著者
村主 崇行
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

私の研究計画の主眼は、ソフト的には「物理的自由度、ないし計算資源」の適切な分配の実現、ハード的には価格性能比が良い汎用GPU型並列計算機の利用によりシミュレーション宇宙物理学で独創的な研究を実現することであった。DC2採択までに行った準備的研究の結果、当初の研究計画にあった無衝突粒子加速現象に加えて、当初の計画では、GPU化が困難と考えていた流体計算についても、GPU化できるという目途が立った。そこで、2009年4月から8月にかけては、無衝突加速現象の数値実験を行い、統計データをためる一方で、原始惑星系円盤における氷粒子の表面帯電と電荷分離の素過程の研究を行った。2009年10月にはこれに関する論文[1]を提出し、受理された。つぎに、2009年9月には、並列GPU計算機向けの3次元流体シミュレータを作成し、2009年11月より東京工業大学のTSUBAMEグリッドクラスタ、つづいて長崎大学のDEGIMA GPUクラスターコンピュータにて、本格的な規模のGPUを利用した研究を開始した。宇宙物理学の未解決問題として、星間物質の熱的不安定性によって引き起こされる3次元乱流の研究を選んだ。その結果、前人未到の高解像度の計算を実現し、幅広い応用〓をもつもののGPU化は困難とされていた流体計算がGPU計算に適していることを実証した。この結果を論文にまとめ、投稿している。私は自分自身の研究を進めつつ、共同研究、講習会を主催・参加してGPUのメリットを分かちあってきた。すると、GPUやより将来の計算機を使う上での障害も見えて来、研究計画にあった「アルゴリズムの記述を元に、設計の異なる計算機に対してコードを自動生成・変換する」手法の重要性がますます明確となってきた。そこで、長期的視点に立ったコード生成手法の研究開発を主眼とし、京都大学の次世代研究者育成センターの職員に応募したところ採用され、2010年4月より特定助教として、宇宙物理学および情報学、さらには学問一般を見据えた研究に邁進している。
著者
安川 由貴子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、個として確立していくことが重視される現代社会の中で、G.ベイトソンのコミュニケーション論を基軸にして、共同性と個人の問題について生涯学習の観点から考察を行った。それは、自己実現、自己決定といった個への重視が、逆説的にどのように個を疎外していくのかを、もう一方の共同性という概念で対比しつつ、実証的に把握する試みである。ベイトソンは、個という存在をすでに共同性や環境のシステムの中に含みこまれている存在として捉えていくことにより、個人を軸とした近代西欧思想に特有の観念を乗り越えようとしていた。その萌芽は、現在の日本社会の過疎地域における生涯学習的な実践や、アルコール依存症のセルフヘルプ・グループの実践においても見ることができた。
著者
山口 潔子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

今年度は、昨年度まで行っていた長期フィールドワークの成果を発表論文にまとめ、三つの国際シンポジウムで発表した。4月には、米・コーネル大学の東南アジアプログラムの院生シンポジウムで「アメリカ期における新しい都市空間の変成」"New Space in the American-period Philippines"を口頭発表した。発表後は、現在、フィリピンの歴史的資料が本国以上に存在するコーネル大学の図書館で資料収集をした。6月には、松江市で開催された建築系のシンポジウム、5th International Symposium on Architectural Interchanges in Asia (中国・韓国・日本建築学会共催)にて、都市計画の視点から調査結果をまとめ"Poblaciones in Cebu : Historical Town Planning as a Urban Heritage"を口頭発表した。9月には、パリで開催されたユーロ東南アジア学会の大会4^<th> EUROSEAS Conferenceの、建築・都市計画部門のパネルにおいて、セブというフィリピン第2の都市のもつ社会的・経済的な役割の変容を、都市拡大の歴史とともに"Cebu : Independently Global Island in the Philippines"として口頭発表した。まだまだ小規模な日本の東南アジア研究界や、独自なアメリカ式展開を見せるアジアの東南アジア研究界、その発端からポリティカルな要素をもつアメリカの東南アジア研究界とは大いに異なる、ヨーロッパの東南アジア研究界に触れられたことは素晴らしい経験であった。ユーロの東南アジア研究者たちから得た示唆と、日本にはほとんどいない同分野(東南アジア建築史)の専門家たちとの議論から得られた新たな視野をもって、年度末には研究論文を研究科に提出した。
