年時と中学校時の記憶,および小学校高学年時に聴いていた音楽の記述を求めた.1カ月後,参加者に,画面に提示されたエピソードが参加者の小学校と中学校のどちらの記憶かを判断させ,その反応時間を測定した.反応時間を懐かしさあり音楽条件,懐かしさなし音楽条件,音楽なし条件の3条件で比較検討した.その結果,懐かしさを感じた時は,懐かしさを感じさせる時期の自伝的記憶のみが想起されやすくなることが明らかになった.また,小学校高学年の時に聞いた音楽に対し,より懐かしさが喚起されると,中学校の記憶に対する誤反応が増加することが示された.
著者
柴崎 秀子 時本 真吾 小野 雄一 井上 次夫
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.101-120, 2015-02-28 (Released:2015-04-16)
参考文献数
56

本研究では日本人高校生用の日英両語のリーディングスパンテスト(RST)を開発し,集団による短時間での実施が可能であるかどうか試行した.その結果,本研究で開発したRSTの信頼性係数は日本語(&#x3B1;=.864),英語(&#x3B1;=.875)ともに高く,得点分布に正規性が示され,RSTを集団で行うことが可能であることが示された.このテストを用いて,高校2年生を対象に日英語RST得点の相関を分析したところ,英語習熟度の高い群の相関係数は.677,低い群は.531であった.英語専攻の大学生を対象にした先行研究では日英語RST得点の相関係数は.84と報告されている.これらの結果は,第二言語の習熟が進んだ学習者は未熟な学習者よりも日英語RSTの相関係数が高いことを示し,その理由として,第二言語に熟達した読み手は第二言語読解を母語読解に近い形で行うことができるからではないかと推測される.
著者
上田 彩子 廼島 和彦 村門 千恵
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.103-112, 2010-02-28 (Released:2010-11-25)
参考文献数
50
被引用文献数
2

主に顔の形態特徴の情報処理を基に行われる顔認知過程において,表情情報が影響を及ぼすことは,多くの研究で示されている.また,表情認知に性差があることも示唆されている.表情認知における性差が,顔認知過程で表情が及ぼす影響に関与する可能性がある.そこで,本研究では,顔の印象決定において表情が及ぼす影響に性差が認められるかどうか実験的に検討した.刺激の顔の形態変化にはメイク手法を用いた.被験者は,刺激の相貌印象と表情表出強度について評価を行った.その結果,表情認知能力に性差は認められなかったが,相貌印象判断に表情が与える影響は女性のほうが大きいことが示された.
著者
市川 伸一 下條 信輔
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.137-145, 2010-02-28 (Released:2010-11-25)
参考文献数
36
被引用文献数
1

ベイズ的な事後確率推定問題の中でも,「3囚人問題」は,とりわけ数学的な解が直観的に理解しにくいことで知られている。我々は,オリジナルの3囚人問題の事前確率を変化させた変形版を提案した.これは,解答者の思考過程や納得のしかたが答えに反映されやすくなるとともに,その規範的なベイズ解は,いっそう反直観的に思えるものである.数理的分析と心理実験を通じて,3囚人問題,とりわけ変形版の難しさがどこにあるのかが検討され,問題構造に関する中間レベルの表象が重要であることを指摘した.また,こうした反直観的な事後確率推定問題を理解するための一つの方法として,数学的に同型な視覚的モデルである「ルーレット表現」を提案した.事後確率を主観的に推定するときの素朴なスキーマやヒューリスティックスの性質と,ベイズ的な推定方法を促すことの可能性について議論された.さらに,これらの研究がどのような意義をもつものかを,近年の関連研究とともに議論していく.
著者
矢口 幸康
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.119-129, 2011
被引用文献数
1 1

共感覚的表現とは異なる感覚に属する語を組み合わせた表現である.共感覚的表現の理解は感覚の組み合わせによって変化することが知られているが,共感覚の言葉であるとされるオノマトペを修飾語としてもちいて検討した例はない.そこで,本研究はオノマトペを修飾語とした共感覚的表現における理解可能な感覚の組み合わせを検討した.研究1では,参加者に47語のオノマトペの感覚関連性の評定を求めた.結果,39語のオノマトペが,視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感のいずれかと関連した.研究2では,195種類の共感覚的表現がどの程度理解可能であるか評定を求めた.評定の結果,原則として低次感覚から高次感覚への修飾が理解可能であることが示された.また,修飾構造内で聴覚が他の感覚から独立した.
著者
後藤 理咲子 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.81-90, 2023-02-28 (Released:2023-03-31)
参考文献数
27

