著者
高橋 哲也 Jenkins Sue 安達 仁 金子 達夫 熊丸 めぐみ 櫻井 繁樹 大島 茂 谷口 興一
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.31-37, 2001-03-31
被引用文献数
3

冠動脈バイパス術後の早期呼吸理学療法の効果を無作為化比較対照試験によって検討した。対象は冠動脈バイパス術後患者105例で次の3群に群分けした。コントロール群(Control[C]群35例, 特別な呼吸理学療法は行わず, 標準的な早期離床プログラムのみを行う)。スパイロメータ群(Incentive Spirometer[IS]群35例, 術後1日目の朝よりインセンティブスパイロメータを用いて10回の深呼吸を監視下で1日2回行う。また適時自主的に深呼吸をするように指示)。人工呼吸器離脱後から翌朝まで呼吸理学療法を行う群(Overnight Chest Physiotherapy[OCP]群35例, 術当日, 抜管直後から介助下での深呼吸を術翌日の朝まで2時間おきに行う)。3群間の平均年齢, 平均身長, 平均体重, BMI, 男女比, 喫煙歴, 呼吸器既往症の有無, 術前心機能, バイパス本数, 体外循環時間, 大動脈遮断時間, 麻酔時間, 人工呼吸器離脱までの時間, 起立までの期間, 病棟内歩行自立までの期間に差を認めなかった。手術後酸素投与終了までの期間はOCP群が他の群に比べて有意に短かった(C群5.9±2.8日, IS群5.2±2.0日, OCP群4.3±1.2日, p<0.05)。術後ICU滞在中に肺炎は認めなかった。無気肺はC群で3例(8.6%), IS群3例(8.6%)に認めたが, OCP群では認めなかった。これらの結果から冠動脈バイパス術後の呼吸理学療法は人工呼吸器離脱直後から夜間を経て早朝まで行い, 術後早期に十分な肺の拡張を促すことの重要性が示唆された。また, 術翌日からインセンティブスパイロメータを用いた呼吸理学療法では早期離床に付加する効果は少ないことが示された。
著者
南塚 正光 神戸 晃男 石田 睦美 清井 順子 栗岩 和彦 橋本 亮二 山口 昌夫
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】<BR> 片脚立位は簡便なバランス指標として理学療法の評価に用いられている。また、変形性股関節症 (以下OA) 患者においてはトレンデレンブルグ現象等の異常姿勢改善の理学療法として用いられている。<BR> 今回、我々はOA患者の人工股関節全置換術(以下THA)前後における片脚立位時の重心動揺と足部の感覚や筋力との関係について調査し、若干の知見を得たので報告する。<BR>【対象と方法】<BR> 被検者は研究内容を説明し同意を得た末期OA患者、女性10名で、THAを施行し、当院クリニカルパスを適用したものとした。手術前・退院前に重心動揺計(アニマ社製G-7100)を用い、片脚立位30秒間における総軌跡長と外周面積を測定した。また、足底の二点識別覚、足趾把持筋力、足部の内側アーチ高率も測定した。二点識別覚ではノギスを用い、二点として識別できる最小距離を、踵部、小指球部、母指球部、母指部で測定した。足趾把持筋力については、(株)アイテムの協力のもと先行研究に準じて測定器を作成し、膝関節90°足関節0°位の椅子座位にて2回測定した。内側アーチ高率では、片脚立位を内側よりデジタルカメラにて撮影し、Scion Imageで解析した。また、股関節外転筋力として、ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTasMF-01)を用いて大腿骨顆部に抵抗を加え、股関節中間位で、外転の最大随意等尺性収縮を5秒間2回測定した。統計処理ではt検定とピアソンの相関係数を用い、有意水準を5%未満とした。<BR>【結果】<BR> 重心動揺では術前より術後の方が総軌跡長は長く、外周面積は大きくなったが有意差は認められなかった。二点識別覚は術前より術後の方が踵部、母指球部、母指部では最小距離は小さく、小指球部では大きい値となったが有意差は認められなかった。足趾把持筋力、内側アーチ高率は術前より術後の方が小さい値を示したが有意差は認められなかった。股関節外転筋力については術前より術後の方が有意に増大した(p<0.05)。また、二点識別覚と総軌跡長には相関はなく、足趾把持筋力と総軌跡長では術前で負の相関を認め、術後では相関は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 健常人を対象に行った先行研究では足趾把持筋力と片脚立位保持時間や重心動揺との相関関係が認められている。今回、術前に足趾把持筋力と総軌跡長で負の相関を認め、術後において足趾把持筋力が低下し、片脚立位時の重心動揺が増大する傾向を示したことは、前述した結果と一致した。また、術後に股関節外転筋力が有意に増大したにもかかわらず重心動揺が増大する傾向を示したのは、股関節外転筋力は片脚立位の安定に寄与しているが、足趾把持筋力も片脚立位の安定に重要な因子の一つであるということが示唆された。<BR> 今後は、さらに症例を増やし、基礎データとして検討することや片脚立位、足趾把持筋力などの評価・治療効果判定に臨床応用していきたいと考える。<BR><BR>
著者
小宅 一彰 三和 真人
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 = The Journal of Japanese Physical Therapy Association (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.70-77, 2010-04-20
参考文献数
18

