著者
鈴木 貞臣 竹中 博士 清水 洋 中田 正夫 篠原 雅尚 亀 伸樹 茂木 透
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究実績は大きく分けて2つに分類される。第1は1999年9月末より10月上旬まで、九州西方海域で行われた地殻構造の大規模な調査であり、第2は自然地震の走時データを用いたトモグラフィーの研究である。第1の研究は本研究最大の実績ともいうべきもので、九州西方海域での地殻構造調査の成功とそのデータ解析結果である。平成11年度9月末より10月上旬まで、発破とエアガンを使った地殻構造の大規模な調査を行った。まず地殻構造調査においては,海底地震計で得られたデータは見かけ速度の変化に富んでいて、地殻上部の構造の複雑さを示していた。得られた地震波速度構造モデルでは、堆積層は二層に分けられ。上部層はP波速度1.7〜1.9km/sの垂直速度勾配が小さい厚さ200〜500mの層であり、下部層は2.0〜3.5km/sの垂直速度勾配がやや大きい層が800〜3500m存在する。上部地殻は二層に分けられ、第一層の上面のP波速度は3.0〜4.9km/sと水平方向に大きく変化している。この層の下面のP波速度は4.2〜5.3km/sである。第二層として、上面のP波速度は5.6〜5.9km/sの層が存在する。この層の下面のP波速度は6.0〜6.2km/sである。海面から上部地殻と下部地殻の境界までの深さは約10kmである。下部地殻の上面のP波速度は6.5〜6.7km/sのである。モホ面の深さは海面から約26kmと求められ、マントル最上部のP波速度は7.7〜7.8km/sと求められた。沖縄トラフで、モホの深さやマントル最上部のP波速度がこのように正確に求められたのは初めてのことである.第2の成果として、地震トモグラフィーの研究を上げられる。平成12年度はその結果を使って、特に背弧上部マントルの低速度異常領域について調べた、これはマントルのマントルアップウエリングとの関係で注目される。
著者
田口 智章 家入 里志 橋爪 誠 増本 幸二
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

・超音波画像とMRI画像の統合(2D-3Dレジストレーション)従来の超音波の2D画像とMRIの3D画像を画像解析にて座標統合する技術を開発した。超音波の画像認識技術、及びMRIボリュームから高速に病変部を高速に抽出(セグメンテーション)する技術は既に開発済みであったため、これらを応用発展させ、座標統合技術と補完的に用いることできることを確認した。・MRI誘導による穿刺による胎児手術モデルでの実証実験平成21年度の成果をうけ最終的にリアルタイムの診断と治療が融合した治療システムとしてのMRI撮像下でのマスタースレーブ手術支援ロボットを用いた実験を行った。まず臓器モデルを用いたMRIを撮像し、ナビゲーションシステムを用いて、臓器のセグメンターションを行い詳細な術前計画をたて、手術プロトコールを作成した。次に子宮を模したモデルを用いて経子宮的に小型ロボット用のトロカーを留置、3D内視鏡と7自由度を有するマニュピレータを子宮モデル内に留置、ロボットの鉗子先端と臓器のレジストレーションを行い、その後MRIのガントリ内にモデル・ロボット共にピットインし、撮像しながら、内視鏡画像・術前3D画像・リアルタイム撮像画像を参考に手術操作が可能なことを確認した。このMRI対応小型マスタースレーブ手術支援ロボットに分担研究者が開発したMRI対応多自由度細径鉗子を搭載し、その利点を最大限に生かした手術操作を遂行し、モデルを用いた手術操作では胎児手術操作が可能なことを実証した。
著者
重藤 寛史 谷脇 考恭 菊池 仁志
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

