著者
宮脇 長人 表 千晶 小栁 喬 笹木 哲也 武 春美 松田 章 田所 佳奈 三輪 章志
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.159-165, 2021

<p>流路閉鎖循環方式界面前進凍結濃縮装置を用いてルビーロマン果汁の凍結濃縮を行い,糖度を14.6Brixから23.0Brixに濃縮することができた.濃縮果汁をBrix基準で濃縮還元し,濃縮前試料と有機酸分布および香気成分分布を比較した.有機酸分布については濃縮前後でほとんど変化はなく,また,香気成分分布についても,その分布プロフィールはそれほど変化していない高品質濃縮が可能であることがわかった.</p><p>凍結濃縮果汁を発酵させてルビーロマンワインを試作した結果,アルコール濃度は14.5vol-%となり,本方法によれば補糖を必要とすることなく,十分に高いアルコール濃度が得られることがわかった.ルビーロマンワインの有機酸分布においては,発酵前後ともリンゴ酸が主成分であるが,発酵によりピログルタミン酸,乳酸が僅かに増加,酢酸,コハク酸が大きく増加した.また香気成分分析においては,発酵により原果汁香気成分のいくつかは消失し,これに代って,ethanol,isoamyl acetate,isoamyl alcohol,ethyl octanoate,phenethyl alcohol,octanoic acid,decanoic acidなど,発酵生産物が大きく増大したものの,試作ルビーロマンワインは全体としてはルビーロマン香気成分を十分保持していることがわかった.以上により,界面前進凍結濃縮果汁を用いることで,これまでに無い,新しいタイプのルビーロマンワイン製造への可能性が示された.</p>
著者
紙谷 雄志 岩井 和也 福永 泰司 木村 良太郎 中桐 理
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.336-342, 2009-06-15 (Released:2009-07-31)
参考文献数
25
被引用文献数
8 12

本研究は,超臨界抽出により脱カフェイン処理したコーヒー豆抽出物の糖質分解酵素阻害と,その主成分であるクロロゲン酸異性体の寄与,さらにラットによる糖質負荷後の血糖値上昇抑制作用について検討した.(1) コーヒー豆抽出物のクロロゲン酸類含有量は38.8%であり,8種のクロロゲン酸異性体はコーヒー豆抽出物の糖質分解酵素の阻害活性に63.1-85.8%寄与することが確認された.(2) クロロゲン酸異性体の阻害活性はジカフェオイルキナ酸が最も強く,順にカフェオイルキナ酸,フェルロイルキナ酸であった.その阻害活性にはカフェオイル基がフェルロイル基より強く作用し,カフェオイル基数と共にキナ酸への結合部位も重要であることが推察された.(3) コーヒー豆抽出物はα-GI剤(アカルボース,ボグリボース)と類似した作用機序を示し,効果量より低いα-GI剤量に対して,相加的な併用効果があることが推測された.また,α-グルコシダーゼ阻害を介した血糖値の上昇抑制作用を示し,糖尿病予防効果のある健康食品素材としての可能性が示唆された.
著者
石原 昌信 玉城 健雄 平良 東紀 多和田 真吉 小波本 直忠 野崎 真敏 荒木 伸春
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.141-144, 2003-03-15
参考文献数
9
被引用文献数
1

パイナップル茎部の搾汁液画分がハブクラゲ(Sea Wasp, Habu-Kurage) <i>Chiropsalmus guadrigatus</i>毒素による溶血を阻害することが明らかになった.本抗溶血物質はパイナップル茎部の搾汁液からSephadex G-25, TLCおよびMiniQ PC32 2/3カラムを装着したにHPLCより均一に精製された.精製標品は260nm付近に吸収極大値を有し,14種類のアミノ酸から成るペプチドであった.パイナップル抗溶血物質はハブクラゲによる溶血を100&mu;g/mlで50%抑制した.
著者
鈴野 弘子 石田 裕
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.479-484, 2005 (Released:2007-04-13)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