【目的】歩行中の重心運動を力学的エネルギーで捉え,位置エネルギーと運動エネルギーの交換率(%Recovery:%R)として歩行における重力の利用率を評価できる。本研究の目的は,%Rを用いて若年者と高齢者の歩行特性を検討し,両者の%Rに相違をもたらす原因を解明することである。【方法】対象者は,歩行が自立している高齢者(高齢群)と健常若年者(若年群)各20名であり,三次元動作解析装置で快適歩行の立脚相を測定した。測定項目は時間距離因子(歩行速度,重心移動幅,両脚支持期,歩行率,ステップ長,歩隔),関節運動および筋力がなす仕事量(股関節,膝関節,足関節),%Rである。%Rは力学的エネルギーの増加量より算出した。【結果】高齢群の%Rは若年群より有意に低値であった。高齢群において,立脚相初期における膝関節屈曲角度と遠心性膝関節伸展仕事量が%Rの増加に寄与し,いずれの変数も高齢群は若年群より低値であった。【結論】高齢者の歩行は若年者に比べ重力の利用が乏しく,その主要な原因は立脚相初期における膝関節屈曲運動の減少であることが示された。
著者
機関誌編集委員会
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-3, 1991-01-10

マシュー先生は1954年ボストン大学の理学療法学科を卒業し, 1967年ノースカロライナ大学の修士課程で公衆衛生学修士号を取得された。1982〜1985年, APTA副会長を務め, 1985年から会長に就任し, 現在に至っている。大学院で, 地域社会における保健・医療推進プログラムについての内容の検討, 評価の方法について研究し, 現在はある特定の地域社会の理学療法サービスの必要度を調査し, その結果に基づいて, その地域に適した, 場所, 理学療法士(人ではなく専門性), 設備, 機器を選択して, 情報管理システムのサービス提供などの仕事を主にやっておられる。インタビューにあたって, マシュー先生の地域ケアに関する豊富な知識, 経験の中で日本の地域ケアの発展のために少しでも役立つものを引き出すことができたらと願った。地域ケアというものは, その地域に住む人たちの生活, 文化と深い関わり合いをもっている。米国と日本とではそれぞれ大きな違いがあるが, 戦後40年間, わが国は米国をモデルとして学び, 追いつき, 追い越せをモットーとしてきており, リハビリテーション, 地域リハビリテーションも全くその通りである。このインタビューのなかから少しでも学ぶものがあったら望外の喜びとするものである。なお, このインタビューは第25回日本理学療法士学会の特別講演のため来日した機会をとらえ1990年5月28日帝国ホテルで行ったものである。
著者
生野 公貴 北別府 慎介 梛野 浩司 森本 茂 松尾 篤 庄本 康治
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.485-491, 2010-12-20
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は,脳卒中患者に対する1時間の末梢神経電気刺激(PSS)と課題指向型練習の組み合わせが上肢機能に与える影響を検討することである。【方法】脳卒中患者3名をベースライン日数を変化させた3種のABデザインプロトコルに無作為に割り付け,ベースライン期として偽刺激(Sham)治療,操作導入期としてPSS治療を実施した。1時間のSham治療およびPSS治療後に課題指向型練習としてBox and Block Test(BBT)を20回行い,練習時の平均BBTスコアの変化を調査した。さらに,PSS治療後24時間後にBBTを再評価した。【結果】全症例Sham治療後と比較して,PSS治療後に平均BBTスコアが改善傾向を示した{症例1: +4.9(p<;0.05), 症例2: +3.1, 症例3: +5.7(p<0.05)}。全症例の24時間後のBBTスコアが維持されていた。また,PSSによる有害事象はなく,PSSの受け入れは良好であった。【結論】1時間のPSSは課題指向型練習の効果を促進させ,24時間後もその効果が維持される可能性がある。
著者
石川 玲 香川 幸次郎 伊藤 和夫 小野 洋一 伊藤 日出男 対馬 均 進藤 伸一 菅原 正信 三浦 孝雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.433-438, 1988-09-10

