著者
堺 正紘
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

木材の流通・利用をめぐる状況の変化の中で、すなわち(1)住宅供給形態の変化(企業の進出やプレカットシステムの増加)、(2)冷暖房の普及や遮音・断熱性に対する要求の向上、(3)大型木造建築物の増加、(4)伐出産生の機械化や原木市売市場の発達等による木材の生産・流通構造の変化、などに伴って木材の乾燥問題がクロ-ズアップされるようになった。しかし、1987年の乾燥木材の生産量は945m^3で、製材工場の製材品出荷量の3.1%を占めるに過ぎない。しかも大半が造作材、フロ-リングや集成材の原板、家具用材、梱包用材等であり、柱角のような建築用構造用材は29%に過ぎない。本研究では、建築用木材の分野での乾燥木材の生産・流通の最適シストムを明らかにすることを目的に、製材工場(1989年度)とプレカット工場(1990年度)の木材乾燥に対するアンケ-ト調査並びに原木乾燥に関する産地調査(1991年度)を実施した。木材乾燥は原木の天然乾燥と製材品の天然及び人工乾燥との効果的な組合せが課題であるが、スギ材産地の製材工場では、製品の天然乾燥(1ヶ月以上)は39%、人工乾燥は22%、原木天然乾燥(1ヶ月以上)でも48%が行っている過ぎない。これは乾燥木材と生材との価格差が小さく乾燥コストが償えないからであるが、木材乾燥による材質や商品管理上のメリットについては多くの製材工場が認めている。プレカットは在来木造建築の分野では顕著な伸びが続いているが、プレカット工場の木材品質に対する要求は一般工務店よりも厳格である。部材の含水率管理の現状はまだ甘いが、それは乾燥木材供給量の絶対的な不足によるところが大きい。葉枯らし等による乾燥原木の生産量は688千m^3、国有林230千m_3、民有林458千m^3であり、民有林では奈良県を中心とする近畿地区に36%が集中する等地域性が大きい。またマニュアルの見直しを求める声も強い。
著者
松本 龍二
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

前年度までに、テラヘルツの光信号列を制御することを目的に、電気制御を用いない光の特性のみを利用した反射型の光変調素子を提案し、単一信号のピコ秒オーダーの光変調を達成してきた。今年度は、(I)擬似的なテラヘルツのパルストレインによる連続的にパルス信号を変調する試みおよび、(II)位相変調型の光変調を提案した。(I)疑似テラヘルツを発生させる光学系を新規に組み立て、一つのフェムト秒パルスを1ps〜数psの間隔を持つパルストレインに分割した。フタロシアニン系の色素分散高分子薄膜をもちい連続パルス光の光変調を試みた。導波モードが斜め入射である問題点から、1psの応答は得ることができなかったが、各パルス光を時間的に分離できる数ピコ秒から10psオーダーの間隔であれば連続パルス光変調の可能性を示唆した。(II)偏光板を複数組み合わせ、これまでの強度のみの光変調ではなく、位相変化を用いた手法について検討した。出力光は、Johns行列を用いた計算方法で予測された。この結果、導波モード条件では著しい位相の変化が確認され、検出偏光板の方位角度に依存した複雑な変化を示した。フェムト秒レーザー励起により、おもに屈折率の嘘数部のみの変化で光変調が実現できた。このように、情報通信技術における次世代の技術、全光制御型の光変調方法としてのあたらしい可能性を見出した。確立した成果はApplied Physics Lettersで近日公開予定である。
著者
伊藤 冬樹
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題では,複数の分子を組み合わせることで形成される組織化分子配列系で進行するエネル1ギー・電子移動反応などの励起ダイナミクスについて時間・空間分解分光法を用い,時間発展と空間分布の階層性を明らかにすることを目的とする.組織化された分子配列系として光捕集能や光導電機能をもつ分子をDNAにインターカレートした機能組織体を対象とする.前年度のアクリジンオレンジーDNA薄膜における時間分解蛍光測定,蛍光異方性減衰の測定から,DNAにインターカレートして形成される分子配列系において高効率な励起エネルギー移動が生じていることを明らかにした.本年度は,この結果に基づき,DNA鎖上にカチオン性ポルフィリン(TMPyP)とシアニン系近赤外蛍光色素(DTrCI)を吸着させた系における励起エネルギー移動を観測し,これを利用した近赤外蛍光増強について検討した.TMPyPとDTTCIを混合したDNA緩衝溶液中ではTMPyPの濃度が増加するにつれて,DTTCIの蛍光強度はTMPyP非存在下の最大86倍程度増加した.このエネルギー移動過程のタイナミクスを検討するために,時間分解蛍光測定を行った.TMPyPの蛍光強度は2成分指数関数で減衰した.一方DTTCIの蛍光強度は立ち上がりと減衰の2成分指数関数で再現された.立ち上がり成分はTMPyPの早い減衰成分と一致したことからエネルギー移動によってDTrCIの励起状態が生成したことを示している.また,本研究課題により得られた知見に基づき,高分子薄膜中に形成された色素分子集合体の集台体サイズとその励起状態ダイナミクスに関する研究へと発展させることができた.
