著者
杉山 卓史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度はまず、研究第一年次(平成16年度)に得られた成果である<『カリゴネー』におけるヘルダーのカント批判の意義は、カントの『判断力批判』における「超越論的」趣味論と人間学講義における「経験的」ないし「心理学的」趣味論との比較検討を促す点に存しており、趣味判断が主観的普遍性を要求するというカントの主張は、この比較検討によって捉え直されるべきである>という見解を承け、この比較検討を実践した。その結果、経験的・心理学的趣味論は人々が考えたことや感じたことを実際に伝達している「社会」という経験的な要素からトップダウン式に、そしてそれゆえ共通感覚概念によらずに趣味を規定する「社会的存在としての人間の陶冶」を意図するものであることが明らかになり、カント美学受容史に新たな理解の基軸をもたらしえた。次いで、研究第二年次に行ったヘルダーの共通感覚論の研究を、視点を変えてさらに継続した。具体的には、その音楽論におけるクラヴィーアのアナロジーに即して「五官」に「共通」の「感覚」と「人々」に「共通」の「感覚」との連関を検討した。クラヴィーアは一方でその内部に調和することもあれば不調和に終わることもあるさまざまな音を生み出す点において人間の快および不快の感情を説明し、他方、自ら音を発するのみならず外からの音に共鳴して新たな音を発しもする点において人間の共感を説明してくれる。もちろん、このアナロジーはヘルダー独自のものではなく、同時代のフランス唯物論者たちも好んで用いたものではあるが、唯物論者でないヘルダーにとってこのアナロジーは、彼がライプニッツのモナドロジーをハラーの生理学を参照しつつ批判的に摂取して形成した「有機的モナドロジー」とでも呼ぶべき独自の自然哲学の表現であった。その意味で、二種の共通感覚の連関の問題は、ヘルダーの思想の中心に位置している。
著者
前田 忠直 水上 優 千代 章一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

近代住宅の構成システムを,その変容過程の分析をとおして場所論的にあきらかにしようとする本研究は,平成12年度には,アルヴァ・アアルトの住宅作品(マイレア邸を中心として)他の研究として遂行され,平成13年度には,ル・コルビュジエの住宅作品(クルチェット邸)の研究他として,平成14年度には,ルイス・バラガン(バラガン自邸)の研究,ル・コルビュジエの住宅作品(ラ・ロッシュ=ジャヌレ邸)の研究,さらにはルイス・カーンの住宅作品(ホーニックマン邸)他として遂行され,別リストの諸論文が公表された。上記の住宅作品の研究は,草案群の吟味を基礎とし,3種のダイアグラムの作成による平面分析,作品の模型作成による検証,さらに建築家自身の言葉による解釈をとおして遂行されている。主題解明は,2つのアスペクトをとおしてなされる。(1)住宅の内部を構成する諸要素のシステムの解明。(2)住宅(内部)と土地(外部)との関わり合いの解明。前者については,主室の諸要素の配置構成の変容分析をとおして,アアルト,ル・コルビュジエ,バラガン,カーンの構成方法の特性があきらかにされた。後者については,内部と外部を媒介する要素,つまり中庭(マイレア邸),テラス(クルチェット邸,バラガン邸),サテライト(ホーニックマン邸)の意味がそれぞれダイアグラムC(住宅と土地とのゲシュタルト図)の作成とともに主題化され,その場所論的解釈が目論まれる。さらに,ル・コルビュジエの住宅作品では,移行の場所,「斜路」が主題化され,空間構成の深まりの仕方が景観の問題として分析された。カーンの住宅作品では,内部成立を担う特異なエレメントが「サテライト」として,その存在論的意味が分析された。
著者
待鳥 聡史
