著者
関 源太郎 高 哲男 姫野 順一 岩下 伸朗 荒川 章義 江里口 拓
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

20世紀イギリスの経済社会改良思想は、19世紀末に古典的リベラリズムの時代的限界を打破するべく登場したニュー・リベラリズムの形成とその後の戦前・戦後における多様な展開、1980年代の一時的消失、20世紀末の再生という動的過程を基軸に理解することができる。その際、特に注目すべきは、(1)ニュー・リベラリズムの形成はリッチーの社会進化論が大きな契機となったこと、(2)その展開は戦前・戦後期のマーシャル、ピグー、トーニー、ウェッブ夫妻、ケインズらの経済社会改良思想にも伺うことができること、(3)1980年代サッチャー政権下で消失した観を呈した経済社会改良思想におけるニュー・リベラリズムの伝統は、サッチャー政権の諸政策を推し進めようとしたメジャー保守党政権が新たに提起した市場への政府介入を推し進め、新らたに変化した時代環境に適用したニュー・レイバー労働党政権によって1990年代末に再生されたということである。
著者
古川 謙介 後藤 正利
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

偏性嫌気性細菌Desulfitobacterium sp.Y51株はテトラクロロエチレン(PCE)を最終電子受容体として強力に脱塩素化してトリクロロエチレン(TCE)を経てcis-ジクロロエチレン(cis-DCE)を生成する。この反応はエネルギー生成系が共役しておりハロゲン呼吸と称される。本課題では以下の研究を行った。1.Y51株のPCEデハロゲナーゼ酵素を精製、抗体を取得した。ついで本酵素がペリプラズムに局在することを明らかにした。2.PCEデハロゲナーゼ酵素はPCE及びTCEの添加により転写レベルで高度に誘導された。一方、cis-DCE添加により転写が阻害されるばかりでなく酵素反応も阻害された。3.PCEデハロゲナーゼ遺伝子(pceA/pceB)近傍の遺伝子をクローン化した。その中に本遺伝子クラスターの転写制御遺伝子と考えられるpceRが存在した。pceR遺伝子はPCE/TCEと結合してpceAB遺伝子の転写を促進すると考えられる。4.cis-DCEによる転写阻害に関しては、市販のcis-DCE中に不純物質として存在する著量のクロロフォルムが関与していた。1μMの極低濃度のクロロフォルムを添加して培養するとpceAB遺伝子を含む約6.6-kbDNAが高頻度(80%以上)に欠失した。また、クロロフォルムはY51株野生株の生育を著しく阻害するが、欠失株の生育を阻害しなかった。5.上記の研究と並行してPCEを完全にエチレンまで脱塩素化する微生物コンソーシアを取得した。このコンソーシア中にはDehalococcoides属細菌の存在が認められた。
著者
吉川 茂 石井 望
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

正倉院尺八から現代尺八までの構造・設計上の変化を音響理論、音響実験、さらにはCT画像の解析を通して考察し、尺八変貌の過程を明確にした。特に、正倉院尺八における運指7(第3, 6孔を開けるクロス・フィンガリング)の問題点を指摘し、江戸・明治期の名管尺八では節の残し具合で調律していることが了解された。また、中国唐代の音楽に関する考察から、正倉院尺八の指孔は燕楽二十八調の音階を吹奏できるように配列されているとの知見を得た。
著者
中園 明信
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

