著者
大槻 信
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

「文献資料年代推定のためのガイドライ.ン」のプロトタイプを作成し、その試用と改訂を行った。原本の実地調査を重ね、ガイドラインへのフィードバックを繰り返した。昨年度までの研究を受け、「文献資料年代推定のためのガイドライン」のプロトタイプを作成した。これは文献資料年代推定のための指標(メルクマール)となる事象を整理し、その年代別の推移を記述したものである。その上で、貴重古典籍を多く蔵する京都大学附属図書館(貴重書庫を含む)、京都大学文学部図書館(貴重書庫を含む)、高山寺、勧修寺などを中心に原本の実地調査を行った。加えて、国立国会図書館、東京大学、東洋文庫、金沢文庫などを訪れ、資料の収集を行うと同時に、「文献資料年代推定のためのガイドライン」へのフィードバックを繰り返した。つまり、ガイドラインを実際の調査で実用し、その有効性を測定しながら、改善を加える作業を数度にわたり繰り返した。その過程で、大型液晶ディスプレイを導入し、作業の効率化を図った。今年度の研究で、ひとまずプロトタイプの完成を見たが、複数の研究者にガイドラインを試用してもらうこと、ならびに、ガイドラインの公表までには至らなかった。
著者
藤原 悌三 井上 隆二 日下部 馨 大場 新太郎 北原 昭男 鈴木 祥之 俣野 善治 鎌田 輝男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

地震観測は従来から主として高層建物や長大橋梁など特殊な目的のために行われることが多かったが、兵庫県南部地震では必ずしも十分活用可能な観測波は得られなかったのが実状である。本研究では京都市域の地形・地質を考慮した10点に鉛直アレー観測を実施するため、観測システムを各区の消防署に分散配置した。観測網は、地中・地表・建物内部に地震計が設置された防災研究所の観測地点10箇所と京都市が行っている地表の観測地点4箇所、で構成されており、宇治の露出岩盤と見られる貴撰山発電所と防災研究所の観測も含まれている。これらの地点の記録波形はISDN回線を通じて自動的に地震計の自己診断、データ転送され、キ-ステーションの一つ防災研究所では、震源特性と地盤震動、地盤-建物相互作用、構造物の応答性状、設計用地震動評価、都市域の地震被害想定など高範囲の研究を行ってきた。一方のキ-ステーションである京都市消防局では発災直後の緊急対策に有効利用するよう努力が続けられている。本観測システムで得た京都南部の地震と愛知県東部の地震による波形を分析した結果によると、遠地地震では京都市域全域の表層地動が似ており長周期成分が卓越しているが、近地地震では表層の地盤特性を反映して各観測点の表層加速度が大きく異なり、そのため構造物によっては高次モードが卓越する場合があること、地表と地中のスペクトル比、構造物頂部と地表のスペクトル比より、表層地盤の動特性、構造物の動特性が明らかになり、電源位置と地表規模の決定からリアルタイムに京都市域の被害想定を行える可能性があること、構造物のモデル化の際の高次の減衰評価手法に留意する必要のあることなどを明らかにした。また、兵庫県南部地震による京阪神の観測結果から、地盤と構造物の相互作用、杭と地盤の相互作用、地盤の液状化解析手法などについても有為な知見を得ている。
著者
東郷 俊宏
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、病因、病態、病理に関する唯一の専書として中国医学史上、特異な位置を占める『諸病源候論』(610年成立、巣元方撰)について、その疾病分類の特徴を分析することにあった。また疾病を67門、1739種に分類する本書の疾病記述は、漢代以降に成立した医学文献の内容を多く継承しており、かつその疾病定義が日本、中国の別を問わず後世の医学書にしばしば引用されてきたことを鑑み、本書の他の医学書への影響関係をも分析対象とし、中国医学における疾病観の変遷を探る基礎的な作業とした。