目的:難治性てんかんの焦点切除術以外の方法として,頸部を冷却することによりてんかん閾値を上げる方法をラットで試みた.方法:1.電位に依存して温度が低下するペルチェ素子を用い,電圧をコントロールして素子の表面温度を計測. 2.ペルチェ素子を用いず直接凍結エチレングリコールを頚部に接触循環させ冷却開始15分後の脳深部温度を計測(6匹).3.刺激・記録電極を設置し,非麻酔下覚醒状態で頚部冷却群と非冷却群でてんかん性放電(afterdischarges:ADs)誘発刺激閾値,ADs持続時間を比較(7匹).4.追加実験として冷却による皮質イオン分布に着目し,両側海馬周囲皮質外側硬膜下に5mm×5mmの銅板設置.非麻酔覚醒下で左海馬周囲皮質に2mA,3秒の陰性,続いて1mA,6秒の陽性直流電流を通電.陰極刺激時と非刺激時で海馬内電極によるADs誘発刺激閾値を計測(10試行).結果:1.冷却面と反対側の放熱面の温度上昇がペルチェ素子全体の温度を招き冷却効果を得られなかった. 2.非冷却側30.3±0.7℃,冷却側29.0±0.7℃で有意差を認めなかったものの冷却側で1℃の温度低下が観察できた.3.ADs誘発刺激閾値は冷却群2.0±0.7mA,非冷却群1.9±0.4mA. ADs持続時間は冷却群10.3±6.3秒、非冷却群9.2±3.7秒で有意差を認めなかった. 4.計10対記録.直流下3.7±2.7mA,非直流下2.3±1.2mAで,直流下で誘発閾値が有意に高かった.(P=0.0149)結論・考察:頚部冷却で15〜20度の脳温低下を得ることは困難であった.冷凍エチレングリコールで頚部冷却しても誘発4閾値に有意差は得られなかった.追加として行った直流電流を皮質に面分布させた電極に流すとてんかん性後放電の誘発閾値が上昇した.今後はこの方法が非侵襲的な難治性てんかんの治療方開発の礎になると期待している.
著者
ブレーデン バーナビー
出版者
九州大学
雑誌
Comparatio (ISSN:13474286)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.60-70, 2001

Hana begins with something like a statement of fact. 'When it came to Zenchi Naigu's nose, there was nobody in the town of Ike-no-o to whom it was not known'. This opening sentence, however, performs at once an opening-out of the particular (or peculiar) into the general, and a disclosure, a making-public of something hitherto hidden. It is precisely these two movements - from the particular to the general, and from the hidden to the overt - that direct the hermeneutic discourse supporting the story. My overall thesis takes as its object both the text of Hana itself, and the substantial interpretative genealogy that has grown around it. What I present here, however, is nothing more than an introductory study of the topic: a presentation of the problem and a dialectical working-through of its interpretation.
著者
楠田 剛士
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

報告者は、長崎原爆の文学/表象に関して、二つの側面から資料調査と分析を行った。ひとつは、前年度から引き続き、非被爆者の作家たちが、原爆の事実と虚構を織り交ぜて小説を書くという方法に関するものである。具体的には、1「井上光晴『明日-一九四五年八月八日・長崎』における「再現」の方法」という論考を発表した。そこで明らかにしたことは、原爆投下前日を再現するという井上の試みが、同時代的な被災地復元運動の成果を取り込んでいること、引用された資料が小説の下敷きの意味に留まらず作品内で独自の機能を果たすことである。それを踏まえ、虚構の登場人物たちそれぞれの経歴を繰り返し描き、原爆で失われた無数の過去を物語の形で取り戻そうとする小説『明日』を、原爆の表象不可能性の問題に対する井上の真摯な応答として評価した。もうひとつは、被爆者自身による表現活動への注目であり、やはり前年度から調査を進めていた一九五〇年代の長崎原爆の表現である。それは、2「山田かんとサークル誌」としてまとめ、さらに資料編として3「長崎戦後サークル誌「芽だち」総目次」を作成した。長崎における戦後文化運動の一例としてサークル誌「芽だち」を取り上げ、先行資料をまとめた上で、詩人・批評家として活躍した山田かんの出発点に「芽だち」があること、長崎の被爆者・労働者による原爆表現・運動として資料性・重要性があること、長崎における他のサークルや以後の平和運動とのつながりを考える上で「芽だち」が重要な結節点であることなどを指摘した。2を補足する3の総目次は、記事情報の共有化によって今後の研究を促進するものとして意義があると考える。以上が本年度の主な研究成果である。
著者
橋本 公雄 徳永 幹雄
出版者
九州大学
雑誌
健康科学 (ISSN:03877175)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.121-128, 2000-02-10