15年度年度も昨年度に引き続き、北部九州における磯魚幼稚魚の出現をモニタリングした。15年度も夏から秋にかけて従来見ることの出来なかった多くの暖海性稚魚の出現が見られた。主なものを上げるとコスジイシモチ、ホンソメワケベラ、ナガサキスズメダイ、ニザダイ等である。14年度との大きな違いは14年度に多数出現したイトフエフキが極端に少なかったことである。それに反して、ホンソメワケベラやナガサキスズメダイの数は比較的多かった。イトフエフキは14年度同様の出現を期待していたが、期待に反して少なかったのは14年から15年にかけての冬季が例年になく水温が低かったために産卵親魚群が死滅または分布域が後退したのが原因ではないかと推察された。すなわち、14年から15年にかけての冬季には、例年12℃までしか下がらない沿岸の水温が寒波の襲来で約1週間9℃まで低下した。しかし、寒海性の稚魚の出現は見られなかった。15年度の観察では、水温13℃まで下がった12月中旬まではソラスズメダイはじめ多くの磯魚幼魚が生息していたが、その御数回寒波が来ており、荒天のため観察が出来ていない。しかし、データ・ロガーで水温を記録中であり、本報告書を提出後であっても、調査を行う予定である。また、沖合い60Kmにあり対馬暖流の影響下にある沖ノ島においては、14年の寒波襲来時も水温は13℃以上で、多くの暖海性魚類が生息しており、それらが越冬していることを確認している。以上の3年に亘る観察研究の結果から考えて、水温13℃が暖海性魚類幼稚後が越冬できるかどうかの限界水温になっていると考えられるので、長期的気候変動と磯魚の分布変動との関係を調べるには、水温13℃に注目する必要があるであろう。
著者
上原 周三 星 正治
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1. ^<90>Sr+^<90>Yのβ線によって生成される制動X線を体外計測することによって体内^<90>Sr量を実験的に評価した例は少なくないが、定量的計算によって評価した報告はほとんど見当たらない.そこで^<90>Srの他に^<137>Csと^<40>Kのγ線放出核種が体内に分布していると仮定し,一台の光子検出器で簡便に測定する場合を考え,いかなる部位・測定条件の下で最良の光子スペクトルが得られるかを自作のモンテカルロシミュレーションコードSR90を用いて定量的に予測した.2.体外計測部位の候補としては骨の体積が大きく,かつ表面が薄い皮膚(水で代替)で覆われている脚部,腰部,頭部が挙げられる.計算の結果,腰部と頭部は内部に大容積の軟部組織を含んでいるためにバックグラウンドが大きくなり,不適であることが分かった.一方,脚部については単純に同軸円筒ファントムで近似し,骨の直径や皮膚の厚さをいろいろ変えて調べた.3.ファントムから逃げ出す光子を入射窓直径200mmの検出器で体外計測するとし,検出器に入射する光子スペクトルを計算した.スペクトルの30-160keVのエネルギー範囲における強度を積算し,次式で定義するs/n比を求め,体外計測の最適条件を定量的に調べた.脚部ファントムのいくつかの条件についてs/n比を比較した結果,1mm程度の薄い皮膚に覆われた太い骨(直径50mm程度)の場合に最も良いs/n比が得られた.4.計算結果と通常の体外計測の測定値を組み合わせることによって,β放出核種のための新しいインビボ計測法の可能性が開けた.
著者
名取 理嗣
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

これまでの研究により,極低炭素ラスマルテンサイト鋼は,焼戻し時に不均一回復が生じて,隣接する二つの結晶粒を挟む粒界が,両粒の転位密度の差に駆動されて張り出しを生じることで再結晶粒が生成される,いわゆる粒界バルジング型の再結晶が生じることを見出した.また,張り出す粒界が易動度の大きい旧オーステナイト粒界の一部に限られるため,得られる再結晶粒は粗大になることを明らかにした.そこで,本年度では,出発組織をフェライト組織とラスマルテンサイト組織に調整した極低炭素鋼に冷間圧延-焼鈍を施し,冷間圧延組織および焼鈍時の再結晶挙動に及ぼす出発組織の違いの影響を調査した.冷間圧延した極低炭素ラスマルテンサイト鋼の再結晶機構は,焼入れまま無加工材で生じた粒界バルジング型再結晶とは異なり,冷間圧延したフェライト鋼と同様に転位セル組織から再結晶組織が生成される機構が主体となることを明らかにした.また,圧下率が小さい場合はラスマルテンサイト鋼の方がフェライト鋼に比べて再結晶粒が微細となり,出発組織をラスマルテンサイトにすることの有効性を見出した.これは,ラスマルテンサイト組織がパケットやブロック組織からなる微細組織であることのほかに,焼入れ時に可動転位が多量に導入されているため,わずかな圧延でも容易に転位セル組織を形成するためであることを明らかにした.さらに炭素量を0.1%含んだ低炭素鋼を用いて,焼入れままのラスマルテンサイト鋼および加工性を向上させるために前焼戻しを施したラスマルテンサイト鋼を用いて冷間圧延およびその後の焼鈍に伴う再結晶挙動を調査し,冷間圧延前の焼戻しの影響について考察した.そして,焼戻しラスマルテンサイト鋼は焼入れラスマルテンサイト鋼に比べて再結晶が抑制され,再結晶粒は粗大になることを明らかにした.これは冷間圧延前の焼戻しにより基地中の固溶炭素が減少することで蓄積ひずみエネルギーが減少すること,冷間圧延時の変形帯の形成が抑制されたことが原因であることが示唆された.
著者
古瀬 充宏 豊後 貴嗣
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