具体的な成果としては、両年度を通じ最善本(宋版)を用いた経文のデータベース入力作業を進め、さらに宋改以前の旧態を存すると考えられる『医心方』との校合作業を行った。最終年度に当たる平成13年度はこの成果をもとに、本書と先行する医学経典(『素問』『霊枢』『傷寒論』『金匱要略』)、および本書の疾病分類を採用した日本、中国の医学全書(『医心方』『太平聖恵方』『聖済総録』)との引用関係、相互関係を明らかにするべく、対照表をも含めた総合データベース作成に着手した(平成14年度中完成予定)。作業量が膨大となったため、総合データベースはまだ完成をみていないが、作業過程において明らかになった事項を以下に2点挙げたい。1.計画段階で予想したとおり、『諸病源候論』の記述は先行する医学書の記述を大量に含むが、必ずしも原文とおりの引用ではなく、病因の説明などを補い、原本には見られなかった因果関係を明確にする場合が多く見られる。2.『諸病源候論』の引用書目は多種にわたるが、同一種の疾病の記述に関して、諸書の記述をあえて一貫性のあるものにまとめることはせず、内容的に矛盾、相違する部分に関しては別項目をたて、複数の書の記述を併存させるように編集している。
著者
大倉 敬宏
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

マコロード回廊周辺およびフィリピン断層沿いの14カ所で1996年4月から2000年9月までに行われた10回のGPSキャンペーン観測に関して、そのデータ収集および整理を行なった。これらのデータおよびフィリピン内外のIGS観測点のGPSデータをBernese Ver. 4を用いて解析し、ユーラシアプレートに相対的な速度場を求めた。その結果、すべての観測点で西ないし北北西向きに5-9cm/yearの値が得られた。しかし、マコロード回廊の北側と南側ではユーラシアプレートに対する速度が系統的に異なり、マコロード回廊内および回廊の南側が、北側の地域に対して年間2cmの大きさで東ないし北東方向に変位していることが明らかになった。また、マコロード回廊内で2〜4×10E-7の南北ないし北北西-南南東方向の伸長成分が検出された。また、マコロード回廊内の回転成分は反時計回りに0.2-0.4マイクロラジアン/yearであり、この値も周辺より若干大きめであった。この0.2-0.4マイクロラジアン/yearという値は古地磁気学的手法により得られた、過去200万年のブロック回転運動(最大40度)の平均回転速度とほぼ等しい。求められた伸長成分や回転成分がマコロード回廊の生成時から連続するものであるとすると、マコロード回廊の生成には、約2Maにフィリピン海プレートの沈み込み様式がかわったことでパラワンブロックとフィリピン島弧の再衝突がおこったことが密接に関係していると考えられる。
著者
藤田 悠
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1.存在を主題とする西洋形而上学の歴史に絶えずついてまわる「無」の問題を検討する上で、まずカントの「無」の概念に関する叙述を解明する予定だったが、さらにそれに先立ってベルクソンの哲学を参照する必要性が出てきた。というのも彼は、西洋形而上学の根本的な誤りを「無」の概念のうちに読み取り、それを繰り返し批判しているからだ。しかも興味深いのは、ジル・ドゥルーズが慧眼をもって洞察しているように、この概念が一種の仮像性を帯びており、その限りにおいて人間知性にとって不可避だということをベルクソンが認めていたということ、そしてカントと同様の手法を用いてこれに対処しているということである。ベルクソンが「かくてわれわれは絶対無の観念を獲得するが、こうした無の観念を分析するならば、それが実際には全体の観念である…ということを知る」と語っていることからも、彼がカントと同一の問題圏のうちに立ちながら、これを批判していたのではないかという見通しを得ることができた。