高地栽培バナナの風味の良さを化学成分の面から明らかにする目的で, 標高の異なる土地, すなわち, 高地 (1000m), 中地 (500m) および低地 (0-20m) で栽培した3種類のバナナを収穫後, 20℃で追熟させ, 各熟度別での成分変化を比較検討した.高地および中地栽培バナナの水分含有量は, 低地栽培バナナに比べ, いずれの熟度段階においても低い値であった. デンプン含有量は, 完熟段階 (ステージ3) において, 高地栽培バナナが最も低かった. また, 糖および酢酸イソアミル含有量は, 完熟段階で高地栽培バナナが最も多かった. 熟度段階の成分変化をみると高地および中地栽培バナナは低地栽培バナナに比較して, 未熟段階 (ステージ1) から適熟段階 (ステージ2) にかけて糖含有量, 糖酸比および酢酸イソアミル含有量が急激に増加した. 特に高地栽培バナナにおいては, 糖酸比と酢酸イソアミルが顕著な増加を示した. 以上の結果から, 標高の高い土地で栽培されたバナナは, 適熟段階において通常の低地栽培バナナより甘み, 香りが強くなることがわかった.
著者
金沢 和樹
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.194, 2008-04-15 (Released:2008-05-31)
参考文献数
3

フコキサンチンは,炭素数40のイソプレノイド構造を骨格とするテトラテルペン類で,自然界に600種類余り存在するカロテノイドの一つである.カロテノイドのうち,化学構造に酸素を含むものをキサントフィルと細分類するが,フコキサンチンは褐藻が特異的に生産するキサントフィルで,1914年に発見,1969年に化学構造が決定された(図1).よく知られているキサントフィルに鮭のアスタキサンチン,マリーゴールド色素のルテイン,柑橘のβ-クリプトキサンチンなどがあり,いずれも鮮やかな黄色から橙色なので,古くから食品の着色料として利用されているが,フコキサンチンも鮮橙色である.褐藻は日本人が好んで食する海藻である.フコキサンチン含量は,生褐藻の場合,新鮮重100gあたりおおよそ,コンブ19mg,ワカメ11mg,アラメ7.5mg,ホンダワラ6.5mg,ヒジキ2.2mgである.日本人は干し海藻にすることが多いが,乾物にするとコンブ2.2mg,ワカメ8.4mg,他は検出限界以下となる.つまり酸化に不安定であるが,これは化学構造にアレン結合があるためと考えられている.褐藻を餌とする貝類のカキやホヤもフコキサンチンを多く含み,さらにアレンが安定なアセチレンとなったハロシンチアキサンチンを含んでいる.注目を浴びているフコキサンチンの生理機能の一つは発がん予防作用1)2)である.フコキサンチンがヒト前立腺がん細胞にアポトシースを誘導する作用は,カロテノイド類の中ではもっとも強い.また,結腸がんモデル動物に経口投与すると,前がん病変形成を有意に抑えた.作用機序は,p21WAF/Cip1というタンパク質の発現を促すことで,その下流のレチノブラストーマタンパク質をリン酸化するサイクリンDとキナーゼ複合体の活性を阻害し,レチノブラストーマタンパク質からの転写因子E2Fの遊離を抑えることであった.結果として,腫瘍細胞の細胞周期をG0/G1期で停止させ,腫瘍の増殖を抑えた.もう一つは宮下和夫らによる興味深い発見,肥満予防効果3)である.食餌フコキサンチンは,白色脂肪細胞に,ミトコンドリア脱共役タンパク質1の発現を促す.このタンパク質は,本来はATP生産に用いられるミトコンドリアの電気化学ポテンシャルを体熱として放出させる.結果としてフコキサンチンは,脂肪細胞の脂肪を体熱として消費させることで肥満を防ぐ.フコキサンチンは栄養素ではなく非栄養素である.栄養素は体内に加水分解吸収されて肝臓でエネルギー代謝されるが,非栄養素は加水分解吸収後,まず小腸細胞内で代謝を受ける.小腸細胞内代謝で官能基がグルクロン酸や硫酸抱合を受け,生理活性を示さない化学形態となり,多くは管腔側に排泄さる.したがって,非栄養素がヒト体内で機能性を発揮するか否かは,小腸細胞内でどのような代謝を受けるかによる.フコキサンチンの体内吸収率は数%であるが,小腸細胞吸収時に図1の右環のアセチル基がアルコールのフコキサンチノールに加水分解されるだけで体内吸収される.体内では一時的に脂肪細胞にとどまり,数十日ほどの体内半減期で尿に排泄される.また一部は肝臓で,左環がアマロシアザンチンAに代謝される.長尾昭彦らによると,この2つの代謝物が生理活性の本体である.フコキサンチンを生昆布量に換算して日に100kgを4週間与えても,その動物に異常は認められていない.他のキサントフィルにも過剰摂取毒性は今のところ報告されていない.フコキサンチンなどのキサントフィル類による,ヒトの生活習慣病予防に大きな期待が寄せられている.
著者
松尾眞 砂子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.1059-1062, 1996-09-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
5
被引用文献数
3 7