著者
長村 利彦 伊藤 冬樹
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

近年, バイオイメージングや光線力学療法の観点から, 近赤外蛍光が注目されてきている. しかしながら, 近赤外蛍光色素の蛍光量子収率は一般的に非常に低い. これはπ共役系を拡げるために分子構造が複雑であることや, エネルギーギャップが小さくなると蛍光放射速度定数は小さくなるという本質的な問題に起因する. 本研究では, 光-分子強結合場における近赤外蛍光の増強を試み, 増強に及ぼす因子・機構解明を目的とした. 光一分子強結合場として金ナノロッドとDNAとのナノ複合体を利用し, その光学特性について検討した. 本研究の開始段階で, 金ナノロッドの周囲に存在する界面活性剤の影響が大きいことが明らかとなった. この影響を取り除くために, 以下のような光一分子強結合場の構築を行った.第一に, 交互積層法を用いて, 金ナノロッド表面への修飾を行い, ナノ構造制御した. 界面活性剤で被覆されている金ナノロッドヘカチオン性高分子とアニオン性高分子を交互に積層させ, 最表面ヘアミンと反応できる近赤外蛍光標識試薬(ICG-Sulfb-OSu)を修飾した. この系において最大16倍, 平均1.7倍程度の増強が確認された. しかしながら, 粒子間の凝集などの影響により定量的な検討を行うことは困難であった.次に, 金ナノロッドを高度な構造規則性を有する天然高分子であるDNAに分散させた高分子積層薄膜による反応場の創成をおこなった. DNAを薄膜媒体として金ナノロッドを分散した薄膜を作成したところ, 金ナノロッドの分散濃度の増加にともない, 元の長軸由来のバンドより長波長側に新たな吸収が観測された. この吸収はPVAを媒体とした場合には観測されなかった. これはDNAによって配列制御されたロッド間でのプラズモン結合を示唆する. この薄膜を用いて近赤外蛍光の増強を試みたところ, 強度は約3倍増加した.
