著者
奥田 敏広
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

欧米近代は合理主義と科学技術の時代と考えられがちであるが、中世伝説が時代遅れな過去の遺物として打ち捨てられていたわけではない。多くの芸術家が中世の英雄伝説や聖人伝説を素材として活用している。しかもそれは、通説となっているような、後ろ向きの復古主義的な目的でもなければ、偏狭な国粋主義的目的のためばかりではない。そこには、宗教や共同体からエロス的な「近代の愛」へという、換骨奪胎ともいうべき、変質には違いないがまた継続性も見られる関係が存在することを、中世に成立したタンホイザー伝説をめぐって具体的に明かにした。
著者
片山 一道 川本 敬一 大島 直行 多賀谷 昭 小池 裕子 柴田 紀男
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

本年度は、次年度以降に予定している本格的な現地調査にむけて、南部クック諸島で、形質人類学、比較言語学、および先史考古学の予備的な総合調査を実施することを主眼とした。形質人類学では片山と多賀谷と川本とホ-トンが、比較言語学では柴田とモエカアが、そして先史考古学では大島とサットンが、それぞれのパ-トを担当した。形質人類学に関係した調査としては、まず、マンガイア島、ミチアロ島、およびラロトンガ島で、検査に供する古人骨を発掘するための先史時代の埋葬遺跡の分布調査、有望と思われる遺跡の時代性や埋葬状況などについての実地検証と記録をおこなった。そして、マンガイア島のツアチニ洞窟遺跡に埋葬された古人骨について、計測と肉眼観察の方法によって、先史マンガイア島民の身体特徴、古病理、古栄養などに関する基礎デ-タを収集した。さらに、ニュ-ジ-ランドのオタゴ大学で、トンガやニュ-・ブリテン島のラピタ時代の遺跡から出土した古人骨資料などについて、形質人類学の各種の検査を行って、比較分析用のデ-タを集めた。先史考古学の調査としては、まず、ラロトンガ島、ミチアロ島、マンガイア島、アイツタキ島で先史遺跡の分布状況を広く踏査した。そのあと、ミチアロ島では、テウヌ遺跡全体の清掃作業や実測を行った。その結果、この遺跡が、マラエ、各種の石製構造物、複合墓地、石棺墓などから成る巨大な複合遺跡であることが判明した。さらに、マンガイア島では、ツアチニ洞窟内で新たに発見した土壙墓の試掘、イビルア・スワンプ周辺の先史居住遺跡の実測と遺物の表層採集を実施した。イビルア遺跡では、この地域では従来報告例のないタイプの剥片石器を含む多数の石器遺物を採集するとともに、この遺跡が、相当な年代にわたるとおぼしき生活遺物の包含層が堆積するという点で、次年度の本格的な発掘調査のために有望な候補地であることを究めた。この他に、ラロトンガ島では、アツパ、アロランギ、アロア・タロ、マタベラ、ムリ、アバチウの合計六カ所のスワンプから、人類の住居による植生の変遷過程を編年的に分析するための花粉分析用、および放射性炭素分析用のコアを採集した。これらのコアは、ニュ-ジ-ランドのマッシ-大学で分析中であるが、現在までに、南部クック諸島での人類の最古の居住時期が3000年BP以前に遡るらしいという予備的な知見が得られている。言語学の調査としては、マンガイア島とラロトンガ島とマウケ島で、各島出身の古老などのインタビュ-を通じて、マンガイアやラロトンガやマウケの南部クック諸島の各方言、およびペンリンなどの北部クック諸島方言の古層語彙や口承テキストの採集に努めた。これらは古クック諸島語の形態を復元するための基礎資料となるはずのものであるが、これまでに、プロト・ポリネシア語のs*とf*の発音の分化の歴史についての興味ある知見が得られた。これらの現地調査とは別に、川本は、クック諸島に現住するポリネシア人から集めた歯型の石膏模型について、種々の歯冠形質の発達程度を分析して、クック諸島のいくつかの島でのこれらの形質の出現頻度を求めた。歯科人類学の方法で、他集団との比較研究を行ったところ、歯の特徴で見る限り、北部クック諸島と南部クック諸島の間では相当な地域差が認められること、北部クック諸島人はメラネシアのグル-プに近いのに南部クック諸島人は他のポリネシア人集団に近縁であること、類モ-コ群と呼ばれる形質のクック諸島人での出現率がハワイのポリネシア人やグアムのミクロネシア人に近似することなどを明らかにした。
著者
村井 勅裕
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

