著者
田中 福代 庄司 靖隆 岡崎 圭毅 宮澤 利男
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.34-37, 2017-01-15 (Released:2017-01-24)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

前報でリンゴみつ入り果の嗜好性の高さは2-メチル酪酸エチル,ヘキサン酸エチル,チグリン酸エチルなどのエチルエステル類と関連すると推定した.これを検証するために,リンゴ非みつ果の加工品(混濁果汁,ピューレ)とリンゴ風味の加工食品(果汁飲料,キャンディ)に対し,みつ入り果の香気成分プロファイルを再現した7種のエチルエステル類からなるみつ香フレーバーの添加実験を行った.その結果,リンゴ非みつ果の加工品においてみつ風味および嗜好性が高められたことから,エチルエステル類はみつ入り様風味を与え,リンゴの嗜好性を高める主要な成分であることが確認された.また,リンゴ風味食品にこのフレーバーを添加した場合も,みつ風味と嗜好性を強化する効果があり,特に清涼飲料とキャンディにおいて顕著であった.
著者
三浦 靖
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.242-256, 2013-05-15 (Released:2013-06-30)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

Visualization is defined as any technique for creating images, diagrams or animations to communicate a message. Visualization through visual imagery has been an effective means of communicating both abstract and concrete ideas since the dawn of man. There is great interest in quantifying the various aspects of structure, and in many cases, this involves imaging the structure and performing measurements on the images by image processing and analysis. The images may be simple macroscopic or microscopic light images, including confocal laser scanning microscopy (CLSM), but may also include images from either transmission or scanning electron microscopes (TEM and SEM), atomic force microscope (AFM) images of surfaces, magnetic resonance imaging (MRI) or computed tomography (CT) images of internal structure. The topics covered are the acquisition and processing of the images, the measurement of appropriate microstructural parameters, and the interpretation of these numbers, particularly with regard to the issues that the structures are generally three-dimensional while the images are usually two-dimensional.I hope that this article is able to usefully summarize the basic procedures, and that it will be of use to researchers in food science fields.
著者
橘田 和美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.399, 2006-07-15 (Released:2007-07-15)
参考文献数
2

