著者
上村 昌代 UEMURA Masayo
出版者
京都女子大学
雑誌
現代社会研究科論集 : 京都女子大学大学院現代社会研究科博士後期課程研究紀要 (ISSN:18820921)
巻号頁・発行日
no.6, pp.33-58, 2012-03

近年、離婚後の両親の間で、子どもの親権、監護をめぐる争いが熾烈化している。実務家や学識者は、現行の父母離婚後の単独親権によって生じる問題点を指摘し、諸外国で採用されている共同親権・共同監護の検討を進めており、日本におけるその導入可能性を検討している。その導入により、養育費不払いや親権の奪い合いといった単独親権にともなう諸問題を解決することにつながるかどうかは、明らかではない。本稿は、まずわが国の離婚後の子どもの養育について、司法統計上の子どもの監護に関する事件数の推移、離婚母子家庭の母親へのアンケート結果、関連する裁判例の検討から、父母聞の争いが激化している現状を把握した上で、共同親権・共同監護制度を採用しているドイツ、アメリカ、韓国について、その導入の背景や現状をまとめる。実務家や学識者の聞では日本における共同親権・共同監護制度の導入に積極的な意見が多数見られるものの、その実現には課題も多い。しかし、子どもの福祉という観点からすると、単独親権によって生じる負の影響は子どもの心身の成育の妨げとなることは否定できない。親の離婚と子どもの養育とは区別するべきであり、親権や監護については子どもの利益を最優先に考えることが求められる。以上の考察を踏まえて、離婚後も親として共に親権・監護の責任を負う仕組みを作ることが重要で、あり、園、行政、民間団体が協力してそうしたシステムを整備する必要性を提言する。Parental right or Child custody battles between divorced fathers and mothers have been getting fierce in recent years. Pointing out the problems of the current legal arrangement of sole legal custody after divorce, practitioners and academics are investigating joint legal custody as adopted overseas in view of introducing it to Japan. It is not clear, at present. that the introduction resolves the problems relating to the sole legal custody system such as nonpayment of child support costs or custodial battles. In this paper, the reality of increasingly bitter battles among parents in Japan is laid out first. using the statistical trend of legal cases involving child custody, results from a questionnaire survey of divorced mothers and related legal cases. It then moves on to summarize the background and reality of the countries that adopted a joint legal custody system such as Germany, the US and South Korea. Though popular among practitioners and academics the introduction of a joint legal custody system is not without problems. However from the child's welfare point of view, there is no denying that negative impacts arising from the sole legal custody system affect the physical and mental development of a child. Divorce and child rearing should be dealt with separately and the child's interest should come first in making arrangements for legal custody. It is important to create a system where both parents share the parental responsibility after divorce and the paper proposes the necessity of creating such a system with cooperation involving the state, public administration and private organizations.
著者
依田 博 YODA Hiroshi
出版者
京都女子大学
雑誌
現代社会研究科論集 (ISSN:18820921)
巻号頁・発行日
no.1, pp.39-64, 2007-03

本論文の目的は、ギデンズによる地政学的観点からの現代国家の類型に基づいて国家の多様性を示すことにある。そして、現代国家の地政学的位置は、当該国家の国内の政治経済状況の変化の影響を最も強く受ける、という仮説を検証する。冷戦が終結した現在、アメリカ合衆国が唯一の「中軸的/覇権的国家」であり、日本は、一貫して「中心的/(アメリカとの)同盟国家」である。中国とインドは、「中心的/非同盟国家」であり、中国は、安保理常任理事国としての国際的なスケールでの中心的国家であり、インドは、南アジア圏のそれである。インドが安保理常任理事国になると、国際的なスケールでの中心的国家になる可能性がある。両国は、長期にわたって国境紛争をかかえており、いずれも核保有国であり、中心的/非同盟国家としてライバル関係にある。また、かつてはいずれも帝国主義的な領域支配の野心を持たない「帝国」としての歴史を持っていたが、19世紀から20世紀前半にかけての帝国主義時代に領域を帝国主義国に蹂躙された経験を経て、両国は、現代的な中軸的/覇権的国家へと移行する可能性がある。つまり、国家がどのような姿を示すのかは、その国民がどのような政治体制のあり方を望むのかによってのみ決定されるのではなく、国際関係のあり様にも影響を受けるのである。The purposes of this paper are to identify the patterns of international relation of nation states from point of view of geopolitics, and to verify the hypothesis that the geopolitical position of any nation state would be influenced by a change of the international relation and internal conditions of the nation states. Most important elements of internal conditions are population, GDP, and military.
著者
土居 幸雄 下山 亜美
出版者
京都女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

