著者
山口 健太郎 園田 眞理子 三浦 研 中嶋 友美
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集・実践研究報告集 (ISSN:2433801X)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.131-142, 2022 (Released:2022-05-10)

本研究では,住宅型ホスピスを対象に家族の語りから,平常時およびCOVID-19下における家族の場の形成過程について明らかにする。調査方法は家族,管理者に対するインタビュー調査および管理者に対するアンケート調査である。以下に結果をまとめる。(1)平常時において家族は時間と空間の共有を通して,環境に対してなじみ,住宅型ホスピスの部屋を自宅にある入居者自身の部屋の延長上として捉えていた。(2)住宅型ホスピスではCOVID-19下においても家族の訪問や看取り時の家族の立会いが行われていた。(3)COVID-19下における看取りの事例から,短期間の入居であっても住宅型ホスピスの中に家族の場が形成されていた。
著者
中村 航 畑中 久美子 村本 真 山田 宮土理
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集・実践研究報告集 (ISSN:2433801X)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.143-154, 2022 (Released:2022-05-10)

本研究は,地震が多発し雨の多い日本においては珍しい,土を積んだ壁を有する建築に着目して,現地調査,材料実験および環境測定を行ったものである。現地調査の結果,小屋の構成について,構造形式や軸組部分との関係から分類を行い,用途や分布地域,および土積み壁部分の構成との関係を確認した。土積み壁から採取したサンプルを対象とした材料実験では,建物の鉛直荷重を支える強度があり,土だけで積む場合より,同時に石も積む場合の方が細粒の土を用いる傾向が確認できた。環境測定では,土積み壁を持つ建物は,外気温と比べて温湿度が安定しており,土の持つ蓄熱性と調湿性による効果が確認できた。
著者
村上 淳史 畔上 順平 鈴木 康右 百海 裕樹
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集・実践研究報告集 (ISSN:2433801X)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.131-142, 2020 (Released:2020-06-01)

日本の木造住宅は近年,プレカットを用いた生産が一般的となり,分業化が進んだ。急激な生産システムの変化に伴い,「間取りと架構の一体性」など設計の基盤となるべき部分が崩れつつある。そこで本研究では,構造と生産の実態について,構造面では仕様規定の簡易計算と許容応力度計算を行い,生産面ではプレカット工場へヒアリングを通じて明らかにすることを目的とする。その結果,構造面では仕様規定の壁量調査において調査対象の約2割で規定を下回る物件が存在していることが分かった。また,デザインレビューを行い,より安定した住宅になるよう設計改善手法を提案する。
著者
窪田 亜矢 田中 大朗 池田 晃一 森川 千裕 李 美沙 砂塚 大河
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集 (ISSN:21878188)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.97-108, 2016 (Released:2017-08-10)

千葉県浦安市は,1960年代まで小さな漁村集落であった。水害を避けるため限定的な地形を有効に活用する必要があり,密度の高い住空間が展開されていた。工場汚水,地下鉄開通,首都圏の巨大化など多様な影響を強く受けて,漁業は完全になくなり,物理的環境も社会的関係も激変した。木造密集市街地は,大震災時の火災などの突発性リスクからも,高齢化や日中の活動低下という進行性リスクからも,行政の立場からは改善すべき特性となった。しかし,浦安の「ガワ・アン街区」と「ロジ空間」は地域の住文化を支えている。市有地を空地としたまま活用することで,リスクを軽減しつつ,ガワ・アンやロジという空間構造とそれに依る住文化を継承できる可能性がある。
著者
林 玉子 中 祐一郎 小滝 一正 大原 一興 佐藤 克志 狩野 徹 蓑輪 裕子 安部 博雄
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.229-240, 1994 (Released:2018-05-01)