著者
望月 伸悦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

色素体の機能に依存した光合成関連遺伝子の転写制御において、これまでの定説ではテトラピロール合成中間体MgProtoIXの蓄積量が重要であると考えられてきたが、本研究によって、その蓄積量は転写制御と直接の関連性がないことが明らかとなった。更に、CRY1およびHY5とテトラピロール合成系GUN遺伝子との間に、遺伝学的相互作用があることを見いだした。
著者
小畑 正明 SPENGLER Dirk DIRK Spengler
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

中国のSulu地域は平成19年度に本人が中国研究者の協力の下にフィールド調査を行い,新たに得たサンプルについて,一連の分析作業を行った。北部Qaidam地域については,平成20年夏に当該地域に置いて中国側の軍事演習が始まったため,外国人が立ち入れなくなり,当初計画していたフィールドワークは実施できなくなった。かわりに中国側の共同研究者(中国科学員J-.J.Yang教授)から提供されたサンプルをSu-Lu地域ざくろ石かんらん岩コレクションに加えて、詳細な分析的研究をおこなった。その結果,Sulu地域で見いだされた輝石-ざくろ石の微細構造は,従来言われていたような大陸地殻沈み込みに伴う超高圧変成作用によるものではなく,より古い時代に高圧下で,リソスフェアーの冷却により形成されたものであることが明らかになった。これらの研究成果は学会発表し(平成20年5月地球惑星連合大会(千葉);同年8月IGC(万国地質会議),オスロ),投稿論文は現在執筆中である。またノルウェーの研究成果の一部を国際誌Earth&Planet.Sci.Letterに出版した。同時にノルウェーのサンプルを用いてざくろ石の分解組織の研究も筆者と共同で新たに行い,まとまったデータを得て,その成果は現在論文執筆中である。
著者
前川 玲子 若島 正 加藤 幹郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、両大戦間の時期を中心に、ファシズムを逃れてアメリカに亡命した知識人たちが、アメリカの文化や社会との出会いの中でどのような思想変容を遂げ、同時にアメリカ社会にどのような変化をもたらしたかという相互変容の歴史を辿るものである。我々は、「亡命」という概念を、政治的・民族的な迫害による望まざる移動という客観的現実と、トランス・ナショナルな可能性を追求しようとする新たな主体の形成という二重の視点から捉えようとした。具体的には、ロシア、ドイツ、東欧を逃れてアメリカに移住し、「異郷」を永住の地にした多彩な知識人の生き様、彼らの残した作品、アメリカ文化・社会への影響などに焦点をあてた。地理的移動、文化的な異種混交、祖国からの心理的断絶と望郷、および「家郷なきもの」の疎外感などに注目しながら、個々の人物や集団の思想的変容や新たな表現形態の獲得などを探っていった。学際的な亡命知識人研究を目指そうとした我々は、三つのアプローチを用いた。第一は、ナチズムから逃れてきた学者に研究の機会を提供した高等教育機関や財団などの資料をもとに、ヨーロッパとアメリカを結ぶ知のネットワーク作りに果たした亡命学者の役割を検証するものである。第二のアプローチでは、亡命知識人の中でアメリカ文学に大きな影響を与えたウラジーミル・ナボコフの小説を取り上げ、そのテキスト分析を中心に据えた。第三のアプローチでは、亡命者がアメリカの大衆文化、とくに映画産業に与えた影響を辿った。本報告書において我々は、ナチズムと対峙するなかで新たな学問的パラダイムを形成していった社会科学者たち、ナボコフを中心とした亡命文学者、さらには映画の観客としてまた製作者としてアメリカ映画史に一時代を築いた移民や亡命者などの実像に迫ることで、知識人の「亡命」という現象がもたらしたアメリカの文化的、社会的変容の複雑な諸相を示そうとした。
著者
ショウ ラジブ (2007 2009-2010) ラジブ・クマール ショウ (2008) PARVIN Gulsan Ara GULSAN ARA Parvin