主要な食物アレルゲンである卵白に替わり得る機能性タンパク質として、グアーミールに存在する起泡性アルブミンGFA(guar foaming albumin)の食素材としての利用を検討した。GFAの起泡性、泡沫安定性、泡沫サイズについて、添加物の影響を詳細に調べたところ、いずれの場合も卵白と同程度以上の利用特性を示した。GFAの乳化特性については、牛血清アルブミンと同程度の乳化活性と許容量が示された。
著者
米浪 直子 尾関 百合子 伊藤 知子
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

野菜類は細菌に汚染されていることが多く、水洗浄だけでは完全に取り除くことは難しいことが報告されている。食中毒を予防するためには、HACCPの考え方をできる限り取り入れ、各給食現場に応じた衛生管理を行うことが必要である。それゆえ、本研究では、(1)HACCPに基づいた野菜の調理作業工程と一般的な調理作業工程について、いくつかのポイントで細菌検査を行った。(2)酢の物の調理作業工程のモデル実験で、きゅうりの洗浄、加熱処理、食酢の添加による殺菌効果について検討を行った。(3)生野菜の細菌数に及ぼすマスタードドレッシングの効果について検討した。以上のことから中心温度75℃1分以上の加熱処理を重要管理点としたHACCPシステムに基づく衛生管理の重要性が確認された。
著者
日高 真帆
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では日本と英語圏諸国に於けるワイルドの受容状況の比較研究を行うことによって、日本に於けるワイルド受容の複数の特徴を明らかにすることができた。また、従来日本で注目度が低かった喜劇作品の受容にも重点を置いた研究を行うことで、より均衡の取れた受容研究を進めることができた。その際、演劇に焦点を当てながらも、ワイルドの戯曲以外の作品受容にまで視野を広げてこそワイルド劇自体の受容の全貌が明らかになるため、作品の幅を広げた多角的な研究を行い、多岐に渡るワイルド受容の諸相について具体例と共に考察を深めた。
著者
舟橋 和夫
出版者
京都女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究の成果は以下の通りである。まず、第1は移民個人のデ-タベ-スをはじめてコンピュ-タ上に形成したことである。これにより移民デ-タの処理と分析が自在に行えるようになった。しかも、移民デ-タベ-スは公開するので、他の移民研究者も自在に研究分析が可能になった。従来の移民研究では、明治元年から明治18年までの間に集団的な移民はないという見解であったが、今回明治4年にハワイへの集団移民が新たに見つかった。現時点ではこの移民がどのような移民であったのか詳しいことは不明であるため、今後の研究課題である。日本からの出移民122年間の地域的特徴を簡単に述べると以下の通りである。明治元年から明治18年頃までは、当時開港されていた神奈川県と長崎を中心として、その周辺から多く出ている。行き先はアジアである。明治18年から明治末までは広島、山口、和歌山、熊本、沖縄などからのハワイ行きと、長崎からのアジア行きの2つの移民の流れが見られる。大正年間から第2次世界大戦前までは広島の出移民がもっとも多く、北海道、福島、新潟、静岡、滋賀、和歌山、岡山、山口、福岡、熊本、沖縄など各県に広がった。戦後の出移民を多い順に指摘すれば、沖縄、東京、福岡、北海道、熊本、長崎の順である。戦前の出移民県である広島と山口はそれほど上位にはランクされていないのが特徴である。このように、移民現象はそれぞれ地域の特徴が鮮明に出ている。生活史研究においては、既に移民経験者が非常に少なくなっており、インタビュ-することが極めて困難であったが、今回は夫婦の移民経験者にインタビュ-できた。2人の生活史を掲載し、移民研究の基視資料としたい。
著者
泉 克幸
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目的は知的財産法を競争政策との関連で分析・検討するというものである。具体的なテーマとして、①知的財産権ライセンス時における独禁法上の問題、②知的財産の流通、③権利濫用や公序良俗理論と競争政策の関係、という3つを設定した。テーマ①に関しては、著作権の権利処理機関を競争政策の観点から分析した。また、公取委の最近の相談事例を分析した。テーマ②に関しては、電子書籍市場を素材に、著作権法を競争政策の観点から分析した。テーマ③に関しては、標準必須特許の権利行使を制限する手法として、権利濫用理論と競争法違反の両面から検討を行った。現在、本研究の総合的・最終的成果として論文を準備中である。
著者
槇村 久子 MAKIMURA Hisako
出版者
京都女子大学
雑誌
現代社会研究科論集 (ISSN:18820921)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-19, 2011-03

