著者
石田 俊正 南部 伸孝 チュン ウィルフレド
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

光に応答する生成分子として、視覚に関するタンパク質ロドプシン中に存在するレチナール分子をとりあげ、分子に光を当てた際に起こる反応のシミュレーションを行った。レチナールの種類による光に対する応答性の違い、とくに、光を当てたときどれだけ反応するか、また、反応はどれくらい速くおこるかについて調べ、実験と一致する結果を得た。9cis-レチナールが私たちの目にある11-cisレチナールより反応が遅く、反応性が悪いのは、光で生成する励起状態においてトラジェクトリがエネルギー障壁に補足されるためであることを明らかにした。
著者
小泉 尚嗣 渋谷 拓郎
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

研究対象である鳥取県の湯谷温泉は,少なくとも3つの温度の異なる帯水層(上から中温・低温・高温の帯水層)から供給される水で形成されていることがわかっている.地球潮汐や気圧変化によって地殻の体積が縮むとき,湧水量が増大し水温が低下することから,低温の帯水層から供給される水の量が,地殻の体積歪変化に対して最も敏感に対応して変化していることが判明した.平成8年8月から湯谷温泉において,水温2チャンネル(深さ2.1mと低温の帯水層直上の深さ24m)と湧水量2チャンネル(低感度と高感度)の計4チャンネルのデータを,5Hzのサンプリングレートで(科学研究費で購入した)ディジタルデータレコーダに収録し始めた.収録チャンネルが増えたので,当初予定していた10Hzのサンプリングレートを5Hzに落として収録している.1996年10月19日の23時44分48秒頃に発生した日向灘の地震(M6.6)の際,従来の1時間値で見る限りでは,深さ2.1mと24mの所の水温が地震後に50〜70m℃上昇したということが分かるにすぎなかった.しかし,5Hzサンプリング値で見ると,深さ2.1mの水温で23時47分7秒頃から23時47分22秒頃から23時47分48秒頃の間に3m℃の低下、深さ24mの水温で23時47分29秒頃の間に5〜6m℃の低下があり,その後上昇に転じていることが判明した.他方,京都大学鳥取観測所の超高性能地震計の記録によれば,P波立ち上がりが23時45分50秒前後、表面波の立ち上がりは23時46分45秒前後、表面波の大きなピークは23時47分前後である.現状では変化の全体を説明することはできないが,変化の開始時間のみに着目すると,表面波によって低温の帯水層の湧水量が変化し,それが水温の変化となって井戸上部に伝わっているように見える.これが事実とすれば,地震時の水温の変化が,地震の表面波によってもたらされるケースがあることを観測によって示した最初の事例となる.
著者
笠原 正治 高橋 豊 増山 博之 橘 拓至
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