本研究はスポーツ競技のパフォーマンスを予測するための分析的枠組みを検討するため,筆者ら(1988a)のスポーツ競技不安モデルに準拠し,競技特性不安,競技状態不安,心理的競技能力,認知的評定,不安対応策などの主要な変数を用い,重回帰分析法によって検証したものである。調査対象は平成2年度第72回高校野球選手権地方大会決勝戦に出場した優秀な高校野球選手284名であった。主な結果を要約すると,つぎに示すとおりである。1) 10項目からなる心理的パフォーマンス尺度得点は実力発揮度と有意な関係がみられたことから,実力発揮度を測定していることが示唆された。2) 心理的パフォーマンスを予測するとき,競技状態不安独自に有意な説明力を持っていたが,これに不安対応策の実施数を加味すると,さらに説明力が高くなり12.2%を説明した。また,心理的パフォーマンスを心理的特性変数から予測するとき,競技特性不安の有効性は認められず,心理的競技能力のほうが高い説明力(24.9%)を持っていることが明らかにされた。3) 競技状態不安尺度得点はあがりの自己評価と有意な関係がみられ,いわゆる「あがり」の状態を測定していることが示唆された。また,その競技状態不安を予測するのに競技特性不安が極めて高い説明力(43.5%)を持っていることが分かった。しかし,認知的評価は期待に反してその有効性は確認されなかった。
著者
長弘 千恵 樗木 晶子 馬場園 明 堀田 昇 高杉 紳一郎
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