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究では、バングラデシュの首都ダッカ市と南部に位置するハティア島を対象地域とし、災害リスク軽減策の一つであるマイクロクレジットプログラムの適応性について議論を行った。今年度の主な研究成果は下記の通りである。本研究では、マイクロクレジットの適応性を見極める一つとして、、ダッカ市内を対象として、Climate CHange Resilience Iniciative (CDRI)の手法を用いて気候変動に起因した災害に対する適応力を評価した。ダッカ市内は10の地区から構成されており、各地域の災害対応力を評価した。その結果、第2地区は、対応力が高く、第8地区は中間的数値を示した。また、第9地区並びに第10地区は高所得者を対象とした住宅地であることから、経済的側面に於いて、他の地区より高数値を示した。また、ダッカ市内の商業中心地域である第4地区は地域防災力の総スコアが3を示したが、他の地区では1または2のスコア結果を示し、地域防災力はあまり高く無い傾向が明らかになった。マイクロクレジットプログラムへの適応性を議論するため、気候変動に起因した災害への対応力評価の他に、ダッカ市内の財政、貯蓄、予算、および補助金を調査した。その結果、災害への適応力と災害リスク軽減策は必ずしも一致しておらず、担当行政も異なることから、災害や気候変動の脅威に直面した際の対応力に多くの課題点が存在することが明らかになった。これらの研究成果は、2010年9月にオーストラリア・アデライドで行われた国際会議Coast to Coast 2010及び同年10月神戸市で行われたUSMCA2010国際会議において発表を行い、多くの議論を得ることができた。また、研究成果を広く公表する為、論文を国際誌に投稿中である。
著者
原田 和典 大宮 喜文 松山 賢 鈴木 圭一 土橋 常登 長岡 勉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

建築物の性能的火災安全設計を行うためには、「設計火源(設計用入力火災)」を設定することから始まる。しかし、建築物内の可燃物の燃焼は、種々の要因により大きなばらつきがあって、告示式で与えられるように一義的なものではない。設計火源は、どのような可燃物を建築設計上考慮すべきか(用途区分別の特性的可燃物配置)という建築計画学としての整理を行った上で、特定された可燃物の燃焼性状を工学的にモデル化することが必要である。本研究においては、建築空間内に存在する可燃物の代表寸法と可燃物間の配置、壁面や柱等の建築要素との位置関係に注目して、建物用途、室用途の組み合わせ毎に、典型的な可燃物の配置パターンを作成すべきことを提案し、例題として事務所の廊下、教育施設の玄関ロビー、鉄道駅などの配置パターンを抽出してモデル化を行った。また、可燃物の燃焼性状に関しては、既往の文献資料を整理して、可燃物の一般的呼称毎に発熱速度曲線を集積して統計処理を行った結果、椅子、ソファ、クリスマスツリーなどの設計火源を提案した。これらを用いて、鉄道駅のプラットホーム構造物の耐火設計ケーススタディを行い、調査結果に基づき可燃物を想定し、燃焼性状の予測を行う標準的方法を提案すると同時に、現時点での知見で不足している点を指摘した。以上の成果は、(社)日本建築学会・防火委員会・火災安全設計小委員会の傘下に設置された「局所火災に対する耐火設計ワーキンググループ」との連携の下に行われ、シンポジウムを開催して成果を公表するとともに、建築設計者の意見を収集した。
著者
金本 龍平
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

メチオニンがタンパク質栄養のシグナルとなり肝臓の可欠アミノ酸(セリンとアスパラギン)代謝酵素のタンパク質必要量に応答した発現を制御する可能性が示された。また、新しい栄養環境への適応にはシグナルの継続性(同じ食環境が継続する)が必要であることが示された。さらに、タンパク質栄養への応答性には臓器特異性が有り、可欠アミノ酸の必要量が臓器によって異なることが示された。
著者