P2Pネットワークに代表されるオーバレイネットワークにおいては,トランスポート層より上位のオーバレイレベルでの制御によってデータ転送が行われるため,オーバレイネットワークにおけるファイル転送遅延は論理ネットワークと物理ネットワークの双方のトポロジーに大きく依存すると考えられる.研究期間においては,まず最初の検討として,物理ネットワークとして4ノード・4ルータで構成される代表的な4種類のトポロジーを考え,論理ネットワークと物理ネットワークのトポロジー構成がファイル転送遅延に与える影響について,2層型待ち行列網モデルを用いて評価を行った.数値例において,物理トポロジーと論理トポロジーが一致する場合に遅延が小さくなる傾向にあること,また論理トポロジーの形状によっては物理トポロジーに依らず負荷に対して遅延が急激に増大することが観察された.次にP2P上の実時間サービスとしてSkypeに着目し,呼設定処理に対する動的負荷分散機構の有効性を解析的に検証した.具体的には,一般ユーザの参加を非斉時ポアソン過程でモデル化し,ノード数とスーパーノード数で規定される2変数確率過程が満たす微分方程式を導出した.数値例より,P2P型のユーザ管理方式を用いたサービスではクライアント・サーバ型方式よりも安定したサービス品質を保障できることが示された.最後に,フラッディング検索機構を有するファイル共有型P2Pネットワークに対し,4端末・4ルータ物理網より構成されるP2P網を二層型待ち行列網でモデル化し,論理レベルと物理レベルのトポロジー不一致性とフラッディング検索機構がファイル取得時間に与える影響を定量的に評価した.数値実験より,高いノード次数を持つネットワークトポロジは低負荷時において性能が高い一方,高負荷時には急激に性能が劣化することが判明した.
著者
見村 万佐人
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、前年度までに研究した普遍格子(SL_M(II[x_1…x_k])、mは3以上、kは任意の自然数,の形の群のこと)の剛性を深化させて、さらに、曲面の写像類群(以下MCG)。自由群の外部自己同型群(外out(Fn))の研究へ応用した。普遍格子は高ランク(半単純)代数群の格子と同じく性質(T)ともつことがしられている。一方、MCGやOut(Fn)ではKazhdanの性質(T)をもつかどうか知られていない(MCGの方では、もたないというアナウンスがあった)、またFarb Masur(1998)やBridson-wade(2010)の定理により、高ランク格子からMCGないしOut(Fn)への群準同型は像が必ず有限になる。以上のことから、MCGやOut(Fn)は高ランク格子よりも"弱い剛性"をもつと考えられる。報告者は、普遍格子や斜交普遍格子(Sp2m(II[x_1,_,x_k]),mは2以上、kは任意の自然数の形の群のこと)における"性質(TT)'T"と呼んだ性質を導いた。この性質はKazhdanの性質(T)より真に強い性質であり、像型部分が自明表現をもたないようなユニタリ表現係数の2次の有界コホモロジーを用いて記述される。また、報告者は(TT)'Tをもつ可算群からMCG;Out(Fn)への群準同型が必ず有限の像をもつことを示した。これによりFarb-Masur,Bridson-wadeの定理の(斜交)普遍格子への拡張を証明した。また1次元コホモロジーの消滅を(斜交)普遍格子においてβ-シャッテンクラスへの等長表現係数の場合に得た。
著者
竹内 典之 野中 理伸 中島 皇
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究によって開発された撹拌型融雪雨量計は従来の溶液型融雪雨量計の溶液を低温・降雪時に撹拌することによって凍結を防ぎ、降雪の融解を促進させる機能を持たせた独創的なものである。また、太陽電池+バッテリ-仕様の観点からは太陽エネルギーを直接融雪に利用できるような機器の先駆的役割をなすものである。この試作機は従来の貯留式雨量計、ヒーター付き雨量計に比べれば、それぞれデータが短いインターバルで取れる点、AC100Vが供給できない場所(山地域や森林地帯)でも観測可能な点などが優れている。京都大学芦生演習林において、1995年から1997年にかけての二冬の野外長期稼動試験の結果、新撹拌型転倒マス雨量計と撹拌型貯留雨量計は約1000mmの期間総降水量、降雪強度50mm/日の降水も確実に記録し、撹拌型融雪雨量計の有効性が確かめられた。また、北海道演習林での野外試験によって、この試作機は暖地のみならず寒地の積雪地帯でも使用できる可能性が出てきた。現段階では撹拌器に市販のバスポンプが用いられているが、今後の課題として効率の良いモーターの選定(作成)及び太陽電池とバッテリ-の組み合わせの駆動電源装置システムの小型化・計量化が挙げられる。また、その実用化が図られれば、アメダスの観測所等などでも広く採用されるようになり、冬期の精度の良い降水量データが場所に制約されることなく得られる。冬期の降水量が正確に把握されれば、積雪地域おける降雪・融雪のメカニズムやその流域の流出特性の解明など、森林水文学の分野に大きく貢献することになる。それのみならず、冬期の降水量は夏期の渇水に大きく関与していると思われ、精度の高い降水量の見積と流出特性の把握は水資源という面にも有用なデータを提供することになる。
著者
酒井 治孝 瀧上 豊 酒井 英男 谷村 好洋 豊田 和弘 百原 新 桑原 義博 山中 寿朗 藤井 理恵
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ヒマラヤ山脈上昇史の鍵を握る変成岩ナップは, 約1440万年前に地表に露出・急冷し, 年間3-4cm の速度で南南西に前進し, 約1100 万年前に運動を停止した.冷却は先端から北方へ向け年間約1-1.5cm の速度で進行した.古カトマンズ湖の泥質湖成堆積物の堆積開始は約100 万年前まで遡り, 寒冷期には化学的風化が進まず, 堆積速度が遅く, 温暖期には化学的風化が促進され, 堆積速度が速かったことが判明した.
著者
佐藤 啓文
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