【経過】本年度は高齢者に対する事前調査の結果について検討した。【目的】看護職による転倒予防のための個別訪問指導行い、転倒予防のための個別訪問指導運動プログラムの評価を明らかにする。また高齢者の転倒体験と身体的精神的状況、居住環境、福祉制度および社会資源の活用状況との関連を明らかにすることを目的とした。【対象・方法】農村地域に住む75歳以上の在宅女性高齢者136名を対象に、看護師による家庭訪問調査を行った。調査内容は最近5年間の転倒状況、身体的状況、居住環境、福祉制度および社会資源の活用状況等であった。分析には転倒歴に欠損値のない131名を使用し、転倒要因では該当するものに1、該当なしを0として加算した。解析には対応のないt-検定、x^2検定、ピアソンの相関係数を使用した。【結果】(1)転倒体験者と非転倒体験者では年齢、介護度、寝たきり度、身体的状況、住居環境において差はなく、家族数では転倒体験者より非転倒体験者の方が多かった(2)転倒回数と自覚症状数には相関がみられ、転倒回数と排尿回数では負の相関がみられた(3)寝室の障害物で転倒体験者は非転倒体験者より多く、転倒回数との間に相関がみられた(5)社会資源の利用では差はないが、訪問介護の利用では転倒体験者が非転倒体験者より多かった(6)介入郡コントロール郡共に監察期間中に転倒が少なく、比較することはできなかった【考察】在宅の後期女性高齢者においては転倒体験者では転倒に関する自覚症状数が多いことから、介護者による転倒予測の可能性考えられた。また、寝室に障害物が多いことから住居環境の改善指導の必要が示唆された。
著者
徳永 幹雄 高柳 茂美 磯貝 浩久 橋本 公雄 多々納 秀雄 金崎 良三 菊 幸一
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、スポ-ツ選手に必要な「精神力」の内容を明らかにし、その診断法とトレ-ニング法を明らかにすることであった。3年間の研究成果は、次のとおりである。1「心理的競技能力診断検査」および「心理的パフォ-マンス診断検査」の作成スポ-ツ選手に必要な精神力の内容は、競技意欲を高める能力(忍耐力,闘争心,自己実現,勝利志向性),精神を安定・集中させる能力(自己コントロ-ル,リラックス,集中力),自信をもつ能力(自信,決断力),作戦能力(予測力,判断力)および協調性の5因子(12尺度)であることが明らかにされた。これらの結果、52の質問項目から構成される心理的競技能力診断検査と10項目から構成され、試合中の心理状態をみる心理的パフォ-マンス診断検査を作成した。いずれの調査も精神力の自己評価、実力発揮度の自己評価、競技成積などと高い相関が認められ、その有効性が証明された。また、2つの検査法には高い相関が認められ、心理的競技能力診断検査で高い得点を示す者ほど試合中に望ましい心理状態が作れることが予測された。今後、スポ-ツ選手の心理面のトレ-ニングに活用されるであろう。2心理的競技能力のトレ-ニング心理的競技能力診断検査の結果にもとづいて、それぞれの内容をトレ-ニングする方法をカセット・テ-プにまとめた。その一部は平成2年度国民体育大会福岡県選手に適用した。また、一般のスポ-ツ選手を対象としたメンタル・トレ-ニングの「手引き書」も作成した。3報告書の作成過去3年間の研究成果を報告書としてまとめた。
著者
本城 凡夫 島田 秀昭 大嶋 雄治
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、有明海の有機スズ(TBT)等化学物質の汚染、および二枚貝の繁殖に及ぼすTBTの影響について実施した結果、以下の点が明らかとなり、化学物質が貝類の激減に関与していることが示唆された。1)有明海の化学物質汚染:1998年と2001年に有明海で採取した二枚貝のサンプルについてTBT濃度を調べたところ,すべての試料からTBTが検出され,アサリでは1998年が0.062-0.125μg/gおよび2001年が0.008-0.033μg/gであった。さらにタイラギでは2001年採取分が0.009-0.095μg/gであった。本研究よりTBTの使用規制後も,沿岸域においてTBT汚染が続いていることが明らかになった。また、重金属(水銀、銅、カドミウム)については顕著な汚染は認められなかったが、農薬については2003年8月に有明海筑後川河口3地点より海水を採取して,567種農薬の一斉分析を行った結果、3地点から計12種類の農薬が検出され、有明海の生物に影響を与えている可能性が考えられた。2)二枚貝繁殖試験:TBTをアコヤガイおよびアサリの親貝に暴露し、繁殖への影響を調べた結果、アコヤガイでは、生殖腺のTBT濃度が0.088μg/gで次世代の初期発生が阻害され、アサリでは体内TBT濃度が0.099μg/gで卵の発生が20%阻害されることが明らかになった。よって、有明海における貝類激減の原因のひとつとしてTBTの関与が推定された。また、本研究室で単離した付着珪藻(Cylindrotheca closterium)-海産自由生活性線虫(Prochromadorella sp.1)のバイオアッセイ系に対してTBTを暴露した結果、3.26μg/Lの濃度では線虫の成長が若干阻害され、32.6μg/Lで付着珪藻および線虫が斃死した。
著者
服部 英雄 稲葉 継陽 春田 直紀 榎原 雅治
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

文献資料のみに依拠してきた従来型の歴史学の隘路を切り開くべく、地名を史料(歴史資料)として科学的に活用する方法を確立した。地名を網羅収集する作業を進め、文字化されていない未記録地名を収集し、地図に記録し印刷した(主として佐賀県および熊本県阿蘇郡)。地名を史料として利用するため、電算化による検索を九州各県および滋賀県で進めた。研究上の環境整備を進めるいっぽうで、地名の歴史史料としての学問的有効性を確認し、拡大する作業を行った。交通に関わる地名、タンガ(旦過)、武家社会を考える地名イヌノババ(犬の馬場)、対外交渉史を考える地名トウボウ(唐房)をはじめ、条里関係、荘園関係、祭祀関係などの地名の分布調査、および現地調査を進めていった。地名の活用によって、研究視野が拡大される例。唐房地名は中世チャイナタウンを示す。従来の研究は対外交渉の窓口は博多のみであると強調してきたが、唐房は九州北部(福岡県、佐賀県、長崎県)、九州南部(鹿児島県)にみられる。一つの港津にトウボウ(当方)のほか、イマトウボウ(今東方)もあって、複数のチャイナタウンがあった。綱首とよばれる中国人貿易商の間に利害の対立があったことを示唆する。福岡・博多は新河口を開削して(御笠川や樋井川、名柄川)、干潟内湖を陸化し、平野の開発を進めた。それ以前には多くの内湖があって、それに面して箱崎、博多、鳥飼、姪浜、今津の港があった。自然環境・立地は類似する。博多のみが卓越していたわけではない。貿易商社たる綱首は一枚岩ではなく、競合した。それぞれが幕府、朝廷(大宰府)、院・摂関家と結びつく。地元では相互が対立する寺社と結びついた。チャイナタウンは多数あって、カンパニー・ブランチを形成した。これは考古学上の成果(箱崎遺跡で中国独自の瓦検出)とも一致する。従来の研究にはなかった視点を獲得した。
著者
真木 太一 善 功企 守田 治 新野 宏 前田 潤滋 野村 卓史
出版者
九州大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2006