我が国の住宅は高齢者にとっては支障が多く,在宅生活を円滑に過ごすには適切な住宅改善を行なう事が大切である。本研究の最終的な目的は,質の高い改善を行なうための総合的サポートシステムのあり方を示すことにある。具体的には主に,全額助成を実施し,先進的なサポートシステムである「江戸川区すこやか住まい制度」の実態と問題点を明らかにした。研究方法としては,同制度の利用者,役所,協力工務店へのアンケート及び訪問調査を行なったほか,それを補完するために全国の福祉機器ショップ・メーカーヘのアンケート調査,高齢者向け住宅改善の経験のある建築士へのヒアリングを行なった。調査結果の概要は以下の通りである。①改善のプロセス:本人・家族が直接関与した場合に改善後のイメージが捉えやすくなり,ひいては問題点の少ない改善に結びつく。支援制度が改善の促進に非常に役立っている。②改善に要する費用:改善費用は手すりの設置など小規模な場合でも平均約17万円と高額で,特に設備工事,木工事にかかる費用が大きい。助成する際には見積書の統一が課題となる。③改善の効果:1.住宅性能の変化,2.本人の日常生活動作・介護負担の変化,3.意欲・生活態度の変化,を軸として捉え,改善の有効性を明らかにしたが,さらに効果を測る軸についての検討が必要である。④改善の経年的変化:再改善を行なう率は高くその原因は,身体機能や意欲の変化,当初の改善の不備等であり,今後は不必要な再改善は少なくしていくことが必要である。さらに補足調査により重要なテーマである「福祉機器」に関する実態と問題点を把握した他,改善に関する専門的知識・情報のデータベース化に向けて具体的に構成要素と内容を整理した。住宅改善サポートシステムの構築は専門職種の適切な関与,改善に関する知識の一般化,費用の助成,福祉機器の給付等,多面的な対応が必要とされていることが明らかとなった。
著者
小沢 朝江 波多野 純 黒津 高行 須田 英一 野口 健治 石丸 悠介
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-170, 2007 (Released:2018-01-31)

本研究は,南関東・東海・中部地方の土蔵造町家の普及実態を明らかにするとともに,その特徴の差異や導入背景の検討により,土蔵造町家の平面・意匠と導入形態の関連を明らかにすることを目的とする。土蔵造町家は,従来「江戸型」とも呼ばれ,江戸(東京)から各地に伝播したとされるが,近代には松本(長野)等で都市防火政策による計画的な土蔵造の導入が行われる一方,下田(静岡)のように在来の町家等を母体に地元独自の工夫によって,独特の土蔵造町家が生み出された。また,江戸(東京)からの影響で普及する場合も,その導入時期により手本とすべき江戸(東京)での形式が異なるため,結果として土蔵造町家の形式に差異が生じた。
著者
藤田 朗 後藤 武 藤井 正昭 百武 ひろ子 久米 由美 豊田 晶子 岡田 曜子 高 美玲
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.67-77, 2005 (Released:2018-01-31)

本研究は,固有の地域文化を活用して地域再活性化を図るには,どのようなアプローチが有効であるかを考察することを目的としている。筆者らは,典型的な密集市街地である墨田区京島および横浜市鶴見区において,地域文化の使い方に関わる「まちの家」および「鶴見スタジオ」プロジェクトを実践してきた。それらを調査対象とし,そのプロセスや成果を「文化政策」「空間化」の観点から分析することを研究の方法としている。地域資源として見出された「長屋」「レストラン」「公共空間」「社会関係資本」といった要素を文化政策として扱っていくには,「空間の読解可能性」が重要な要件であることがわかった。
著者
山内 宏太朗 渡辺 圭子 山本 和郎
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.209-218, 1994 (Released:2018-05-01)