おから(OC)をテンペ菌で発酵させたおからテンペ(OT)では,タンパク質の消化性が発酵によりどのような影響を受けるかを調べた.遊離アミノ酸量やタンパク質の分子量分布を比較すると,OTにはOCより遊離アミノ酸や低分子領域のタンパク質が多かった.この結果から,OTでは発酵によりタンパク質の一部が分解されていることが示唆された.また,OCやOTを唯一のタンパク質源とする飼料でラットを飼育し,消化残渣を光学顕微鏡で観察するとOTの盲腸内消化残渣ではタンパク質の存在が不明瞭であったが,OCの盲腸内消化残渣ではタンパク質を明確に確認できた.糞中消化残渣では両飼料ともタンパク質は全く確認できなかった.したがって、両タンパク質は完全に利用されるが,OTのタンパク質はOCのタンパク質より容易に消化されることが推察された.
著者
須美 洋行 馬場 健史 岸本 憲明
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.1124-1127, 1996-10-15
参考文献数
9
被引用文献数
2 6

納豆抽出液中に従来のナットウキナーゼでは説明できない強力なプロウロキナーゼアクチベーター活性を確認した.6種の市販納豆の活性はヒトプラズミンを標準として21.8±5.5CU/g湿重量であった.同酵素はゲル濾過法で分子量2.7万以上に3つ以上の活性ピークを示し,またDFPあるいはNPGBで阻害されるセリン酵素と思われた.<BR>この酵素を高力価含む乾燥粉末30gを5人の健常成人ボランティア(51~86歳,男女)に経口投与した結果,4~8時間目にわたるEFAの上昇あるいはFDPの増加から持続的な血中線溶亢進と血栓溶解の起こることが確認された.
著者
江木 伸子 平尾 和子 廣瀬 理恵子 斎尾 恭子 村上 昌弘
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.225-235, 2016-05-15 (Released:2016-06-30)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

分離大豆タンパク質(SPI),酢,大豆油,水の乳化により調製した大豆タンパク質添加エマルションのレオロジー的性質を酢の添加量および添加順序を変えて調べた.その結果,部分的加水分解したSPIは,乳化後,酢を添加することにより,元のSPIに比べて,高い保形性および安定性と滑らかな物性を持つエマルションを調製できることがわかった.SPI,大豆油および酢と水の適当な配合比を調べるために,Schefféの単純格子計画法を適用して,10種類の配合比で作られるエマルションの物性を検討した.安定した保形性を持つ混合比は部分加水分解SPI ; 4.0∼16.7%,大豆油 ; 36.0∼55.0%,酢 ; 5.0%,水 ; 36.0∼45.5%の範囲にあり,これらは擬塑性流動を示した.チキソトロピー特性値,降伏値,粘稠性係数,流動性指数などの値は混合比により変わり,ホイップクリーム様,マヨネーズ様,クリームチーズ様などの乳化特性を示した.混合比が部分加水分解SPI ; 10.4%,大豆油 ; 42.3%,酢 ; 5.0%,水 ; 42.3%のエマルションは,それが大豆たん白利用食品として相応のタンパク質含量を持ち,平均粒子径や流動性指数など物性値が適当なことから後の実験に選択した.このエマルションに砂糖を添加すると,砂糖の添加量が多くなるに従いニュートン流動を示すようになり保形性は失われた.しかし,砂糖を加えて乳化してから,酢を添加することによりエマルションの形状の変化を抑制することができた.またこのように調製したエマルションは焼成することが可能になったので,焼成菓子やマヨネーズ様食品を試作した.これら実験を通じて,著者らは食材を添加する順序が顕著に,かつ,微妙に調製後のエマルションや食品の物性に影響することを認めた.
著者
宮脇 長人
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.255-266, 2021-06-15 (Released:2021-06-25)
参考文献数
73