台風0613号は9月10日にフィリピン沖で発生し、石垣島に接近した後、東シナ海を北東進して佐世保市付近に上陸し、大きい被害を与えて玄界灘から日本海に抜けた。風速は石垣島で69.9m/s、長崎県で50m/sを越えた。佐賀県唐津市の大雨は、台風が2000kmも離れていた時の前線刺激に起因する。豪雨と土砂災害の特徴が解明された。竜巻が宮崎県や大分県で5個発生し、特に延岡市では、列車の転覆被害があり、3名の死者が発生した。佐賀・長崎県を中心に潮風害が非常に激しく、米の作況指数が佐賀地域で42であり、潮風害と海岸からの距離との関連性が調査され、指数関数的に減少し15kmまで及んだ。台風時の降雨が少なく、長崎県での潮風害樹木の特徴が塩分付着との関連性から評価された。潮風害と人工衛星リモートセンシング画像評価による植生指数・健全度(NDVI)の低下との関連性が解明された。潮風害に強い防風林樹種が選定された。延岡市の竜巻はF2と評価され、長さ7.5km、最大幅200mであった。竜巻の被害特性は、屋根瓦などの二次的飛散物による増加があり、市内・住宅地での被害が大きく、突風による被害増大の関連性が評価された。また、屋根のケバラ付近の固定強度に問題があることが判った。アンテナ支線の避雷コイルの破損状況からの竜巻の特徴が解明された。宮崎県の竜巻発生頻度の多さと積乱雲発生との関連性やレインバンド中の積乱雲のモデルによるシミュレーションが評価された。竜巻発生への地形の影響の関与が調査され、半島や島の影響が空気力学的に裏付けられた。長崎県での停電、長崎・北九州の海上空港の台風害の特徴が裏付けられた。台風による高齢者や障害者の不便と支援の在り方の対応特性が提示された。台風と文教施設、農業用施設ハウスの被害から被害発生要因と対策が考察された。暴風・竜巻等によるリスク低減対策がアンケート調査や建築物の被害評価基準の問題点が指摘された。
著者
花田 勝美 竹下 繁
出版者
九州大学
雑誌
九州大学農学部農場研究資料 (ISSN:03863522)
巻号頁・発行日
no.13, pp.32-37, 1991-03

地中海沿岸の山地や丘陵地を原産地とするシクラメンは冷涼寡雨の気候を好む植物である。それゆ え,我が国の夏季の6,7,8月及び9月の気温が30℃を越す環境下でのシクラメンの栽培は花芽の 分化と開花を著しく抑制すると言われている。 本調査は例年にない暑さに見舞われた1990年と,平均的な夏季の気温で経過したと考える1988, 1989の両年のシクラメンの時期別販売鉢数を調査し,比較することにより,1990年の夏期の高気温が シクラメンの生育と開花に与えた影響を検討したものである。その結果, (1)1990年の夏季は最高気温38℃を記録し,30℃以上の日が73日にも及び,1988年及び1989年の約 2倍の日数であった。 (2)1990年は1988,1989の両年に比較して,アカダニとハスモンヨトウが異常に発生した。 (3)1990年のシクラメンは1988年,1989年に比較して,初出荷と出荷最盛期が約1ケ月遅れた。 以上の如く,西南暖地におけるシクラメンの栽培は,平坦地では夏季の気温が30℃を越える日数が 40~50日以上になると,シクラメンの開花時期が遅延してくるものと推察される。このことは,シク ラメンは年内に販売すべしと言う鉄則に反することになり,シクラメンの栽培農家にとっては高冷地 栽培を含めた夏季の高温の回避策の検討が強く望まれる。
著者
朱 穎
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