1.分子内の構造揺らぎを扱うためには、相互作用点モデルに基づく記述が便利である。しかしながら、このモデルは距離空間(Distance Geometry)内での表現であるために、現実の三次元空間との対応が必ずしも容易ではない。このために相互作用点モデルを用いると直感的な理解がしばしば困難になる。典型的な例は溶媒和構造を表す動径分布関数である。これは一次元方向への射影であるために、実際に「どんな水和構造か」という視覚的な理解と常に単純に結び付けられる訳ではない。そこで、我々は相互作用点モデルによる結果(動径分布関数の組)を、通常の三次元空間内の分布関数へ変換する新しい方法を提案した。この方程式では、溶質分子を構成する各原子を中心とした球面調和関数等の角度依存する基底関数系で分布関数を展開する。その結果、単純な線型方程式を解けばよく、従来の類似法で必須となる繰り返し計算等を避けて、簡便に三次元分布関数を決定できる特長がある。また、液体の積分方程式理論はもちろんのこと、分子シミュレーションや散乱実験の解析にも利用できる可能性がある。2.典型的な量子化学的立場では、分子間相互作用は、波動関数・電子分布に基づいて議論される。一方、分子シミュレーションなどの古典的描像では、分子を構成する原子間の相互作用として捉えるほうが一般的であり、直感にも直接訴える。そこで、量子化学的な多体相互作用をMulliken近似に基づいて分解することで、量子化学的な分子間相互作用を原子を単位とした新しい表式を導いた。この方法は、今後構造揺らぎを扱う積分方程式理論を構築していく上で、重要な礎になると考えている。3.キサンチンオキシダーゼによる酸化反応について、量子化学計算や、周辺残基の効果を取り入れたQM/MM型の計算を行い、反応機構を解明した。その結果、従来理論計算によって提案されている機構は、計算手法や実験事実との整合性に問題があることが明らかとなった。
著者
芦田 和男 湯城 豊勝 岡部 健士 藤田 裕一郎 澤井 健二 江頭 進治
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は河床が低下する傾向にある河川の堤防・護岸の安全性を水理学的観点から明らかにすることを目的として行ったものである。以下、本研究によって得られた知見を要約する。1.河床低下の傾向にある交互砂州河道には、一般に抵水路が形成され、低水路の屈曲部には深掘れが生じる。これは流れの集中によるものであるが、低水路を満杯で流れる条件において、洗掘深は最大になる。2.護岸の被災過程には法勾配及び水潤している法長に応じて明確な差異がある。同一護岸高であれば、1割以上の急な護岸は主に土質力学的過程によって前方に押し出されるように起立して被災し、2割の護岸は目地等の間隙に働く流体力によって浮き上がるようにして被災する。3.低水路の屈曲部の深掘れを軽減するための方法の一つに不透過水制を設置する事が考えられる。この種の水制によって深掘れは著しく緩和されることが判明した。4.低水路を有する河川の弱点を捜し、その安定性を高めるための工法をより一般的に評価することを目的として、工作物の影響や2次流の影響を取り入れた平面2次元流れと河床変動に関するシミュレ-ション法を開発した。
著者
鈴木 健一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