著者
塩野 正明
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.LDE法によりリボヌクレアーゼAp1の直接構造決定を試みた。分解能8Aの反射にランダムな位相を与え、実測データの上限である分解能1.17A(23853反射)まで位相を拡張及び精密化を行ったところ、平均位相誤差81.7°、規格化構造因子と修正後の電子密度から得られた構造因子の大きさにより重みを付けた平均位相誤差76.5°が得られた。この位相により計算された電子密度から主なピークを拾ってみると、大きなものから順に、1、4、5、8番目のピークがS原子のものであることが判明した。ちなみにリボヌクレアーゼAp1の分子は5つのS原子を含む。2.リボヌクレアーゼAp1の空間群はP2_1であり、b軸に垂直にハーカーセクションが現れる。ハーカーセクションが現れるピークがすべて自己ベクトルに起因するものと仮定し、電子密度にフィルターをかけてみた。これを用い、全反射にランダムな位相を与えて初期値とし、位相精密化を行ったところ、20回の試行のうち18回、1.で得られた位相と同等のものが得られた。3.リボヌクレアーゼAp1の5つのS原子の位置より計算した位相を初期値として精密化を行ったところ正しい構造が得られた。LDE法は部分構造から全体構造を導出する能力に優れており、1.と2.で得られた電子密度から正しい構造が得られる可能性は十分にある。これについては現在計算中である。4.LDE法とヒストグラムマッチング法の比較検討を行った。ヒストグラムマッチング法は低分解能から高分解能のデータまで適用出来、ある程度は位相精密化可能である。LDE法は、低分解能領域においてはヒストグラムマッチング法に劣るものの、高分解能領域では位相拡張及び精密化の能力は非常に優れていることが判明した。5.LDE法を、実測データが手元にある2‐Zn‐pig‐insulinとリボヌクレアーゼSaに適用した結果、どちらの構造でも平均位相誤差70°からはじめて、重み付き位相誤差55°程度まで精密化することに成功した。
著者
中川 清 福田 研二 藤本 登
出版者
九州大学
雑誌
九州大学大学院総合理工学研究科報告 (ISSN:03881717)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.309-315, 1997
被引用文献数
1

This study has been carried out to probe into the availability of using solar power generation as a substitutive power system for the fossil fuel in Japan. The available space the solar cell array could be installed is 10% for the plottage of major buildings, 0.5~2% for the flat land and a certain percentage for the appended facilities for road, etc. The generation capacity of the solar cell is assumed to be 100 W/m2 at peak time (the average value is 1/10).The generating power calculated from the conditions above is about 250GWp and nearly 75% of that is from the building plottage, and the available space for array installation is close to 0.66% of the gross land area. Also, based on the above estimate, the generating power is expected 286 billion kWh a year, which is about 30% of the total power generated (964 billion kWh in 1994), that is about 5% of the total power consumed (5.9trillion kWh in l994).
著者