若年男性はバブル経済崩壊以降の厳しい雇用情勢の変化の中で、結婚や就職においても変化や選択を迫られている。20代後半から30代後半までの働く若年男性を対象に、男女共同参画に関する意識と実態、ライフスタイルをW eb調査により、また共分散分構造析を用いて、女性への評価との関係から男女共同参画意識を規定する要因の因果関係を考察した。 未婚、既婚、また20代後半、30代前半、30代後半で特徴的であり差異がある。特に30代後半で未婚の年代は、他の年代や既婚と差異が大きい。ワーク・ライフバランスや経済的自立や家計責任において理想と現実の乖離が大きく、若年男性が置かれている生活の将来不安は非正規雇用と正規雇用による経済的不安と関係している。 男女共同参画を規定する要因を階層、仕事、生活満足、女性への評価の因果関係を分析するため、社会経済的地位、現在の仕事に求めるもの、ワーク・ライフバランス、生活満足、女性への評価の5つに整理した。その結果、未婚、既婚男性ともに社会経済的な地位を得て、仕事や生活満足を高く持っている人たちが、女性を積極的に評価し、経済的な自立も求め、さらに男女共同参画社会が進展することを望んでいるという関係が分かった。自分が社会で承認されていないと考える未婚男性は女性の仕事能力を低く、不十分としか評価できない状態になっている。若年男性が自分を評価できる社会システムが必要である。This paper intends to analyze the consciousness of Japanese young men (in Osaka area) with respect to the gender equality and inquire into relations between the types of their lifestyle and their assessment of women. As a result, we found that there are significant differences between married young men and unmarried ones as well as among young men from 25 to 30 years old, those from 30 to 35 and those elder than 35, as far as their perceptions of gender equality are concerned. In particular, unmarried young men over 35 years old tend to demonstrate different attitude in comparison with those married belonging to the same age group. Also we found out a difference concerning their assessment of women between regular employees, who enjoy economic independence and have financial responsibility for their families and irregular ones who do not have such responsibility. This difference in the form of employment is very important for our analysis, because it explains to some extent different perceptions of young men toward women. To make clear relations between the factors which determine attitude toward gender equality and those related to their assessment of women, we selected class, job and grade of satisfaction with life as examples of the former factors and socioeconomic position, expectations from present works, work — life balance, life satisfaction, and perceptions of women (evaluation of their ability to work, their desire for the whole independence and economic one in particular) as the second factors. As a result of our analysis based upon the AMOS 7 (a software for covariant structural analysis), we found that both married and unmarried young men who have got a good socioeconomic status and are satisfied with their works and life tend to appreciate highly women and desire their economic independence.
著者
初瀬 龍平 野田 岳人 池尾 靖志 堀 芳枝 戸田 真紀子 市川 ひろみ 宮脇 昇 妹尾 哲志 清水 耕介 柄谷 利恵子 杉浦 功一 松田 哲 豊下 楢彦 杉木 明子 菅 英輝 和田 賢治 森田 豊子 中村 友一 山口 治男 土佐 弘之 佐藤 史郎 上野 友也 岸野 浩一 宮下 豊
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、戦後日本における国際関係論の誕生と発展を、内発性・土着性・自立性の視点から、先達の業績の精査を通じて、検証することにあった。研究成果の一部は、すでに内外の学会や公開講座などで報告しているが、その全体は、『日本における国際関係論の先達 -現代へのメッセージ-(仮)』(ナカニシヤ出版、2016年)として集大成、公開する準備を進めている。本書は、国際政治学(国際政治学、政治外交史)、国際関係論(権力政治を超える志向、平和研究、内発的発展論、地域研究)、新しい挑戦(地域研究の萌芽、新たな課題)に分けた先達の業績の個別検証と、全体を見通す座談会とで構成されている。
著者
今井 佐恵子 福井 道明 小笹 寧子 梶山 静夫
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では「食べる順番療法」の長期間の影響を調べるため、栄養指導を実施した介入群と対照後の血糖値、HbA1cおよび動脈硬化の進展をあらわす頚動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)を比較検討した。平均4.4年後のHbA1cは介入群においてベースラインより有意に低下したが、対照群では変化がみられなかった。Max IMTおよびmean IMTは両群とも介入前後で統計的有意差はなく、群間の差もみられなかった。両群とも長期間のIMTに変化がみられなかったのは、食事療法だけでなく薬物による血圧、血清脂質管理によってIMTの経年変化が抑制されたと考えられる。
著者
新矢 博美 芳田 哲也 寄本 明 中井 誠一
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