定常状態の細胞膜上でGPIアンカー型タンパク質は、その細胞外タンパク質部分の相互作用により短寿命のホモダイマーを形成していることが明らかとなった。タンパク質間相互作用のある場合には、脂質相互作用がさらにそのホモダイマーを安定化するが、タンパク質相互作用のない場合は、脂質相互作用はホモダイマー形成に有効ではないことが判明した。さらには、GPIアンカー型受容体をリガンド刺激後、非常に安定なホモオリゴマーが形成されるが、そのホモオリゴマーは、他のラフト脂質であるガングリオシドをリクルートし、下流のシグナル伝達に必要なラフト様ドメインを形成することが始めて明らかとなった。
著者
船越 資晶
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

「研究の目的」に記載した通り、本研究は、(1)社会的な討議/闘技に開かれた過程において、(2)差異/再分配の承認をめぐる実践が展開される、したがって(3)非基礎づけ主義的なアイロニズムの地平に立つ、ポストモダンの法体制論へと批判法学を鍛えることを目指すものである。今年度は、「研究実施計画」に記載した通り、上記内容のうち(3)「地平」研究を中心としつつ、(1)「過程」研究および(2)「実践」研究を同時並行的に実施した。(3)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法的思考論「法的思考の系譜学」の再検討を行い、ニーチェ/ウェーバー的視点から現代の法的思考を把握する理路を深化させた。同時に、批判法学運動史についても検討を行い、現代の法的地平がアイロニズムに満たされたものであることをいわば理論外的視点からも明らかにするよう努めた。これらの成果は、現代の法体制がよって立つポストモダンの精神史的地平がどのようなものかをより重層的な仕方で明らかにするものである。(1)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法社会理論「ピンク・セオリー」を鍛える作業を行い、同理論をポスト・マルクス主義的法理論として把握する理路を解明し終えた。この成果は、まさしく批判法学に基づく法体制の記述を可能とするものである。また、(2)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の実践論「脱正統化プロジェクト」の再検討を行うとともに、ダンカン・ケネディの法学教育論についても検討を行った。これらの成果は、批判法学の実践論の意義と射程をより十全な形で明確にするものである。
著者
水谷 雅彦 伊藤 和行 出口 康雄 杉村 靖彦 神崎 宣次
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、曖昧なままにとどまっており、それゆえ様々な混乱の原因ともなっている「健康」概念を、哲学的、倫理学的な観点から再考したものであり、「障害」問題や「エンハンスメント」などの問題のみならず、「健康食品」に関する問題に関しても重要な提言をするに至った。
著者
日置 弘一郎 波積 真理 大木 裕子 王 英燕 関 千里
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

景徳鎮の現況は活性化しているものの、クラスターとしての機能は低いことが確認された。現在の活況は文革期に多くの磁器製品が壊され、それを再度求めることによって引き起こされたもので、製品としては古典的な作品の写しが大半である。つまり、クラスター内で製品を作る技能や起業への志向は強いものの、どのような製品を作るべきかを指示するプロデューサーが不在である。現在の状態で需要が飽和すると、作るべき製品についての方向を示すことができなくなる。現在、技能と人件費の安さで海外ブランドのOEMを行うというオファーが多く寄せられ、その意味では中国の他産業と同様の道を歩むものと思われる。
著者
小川 侃
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