花粉症をはじめとする様々なアレルギー症状を持つ人が年々増加し,今や我が国の国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っているといわれている.このアレルギーを引き起こす物質をアレルゲンと呼ぶが,アレルギー症状を引き起こす免疫システムと,アレルゲンのもつ化学構造のインターフェースとなっているのが抗原決定基(エピトープ)である.即ち,アレルゲンのみならず,ある物質がそれに対する抗体を誘発する場合,免疫システムによって認識される部位がエピトープである.アレルゲンをはじめとし,抗体産生を誘発する抗原はその分子内にいくつものエピトープを持っている.これらエピトープは生体内で抗体産生に携わるT細胞によって認識されるT細胞エピトープと,B細胞によって認識され,また抗体の結合部位になるB細胞エピトープとに分類されている.抗体等によって認識される構造単位であるエピトープであるが,タンパク質中の特定のアミノ酸配列だけでなく,糖鎖の一部,低分子物質なども含まれる.糖鎖抗原としてはABO式血液型抗原が有名であり,アレルゲンに関してもミツバチ毒ホスホリパーゼA2,オリーブ花粉アレルゲン等のB細胞エピトープは糖鎖部分であることが示唆されている.T細胞に抗原が認識される場合,まず抗原はマクロファージ,B細胞等の抗原提示細胞に取り込まれペプチドまで分解される.処理されたペプチドは抗原提示細胞上に発現するMHCクラスII分子とともにT細胞レセプターに提示され,これによって抗原情報がT細胞へと伝達され,T細胞の活性化が起きる.このとき,T細胞レセプターはMHCと複合体を形成した線状のエピトープとしか反応しない.従って,T細胞エピトープは熱変性など一次構造に影響しない処理に対しては安定であるが,酵素処理のような一次構造を切断するような処理に対しては影響を受けやすい.一方,B細胞エピトープは,線状に並んだ一次構造から形成されるエピトープだけでなく,タンパク質の立体構造に依存したエピトープを形成する場合もある.従って,B細胞エピトープの場合,T細胞エピトープのように一次構造の変化を伴わない処理に対して影響を受け難いものもある一方,立体構造に依存するエピトープは加熱変性のように三次元構造に変化を引き起こす処理によっても容易に影響を受け,B細胞及び抗体から認識されなくなってしまう.卵一つとってみても,卵白中のオボムコイドは加熱処理に対して安定であるが,オボアルブミンは不安定であるなど,エピトープの構造の違いが調理などによるアレルゲン性の消長に影響を及ぼしている.ところで,花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー患者の増加に伴い,その治療法も多くの研究の対象となっている.アレルギーの治療法としては,抗アレルギー剤,ステロイド等,種々の薬剤による対症療法が一般的である.また,少量の抗原をアレルギー患者に長期にわたり繰り返し投与する減感作療法は,花粉,動物,ダニ等の吸入性アレルギーの治療に長く使われてきた.しかし,現行の減感作療法はIgE結合部位を含む抗原を投与することからアレルギー症状を惹起する危険性も否定できない.そこで,ペプチド免疫療法など新たな治療の試みも検討されている.これは完全長のタンパク質分子を用いるのではなく,T細胞エピトープを含むペプチド断片を用いて行われるものである.これらのペプチド断片はアレルギー反応の惹起に必要なIgEの結合及びその架橋形成はできないが,T細胞の不応答を引き起こすとされている.実用化には至っていないが,花粉症のアレルギー症状の緩和を目指したスギ花粉症緩和米はこの現象を利用したものである.具体的には,遺伝子組換えの技術を利用し,スギ花粉症抗原タンパク質の中から7種の主要なT細胞エピトープを選び,これらを連結したエピトープペプチドをコメの胚乳部分に特異的かつ高度に蓄積させたものである1).その他にも,B細胞エピトープのアミノ酸を一つ置換したリコンビナントペプチドを用いた変異タンパク免疫療法も研究されている.T細胞活性化能を保持しながらもIgE結合能が減弱したアミノ酸置換リコンビナントをモデルマウスに投与した実験では,アナフィラキシー発症の頻度及び程度の軽減が認められている2).このようにエピトープの解明は非常に重要であるが,一部の主要アレルゲンを除き,多くのアレルゲンにおいてはエピトープの解明は十分ではない.今後のエピトープ解析の進展が強く望まれる.
著者
時友 裕紀子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.279-287, 1995-04-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
28
被引用文献数
7 11

スライスタマネギと球のままのタマネギを各種調理条件下で加熱し,それらのSDE法によるにおい抽出物とヘッドスペースガス成分についてGCおよびGC-MS分析し,比較検討した.スライス加熱タマネギのにおい成分として特徴的なジプロピルトリスルフィドは,球のまま加熱タマネギではわずかであった.一方,プロペニル基を有するスルフィド類は存在していた.甘いにおいの強い焼きタマネギにはフルフラールを始めとするフラン類が多く存在し,加熱タマネギの甘いフレーバーには糖由来の加熱香気成分が寄与していると考えられた.
著者
高畑 薫 植田 晶子 渡辺 四男也 秋山 陽 寺田 厚
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.437-443, 2001-06-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