2.次いで、ジョルダーノ・ブルーノの思想を検討した。彼の無限宇宙論の主張の背後には絶えず、空虚ないし無に対する拒絶があるからである。ここでもまたベルクソンの場合と同じように、カント的な問題意識が根底に存することが認められた。「ありうるもののすべてであるものは、自らの存在のうちにあらゆる存在を含む唯一のものです。他のものはみなそうでなく、可能態は現実態に等しくありません。なぜなら、現実態は絶対的なものではなく、制約されたものだからです」と彼が語るとき、念頭に置かれているのはスコラ的な空虚の概念である。3.またスアレスの原因論においては、「自然物の生成」という非本来的な原因性が論じられる際、「欠如」の概念が、形相と質料と並列されたかたちで、「生成の出発点」としての意味を持たされていることを確認した。
著者
栗原 達夫 江崎 信芳 三原 久明
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.Burkholderia sp.FA1由来フルオロ酢酸デハロゲナーゼはフルオロ酢酸の加水分解的脱フッ素反応を触媒しグリコール酸をあたえる。本酵素反応ではD104の側鎖カルボキシル基が基質のα-炭素を求核攻撃し、フッ化物イオンが脱離するとともに、酵素と基質がエステル結合した中間体が生成する。エステル中間体のD104のカルボキシル基の炭素原子を、H271によって活性化された水分子が求核攻撃して、グリコール酸が遊離するとともにD104が再生する。野生型酵素、D104N変異型酵素とフルオロ酢酸の複合体(Michaelis複合体)、H271Aとクロロ酢酸の複合体(エステル中間体)のX線結晶構造解析により、この反応スキームの妥当性が示された。基質カルボキシル基は、H149、W150、Y212、R105、R108によって認識され、フッ素原子はR108に結合していた。W150F変異型酵素では、クロロ酢酸に対する活性は野生型酵素と同等であるのに対して、フルオロ酢酸に対する活性は完全に消失した。W150はフルオロ酢酸の脱フッ素に特異的に必要とされる残基であることが示された。2.1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン(Freon113a)を電子受容体とした集積培養によりSulfurospirillum属の嫌気性細菌を得た。テトラクロロエチレンを電子受容体とした集積培養により、16S rRNAの配列がuncultured bacteriumの16S rRNAの配列と98%の相同性を示す嫌気性細菌を得た。3.2-クロロアクリル酸資化性菌Burkholderia sp.WS由来の2-ハロアクリル酸レダクターゼとNADPH再生系として機能するグルコースデヒドロゲナーゼを共発現する組換え大腸菌を作製した。この組み換え大腸菌を用い、2-クロロアクリル酸を基質として、除草剤原料として有用な(S)-2-クロロプロピオン酸の生産を行った。従来法(光学分割法)を上回る収率で生成物を得ることに成功した。
著者
東 順一 坂本 正弘 梅澤 俊明 島田 浩章 坂本 正弘 東 順一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,タケの有する高シンク機能の統御機構の解明を目指して実施したものである。中心的な解析手法としてイネのマイクロアレイを用いた。これは,タケの遺伝子がイネの遺伝子と相同性が非常に高く,イネのマイクロアレイが利用可能であると考えたからである。タケノコ,全長5m39cmの幼竹の第17節間の上部と下部,成葉からmRNAを抽出,cDNAを合成してマイクロアレイ実験に供した。アレイ解析の結果,解析した約9,000個のクローンのうちタケノコで特異的に発現したクローンが78個,節間下部で特異的に発現したクローンが635個あった。タケノコではDNA複製やタンパク合成に関与する遺伝子が多く,細胞増殖が盛んであることが伺われた。