今年度においては,前年度の成果を踏まえて,さらに諸科学のなかで機能している構造や機能の概念を探究した。1)諸科学に分化している構造理論を全体として可能にしている構造概念がどのような哲学的・存在論的意味をもつかを検討した。とくに構造主義的な方向の今世紀最大の言語学者,ロマン・ヤコブソンや,構造人類学者レヴィ・ストロースなどの言語学・民族学の領域での構造概念を取り上げ,さらにル-マンなどの新しい構造論的社会科学理論のうちの構造概念を批判的に洗いなおし,存在論的に構築しなおすことを試みた。とりわけ記号や構造の概念のもつ存在論的な基本的な意味を吟味した。これは,アリストテレス的な「質量と形式からの構成」という存在の見方が構造理論のなかでどこまで維持されえ,また解体されるべきかという問いにかかわったのである。2)次いで,構造の存在論にかかわる本研究は,さらに,政治体制一般についての研究に具体化の道を見出し,その手始めとして幕末における「後期水戸学」の大義名分論が構造論的な思想に近いことを発見した。3)最後に,初年度および2年度の研究の成果にもとづいて,構造論的存在論としての現象学の体系化を企てている。さしあたり部分と全体や,接近と遠隔,対峙性と背馳性などの構造論的な諸概念をそれらを可能にする「基底づけ」の概念とともに再構成している。
著者
速水 正憲 井戸 栄治 三浦 智行 ZEKENG Leopo MUBARAK Osei ALLAN Dixon ROBERT Chegg
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.エイズ関連ウイルスについては、これまでにHIV-1及びHIV-2がヒトから、SIVがアフリカの数種のサルから分離され、また、遺伝子解析からそれらの相互関係が明らかにされてきた。現在では、エイズウイルスがアフリカに由来することは、ほぼ定説となっている。従って、エイズウイルスの起源と進化を理解する上で、アフリカにおける調査は不可欠である。特に、この3年間は、中央アフリカのカメルーンにおける調査を開始、展開することができた。特にこの地域では、非常に変異したHIV-1のO型を初めとして、種々のHIVが混在していることから、重感染とリコンビネーションの存在を確認することをも目的とした。2.カメルーンの首都にある、ヤウンデ大学附属病院を中心に、西部のドゥアラなど都市部にある血液センターでスクリーニングによりHIV陽性となった検体や、東南部や北東部の地方都市において症状からHIV感染が疑われる患者から、また、南東部のピグミー人から、約300検体の血液を採取した。約300検体の血清についてPA法によるスクリーニングの後、WB法、IFA法による確認試験およびHIV1型・2型の鑑別を行った。血清学的にHIV感染が疑われた血液中のリンパ球を用いて、ウイルスのpol遺伝子インテグラーゼ領域とenv遺伝子V3領域をnested PCRで増幅し、それらの塩基配列の分子系統解析を行った。3.pol遺伝子とenv遺伝子による分子系統解析の結果、カメルーンには、HIV-1groupMのcladeA(70%)を初めとして、B、C、D、E、Fの各cladeとO型も少なからず存在(7%)した。またHIV-2も1例であるが検出した。特に、同一患者から2種類のsubtypeのウイルスゲノムが見つかる重感染は、47例中4例(それぞれHIV-2aとHIV-1cladeA、HIV-1groupOとcladeA、HIV-1clodeAとcladeC、HIV-1cladeCとHIV-1cladeF)でみられた。また、pol遺伝子とenv遺伝子の解析結果から、属するsubtypeが互いに異なる、リコンビネーションと考えられる症例が2例みられた。4.カルメーンのように種々のHIV分子種の存在する地域において、HIVにおける重感染が、HIV-2とHIV-1間、HIV-1groupOとHIV-1groupM間、HIV-1groupMの各subtype間を問わず起こりうることが示された。おそらく、同一のclade内での重感染も容易に起こりうるものと考えられる。このことは、ほぼ単一のcladeBを中心とする、我が国における重感染を考えて行く上での新しい知見となりうる。また、重感染あるいはその結果としてのリコンビネーションは、調査した全検体中10%前後(6/47例)という少なからぬ頻度で起こっていることが示された。HIVの分子進化については、従来容易に起こりうる変異の積み重ねによるものと考えられていたが、加えて、リコンビネーションがウイルスの生き残り戦略の一つとして果たしてきた役割も考える必要がある。以上の結果は、HIVの起源と進化を解析するうえでの、新しいアプローチになりうる。また、このことは、HIV感染と免疫に関して、従来の理解を改める必要性を提起するものであり、今後、ワクチン開発を始めとしてHIV対策を考えて行く上で、重要な基礎情報となるものである。
著者
奥山 雄大
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