油脂含量の高い水産缶詰食品中のBPA分析法について検討し,次の結果を得た.(1) 試料を酢酸エチルで抽出し,n-ヘキサン/アセトニトリル分配により脱脂した後,ポリスチレンビーズを充填した固相カートリッジ(GL-Pak PLS-2)でクリーンアップすることで処理操作が簡便となった.(2) BPAをTMS化した後,GC/MS (SIM)で測定することで,注入時の吸着や共存物質の影響を受けず高感度分析が可能であった.(3) さば水煮を用いて添加回収試験を行ったところ,93.4±2.5% (n=3)の良好な回収率を得た.本法の定量限界は10ng/gである.(4) 本法を用いて市販の水産缶詰食品14検体について調査したところ,8検体から21.1ng/g-134.8ng/gのBPAが検出された.
著者
人見 英里 三浦 裕美子 三原 香奈 大西 志麻 原 直子 中野 昌俊
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.594-598, 2005 (Released:2007-04-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

ルイボスティー熱水抽出物の食品に対する抗酸化能を探るためにDPPHラジカル消去能, ラードに対する抗酸化能, 各種鉄化合物により鉄を強化したモデルクッキーにおける抗酸化能を検討した. ルイボスティー熱水抽出物は濃度依存的にDPPHラジカル消去能を示した. ラードにおいても, ルイボスティー熱水抽出物の添加量の増加に伴って酸化が抑制された. クッキーの保存試験では, コントロールクッキーに比べ, 塩化第一鉄, 酵素処理ヘム鉄, クエン酸第二鉄, クエン酸鉄アンモニウムを添加した場合に, 著しく脂質過酸化が促進されたが, さらにルイボスティー熱水抽出物を添加することにより, 酵素処理ヘム鉄以外で, 脂質過酸化を抑制することができた. 以上のことから, ルイボスティー熱水抽出物は, 高脂肪含有食品に対する抗酸化物質として利用可能であることが示唆された.
著者
久場 恵美 津波 和代 廣瀬(安元) 美奈 津覇 恵子 安元 健
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.379-382, 2008-08-15 (Released:2008-09-30)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

ツバキ葉抽出物500および2000mg/kgをラットに単回または28日間反復経口投与し,安全性を検討した.単回投与試験において,いずれの群にも死亡例はなく,一般状態,体重および解剖検査で異常がないことが確認された.また,28日間反復経口投与試験においても,ツバキ葉抽出物投与群に死亡例はなく,一般状態,体重,摂餌量,尿検査,血液学的検査,血液生化学的検査,器官重量,解剖検査および病理組織学的検査で異常は認められなかった.以上のことから,本実験条件ではツバキ葉抽出物500mg/kgと2000mg/kgのいずれにおいても経口摂取による毒性は検出されなかった.さらに,ツバキ葉抽出物の遺伝子突然変異誘発性の有無を,Salmonella typhimurium TA100,TA98,TA1535およびTA1537ならびにEscherichia coli WP2uvrAを用いたプレインキュベーション法による変異原性試験により検討した.ツバキ葉抽出物処理群における復帰変異コロニー数は,いずれの菌株ともS9mix添加の有無にかかわらず,陰性対照の2倍未満であり,本実験条件ではツバキ葉抽出物から突然変異原性は検出されなかった.
著者
田村 基
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.446, 2010-10-15 (Released:2010-12-01)
参考文献数
3