木島 孝之
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

益富城塞群の遺構調査は外郭部を完了し、「縄張り図」(1/1000)を作製した。具体的成果として、外郭部の長城型防塁遺構の全容をほぼ掌握した。そして、幾つかピーク地形ごとに独立性の強い曲輪群が林立し、その間の尾根・谷地形に畝状竪堀群・土塁ラインを設けて曲輪群相互を連結させた「城郭群」の形態を成すことを確認した。この形態は、自律性の強い各部隊(複数の領主)が相対的に緩やかに大同団結した姿を窺わせる。確認した事項、すなわち、ごく短期間内に一挙に構築されたと考えられること、畝状竪堀群を横堀・土塁とセットで使用する点で北部九州の在地系城郭の中で最高の技術水準にあることを考え合わせると、研究当初の予見どおり、当遺構が天正14年の九州平定軍の来襲を前に、秋月氏を盟主とする北部九州国人一揆によって構築された可能性が極めて濃厚となった。ここに、城塞群の規模と仕様から、従来、文献史料の面からのみ構築されてきた結果論としての九州平定戦のイメージを大きく見直す必要が指摘できた。すなわち、豊臣軍の来襲を目前に控えた北部九州では秋月氏の下に、結束力などの質の問題は兎も角も、動員力の面では極めて巨大な国衆一揆が結成されており、初戦の戦況次第では九州平定戦は結果論にみるほど円滑に推移する状況になかったことが明らかとなった。加えて、この視点に立って改めて『九州御動座記』などの幾つかの文献史料を見直したところ、豊臣側でも秋月氏の存在を九州屈指の巨大勢力として強く意識していた様子が窺える記述も確認できた。以上の成果の概略は『益富城跡II』調査報告書(嘉穂町教育委員会、今年度末発行予定)に掲載予定である。次に、黒田氏時代に大改修された主郭部に関しては、発掘調査で出土した瓦の整理・分類を行い、鷹取城(益富城と同時期に織豊系縄張り技術で大改修され、黒田領の「境目の城」に取立てられた)の瓦との比較研究を行った。結果、両城は類似した性格を持つにも拘らず、益富城には当時の最新の瓦工集団が、鷹取城には相対的に古式な集団が動員された可能性がみえてきた。しかも縄張りの洗練度の面では、むしろ鷹取城の方が"垢抜け"した最新鋭のプランである。これらの要因について、前者は、支城普請における城持ち大身家臣の自律性の強さが投影されたものであり、後者は、慶長期の築城における縄張り(設計)と普請(施工)がまだ一体の行為として整理・統合されていない状況を示唆するものではないかと考えた。この成果は『城館資料学』3号に掲載した。
著者
小黒 康正
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、ドイツ文学を考察の中心に据えながら、ヨーロッパ文学におけるトポス「水の精の物語」の古代から現代に至るまでの変遷と、その背後にある「視覚と聴覚の弁証法」の解明を目指した。その結果、トポス「水の精の物語」が聴覚重視と視覚重視の融合と離反を繰り返しながら変容する過程を明らかにした。具体的には、1.ホメロス『オデュッセイア』のセイレンの誘惑手段をめぐって古代から現代にいたるまで知性重視、聴覚重視、視覚重視の概ね三つの異なる見解があること、2.本来は聴覚を重視する「水の精の物語」が次第に変質し、歌うことのない美しい水の精が登場し、視覚のみを重視する伝統が中世において形成されること、3.ゲーテが水の精における歌の欠如という点で伝統の継承者となるが、同時に歌を再び復活させる改革者となり、更には新たな展開の先駆者となること、4.ドイツ・ロマン派によって「水の精の物語」における聴覚重視と視覚重視のふたつの見解が混淆するが、その影響を多大に受けたアンデルセンおいて再び歌声が消失すること、5.その後、新たな「水の精の物語」が多様に展開しながらも、特にドイツ文学では同時に歌声の欠如という点で共通し、我々に新たな身体論的問題を問うに至っていること、6.このような更なる展開が近代日本文学の人魚をめぐるディスクールに決定的な影響をもたらし、またもたらし続けていること、以上の六点を明らかにした。
著者
石村 真一
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