近年の分類学において、DNA塩基配列に基づく効率的な種認識の方法論の進展は目覚ましいが、一方で特定の遺伝マーカーに基づく被子植物の種分類あるいは種同定の試みは乏しい。これはおそらく被子植物において一般に、形態に基づく分類システムの信頼性が高いこと、また種が遺伝的に単系統群にまとまらないことが多いと信じられていることに起因すると考えられる。しかしながら被子植物の種を簡便に、そして効率的に定義できるような遺伝マーカーを見つけ出すことは、ある植物の個体を十分な形態情報無しに、正確に既記載種に位置づけたり(DNAバーコーディング)、あるいはある系統群の中に隠蔽的な種の多様性を見出したりする(DNAタクソノミー)道を開くため、極めて価値が高い。そこで昨年度に引き続き、核リボゾーム遺伝子のETS及びITS領域を用いて、日本産チャルメルソウ類の種の多様性の再評価を行った。その結果、現在10種が知られているチャルメルソヴ節において少なくとも13の明確な種を認識することができた。これは、被子植物の隠蔽種探索にETSおよびITS領域が有用であることと同時に、極めて最近に種分化を遂げた種群への適用には限界があることも示唆している。また同所的に生育するチャルメルソウ節の種間がいかにして生殖隔離を達成し、種の独自性を保って共存しているかを調査した。200通りにも及ぶ網羅的な人工交配実験の結果、チャルメルソウ節においては種間交雑が稔性を著しく低下させ有害であるにも関わらず、他種花粉を排除する仕組みはあまり発達していないことを明らかにした。一方で野外調査の結果からは、同所的に生育する種間では開花フェノロジーの違い、あるいは送粉様式の違いによって生殖隔離が達成されていることが明らかとなった。
著者
松田 清 鳥井 祐美子 井口 靖 河崎 靖 クレインス フレデリック
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

江戸時代舶載蘭書目録の作成と関連資料の書誌的研究を第一の目的とする本研究は、前年度に引き続き内外各地で書誌調査を行い、とりわけ佐賀藩および小城藩関係資料の研究を重点的に進めた。また、鳥井裕美子は松田清と共に、総括班による武雄鍋島家「長崎方控」の校訂注釈作業に中心メンバーとして参加した。その成果として、松田は佐賀大学小城文庫所蔵の蘭文写本「人工体普録」がオズー製1857年型人体解剖模型「キュンストレーキ」の仏文解説書の蘭訳筆写本であることを突き止め、筆者を小藩の相良柳逸、訳者をマンスフェルトと推定した。また、幕末佐賀蘭学の根本資料である佐賀鍋島家「洋書目録」(文久2年まで洋書の出納簿を兼ねた)について、目録本文の翻刻、記載洋書の原書同定、長崎奉行所に提出された輸入蘭書「銘書帳」との照合結果、さらにオランダ王立兵学校用教科書目録との関連を盛り込んだ復元目録を編集刊行した。クレインスは江戸時代舶載蘭書の内、解剖・生理学書の書誌的、翻訳論的研究をまとめ、17〜18世紀のヨーロッパで主流となった機械論的身体観の受容が東洋の伝統的身体観の枠内で行われたことを指摘した。松田、クレインスは幕末萩藩旧蔵蘭書や蘭学の背景となった西洋本草医科学書を多数収蔵する杏雨書屋の洋書について数年来の詳細な書誌調査をまとめ、その成果を目録として刊行した。前年度までに刊行した『宮城県図書館伊達文庫蘭書目録』『佐賀藩旧蔵洋書目録』と合わせて、江戸時代舶載蘭書目録の基礎作業はほぼ達成できた。初年度(平成14年度)に着手したハルマ辞書訳語集成についてはハルマ蘭仏辞書の電子版作成にとどまった。
著者
塩見 淳 中森 喜彦 酒巻 匡 高山 佳奈子 安田 拓人 堀江 慎司 塩見 淳 中森 喜彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