バイオジェニックスとは,光岡博士が提案した言葉で,腸内フローラを介することなく,直接,免疫賦活,コレステロール低下作用,血圧降下作用,整腸作用,抗腫瘍効果などの生体調節・生体防御・疾病予防・回復・老化制御に働く食品成分のことである.免疫強化物質,血圧降下・コレステロール低下物質を含む各種生理活性ペプチド,植物ポリフェノール,DHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(エイコサペンタエン酸),ビタミンなどの食品成分がこれに該当する1) .機能性食品の範疇に属するプロバイオティクスは「腸内微生物のバランスを改善することで宿主に有益に働く生菌添加物」であるし,プレバイオティクスは,「腸内の有用菌の増殖を促進もしくは,活性を高めて宿主の健康に寄与する難消化性食品成分」であり両者とも腸内フローラに直接働きかけることが特徴である.これに対し,バイオジェニックスは,腸内フローラを介することなく,宿主のなんらかの健康に寄与する成分である.代表的なバイオジェニックスには,生理活性ペプチドが挙げられる.アミノ酸が2個以上結合してできたペプチドには特異的な生理作用を有するペプチドがあり,生理活性ペプチドと呼ぶ.これらの生理活性ペプチドは,本来,不活性なタンパク質由来のものが多く,タンパク質の消化過程や食品の加工・調理中で初めて活性のある構造を生じる場合が多い.生理活性ペプチドであるラクトトリペプチド(Val-Pro-Pro, Ile-Pro-Pro)はLactobacillus helveticusの発酵酸乳から見出された乳カゼイン由来のペプチドである.このラクトトリペプチドは,アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換するACE(アンジオテンシン変換酵素 : angiotensin-converting enzyme)を阻害することで血圧降下作用に寄与することが報告された2) . Val-Pro-ProとIle-Pro-Proの高血圧ラットへの単回投与は対照群に比べて血圧が有意に低値を示し,ラクトトリペプチドの血圧降下作用が認められた.さらに,高血圧患者30名を対象にして,ラクトトリペプチドを含む酸乳を投与するプラセボ対照試験を8週間行ったところ,ラクトトリペプチドを含む酸乳はラクトトリペプチドを含まないプラセボ乳に比べて収縮期血圧と拡張期血圧ともに,有意な血圧低下が認められた.このラクトトリペプチドを含む酸乳は血圧が高めの方に適した特定保健用食品として認可されている.Val-Tyrは,イワシから見出された生理活性ペプチドで,高血圧自然発症ラット(SHRラット)に対する降圧作用を有し,消化管プロテアーゼ耐性なACE阻害ペプチドである.軽症高血圧者を含む健常人を対象にVal-Tyrを含むドリンクを与えたヒト試験では,軽症高圧者に対して有意な血圧降下作用が認められたことを明らかにして,血圧が高めの方に適した食品として特定保健用食品として認可されている.大豆由来のペプチドについても生理活性ペプチドの存在が報告されている.大豆ホエイたん白質のプロテアーゼS分解物から単離・同定されたアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドVal-Lys-Pro, Val-Ala-Pro, Val-Thr-Proのラットにおける血圧降下作用を調べたところ,これら3種のトリペプチドは,高血圧自然発症ラットへの単回経口投与試験により血圧降下作用を有していた.血圧降下作用以外にも生理活性ペプチドの効果が報告されている.動物試験において,プロテアーゼ処理したグロブリンの消化物がオリーブ油投与後に血清中性脂肪低下作用を有することが報告されている.この作用には生理活性ペプチドVal-Val-Tyr-Proが関与していた.この中性脂肪低下作用のメカニズムには,脂質の消化管からの吸収抑制および肝臓のトリグリセリドリパーゼの活性化が考えられた.ポリフェノール等のバイオジェニックスには,抗酸化作用を有するものが多い.フラボノイドはポリフェノールに属し,フラボノイドにはカテキン,アントシアニン,フラボノールやイソフラボン等があるが,これらフラボノイドにはフラボノイド骨格のみからなるアグリコンとフラボノイド骨格に糖が結合したフラボノイド配糖体が存在する.フラボノイドのアグリコンは小腸から吸収されるが,フラボノイド配糖体のなかには,ルチン(ケルセチン-3-ルチノシド)のように空腸で吸収されず下位消化管に到達し,この部位で吸収・代謝を受けるものも存在するため,アグリコンとある種の配糖体とでは生体に及ぼす生理作用が少し異なる可能性が考えられる.フラボノイドの中には,弱いエストロゲン作用を有するイソフラボンや抗アレルギー作用を有するメチル化カテキンなども存在する.近年,茶葉中メチル化カテキンの抗アレルギー作用が報告されている3) .このようにバイオジェニックスには様々な生理作用を有するものが存在し,今後,新たな機能性食品としての開発が期待される.
著者
大田 昌樹 小田 絵里佳 片岡 駿友 佐藤 善之 猪股 宏
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.251-258, 2018-05-15 (Released:2018-05-17)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本研究では,経口物質に対して安心安全な製造法である超臨界流体を用いて,乳製品副産物に含まれる機能性成分であるphosphatidylcholineとsphingomyelinの効率的分画を目的としてこれら成分の溶解度推定を検討した.まず既往の実験データのある,バターオイルからのtriacylglycerolにおける超臨界CO2中の溶解度と比較を行った結果,本研究で推定した溶解度とほぼ一致することが確認された.次に,PCおよびSMの溶解度の溶媒密度およびエタノール濃度依存性の解析を行った結果,いずれの条件においても実験的な溶解度を推定することができた.PCおよびSMは高価であり標準試薬が入手しにくい状況でこれまで超臨界流体中の溶解度データも報告されていなかったが,本研究で行った抽出モデルによる解析により溶解度を実験的に推定することができた.
著者
伊藤 純子 香西 みどり 貝沼 やす子 畑江 敬子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.531-538, 2004-10-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
26
被引用文献数
2 3