23年度に生息地の破壊のために、インドネシア・スラバヤ動物園に移入されたテングザルの研究を行うために、22年4~5月にかけて回収した糞のDNA解析を行った。これは、テングザルに特徴的な重層社会を解明するために、群間・群内の血縁度を測定することを目的とした。しかし、これまでテングザルで糞からのDNA抽出が比較的困難なために、様々な保存方法で取得した糞の濃度を測ることから始めた。そのために、岐阜大学において、DNA濃度の測定を行った。その結果、糞からDNAを抽出することが困難であるといわれているテングザルでも、比較的多く抽出することが確認された。残念ながら、測定を行った後に、機関として科研費の管理ができない企業への就職が決定し、本格的な解析が継続できなくなってしまった。今後のテングザルの研究、特に野生群において、糞からのDNA抽出は絶対的に必要になると思われるので、時間があるときにこの結果をまとめていくつもりである。23年度は、スラバヤ動物園に再度訪れて、全頭捕獲を行い、血液を採取する予定だったが、動物園の園長が解任され、暫定的な園長では許可が取れず、正式な園長の就任を待っていたが、前述のように就職が決まり、行くことができなくなってしまった。この動物園は、3群の単雄複雌群と1群の全雄群が半野生状態で飼育されているので、観察が困難なテングザルの生態を研究するには非常によい場所であると考えられる。今後、この動物園での研究が行われるのを期待したい。また、スラバヤ動物園からよこはま動物園ズーラシアにテングザルがレンタルされているので、このサルも研究する予定であった。しかし、震災のために、連絡がとれず、本格的な研究を始めることができなかった。
著者
西岡 弘晶
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

グラム陰性菌は、呼吸器、消化器、尿路、皮膚・軟部組織など、様々な部位に感染し疾病を引き起こし、その予防、治療は大変重要な課題である。グラム陰性病原細菌の多くは、宿主細胞へ接触すると、特殊な分泌機構を通じて、一群の分泌性機能蛋白質(エフェクターと呼ばれる)を宿主細胞質へ注入し、感染に必要な機能を誘導する。そこでグラム陰性菌の一つである赤痢菌から、感染に不可欠なエフェクター蛋白質を、ネイティブな形で精製する方法を確立し、そのエフェクター蛋白質どうし、あるいはエフェクター蛋白質と宿主因子の相互作用を明らかにすることを試みた。赤痢菌が宿主細胞へ感染する際に不可欠なエフェクター蛋白質は、IpaB、IpaC、IpaDと呼ばれる3つの蛋白質であり、IpaBとIpaCは複合体を形成することが知られているが、その詳細は明らかではない。本研究により精製したネイティブな形のIpaB/IpaC複合体は、安定した水溶性の複合体を形成しており、分子量はおよそ200kDで、IpaB : IpaC=1:3-5で結合していることが示唆された。またIpaB/IpaC複合体は、高度な二次構造を形成し、複合体を形成することで安定した構造をとることも示唆された。この複合体の形態は直径10-20nmの球状であり、電子顕微鏡でも可視できた。IpaB/IpaC複合体は、赤血球膜にコレステロール依存的に結合し、真核細胞形質膜にはコレステロール及びCD44依存的に結合した。その際IpaB/IpaC複合体は、リピッドラフトに存在した。またIpaB/lpaC複合体はリボゾームと結合し、小孔を形成した。同様にIpaD蛋白は35kDの蛋白として精製された。またIpaDの部分変異株の解析により、IpaB/IpaC複合体の真核細胞形質膜への挿入に、IpaDが関与していることを見出した。
著者
水原 啓暁
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

エピソード記憶に代表される海馬記憶を実現するための動的な皮質間ネットワークが創発するメカニズムを解明することを目的として,脳波とfMRIの同時計測を実施した.海馬記憶に関連する課題として風景写真を観察中の脳波とfMRIの同時計測にもとづき,海馬記憶に関連する皮質ネットワークを同定し,前頭からのシータ波の発生タイミングにおいて,前頭前野内側面,前頭眼野,高次視覚領野および海馬傍回場所領域の反応が発生することを示した.また,神経の振動子ダイナミクスの協調により認知処理に必要な皮質ネットワークが動的に形成されていることを示すために, fMRIの空間分解能で特定した皮質位置での脳波時系列データを再構築する技術を開発した.
著者
高田 彰二
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