家庭電化製品の普及については、1950年代後半より内閣府によって調査が行われて統計化されている。しかし、それは家庭における使用率を単に示しただけで、具体的な使用場面について言及しているわけでもない。また、家電製品の技術革新について触れているわけでもない。本研究においては、戦後に製作された映画の家電製品に関する使用場面を通して、技術革新をどのように生活者が受容したかを探ることを主たる目的としている。使用したVHS、DVDの映画は400本程度である。特に、洗濯機、扇風機、テレビといった大衆の必需品となっている製品を中心に、映画の中から使用場面を摘出した。こうした使用場面を時系列に整理し、使用場面の増減について統計処理を行った。次に、過去の文献史料、フィールド調査等で得た日本の家電史のデータと比較し、技術革新と製品の形態、製品の変化生活での対応という点を考察した。その結果、電気洗濯機は自動化が進み、乾燥まで含めた完全自動化を生活者も望んでいることが読み取れた。扇風機は脚の短い台置き型から、脚の長さを可変するタイプに一部移行するが、それほど大きな変化がないと読み取れた。テレビについては、技術革新が最も顕著に見られ、ブラウン管の変化から液晶、プラズマと変化する中で、テレビの形態も大きく変化している。しかしながら、居間にて家族がテレビを観るという家族での行為は、現在も継承され、一種のコミュニケーションの場になっている。すなわちテレビも含め、家庭用電化製品の技術革新は、常にユーザーの受容があって、成り立っているということになる。映画の場面は、著作権の問題があり、論文を紙媒体で扱う場合は、著作権法32条の引用で対応可能ですが、電子ジャーナル化には許諾が必要になります。この許諾には高額な費用がかかることから、現状では電子ジャーナルへの掲載は極めて難しいようです。
著者
末岡 淳男 井上 卓見 松崎 健一郎 高山 佳久 劉 孝宏
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

高速増殖炉ヘリカル伝熱管深傷プローブの振動によるセンサノイズの原因とその対策を,モックアップによる実験と数値シュミレーションによって明らかにした.得られた結果は以下のようにまとめられる.(1)ECT(Eddy current testing)プローブを静止させて蒸発管内で圧縮空気だけを流しても,プローブには振動は発生しないが,プローブの圧送時には振動を生じる,すなわち,プローブの振動の原因は流体力ではなく,蒸発管内壁とプローブにあるフロートとの間の摩擦と考えられる.(2)ECTプローブの挿入過程では,挿入距離の増大に伴ってプローブの振動が激しくなる.ヘリカル管の中間部を過ぎると,約20HZの卓越した振動数で振動し,それに伴ってRF(Remote field)ノイズも大きくなる.そのとき,ECTプローブは軸および径方向に連成振動をしており,RFセンサは尺取り虫的な動きをする.一方,引戻過程では,卓越した振動数を持つ振動は発生せず,振動レベル,RFノイズとも挿入過程よりも低い.(3)挿入時には,ECTプローブはヘリカル伝熱管の内径側に張り付き,引戻時には,逆に外径側に張り付くように圧送される.したがって,挿入時および引戻時で,ECTプローブにはそれぞれ張力および圧縮力が作用している.(4)ECTプローブの搬送速度を高くするほど,圧送用の空気量を多くするほど,ヘリカル直径を小さくするほど,ECTプローブの軸および径方向振動もRFノイズも大きくなる.(5)ECTプローブの径方向の振動は,先端にいくほど大きい.また,RFノイズは励磁センサと検出センサの径方向相対振動の大きさと相関があるが,軸方向振動とは相関がない.(6)RFノイズを最小化するためには,6m以上で,曲げ剛性が比較的低い先導プローブを持つECTプローブを構成することである.(7)伝達影響係数法を適用して,大規模なプローブ列を対象とした流体による搬送力を含む摩擦振動を解析した結果,モックアップの実験結果とほぼ同様な数値計算結果を得ることができた.
著者
吉岡 斉
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、次の3つである。(1)冷戦終結後の世界の核エネルギー研究におけるリストラクチャリングの動向を概観すること。(2)リストラクチャリングにともなう研究資源(研究者、研究施設、研究資金など)のコンヴァージョンを促進するための主要国の政策について概観すること。(3)日本におけるリストラクチャリングおよびコンヴァージョン政策の在り方について、批判的分析を行うこと。コンヴァージョン政策が重要である理由は、2つある。第1は、リストラクチャリングの副作用を抑えること。第2は、コンヴァージョンの受け皿を用意することによって利害関係者の抵抗を弱めること。なお本研究では主として、民事利用の分析に力点を置いた。