炊飯時に7種類の調味料(食塩,醤油,清酒,食酢,上白糖,カレー粉,トマトペースト)を添加し,米飯の炊飯特性に及ぼす影響について検討した.1) 吸水率は全ての調味料において浸漬後30分間の増加が著しく,調味料の添加により,吸水が阻害される傾向が見られ,特に食塩,醤油,トマトペーストで顕著であった.2倍濃度の調味液に浸漬させた場合,ほぼ全ての調味料において,浸漬初期の段階で濃度に依存して吸水が阻害される傾向があった.食酢浸漬の場合,120分後の吸水率は2倍濃度の方が大きく,長時間の酢酸浸漬に伴って米粒表層のタンパク質が溶出し,水が米の組織内に取り込まれやすい状態になったのではないかと考えられた.2) 加熱吸水率は60°C以上での増加が著しいが,調味料の添加により,吸水が阻害される傾向が見られ,食塩,醤油,トマトペーストで顕著であった.特に食塩は濃度に依存して吸水が妨げられ,逆に食酢は吸水が促進された.また,全ての調味料において加熱直前に添加した方が吸水が阻害されない傾向が見られた.3) 炊飯中の温度履歴は食塩,醤油,清酒,食酢,上白糖を添加した場合,無添加とほぼ同様であったが,カレー粉,トマトペーストを添加した場合,炊飯中の温度上昇が一定でなく,釜内の温度分布も不均一であった.特にトマトペーストは温度の立ち上がりが非常に遅かった.4) 米飯の水分含量は20°C・1h放置後において,清酒と食酢を除くいずれにおいても無添加より有意に少なく,5°C・24h低温保存後では,無添加に比べ食塩,上白糖,カレー粉で有意に少なかった.トマトペーストでは20°C・1h放置よりも5°C・24h放置後の方が有意に水分含量が高く,澱粉の老化に伴う結合水から自由水への変化が大きかったことが考えられた.5) 米飯の硬さは,20°C・1h後では食酢を除く全ての調味料で無添加より有意に大きく,5°C・24h後では上白糖,カレー粉,トマトペーストで無添加より有意に大きかった.米飯の粘りは,食酢において20°C・1h後および5°C・24h後ともに無添加より有意に大きかった.米飯の付着性は,食酢で20°C・1h後,5°C・24h後ともにいずれの調味料よりも有意に大きく,一方上白糖,カレー粉,トマトペーストは5°C・24h後において無添加より有意に小さかった.以上の結果を調味料ごとにまとめると,食塩,醤油は吸水を阻害し,水分の少ない硬い飯になった.清酒は吸水を阻害し,水分量に有意差はないものの,硬い飯になった.食酢は吸水を阻害するものの,水分量,硬さに有意差はなく,粘り,付着性の高い飯になった.上白糖,カレー粉,トマトペーストは吸水を阻害し,水分の少ない硬い飯となり,5°C・24h低温保存後の飯は無添加より硬くて付着性の小さい飯となった.このように本研究では添加する調味料の種類によって炊飯特性が様々に異なり,米飯の仕上がりに影響することが分かった.
著者
山田 浩司 野口 明徳 高橋 秀和
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.306-312, 1996-03-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
9
被引用文献数
14 22