自動車エレクトロニクス技術の開発における社会的技術的要因の確定、および技術開発の不確実性に対して、システムインテグレーターの自動車メーカーとしてどのように認識しているのか、という二つの問題について考察を行った。技術革新の社会的要因について、既存研究の中で技術の社会構成論が取り上げられているが、こうした議論が広範であるため、イノベーション発生の特定要因を分析するには限界がある。それに対しては、本研究ではテクノロジカール・フレームという分析視点を導入し、技術革新における関連社会集団の認識枠組みの構造とその相互作用に注目した。さらに、自動車技術の電動化が企業能力に与えるインパクトについて、非連続的イノベーションの文脈から考察した。既存企業が新規技術に対応できる原因について、組織ルーティンと経営資源の依存性という既存研究に加えて、マネジメント認識という認識フレームの重要性に注目した。イノベーションの非連続性という文脈から企業能力の重要性を考える際に、経営資源の蓄積という従来のリソースベースト・ビューがもつ静態的観点ではなく、経営資源の「探索」活動と「活用」活動を両立できるような動態的観点が重要である。
著者
山中 亜紀
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

現代アメリカ政治分析にかんしては、アメリカ・ナショナリズムとネイティヴィズムとの関係性を、より多面的に論じるために、多文化主義研究や「白人性(whiteness)研究」に着目した。具体的には、まず、アメリカ史研究者John C. RoweやGeorge J. Sanchezらが中心となって提唱するNew American Studiesを瞥見し、そこにおいて、「保守派」による「反多文化主義論」や「ヒスパニック移民亡国論」が、「現代におけるネイティヴィズムの再燃」としてとらえられていることを確認した。次に、Sanchezが「現代のネイティヴィスト」と批判するPatrick J. BuchananやPeter Brimelowらの言説分析をおこなった。その結果、多文化主義政策やヒスパニック移民政策をめぐる、SanchezらとBuchananらとの対立は、アメリカにおける国民統合のあり方についての理想像の相違に由来していることが明らかとなった。歴史研究に関しては、19世紀初頭から世紀中葉にかけてのネイティヴィズム運動を、通史的に描きだす作業に従事した。以下、概括する。1830年代なかば、「移民(労働者)のアメリカ化」を論じたSamuel F.B. MorseやLyman Beecherによって、ネイティヴィズムの理論的基盤は整えられた。この主張は、1840年代後半にはいると、社会的重要性を増大させる。急速な産業発展、膨張する領土、そして大量に流入する移民によって、アメリカの姿は大きく変わりつつあり、それに見合った新たな国民統合のあり方が必要となったからである。こうしたなか、Know Nothing (American Party)は、「真のアメリカ人とは、生粋のアメリカ人であり、その本質は、独立宣言と合衆国憲法の精神への理解である」という明確な国民像を提示するとともに、この国民像は「公立学校における教育」によってのみ実現するという立場を打ち出し、社会的共感を得ることに成功する。しかし、1850年代後半、奴隷制問題が国民統合における第一義的なテーマとなったとき、Know Nothingの提起する国民像は二義的なイシューとなり、党は急速に解体し、ネイティヴィズムは衰退するのであった。
著者
瓜生 道也
出版者
九州大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1985