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題は、アメリカをはじめとする各国において顕著に見られるようになった政党間の対立激化(分極化)に焦点を合わせて、分極化がなぜ生じてきたのかについて実証的に解明しようと試みた。アメリカの場合、政党内の予備選挙制度の普及が分極化の促進要因になっていることがしばしば指摘されるが、主としてアメリカの歴史的事例や日本との比較検討を通じて、より大きな政治制度構造の影響が重要であるとの結論に至った。
著者
疋田 努 太田 英利
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

台湾から琉球列島にかけて分布するアオスジトカゲ、イシガキトカゲ、オキナワトカゲの3種は小さい島々にまで広く分布し、種内の形態的な変異も知られている。泳動データからは,これら3種のうち八重山諸島のイシガキトカゲは台湾のアオスジトカゲよりも,沖縄諸島,奄美諸島のオキナワトカゲにより近縁であることが,示された.従来,八重山諸島の動物相は,沖縄諸島よりもむしろ台湾のものに近いと考えれており,この結果はこの地域の生物地理をどのように考えるかに大きな影響を与えるものとなった.また,トカラ列島の中之島,諏訪之瀬島,口之島からには,ニホントカゲ分布すると考えられていたが,これらがむしろオキナワトカゲに近いことが明らかとなった.それぞれの種内でも,島毎に大きな変異が認められた.まず,アオスジトカゲでは,尖閣列島の集団が台湾のものと大きく異なることがが示された.つぎにイシガキトカゲでは波照間島のものが他の八重山諸島のものと異なっていることがわかった.オキナワトカゲ集団は,従来基亜種のオキナワトカゲと奄美諸島亜種のオオシマトカゲに分けられてきたが,その地理的変異はもっと複雑で,さらに細分する必要があることが示された.形態的な形質では,とくに体色や模様の変異が認められ,体鱗列数等の計数形質にも地理的変異が認められた.しかし,これらの形態的な違いは変異の重なりがかなりあり,十分な識別形質とはならなかったが,島毎の傾向が明らかとなった.
著者
浜元 聡子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、地方分権下のマカッサル海峡島嶼部地域における社会経済的変化をぶんせきすることである。この研究が始められた2005年当時、インドネシア国内における地方分権は、安定した速度で着実に進行していた。なにかが具体的に変化しているというよりは、地方分権という言葉が遠隔の島嶼部にも届き、住民が生計活動上の変化をこの言葉に期待していたといえる。2007年前半ごろから次第にこの状況が悪化しはじめた。要因の第一は、マカッサル海峡地域における自然資源利用が深刻な資源枯渇に直面しているという認識を、末端の零細漁民でさえもつようになったことである。第二に、石油燃料価格の上昇により、より漁獲の多い漁場を求めて海を移動することができなくなった。海を生活世界の基盤としてきた人々の様相が、このふたつの要因により大きく変化し始めた。2005年ごろから、零細漁民やその妻たちを対象とするマイクロクレジットが島嶼部地域に浸透していたが、ここから融資を受ける世帯が急増した。融資を受ける対象にすらなれない世帯は、条件に適する世帯に代理申請を頼むようなこともある。マイクロクレジットそのものは、沿岸部における品行世帯を救済するために。海洋漁業省が主導してきたプログラムである。漁労活動による収入を増加させるための融資は、教育費や生活費に回されるようになった。零細商業を営んでいた人は運転資金が減少し。貧富の差が拡大した。2008年にはもう一度、石油燃料価格の値上げが予定されている。収入が激減し、生活苦が重く圧し掛かる島嶼部の暮らしに、地方分権という言葉に期待されていた社会経済生活の好転は、現実のものとはならなかった。
著者
松山 隆司 東海 彰吾 杉本 晃宏 和田 俊和 波部 斉 川嶋 宏彰
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