津田 敏隆 川原 琢也 山本 衛 中村 卓司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、京都大学のMUレーダーで高感度の流星観測を行い、流星の大気への流入及びその時の中間圏界面領域の大気力学場を詳細に観測し、併せてナトリウムライダー観測や大気光観測による中層大気上部の大気微量成分の増減を測定し、中間圏大気の物質の変動と流星フラックスや大気力学場の関係を探る事を目的とした。特に、流星起源であるナトリウムなどの金属原子層の密度が突発的に増大するスポラディックナトリウム層などの現象にも焦点をあて、その成因を探った。また、その過程で種々の知見が得られた。1. レーダー観測から、群流星などの活動期であっても散在流星のフラックスが多く、群流星の活動によって顕著に流星フラックスが増加することはないと認められた。ただし、出現方向、出現高度、強度などを限定すると群流星でもかなりの増大がある。2. レーダーとライダーの同時観測によって、ナトリウム原子密度の周期数時間以上で位相が下降する変動は、大気重力波によると確認された。さらに冬季に見られる周期12時間前後の同様の変動も、半日潮汐波ではなく大気重力波と判明した。3. レーダーとライダーとの同時観測によって、スポラディックナトリウム層と流星フラックスの関連は見出されず、むしろ水平風速の鉛直シアや温度の局所的な上昇などが絡んでいることが解った。さらに統計的な解析からは、風速シアの強度と相関が高いことが解った。4. 大気発光層とレーダーおよびライダーとの同時観測から、流星フラックスの増大と発光層との関連は見られなかったが、大気発光層中の様々な大気重力波イベントの考察やその統計解析など、大気力学研究上貴重な知見が得られた。5. 1998年のしし座流星群観測では、大流星雨予想の約1日前に明るい流星の大出現がレーダー観測された。なお、当日は天候が悪く光学観測は翌日になったがこのときには中間圏界面に顕著な変動は見られなかった。
著者
三浦 孝一 河瀬 元明 蘆田 隆一
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では,固体であるイオン交換樹脂を原料とし,触媒金属イオンをイオン交換で高濃度・高分散担持させてから熱処理することによって,直径3~5 nmの一様な球形かつ中空状の構造を有する新規なナノ構造炭素「カーボンナノスフィア」を合成することに成功した。カーボンナノスフィアのBET表面積は1000 m2/g前後に達し,電気二重層キャパシタの電極材料として使用したところ,作成した電極は高速充放電特性に優れることが明らかになった。
著者
田口 紀子 吉川 一義 増田 真 永盛 克也 稲垣 直樹 井上 櫻子 小黒 昌文 和田 章男 松澤 和宏 和田 章男 松澤 和宏 加藤 靖恵 三野 博司 水野 尚 和田 光昌
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

毎年数回研究分担者による最新の研究成果発表の機会を持ち、異なった作家の生成研究の前提条件や方法論に関する共通の理解を得た上で、班員による自由な意見交換を行い、方法論においていくつかの公約数を抽出した。その成果を基盤として、平成19年12月7日から9日に京都の関西日仏学館で、国際シンポジウム"Comment nait une oeuvre litteraire? -Brouillons, contextes culturels, evolutions thematiques-"を開催した。また最終年度には、本共同研究の知見を核として、生成研究をテーマとした日本語の学術書の編纂を企画、準備した。
著者
高木 興一 瀧浪 弘章 青野 正二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では,TTS(騒音性一過性域値変化)の予測手法の原理を取り入れて,実際の騒音により生じるTTSを計算するシステム(TTSメータ)を考案することを目的としてた。そこで,今年度は,昨年度行ったTTSの予測精度に関する検討結果を基に,TTSを実時間で予測するシステムを開発した。このシステムは,1/3オクターブバンド分析機能を備える騒音計と,汎用のパーソナルコンピュータで構成した。騒音計からは,1/3オクターブバンドレベルのサンプリング値(最小データ取得間隔200ms)をパーソナルコンピュータにシリアルデータ転送(RS-232C,最大ボーレート38400bps)する。パーソナルコンピュータのWindows上で動作するアプリケーションが,転送された1/3オクターブバンドレベルを基にTTSのテスト周波数に対応する臨界帯域スペクトルレベルを合成して求め,時々刻々変化するTTSの予測値を表示する。ここで,実時間での動作を可能とするために既存の予測手法の計算手順を検討する中で,TTSのテスト周波数に対応する臨界帯域スペクトルレベルとTTSの予測値の関係が,予測式から導出されるインパルス応答との畳み込み和の形で表せることを示した。また,高木らの予測式を用いた場合,定常音の暴露と同様の方法で適用条件を処理すると予測するTTSに時間遅れが生ずるので,それを解消するための処理方法について検討した。さらに,TTSメータを使って,いくつかの環境音によりどの程度のTTSが生じるかを測定し,TTSの観点からそれらの音を評価した。