近隣ストレス尺度構成のために,集合住宅に住む主婦(N=415)を対象に,質問紙法による社会学的調査を実施した。日常の地域生活(集住生活)で経験するトラブル・イベント全50項目(本分析では42項目),子どもの行為音,生活行為音,プライバシー・テリトリー,近所づきあい,及び,モラル・ルールの5カテゴリーから構成される「近隣ストレス尺度(暫定版)」を作成し,近隣ストレス度,地域生活行動,及び,住生活意識の各要因との間の関係について分析を行ない,以下の結果を得た。1.近隣ストレス-トラブル・イベント42項目の中で,音(騒音)に係わるイベントは一搬的に,発生率(イベントを経験する人の割合)が高く,同時に,反応率(そのイベントを経験する時に何らかの心理的困惑を経験感じた人の割合)が高かった。また,自分自身が発生させる(行為率)場合には周りに気がねをしやすい(気がね率)イベントでもあった。すなわち,音に係わるイベントは,集住生活では被害者にもなりやすく,また,仕方なく加害者になりやすいイベントであった。2.モラル・ルールは,発生(経験)率に対する反応率の割合が最も高く,全体として心理的困惑度が大きなイベントである一方,行為率は低かった。すなわち,実際のイベントの発生は少ないにもかかわらず,近隣の人びとがトラブル・イベントとして受け止めやすく,困惑度の高いイベントであった。3.近隣ストレス度(総得点)と5個のカテゴリー別ストレス得点を外的基準にし,生活行動と住生活意識に係わる諸要因を説明変数とした数量化理論Ⅰ類による分析を行なった。一般的に近隣ストレスの各項目に対して,居住年,対象者の年齢,居住階及びトラブルの対処法などの各要因の寄与が大きいことが見い出された。
著者
荒川 千恵子 三沢 浩 新井 啓一 三浦 史郎 渡辺 政利 新井 英明
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.203-214, 2000 (Released:2018-05-01)

本研究は公的集合住宅の建替時に,居住環境の連続性を確保するため,居住者から各人の「エピソード記憶」を聴き,建替計画に生かす手法の提案である。ふるさとに等しい住み慣れた団地に,彼らが喜んで戻れる計画手法がないからである。そこで4団地を対象に調査を行ない,「生活用語」を手掛かりにして記憶を引き出し,かつ自由記述で暮らしの状況をみた。加えて住まいの「空間用語」を使い,空間の良し悪しを聴いた。結果として,今までの計画では普遍性がないとして排除された個人の記憶を,建替時に活用し得ることが分かってきた。この手法は馴染みある団地の再建が期待でき,かつ居住者に計画への参加を広げる可能性も持っている。
著者
本田 昭四 山下 良二 新垣 洋史 岩下 陽市
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅建築研究所報 (ISSN:02865947)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.255-269, 1987 (Released:2018-05-01)

わが国では1880年代の近代炭鉱業の成立期以降,1960年代の炭鉱合理化に至るまでに大量の炭鉱労働者住宅が建設・供給されてきた。しかし1960年代のエネルギー政策の転換により,炭鉱業はスクラップ化され多くの炭鉱労働者は失業し,産炭地域より流出した。以後1970年代に入って,この地域の振興がさけばれるようになった。本研究は以上の80年間に企業により供給・建設された炭鉱労働者用住宅-以下炭鉱住宅と略-を対象としてその歴史的な変化発展の過程につき住宅政策及び住宅計画という視点から考察したものである。さて,炭鉱業においては資源と生産方式の制約から労働者の居住の場が限定された。また労務管理の必要から集団居住が強制された。わが国では,これらの集団住宅を古くは納屋,小屋,飯場とよんだが,以後の労使関係の展開からこの呼称は抗夫長屋,鉱夫宿舎,炭鉱労務者住宅と変化した。とくに戦中,戦後に建設された炭鉱労働者住宅が,戦後の民主化運動の過程で行政的に「炭鉱住宅」と呼称されるようになった。本報告は大きく2つに区分される。まず第1編では1880年から1960年までの炭鉱労働者用住宅の発生と変遷を文献資料と現存する住宅の現地調査に基づき整理し,これと同時代の住宅政策や集団住宅計画の展開と比較研究する。これによって,わが国の労働者住宅の重要な部分である炭鉱住宅の政策・計画論上の特質について考察する。つぎに第2編では1960年以降の旧炭鉱住宅の滅失と再編・改良のプロセスについて調査研究を行っている。とくにこの期間に実施された「住宅地区改良事業」について実施された事例の分析を試みている。さらにいくつかの典型町をフィールドにして80年間の地域と住宅の変遷について通史的な考察を行うとともに,これからの住宅政策の課題について論じている。
著者
本田 昭四 山下 良二 新垣 洋史 岩下 陽市
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅建築研究所報 (ISSN:02865947)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.243-255, 1986 (Released:2018-05-01)