The primary physicochemical aspects of freezing are the substantial reduction of water activity and the increase of osmotic pressure by freeze-induced concentration. The temperature-dependent ice fraction subsequently affects the changes in thermal properties and specific chemical reaction processes. In frozen food, the ice structure is strongly determined by the moving ice-front through the balance of water mass transfer and heat transfer. By controlling the ice structure, progressive freeze-concentration could be applied to concentrate liquid food with high quality. In some living organisms, freeze-related biosubstances are produced and accumulated for freeze-tolerance. The cell structure also plays an important role in the freeze-tolerance of cells in microorganisms, plants, and animals.
著者
藤原 しのぶ 春日 敦子 菅原 龍幸 橋本 浩一 清水 豊 中沢 武 青柳 康夫
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.191-196, 2000-03-15
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

栄養添加物の混合割合を変えることにより段階的に窒素量の異なる菌床培地を設定し,培地窒素量と子実体中の窒素量との関係について検討した.<br>菌床培地とそれぞれの培地から発生した子実体の全窒素量との間には強い相関が認められた(p<0.001).窒素量の多い菌床培地から発生する子実体ほど窒素含有量が高くなるという相関関係が,同一の栽培方法と種菌を用いて得られたシイタケについて確認された.<br>シイタケ子実体に含まれる主要な窒素含有成分(総アミノ酸,遊離アミノ酸,核酸,キチン)中の窒素量は,全て培地の窒素量と有意な相関が認められた.特に培地窒素量との相関性が高かったのは総アミノ酸と遊離アミノ酸であった.また,レンチニン酸含有量と培地窒素量との間には明確な関係は認められず,むしろ栄養添加物の種類によって含有量に差が認められた.<br>栄養添加物の種類や混合割合などの菌床培地の組成を変える試みは,現在のところ収穫量の増加を主な目的としているが,発生する子実体の質も制御できる可能性が示唆された.
著者
田畑 武夫 篠原 寿子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.682-686, 1995-09-15
参考文献数
7
被引用文献数
3 7

ヒラタケやナメコをカルシウム添加培地で栽培した.1, 5, 10%の濃度のカルシウム化合物を添加したPSA培地とオガクズ培地におけるこれらのキノコの菌糸生育状況を調べた.収穫後これらのキノコの子実体中のカルシウム含量を測定し以下の結果を得た.(1)キノコの菌糸生育はカルシウム化合物の種類や添加量および培地の初発pHによって影響された.(2)供試したリン酸カルシウム,硫酸カルシウム,炭酸カルシウムおよび酢酸カルシウムの中では,炭酸カルシウムがPSA培地およびオガクズ培地上でヒラタケ菌に対し良好な菌糸生育を示した.オガクズ培地で栽培したヒラタケ子実体のカルシウム含量は無添加培地からのそれに比べて1.4倍に増加していた.(3) PSA培地およびオガクズ培地上でのナメコ菌の菌糸生育はリン酸カルシウムが最も効果的であった.オガクズ培地で栽培したナメコ子実体のカルシウム含量は無添加培地のそれに比べて2.3倍に増加していた.
著者
鈴木 彌生子 中下 留美子 赤松 史一 伊永 隆史
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.250-252, 2008-05-15
参考文献数
16
被引用文献数
8 14