リガンド結合に伴って大きく構造変化するアロステリック蛋白質のレアな大振幅ゆらぎについて、全原子モデルと粗視化モデルを併合したマルチスケールシミュレーションによって研究した。まず、リガンド非結合のアポ状態と結合したホロ状態の立体構造が既知のアロステリック蛋白質71個について、両構造におけるアミノ酸対相互作用を、全原子モデルにより計算した。その結果、両構造で保存されたアミノ酸対相互作用は、強いものから弱いものまで普遍則に従う指数分布をするのに対して、片方の構造でだけ見出されるアミノ酸対相互作用は、ほぼすべて弱いものでり、明確に異なる分布をもつことを発見した。この規則は対象とした41蛋白質すべてにおいて成立していた。次に、全原子モデルによるアミノ酸対相互作用エネルギーを用いて、これに比例するエネルギーをもつ粗視化モデルを構築した。さらに、この比例係数およびほかのパラメータは、23個のテスト蛋白質について、全原子モデルで計算したゆらぎと粗視化モデルで計算したゆらぎをマッチさせることによって求めた。このようにして得られたモデル、原子相互作用に基づく粗視化モデル(AICGモデル)のテストとして、天然状態での平均ゆらぎ、アロステリック蛋白質の構造変化方向を計算したところ、従来の粗視化モデルに比べてかなり優れた予測能力をもつことが分かった。ACIGモデルを用いて、アデニル酸キナーゼの大振幅ゆらぎを調べたところ、ホロ状態にいる蛋白質が10^<-6>程度の確率でアポ状態に近い(RMSD3.5A程度)にまでゆらぐことが明らかとなった。大振幅なゆらぎは、調和的なモデルでは記述できない。さらに、原子相互作用に基づかない従来の粗視化モデルでは、AICGに比べて、大きすぎるエネルギー障壁をもつことを示した。
著者
佐々木 徹 若島 正
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