わが国では1880年代の近代炭鉱業の成立期以降,1960年代の炭鉱合理化に至るまでに大量の炭鉱労働者住宅が建設・供給されてきた。しかし1960年代のエネルギー政策の転換により,炭鉱業はスクラップ化され多くの炭鉱労働者は失業し,産炭地域より流出した。以後1970年代に入って,この地域の振興がさけばれるようになった。本研究は以上の80年間に企業により供給・建設された炭鉱労働者用住宅‐以下炭鉱住宅と略‐を対象としてその歴史的な変化発展の過程につき住宅政策及び住宅計画という視点から考察したものである。さて,炭鉱業においては資源と生産方式の制約から労働者の居住の場が限定される。また労務管理の必要から集団居住が強制された。わが国では,これらの集団住宅を古くは納屋,小屋,飯場とよんだが,以上の労使関係の展開からこの呼称は坑夫長屋,鉱夫宿舎,炭鉱労務者住宅と変化した。とくに戦中,戦後に建設された炭鉱労務者住宅が,戦後の民主化運動の過程で行政的に「炭鉱住宅」と呼称されるようになった。本報告は大きく2つに区分される。まず第I編では1900年から1960年までの炭鉱労働者用住宅の発生と変遷を文献資料と現存する住宅の現地調査にもとづき整理し,これと同時代の住宅政策や集団住宅計画の展開と比較研究する。これによって,わが国の労働者住宅の重要な部分である炭鉱住宅の政策・計画論上の特質について考察する。つぎに第II編では1960年以降の旧炭鉱住宅の滅失と再編・改良のプロセスについて調査研究を行っている。とくにこの期間に実施された「住宅地区改良事業」について実施された事例の分析を試みている。さらにいくつかの典型町のフィールドにして80年間の地域と住宅の変遷について通史的な考察を行っている。
著者
高橋 貴 栗田 和明 渡邉 道斉
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.347-358, 1993 (Released:2018-05-01)

本研究では,インドのケーララ州とラジャスターン州,ネパールのクンブ地方の3か所で約1か月ずつ調査を行なった。目的はそれぞれの伝統建築にみられる特徴,技法を明らかにし,それが今日どのように変貌しつつあるかを探ることにあった。1.インド・ケーララ州1つの地域に20~30みられるカーストの中から,上層力-ストであるブラーマン(ヒンドゥー祭司),ナヤール(農民)の大家屋を調査対象とした。彼らの大家族制度と両者の間の特別な婚姻関係は今日解消して久しいが,そうした建物はまだ残っているし,何よりもそこに見られる建築理念や技術は姿を変えながらも継承されているからである。特にここでは大地の神ウァーストプルシャンと八方位神,建築儀礼,職人の変化について述べた。2.ネパール・シェルパ人 ネパールのサガルマータ山近くに住むシェルパ人を調査対象とした。彼らは牧畜,交易,農耕を伝統的な職業としてきたが,1970年代になると登山ガイドや商売をする人が増え,生活は一変する。ここでは伝統家屋の特徴,構造,材料とそこに見られる神観念,例えば,なぜ窓が小さかったのかを説明した。また,近年の変化の例としてナウジェ村をとりあけた。3.インド・ラジャスターン州 インド砂漠の南縁に位置する乾燥地帯で調査を行なった。家屋は ,2階建て,陸屋根平屋建て,草葺き平屋建てという3つの分類ができ,このうち2階建ては都市部,他は農村部に見られることを説明した。またこの分類と四角形,円形という平面プランとの関係,屋根材(数種類の草)壁材(れんが,日干しれんが,草)との関係も明らかにした。
著者
波多野 純 小澤 弘 加藤 貴 丸山 伸彦
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.191-200, 1996 (Released:2018-05-01)