コメの産地偽装問題が起きており,コメの産地を科学的根拠に基づいて判別する技術が必要とされている.本研究は,日本産,豪州産,米国産コシヒカリを用いて,炭素・窒素・酸素安定同位体比解析を行い,安定同位体比解析によるコメの産地判別の可能性を検証した.解析の結果,日本産のコメの安定同位体比は,平均値で,炭素では米国産よりも0.7&permil;,窒素では豪州産よりも3.8&permil;低く,酸素では豪州産と米国産よりもそれぞれ12.6&permil;,3.5&permil;低い値を示した.安定同位体比から,日本産のコメは,他国産のコメと識別できることが明らかになった.安定同位体比解析は,DNA判別や微量無機元素測定などの他の技術と相補的に利用すれば,強力な産地判別技術になる可能性がある.
著者
早川 文代 井奥 加奈 阿久澤 さゆり 米田 千恵 風見 由香利 西成 勝好 馬場 康維 神山 かおる
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.327-336, 2006-06-15 (Released:2007-06-15)
参考文献数
28
被引用文献数
9 12

日本語テクスチャー用語445語について,消費者を対象とした質問紙による調査を行い,以下の知見を得た.1)認知度が0.75以上の用語を消費者の語彙とし,135語を得た.そのうち,認知度0.90以上のテクスチャー語彙の中核となる用語は66語あった.2)“crisp”,“crunchy”,“juicy”,“soft”,“creamy”に相当する用語は,異種の言語間で共通して消費者パネルによく使用されるテクスチャー表現であることが推察された.
著者
道川 恭子 鴻巣 章二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.982-988, 1995-12-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
18
被引用文献数
4 7

ホタテガイ貝柱(閉殻筋)の合成エキス中には,苦味アミノ酸といわれているArgが閾値を大幅に超える濃度で含まれているにもかかわらず,そのエキスはほとんど苦味を呈さない.これはエキス成分中にArgの苦味を抑制する成分が存在することによると考え,有効成分の同定を試みた.得られた結果を要約すると次のとおりである.1) まず,ホタテガイに含まれる濃度とほぼ同じ濃度のArg溶液(300mg/100ml)の味質を調べ,甘味を伴う強い苦味を呈することを確かめた.また,その濃度が低くなると苦味に対する甘味の相対的強度が高くなり,濃度により味質が変ることが分った.2) ホタテガイの呈味に重要とされている8成分よりなる合成エキスを用いてオミッションテストを行い,Argが苦味を与えないことを確かめた.3) Argへの他成分の添加および他成分へのArg添加の2種類のアディションテストを行った結果,Argの苦味抑制にGlu, AMPおよびNaClが有効であり,なかでもNaClの効果が最も大きいことが判明した.
著者
岑 友里恵
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.568, 2007-12-15 (Released:2008-02-01)
参考文献数
2