それは第1に、軍事利用分野に関しては世界的に調査が進んでいるからである。また第2に、日本の場合は軍事利用事業自体が存在しないからである。研究成果の相当部分はすでに出版されており、そのリストは報告書にある。代表的な3点のみを裏面に記す。主な研究の知見は次の3点である。(1)欧米諸国では周到なコンヴァージョン政策が不在であるにもかかわらず、リストラクチャリングは比較的順調に進んでいる。(2)それとは対照的に日本では、従来からの基本政策の見直しがいまだ実現しておらず、リストラクチャリングは限定的なものにとどまっている。その主要な原因は、日本の政策的意思決定機構の閉鎖性にある。そこでは当該政策の所轄官庁の利害が、過剰に保護されるのである。(3)リストラクチャリングを進めるためには、政策的意思決定機構の抜本的な改革が絶対的に不可欠である。それと同時に、適切で効果的なコンヴァージョン政策の立案が重要である。
著者
上原 克人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東シナ海陸棚は面積こそ全海洋の0.35%にすぎないが、この海域へ黄河・長江両河川から流入する土砂は世界中の河川から海洋へ流入する量の12%に達し、光透過度や栄養塩の輸送、海底堆積物の粒径変化などを通して海域の生態系に大きな影響を与えるとともに、中国東岸での過去6千年で200kmに及ぶ海岸線の前進を引きおこすなど陸棚の地形発達にも深く関与してきた。そのため東シナ海においてこの陸起源の土砂の振る舞いを把握することは当該海域の海洋環境を理解する上で非常に重要である。過去の観測結果からこの河川由来の土砂の多くは沿岸域でいったん堆積した後、再懸濁を繰り返しながら陸棚域を移動することが示唆されてきたが、再懸濁の発生頻度や空間分布は、陸棚全体にまたがる年間を通した研究はこれまで行われておらず、理解が十分であるとは言えなかった。そこで本研究では陸起源の土砂輸送過程の中でも再懸濁過程に的を絞り、東シナ海陸棚上で一般流、潮流、波浪に起因する底摩擦の強度を過去10年間にわたって推定し、再懸濁を引き起こす可能性のある強い底摩擦が発生する頻度を調べた。その結果、従来から指摘されていた冬場の暴風だけではなく、台風通過も再懸濁を引き起こす大きな要因となりうることが判明し、夏から初秋にかけての再懸濁も東シナ海の物質輸送に影響を与えている可能性が示唆された。さらに黄海の中国沿岸と韓国沿岸では、同じモンスーン気候の影響下にあるにもかかわらず、陸域配置の関係から再懸濁発生の季節変化のパターンが異なることが明らかになった。この結果は両岸での干潟発達の観測結果と良く対応しており、東シナ海沿岸の潮間帯の季節変動を理解する上で海域全体を体系的に調べることの重要性を示している。
著者
山本 勝
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

Venus-1ike AGCMを用いて,超回転や大気波動の自転傾斜角依存性を調べた(Yamamoto and Takahashi 2007, GRL).金星条件では,自転傾斜角が大きくなるにつれて超回転が弱くなる.自転傾斜角が小さい場合,Gieraschメカニズムにより,効率よく角運動量が上方輸送され,100 m/s程度の高速超回転が形成維持される.また,数万日周期の変動も見られる.自転傾斜角を10度から20度に大きくするにつれて,超回転は小さくなる.さらに,自転傾斜角を増大させると,超回転は小さくなり,20m/s程度の値に漸近する.このパラメーター領域では,加熱域の季節変化に対応して,東西流や子午面循環も大きく季節変化するが,数万日の長周期変動はほとんど見られなくなる.この場合,冬至や夏至で角運動量上方輸送効率が落ちるので,超回転が弱くなる.これまで,自転速度や南北加熱差が金星超回転の重要なパラメーターであると思われていたが,自転傾斜角も非常に重要であることがわかった.惑星スケール波が金星中層大気大循環に及ぼす役割や雲加熱に対する大循環や波動のsensitivityを調べるために,金星中層大気GCMも開発した(Yamamoto and Takahashi 2007, EPS).赤道域のスーパーローテーションは潮汐波によって維持されるが,中層大気全体の角運動量収支に関しては子午面循環による角運動量上方輸送と波による下降輸送によって維持される。つまり,雲層上端赤道域の局所的な角運動量バランスに関しては潮汐波による加速(潮汐説)が重要であるが,中層大気全体では子午面循環による角運動量鉛直輸送(ギーラッシ説)が重要であった.