組織犯罪の刑事的規制に特殊な配慮が必要であるとしても、伝統的な刑法の枠組を越えて犯罪の成立を早期化したり、国際協調の名の下に国内の人権保障の水準を切り下げたりするのは大きな問題であり、また、犯罪収益の剥奪といっても無原則に行われるべきではない。組織犯罪を捜査、起訴、審理する際の手続についても、制度趣旨等の根本理解に立ち返って慎重にその内容を確定すべきである。これらのことが明らかになった。
著者
今西 幸男 松田 武久 川口 春馬 片岡 一則
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

長さ5cmのポリウレタン管の内壁に細胞増殖因子と接着因子を共固定化し,管の一端にシードした内皮細胞が培養によって成長し,他端まで管壁を一様に覆うのに要する時間が約1/2に短縮された。また,90日以上培養を続け,管壁が完全に内皮細胞層で覆れたあとも,細胞層ははく離しなかった。さらに,共固定化PMMA膜を用いて培養した内皮細胞のプロスタサイクリン分泌量は,流殖因子だけを固定化した場合の約1,7倍であった(今西)。ボロン酸素含有率を高めた水溶性ポリマーは,リンパ球の増殖能を有し,リンパ球増殖促進剤としてレクチン様の機能を有することが明らかとなった。このような合成ポリマーによるリンパ球活性化は,非抗原性,安定性など,天然レクチンに比して優れた特徴が期待され,新しい生物応答調節剤としての展開が考えられた(片岡)。表面構造をさまざまな制御した高分子ミクロスフェアを用いて,表面構造との生体成分との相互作用性の関係を解析した。また,DNA固定化ミクロスフェアを用いてDNA結合性転写活性因子の精製効率を上げるためDNAの固定化量を高めることを試み,成功した。さらに,細胞接着因子の活性部位テトラペプチド(RGDS)を固定化したミクロスフェアに対する顆粒球の認識応答として,特異的な活性酸素に基づく酸素消費を観察した(川口)。人工基底膜や平滑筋細胞を組め込むことにより安定性を高めた内皮細胞層は,非凝血性を著明に促進し,また,階層性構造をとることにより,高次の配向組織化をもたらした。平滑筋細胞の形質転換は,(1)生体中の環境因子(体液性因子および内皮細胞との細胞間相互作用),(2)拍動,および(3)三次元環境による細胞の形態,などの諸因子によって起こると考えられた(松田)。
著者
岩井 茂樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

成果として公表する明代徽州文書中の裁判関係資料にっいて校訂作業をおこなった。この作業は海外共同研究者阿風副研究員と共同でおこなった。また,写真版では対校不可能な箇所については,2006年9月に北京の第一歴史梢案館および社会科学院歴史研究所において,文書の実物を調査して入力済みのデータを校訂した。南京大学歴史学系資料室所蔵の文書については,海外共同研究者范金民教授に依頼して写真を入手してデータの校訂に用いることができた。同資料室所蔵の『不平鳴稿』についても,評点および校訂を加えてデータに加えることができた。こうした作業をへて,文書の本文の移録データの信頼性を高めるとともに,所蔵情報および『徽州文書類目』における標題,原文書の寸法や状態,写真版の有無など書誌情報を充実させた。このデータはXML文書として作成し,このXML文書にたいしXSLTスタイルシートを適用して印刷用のデータおよびWeb上での検索・閲覧用データを生成する。スタイルシートの開発および印刷用の版下作成作業を完了した。これら文書の移録に研究代表者岩井と阿風の執筆した研究論文を添えるかたちで,周紹泉・阿風・岩井茂樹輯校『明代訴訟文書--校訂と研究--』を刊行した。移録本文の作成にさいしては,手書き文字であることに留意して,原文書の字体における筆画の省略や文字構成要素の形態に接近した字体を用いることとした。このため,移録電子本文は大量の異体字を含むこととなった。1これを検索して適切な結果を得るためには,異体字相互の関係を知るためのシソーラスおよび異体字を同一視して検索するプログラムが必要となる。このプログラムをJava言語によって開発し,Web上での検索・閲覧を提供するサーブレーットに組みこむための作業をおこなった。