年齢階級を考慮した1日の水分摂取基準を算定することを目的として、乳児・幼児や児童および高齢者を対象に体重計測により1日の水分摂取量や発汗と不感蒸泄による水分損失量(ΣS)を夏季および冬季に測定して、若年成人の値と比較した。1日のΣSは環境温度や活動量の上昇に伴い増加したが、高齢者は成人と同様で、児童、乳児、幼児は若年成人に比べて、それぞれ1. 1倍、1. 9倍、2. 0倍であった。これらの倍率を用いることにより、年齢階級を考慮した水分摂取基準を算定することが可能と考えられた。
著者
早島 大祐
出版者
京都女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究でとりあげる守護創建禅院は,従来、せいぜい郷土史研究の一コマをいろどるものに過ぎなかった。しかし、本研究課題を遂行するなかで明らかにした通り、分国内の国菩提寺はまちがいなく、京都と分国をむすぶ、ターミナルの一つであり、室町期の社会を読み解くうえで、重要な検討課題であることが明らかになった。また京都にたてられた京菩提寺には、守護の分国に所領が設定されることに加えて、荘園経営の安定化をもとめる京都の寺社・公家たちが、集い、こちらもやはり都鄙交通の拠点の一つになっていた。以上の点は、従来、禅僧の荘園経営の様子が古記録などから断片的に指摘されてきたが、本研究課題では、西山地蔵院文書をもとに、その具体相を詳細に解明できた点に特色があり、禅僧の活動が、単なる一寺院の動向というにとどまらず守護の創建禅院の禅僧という、この時代の政治史の問題とも密接に関わる動きでもあったことが明瞭になった。
著者
矢井田 修
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

多方面の用途展開を可能にする不織布を開発することを目的とし、この目的に沿った複合不織布の製造方法の検討から研究に着手し、次いでスパンレース不織布と他の不織布との複合化の方法および製造条件や複合構造の検討、そして試作した複合不織布の構造的特徴および物理的性能の測定、さらに形態安定性などの実用化に必要な試験を行い、用途展開が可能な高機能複合不織布の開発に対する基礎的な知見を得た。
著者
中井 誠一 星 秋夫 寄本 明 新矢 博美 芳田 哲也
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

わが国の運動時熱中症予防指針は発表以来18年を経るに至り,様々な研究成果が積み上げられ,熱中症予防に関する新たな知見が得られたと考えられる。熱中症発生実態では子どもと高齢者に多いこと,暑熱順化や着衣条件が関係することが発生要因として指摘された。そこで,WBGT28℃以上を厳重注意(激しい運動は中止)とし,暑熱順化不足,子どもと高齢者および全身を覆う着衣の場合については従来の基準1 段階下げるWBGT25℃以上(気温では28℃以上)を厳重注意とすることを提案した。
著者
星野 一正 木村 利人 唄 孝一 中谷 瑾子 青木 清 藤井 正雄 南 裕子 桑木 務 江見 康一
出版者
京都女子大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