ゼインの溶液およびフィルムについて,アルコール系とアセトン系との比較を,レーザー散乱型粒度分布測定装置,FT-SEM, FT-NMR,赤外吸収スペクトル,CD, SAXSを用いて行った.その結果,ゼインフィルムの耐水性の有無については次のモデルを提唱できると考える.アセトン系とエタノール系ではゼイン分子の集合状態が明らかに異なり,アセトン溶液中では,分子表面に疎水性アミノ酸がより多く分布していたために分子間の相互作用が強い.そのため一旦分子同志が集合し始めると,その速度および結合力はエタノール系に比べて大きく,集合体の稠密度も高い.この凝集過程において構築される構造体がフィルム形成の最小単位と考えられ,したがって,アセトン系フィルムは水と接した場合,水との作用に抗して構造を維持する力が大きく,且つ水と馴染み易い領域の少ない構造状態となる.そのため,可撓性はやや低い値をとるが,水に対する抵抗性は大きな値を示すようになる.
著者
玉木 雅子 鵜飼 光子 村田 容常 本間 清一
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.670-678, 2002-10-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

北海道産タマネギ6種について,貯蔵による品種特性の変化を調べた.(1) 貯蔵中にいずれの品種でも固形分,糖度,平均一球重の変動が認められたが,「蘭太郎」,「さらり」では貯蔵による変動が少なかった.これら2種はピルビン酸生成量あるいはその貯蔵中の増加量が少なく,従来のF1種とは異なる性質を示した.最多に栽培されている「スーパー北もみじ」は,冷蔵貯蔵前の11月はピルビン酸生成量,硬度ともに低値を示したが,12月以降は両者とも急激に上昇した.(2) ほとんど全てのタマネギは,長期保存中もソテー加工に適する固形分量およびパウダー加工に適する還元糖量を示した.(3) タマネギの硬度を品種間で比較したが,測定時期(貯蔵期間)により変動し,品種による硬さの位置づけはできなかった.(4) 鱗茎部分の色彩および遊離糖の組成は貯蔵により変動し,その傾向は淡路産タマネギと類似していた.本研究を行うにあたり,北海道産タマネギの品種についてご指導いただいた北海道立北見農業試験場場長宮浦邦晃氏,ならびに試料タマネギの栽培,採取および選定にご協力いただいた同試験場園芸科科長田中静行氏に深く感謝の意を表します.
著者
AL-HAQ Muhammad Imran SUGIYAMA Junichi ISOBE Seiichiro
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
Food science and technology research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.135-150, 2005-05-01
参考文献数
154
被引用文献数
4 162

Microbial control of postharvest diseases has been extensively studied and appears to be a viable technology. Food safety must be ensured at each postharvest processing step, including handling, washing of raw materials, cleaning of utensils and pipelines, and packaging. Several commercial products are available for this purpose. The time is ripe for developing new techniques and technologies. The use of electrolyzed water (EW) is the product of a new concept developed in Japan, which is now gaining popularity in other countries. Little is known about the principle behind its sterilizing effect, but it has been shown to have significant bactericidal and virucidal and moderate fungicidal properties. Some studies have been carried out in Japan, China, and the USA on the pre- and postharvest application of EW in the field of food processing. EW may be produced using common salt and an apparatus connected to a power source. As the size of the machine is quite small, the water can be manufactured on-site. Studies have been carried out on the use of EW as a sanitizer for fruits, utensils, and cutting boards. It can also be used as a fungicide during postharvest processing of fruits and vegetables, and as a sanitizer for washing the carcasses of meat and poultry. It is cost-effective and environment-friendly. The use of EW is an emerging technology with considerable potential.
著者
岸根 雅宏 奥西 智哉
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.591-596, 2011-12-15 (Released:2012-01-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