3次元ビデオ映像の能動的実時間撮影・圧縮・編集・表示法の開発を目指して、平成13年度〜15年度の3年間の研究により以下の成果を得た。(1)Myrinet高速ネットワークでPC30台を結合し、IEEE1394首振りカメラ25台を持つ能動的実時間3次元ビデオ映像撮影用PCクラスタシステムを開発した。(2)首振りカメラを準視点固定型パン・チルト・ズームカメラとしてモデル化し、高精度にキャリブレーションを行う手法を開発した。(3)3平面視体積交差法およびPCクラスタを用いた並列パイプライン処理システムを開発し、毎秒10フレームを超える処理速度で人体動作の3次元ディジタル化を実現した。(4)より高精度な3次元形状復元、高精細テクスチャマッピングの実現を目指した、人体部位の分散協調的ズームアップ撮影のための多視点カメラワークの最適化法を考案した。(5)視体積交差法で得られた3次元形状の復元精度向上のため、弾性メッシュモデルの動的変形による高精度3次元形状復元アルゴリズムを開発した。(6)対象の観察視点・視線情報を利用した高品質テクスチャマッピングアルゴリズムを考案した。(7)複数のランバーシアン参照球を用いた光環境センシシグ法(複数光源の推定法)を考案した。(8)スケルトン・キューブ(枠のみからなる立方体)を用いたセルフシャドウに基づく光環境センシング法を考案した。(9)3次元ビデオと全方位パノラマ映像を素材として使った3次元ビデオ映像のインタラクティブ編集システムを開発した。(10)正多面体展開図を用いた全方位パノラマビデオ映像の符号化法を開発しMPEG会議へ標準化提案を行った。(11)3次元ビデオ映像の圧縮法を考案しMPEG会議へ標準化提案を行った。
著者
安田 章人
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、カメルーン共和国・ベヌエ国立公園を調査地とし、現代アフリカにおけるスポーツハンティングを基盤とした自然保護政策と地域住民の関係に焦点を当て、人と野生動物の共存関係の構築を前提とした住民参加型自然保護政策のあり方を探求することを目的としている。採用第2年度目にあたる2008年度は、研究成果をまとめ、発信することを重点として研究活動をおこなった。詳細は、次項の一覧を参照していただきたい。これまでの研究成果をまとめた2本の論文が、査読を経て学会誌に掲載された。また、もう1本も印刷中・刊行予定である。学術雑誌および商業誌への執筆もおこない、4本(うち1本は国際ワークショップのプロシーディング集)が刊行済みあるいは刊行予定である。研究発表に関しては、今年度は海外での発表に精力的に取り組んだ。その結果、ケニア・ナイロビおよびカメルーン・ヤウンデでの国際ワークショップでの発表をおこなった。研究発表以外にも、他の研究者との関係作りをおこなうことができたことも、大きな成果であった。また、国内でも学会発表をおこなうとともに、これまでのようにアウトリーチ活動の一環として、高校での授業もおこなった。年度末に調査地であるカメルーン北部へ赴き、2ヶ月間の補完調査をおこなった。現在、このデータをまとめ、これまでの成果と融合させ、2009年度内の博士論文の完成および学位の取得のために尽力している次第である。
著者
中西 正己 紀本 岳志 熊谷 道夫 杉山 雅人 東 正彦 和田 英太郎 津田 良平 大久保 賢治
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1993年の琵琶湖の夏は、記録的な冷夏・長雨だったのに対し、1994年は猛暑と渇水に見舞われた。この気候変動は、琵琶湖の微小生物生態系を大きく変化させた。1993年夏の琵琶湖国際共同観測(BITEX)に続いて、1994-1995年夏の本総合研究において、世界に先駆けて実施された生物・化学・物理分野の緊密な連携のもとでの集中観測結果は、琵琶湖の水環境を考える上での最重要部分である『活性中心』としての水温躍層動態の劇的な変化を我々に垣間見せてくれた。特に注目された知見として、1993年、1995年の降雨は、河川からの水温躍層直上への栄養塩の供給を増やし、表水層での植物プランクトンの生産を活発にしたのに対し、1994年は河川水の流入が絶たれたため、表水層での植物プランクトンの生産は低下し、キッセ板透明度も十数メートルと向上した。その一方で、躍層内での植物プランクトンの異常に高い生産が、詳細な多地点・沿直・高密度連続観測によって発見された。この劇的な理学の変化は、湖の生物・化学・物理全般にわたる相互作用として、従来指摘されていなかった新たな機構についての知見の一つである。