また,ジベレリン関連遺伝子の発現量も多く,伸長成長に関与すると言われてることを分子レベルで明らかにすることができた。節間下部でとくに発現量の多いクローン34個を選抜して解析したところ,ショ糖合成酵素やセルロース合成酵素などの糖代謝関連遺伝子が多かった。また細胞間連絡に関与している遺伝子や,水輸送に関与するアクアポリンなどの遺伝子の発現量も多かったことが注目される。節間下部でとくに発現量が多かったショ糖合成酵素の遺伝子(以下Susと略)に着目して解析をおこなった。Susはの3クローンのクローニングに成功した。うち2つのクローンはSus1グループに属し,1つはSusAグループであることがわかった。RT-PCRによる発現解析ならびにSus1抗体を用いたウェスタン解析の結果から,伸長成長期にあたる幼竹段階ではSus1の発現量が多かったのに対して,組織が成熟するにしたがってSusAクローンの発現量が増加した。このように,組織・時期においてショ糖合成酵素内におけるクローンの役割が交代しており,タケの伸長成長期において重要な役割を担っていることが強く示唆された。
著者
吉田 城 増田 真 田口 紀子 廣田 昌義
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

基盤研究(A)(2)「フランス文学における心と体の病理-中世から現代まで」は当初4年間の計画でスタートした。数度にわたる準備会合によって各分担者の主要研究テーマを決定した。吉田は19世紀〜20世紀フランスの文学と病理(ゴンクール兄弟、プルースト、など)、廣田はパスカル・モンテーニュにおける病気、田口は近代小説にあらわれた夢のディスクールの分析、増田は18世紀思想における狂気と病理、稲垣はユーゴーと狂気の問題、多賀は薬物と文学の関わり、嶋崎は中世フランス文学における病の問題、小倉は女性と病の文化史、松村はバルザックと19世紀医学の問題を中心に据えた。定期的な研究会合を通じてそれぞれの研究発表をめぐって活発な議論が交わされた。これらの討議の内容をフィードバックする形で各自が論文を執筆した。文学も病理も人間の探求という点で一致するが、時代と文化の文脈を抜きにしてはその関係も論じることができない。したがって、報告書としてまとめることのできた各論文は、かなり実証的な射程に収まるものになった。詳細は別冊の報告書を参照のこと。
著者
谷口 栄一 QURESHI Ali Gul
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

動的な手法における集配送車両は,スケジューリング期間の最初に平均旅行時間に基づいた事前最適ルートにより運行を開始する.しかしながら,ルートは集配送車両が顧客に到達するたびに,更新された旅行時間に基づいて変更される.すべての顧客は,ルート変更した配送中の車両により初めて配送されるか,すでに配送されているかどちらかであり,初期の顧客集合から除去される.ルート変更時点において集配送車両の現在位置が,車両にとって新たなルートの始点として扱われる.本年度は,上述の動的な枠組みを備えたセミソフトタイムウィンドウを有する配車配送計画問題(D-VRPSSTW)に対する厳密解法のコード化を試みた.これまで行われてきたD-VRPTWに対する解法アプローチの多くは,挿入法や局所探索のような近似解法に基づいているものであったため,本研究で取り組んだ厳密解法を構築するにあたり,数理計画手法の調査を行い,最終的にMATLAB上で実行可能なコードを得た.得られたコードに対し,シミュレーションされたデータセットに加え,東京南部を対象地域の道路ネットワークを再現した実践的かつ大規模なデータセットを用いて検討を行った.得られた結果について,2009年5月にトルコにおいて開催された第4回貨物輸送・ロジスティクスに関する国際ワークショップおよび2009年6月にメキシコにおいて開催された第6回シティロジスティクスに関する国際会議において紹介し,国内外の学術的および実務的な物流従事者と議論した.