LAMP法を用いた簡易で迅速なコシヒカリの識別技術を開発した.コシヒカリを検出するプライマー(陽性プライマー)およびコシヒカリを除く品種を検出するプライマー(陰性プライマー)は,いもち病抵抗性遺伝子であるPi5-1とその感受性対立遺伝子の配列を用いて作製した.陽性および陰性プライマーによる上位48品種の増幅解析の結果,両プライマーは,それぞれコシヒカリもしくはコシヒカリ以外の品種を約90%の確度で検出可能であることが示された.また,粒サンプルからの迅速な識別を目指し,水酸化ナトリウムを用いた極簡易DNA抽出法の開発も合わせて行った.簡易法で抽出したDNAは,キットで精製したDNAとほぼ同等のLAMP増幅を行うことが可能であった.これらの手法を組み合わせ,コシヒカリとひとめぼれ(コシヒカリ以外の品種の代表)間における試料混入の検出を試みた結果,どちらのプライマーも1%の混入から検出可能であることが示された.
著者
田畑 武夫 篠原 寿子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.682-686, 1995-09-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
7
被引用文献数
6 7

ヒラタケやナメコをカルシウム添加培地で栽培した.1, 5, 10%の濃度のカルシウム化合物を添加したPSA培地とオガクズ培地におけるこれらのキノコの菌糸生育状況を調べた.収穫後これらのキノコの子実体中のカルシウム含量を測定し以下の結果を得た.(1)キノコの菌糸生育はカルシウム化合物の種類や添加量および培地の初発pHによって影響された.(2)供試したリン酸カルシウム,硫酸カルシウム,炭酸カルシウムおよび酢酸カルシウムの中では,炭酸カルシウムがPSA培地およびオガクズ培地上でヒラタケ菌に対し良好な菌糸生育を示した.オガクズ培地で栽培したヒラタケ子実体のカルシウム含量は無添加培地からのそれに比べて1.4倍に増加していた.(3) PSA培地およびオガクズ培地上でのナメコ菌の菌糸生育はリン酸カルシウムが最も効果的であった.オガクズ培地で栽培したナメコ子実体のカルシウム含量は無添加培地のそれに比べて2.3倍に増加していた.
著者
吉山 正章 伊東 禧男
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.124-129, 1996-02-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

1. カカオ豆の中で発酵が不完全で収れん味を呈するパープル豆と発酵が充分なブラウン豆を比較した結果,パープル豆はブラウン豆に比べて多量のポリフェノールを含んでいることが示された.2. パープル豆に含まれているポリフェノールに由来する収れん味を抑制する酵素の選択を行った結果,カワラタケのポリフェノールオキシダーゼが有効であった.3. ポリフェノールオキシダーゼによる収れん味の抑制はポリフェノールの酸化重合反応による不溶性物質への変換やキノン蛋白質複合体形成が関与していることが示された.4. パープル豆をPPO処理する場合,予め蒸煮した豆を処理する方法が有効で,全ポリフェノール,フラバノール,プロアントシアニジンは処理前に比べて78%, 45%, 38%となり,収れん味は大きく軽減された.
著者
相馬 邦彦 猪越 香苗 山本 恭子 渋谷 忠久 武田 恒幸 大橋 きょう子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.302-311, 2017-06-15 (Released:2017-06-30)
参考文献数
17