著者
安河内 朗 前田 享史 石橋 圭太 樋口 重和 樋口 重和
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では光、温度、重力の各ストレスが及ぼす生理反応への影響から現代生活における適応性を評価した。その結果以下のことがわかった;1)朝の十分な光曝露と夜の電球色照明の選択は、概日リズムを調整し夜型化を抑制する。2)身体の運動不足や冬季暖房の慢性的利用は基礎代謝量を低下させ、耐寒性、耐暑性を低下させる。身体的運動はこれらの低下を向上させる。3)立ちくらみ頻度は夜型に多く、夜型は重力負荷に対する心拍応答が大きく直立耐性を低下させる。
著者
辻井 正人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では典型的なカオス的挙動を示す連続力学系(アノソフ流、特に負曲率空間における自由粒子の運動を記述する測地流)に対して、付随する転送作用素のスペクトルを分析することで軌道の統計的性質を精密に分析する方法を研究した.最大の研究成果は負曲率多様体上の測地流(またはより一般の接触アノソフ流)に対し、転送作用素の生成作用素が離散的なスペクトルを持ち、それらが複素平面上の幾つかの虚軸に平行な帯状領域に含まれるという事実を示したことである.加えて、力学系のゼータ関数についても対応する結果を得た.これは従来の関係分野の研究を大きく前進させるものである.
著者
森 裕一
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

○高色素導入型、および高耐久性高分子材料の設計・合成高色素導入型高分子材料として、本研究課題であるハイパーブランチポリマーの更なる高性能化を目指し分子設計・合成に着手した。分子設計の指針として、光学透明性に優れるメチルメタクリレート(MMA)を導入し、色素を化学結合したハイパーブランチポリマーの統計的な合成を行った。具体的には、ハイパーブランチポリマーの主鎖にはメチルメタクリレートとイソシアネート基を有するメチルメタクリレートを導入し、分岐性を持たせるために二つのオレフィン化合物を有する分子設計と合成経路の確立に努めた。その結果、分岐内部のイソシアネートとヒドロキシル基を有する光機能性色素材料を付加反応することで極めて高い非線形光学色素の溶解性と高分解温度特性を得ることができた。汎用的に用いられているホスト材料PMMAの色素溶解性は20wt%であったのに対し、本研究で合成したハイパーブランチポリマーは50wt%と2倍近い導入を確認でき、当該年度達成目標である40wt%を大きく凌駕することができた。○光機能性色素の設計・合成光機能性色素材料として高非線形光学分子に焦点を当てて、分子設計・合成に着手した。分子設計の指針としてπ共役鎖がつながった代表的な非線形光学色素を合成した。具体的には、イソシアネート基と反応しウレタン結合を形成することから分子末端にヒドロキシル基を有するπ電子共役形誘導体を合成した。これらの材料特性評価を行ったところ、合成段階においてイソシアネート基の消失をFT-IR測定で確認でき、DSC測定によって高いガラス転移温度(>140℃)を得ることができた。○光デバイスの作成・評価合成した材料をデバイス化し、物性評価を行うことが、本テーマの役割である。作成した薄膜をデバイス化した後、電気光学定数(r33)を測定した結果、140pm/Vを得ることができた。この結果は、申請書に記載の最終目標として掲げた50pm/V以上の値を大きく超える値であり、昨年度の結果である110pm/Vを超えることに成功した。
著者
小坂 俊夫 秋鹿 祐輔
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

本研究では、1)通常の光学顕微鏡あるいは、共焦点レーザー顕微鏡による光学的切片を用いたステレオロジーによる定量解析、特に、disector法、2)免疫細胞組織化学における反応強度の定量解析法を検討し、中枢神経系における基本的な定量解析法の確立をめざした。1)光学的切片を用いたdisector法disector法を適用するために必要なサンプルの条件、例えば、染色の切片内への浸透の程度の評価、プロセッシングでの面積、厚さの変化等を詳細に検討し、DAB発色標本の通常の光学顕微鏡による解析、蛍光染色切片の共焦点レーザー顕微鏡での解析法がほぼ確立でき、この方法を、海馬及び嗅球の介在ニューロン群の解析に適用した。2)免疫細胞組織化学における反応強度の定量解析法反応強度の定量解析法を適用するためのサンプルの条件を検討し、DAB発色標本の通常の光学顕微鏡像、蛍光染色切片の共焦点レーザー顕微鏡像をパーソナルコンピューターに取り込み、画像解析ソフトNIH imageを使用して、グレイレベルを測定する事で、反応強度の定量解析法が可能になった。この方法を用いて、海馬のGABAニューロンサブポピュレーションにおけるGABA合成酵素GADの2つのアイソザイムGAD67とGAD65の個々の細胞体、及び、シナプス終末での分布の差異を明らかにすることができた。