副腎皮質刺激ホルモン放出因子、ウロコルチンおよびウロテンシンIは、アミノ酸配列が類似し、哺乳動物の摂食を抑制することが知られていた。ヒナにおけるその作用は、副腎皮質刺激ホルモン放出因子が最も強く、ウロテンシンI、ウロコルチンの順であった。副腎皮質刺激ホルモン放出因子と同様にグルカゴン様ペプチド-1も、ヒナの摂食を抑制することが知られていたが、他の行動に関しては異なる反応を示すことが確認されていた。両者の脳内における交互作用を調べたところ、摂食行動に対して協調しあい、ストレス行動に関しては拮抗しあうことが判明した。内因性のグルカゴン様ペプチド-1が摂食調節に関わっているか否かを調べたところ、採卵鶏のヒナでは関与が認められたもののブロイラーヒナでは関与していないことが明らかとなった。ニューロペプチドYは、ヒナの摂食亢進因子の一つとして認知されていた。ニューロペプチドYの受容体にはいくつかのサブタイプが存在するが、それらに対する選択的な刺激役を投与したところ、ニューロペプチドY-(13-36)を除き他の物はヒナの摂食を亢進することが判明した。哺乳動物において、グレリンは強力な摂食促進作用を持つペプチドであるが、ヒナでは全く逆に強い摂食抑制作用を有することがラットグレリンの投与で明らかにされていた。グレリンの受容体に対する様々な刺激役の効果をヒナで調べたところ、ニワトリグレリンもカエルグレリンもラットグレリンと同様に摂食を抑制した。また、合成リガンドである成長ホルモン放出ペプチドを投与しても摂食は抑制された。L-ピペコリン酸は、必須アノミ酸であるL-リジンの脳内における主要な代謝産物である。その脳内における役割を調べたところ、ヒナの摂食を抑制し、その一方で睡眠を誘発する作用を有することが判明した。
著者
小川 禎一郎 中島 慶治 渡辺 秀夫 井上 高教
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

高感度でかつ情報量の多い機器分析装置を開発することは、現代分析化学の最重要課題の一つである。本申請課題は、分子が非対称的に配向している系にレーザーを照射すると、波長が入射光の半分の2倍波が発生する現象をもとに、固体・液体表面や界面の分子やそれらに吸着した分子の構造と配向を決定し、さらにその定量化を行うための高感度な機器を試作することを研究目的とし実施した。補助金により照射するレーザー光の角度や偏光を精密制御するためゴニオメーターと試料の位置を正確に微動するための精密ステージを購入し、新しい光学系を組み立てた。試料表面へのレーザーの入射角を自由にかつ連続的に変えることができ、表面分子からの2倍波の強度のレーザー入射角度依存性を測定できるようになった。これにより分子の表面に対する配向角度をより精密に(近似を行うことなく)決定できるようになった。また、入射角に対する強度依存性から、分析の目的のための最適角度を決定できるようになった。補助金により直流高電圧安定化電源を購入し、レーザー2光子イオン化装置の高感度化を計った。より高い電圧を印可することにより、飛び出した電子の捕集効率が高ま理、より高感度な分析が可能となった。これらの装置を活用して高感度分析を行い、次のような検出下限を得た。レーザー2光子イオン化法……水溶液表面のピレン……0.2fmol金属板表面のBBQ……0.1pmolレーザー2倍波発生法……ガラス表面上のDEOC……0.2pmolこれらの値はいずれも従来法より大きく優れたもので、研究の目的はほぼ達成した。
著者
福井 宣規 錦見 昭彦 實松 史幸
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