著者
高橋 けんし
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、夜間大気における重要な微量成分であるN_2O_5とNO_3を直接検出できる新奇な超高感度計測法の確立とプロトタイプ装置の開発を目指した。計測にはレーザーキャビティーリングダウン(CRDS)法を用いた。パルス発振の色素レーザーを用いて、100秒積算で2.2pptvの検出下限を達成することに成功した。これにより、CRDS法のN_2O_5/NO_3の大気計測への応用が有用であることが確認された。次に、半導体レーザーを使った実験でもS/N比の高い信号が得られるようになり、安価に入手できる光源を用いた次世代超高感度センサーの開発に道が拓かれた。
著者
岩室 史英 長田 哲也 太田 耕司 吉田 道利 沖田 喜一 泉浦 秀行 長田 哲也 太田 耕司 吉田 道利 沖田 喜一 泉浦 秀行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、京大3.8m分割鏡望遠鏡の分割主鏡の位置を光の波長の1/20の精度で合わせる技術の開発研究を行った。5色レーザーを用いたこの方法は、従来の星を用いた方法とは異なり、大気の状態や天候の影響を受けることなく高速で分割鏡の状態を確認することができる。この新手法と、独自の高精度アクチュエータを組み合わせて、実際の望遠鏡の一部の複製を用いて分割鏡の位置合わせを行うことに成功した。
著者
中坪 文明 矢野 浩之 高野 俊幸 佐川 尚 伊達 隆
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

バルクへテロ接合型有機薄膜太陽電池に用いられている p-および n-型半導体機能官能基担持させたセルロースおよびセルロースナノファイバー(CNF)誘導体からバルクへテロ接合型光電変換デバイスを作成し、そのエネルギー変換効率を測定した。その結果、CNF-ZnPc から作成したフィルムデバイスは低いエネルギー変換効率(0.0011%)ではあるが光電変換機能を示した。また、CNF-graft-poly-3-alkylthiophene から作成したフィルムデバイスのエネルギー変換効率は 0.025%(約 25 倍)に向上した。すなわち、CNF 担持 p-型官能基の構造を最適化することで、更なるエネルギー変換効率の向上が期待されると考えられる。
著者
篠本 滋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

脳シミュレータの基本要素である神経細胞の入出力関係を定量的に記述した.スパイク発生予測の国際コンペで優勝したMAT (multi-timescale adaptive threshold) modelについての論文を公表し(Kobayashi, Tsubo, and Shinomoto, 2009),それにさらなる改訂をおこない,オリジナルMATモデルの予測能力を保ちながら,オリジナルモデルでは達成できなかった多様な応答形式を実現できるモデルに改良した(Yamauchi, Kim, and Shinomoto, 2011).後者の研究では,オリジナルMATモデルの長所であるスパイク予測能力をそこなわないようにしてIzhikevichによって分類された多様な発火パターン20種類のすべてを実現することを可能にした.著名な外国人研究者を招へいし,質の高い情報収集を行い,またいくつかの国際共同研究を開始した.