文部省科学研究総合A研究班として『患者中心の医療をめぐる学際的研究』というテーマのもとに、平成3年度からの3ヵ年間、専門を異にしながらもバイオエシックス(bioethics)の観点から研究をしている十名の共同研究者と共に研究を進めてきた。単に医学・医療の面からの研究では解明されえない人にとって重要な問題について、宗教学、哲学、倫理学、法律学、医療経済学、生物科学の専門家に、医学、医療、看護などの医療関係者も加わった研究班員一同が集まって、異なる立場から議論をし、さらに既に発表されている文献資料の内容を分析検討し、現在の日本社会に適した生命倫理観を模索しつつ共同研究を積み重ねてきた。第一年度には、主に「人の死をめぐる諸問題」を、第二年度には、主に「人の生をめぐる諸問題」に焦点を合わせて研究をし、第三年度には、前年度から進行中の研究を総括的に見直し、必要な追加研究課題を絞って研究を纏めると共に、生と死の両面からの研究課題についても研究を行った。最近、わが国において議論の多い次のようなテーマ:臓器移植、脳死、植物状態,末期医療、がんの告知、自然死、尊厳死、安楽死、根治療法が未だにないエイズ、ホスピス・ビハ-ラ、体外受精・胚移植、凍結受精卵による体外受精、顕微授精、男女の生み分け、遺伝子診断を含む出生前診断・遺伝子治療、人工妊娠中絶などすべて検討された。各年度ごとに上智大学7号館の特別会議室で開催してきた当研究班の公開討論会の第3回目は、平成6年1月23日に開催され、「研究班の研究経過報告」に次いで「医療経済の立場から」「法学の立場から」「生命科学の立場から」「遺伝をめぐるバイオエシックス」「生命維持治療の放棄をめぐる自己決定とその代行」「宗教の立場から」「臨床の立場から」の順で研究発表と質疑応答があり、最後に「総合自由討論」が行われた。今回は、3か年の研究を基にしての討論であっただけに、多数の一般参加者とも熱気溢れる討論が行われ、好評であった。
著者
藤原 兌子
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

骨髄抑制剤(MS:5-FU+CP)+G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)併用療法による梗塞後心機能改善効果とメカニズムの検討を以下の4群のウサギで検討した。(1)骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群:梗塞後1、2日目にMSを静注、梗塞後3日目より5日間G-CSFを皮下注射、(2)G-CSF単独療法群:梗塞後1、2日目に生理食塩水を静注、3日目より5日間G-CSFを皮下注射、(3)MS単独療法群;梗塞後1、2日目にMSを静注、3日目より5日間生理食塩水を投与、(4)非治療梗塞群:梗塞後7日間生理食塩水を投与。結果および考察A)梗塞前および28日後左室駆出率・左室壁厚・左室径は、骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群で、改善が最も良好であった。B)CD^<34>陽性単核球は骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群およびG-CSF単独療法群で高度に増加した。C)共焦点レーザー顕微鏡では、骨髄由来(赤色の蛍光色素DiI陽性)の心筋細胞は骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群でもっとも多かった。しかし、その頻度は骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群でも1-2%程度で、心機能改善効果を説明するには少なすぎた。D)梗塞7日目に摘出した心筋組織のVEGFおよびMMP-1のウエスターンブロット解析では骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群がもっとも多かった。E)梗塞28日目に摘出したモデルウサギ心では左室重量および心筋細胞のサイズに4群間で差がなかった。しかし、陳旧性梗塞領域は非治療梗塞群で最大で、骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群で最小であった。また、CD31陽性毛細血管およびα-平滑筋アクチン陽性筋線維芽細胞数は骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群で最も多かった。以上より、骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群での高度の心機能改善効果の成因は骨髄由来の心筋細胞再生よりはMMP等のサイトカインの関与が重要と思われる。