佐々木はアムステルダムで行われた国際ディケンズ学会で、アメリカの批評家エドマンド・ウィルソンによる画期的なディケンズ論を再考する学術講演を行った。この中では英国の学者たちによるウィルソンに対する反論を考察した。また、チェスタトンの著したディケンズに関する古典的研究書の解題・序論を英国の出版社から世に問うた。特に、この論の中では、ディケンズのトランスアトランティック的体験、すなわち彼のアメリカ旅行をチェスタトンがそのディケンズ論の中心においていることの意味を考察した。若島は、トランスアトランティックという概念をさらに広く異文化間交流の問題につなげて研究を進め、ウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』をテキストとして、その諸言語における翻訳がいかにさまざまな文化間を越境する場を生み出すかを考察した論文を発表し、日本英文学会関西支部の年次大会において、「コスモポリタニズムと英米文学」と題されたシンポジアムで司会兼講師を務め、「亡命文学の変容」というテーマで発表を行った。このコスモポリタニズムという概念が、あらゆる側面におけるグローバル化とも関連して、トランスアトランティックという英米交流の主題と近接するのは言を俟たない。「亡命文学の変容」で取り上げたのは、ドイツのロシア人、およびアメリカのロシア人である現代作家2人で、異郷に同化したこの2人のロシア人が描く物語が、いかにナボコフが描いたような過去の亡命文学から隔たっているかを論じた。また、「英語青年」誌に掲載された論文「ジョン・ホークスと飛田茂雄」は、ある意味で文学を通じた日米交流の一記録をたどり直した論考でもある。
著者
岡本 正明
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、分権化後のインドネシアの地方政治の構造と動態を、公共事業の立案、実施過程に焦点を当てて実証的に明らかにすることを目的とするものであった。最終年度に当たる今年度は、継続的な調査および口頭・論文発表を行った。当初は、ゴロンタロ州とバンカ・ビリトゥン州の二州において調査を行う予定であった。しかし、2006年にはゴロンタロ州に加えて、継続調査中のバンテン州でも州知事の直接選挙がインドネシア政治史上初めて行われたことから、ゴロンタロ州とバンテン州に調査の力点を置いた。ゴロンタロ州では、「企業家州知事」として社会的に知名度を上げた現職のファデル・ムハマドが州知事選史上最高の得票率80.2%で圧勝した。その背景には、「トウモロコシ100万トン計画」をぶちあげ、中央の関係省庁から巧みに予算ぶんどりに成功したこと、そして、その成功をすべて自分の功績に帰すかのような宣伝工作を行ったことなどがあげられる。そういう意味で、ゴロンタロ州においては、中央省庁の公共事業が現職州知事の政治権力基盤の確立につながった。中央省庁の公共事業が首長の政治権力基盤確立につながるという点ではスハルト権威主義体制時代と類似性がある。しかし、根本的に違うのは、彼は中央からの予算ぶんどりを広く住民にアピールするポピュリスト的手段を取ることで政治権力基盤の安定を実現したことである。一方のバンテン州でも現職が僅差で勝利を収めたが、それは州の予算を徹底的に分捕ったからであった。選挙運動資金の7割ともいわれる額を州の予算から充当したのである。州の公共事業配分は基本的に現職州知事勝利を導くために行われたともいえる状況が起きたのである。この二つの州を比較するだけでも、公共事業の持つ意味は政治的に大きいが性格が異なることが明瞭となった。本年度は、この成果を国際会議での発表(一回)、論文(一本)、編著本(一冊)で公表した。
著者
星野 明子 桂 敏樹 成木 弘子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、京都市で最も高齢化率の高いA区において、高齢者と中高年対象にした交流の場を設置し、介護予防・閉じこもりのための自立支援システムを構築し、その機能について検討することを目的としている。本年度も、F商店街の空き店舗に高齢者の自立支援のための「すこやかサロン(以下、サロン)」を常設設置し(週3回、看護師または保健師の資格を持つスタッフが常駐する)運営してきた。昨年度に引き続き、開設日には商店街の通路を利用した体操(ストレッチ、音楽に合わせた手拭い体操と行進曲による足踏み運動など)も継続して実施してきた。さらに、周辺の組織の商店街振興組合や学区の女性会と連携し、「転倒予防」「骨粗鬆症」「メタボリック症候群」などのデーマによる講義と体操実施を組み合わせた健康講座を3回企画実施した。上記の活動をとうして、健康づくりの拠点として中高年と高齢者層を対象としたサロンの活用を試みた。今年度は、この活動が与える影響について、サロンの利用者とサロン周辺の商店主たちを対象に個別のインタビューを実施、さらに学区女性会メンバーと商店振興組合の商店主と成人家族を対象にデータ収集と分析を実施した。サロンは、体操参加者の運動習慣の維持や摂取カロリーへの意識づけに影響するだけでなく、会話することによる安心感の維持と孤立感の低下にも影響を与えていることが推測された。サロンは利用者である地域住民や住民同士の交流の場となるだけでなく、サロンと商店街振興組合、組合有志、さらに学区女性会などの地域組織との協働によって、介護予防のための小地域ネットワークシステム構築の拠点としての機能を持つことが考えられる。
著者
藤永 卓司 板東 徹 陳 豊史 秋吉 一成 秋吉 一成
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ドナー肺の有効利用を可能にするため、吸入投与が不可能と思われる薬剤の新しいDrugdelivery systemの開発研究を行った。コレステロールプルランCHPを蛍光標識し、ラットに経静脈投与と吸入による投与を行ったところ、加アミノ基CHP(CHP-NH2)の吸入が肺組織へもっとも取り込まれた。さらに、ヒト心房利尿ペプチドをCHP-NH2に包埋させて吸入を行ったところ、薬剤単独吸入に比べ、肺血管拡張、肺組織中cGMPといった局所作用のみならず、全身血流にも薬剤が分布する可能性が示唆された。
著者
庄司 剛
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

・肺移植モデルにおいて拒絶病変と直接・間接認識経路の関与を、グラフトの病理学的所見およびin vivo, in vitroアッセイにて検討した。ラット及びミニブタ大動物モデルにて肺移植術を行い、術後グラフトの経時的変化を病理学的に評価した。ラット肺移植においては、拒絶病変モデルにおいて拒絶発生時の呼吸生理機能と病理所見の関連性を検討した。また近年、免疫寛容に関与していると注目されている制御性T細胞の特異的マーカーであるFOXP3の発現が、拒絶病変の出現にも関係しているという報告が散見されており、我々は拒絶病変の克服、免疫寛容の導入を目的として、ミニブタを用いた大動物肺移植慢性実験モデルを確立し、同モデルを用いて、急性拒絶病変発現の際のレシピエント内のFOXP3の発現を検討した。ミニブタ(20-30kg)を用いて同種左肺移植を行い、ドナー・レシピエントの選定においてはレシピエントのドナーに対するリンパ球混合反応(MLR)がhigh response(cpm>5000)であることを確認した。免疫抑制剤は一切使用せず、術後評価として胸部レントゲン(術後3,4,5,6,7,10)、開胸肺生検(術後4,7,10)によるグラフトの病理組織診断を施行した。さらに採血を行い、末梢血単核球を分離、末梢血中のFOXP3発現を評価した。末梢血中のFOXP3発現においては、術後4日目に全例が最高の発現を示した。しかし、その後発現は漸減した。末梢血中FOXP3発現が、病理組織では認めるものの胸部レントゲンでは発見できない拒絶早期に上昇していることが認められ、末梢血中FOXP3発現が肺移植の早期拒絶マーカーになりうる可能性が示唆された。
著者
里田 直樹
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