著者
神田 陽一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

装置の小型化や光学デバイスのために、薄膜電極が用いられる。特に光学用途には、インジウム等のレアアースを用いて真空プロセスで作成されるのが主流である。しかしプロセスコストや資源枯渇の問題から、薄膜電極の新しい構造および製造法の開発が望まれている。本研究のねらいは、均一薄膜に代わり、微細気泡を利用することにより、気泡間に存在する液膜を利用して、透明な細線網目構造電極を開発することである。すなわち気泡が形成する六角構造の薄い液膜部を金属ナノ粒子ゾルとし、バルク伝導が可能な細線を形成するとともに、気泡部分の光透過性により、透明な導電膜を形成することである。気液二相をマイクロキャピラリー中で混合し、バルク流路に放出すると、一般には球状や六角状の気泡が形成し、流速の低下と相まって規則的に配列する。このバルク流路をガラス基板で作成しておけば、気泡が規則的にガラス基板上に配列する。本年度は、マイクロ流路法で気泡の生成条件を明らかにし、気泡径が流速にのみ依存すること、ガス流の剪断力が液滴形成のタイミングを決定すること等が明らかになった。気液比が理論限界値1:9を超えても、セル圧入時にガスが圧縮されるため気泡生成が可能で、その場合は最初から六方構造の気泡が生成する可能性があることがわかった。しかし、安定な気泡形成には、低めのガス量で操作することが望ましい。この場合、気泡形成後に減圧することにより徐々に気液比を上昇させ、安定な六方構造を形成することが可能である。金ナノ粒子を混合して、上記と同様の操作を行った。生成したネットワーク構造を凍結乾燥し、焼成したところ、導電性を確認した(光透過率60%)。なお、減圧により六方構造の形成を試みたものは、光透過率は80%以上を確保したが、導電性は認められなかった。これは絶対的な金量の不足に起因する。
著者
黒木 裕士 中川 泰彰 小林 雅彦 岡 徹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、骨軟骨移植術および関節軟骨損傷に行われているリハビリテーションの科学的根拠を明確にすることを目指した。ヒトでは、骨軟骨移植術後1年で正常の膝機能を回復することが明らかとなった。家兎では、同手術後1年で正常の関節軟骨の組織所見が得られた。
著者
小林 愼太郎 星野 敏 水野 啓 西前 出
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、近年注目されているソーシャル・キャピタルの概念に注目し、高齢化社会に向けた新たな地域づくりモデルについて検討することである。この目的に基づき、ソーシャル・キャピタルの多寡(蓄積状況)とパフォーマンス(中山間地域等直接支払制度の運用、地域への定住、高齢者の健康等)との関連の分析、地域づくり活動によるソーシャル・キャピタルの形成の実証、そして、ソーシャル・キャピタルの蓄積状況を示す尺度の開発を行った。分析におけるデータは、和歌山県、兵庫県、新潟県、京都府におけるアンケート調査ならびにインタビューにより収集し、あわせて、愛知県内の既存データ(日本福祉大学AGESプロジェクトによる)も利用した。中でも、京都府における調査では1万人規模のデータを得た。分析にはマルチレベル分析等の統計的手法のほか、質的調査・分析法の一つであるグラウンデッドセオリーを用いた。調査・分析の結果、ソーシャル・キャピタルの多寡とパフォーマンスには一定の関連があること、ソーシャル・キャピタルは集落などの小地域内でもその多寡に差が有り、これがパフォーマンスに影響すること、地域づくり活動のもたらす外部との交流などがソーシャル・キャピタルの形成を促すことなどが明らかになった。また、本研究において開発したソーシャル・キャピタルの尺度(ISCI:Integrated Social Capital Index)を実際の事例(中山間地域等直接支払制度の集落協定締結状況)に当てはめて検討した結果、高い妥当性を持つことが実証された。以上の結果から、ソーシャル・キャピタルは高齢者の良好な健康状態に関連すると同時に、地域づくりのパフォーマンスにも関連していることが明らかになった。また、地域づくり活動によってソーシャル・キャピタルの形成が促進されることが示された。このことから、ソーシャル・キャピタルを機軸とした地域づくりは一定の有効性を持つと考えられる。
著者
位田 隆一 甲斐 克則 木南 敦 服部 高宏 ベッカー カール 藤田 潤 森崎 隆幸 山内 正剛 増井 徹 浅井 篤 江川 裕人 加藤 和人 熊谷 健一 玉井 眞理子 西村 周三