著者
ROY C. SIDLE (2007) SIDLE Roy C (2006) BRARDINONI F. BRARDINONI Francesco
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究における調査計画は、南アルプスの山地流域(長野県と山梨県)で地すべり堆積物の動態を調べることを目的として立てられた。具体的な研究対象流域は、釜無川・尾白川・大武川・小武川と野呂川である。現在までに、以下の研究段階が実行された。1)6つの年代(1954・1968・1975・1983・1997・2005)の空中写真のセットの判読。2)デジタル空中写真画像を利用した地すべり発生と堆積物層の各点のGIS解析によるマッピング。3)航空写真を元にした見積りの補正因子の存在を調べるための、地すべりの大きさ(長さ、幅、深さ)と堆積物の勾配の現地測定。研究サイトへのフィールド調査は、富士川町と甲府市の砂防事務所の協力で行われた。野外作業には、釜無川・尾白川・大武川・小武川における地すべりイベントの試料を測定することを含んでいる。現在は積雪があるのため、さらなる野外作業は5月中・下旬に野呂川で計画している。予備的な結果では、地すべり活動が高く岩質に依存しているということが明らかとなった。地すべりの起こる頻度は、火砕物層で最も高く、花崗岩層で最も低く、石灰岩と砂岩でその間を示した。さらに、1970年代に行われた広範な森林伐採は、20年間にわたって土砂生産の割合を加速させてきたと考えられる。
著者
風間 卓仁
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の最大の目的は、火山での重力観測を通して、火山内部におけるマグマ質量の移動プロセスを把握することである。また、マグマ移動起源の重力変化を検出するため、陸水起源の重力擾乱を適切に補正することも、本研究の大きな目的の1つである。本研究の最終年度に当たる平成24年度には、約2カ月に1度の頻度で桜島を訪問し、設置済みの相対重力計・気象観測装置・水分計のデータ回収およびメンテナンス作業を行った。この3年間、桜島では絶対重力計や相対重力計の連続データを大量に取得することができた。しかしながら、陸水擾乱によるノイズが大きかったために、現時点では火山起源の重力変化を十分には検出できていない。そこで本研究では、新たに八重山諸島とアラスカにて重力等の観測を実施し、陸水擾乱に関連して以下のような結果を得た。まず、八重山諸島では石垣島や西表島などで土壌採取を実施し、採取した土壌に対して透水試験を適用した。その結果、透水係数は空間的に均質ではなく、約4桁の範囲で変化していることが分かった。今回得られた土壌空間不均質を陸水シミュレーションに適用すれば、陸水擾乱を高精度に再現できるものと期待される。また、アラスカでは絶対重力計FG5による重力測定を実施した。その結果、絶対重力値は予想していた値よりも約10マイクロガル程度大きい'ことが分かった。これは2011~2012年冬季の異常降雪の影響と考えられ、今後積雪分布のデータなどを利用して重力変化を再現する予定である。今後は、陸水分布シミュレーションのプログラムを改編し、陸水擾乱の再現精度向上を目指す。そして、八重山諸島・アラスカ・南極地域(前年度に重力観測を実施)で取得した重力データに陸水擾乱補正を適用し、陸水分布シミュレーションの再現精度を評価する。その上で、桜島の重力観測データに対して高精度な陸水擾乱補正を適用し、火山起源の重力変化の抽出を目指す。
著者
南 裕樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,離散値信号を含む2次元システム(2Dシステム)における動的量子化器の最適設計論を構築することである.これを達成するために,つぎの二つのテーマに取り組んだ.1.分散型動的量子化器の解析と最適設計:申請者がこれまでに行ってきた研究(1次元システムのための最適動的量子化器の設計)の発展として,分散構造を有する動的量子化器の最適設計に取り組んだ(理論研究と応用研究).まず,理論研究の成果は,複数個の量子化器が組み込まれる離散値制御系において,最適な分散型動的量子化器を解析的に導出したことである.ここでの最適性は,離散値制御系の入出力特性が,通常の連続値制御系の入出力特性に最も近くなるという意味でのものである.一方,応用研究では,不安定なメカトロニクス系を対象とし,分散型最適動的量子化器を用いた離散値制御の有効陛を検討した.この実験検証により,最適量子化器の実用性が示された.2.n次元システムに対する最適動的量子化器:これまでの動的量子化の設計問題は,機械システムのような時間的なダイナミクスをもつく1次元システムを対象にしていた.ここでは,これまでの理論を一般化するために,空間的なダイナミクスをもつn次元システム(たとえば,分布定数系)を対象として,研究を行った.まず,離散値信号を含むn次元システムに対して,最適な動的量子化器を解析的に導出した.つぎに,その最適動的量子化器をハーフトーン画像処理に応用した.本研究では,動的量子化器を用いて多値画像の画質をできる限り維持する2値画像が生成できることを確認した.