前臨床ミニブタモデルでこれまで免疫寛容(免疫抑制剤なしで拒絶が起きない状態)のマーカーと考えられていた制御性T細胞の特異的遺伝子;FOXP3発現が、逆説的に拒絶の早期に末梢血中で高くなることを見出した。本研究では、さらにミニブタのモデルを用いて拒絶時のFOXP3の発現のメカニズムを明確にし、FOXP3が低侵襲性の信頼できる肺移植の早期拒絶のバイオマーカーとなりうるかどうかを検討した。今後とも、本研究で早期拒絶のバイオマーカーが確立されれば全例に多量の免疫抑制剤を用いるのではなく、ベースラインの免疫抑制剤を感染症が起きない程度に減らしたうえで、早期の拒絶を診断した場合にのみ免疫抑制剤を増量する、いわゆる個々の患者ごとに特有のテーラーメイド的、免疫抑制療法が可能となる。さらに、この方法で肺移植の拒絶の早期における拒絶のバイオマーカーが確立されれば、すべての肺移植の患者に強力な免疫抑制剤を投与するという現行のやり方を改め、ベースラインの免疫抑制剤の量を減らしたうえで、FOXP3を拒絶マーカーとして患者のモニタリングを行い、拒絶が起きた場合には速やかに免疫抑制剤を増やすという、個々の患者に合わせたテーラーメイド的免疫抑制療法が可能となり、過剰免疫抑制による患者の感染症死を激減することができると期待される。本研究は多量の免疫抑制剤を用いるのではなく、ベースラインの免疫抑制剤を感染症が起きない程度に減らしたうえで、早期の拒絶を診断した場合にのみ免疫抑制剤を増量する、いわゆる個々の患者ごとに特有のテーラーメイド的、免疫抑制療法の一歩となる方向に位置づけたと言える。
著者
陳 豊史
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

「ドナー不足」に対する打開策として、心臓死ドナー(donation after cardiac death, DCD)肺を用いた肺移植がある。DCDでは心停止後の温虚血による臓器傷害が甚大であるが、吸入による薬物投与などの手法を開発することで、傷害肺の有効利用が可能になる。これに基づき、申請者は、以下一連の研究を行った。(1) rat肺ex vivo潅流モデルを用いて、さらに優れた肺保護作用を有する薬剤の検索(2)新しいDDSを用いた薬剤の吸入効率改善についての検討(3) 大動物ex vivo肺潅流モデルの確立。
著者
土井 悦四郎 北畠 直文
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

食品素材並びに製造食品の長期保存の観点から, 凍結保存の必要性が高まり, 冷凍食品は増加する傾向にある. これに対し冷凍保存中における品質劣化の原因は複雑であり, その機構に関する基礎的な研究は極めて少ない.本研究においては, 我々の最近の研究成果に基いて, 蛋白質の凍結変性が界面変性の一種であると言うモデルを設定し, その機構を明らかにし同時に新しい凍結変性の防止法を見出すことを目的とした.1)卵白アルブミンを材料とし, その溶解度の変化(濁度の変化)を指標として凍結変性を検討した. その結果凍結変性は比較的0゜Cに近い温度の凍結条件で著しいことを見出した. また蛋白濃度が低い程著しいことを見出した.2)この卵白アルブミンの凍結変性はTritonX-100,Tween20, その他の非イオン性界面活性剤の低濃度の存在で完全に保護されることを見出した. この界面活性剤による凍結変性の保護はこれまで全て知られていなかった新事実である.3)上記の研究成果を発展させ, 実際の食品に適用するため, 兎節肉のミオシンを材料として, 凍結変性の研究を行った. ミオシンの場合は溶解度と同時にATPase活性をその変性の指標として用いた.4)兎ミオシンATPaseを卵白アルブミンと同様に, 0゜Cに近い凍結状態でより著しい変性を受け, 蛋白質濃度が低い程変性が著しい.5)非イオン性の界面活性剤であるTween20により凍結変性が保護された. 更に興味あることは, 来から凍結変性防止材として知られている糖, グリセロールは, 比較的高濃度で効果が認められていたものであるが, 非イオン性界面活性剤と共存させることにより, より低濃度で保護効果を示すことを見出した. この事実は実用上重要な意味のあることと考える.
著者
東野 達 大原 利眞 谷 晃 南斉 規介 山本 浩平 山本 浩平 小南 祐志
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