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、ゲノム科学、再生医療、臓器移植、ヒト胚研究等の生命科学・医学の諸分野の科学的発展と課題を明らかにし、そこに生じうる倫理的法的社会的問題を把握し、学際的に理論的および実際的側面に配慮しつつ、新しい社会規範としての生命倫理のあり方と体系を総合的に検討して、生命倫理基本法の枠組みを提言した。具体的には、生命倫理基本法の必要性と基本的考え方、生命倫理一般原則群、分野別規範群、倫理審査体制、国や社会の取り組みを提示した。それらの内容は国際基準及びアジア的価値観とのすり合わせも行った。
著者
片岡 和哉 井出 千束 鈴木 義久
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

アルギン酸スポンジを用いた脊髄再生の研究を引き続き行った。生後4週令のWistar系の脊髄を2箇所切断し約2mmのギャップを作成し、そこにアルギン酸スポンジを移植し脊髄内軸索の再生を観察した。なにも移植しないもの、コラーゲンスポンジを移植したものをコントロールとし比較した。術後4週、8週のトルイジンブルー染色、免疫染色、電子顕微鏡等により評価した。アルギン酸スポンジを移植したものは、術後4週より、脊髄断端より伸長したアストロサイトの突起を伴って多数の脊髄内軸索の再生が見られ、アルギン酸内をシュワン細胞に取り囲まれ長く伸長していた。一方、なにも移植しないものでは、脊髄断端よりの軸索の伸長はほとんど見られなかった。コラーゲンスポンジを移植したものでは、脊髄断端よりフラーゲン内への軸索の伸長は一部見られたものの数は少なかった。また、コラーゲンtype IV、コンドロイチン硫酸の染色では、なにも移植しなかったものではグリオーシスと思われる厚い壁の様なものができていたが、アルギン酸を移植したものでは見られなかった。電子顕微鏡による観察では、アルギン酸を移植した群では伸長する軸索、アストロサイトの突起、シュワン細胞が接している所見、一本の軸索が近位ではオリゴデンドロサイトによる髄鞘をもち、遠位ではシュワン細胞による髄鞘を持っている所見も得られた。一方なにも移植しない群では脊髄断端に厚いアストロサイトの創が形成され、その表面は基底膜で覆われていた。以上のことより、アルギン酸が脊髄内軸索の再生に良好な環境を提供していることが証明された。この論文は2004年4月刊行の「Tissue Engineering」誌に掲載される予定である。
著者
中川 貴之
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

依存性薬物による精神障害に重要なドパミン神経を、ラットの脳切片を培養することで再現し、覚醒剤、コカイン、モルヒネなど異なるタイプの依存性薬物の反復処置によって、共通してドパミン神経の活動が異常に高まることを明らかにした。また、違法ドラッグMDMAの主な作用点であるセロトニン神経を、同じく脳切片を用いて再現し、MDMAを長期間処置しておくと、急性処置時とは異なるメカニズムでセロトニンの遊離が顕著に高まることを発見し、そのメカニズムを明らかにした。
著者
名倉 仁
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

バクテリア由来のNaチャネルであるNaChBacの変異体解析によって、電位センサーに位置するT110にシステインを導入した際に自発的なチャネルの失活が観察されており、この事実はT110C同士の結合が強く示唆されていた。これについて、4つのサブユニットを結合させた変異体の解析によって、T110間の近接は一つのチャネル内部で起こりうる事を示すことが出来た。また、今までの様々な変異体の解析から得られた知見を統合し、これをNaChBac以外のチャネルで見られる現象とも比較しながら実験結果を解釈して、電位依存性イオンチャネルに対する議論を深めることが出来た。まず、4量体型のNaChBac変異体に導入したシステインの影響を解析した結果から、24回膜貫通型のイオンチャネルのサプユニット配置を議論し、これらのチャネルのサブユニットが周回状の配置を取らない可能性を示唆した。また、T110C変異体の電流減衰の挙動を解析した結果から、電位センサーの側方への可動性は、脂質膜の性質変化などの膜電位とは別の機構によって制御されているのではないかという仮説を提起した。電位依存性イオンチャネルの開閉と脂質2重膜の性質との関係は、電位依存性のKチャネルでも報告されており、本研究で見出された電位センサーの側方への動きはこういった性質の基礎となっている可能性を示唆した。本研究の結果は、Biochemical and Biophysical Research Communications (399巻341-346頁)に投稿して発表した。