本研究では、八代海に面する八代平野全域にわたるスケールで観測を行い、沿岸地域の大気運動に影響する海陸風の解析を試み、その特徴を明らかにすることを目的とした。観測実施日は昭和60年8月6日午前6時から翌8月7日午前10時30分までであった。全般的な気象状況としては、九州南海上に台風が接近していたがほぼ穏やかな晴天で強風等の異常は認められなかった。しかし夕立のため1・2回欠測にせざるを得ない観測点もあった。観測場所は熊本県八代市およびその北部地域で、内海的な八代海と背後に山岳を控えた平胆な平野部から成る。ここに5つの観測点を設置し、係留気球により気圧・気温・湿度・風向・風速の5要素を地上から700m上空まで、約50m間隔で測定した。測定は1時間30分毎とし、気球浮揚時には地上における気圧をアネロイド気圧計で、気温・湿度をアスマン型温湿計で測定した。観測データは、1測定高度につき時間平均した後、空間・時間補間して確定データを作成した。このデータより、海風の風向時間帯はほぼ午前6時頃から午後7〜8時頃までと思われる。しかし、海風時間帯は断続的であり陸風との区別がつきにくい場合があった。これより八代の海陸風を特徴づけているのは、背後の山岳地域の山谷風であると考えられる。局地風循環の数値シミュレーションでは、先ず1次元モデルで風の日変化・斜面角と位相の関係などを調べた。その結果斜面では境界層が非常に薄くなり、また位相は早くなるという特徴があり、観測結果の物理的解釈ができるように思われる。さらに2次元モデルで海陸風と斜面の関係を調べたが、斜面の長さの有限性がより現実的な結果をもたらした。
著者
栃原 裕 LEE Joo-Young LEE Joo-young
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

鳥インフルエンザなどの感染症対策、アスベストの除去作業等で、防護服の着用の機会が増え、多くの新しい防護服が開発されている。一方では、その防護性能の高さから、作業者は防護服着用時に大きな暑熱ストレスを受けることになる。そこで本研究では、比較的容易で判定精度の高い防護服着用時の暑熱負担評価テスト法を開発し、有効で簡便な生理・心理測定手技を提案することを目的とした。本年度は、安静または運動の2条件、防護服3条件、気温2条件(25、32℃)の組み合わせによる12条件の実験を行い、直腸温、赤外線式鼓膜温、皮膚温、発汗量、心拍数、主観的皮膚濡れ率、温冷感等を測定した。本研究から得られた知見を以下に示す。1)暑熱環境における非蒸散防護服着用時の運動条件では、赤外線式鼓膜温が直腸温の変化によく一致し、心拍数や発汗量などの生理指標との相関も高く、深部体温の測定方法としての妥当性が示された。しかしながら、中立気温条件や軽装条件、安静時および回復時には直腸温の変化に追従せず、測定方法の限界が示された。2)主観申告に基づく主観的皮膚濡れ率は、体温変化および心拍数や発汗量とよく一致し、熱理論式により求めた皮膚濡れ率との相関も高かった。この結果から、主観的皮膚濡れ率の妥当性が示され、フィールドテストにおける利便性、測定、計算の簡便性が示唆された。3)平均皮膚温を算出する際の体幹部皮膚温として、安静時には胸部、腹部、背部による差はなかった。しかし、運動時には体幹部皮膚温の分布が一様でなく、腹部では過小評価、背部では過大評価することが示され、3点の平均値、または1点で代表させる場合には胸部を用いることが推奨された。本研究の成果は、新しい防護服の開発や改良の際の標準評価法として利用でき、近い将来、防護服着用時の暑熱負担評価テスト法に関するISO/JIS規格の原案となりうるもので、その社会的意義は大きい。
著者
小黒 康正
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、ホメロスからゲーテ、クライスト、ドイツ・ロマン派(ブレンターノ、フケー、アイヒェンドルフ等)、ハイネ、アンデルセンを経て20世紀ドイツ文学(リルケ、カフカ、トーマス・マン、バッハマン等)に至るトポス「水の精の物語」を身体論的観点から考察した。その際、近代における水の精の歌の復活と消失の問題に集中的に取り組み、同問題の背後にある「視覚と聴覚の弁証法」の実相と意味を明らかにした。