樹状細胞は、形態、表面マーカー、機能から形質細胞様樹状細胞(pDC)と骨髄型樹状細胞(mDC)の2つに大別される。mDCは抗原を捕捉しT細胞に提示することで、獲得免疫の始動に重要な役割を演じている。一方pDCは、TLR7/TLR9を介して核酸リガンドを認識し、大量のI型インターフェロンを産生すると言う点で、近年注目を集めている細胞であるが、その活性化機構の詳細が十分に解明されているとは言い難い。Atg5の欠損マウスではpDCの活性化が障害されることから、オートファジーがなんらかの形でこの活性化に関わる可能性がある。また、TLR7/9は未刺激の状態ではERに存在するが、ERを移出後TLR7/9は限定分解をうけることが最近報告された。それ故、このタンパク分解がTLR7/9の活性化に関わっている可能性も考えられる。このため、本年度はpDCの活性化におけるオートファジーとTLR9の限定分解につき解析を行った。このため、LC3トランスジェニックマウスの骨髄からpDCを分化させ、レトロウイルスベクターを用いてYFPを融合したTLR9を発現させた後、Cy5でラベルしたCpGを取り込ませたところ、TLRとCpGが刺激後6時間でLC3ポジティブのドットと共局在することを見出した。しかしながら、生化学および電顕を用いた解析からCpG刺激によるオートファジー亢進の所見は得られなかった。一方、TLR9の限定分解についてもレトロウイルスベクターを用いた強制発現系で解析したが、CpG刺激の如何に関わらずN端を欠失したTLR9が認められることから、この限定分解がTLR9の活性化と直接リンクしているという証拠は得られなかった。
著者
矢野 真一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

筑後川から有明海に流入した淡水の挙動を把握するために,GPS付き漂流ブイを利用したLagrange的観測を実施した.潮汐条件が中潮と大潮,筑後川の河川流量が平水時の55m^3/sから中規模出水時の1,678m^3/sまでの種々の組み合わせ条件下であった,2006年6/7と7/21,2007年7/17と7/28に現地観測を実施した.観測項目は,淡水塊の座標,流速,海洋構造(塩分・水温),水質(濁度・クロロフィルa・Ph),風向・風速である.観測は一潮汐(約13時間)もしくは半潮汐間(約8時間)に連続的に行った.観測結果より得られた主な知見は,以下の通りである.(1)風が弱い時,筑後川から有明海に流入した河川水の南北方向の運動に対しては圧力傾度力が,東西方向にはコリオリカが支配的である.(2)風が弱い時,筑後川から流入した河川水は一潮汐で西へ輸送され,移動距離は河川流量に依存する.特に,出水時は対岸の太良地先まで輸送され,一潮汐で諌早湾まで到達できる.(3)南風が強い場合,表層流が風の影響を強く受け,河川水が東岸に停滞する.次に,水平方向と鉛直方向の乱流拡散係数を推定するために,漂流ブイを複数浮かべる観測と乱流微細構造プロファイラーによる現地調査をそれぞれ4回と2回ずつ実施した.これらの観測結果より,水平乱流拡散係数は河川水の流入などの局所的な条件で異なり,1〜10^2m^2/sのオーダーをとることが分かった.さらに,鉛直乱流拡散係数は成層度,潮汐,潮時により大きく変動し,10^<-7>〜10^<-3>m^2/sのオーダーで変化していた.これらの成果は,有明海における流れの数値シミュレーションで未知のファクターである乱流粘性係数・拡散係数の評価と河川から流入する物質の湾内での輸送構造について,重要な知見を与えたものと考えられ,今後の計算精度の向上に寄与できる.
著者
君塚 信夫 黒岩 敬太 松浦 和則
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究では、分子組織性ハイドロゲルの分子設計の確立および、分子組織性ハイドロゲル中における蛋白質の機能制御を目的とした。その結果、短いアルキル鎖を含む疎水部構造および、複数のアミド結合を含むグルタミン酸骨格を有するアンモニウム脂質が芳香族スルホン酸イオンや、過塩素酸イオンなどの疎水性アニオンと疎水性イオン対を形成することで、分子組織性ハイドロゲルを形成することを明らかとした。例えば、カウンターアニオンとして2-ナフタレンスルホン酸イオンを用いたハイドロゲルにおいては、光捕集機能を有するハイドロゲルとなる。このハイドロゲルにおいては、ナフタレンが二分子膜ゲルファイバー中に高密度に集積化されており、光励起エネルギーはこのファイバー上を効率的に移動する。アクセプターとして1mol%の9,10-ジメトキシ-2-アントラセンスルホン酸イオンの添加により、ナフタレン由来の蛍光は大きく消光し、かわりにアントラセン由来の増感蛍光が大きく現れた。エネルギー移動効率は低濃度の水溶液状態よりも、ハイドロゲル状態において著しかった。これは、2-ナフタレンスルホン酸の二分子膜ファイバーへの結合率と相関しており、ハイドロゲル状態においての高い結合率が、高効率のエネルギー移動をもたらした。また、光捕集性のハイドロゲルのみならず、フェロセンカルボン酸などをカウンターアニオンに用いると、レドックス応答を有するゲルが得られる。このレドックス応答性ゲルはアクチュエーターやバイオセンサーなどの応用が期待される。このように、我々は、共有結合を使うことなく、機能性のアニオンと、自己集合性の短鎖アルキル脂質を用いることで、効率的に機能性アニオンを集積化させ、それに伴い機能性のハイドロゲルを作製することに成功した。
著者
高倉 統一
出版者
九州大学
雑誌
法政研究 (ISSN:03872882)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.847-860, 1998-03-25
著者
西山 浩司
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