わが国の森林サイトやチャンバーを用いてBVOC フラックスの放出特性を明らかにし,近畿地方のBVOC 年間放出量マップを構築した.東・東南アジア地域を対象に,数値モデルにより発生源からの排出量とPM_<2.5> による早期死亡数との関係を定量化した.その成果をアジア国際産業連関表に導入し,各国の最終需要が誘発する国内のBC,OC 吸入による早期死亡数を明らかにし,消費基準でみたわが国への越境汚染による健康影響について他国及び日本の寄与率を推定した.
著者
中辻 憲夫 小倉 淳郎 佐々木 裕之 塩田 邦郎 仲野 徹 松居 靖久
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

当該特定領域研究は、発生生物学、実験動物学、遺伝学、分子生物学など多分野にまたがる学際的研究グループを形成しており、多様なバックグラウンドをもつ研究者による研究課題を推進してきた。平成19年度までに、極めて多くの研究成果が得られて優れた学術論文として発表されている。それと同時に、多様な組み合わせで各研究者の得意分野によるシナジーを生み出しながら、多くの共同研究が行われ成功してきた。平成20年度は、本総括班の活動の総仕上げとして、これら特定領域研究によって過去5年間に生み出されて研究成果のとりまとめを行うと同時に、研究成果報告書を作成した。なお、研究成果報告書の体裁に従って研究成果発表の詳細なリストなど報告資料として作成した報告書に加えて、研究成果を広く研究者コミュニティーに対する広報活動として周知させることを目的として、研究成果を読みやすい体裁で取りまとめた報告書も並行して作成し配布した。[連携研究者]独立行政法人理化学研究所・バイオリソースセンター 小倉淳郎 領域事務担当者としての連絡調整国立遺伝学研究所・総合遺伝研究系 佐々木裕之 ゲノム刷り込み研究の企画調整東京大学・農学生命科学研究科 塩田邦郎 エピジェネティクス研究の企画調整大阪大学・大学院生命機能研究科 仲野徹 生殖細胞特性研究の企画調整東北大学・加齢医学研究所 松居靖久 生殖細胞発生研究の企画調整
著者
松田 史生
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

ある代謝経路の活性の変化とは、その経路を流れる化合物量、すなわち代謝フラックスの増減を意味している。ジャガイモ塊茎組織に傷害を与えると、フェニルプロパノイド経路の活性化がおこり、chlorogenic acid (CGA)が顕著に蓄積する。一方、同じくフェニルプロパノイド代謝産物の一つであるN-p-coumaroyloctopamine(p-CO)の含量は生合成酵素が活性化しているにも関わらず微量しか増加しない。本代謝制御の詳細を明らかにすることを目的として、これらの化合物の生合成フラックスの実測を試みた。ジャガイモ塊茎からディスクを作成し、24時間後に10mM L-phenyl-d_5-alanine水溶液を処理した。経時的にディスクを回収し、抽出液中のCGAおよびp-COとその重水素ラベル体の含量をLC-MSで測定した。重水素ラベル体比の経時変化を表す式を、実測値に非線形回帰法で近似させ、CGAとp-COの生合成フラックスをそれぞれ4.2および1.1nmol/gFW/hと求めることができた。以上より、生成したCGAはほとんどが蓄積するのに対し、同じオーダーのフラックスで生成しているp-COは速やかに代謝され、蓄積しないものと考えられた。また、バレイショ塊茎中にはフェノール性アミド化合物の他にもグリコアルカロイド類のα-ソラニンが存在している。α-ソラニンはほ乳類のみならず菌類などにも毒性を持ち、植物への病害抵抗反応への関与が示唆されているが、α-ソラニンの組織中含量を定量することが難しく、その詳細は不明である。そこで、高速液体クロマトグラフィー/タンデムマススペクトロメトリー(LC/MS)を用いたα-ソラニンの簡便な定量法を開発した。この方法は抽出操作が非常に簡便であり、検出限界も10pmolとバレイショ塊茎中のα-ソラニンの定量には十分であった。