著者
津田 敏隆 MADINNENI Venkata Ratnam MADINENI VENKAT RATNAM RATNAM MADINENI VENKAT
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

データ空白域とされてきた赤道域の成層圏の大気特性を解明することを目指し、インドネシア西スマトラの赤道大気レーダー観測所を中心に行われた気球(ラジオゾンデ)集中観測結果、ならびにCHAMP衛星によるGPS掩蔽データを用いた研究を行った。とりわけ、対流圏・成層圏の物質循環や大気波動エネルギーの上方輸送に重要な役割を果たす熱帯域対流圏界面の微細構造の特性解明、ならびに赤道域で活発な積雲対流により励起される多くの大気波動のうち特にエネルギー・運動量の上方輸送を担い大気大循環の駆動力となっている大気重力波および赤道ケルビン波の特性を研究した。インドネシア域の5ヶ所で2004年4-5月に行われたラジオゾンデ集中観測の結果を用いて、慣性重力波の鉛直構造および時間変動を事例解析した。対流圏上部・成層圏下部において卓越した重力波(周期2-3日、鉛直波長は3-5km)が認められた。波動エネルギーは高度約20kmで最大となるが、必ずしも時間連続ではなく間欠的であった。重力波の水平伝播特性を5観測点間で相互相関解析し、水平波長約1,700kmで東南東の方向に伝播していたことが分かった。長波放射(OLR)の衛星データを用いて雲分布の時間・空間変動を調べ、インド洋からインドネシア海洋大陸に向けて東方伝播する積雲対流群が重力波励起に関与していることを示した。また、ラジオゾンデとGPS掩蔽データを併用して、対流圏上部・成層圏下部におけるケルビン波の特性を解析し、東西波数1,2で東進する成分が特に卓越していることを示し、その気候学的特性を明らかにした。ケルビン波は対流圏界面の温度構造に大きな変動を与えており、対流圏界面高度および極小温度が周期的に変動することが分かった。なお、東西波数が1ないし2の全球規模のケルビン波に加えて、局所的な波動擾乱も起こっており、積雲対流がその励起源となることを示した。これらの研究成果を国際学術誌に論文公表した。
著者
山尾 大
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、現代イラクにおけるイスラームと政治の動態を、シーア派宗教界とシーア派イスラーム主義政党の関係性とその変化に着目して分析することにある。21年度は、昨年度に分析したイスラーム主義政党の歴史的なイデオロギーの変容を元に、なぜそのような変容が生じたのかを分析し、それが2003年のイラク戦争後にいかなる影響を与えているかという問題を解明することに力点を置いた。また、これまでの研究成果を、博士論文にまとめる作業を行った。具体的には次のことを行った。(1)1990年代のイラク国内のイスラーム主義運動を、社会運動の観点から分析する作業を進めてきたが、それを論文にまとめ、海外ジャーナルに英文で投稿する。(2)1990年代の亡命組イスラーム主義政党、具体的にはダアワ党とイラク・イスラーム革命最高評議会の歴史的展開とイラク政治との関係を、彼らが発行していた地下機関紙を解析することで明らかにする。(3)1980~90年代の亡命組イスラーム主義政党と、国内のシーア派宗教界、および国外の宗教界との関係を分析し、とりわけ金銭的な支援のネットワークを解明する。この作業は、党の内部文書の解析とともに、聞き取り調査を実施することで、明らかにする。(4)以上で分析した関係性が、2003年のイラク戦争後の政治運営において、いかに影響しているかという問題を、イスラーム主義政党の離合集散、合従連合に着目して明らかにする。その結果、とりわけ1980年代から1990年代後半のイラク国内外のイスラーム主義政党のイデオロギーと活動実践が明らかになり、同時にそれらが2003年の戦後イラクにおいて、政治対立のいかなる側面で問題となっているのか、この構造とメカニズムを明らかにした。これらの成果を、国外の学術雑誌と国内のジャーナルに投稿し、さらに共著の論文集として発表した。この分野は、実態の解明が喫緊の課題であるにもかかわらず、我が国のみならず、世界的にも研究が未着手である。これを解明したことで、イラク政治の重要な一側面の解明に貢献した。