夏季に頻繁に現れる気団性積乱雲と大規模場(前線、台風に伴う場)の中で局地的に形成される強雨ゾーンの発生には必ず空気の収束場の存在が指摘されている。さらに、収束場の強度が持続される場合には積乱雲がある特定の領域に次々と形成され豪雨となるような事例が多い。そこで本研究では、様々なパターンの積乱雲を解析し、豪雨災害につながるような積乱雲の発生機構及び勢力維持機構を探求することを目的とした。本研究では観測手段として既存の観測システム(九州大学農学部気象レーダーと福岡都市域に設置した10数台の雨量計による降雨観測)を中心に,気象庁のアメダスシステム等も利用して、狭い領域(20km×20km)で局地風系を観測した。この観測結果から積乱雲発生以前に先行現象としての空気の収束場が実際に存在したかどうかを調べた。総合的に解析した結果、予想されたように積乱雲の発生の1、2時間前から収束場が形成されていたことが明らかになった。さらに,降水システムが既に存在する場でも収束場が長時間持続し、降雨も持続する傾向も明らかになった。このように収束場が降雨の発生、維持に寄与していることは間違いないが,大気の不安定場の存在も無視できない。高層データとアメダスを用いた解析では夏型の雷雲の発生のプロセスは次のようになると考えられる。まず日射の影響で下層の混合層が徐々に発達し、下層から不安定化する。この不安定化した気層に向かって海風が侵入して収束場を形成する。その結果,収束場の領域で雷雨が発生することがわかった。
著者
長藤 かおり
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

バンド構造の本質的スペクトルを持つ1次元シュレディンガー作用素の固有値非存在範囲を精度保証付きで求める手法を開発し,検証数値例を与えた。本質的スペクトルのギャップにおける離散スペクトル(固有値)の存在・非存在は,半導体理論とも密接に関連する重要な問題である。本研究では,線形常微分方程式の基本解を計算機援用解析により厳密に求める手法をもとに,固有値が存在しない範囲を数学的に厳密に保証する方法を提案した。
著者
井手 誠之輔 KIM Jongmin
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