寒冷や積雪が在宅脳卒中後遺症者の生活に及ぼす影響について検討するために, 青森県内2ヶ町村の在宅脳卒中後遺症者115名を対象に実態調査を行った。更に3年後39名について追跡調査を実施し, 以下の結果を得た。(1)非積雪期の生活で何等かの訴えを有する者は18%であったが, 積雪期では60%以上の者が訴えを有していた。(2)非積雪期の訴えは夏ばてや付添い者の多忙により通院できない等訴えの内容が多岐にわたっていたが, 積雪期では外出の制限や身体症状の増悪に関することに集中していた。(3)非積雪期での主な外出先は医療機関, 福祉・保健センター, 友人宅, 散歩であり, 積雪期では友人宅や散歩に出かける者が減少する反面, 医療機関や福祉・保健センターに出かける者の数は減少していなかった。寒冷や積雪は対象者の生活に多大な影響を及ぼしているが, 冬の外出は自己の行為に対する意味づけの軽重に規定されると考えられた。
著者
森近 貴幸 秋田 直人 浪尾 美智子 金谷 佳和 金谷 親好
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後の競技復帰を目指したリハビリテーションでは、再建術からの時期、筋力などを考慮しながら運動強度を増加させてゆく効率的なプログラム構築が要求されている。また、早期復帰を目指し、ACLに負担をかけない筋力増強や再断裂予防のための取り組みも重要である。今回ACL再建術後の高校サッカー競技選手に対して、クリティカルシンキングによるプログラム構築を行い、アプローチとして動きによる気づきを取り入れた症例で効果的な知見が得られたので考察を交え以下に報告する。<BR>【方法】対象は試合中に受傷し、ACL再建術を施行した高校サッカー競技選手。治療プログラムにおいてクリティカルシンキングを用いて、筋力増強とともに基本的動作、サッカー動作、補助トレーニングをMECE(モレなく、ダブりなく)で段階的に行った。また、フェルデンクライス・メソッドによる動きによる気づき(以下ATM)を補助トレーニングの中に取り入れ、自覚的な運動能力の変化を評価した。ATMは、関節を滑らかに動かすレッスンなどで構成されており、1日に1プロセスをゆっくりと心地よい自動運動で行なった。<BR>【結果】クリティカルシンキングを用いたプログラム構築では、各時期に応じたメニューを提供することができ、MECEを活かしてトレーニングの無駄を省けた。また、治療への積極的な参加を促すことが出来た。ATMを取り入れてから、「余分な力が入らなくなった」「自分の身体に対する意識が変わった」という自覚的変化が現れ、動作が滑らかになった。トレーニングの段階が進むにつれサッカー動作の質が向上し、「ボールを扱う感じが違う」「ドリブルが楽になった」という感想と、「ボールタッチが柔らかくなった」という客観的意見が得られた。<BR>【考察】クリティカルシンキングを用いたことにより、各段階で必要な筋力や動きを明確にすることができた。この問題点を選手自身が認識することで、効果や取り組む姿勢に変化が現れた一因になったと考えられる。また、MECEにてプログラムのモレ、ダブりをなくしたことで時間的な効率が上がり、早期復帰につながるのではないかと考えられる。アプローチでは、フェルデンクライス・メソッドによるATMを補助トレーニングの中にレッスンとして早期から取り入れたことで、動きを通して自分の身体に対する気づきを学習することができた。これにより、走ったり、ボールを扱ったりする時期が来る前に神経系による身体の準備が完了していたため、サッカー動作トレーニングへの移行がスムーズに行なえた。さらに、受傷前の習慣的な動作が改善されたため、動作のレパートリーが豊富になり再断裂の予防とパフォーマンス向上につながったと考えられる。<BR>
著者
剱物 充 永山 善久
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 = The Journal of Japanese Physical Therapy Association (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.85-90, 2010-04-20

【目的】新生児医療センター(Neonatal Intensive Care Unit,以下NICU)入院時より理学療法(Physical Therapy,以下PT)を介入した超低出生体重児の運動発達の経緯とPTの効果について検討した。【方法】当院NICUに入院し,脳性麻痺がなく独歩獲得までフォローできた19例を対象とし,NICU入院時からPTを開始した群の特性を調査するために周産期因子8項目について対照群と比較した。次に,PT施行状況別に運動発達の経緯を明らかにする目的で,対象群をNICU入院時PT開始群,退院後の新生児科外来通院時PT開始群,そしてPT未施行群の3群に分類し,頸定から独歩までの各発達指標に到達した際の修正年齢を比較した。【結果】周産期因子の比較では,NICU入院時PT開始群において出生体重が有意に小さく,入院期間は長く,人工換気施行日数は多かった(p<0.05)。各発達指標に到達した際の修正年齢の比較では,有意差は認められなかった。【結論】超低出生体重児へのPT介入は,運動発達の遅れを取り戻すことに関与する可能性が考えれた。その機序の1つとして,抗重力パターンの体験や感覚機構への介入などを通し,筋緊張や姿勢動作パターンの修正を促す点が示唆された。