著者
河原 大輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、アメリカ映画におけるポスト古典映画の諸相を明らかにするべく、近年積極的に行われてきたポスト古典論争の再検討を、とりわけインディペンデント映画研究、ニューメディア論との比較検討から重点的に行った。インディペンデント映画研究においては、とりわけ、ポスト古典初期ともいえる60年代後半からそのキャリアをスタートさせたデイヴィッド・リンチを主たる研究対象とし、彼の作品の製作・配給・上映形態がいかなる変化を遂げてきたのかを検証した。そこで明らかになったのは、深夜上映からブロックバスター、テレビドラマ、ウェブサイトへと、変則的ながらもゆるやか移行を見せるリンチの製作態度が、ポスト古典論を展開する理論家が提示してきた現代アメリカ映画の諸特徴と連動するのみならず、90年代以降のニューメディア論とも共振しているということである。また、テレビドラマのパイロット版を映画として公開したり、ウェブサイトでの公開用に撮影したデジタル映像を映画館でフィルム上映したりする近年のリンチの変則的な製作態度を、オールド・メディアとしての映画からインターネットをはじめとするニューメディアへの移行という直線的なメディア史の記述方法に疑問を投げかける重要な事例として検討した。これらの結果判明したことは、現代はむしろ、ヘンリー・ジェンキンスが説くように、新旧のメディア双方が乗り入れ、奇妙な同居を見せる時代として理解されるべきであり、このように理解したとき、リンチの映画および60年代以降のポスト古典映画は旧来の古典映画とニューメディアを段階的に繋ぐ領域として、より広義にはポストモダンへの移行を記述するメディアとして、意義深い視点を提供するであろうということである。研究成果は日本映画学会および日本アメリカ学会において順次発表される予定である。
著者
川池 健司 馬場 康之 武田 誠
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

近年、豪雨によって頻発している内水氾濫を実験室で再現するため、内水氾濫実験装置を作成した。この装置を用いて内水氾濫を発生させ、数値解析モデルの結果と比較した。その結果、内水氾濫の発生の有無および浸水規模を規定する、地上と下水道管渠の雨水のやり取りを扱うモデルとして、従来の段落ち式と越流公式では両者の間の流量を過剰に評価してしまうことが明らかとなった。当面の措置として両公式中の流量係数の改正値を提案したが、今後は新たな定式化も視野に入れた更なる検討が必要と考えられる。
著者
二井 一禎
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

マツ材線虫病の病原体マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophllus)の日本国内での分化程度を調べるため、国内各地から採集した9つのアイソレイト間の特性比較を行った。まず、DNAのITS2(504bp)、及びHSP70A(378bp)領域の塩基配列を比較した。これらの領域は変異の蓄積しやすい領域であり、アイソレイト間比較には有効な領域であると考えられた。しかし、今回調査した9アイソレイト間ではいずれの領域でも塩基配列は完全に一致し、変異は認められなかった。また、これら9アイソレイトの塩基配列をこれまでの研究から明らかになっている海外のアイソレイトの塩基配列と比較すると、アメリカの1アイソレイトとITS2領域はすべて一致し、HSP70A領域でも高い相同性(99%)が得られ、日本国内のアイソレイトとアメリカのアイソレイトの近縁性が認められた。これは、日本国内のマツノザイセンチュウがアメリカからの侵入種であるという従来の仮説を支持するものであった。同時に、国内のアイソレイトがほぼ単一起源に近く、また、大きな分化のまだ起きていないかなり均質なものなのではないか、と考えられた。続いて、このように近縁なアイソレイトの形態や生理的特性に変異が生じていないのかどうかということを調査するために、これらの9アイソレイトに関して、形態を比較したところ、それぞれの値に関してアイソレイト間に有意差があることが明らかになり、形態においてはアイソレイト間に分化が認められた。次に,胚発生における発育ゼロ点に着目して温度に対する適応性をアイソレイト間で比較したところ、発育ゼロ点は7〜10℃となり、アイソレイト間に差があることが明らかになった。最後に、各アイソレイトの病原力に対する温度の影響を調べた結果、枯死実生の乾重、線虫数にはアイソレイト間差はみられなかった。一方、接種から枯死に至る所要日数に関しては、温度の影響、アイソレイト間差、それらの交互作用ともに有意性が認められた(二元配置分散分析)。さらに、100日目の段階における枯死率では、20、25℃の区でアイソレイト間差が認められた(カイ二乗検定)。
