- 著者
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岑 友里恵
- 出版者
- 公益社団法人 日本食品科学工学会
- 雑誌
- 日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.12, pp.568, 2007-12-15 (Released:2008-02-01)
- 参考文献数
- 2
トランスグルタミナーゼ(EC 2.3.2.13 : TGase)は1957年にClarkeらによってモルモット肝に見出されたトランスアミド化活性を有する酵素として紹介された.1968年,Pisanoらによる血液凝固の研究で,ペプチド結合-グルタミル残基(アシル供与体)のγ-カルボキシアミド基とペプチド結合-リジン(アシル受容体)のε-アミノ基との間のアシル転位反応を触媒し,ε-(γ-グルタミル)リジン(G-L)結合を形成してタンパク質間を架橋することが明らかにされた(図1).その後,TGaseは無脊椎動物,両生類,魚類,鳥類,哺乳類,植物,微生物等,自然界に広く存在することがわかり,その存在理由や生理学的役割の究明に関する生化学的分野での研究が活発化した.当初は牛,豚,魚類といった食用動物の組織や体液からの酵素抽出が行われ,分子量70~90kDa,活性中心がシステイン残基で,Ca2+依存性のモルモット肝TGaseや牛血漿TGaseが実験室規模で単離され,特に前者がTGaseとしてよく研究に用いられた.そして,動物TGaseは血液凝固,傷回復,外皮ケラチン化,赤血球膜硬化などの生理学的役割を有していることが明らかにされた.我が国においてはSekiらがカマボコ製造工程での坐りが魚の内生TGaseに起因していることを示し,Kumazawaらが実際に,すり身製造に使うスケトウダラの分子量77kDaでCa2+依存性の内生TGaseを分離・精製して以来,食品タンパク質の改質のための応用研究が盛んになった.と同時に,本酵素の食品工業向け生産方法が探索され,1989年,培養液中にTGaseを分泌する微生物Streptomyces mobarensisの変異株が発見され,通常の発酵法によりS. mobarensis起源のTGaseが工業生産されるようになった.この酵素の至適pHは5~8,至適温度は55℃で,活性中心は動物TGaseと同じで,従って反応性も同じであるが,その分子量(38kDa)及びCa2+非依存性においてそれと異なっている.この微生物TGaseのCa2+非依存性はCa2+で沈澱しやすい食品タンパク質の修飾にとって好適で,近年,魚肉すり身ゲルの弾力強化,鶏肉ゲルの食感改善,麺の歯ごたえの増加や茹で延び防止,豆腐の弾性付与,食用素材の接着,非加熱凝固ゼラチンの調製,そして可食フィルムの調製等,数多くの新規食品や機能性改変法の開発をもたらしている.また,これらTGase処理架橋タンパク質は摂食後,胃腸消化酵素でG-Lジペプチドを残してアミノ酸に分解される.G-L結合は腎臓のγ-グルタミルアミンシクロトランスフェラーゼと,腸の刷子縁膜と血液中に存在するγ-グルタミルトランスフェラーゼ(血液検査で肝臓疾患の指標とされるγ-GPT)によってグルタミン酸誘導体(G)とリジン(L)に代謝され,遊離したLは栄養成分(必須アミノ酸の1つ)として吸収される.一方,G-L結合は多くの一般食品中にも存在し,また食品調理そのものも加熱による食品素材に内在するTGaseの反応でタンパク質中のG-L結合を増加させるため,人類は火と調理の発見以来,G-L結合を摂取してきていることになり,TGaseによるタンパク質修飾は栄養学的にも有用で,安全なものであるといえる.