トランスグルタミナーゼ(EC 2.3.2.13 : TGase)は1957年にClarkeらによってモルモット肝に見出されたトランスアミド化活性を有する酵素として紹介された.1968年,Pisanoらによる血液凝固の研究で,ペプチド結合-グルタミル残基(アシル供与体)のγ-カルボキシアミド基とペプチド結合-リジン(アシル受容体)のε-アミノ基との間のアシル転位反応を触媒し,ε-(γ-グルタミル)リジン(G-L)結合を形成してタンパク質間を架橋することが明らかにされた(図1).その後,TGaseは無脊椎動物,両生類,魚類,鳥類,哺乳類,植物,微生物等,自然界に広く存在することがわかり,その存在理由や生理学的役割の究明に関する生化学的分野での研究が活発化した.当初は牛,豚,魚類といった食用動物の組織や体液からの酵素抽出が行われ,分子量70~90kDa,活性中心がシステイン残基で,Ca2+依存性のモルモット肝TGaseや牛血漿TGaseが実験室規模で単離され,特に前者がTGaseとしてよく研究に用いられた.そして,動物TGaseは血液凝固,傷回復,外皮ケラチン化,赤血球膜硬化などの生理学的役割を有していることが明らかにされた.我が国においてはSekiらがカマボコ製造工程での坐りが魚の内生TGaseに起因していることを示し,Kumazawaらが実際に,すり身製造に使うスケトウダラの分子量77kDaでCa2+依存性の内生TGaseを分離・精製して以来,食品タンパク質の改質のための応用研究が盛んになった.と同時に,本酵素の食品工業向け生産方法が探索され,1989年,培養液中にTGaseを分泌する微生物Streptomyces mobarensisの変異株が発見され,通常の発酵法によりS. mobarensis起源のTGaseが工業生産されるようになった.この酵素の至適pHは5~8,至適温度は55℃で,活性中心は動物TGaseと同じで,従って反応性も同じであるが,その分子量(38kDa)及びCa2+非依存性においてそれと異なっている.この微生物TGaseのCa2+非依存性はCa2+で沈澱しやすい食品タンパク質の修飾にとって好適で,近年,魚肉すり身ゲルの弾力強化,鶏肉ゲルの食感改善,麺の歯ごたえの増加や茹で延び防止,豆腐の弾性付与,食用素材の接着,非加熱凝固ゼラチンの調製,そして可食フィルムの調製等,数多くの新規食品や機能性改変法の開発をもたらしている.また,これらTGase処理架橋タンパク質は摂食後,胃腸消化酵素でG-Lジペプチドを残してアミノ酸に分解される.G-L結合は腎臓のγ-グルタミルアミンシクロトランスフェラーゼと,腸の刷子縁膜と血液中に存在するγ-グルタミルトランスフェラーゼ(血液検査で肝臓疾患の指標とされるγ-GPT)によってグルタミン酸誘導体(G)とリジン(L)に代謝され,遊離したLは栄養成分(必須アミノ酸の1つ)として吸収される.一方,G-L結合は多くの一般食品中にも存在し,また食品調理そのものも加熱による食品素材に内在するTGaseの反応でタンパク質中のG-L結合を増加させるため,人類は火と調理の発見以来,G-L結合を摂取してきていることになり,TGaseによるタンパク質修飾は栄養学的にも有用で,安全なものであるといえる.
著者
佐藤 三佳子 岩井 浩二 鬼塚 英一郎 高畑 能久 森松 文毅 佐藤 雄二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.159-163, 2011-04-15 (Released:2011-05-31)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

ブタ大動脈を原料としてエラスチン加水分解ペプチド(エラスチンペプチド)を調製し,その摂取がヒトの皮膚弾力性にもたらす影響について検討した.はじめに,エラスチンペプチド経口摂取後のヒト血液中のアミノ酸濃度の変化を観察した.成人男性5名を被験者として,12時間絶食後にエラスチンペプチドを摂取させた.その結果,エラスチンペプチド経口摂取後に血中の総アミノ酸量が増加し,増加したアミノ酸の組成は,摂取したエラスチンペプチドのアミノ酸組成に類似していた.また,ハイドロキシプロリンおよびアルギニンがそれぞれペプチド態として血中に検出され,エラスチンペプチドの少なくとも一部はペプチド態として血中に移行していると考えられた.次に,39名の中高齢者を3群にわけ1日量0, 100, 200mgのエラスチンペプチドを8週間継続摂取させ皮膚弾力性を測定した.100mg, 200mg摂取群において摂取開始8週目に摂取前と比較して有意に皮膚弾力性が上昇した.またその変化率は0mgと比較して200mg群で有意に高値を示した.以上より,エラスチンペプチドの経口摂取はヒトの皮膚弾力性を向上させることが示唆された.
著者
貝沼 やす子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.487-493, 2008-10-15
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