安定性が高く,またLDLコレステロール低下作用などの生理作用を有することが報告されている高オレイン酸ひまわり油(High Oleic Sunflower Oil : HOSO)の官能特性について,官能評価やaroma extract dilution analysis (AEDA)により検証を行った.加熱時のにおいはHOSOが他の油に比べて弱く,揚げ玉やえびの天ぷら,コロッケにおける油の風味はHOSOとPOにおいて有意に弱いと評価された.また,風味の強度だけでなく,持続性の強さを評価したところ,強度と同様の傾向が認められた.揚げ物としての総合的な風味の評価では,HOSOがRSOに比べ有意に評価が高かった.これらの結果から,HOSOは油の風味が弱く,あっさりとした特性を持ち,フライ油として優れた官能特性を有していることが示唆された.一方,AEDA分析の結果から,HOSOやSBO,RSOのにおいはそれらの脂肪酸組成に深くかかわること,HOSOからもSBOやRSOと同様ににおいとして強く感じる香気成分が生じることなどが確認された.以上の結果から,HOSOの官能特性は,その脂肪酸組成に深く関与し,HOSOから生じた油のにおいは揚げ物として喫食した際には感じにくい特徴を有することが示唆された.
著者
原 知子 安藤 真美 伊藤 知子 井上 吉世 大塚 憲一 大野 佳美 岡村 由美 白砂 尋士 高村 仁知 武智 多与理 露口 小百合 中原 満子 中平 真由巳 西池 珠子 林 淑美 深見 良子 藤村 浩嗣 松井 正枝 的場 輝佳 水野 千恵 村上 恵 山下 貴稔 湯川 夏子 渡辺 健市
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.23-27, 2004-01-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

酸価1∼4.5の段階的に劣化度が異なる劣化油1,2,3を用いて,揚げ玉,まいたけの天ぷら,コロッケを調製し,揚げ物および揚げ油の官能評価による風味とPCテスターによる極性化合物量の関係について検討した.1.新鮮油,劣化油1,2,3の4種の劣化程度の異なる油及びそれらで調製された製品の風味に有意差が認められた.これら4種の油は酸価,粘度,極性化合物量が段階的に異なるもので,揚げ玉,まいたけの天ぷら,油自体の風味の評価結果は,これらの要素と対応した.新鮮油,劣化油1,2,3の順に風味評価は低下したが,劣化油1から極性化合物量15%の劣化油2の間で低下が顕著であった.また,劣化が進行した油において官能評価ではその違いが認め難くなる傾向にあった.コロッケでは油の劣化による風味評価の低下は小さかった.2.揚げ玉やまいたけの天ぷらでは極性化合物15%程度まで,コロッケでは,25%程度まで風味評価のよい揚げ物を調製できた.3.極性化合物量15%以上で風味評価が低下するとともに風味の劣化度合いを弁別し難くなる傾向があったことから,栄養的にも嗜好的にも,揚げ油の極性化合物量を15%以下で管理するのが適当であると考えられた.
著者
山田 大樹 伊勢木 智行 井上 俊逸 吉野 信次 坪井 一将 村山 大樹 デニス· サンチャゴ 小疇 浩 山内 宏昭
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.547-554, 2015-11-15 (Released:2015-12-31)
参考文献数
22
被引用文献数
4 6

湯種製法で製パンしたパンにおける湯種製造中に糊化した小麦澱粉の製パン性に及ぼす影響について,凍結乾燥グルテンと小麦澱粉で調製した疑似湯種を用いて検討を行った.その結果,疑似湯種中の糊化した小麦澱粉は,GP,GRD,SLVをコントロールに比べて有意に低下させ,擬似湯種中の小麦澱粉の糊化度とGRD,SLVとの間には非常に高い負の相関があることが判った.これより,湯種中の糊化小麦澱粉は生地の製パン性を低下させる主要因であり,湯種パンの外観,色相の特徴であるクラストのL*の低下とケービングに対しても,大きく影響していることが明らかになった.さらに,糊化した小麦澱粉を製パンに用いることによって,得られたパンの水分含量と保水性が増加し,それによりパン中の澱粉の老化が抑制され,保存中のパンクラムの老化を抑制できることが明らかになった.