著者
米森 敬三
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

マイクロマニピュレータを用いて、数種果樹の果実から単一細胞の液胞液を採取し、その糖含量及び組成を分析することで、果実内での糖蓄積機構をインタクトな単一細胞レベルで解析することを目的として、以下の実験を行った。1.果実の単一細胞からマイクロマニピュレータにより採取した液胞液を用いて、その糖含量と糖代謝を測定する分析法を検討した。その結果、カバーガラス上のパラフィンオイルで覆った酵素液ドロップ中で糖特異的な酵素反応を促し、生じるNADPH量を倒立顕微鏡に装着した顕微測光装置で測定することにより、ブドウ糖・果糖・ショ糖・ソルビトール含量およびインベルターゼ活性をそれぞれ高精度で測定することが可能であることが確かめられ、単一細胞中の糖含量・代謝の測定法を確立することが出来た。2.果実の単一細胞中の浸透圧調節機能を解析するため、浸透圧、無機イオン(カリウム)含量をマイクロマニピュレータにより採取した単一細胞の液胞液によって測定する方法を検討した。その結果、ピコリッターオズモメーターにより浸透圧を、X線マイクロアナライザーを装着した走査型電子顕微鏡によりカリウム含量を定量する方法を確立した。3.上記の方法により、カキ・ブドウ・モモ・ナシ・リンゴについてそれぞれの果実の1つの柔細胞における糖組成、浸透圧、カリウムイオン濃度を成熟期前後に測定し、樹種間での糖蓄積過程の差異とともに同一果実内での部位別による糖蓄積過程の差異を細胞レベルで解析した。その結果、何れの樹種でも果実全体を用いて測定した糖組成と単一細胞中の糖組成はパラレルであること、および成熟に伴う細胞の浸透圧上昇が糖含量の上昇に起因することが細胞レベルで確かめられた。また、樹種によって、果実の部位により細胞の糖組成に差異がみられる場合とそうでない場合があり、樹種によって糖蓄積機構に違いがあることが示唆された。
著者
米森 敬三 山根 久代
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度も昨年度同様、単一柔細胞からの細胞液採取方法を確立することを主たる目的として実験を行った。まず、カキ果実でヘタ片除去処理によって果実肥大を抑制することによって、果実の単一柔細胞中で誘導される糖組成の変化を再調査した。その結果、昨年度の結果同様、単一柔細胞の細胞液中の糖組成が変化し、還元糖含量が有意に減少し、全糖含量に占めるショ糖の割合が増加していることを確認した。さらに、本年度は様々の果実を用いて、それらの果実での単一細胞からの細胞液採取が可能であるかどうかを調査した。すなわち、ニホンナシ‘二十世紀'、リンゴ‘フジ'、モモ‘あかつき'および‘清水白桃'を収穫期に採取し、単一柔細胞からの細胞液の採取し、その糖含量を顕微鏡での酵素反応を用いた蛍光分析により、また、その浸透圧をピコリッターオズモメーターにより測定することを試みた。その結果、それぞれの樹種において細胞液の採取が可能であり、また、その糖含量および浸透圧を測定することが可能であることが明らかとなった。さらに、ニホンナシ‘二十世紀'とリンゴ‘フジ'から採取した細胞液については、その無機成分をSEMに装着したX線分析装置を用いることで測定することを試み、細胞液中のカリウム含量の測定が可能であることが明らかとなった。以上、マイクロマニピュレーターを用いた単一柔細胞からの細胞液採取およびその糖含量、浸透圧、無機成分などの分析は様々な樹種において可能であることが明らかとなったが、当初目的とした、単一柔細胞から採取した細胞液を用いてのmRNA分析による遺伝子発現の解析については非常に困難であり、発表出来るだけのデータを得ることが出来なかった。ただ、これまで本研究で得られた単一柔細胞から採取した細胞液の糖分析等のデータに関しては現在学会誌への投稿を準備中である。
著者