本研究の目的は,嘘に伴う認知的負荷が有効視野を狭めるかについて検証することであった.実験では,参加者は嘘つき群と統制群のいずれかに割り当てられた.参加者はディスプレイに提示されたトランプカードを記憶した後,カードと同じ内容(一致条件)または異なる内容(不一致条件)を回答し,回答後に現れる光点の位置を同定するよう求められた.嘘つき群と統制群の相違は教示であり,嘘つき群の参加者は嘘をつく時には真実を話しているかのように振る舞い,実験者を騙すよう求められたが,統制群の参加者は求められなかった.光点の正答率から相対的に有効視野を測定した結果,嘘つき群は統制群よりも有効視野が狭まったが,一致条件と不一致条件の有効視野に差は示されなかった.以上の結果は,意図的に相手を騙すこと(嘘の意図性)による負荷は有効視野を狭めるが,事実と異なる内容を回答すること(嘘の虚偽性)および嘘をつく時に真実らしく振る舞うことによる負荷は有効視野を狭めないことを示唆するものである.
著者
大杉 尚之 河原 純一郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.69-77, 2020-02-29 (Released:2020-03-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

日本において,お辞儀は第一印象の形成にポジティブな効果を持つと信じられている.最近,Osugi & Kawahara(2015)は,お辞儀が魅力知覚に及ぼす影響について実験的に検討した.写真上辺を前方に傾け,元の角度に戻すお辞儀条件では顔写真の主観的な魅力が上昇した.本研究では,これらの発見を拡張し,お辞儀の効果の変調要因を検証した.研究1の結果は,顔写真の外見魅力(実験1と2),顔の性別(実験3),人間と人間以外のエージェントの違い(実験4)のいずれともお辞儀の効果は独立であった.これらのことから,さまざまな顔刺激間でお辞儀効果量に違いはなく,外見的特徴とは独立に印象形成に寄与している可能性が示された.すなわち,誰がお辞儀をするかは重要ではなく,お辞儀動作そのものによる効果が加算的に作用することで印象が形成されると考えられる.また,この結果がお辞儀効果に関するメタ認知と一致しているかについて検討した結果(研究2),実験結果とメタ認知の食い違いが生じ,低魅力の人や人間以外のエージェントのお辞儀効果が小さく見積もられることが明らかとなった.
著者
高橋 翠 遠藤 利彦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.165-173, 2013-02-28 (Released:2013-04-05)
参考文献数
25

顔の魅力に対する進化心理学的アプローチは,異性の容貌において繁殖に寄与する資質の手がかりがヒトに普遍的な魅力規定因であると仮定する.しかし,男性顔において「男らしさ」が知覚される容貌は優れた資質のシグナルであるが,女性は必ずしも魅力を知覚しない.本研究では,「男らしい」容貌から知覚される脅威性もまた,そうした容貌に対する魅力評価を抑制している可能性に着目した.男性顔(無表情・直視)に対する印象評価の多変量解析的検討(研究1),および表情(無表情・笑顔)と視線(直視・逸視)の異なる条件下での魅力評定(研究2)を通じて,評定者の性にかかわらず,脅威性(および脅威表情)の知覚が「男らしい」容貌に対する魅力評価を抑制している可能性が示唆された.ただし研究2では,男女で異なる結果として,女性評定者のみで脅威性が相対的に知覚されにくい場合に「男らしさ」の優れた資質のシグナルとしての側面が魅力として知覚されるようになる可能性も示唆された.
著者
瀧川 真也 横光 健吾
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.49-58, 2019-08-31 (Released:2019-09-14)
参考文献数
31
被引用文献数
1

これまでの研究により,嗜好品の摂取には心理学的効果があることが確認されている.本研究は,嗜好品の自伝的記憶に着目し,嗜好品に関する回想機能の特性とその加齢の影響について検討を行った.日常的に嗜好品を摂取している20歳から79歳までの1,800名(平均年齢=49.49歳,SD=16.32)を対象にオンライン調査を行った.調査協力者は,コーヒー,茶,タバコ,酒のうち最も好んで摂取している嗜好品に関する記憶について回想機能尺度に回答した.分析の結果,年代間で,“アイデンティティ”や“辛い経験の再現”などの回想機能に差があることが確認された.また,“退屈の軽減”や“会話”などの回想機能では,嗜好品の種類により回想機能が異なることが明らかとなった.
著者
前川 亮 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.15-24, 2019-02-28 (Released:2019-03-21)
参考文献数
56

われわれは普段,無意識に他者の動作を模倣している.さらに,他者に模倣されることで相手によりよい印象を持つことが知られている.この被模倣による印象の向上効果は,手や足の動き,表情の変化,また瞳孔径の同期などで起きることが確認されている.一方,瞬目は映画鑑賞時やスピーチを聴くときに鑑賞者の間で同期することが知られており,瞬目においても模倣が生じることが推測されるが,実際に瞬目の模倣や被模倣の影響は調べられていない.そこで本研究では,他者の瞬目を模倣しているかどうか,そして瞬目の被模倣が模倣者の印象を改善するかどうかを調べた.実験では,ランダムに瞬目する画像を呈示し,画像の瞬目に対して参加者の模倣が生じるかどうかを解析した.また,参加者の瞬目に同期して瞬目する画像を呈示し,瞬目の被模倣が画像の印象に与える影響を調べた.結果,参加者は無意識に画像の瞬目と同期して瞬目をしており,さらに,参加者の瞬目を模倣した画像がより好感度が高いことがわかった.