著者
藤井 律之
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今年度は、前二年度におけるデータをもとに論文を作成したので、その要旨を以て概要に代える。魏晋南北朝時代、とくに東晋から南朝では、官職の清濁が選挙の基準であり、官品が官人の地位を表象しなかった。そのため、官職の兼任によって、官僚の地位を昇進させる場合があった。官職の兼任は、従来注目されてこなかったが、侍中領衛(侍中が左右衛将軍を兼任すること)に代表される、侍中と内号将軍(西省ともよばれる)の兼任は、兼任によって地位が異動することを示す典型的な事例である。侍中は、尚書令へと続く最上級官僚の昇進経路のスタートにあたり、南朝では、侍中→列曹尚書→吏部尚書、中領軍・中護軍→尚書僕射、領軍・護軍将軍→尚書令という昇進経路が確立していた。それと並行して、侍中→侍中領五校尉→侍中領前軍・後軍・左軍・右軍将軍→侍中領驍騎・游撃将軍→侍中領左右衛将軍(→尚書令)という序列が形成されていた。これらのうち、侍中と驍騎・游撃将軍以下の内号将軍の兼任は、疾病による任命が多いことから、職掌は期待されておらず、官人の地位の上下を示すだけであった。それは、宋中期以後、驍騎・游撃将軍の定員が無くなり、必ずしも実兵力を統括しなくなったこと、また、侍中も才能ではなく、家柄や外見を基準に選ばれるようになっていたからである。侍中による序列が形成された理由は以下のように考えられる。1:東晋末から宋初に、侍中と左右衛将軍を兼任した人物が政局を左右し、そのため侍中領衛が高く評価されるポストとなった。2:侍中が昇進先にあたる列曹尚書よりも清とみなされ、当時の官人は昇進経路を逆行してでも侍中に任ぜられることを望んだため、侍中と他の官職を兼任させることによって官人の地位を昇進させることが行われ、侍中領衛へとつづく、侍中と内号将軍の序列が形成された。3:散騎常侍が濫発された当時において、代替として内号将軍を兼任することが当局に歓迎された。
著者
森 友彦 栗原 堅三 高見 茂 林 由佳子 二ノ宮 裕三 山本 隆
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

昧覚機能は、年齢、性別、生活・職業形態、疾病など種々の環境要因によって変動する。特に、過食と肥満、拒食と痩〓、美食と生活習慣病、食スタイルと生老病死では、味覚機能の変動が原因と結果の双方で生起する。これら諸現象には食の健康科学の視点から関心が高まっていることから、味覚の基本的なメカニズムの解明を通じて味覚機能の全体を理解することが要望される。本企画調査を通じて味覚機能と健康の関連性を科学的に解明する研究の拠点的組織を構築することにより、生命科学としての味覚研究の推進をさらに図る。そのために味覚・食・健康に携わる計12名の第一線の研究者を研究班として組織した。まず、7月26日午後1時から4時、名古屋アソシアターミナルホテル、小会議場にて第1回全体会議を行った。特定研究領域発足に向けて研究方針を立てると共に研究組織の改編を行った。第2回全体会議は9月24日午前10時から12時まで、岡山衛生会館第5会議室で発足に向けての最終打ち合わせを行った。その後、インターネットによる綿密な打ち合わせを頻繁に行い、11月に平成16年度発足特定領域「食の健全性と味覚機能」を申請した。そして、2004年3月1日(月)13時半から6時過ぎまで、京都大学宇治キャンパス農学研究科講義室にて「食の健全性と味覚機能」に関して研究報告会兼シンポジウムを開催した。本研究班に加え、米国ジョンズホプキンス大学医学部より恒成隆博士を招聘して、感覚研究がこれから向かうであろう領域に関して情報を収集した。