アメリカの美術館・図書館において、高麗時代及びそれに関係する中国の写経の調査を行った(Kim、7/13-7/24)。1)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』第45巻、高麗、スペンサー図書館、カンサスシティ2)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』第78巻、高麗、クリーブランド美術館、クリーブランド3)『紺紙金字大方廣佛華嚴經』断簡、高麗、ハーバード大学燕京図書館、ケンブリッジ4)『紺紙金字妙法蓮華經』、朝鮮王朝、ハーバード大学燕京図書館、ケンブリッジ5)『紺紙金字維摩詰経』、大理、メトロポリタン美術館、ニューヨークこれらの調査によって、14世紀の高麗写経が高麗大蔵経ではなく、さまざまな中国の大蔵経のテクストを参照していることを改めて確認した。13世紀の末に高麗写経の形式や様式に大きな変化が起こったことが指摘しうるが、その理由は、元時代の支配が強まる過程で、高麗王朝は、元に写経生を派遣して、都の大都で中国の規範にしたがった写経を制作したことに求められる。これまでに井手は、13世紀から14世紀の高麗仏画は、同時代の元時代の仏画とさほど強い関係性をもっていないことを明らかにしてきたが、この共同研究では、仏画と写経において中国の受容に大きな違いがあることが確認されることになった。なお、高麗版大蔵経にのみ典拠をもつ40巻華厳経の場合は、法華経とは逆に忠実に高麗のテクストにもどいていることも確認し、これらについては、Kimが韓国の仏教美術史学会の紀要に論文を発表した。
著者
後藤 純信 飛松 省三 坂本 泰二
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、網膜変性による網膜機能障害を網膜全般の現象と捉え、網膜変性疾思の病態を明らかにするために、網膜色素変性症(RP)モデルのrdcラットやrdsマウス、錐体一杵体ジストロフィ症(CRD)モデルのCMYCマウスを用いて、1)杵体・錐体系細胞や網膜内層の経時的機能変化を網膜電図(ERG)で定量解析、2)光受容体細胞や網膜内層の経時的組織変化を細胞のアポトーシスを指標に解析、3)遮光や遺伝子導入による網膜残存機能の温存効果をERGと組織学的変化で検討した。本研究結果として、1)CMYCマウスの錐体細胞系ON型、OFF型双極細胞の機能が1ヶ月まで正常に近いが、6ヶ月では反応が消失、2)網膜内層の機能変化が早期より起こる、3)3ヶ月間の暗所飼育により網膜機能が通常飼育より保たれる、4)rcsラット網膜に、ウィルスベクターでFGFやその他の神経成長因子の遺伝子を導入したところ、長期間の機能温存を認める(Ikeda et al.,2003;Miyazaki et al.,2003)、5)暗所飼育CMYCマウスではベクター導入効果は明らかでなかった。以上より、杵体細胞や錐体細胞の機能変化は、網膜の外層と内層で多少の時間的ずれがあるものの、組織学的変性に準じて起こった。また、CMYCマウスやrcsラットの暗所飼育による網膜細胞変性の遅延(抑制)効果は明らかであったが、ベクターによる遺伝子導入効果は、種間で差があった。遺伝子導入は、現在眼科と共同研究を行なっており、手技等の改善により新しい治療法として近い将来確立できると思われる。本研究を通して、今までその詳しい病態や治療法のなかった網膜変性症に対し、初期からのサングラス等による光からの防御や遺伝子治療の可能性を提言できたことは、将来の網膜変性症治療への応用に向けて有意義な結果であったと考える。
著者
岡崎 敦 丹下 栄 山田 雅彦 花田 洋一郎 大宅 明美 森 貴子 城戸 照子 徳橋 曜 足立 孝 岩波 敦子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、西欧中世文書史料を対象として、近年の西欧中世史料学・史料論研究の動向を整理・分析し、重要な論点を提示・検討することを目的とした。この際、西欧の主要地域や学界を広く視野におさめるとともに、比較史的観点を重視した。以上の目的を遂行するため、ときにゲスト研究者を招聘しながら、定期的にテーマを特定した研究会・シンポジウムを開催した。研究の成果は、個別論文や学会報告として公表するとともに、毎年度年次成果報告書を刊行して公開した。
著者
吉村 徳重
出版者
九州大学
雑誌
法政研究 (ISSN:03872882)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.37-68, 1960-07-31
著者
大嶺 聖 安福 規之 宮脇 健太郎 小林 泰三 湯 怡新 TANG Yixin 山田 正太郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

建設発生土や廃棄物をリサイクルする場合には,実際の建設にかかる費用だけでなく環境負荷に関する影響も考慮することが望ましい。また,各種リサイクル材に対して,材料作製に伴う環境負荷および廃棄物削減に伴うメリットを何らかの数値として算出し,環境負荷低減効果を表すための評価手法を構築する必要がある。本研究では,有害物質の溶出抑制効果を持つ混合地盤材料の開発を行うとともに,リサイクル材を用いる場合の環境負荷の低減効果を定量的に表す手法を提示した。廃棄物の有効利用法として,バイオマスの炭化物としての活用および都市ごみ焼却灰の地盤材料としての有効利用を例に,再資源化の効率について考察を行った。得られた結論は以下のとおりである。1)都市ゴミ焼却灰に炭化物を混合することでの重金属溶出が抑制される。また、木炭を混合しても,都市ゴミ焼却灰と同様の透水性および圧縮性を有し,力学的にも地盤材料として活用できると考えられる。2)炭化物の吸水性によってセメント安定処理土中の水セメント比を低下させ,強度が増加する。また,セメント安定処理土からの溶出が懸念されている六価クロムの溶出量を木炭混合によってある程度抑制することができる。3)刈草炭化物を混合することで、いずれの火山灰質粘性土についても強度改善効果が認められた。生石灰と刈草炭化物を質量比1:1で混合すると,生石灰添加量を軽減できるなど効果が大きい。4)都市ごみ炭化物を最終処分場における覆土材として利用した場合,廃棄物層から溶出される重金属や無機塩類等陽イオンに対する吸着効果が発揮されるため,浸出水質の早期安定化が期待される。5)リサイクル材の製造工程におけるCO_2排出量と廃棄物の活用に伴うCO2削減量を算定し,再資源化効率の評価法を示した。その結果,製造時のCO_2排出量が小さく,多くの廃棄物を使用している材料ほど再資源化効率が高いことが示された。