伊藤 眞 小野 浩 五十棲 泰人 片野 林太郎 戸崎 充男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、我々が高気圧制限比例領域において見出した特異的放電モードを利用してガス封入型高性能位置検出器を開発するための基礎研究をおこなった。主たる研究成果は次の通り。(1)制限比例領域における高気圧比例計数管の動作機構及び性能に関して(a)高気圧下制限比例領域での特徴ある検出器応答である特性X線によるHalo(暈)効果を定量的に解明し論文(1)にまとめた。Halo効果は位置分解能を悪化させるが、高気圧下では波高選別によりこのHaloイベントを排除できることを明らかにした。このことは、実用上大きな利点と成り得ることを示した。(b)我々の開発した位置検出器が、荷電粒子加速器を利用した微量元素分析(PIXE)法での高精度エネルギー分析に応用出来ることを示し、論文(2)にまとめた。(c)我々は既に、初期電子雲の構造変化が引金になって特異的放電モード遷移が発生することを見出していたが、異なる計数ガス(^7気圧Ar+30% CH_4)においてもこの現象が存在することを確認した。この結果を論文(3)にまとめた。(d)高エネルギー研放射光施設で10-60keV領域の高エネルギーX線に対する検出器応答を調査し、20keV X線に対して122μm(FWHM)、35keVに対して140μmの良好な位置分解能を得た。この時の結果の一部を論文(4)に示した。(e)本検出器を、本年2月加速器実験に応用した。陽子ビームを標的物質に衝撃させ、放出されるX線を本検出器を組み込んだ結晶分光装置により高精度エネルギー測定に成功し、X線ピーク構造に電子系の多体効果が強く反映していることを見出した。現在精力的に解析を進めていて、早急に論文発表する予定である。(2)今後の問題点:新たに改良した位置検出器、脱酸素、脱水カラムを備えたガス純化装置、計数ガスの種類、混合比を変化させることが出来る高気圧ガス混合回路、空気中酸素のback diffusionを軽減化できる検出器用ガス回路、これらすべてをオイルフリーターボポンプと組み合わせたシステムを完成させている。ガス封じ込め特性調査を行ってきたが、Ar系の計数ガスに対しては、良好な性能を得ている。Xe系のガスについてはまだ改良が必要で、特にガス純化装置の性能を向上させる必要がある。
著者
池淵 周一 土屋 義人 VIEUX Baxter WAHL Iver M. CONNER Harol YEH Raymond CRAWFORD Ken 亀田 弘行 中北 英一 田中 正昭 桂 順治 村本 嘉雄 光田 寧 土屋 義人 SASAKI Yoshi EMERRY Garry w. SHARFMAN Mark GARY W. Emer HAROLD Conne BOXTER E Vie IVER N. Wahl KENNETH C. C 土岐 憲三 池渕 周一 YOSHI K. Sas RAYMOND W H IVAR M Wahr CRAIG St Joh MARK Sharfma STEPHAN Ewan GARY W Emery J R Cruz KENNETH C Cr YOSHI K Sasa
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

弱点を改善する方策を見い出すために、いくつかの実験を行った.これらの研究を通して家の軒高における耐風速設計や,気象情報に応じた有効な避難方法,強風災害の予防策などを提言した.3)局地的に激しい気象災害の防止軽減に関する日米防災会議;科学技術庁防災科学技術研究所,京都大学防災研究所,オクラホマ大学国際災害研究センターなどが協力して上記国際会議をオクラホマ大学で開催し,日米あわせて約50名の参加のもと,メソスケールの激しい気象擾乱のメカニズム解明とその観測システム,洪水予測,土砂害予測,災害リスクの評価などについて研究の現状と今後の共同研究のテーマ等を議論した.風水害の防止軽減に関する世界戦略の研究討議;本共同研究のメンバーが2回会合をもち,3年間にわたる共同研究の成果とりまとめ方針を協議するとともに,とくに日米の暴風雨に伴って発生する風水害の軽減化の知見,技術をさらなるステップアップするため今後とも共同研究を継続していくことを合意した.戦略としては防災産業のコンセプトを提言し,今後はそのための研究予算を保険会社等の民間資金の導入も含めて日米双方とも鋭意努力することを確認した.なお,阪神・淡路大震災に関しても日米双方のメンバーが現地に入り,建物被害の実態を調査し,今後,日米双方の耐震設計のあり方を協議する素材を取得した.最終報告書は英文で100ページ程度にまとめて発行することにした.