本研究は,江戸の多様な住空間と都市空間を,屏風絵など当時の絵画資料から読み解くことを目的とする。絵画を歴史の資料として用いる際の分析方法は確立しておらず,絵画を当時の情景の直写と誤認している研究も少なくないのが現状である。絵画は,あくまでも絵師の創作物であり,絵師や注文主の意図-時代の意志-を読み解くことによって,はじめて生きた歴史資料となる。本研究の中心資料である歴博本『江戸図屏風』(国立歴史民俗博物館蔵)は,三代将軍徳川家光の事績顕彰を目的とし,明暦大火以前の江戸と近郊が描かれた。そこには,支配者側からみた江戸の都市構造-封建的身分秩序の空間的表現-が反映されている。しかし,制作年代は,不明である。後年の制作とすれば,制作年代における絵師や注文主の意図,つまり家光の事績や時代を,あらまほしき江戸の姿として捉えたい注文主は誰で時代はいつかが,次の課題となる。いっぼう,歴博本において,地図的な都市構造と具体的な景観は,段階を追って画面に定着された。まず,寛永江戸図をもとに,江戸の支配構造を空間的に理解し,画面に割り付ける。つぎに,地域ごとに地図概念を導入し,縮尺(武家地1/1000,町人地1/1000~1/1500)を定めて道や屋敷地割りを行なう。さらに,表現したい建築や印象的な景観を,縮尺(1/300)を変え,誇張して表現する。この場合,水平方向と垂直方向で縮尺を変え,高さを誇張(3階櫓の高さは1/100)して表現することも多い。絵画表現における誇張,なかでも縮尺の自在な変換を,コンピューター・グラフィックスを用いて整理し,統一した縮尺の立面図とすると,現実の景観と心象風景の差が明確になる。大名屋敏の表門や御成門は,長大な練塀のごく1部に過ぎないが,絵師の表現対象としてははるかに大きく,道行く人にとっても強く印象に残った。それを縮尺を変換して表現した。町人地の3階櫓では,さらに高さを誇張して,整備された武都のイメージを強調した。この心象風景こそ,徳川が目指した江戸の姿であった。
著者
菊地 成朋 牛島 朗 天満 類子 赤田 心太
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集・実践研究報告集 (ISSN:2433801X)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.199-208, 2019

「茅葺きの補修を自らの手で行い,地域システムとしての再生をめざす」 福岡県うきは市の新川田篭地区には茅葺き民家が数多く残っているが,それらの多くは持続の困難に直面している。そのような茅葺きの空家を使って,素人による茅屋根の補修を試みる活動を行なった。専門家に助言をもらいながら,茅葺きの道具づくり,茅材の調達,技術習得と実践,集落住民らとの茅葺きワークショップを実施し,その過程を記録することで,非専門家がどこまで茅葺き工事に参与できるのかを検証した。それによって,かなりの作業を担える可能性が確認できたが,同時に想定していなかった課題も見出された。今後は,地区内での茅場再生にも取り組み,地域循環的な営みとして茅葺きが行われることを目指し,活動を続ける予定である。
著者
石垣 文 本間 敏行 徳川 直人 米川 文雄 藤田 毅
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.231-242, 2008

要養護児童のためのグループホームにおける住環境と地域化を考察した結果,1.GHの家屋選定は,室面積や本体施設との距離,周辺環境や住民の顔ぶれ等が考慮されていたものの,様々な制約の中で選択余地のないホームも確認された。2.職員の築いてきた社会関係をもとに,GHは近隣住民等からの理解・支援をうけており,3.GH入所児は本体施設入所児に比べて,施設外の子どもや大人との関わりが活発である傾向がみられた。一方で,4.関係構築には数年程度の歳月と職員の多大な努力,良き理解者を必要とし,また職員の年齢や勤務体制の影響が大きいこと,などが明らかとなった。
著者
道上 真有 田端 理一 中村 勝之
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.259-268, 2010

本研究は,ロシア政府が2006年から実施した住宅政策の効果に関する中間的評価を行っている。ここでは,住宅政策が国民の住宅購入可能性(affordability)にどのような影響を与えたのかという問題を中心に,ロシア連邦と3つの主要都市,およびモスクワ市の9行政区におけるaffordabilityを計測した。その主要な結果は,2007年のロシアで住宅ローンを利用して住宅を購入できる人口割合は住宅政策実施の前後で2割程度とあまり変化しなかった。また,住宅ローン融資目標額や住宅弱者に対する補助受給世帯数も目標値を下回っていた。他方,モスクワ市行政区におけるaffordability値の計測,およびaffordabilityを規定する要素と人口流入との相関を推計した結果,行政区によっては価格高騰地域でも住宅政策実施後にaffordabilityの値が向上し,さらにドーナツ化現象の影響が加わっている可能性が示唆された。