精白米を10℃,-20℃,-40℃,-60℃に6ケ月間保存したところ,いずれの保存温度においても保存中に水分は変動しなかった.米への吸水は,10℃に保存した場合,保存期間が長くなるに連れ減少し,6ケ月後には顕著に低い吸水率となった.-20℃,-40℃と保存温度が低くなるにつれて0ケ月との差は小さくなり,-60℃保存は最も差が小さかった.0ケ月との差は浸漬の最初の段階で顕著に現れ,表層部に生じた古米化現象による影響であると考えられた.吸水後の米粒の硬度は,-60℃保存は0ケ月と変わっていなかったが,-40℃,-20℃保存はわずかに差が生じ,10℃保存については大きな差が見られ,いずれも硬く変化していた.浸漬液に溶出した還元糖量は10℃,-20℃,-40℃保存では,保存期間が長くなるにつれて減少したが,-60℃保存では溶出する還元糖に変化が見られず,酵素の活性が維持されていると考えられた.<BR>米飯の破断強度測定,テクスチャー測定では,保存期間が長くなると0ケ月と比較してかたく,付着性が少ない米飯となり,保存により米飯の物性が変化した.この変化は10℃保存の米飯で顕著であった.-20℃,-40℃と温度が低下するにつれて変化は小さくなり,-60℃保存では0ケ月の米飯の物性とほぼ同じ状態であった.官能検査においても,保存温度が最も低い-60℃保存の米で炊飯した米飯は10℃保存の米飯に比較して,有意に粘りがあり,やわらかいと評価され,総合評価においても有意に好まれた.
著者
深井 洋一 塚田 清秀
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.587-591, 2006-11-15 (Released:2007-09-29)
参考文献数
17
被引用文献数
4 4

米の収穫された年産および品種を異にした3試料を供試し,洗米時の研ぎ回数1回および3回で炊飯後,ジャー炊飯器内保温を24時間まで行い,保温時間の経過に伴う,品質・食味差を検証した.炊飯食味計測定値,色調およびにおい識別値の測定結果から,保温時間の経過に伴う,研ぎ回数別の傾向は,研ぎ回数1回よりも3回の方が,品質劣化の度合が小さかった.主成分分析により,研ぎ回数別で散布傾向が異なるグループ形成をすることを明らかにした.研ぎ回数を増やすことにより,炊飯米の保温中の品質保持に一定の効果があることが示唆された.
著者
石崎 太一 黒田 素央 久野 真奈見 北面 美穂 早渕 仁美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.343-346, 2007-07-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
14
被引用文献数
8 7

鰹節だしの継続摂取が単純作業負荷によって生じる精神疲労やストレス,および作業効率に対する影響について,健常な成人女性を対象として調査を行った.1週間の非摂取期間の後,被験者に鰹だしを1週間摂取させた.非摂取期間後および鰹節だし摂取期間後に評価を実施した.単純作業負荷として内田-クレペリンテスト(UKP)を行い,UKPの前後にProfile of Mood States(POMS)による気分·感情状態の調査,フリッカー値の測定ならびに唾液コルチゾールの測定を行った.非摂取期間後には,UKP負荷後のフリッカー値は負荷前に比べて有意に低値を示したが,鰹節だし摂取期間後には負荷前後で有意な変化は見られなかった.負荷前の唾液コルチゾール値は非摂取期間後に比べて鰹節だし摂取期間後に有意に低下した.さらに,鰹節だし摂取期間後のUKPの誤答率は,非摂取期間後の誤答率と比較して,有意に低値を示した.これらの結果から,鰹節だしの継続摂取により,単純作業負荷時に精神的疲労が少なくなる傾向,ストレス応答が低下する傾向ならびに計算作業効率の低下が抑制される可能性が示唆された.
著者
海野 知紀 駒込 乃莉子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.9, pp.457-462, 2018-09-15 (Released:2018-09-19)
参考文献数
22

ラードを配合した高脂肪食に大麦若葉搾汁末を添加し,これをラットに4週間自由摂取させたときの糞中腸内細菌叢を分析した.本飼育開始前後における比較では,大麦若葉搾汁末を添加した群でBacteroides属の占有率が有意に減少し,Prevotella属の占有率が上昇した.また,群間での比較では,C群,HF群と比較して2% YBL群,10% YBL群のPrevotella属の占有率が高値を示し,Bacteroides属に対するPrevotella属の比(P/B比)の上昇が認められた.以上より,大麦若葉搾汁末は高脂肪食を負荷したラットにおいて腸内細菌叢に変化をもたらすことが示唆された.