著者
西山 孝 楠田 啓 日下部 吉彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

資源量を評価するにあたって、埋蔵量、生産量、需要、用途、価格、代替品、備蓄、地質などが基礎的事項となっている。しかしこれらの諸量は、物理的量や化学的組織のような絶対的な基準はなく、相対的なもので、社会情勢、経済状況の変化によって大きな影響を受けている。このため資源需給予測はつねにあいまいな要素を多く含んでいる。このあいまいさを軽減し信憑性の高いものにするためには鉱物資源の現状を的確に把握し、評価を下すことが必要である。上記のような考えにもとづき、本研究ではまず希金属資源についての現状を文献により調査した。初年度の昭和62年度は主に硫化鉱物として産する希金属を、昭和63年度は主に酸化物として産する希金属を、さらに平成元年度は硫化物、酸化物以外の鉱物で産する希金属に分けて調査をすすめ、合計35の鉱物種についてまとめた。この調査過程で、希金属資源は、基本的に2つの異なるグル-プ、すなわち、独自の探鉱開発、製錬の行われている金属とベ-スメタルの製錬の中間精製物を出発物質としてバイプロダクトされているものに分けて考えることが重要で、とくに希金属資源量の把握、安定供給を論ずるときにはこの違いは大きく、もっとも基本的な事項となっていることが明らかとなった。たとえばビスマスは鉛や銅製錬の、カドミウムは亜鉛の、さらにタリウムはカドミウムのバイプロダクトとして回収されており、これらの希金属の供給を考える場合、十分な量の製錬中間精製物をベ-スメタルが提供できるかどうかが問題であり、枯渇の問題はベ-スメタルの問題に置き換えて考える方が現実的な面を多くもっている。このような事情から、ベ-スメタルのアルミニウム、鉄、銅、鉛、亜鉛、錫の現状についても調査しあわせて記載した。
著者
石原 昭彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高齢者を用いて最大努力での大腿屈曲及び伸展筋力、大腿部の血流量、酸化ストレス度を測定した。さらに最大努力による筋運動の効果を検討した。加齢に伴い屈曲及び伸展筋力が低下した。筋力と血流量の間には高い相関が認められた。60歳代と70歳代では、運動前と比較して運動後に屈曲及び伸展筋力、血流量が増大した。60歳代では、運動により酸化ストレス度が減少した。以上の結果より、年齢が若いほど筋運動の効果が顕著に認められること、筋力の増大には血流量の増大が関係していること、運動により活性酸素の産生が抑制されることが明らかになった。
著者
永盛 克也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

17世紀の劇作家ラシーヌは少年期に受けた人文主義教育を通してセネカに体現されるストア主義に親しんだと考えられる。その悲劇作品において情念の抑制の困難あるいは不可能性を強調する点で、ラシーヌは同時代のストア主義批判の潮流に与しているといえるが、その一方で登場人物に付与されるきわめて反省的な自意識はセネカ悲劇の主人公のそれに比すべきものである。ラシーヌによるセネカの受容は意識的かつ批判的なものだったといえる。