著者
井上 眞理 湯淺 高志
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

イネ科およびマメ科作物の子実の成熟および発芽過程について主に活性酸素およびラジカルスカベンジャーの機能に注目して調べた。吸水後のコムギおよびオオムギ種子のアリューロン細胞で生成されるH_2O_2は、抗酸化物質であるアスコルビン酸により消去されることを明らかにした。また、子実の登熟過程において、穂発芽抵抗性のコムギ"農林61号"は、ラジカルスカベンジャーであるアスコルビン酸による発芽抑制効果が登熟後期の開花28 日目から顕著となり、H_2O_2を消去するカタラーゼ活性が著しく高くなった。さらに、コムギのアスコルビン酸散布処理は、いずれの登熟ステージにおいても有効な穂発芽抑制物質となることが示された。デンプン種子だけでなく、油糧種子の成熟や発芽過程についても基礎的な知見を得た。ラッカセイでは、H_2O_2処理により90%以上の発芽率を示し、対照区に比べ著しく改善された。含水率は子葉および下胚軸ともに吸水に伴い漸増したが、下胚軸の増大は顕著だった。水の動態を示すT2は、下胚軸では吸水1日後から5日目まで漸増し自由水が出現した。乾燥子実へのH_2O_2処理により下胚軸および幼根においてエチレン生成が3倍となることが明らかになった。そこで、エチレン応答性遺伝子群の発現を正に制御する転写因子抗GmEin3 抗体によるイムノブロットを行った結果、H_2O_2処理によりラッカセイの下胚軸および幼根に明瞭な交差シグナルが早い時期から検出された。また、ダイズ種子の成熟過程の子実の成熟過程における含水率の変化とオートファジー関連遺伝子であるATG8ファミリーとの関係にも着目し、GmATG8i は含水率の低下に伴い開花28日目からその発現程度が低くなることも合わせて報告した。
著者
廣瀬 慧
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は,まず,因子分析の変数選択に関する研究を行った.因子分析モデルにおける変数選択は,例えば,社会科学,心理学の分野では,アンケート調査でどのアンケート項目に基づいて分析を行うのがよいかを決めるために必要となる.また,ライフサイエンスの分野では,数万の遺伝子の中からどの遺伝子が癌などの病気の原因となるのかを発見する際に重要な役割を果たす.そこで,L_1型正則化推定法に基づいた新たな変数選択法を提案した.因子分析モデルでは,各変数に対応する因子負荷量が複数あるため,通常のlasso推定法にあるような,係数1つ1つに対してスパースな解を導く罰則項を適用すると,適切に変数選択を行うことができない.そこで,複数のパラメータをグループとみなし,グループごとに変数選択を行うGroup Lassoを導入した.提案したモデリング手法をKendall(1980,Multivariate Analysis(2nd. ed.)Charles Griffin)の求人データに適用し,観測変数の背後に潜む因子を明らかにした.構造方程式は,分析者が観測される多変量データの複雑な因果構造に関する仮説を立て,その仮説から現象の因果を検証することを目的とする多変量解析手法で,心理学,社会科学生物学や医学など諸科学の様々な分野で応用されている.このモデルに含まれるパラメータを最尤法で推定すると,推定が不安定となりやすく,特に誤差分散の推定値が負となる不適解問題が発生することがあり,解決すべき重要な問題として知られている.この問題に対処するために,ベイズアプローチに基づくモデルの推定を行った.パラメータの事前分布として,Akaike(1987, Psychometrika, 52, 317-332.)の事前分布に基づいて,新たな事前分布を提案した.さらに,事前分布に含まれるハイパーパラメータの値を選択するために,モデル評価基準を導出した.提案した一連のモデリング手法を個人消費低迷の原因についての因果分析の実データに適用し,その特徴と有効性を検証した.